23345 日本建築学会大会学術講演梗概集 (東海) 2012 年 9 月 弱層を有する多層 RC 建物の耐震診断(その 2 割線剛性を用いた Fs 値と Is 値の提案) *1 正会員 ○ 高田 瑞恵 *1 同 川瀬 喬久 *2 同 市之瀬 敏勝 *3 同 壁谷澤 寿海 鉄筋コンクリート 多層 剛性率 割線剛性 耐震診断 地震応答解析 1. はじめに 期剛性と F 値を変化させたときの,1 層の R s 値と動的 F s 本報その 2 では,その 1 で得られた動的解析結果を用い 値の関係を図 1 に示す。図中には,現行基準による剛性率 と F s 値の関係を実線で記す。動的 F s 値は,1 層の初期剛 て,告示波の何倍の地震動まで耐えられるかという観点か ら建物の動的 I s 値を定義する。さらに各評価法による耐 震診断指標 (I s 値 ) と動的 I s 値の比較を行うことで,提案 性のみを変えたモデルでは同程度の動的 F s 値となる。こ れは一般層の C/A i 値を変えても同様であり,初期剛性の 式が解析モデルの耐震性能を適切に評価できることを確 認する。 影響は小さい。 4. 割線剛性による Fs 値の検討 2. 動的 Fs 値および動的 Is 値の定義 4 層モデルで全層 C/A i = 0.6 とした場合について,1 層 外力分布による補正係数は 1/Ai として,形状指標 SD は, の R sy 値と動的 F s 値の関係を図 2(a) に示す。このうち, 剛性率による必要保有水平耐力の割り増し係数 F s を用い 白抜きの記号(○,□など)は一般層の F 値を 1 とした て,S D = 1/F s とする。今回の解析では検討層の C/A i をす モデルである。図 2(a) のうち,黒塗りの記号(●,■など) は一般層の F 値を 1.27 としたモデルであるが,白抜きの べて 0.6 とし,検討層の Is 値は次式のように表わされる。 C / A F 0.6 F F F ここで,Fs は建築基準法告示 1792 による。 I 記号と同様の傾向を示しており,図 1 と対応している。図 1 とは違って,明らかに右下がりの傾向が読み取れ,割線 剛性を用いることの妥当性が確認できる。なお,現行基準 では Rsy > 0.6 で Fs = 1.0 としているが,図 2 では勾配を緩 i s s (1) s 告示波でちょうど終局変形に達する建物が I s = 0.6 であ るとし,Is 値が終局時入力倍率 a に比例すると仮定すれば, めて,Rsy = 0.8 で Fs = 1.0 となるように改変した修正基準 動的 Is 値は次式で表すことができる。 を示す。 一般層を C/Ai = 1.2,1 層を C = 0.6 としたモデルについ (2) 動的I 0.6 a Is 値(式 (1))と動的 Is 値(式 (2))が等しいものと仮定すると, て,1 層の Rsy 値と動的 Fs 値の関係を図 2(b) に示す。一般 動的 Fs 値は次式で算定できる。 層の割線剛性が図 2(a) の 2 倍になるため,1 層の R sy 値は F a 図 2(a) の約 1/2 になり,プロットが左側に移動する。応答 解析では小さな入力倍率(式 (3) の a)で 1 層に大きな変 s 動的F s (3) 形が生じるため,動的 F s 値は大きな値となり,プロット 3. 初期剛性による Fs 値の検討 が上側に移動する。ただし,1 層を F = 2.0 としたモデル(△ 4 層モデルに関して,全層を C/A i = 0.6 とし,1 層の初 印 ) では,1 層に塑性変形が集中するため,1 層を F = 1.27 1.0 0.5 0 0 1.0 0.5 Ᏻഃ 0.5 1.0 1.5 1 ᒙࡢ Rs ್ 2.0 図 1 4 層モデル 1 層での Rs 値と動的 Fs 値の関係 0 ືⓗ Fs ್ 1.0 ືⓗ Fs ್ 1.5 ືⓗ Fs ್ ືⓗ Fs ್ 2.0 ୍⯡ᒙ F=1.0ࠉ᳨ウᒙۑF=0.8ࠉڧF=1.0ࠉۍF=1.27ࠉڹF=2.0ࠉࠉࠉ⌧⾜ᇶ‽ ୍⯡ᒙ F=1.27ࠉ᳨ウᒙەF=0.8ࠉڦF=1.0ࠉیF=1.27ࠉڸF=2.0ࠉࠉࠉಟṇᇶ‽ࠉࠉࠉᥦᘧ 2.0 2.0 2.0 ༴㝤ഃ ༴㝤ഃ ༴㝤ഃ 1.5 1.5 1.5 1.0 0.5 Ᏻഃ 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 1 ᒙࡢ Rsy ್ 0 0.5 Ᏻഃ 0 ༴㝤ഃ 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 1 ᒙࡢ Rsy ್ 0 Ᏻഃ 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 1 ᒙࡢ Rsy ್ (b) 一般層 C/Ai=1.2, (c) 一般層 C/Ai=2.4, 1 層 C=0.6 1 層 C=0.6 図 2 4 層モデルにおける 1 層の Rsy 値と動的 Fs 値の関係 (a) 全層 C/Ai=0.6 Seismic Evaluation of Multistory RC Buildings with A Weak Story (Part 2. Proposal of Fs and Is Using Secant Rigidity) ― 737 ― TAKADA Tamae KAWASE Takahisa ICHINOSE Toshikatsu KABEYASAWA Toshimi 2.0 0.6 1.0 ⌧⾜ᇶ‽ (Rs) ࡼࡿ Is ್ 60 % 12 ືⓗ Is ್ 0% 1.0 0.6 ༴㝤ഃ 0.2 12 0% 14 0% 0.6 ືⓗ Is ್ 1.0 ືⓗ Is ್ 1.0 Ᏻഃ 50 Ᏻഃ % 2.0 2.0 % Ᏻഃ 40 2.0 0.6 ༴㝤ഃ ༴㝤ഃ 0.2 2.0 0.6 1.0 ಟṇᇶ‽ (Rsy) ࡼࡿ Is ್ 2.0 0.6 1.0 ᥦᘧࡼࡿ Is ್ (a) 現行基準 (Rs) による Is 値 (c) 提案式による Is 値 (b) 修正基準 (Rsy) による Is 値 図 3 4 層モデルにおける 1 層に関して,動的 Is 値と各算出法による Is 値の関係 2.0 2.0 Ᏻഃ Ᏻഃ としたモデルより動的 F s 値が大きくなる。これは古くか ら秋山 1) によって指摘されてきた現象である。 図 2(c) に示す。図 2(b) よりプロットが左に偏る。 図 1 ~図 2 から,R sy 値と動的 F s 値の強い相関関係は明 ືⓗ Is ್ 1.0 上層を C/Ai = 2.4,1 層を C = 0.6 としたモデルについて 12 0% 40 40 % % 0.2 ୍⯡ᒙ F=1.0ࠉ ᳨ウᒙۑF=0.8ࠉ ڧF=1.0ࠉ ۍF=1.27 ڹF=2.0ࠉ ୍⯡ᒙ F=1.27ࠉ ᳨ウᒙەF=0.8ࠉ ڦF=1.0 ࠉࠉࠉیF=1.27 ڸF=2.0 0.6 1.0 0.6 ༴㝤ഃ ༴㝤ഃ 白であるが,一般層の C/A i 値の影響も無視できない。本 来なら,各層に生じるせん断力を予想したうえで,各層の 0.2 2.0 0.2 2.0 0.6 1.0 0.6 1.0 I I ⌧⾜ᇶ‽ (R ) ࡼࡿ ್ ಟṇᇶ‽ (R ) ࡼࡿ ್ s s sy s 真の割線剛性を推測するのが本筋かもしれないが,より簡 ) (a) 現行基準 (R I による 値 (b) 修正基準 (R ) I による 値 s s sy s 便な方法として,次のような方法を提案する。まず,i 層 図 4 4 層モデルにおける 4 層に関して, の強度率 Cs を次式で定義する。 動的 Is 値と各算出法による Is 値の関係 C/A C 3(c) に示す。Rsy 値を用いて提案式による Is 値と動的 Is 値は, average(C / A ) (4) C R 上記の強度率 s と割線剛性率 sy を用いて,F s 値を次式 60 ~ 120% で評価できた。これは 4 層モデルの最上層に 関しても同様であった。 により求める。 4 層モデルの 4 層に関して,初期剛性に基づく R s 値を R 1 4 R Fs max 2 ( 2) sy , sy , 0.7 C 3 3 3 用いた I s 値と動的 I s 値の比較を図 4(a) に,割線剛性に基 (5) s 式 (5) を提案式と呼び,図 2 に破線で記す。動的解析結果 づく R sy 値を用いた修正基準による I s 値と動的 I s 値の比較 のプロットはほとんどが提案式より下側(安全側)に位置 を図 4(b) に示す。危険側の評価精度は改善されたが、安 している。 全側の評価精度は改善されなかった。 i s i 5. Is 値の比較 4 層モデルの 1 層に関して,初期剛性に基づく R s 値を 用いた I s 値と動的 I s 値の比較を図 3(a) に示す。両者の相 関はほとんど見られず,傾向を正しく評価できていない。 検討層を F = 1.27 および F = 2.0 としたモデルでは,検討 層の割線剛性が一般層に比べて低くなる。このため,検討 層の変形が大きくなりやすく,現行基準の初期剛性による 剛性率を用いる I s 値よりも動的 I s 値が小さくなり,危険 側に評価されるモデルが見られる。 4 層モデルの 1 層に関して,割線剛性に基づく R sy 値を 用いた修正基準による I s 値と動的 I s 値の比較を図 3(b) に 6. まとめ (1) 解析モデルの耐震性能に初期剛性が及ぼす影響は小 さく,降伏時割線剛性や終局強度の影響の方がはるかに大 きい。初期剛性のみに基づく F s 値を用いて I s 値を算定す ると,解析モデルの耐震性能を正しく評価できない。 (2) 降伏時割線剛性に基づいて剛性率 R sy を計算し,図 2 の実線のように,R sy = 0.8 で F s = 1.0 となるように F s を 算定すると,評価精度はかなり改善される。 (3) 提案式のように,降伏時割線剛性と終局強度に基づ く F s 値を用いて I s 値を算定すると,評価精度はさらに改 示す。初期剛性に基づく R s 値を用いるより傾向をとらえ 善される。ただし,提案式の妥当性,最上層が弱層のモデ ルについては今後より広範囲の検討が必要である。 ることができ,60 ~ 120% で評価できた。 最後に,4 層モデルの 1 層に関して,割線剛性に基づ く R sy 値を用い,提案式による I s 値と動的 I s 値の比較を図 【参考文献】 1) 秋山 宏:エネルギーの釣合に基づく建築物の耐震設計,技報堂 出版,1999 *1 名古屋工業大学・大学院生 *2 名古屋工業大学・教授・工博 *3 東京大学・地震研究所・教授・工博 *1 Graduate Student, Nagoya Institute of Technology *2 Prof., Nagoya Institute of Technology, Dr.Eng. *3 Prof., Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Dr.Eng. ― 738 ―
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