世界最高効率レベルを達成したターボ冷凍機の省エネルギー効果,三菱

三菱重工技報 VOL.45 NO.1: 2008
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世界最高効率レベルを達成したターボ
冷凍機の省エネルギー効果
特 集 論 文
Effect on Energy Saving and CO2 Emission
Reducing by Applying World-Class Centrifugal
Chiller
仲 谷 潤 之 助*1 関 亘*2
Junnosuke Nakatani
Wataru Seki
*3
石 井 正 宏 西 崎 太 真*4
Masahiro Ishii
Futoshi Nishizaki
産業施設や商業施設のエネルギー消費量のうち,空調エネルギーが占める割合は大きく,(財)省エネ
ルギーセンターによればショッピングセンター等の商業ビルでは約 40 %を占める.これらに対する省エ
ネルギー化が CO2 排出量の削減に大きく寄与できる.当社はこうしたニーズに対応し,世界最高効率レ
ベルを誇るターボ冷凍機を核とした,省エネルギーソリューションを提供している.その特徴は,製品・
システムのライフサイクルに応じて一貫した熱源ソリューション・サービスを提供し,全体最適化を行う
ことで,より効果的に省エネルギー化を図るところにある.本稿では,その取組みについて紹介する.
1.世界最高効率レベルのターボ冷凍機の特徴 (1)
した.さらに,
大容量機までインバータ仕様を設定し,
シリーズ全体で運転状態に合わせた最適な回転数制御
ソリューションのキー技術である当社製最新型ター
と運転領域の拡大を実現した.
ボ冷凍機の特徴を以下に述べる.
この結果,冷却水入口温度が 12 ℃まで下がっても
冷媒にオゾン層を破壊する恐れのない HFC-134a
効率よく負荷追従制御ができ,図1に示すように,部
を採用し,圧縮機や熱交換器などの改良で,全ての運
分負荷での性能(COP)を飛躍的に向上させること
転範囲で高性能化を達成した.
が可能となった.
ターボ圧縮機には高精度な加工が出来る2段形オー
2.省エネ& CO2 排出量削減ソリューションの事例
プンインペラを採用し,静止流路も含めた流動解析を
援用することで冷媒ガス流れの剥離や澱みをなくし,
サントリー(株)高砂工場向けに行ったソリュー
高効率化を図った.また,第2段インペラの入口に容
ション提案の導入事例を紹介する.食品・飲料工場で
量制御機構を追設することで低負荷領域の効率を改善
は種々の温度で冷却と加熱が行われる.このため,変
動の大きい負荷に対応することが熱源システムに要求
される.こうした要望を満たす省エネルギーソリュー
インバータ機(AART-I シリーズ)
22
大幅性能
アップ
20
18
14
12
10
8
6
4
20
40
60
80
負荷(%)
割合(改修前を 100 とする)
COP
エネルギーと CO2 排出量削減を達成した.この提案
冷却水入口温度
:AART-I 12℃
:AART-I 20℃
:AART-I 25℃
:AART-I 32℃
:NART-I 13℃
:NART-I 20℃
:NART-I 25℃
:NART-I 32℃
16
2
0
ション提案を行い,図2に示すように 60%以上の省
100
図1 インバータターボ冷凍機の部分負荷特性(冷水
出口温度7℃)
*2
技術本部高砂研究所神戸技術開発・研究推進グループ
冷熱事業本部大型冷凍機部設計課長
約70 %
削減
ランニング
コスト
部分負荷特性が飛躍的に向上していることがわかる.
COP とは Coefficient Of Performance の略で COP
出力エネルギー
=
で表される成績係数である.
入力エネルギー
*1
:改修前推定
:改修後実績
約 60%
削減
一次エネルギー
消費量
約65 %
削減
CO2 排出量
図 2 省エネルギー並びに CO2 排出量削減効果
ソリューション導入により年間ランニングコス
ト,CO2 排出量が大幅に削減されたことがわかる.
*3
*4
冷熱事業本部大型冷凍機部サービス課長
冷熱事業本部大型冷凍機部熱源ソリューショングループ長
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改修前 蒸気吸収冷凍機 360USRt × 2 台
蒸気
改修後 インバータターボ冷凍機 360USRt × 2 台
■ 高効率インバータターボ冷凍機の採用
(中間期・冬期の部分負荷運転時の大幅な動力削減)
■ 大容量吸収冷凍機用冷却塔・冷却水ポンプの活用
(冷却水温度の低温化,冷却水の変流量制御)
6℃ 冷水
電気
蒸気吸収冷凍機
360USRt
6℃ 冷水
蒸気
蒸気吸収冷凍機
360USRt
冷
水
タ
ン
ク
電気
インバータターボ冷凍機
360USRt
インバータターボ冷凍機
360USRt
6℃ 冷水
6℃ 冷水
6℃ 冷水
冷
水
タ
ン
ク
6℃ 冷水
負荷熱交換器
負荷熱交換器
図 3 ソリューション導入事例
蒸気吸収冷凍機をターボ冷凍機へ更新した事例を示す.
内容を図3に示す.ソリューションのポイントは,以
状況,エネルギー消費状況などを聴取する.② 必要
下のとおりである.
に応じて,現状設備の計測・診断も実施し,省エネ
① 改修前の蒸気吸収冷凍機を高効率インバータター
ルギー化の対象項目を検討する.③ 次に,検討結果
ボ冷凍機へ更新し,中間期・冬期の部分負荷運転
に基づきシミュレーション等でエネルギー削減効果を
時の大幅な動力削減を実現した.
試算する.④ その効果を確認できた段階でソリュー
② 既設設備である大容量の蒸気吸収冷凍機用冷却塔・
ション提案としてまとめ,お客様に提示する.⑤ 提
冷却水ポンプを有効活用し,冷却水温度の低温化
案内容についてお客様と打合せ,承諾を頂いた後,詳
と冷却水の変流量制御により省エネルギー化した.
細な設計,施工を実施する.⑥ さらに施工後は,遠
隔監視による 24 時間 365 日の機器診断による省エネ
3.ソリューション提案スキーム
運転サポート(図5)や 15 年間の機能・安定運転・
前述のように冷凍機とその周辺設備並びに空調設備
性能維持の運転サポートなど冷凍機の運転に関するソ
を最新のシステム化技術で省エネルギーを実現する提
リューションを提供する.このようなアフターサービ
案の流れを図4に示す.
スメニューで機器の運用状況の確認や,適正なメンテ
① 最初に,お客様から現状設備の内容やその稼動
ナンスを実施することで改善効果を評価,確認するこ
とができるため,機器単体の省エネ提案に比べて高い
省エネ効果を実感していただける.
4.冷凍機を応用したシステムの例
3
現状を的確に
把握します。
2
CO2
DOWN
1
企画・検討
お客様のご
要望を聴取
お客様のお悩みをワンストップ
で解決します
省エネ
ルギー
6 多彩な
サービスメニュー
をご提案・実施
遠隔監視サービ
スや運転保守ア
フターサービス
など
は,冷水,冷却水の変流量制御からフリークーリング,
排熱利用など多岐にわたるが,その中で冷凍機を応用
計測・診断
CO2 排出量
削減
ターボ冷凍機を核としたソリューション提案内容
コスト
低減
4
したシステム化による省エネ提案事例を以下に紹介す
全体最適化
を図ります。
る.
4.1 熱媒過流量制御システム
一般に,中間期と冬期に冷熱の熱負荷量は減少する
5
ソリューション
プランご提案
設計施工
図4 省エネルギーソリューション提案スキーム
製品・システムのライフサイクルに応じたソリューショ
ン提案の流れを示す.
が,負荷側の制御や熱交換器の特性などによって,熱
負荷の減少量と流量の減少量とは比例しないため,送
り温度と戻り温度の温度差が小さくなり負荷流量は減
らないという現象が生じやすい.この場合,複数の冷
凍機で台数制御を行っている設備では熱量基準で必要
な運転台数に対して過剰な台数の冷凍機を運転し,設
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遠隔監視システム
● 定期メンテナンス
● 異常発生時出動
監
視
セ
ン
タ
ー
お
客
様
インターネット
(WEB 監視)
又は
公衆電話回線
● 運転データをセンターで監視
● 緊急時,メーカ技術員がデータを診断,
現地サービスマンへ的確な指示
● 緊急時の対応・処置連絡
● 運転データの定期報告
● データに基づく適切な
メンテナンスの推奨
図5 遠隔監視サービスの概要
空調機器
冷水
4 747 kW
1350RT
8℃
1 360m3/h
需要家・空調機器
Δt 3 ℃
供給側・熱源側
5℃
冷水ポンプ
454 m3/h ターボ冷凍機 1350RT
過剰運転
定格量以上の冷水量に
対応することで冷凍機
の過剰運転を抑制
空調機器
冷水ポンプ
454 m3/h ターボ冷凍機 1350RT
冷却水ポンプ 冷却塔
110 kW
30 kW
冷水ポンプ
454 m3/h ターボ冷凍機 1350RT
冷却水ポンプ 冷却塔
110 kW
30 kW
4 747 kW
1350RT
冷水
8℃
1 360m3/h
冷却水ポンプ 冷却塔
110 kW
30 kW
需要家・空調機器
Δt 3 ℃
供給側・熱源側
5℃
冷却水ポンプ
110 kW
冷水ポンプ群
最大1 360 m3/h
冷却塔
30 kW
ターボ冷凍機 1350RT
図6 熱媒過流量制御システムの概要(特許取得済み)
定格量以上の冷水量に対応することで,冷凍機の運転台数を抑制し,省エネルギー化を図る.
備全体が低効率となっている事例が多く見られる.こ
機の運転台数を抑制し,エネルギー消費量の削減が可
のような状況を改善するために,
(株)三菱地所設計と
能となる.
当社で“熱媒過流量制御システム”を共同開発した.
4.2 ステルスターボ システム
図6に本システムの概要を示す.このシステムは,定
夏季のピーク負荷に合わせて吸収式冷凍機を複数台
格量以上の冷水(熱媒)流量に対応することで,冷凍
配置している設備の場合,一般に,中間期から冬期に
®
三菱重工技報 VOL.45 NO.1: 2008
70
段階から設備導入,アフターサービスに至るまで一貫
冷却塔
吸収冷凍機
冷却塔
した熱源ソリューションを提供する当社の取り組みを
冷却塔
吸収冷凍機
吸収冷凍機
小容量高効率
ターボ冷凍機
ス
テ
ル
ス
タ
ー
ボ
リューションメニュー等多数情報を掲載しているので
シ
ス
テ
ム
算できる“省エネ &CO2 排出量削減試算ツール”を
®
冷水ヘッダ
(還)
冷水ヘッダ
(往)
図7 ステルスターボ
®
システムの概要(特許出願中)
既存冷水・冷却水配管系統にバイパス回路を設け小容
量高効率ターボ冷凍機を設置する.
かけて低負荷となり,少数の冷凍機を部分負荷で運転
するため,設備全体が低効率で運用されている場合が
多い.本システムはこのような運用をされているお客
紹介した.なお,当社ホームページの下記 URL にソ
閲覧いただきたい.また,当社ターボ冷凍機の導入に
よるランニングコストや CO2 排出量の削減効果を試
公開しているので設備計画にお役立ていただきたい.
冷熱事業本部 URL:
http://www.mhi.co.jp/aircon/index.html
参 考 文 献
(1) 関 亘 ほ か, 通 年 運 転 動 力 低 減 に 寄 与 す る 新 型
ターボ冷凍機 AART シリーズ,三菱重工技報 Vol.43 No2(2006)p.41
®
様に対し,小容量ターボ冷凍機(ステルスターボ )
を設置し,受電容量の増加などの設備投資をすること
なく,省エネルギー化を実現するものである.本シス
三菱地所設計,三機工業(株)
,当社の3
テムは,(株)
社で共同開発したもので,その概要を図7に示す.
5.ま と め
仲谷潤之助
省エネルギーならびに CO2 排出量削減は,世界的
な最重要課題である.こうした課題・ニーズに対して,
空調・熱源設備の全体最適化を図り,効果的に省エネ
ルギー,CO2 排出量削減を実現するため,設備計画
西崎太真
関亘
石井正宏