車載モータとデファレンシャルギヤを搭載した電気自動車における スリップ

IIC-11-137
車載モータとデファレンシャルギヤを搭載した電気自動車における
スリップ率制御に基づく駆動力制御法
吉村雅貴∗ ,藤本博志(東京大学)
Driving Force Control Method for Electric Vehicle with In-vehicle Motor and Differential Gear
Based on Slip Ratio Control
Masataka Yoshimura∗ , Hiroshi Fujimoto (The University of Tokyo)
Abstract
Anti-slip control or slip ratio control can improve the stability of vehicle on a low µ road. However, it is difficult for
these methods to control the driving force. Therefore the vehicle may be unstable on a road whose friction coefficient
µ varies randomly. Then in this paper we propose the driving force control method for EV with in-vehicle motor and
differential gear. By using this method, we can control the driving force directly. Simulations and experiments are
carried out to demonstrate the effectiveness of the proposed method.
キーワード:電気自動車,駆動力制御,スリップ率,トラクション制御,車載モータ
(electric vehicle,driving force control,slip ratio,traction control,in-vehicle motor )
1.
はじめに
現在,電気自動車は環境問題への対策の一つとして注目
されており,盛んに研究が行われている。電気自動車は環
境面だけでなく制御面も優れている。電気自動車の持つ最
大の特徴はモータを駆動力とすることにより得られる高い
制御性であり,内燃機関より百倍程度高速なトルク応答を
持ち,発生トルクを正確に把握できる。また,モータはエ
ンジンより小型であるため分散配置が可能であるなどの特
徴がある。これらの利点を活かし内燃機関では実現不可能
な高速制御を行うことができる。このことから電気自動車
の利点を活かした高度な車両制御に関する研究 (1)∼(4) が多
く発表されており,著者らもインホイールモータを搭載し
た電気自動車のトラクション制御に関する研究に取り組ん
できた (5)∼(7) 。
インホイールモータを搭載した電気自動車は各駆動輪を
独立に駆動可能であるため,高い制御性を持つ。しかしイ
ンホイールモータの普及はまだ進んでおらず,現状では車
載モータとデファレンシャルギヤを搭載するタイプが主流
であり,今後も大きなシェアを占めていくと考えられる。車
載モータは分散配置には向かないがインホイールモータと
同様に高速なトルク応答と発生トルク計算の容易性を持っ
ているため高度な制御が可能である。従って車載モータを
搭載する電気自動車に適用可能なトラクション制御法は非
常に有用である。文献 (8) では車載モータを搭載した電気
自動車のトラクション制御法として車輪速制御に基づくス
リップ率制御法を実装している。
本稿では車載モータとデファレンシャルギヤを搭載した
電気自動車の駆動力制御法を提案する。本手法では駆動力
がスリップ率の関数であることから,スリップ率を操作す
ることで駆動力を制御する。総駆動力オブザーバに基づき
V
FdL
ωL
M
FdR
ωR
図 1 二輪駆動モデル
Fig. 1. Two wheels model.
駆動輪の合計駆動力を推定し,フィードバックすることで
駆動力を直接制御することが可能となる。本手法により任
意の駆動力を発生することが可能となると共に,駆動力が
飽和する場合にはスリップ率制御と同様のトラクション効
果を得ることができる。従って低 µ 路と高 µ 路が交互に現
れるような路面において有効性が高い。シミュレーション
と実験により提案手法の有効性を確認した。
2. 車両モデル
〈2・1〉 二輪駆動モデル
本節では車両モデルについ
て説明する。車両のモデルには図 1 に示す二輪駆動モデル
を用いる。左右輪平均車輪角速度 ω
¯ [rad/s] と左右輪平均車
輪速 V¯ω [m/s] は,右車輪角速度 ωR [rad/s],左車輪角速度
ωL [rad/s],車輪半径 r [m] よりそれぞれ式 (1),式 (2) の
ように表される。
1
(ωR + ωL ) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1)
2
V¯ω = rω
¯ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (2)
ω
¯=
右輪の駆動力 FdR [N] と左輪の駆動力 FdL [N] は左右輪の
タイヤ-路面間摩擦係数 µR , µL とタイヤ垂直抗力 N [N] よ
りそれぞれ式 (3),式 (4) で得られる。また総駆動力 Fd [N]
1/6
を式 (5) で,右輪と左輪の駆動トルク TdR , TdL [Nm] を式
(6),式 (7) で定義する。
FdR = µR N · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3)
FdL = µL N · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4)
Input gear
Left
wheel
Right
wheel
Fd = FdR + FdL · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5)
Ring gear
TdR = rFdR · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (6)
TdL = rFdL · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (7)
図 2 デファレンシャルギヤ
Fig. 2. Differential gear.
車体速度 V [m/s] は車体重量 M [kg] と総駆動力 Fd より式
(8) のように表される。
V =
1
Fd · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (8)
Ms
右輪と左輪のスリップ率 λR , λL はそれぞれの車輪速 VωR =
rωR , VωL = rωL と車体速 V により式 (9),式 (10) で定義
される。
VωR − V
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9)
max(VωR , V, ε)
VωL − V
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (10)
λL =
max(VωL , V, ε)
λR =
ここで ε は零割を防ぐための定数である。
〈2・2〉 デファレンシャルギヤ
本節ではデファレン
シャルギヤのモデルについて説明する。デファレンシャル
ギヤのモデルを図 2 に示す。デファレンシャルギヤはモー
タからのトルクを入力するインプットギヤ,インプットギ
ヤからのトルクを受けるリングギヤ,車輪に回転を伝える
サイドギヤ,左右輪の回転速度差を吸収するピニオンギヤ
から構成される。ここではモータとインプットギヤは直結
しているものと考える。左右輪の回転速度はインプットギ
ヤの回転速度とピニオンギヤの回転速度を合成したものと
なる。
まずインプットギヤの回転について説明する。インプッ
トギヤ,リングギヤの歯数をそれぞれ ni , nr とし,インプッ
トギヤとリングギヤのギヤ比を gir とする。gir は式 (11) で
定義される。
gir
ni
=
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11)
nr
インプットギヤの角速度 (= モータの角速度)ω1 [rad/s] は
モータ軸周りのイナーシャJ1 [kgm2 ] とモータからの入力ト
ルク T [Nm],駆動力の発生によりインプットギヤに返って
くるトルク Td [Nm] により式 (12) のように表される。ここ
で J1 とはモータ軸からみたモータのロータ,インプットギ
ヤ,リングギヤ,ピニオンギヤのリングギヤ回転方向,サ
イドギヤ,シャフト以降のイナーシャの合計イナーシャで
ある。
ω1 =
1
(T − Td )· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (12)
J1 s
Side gear
Pinion gear
される。
Td =
gir rd (TdR + TdL )
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (13)
rs
ここで rs [m] はサイドギヤの半径,rd [m] はサイドギヤと
ピニオンギヤの接触点の回転半径である。通常 rs = rd で
ある。式 (5),式 (6),式 (7),式 (13) より Td は Fd により
式 (14) のように表される。
Td =
gir rrd
Fd · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (14)
rs
次にピニオンギヤの回転について説明する。サイドギヤ,
ピニオンギヤの歯数をそれぞれ ns , np とし,ピニオンギヤ
とサイドギヤのギヤ比を gps とする。gps は式 (15) で定義
される。
gps =
np
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (15)
ns
ピニオンギヤの角速度はピニオンギヤ軸周りのイナーシャ
J2 [kgm2 ] 左右輪の駆動トルク差により式 (16) のように表
される。ここで J2 とはピニオンギヤ軸からみたインプット
ギヤ,リングギヤ,ピニオンギヤ,サイドギヤ,シャフト
以降のイナーシャの合計イナーシャである。
ω2 =
gps
(TdL − TdR )· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (16)
J2 s
次に車輪角速度について説明する。左右輪の車輪角速度
ωR , ωL は ω1 , ω2 よりそれぞれ式 (17),式 (18) で表される。
ωR = gir ω1 + gps ω2 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (17)
ωL = gir ω1 − gps ω2 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (18)
左右輪の平均角速度はリングギヤの角速度に等しくなり,ピ
ニオンギヤが回転することで左右輪に角速度が分配される。
また式 (16),式 (17),式 (18) よりデファレンシャルギヤで
は駆動力が小さい側の車輪は加速されスリップ率が大きく
なり,駆動力大きい側の車輪は減速しスリップ率が小さく
なる。そのため左右輪共に制駆動力が最大となるスリップ
率を超えていなければ,左右輪の駆動力は等しくなる。デ
ファレンシャルギヤのブロック図を図 3 に示す。
Td は左右輪に発生した駆動力がトルクとしてギヤを介して
インプットギヤに伝わるトルクであり,式 (13) のように表
2/6
TdR
+
+
TdL
+
girrd
rs
gps
+
1 ω1
J1s
gir
1 ω2
J2s
gps
+ ωR
+
0.2
friction coefficient µ
T
ωL
+
図 3 デファレンシャルギヤのブロック図
Fig. 3. Block diagram of differential gear.
3. 駆動力制御
〈3・1〉 駆動力制御における操作量
本節では駆動力
制御における操作量について説明する。タイヤ路面間摩擦
係数 µ とスリップ率 λ の間には一般的に図 4 に示すよう
な関係がある。µ はあるスリップ率 λpeak p で最大となり,
λpeak n で最小となる。λpeak n ≤ λ ≤ λpeak p の領域で
は λ が大きいほど µ は大きくなる。よってスリップ率を
λpeak n ≤ λ ≤ λpeak p の範囲で操作することで µ を制御す
ることができ,駆動力が式 (3),式 (4) で与えられることか
ら駆動力を制御することができる。ただし車載モータは 1
自由度であるため左右輪を独立に駆動することはできない。
そのため駆動時を想定すると左右輪の内スリップ率が大き
い方,すなわち低 µ 路側の車輪のスリップ率を操作するこ
とで総駆動力を制御する。これにより左右輪のスリップ率
を抑えたうえで最大の総駆動力を得ることができる。制動
時には車輪速の小さい方の車輪のスリップ率を操作すれば
よい。
しかしスリップ率の定義は駆動時 (Vω ≥ V ) と制動時
(Vω < V ) で異なるため,車輪速制御によるスリップ率制
御を構成した場合にはスリップ率の定義により指令値の計
算を切り替える必要がある。そのためスリップ率制御によ
る駆動力制御は不都合である。そこでスリップ率ではなく,
式 (19) で定義される車体速と車輪速の関係を操作すること
で駆動力制御を行う。ここで Vω は操作されている車輪の
車輪速である。
Vω
y=
− 1· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·(19)
V
スリップ率 λ と y の関係は式 (20) で表される。よって駆動
時では λ = 0 の近傍で λ と y はほぼ等しく,制動時では λ
と y は同じ定義なので等しい。このことからスリップ率の
代わりに y を用いることは妥当である。
{
y=
λ
1−λ
λ
(Vω ≥ V )
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (20)
(Vω < V )
〈3・2〉 片輪車輪速制御
本節では駆動力制御系のイ
ンナーループとなる片輪車輪速制御について説明する。車
載モータを搭載した車両では左右輪の角速度を独立に制御
することはできない。しかし式 (17),(18) より ωR , ωL は
ω1 , ω2 に依存し,ω2 の大きさが何であれ,ω1 を大きくす
れば ωR , ωL は大きくなり ω1 を小さくすれば ωR , ωL は小
さくなる。従って ω1 を制御することで ωR , ωL の内一方を
制御することができる。片輪角速度制御のブロック図を図
0.1
0
λpeak_n
λ peak_p
−0.1
−0.2
−1 −0.8 −0.6 −0.4 −0.2 0 0.2
slip ratio λ
0.4
0.6
0.8
1
図 4 一般的な µ − λ 曲線
Fig. 4. Typical µ − λ curve.
5 に示す。フィードバックする車輪角速度は左右輪の内ス
リップの絶対値が大きい方,ここでは駆動時を考えている
ため ωR , ωL の内大きい方となる。また生成される車輪角速
度指令値は ωR , ωL の内フィードバックされた方の指令値と
なる。車輪角速度の誤差は ω1 の誤差として扱われ,ω1 を
制御することで ωR , ωL の内大きい方を制御する。インプッ
トギヤ角速度制御器には平均スリップ率の時間微分項を無
視した詳細な運動方程式に基づき極配置法によりゲインを
決定した PI 制御器を用いる。
¯ は式 (21) のように定義
加速時の左右輪平均スリップ率 λ
される。
¯
¯ = Vω − V · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (21)
λ
V¯ω
ω1 と ω
¯ の間には次の関係がある。
ω1 =
1
ω
¯ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (22)
gir
式 (8),式 (12),式 (13),式 (21),式 (22) より式 (23) の運
動方程式が得られる。
ω
¯˙ =
2 2
¯˙
gir rs T + gir
r rd M ω
¯λ
2 2
¯ · · · · · · · · · · · · · · · · · (23)
rs J1 + gir r rd M (1 − λ)
式 (23) に含まれる λ˙ はスリップ率が変動したときのみ現れ
る項であり,定常状態での値は 0 である。そこでここでは
この項を無視する。
ω
¯=
gir rs
2 2
¯ T · · · · · · · · · · · · · (24)
r rd M (1 − λ))s
(rs J1 + gir
式 (22) と式 (24) より式 (25) の運動方程式が導かれる。
ω1 =
rs
2 2
¯ T · · · · · · · · · · · · (25)
r rd M (1 − λ))s
(rs J1 + gir
ここで λ¯n をノミナル平均スリップ率とし,ノミナルイナー
シャJ1n を式 (26) で定義する。適当なノミナルスリップ率
を決め,式 (27) で表されるノミナルプラントに基づき極配
置法により PI 制御器のゲインを決定する。
2 2
rs J1 + gir
r rd M (1 − λ¯n )
· · · · · · · · · · · · · (26)
rs
1
T · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (27)
ω1 =
J1n s
J1n =
3/6
ωR
ωRorL*+
1
gir
Input gear
speed controller
T
Differential
gear
T
ωL
TdR
+
+
TdL
+
Max
図 5 片輪車輪角速度制御
Fig. 5. One wheel speed control system.
girrd Td +
rs
1 ω1
J1s
gir
gps
1 ω2
J2s
gps
+
1
τs+1
J1s
τs+1
^
Td
〈3・3〉 総駆動力オブザーバ
本節では総駆動力オブ
ザーバについて説明する。駆動力制御では総駆動力をフィー
ドバックするための総駆動力オブザーバが必要となる。式
(12),(14),(17),(18) より総駆動力 Fd は次のように表さ
れる。
rs
Fd =
gir rrd
)
(
J1
s(ωR + ωL ) · · · · · · · · · · (28)
T−
2gir
駆動力制御系を図 7 に示す。ここでは駆動時を考えている
ためフィードバックする車輪角速度は ωR , ωL の内大きい方
としているが,制動時は ωR , ωL の内小さい方をフィード
バックする。
駆動力制御器の積分器に積分値の上限 ymax および下限
ymin を設け,y の値を ymin ≤ y ≤ ymax に制限することで
スリップ率を制限することができる。ymax には最大の駆動
力を発生すると考えられるスリップ率 λmax に対応する y
を,ymin には最大の制動力が発生すると考えられるスリッ
プ率 λmin に対応する y を設定する。また積分値の初期値
y0 には非駆動状態を想定し,y0 = 0(λ = 0) を与える。
駆動力制御により停車状態から発進する際,式 (29) によ
∗
∗
り ωRorL
を生成すると V = 0 であるため常に ωRorL
=0
となってしまい発進できない。これを防ぎ発進を可能とす
るために式 (29) において yV のみ V < σ において yσ と
∗
し,式 (30) により ωRorL
を生成する。これにより V = 0
∗
においても ωRorL の変動範囲が 0 にならないため,駆動力
∗
制御による発進が可能となる。Vω∗RorL = rωRorL
のとりう
る値の範囲を示す図を図 8 に示す。
{
∗
ωRorL
=
1
(V
r
1
(V
r
+ yV )
+ yσ)
(V ≥ σ)
· · · · · · · · · · · (30)
(V < σ)
ωL
+
ω1
^
1
2gir
Plant
+
Observer
+
^
Fd
図 6 総駆動力オブザーバ
Fig. 6. Driving force observer.
Fd*
+
KI
1
s
y
1 ωRorL*
+
r
+
+
initial value=0
V
1
gir
Input gear
speed controller
Max
T
Vehicle
Plant
Fd
ωR ωL
^
Fd
従って発生トルクを計算,左右輪角速度を検出できれば図
6 に示す総駆動力オブザーバを構成できる。本稿ではトル
ク制御系は十分速いとし,トルク指令値と検出した車輪角
速度から総駆動力を推定する。
〈3・4〉 駆動力制御系の構成
本節では駆動力制御系
について説明する。駆動力制御系はインナーループに片輪
車輪角速度制御系があり,アウターループに総駆動力オブ
ザーバと駆動力制御器がある構成となる。駆動力制御器に
は I 制御器を用い,その出力が y となる。車輪角速度制御
∗
系への車輪角速度指令値 ωRorL
は y と車体速 V より式 (29)
で計算する。
1
∗
ωRorL
= (V + yV )· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (29)
r
rs
girrrd
ωR
+
+
Driving Force
Observer
図 7 駆動力制御系
Driving force control system.
Fig. 7.
V+yV
VωRorL*
= rωRorL*
σ
V
V+yσ
0
t
図 8 Vω∗RorL の範囲
Fig. 8. Range of Vω∗
4. シミュレーション
駆動力制御とトルク制御を比較するシミュレーションを
行った。駆動力オブザーバの時定数は 70[ms] とした。イ
ンプットギヤ角速度制御器には式 (27) において λ¯n = 0.05
としたときのノミナルプラントに対して極配置設計した
PI 制御器を用いた。インプットギヤ角速度制御器の極は
10[rad/s] とした。駆動力制御器のゲインは KI = 0.001 と
した。積分器の積分値制限は λmax = 0.2, λmin = −0.2 と
して ymax = 0.25, ymin = −0.2 とした。発進のための定数
σ は σ = 0.2[m/s] とした。路面は高 µ 路,低 µ 路,右が
低 µ 路で左が高 µ 路のスプリット µ 路が順に現れる路面と
した。高 µ 路での最大タイヤ-路面摩擦係数は µmax = 0.8,
低 µ 路での最大タイヤ-路面摩擦係数は µmax = 0.2 とした。
トルク制御におけるトルク指令値は駆動力制御における駆
動力指令値をモータトルク換算した値 rgir Fd∗ とした。シ
ミュレーションでは低 µ 路での車輪で駆動力が飽和するよ
うな駆動力指令値を与えた。シミュレーションにおいて摩
擦係数 µ とスリップ率 λ の関係には Magic Formula (9) を
4/6
1
ref
Fdhat
R
L
1500
1000
0.4
2
4
time [s]
6
(a) Driving force:Torque
control.
2
4
time [s]
6
1500
1000
velocity V,Vω [m/s]
0.8
slip ratio λ
2000
0.6
0.4
0.2
500
2
4
time [s]
6
0
0
8
(d) Driving force:Driving
force control.
20
0
0
2
4
time [s]
4
time [s]
6
8
0.3
60
V
Vω R
50
Vω L
0.2
0.1
40
0
30
−0.1
20
0
0
8
6
(c) Velocity:Torque control.
−0.2
10
2
(e) Slip ratio:Driving force
control.
2
4
time [s]
6
8
(f) Velocity:Driving force
control.
0
2
4
time [s]
6
8
(g) y:Driving force control.
1
0.1
torque control
driving force control
0.5
0
0
−0.1
torque control
driving force control
y[m]
yaw rate γ [rad/s]
30
70
R
L
ref
Fdhat
R
L
Vω L
40
8
(b) slip ratio:Torque control.
1
2500
V
Vω R
50
10
0
0
8
60
y
0
0
driving force Fd [N]
0.6
0.2
500
0
0
70
R
L
0.8
velocity V,Vω [m/s]
2000
slip ratio λ
driving force Fd [N]
2500
−0.5
−0.2
−1
−0.3
−0.4
0
−1.5
2
4
time [s]
6
8
(h) Yaw rate.
−2
0
20
40
x[m]
60
80
(i) Vehicle trajectory.
図 9 シミュレーション結果
Fig. 9. Simulation results.
用いた。
駆動力が飽和する場合のシミュレーション結果を図 9 に
示す。トルク制御では図 9(b),図 9(c) より低 µ 路において
車輪速が急激に上昇しスリップ率が大きくなってしまい車
両は不安定になる。また図 9(a),図 9(h),図 9(i) より低 µ
路から高 µ 路に進入する際にスリップ率が大きいまま進入
し大きな駆動力が発生するためスプリット µ 路に進入する
際に大きなヨーレートが発生している。駆動力制御をかけ
た場合は図 9(e),図 9(f),図 9(g) より低 µ 路において y が
飽和することでスリップ率が上限値 0.2 に制御され安定な
走行ができている。図 9(d),図 9(h),図 9(i) より低 µ 路か
ら高 µ 路に進入する際には小さいスリップ率で進入するた
め,トルク制御に比べ進入時に大きな駆動力が発生しにく
い。そのためスプリット µ 路に進入する際にも大きなヨー
レートは発生しておらず,安定した走行となっている。駆
動力制御によりシミュレーションを行ったような高 µ 路と
低 µ 路が入り混じる路面においても安定した走行が可能で
あることが分かる。またデファレンシャルギヤの左右輪の
駆動力を等しくする作用により定常状態において左右輪の
駆動力が等しくなっている。
5. 実
験
実車を用いて駆動力制御の実験を行った。実験車両には
市販の電気自動車を研究室で改造したものを用いた。実験
車両を図 10 に示す。実験車両の制約により低 µ 路での試験
を行えないため,実験では高 µ 路における駆動力制御のみ
行った。実験車両ではトルク指令の無駄時間やトルク制御
周期の長さ,外付け車輪速エンコーダの振動,バックラッ
シ等により片輪車輪速制御の帯域を上げることができない。
そのためインプットギヤ角速度制御器の極は 1.5[rad/s],駆
動力制御器のゲインは KI = 0.0004 とシミュレーションよ
りも制御器を遅く設計した。その他の制御器のパラメータ
はシミュレーションと同様の値とした。
実験結果を図 11 に示す。本実験では左右輪の µ が等しい
高 µ 路を走行しているため左右輪の車輪速は等しい。その
ためスリップ率と車輪速は右輪のものだけ示す。図 11(a),
図 11(b) より制御器が遅いため発進から総駆動力が収束す
るまでに時間がかかっているが,y を操作することで総駆
動力を制御できていることが分かる。このときのスリップ
5/6
0.2
1500
slip ratio λ
0
−0.1
500
5
10
15
time [s]
20
25
−0.3
0
8
0.08
6
V
Vω R
0.06
0.04
0.02
−0.2
0
0
0.1
R
0.1
1000
y
estimated driving force Fdhat [N]
ref
Fdhat
velocity V,Vω [m/s]
0.3
2000
5
10
15
time [s]
(a) Estimated driving force.
20
25
(b) y.
Fig. 11.
0
0
5
10
15
time [s]
(c) Slip ratio.
20
25
4
2
0
0
5
10
15
time [s]
20
25
(d) Velocity.
図 11 実験結果:高 µ 路
Experimental results:high-µ road.
参考文献
Fig. 10.
図 10 実験車両
Experimental vehicle.
率と車輪速,車体速を図 11(c),図 11(d) に示す。はじめの
スリップ率の振動は車体速と車輪速が共に小さく,さらに
スリップ率が非常に小さいため,スリップ率の計算が困難
であるため生じている。
6. おわりに
本稿では車載モータを搭載した電気自動車の駆動力制御
法を提案し,その有効性をシミュレーションと実車を用い
た実験により示した。総駆動力オブザーバと片輪車輪速制
御に基づき駆動力制御系を構成することで総駆動力を制御
できることを確認した。スリップ率が上限値に達し駆動力
が飽和するとスリップ率制御として働くため,高 µ 路と低
µ 路が入り混じる路面でも安定した走行が可能である。さ
らに総駆動力を直接制御するためアクセルを総駆動力指令
とすることでアクセルとの協調も容易であり,様々な路面
を安全に走行できるトラクション制御であるといえる。
今後の方針としてはバックラッシが存在する実車におい
てもシミュレーションと同様の駆動力制御性能を得るため
に,バックラッシを考慮した駆動力制御を検討する。また
旋回時のトラクション制御の検討や ω2 を用いた制御の検
討を行う。
謝 辞
最後に本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金 (課
題番号,22246057) によって行われたことを付記する。
( 1 ) A.Nagae,K.Hosomi,S.Yamamoto,M.Ooba,Y.
Takahira,T.Ishikawa: “ Development of ActiveTraction Control System ”,TOYOTA Technical Review,Vol.50,No.1,pp.68-73,2000 (in Japanese)
( 2 ) Y.Tsuruoka,Y.Toyoda,and Y.Hori: “Basic Study
on Traction Control of Electric Vehicle ”,Trans.IEE
of Japan,Vol.118-D,No.1,pp.44-50,1998 (in
Japanese)
( 3 ) H.Sado,S.Sakai and Y.Hori: “ Road Condition
Estimation for Traction Control in Electric Vehicle ”,
In Proc.1999 IEEE International Symposium on Industrial Electronics,pp.973-978,1999
( 4 ) D.Yin, S.Oh, and Y.Hori: “A Novel Traction Control for EV Based on Maximum Transmissible Torque
Estimation ”,IEEE Transactions on Industrial Electronics, Vol. 56, NO. 6, 2009
( 5 ) K.Fujii,H.Fujimoto: “Slip Ratio Control Based on
Wheel Speed Control without Detection Vehicle Speed
for Electric Vehicle ”,VT-07-05,pp.27-32,2007 (in
Japanese)
( 6 ) K.Nakamura,H.Fujimoto: “ Proposal of Slip Ratio Control for Electric Vehicle with Inverter Control
Based on PWM Hold ”,IIC-08-146, pp.75-80, 2008
(in Japanese)
( 7 ) M.Yoshimura,H.Fujimoto: “ Proposal of Driving
Torque Control Method for Electric Vehicle with InWheel Motors ”,IEE of Japan Industry Applications
Society Conference, Vol. 2, pp.
-315-320, 2010(in
Japanese)
( 8 ) Makoto Kamachi,Hiroaki Miyamoto,Hiroaki Yoshida: “ Development of Electric Vehicle for On-road Test ”,
AVEC’08,pp.665-669,2008
( 9 ) H.B.Pacejka,and E.Bakker,
“ The Magic Formula
Tyre Model ”,Tyre models for vehicle dynamic analysis:proceedings of the 1st International Colloquium on
Tyre Models for Vehicle Dynamics Analysis,held in
Delft,The Netherlands,1991
6/6