60 - 素形材センター

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第50回全国公設試験研究機関
素形材技術担当者会議報告
本担当者会議は、平成 21 年 11 月 19 日(木)、20 日
とり、これがバルク材料の靭性等の機械的性質に深刻
(金)の 2 日間にわたって開催され、初日は独立行政
な影響を与えることが長らく問題となっていた。これ
法人産業技術総合研究所中部センター(名古屋市守山
に対して球状バナジウム炭化物は、硬質炭化物の形状
区下志段味穴ヶ洞 2266 - 98)の OSL 棟連携会議場にお
を均一な球状に制御することに成功した画期的な材料
いて、公設試験研究機関から 27 名、経済産業省から 1
である。機械的特性に劣る普通鋳鉄の黒鉛を球状に制
名、㈶ 素形材センターから各々 1 名、および産業技術
御した球状黒鉛鋳鉄が、大幅な機械的性質の向上によ
総合研究所から 27 名のご参加を頂き、合わせて 56 名
り構造材料として広く普及したように、これまで特殊
の参加者を得て盛会裡に執り行われた。あいにく今年
な材料であった高濃度に炭化物を含む材料を一般的な
度は日程が平成 22 年度概算要求の事業仕分け作業に
用途へ拡大するものである。特に、ステンレス基地と
重なり、経済産業省原局からの出席が叶わなかったも
することも可能となり、機械的性質と耐食性や耐熱性
のの、中部経済産業局からの代理出席をいただいた。
等、相反する性質をバランスさせた優れた材料が得ら
二日目は愛知県尾張旭市の菱三工業 ㈱ 旭工場(旧三菱
れている。本講演では 1990 年代後半の開発の端緒か
電機 ㈱ 旭工場)を訪問し、主としてエレベータ部品の
ら、最近の広範な応用例、当該材料に関する産学官の
FC、FCD 等の鋳鉄部品製造ラインと大型アルミ部品
研究組合の活動状況等、詳細な紹介があった。
鋳造ライン及びニッケル、コバルト系の耐食・耐熱・
耐摩耗合金の鋳造現場を視察し、最新のものづくり現
場を見学でき有意義な見学会となった。
3.所内見学 調光ミラーガラス(S 棟)&環境調
和実験棟
サステナブルマテリアル研究部門環境応答機能薄膜
第 1 日(会議)11 月 19 日(木)10:50 ∼ 19:00
会議会場:連携会議場(OSL 棟 3 階)
1.開会の辞および挨拶
吉村 和記 氏
冷暖房負荷の観点から住宅やビルの省エネルギーに
対する関心が高くなっている。従来から夏に過剰の日
産総研 サステナブルマテリアル研究部門 副研究部
射を遮断する熱線反射ガラスや温度により光学特性が
門長 坂本 満 氏が開会の辞を述べ、続いて産総研 中部
変化するサーモクロミック材料を利用した調光ガラス
センター所長・中部産学官連携センター長 三留秀人
等が研究されているが、前者は光学特性が一定で季節
氏が開会の挨拶を行った。
の変化に応じて変えられないこと、後者では可視光透
2.公設研の研究成果の発表(講演)
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研究グループ
過率が低いこと、断熱性が乏しいこと、温度変化によ
る日射の調節範囲が狭いことなどの問題があった。産
「球状炭化物材料の開発と実用化」
総研では、多層薄膜系における光の干渉効果を活用し、
─ 21 世紀における日本発・世界初の新耐久材料─
サーモクロミック調光薄膜を含む高性能複層薄膜構造
大阪府立産業技術総合研究所 橘堂 忠 氏
を世界で初めて実現することに成功し、独自の材料設
産業の様々な苛酷環境で使用される耐摩耗性材料は
計及び構造最適化により、可視光透過率 40 ∼ 60 %、太
苛酷な腐食環境や高温に曝されるなど、耐摩耗性のみ
陽光調光率を従来の 2 倍以上というサーモクロミック
ならず耐久性の面で厳しい要求がある。この種の材料
ガラスとして世界トップレベルの性能を持った材料を
としては、ニッケルやクロムを高濃度に含む基地中に
開発した。ここでは製造装置や評価装置について現場
種々の硬質炭化物が晶出分散した材料が開発されてお
の見学を行った。また、引続いて中部センターの環境
り、高クロム鋳鉄系材料がその代表的なものである。
調和型建材実験棟における実証試験現場を見学した。
しかし、耐摩耗性を担う炭化物は高い結晶化エネル
環境調和型建材実験棟では、
「調光ガラス」
「木質材料」
ギーを反映して一般に長柱状や板状等の粗大な形態を
「調湿材料」
「保水性ブロック」
「太陽エネルギー制御壁」
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を実験棟の内外に設置しており、それぞれの建材が室
「市民対象ものづくり教室」、および素形材技術分野に
内環境に及ぼす影響を実環境で調べられ、各室のエア
おける人材育成活動として、平成 21年度の素形材技術
コンの電力使用量を計測して省エネルギーの効果につ
セミナー、鋳造技術研修講座等について紹介された。
いての評価が行われており、その状況を視察した。
4)オープンディスカッション
4.本会議
公設研の研究開発活動の現状と課題
1)国の施策関連講演
─各種事業の実施例、成果、そして課題─
経済産業省中部経済産業局産業部製造産業課 課長
担当者が問題意識を共有し意見交換の場として、昨
岡本 正弘 氏
年度に引続いてオープンディスカッションの場が設定
経済産業省中部経済産業局産業部製造産業課課長 された。素形材産業界を取巻く現状データからも明ら
岡本正弘氏よりご挨拶と我国のものづくり技術を取り
かなように、素形材産業界においては、今後急速な人
巻く状況と国の素形材関連施策について、経済産業省
材供給の質・量の低下が避けられず、技術基盤の崩壊
製造産業局素形材産業室に代わってご紹介頂いた。国
を通じて産業競争力の維持が困難になると考えられ
の施策に関しては、我国の素形材産業の現状統計デー
る。これに対処するための活動として、産学を繋ぐ公
タを踏まえて、その課題とアジアにおける位置付けや
設研の役割や機能が今後益々重要となるとの認識の下
中国との関連性についての分析結果の紹介があった。
に、それぞれの置かれた現状に対する活発な意見交換
また、公設研担当者にとって日頃関心の高い、各地域
がなされた。
のおかれた状況について、中部地域を例として解説を
今回は話題提供として、公設研担当者が中小企業支
頂いた。さらに、平成 22 年度概算要求における中小
援のために関わっている「戦略的基盤技術高度化支援
企業対象施策について詳しい解説があった。
事業」、「中小企業等製品性能評価事業」および「もの
づくり中小企業製品開発等支援事業」等の国の事業に
2)情報提供「産技連活動の現状報告」
おける実施例と成果、およびその課題について以下の
産業技術連携推進会議 ナノテクノロジー・材料部会
3 機関から話題提供を頂いた。
副部会長 綾 信博 氏
①北海道立工業試験場の高橋英徳氏、赤沼正信氏か
産技連活動全般についての説明と現状の報告、およ
ら「外部研究助成金による研究開発事例紹介−使用済
び来年 1 月中旬に開催予定の産技連総会の紹介と積極
み乾電池から精製した粉末を用いたアルミニウムリサ
的な参加の要請があった。
イクル」、②静岡県工業技術研究所の河部昭雄氏から
「凝固制御技術を活用した新チクソキャスティング装
3)講演「平成 21年度 ㈶ 素形材センター活動報告」
置の開発、自動車関連部品における半溶融成形法によ
財団法人 素形材センター 技術部長
る超高品質複雑形状品の試作開発等」、および大分県
笹谷 純子 氏
産業科学技術センターの園田正樹氏からは「難燃性マ
素形材センターから平成 21 年度の主要事業につい
グネシウム合金砂型鋳物の事業化に向けて」との内容
て概要報告があった。その中では第 25 回素形材産業
で話題提供があった。
技術賞の受賞テーマについて、経済産業大臣賞 1 件、
北海道立工業試験場の高橋氏は、地域のアルミ産業
中小企業庁長官賞 1 件、経済産業省製造産業局長賞 1
の高度化においてリサイクルが必須であるにも関わら
件、素形材センター会長賞 6 件について、それぞれ技
ず規模的に限定的であるために進んでいない問題に対
術内容の概要と受賞ポイント、および同賞奨励賞につ
して、同じく地域に特徴的な使用済み乾電池処理事業
いて紹介があった。また、第 8 回ものづくりコラボレー
から排出される資材を有効利用してアルミニウムリサ
ション表彰大賞として室蘭工業大学のテクノカフェ
イクル事業へ適用した成果の紹介があった。続いて赤
沼氏からはこれらの事業における制度面での問題点や
現場における改善点等について問題提起があった。ま
た、静岡県工業技術研究所の河部氏からは、自動車産
業の川下ニーズに応える高機能鋳造技術の一つとし
て、半溶融プロセスの技術開発と技術移転成果の紹介、
さらに大分県産業科学技術センターの園田氏からは、
難燃性マグネシウム合金という技術シーズについて、
国の事業や県単事業等を巧みに活用し、継続的な中小
企業の技術支援を行っている例が紹介された。
素形材技術担当者会議の風景
これらの問題を基にして、様々な制度面の問題点や
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システムは、鋳物砂とその粘結材としては水のみを用
いることで極めてクリーンなプロセスとすることがで
きる。本報告では、凍結鋳型における砂粒の形状や大
きさ、水分量などによる鋳造材の冷却挙動の変化およ
び鋳造組織等の調査結果を通じて、凍結鋳造プロセス
の特徴について紹介された。
6)素形材分科会総会
ナノテクノロジー・材料部会素形材分科会長の選任
オープンディスカッションの状況
産業技術総合研究所中部産学官連携センター もの
づくり基盤技術支援室長 阪口 康司 氏の退任に伴う標
国への要望、公設研相互の技術交流や研究リソースの
記の案件について、参加者の互選によって産業技術
共有化等の広域連携の今後のあり方等、活発な意見交
総合研究所産学官連携推進部門 産学官連携コーディ
換があった。
ネータ 山東 睦夫 氏を選出した。
5)産業技術総合研究所の素形材関連研究成果発表
7)フリーディスカッション
①「マグネシウム鍛造技術プロジェクト成果報告」
今後の素形材分科会活動及び産総研への要望として
サステナブルマテリアル研究部門副部門長 アンケートの集計結果の報告が中村部門長から、フ
坂本 満 氏
リーディスカッション形式で活発な議論があり、各々
産 総 研 に お い て こ れ ま で 進 め て き た NEDO プ ロ
の公設試験研究機関を取り巻く地域の状況、公設研の
ジェクト「革新的部材産業創出プログラム / 新産業
中小企業支援状況及び相互連携、産技連活動に対する
創造高度部材基盤技術開発 / マグネシウム鍛造部材技
現状認識と問題点等、今後の連携に向けた有意義な意
術開発プロジェクト(H 18 - H 22)」の研究成果の現状
見交換が行われた。議論においては、公設研の活動レ
の一端が紹介された。鍛造部材は一般に高強度・高信
ベルの一層の向上のためには、都道府県の境界を越え
頼性であり、CO2 排出量削減のための軽量化が急務
た公設研の連携が重要であることが認識され、そのた
である自動車産業で期待されているが、従来の鍛造部
めに素形材分科会が果たす役割が議論された。
材では期待される機能性が得られていない。このプロ
ジェクトでは、鍛造部材の高機能化とコスト低減を目
8)閉会の辞
指した鍛造プロセス技術の開発を進めている。素材コ
産業技術総合研究所サステナブルマテリアル研究部門長
ストを低減しかつ部材の信頼性を高めるために、低コ
中村 守 氏
ストである連続鋳造材を素材として、不均質な鋳造組
産業技術総合研究所サステナブルマテリアル研究部
織を鍛造工程中に均質微細結晶粒組織へ変化させる
門長 中村 守氏から閉会の挨拶があった。産業技術は
ことで、優れた機械的特性(引張強度 350 MPa、耐力
長期的視野に立った継続的な技術の蓄積が重要であ
220 MPa、伸び 15 %)をもつ鍛造部材を造ることに成
り、高度な経験を必要とする素形材技術分野において
功した。引続き鍛造部材の更なる特性向上のための最
は特に重要である。今後とも素形材分科会活動の継続
適鍛造条件を検討しているとの紹介があった。
と活性化を目指して行くつもりであり、今回の会議で
出された産技連活動に対する現状認識と問題点等の議
②「凍結鋳型を用いた鋳造技術」
論を踏まえて、今後の連携活動を活発なものとしてゆ
サステナブルマテリアル研究部門相制御材料研究グループ
くために、公設試験研究機関からの積極的なご意見を
多田 周二 氏
頂きたい旨申し上げた。
鋳造現場においては長らく 3 K 職場の典型というイ
メージが定着している。これは、鋳型の造型のために
砂に種々の有機 / 無機粘結材を混合することが不可欠
で、これらと高温溶湯との接触により煤煙や粉塵、悪
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第 2 日(見学会)11 月 20 日(金)9:30 ∼ 11:30
見学先:菱三工業 ㈱ 旭工場(愛知県尾張旭市)
〈主な製品〉
臭が発生し、現場の作業環境が悪化するだけではなく、
鉄系及びアルミニウム鋳造品として、FC、FCD 等
鋳造工場の立地条件が限定される原因となっている。
の鉄系のエレベータ部品およびモーターケーシング、
この問題を解決する環境親和型の鋳造プロセスとして
ニッケル、コバルト系の耐食・耐熱・耐摩耗合金によ
注目される凍結鋳型を用いて、廃棄物をなくした新し
る化学プラント用ポンプ、バルブ部品、及び変電設備
い鋳造システムの開発状況について紹介された。この
用大型アルミニウム部品など (文責:坂本 満)
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