平成18年 - 大台ケ原・大峰の自然を守る会

No.58
2006 年 6 月 1 日
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会の初会合開かれる
2005 年 1 月、大台ヶ原自然再生推進計画が策
定されて検討会はその任を終わった。今年度から
再生推進計画は実施段階に入ったが、そのフォロ
ーアップ組織として三部会で構成される「大台ヶ
(2)推進計画の実施状況を踏まえた評価に関す
る事項、(3)その他、大台ヶ原の自然再生の推
進に必要な事項、について検討、掌握することに
なった。各部会及び合同部会の決定をもって評価
原自然再生推進計画評価委員会」が設置された。
2005 年 8 月 30 日午前 10 時から、三部会委員
19 名(内 2 名欠席)、関係機関 15 名、事務局 10
名が出席して初会合が奈良において開催された。
委員会の決定とすることができる、とされた。
(2)平成 17 年度調査及び事業内容について
・森林生態系部会
○植生調査工程表及び調査内容
【議事】
(1)大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会の設
置について
○野生動物調査工程表及び調査内容
・ニホンジカ保護管理部会
○ニホンジカ調査工程表及び調査内容
○ニホンジカ保護管理対策
三つの部会、森林生態系部会・ニホンジカ保護
管理部会・利用対策部会で構成される「大台ヶ原
自然再生推進計画評価委員会」(略称評価委員
会)は、全体的な進捗状況を確認するとともに
・利用対策部会
○利用対策調査内容及び事業概要
○GIS整備
全体を通して大きな議論にはならず、二三の
(1)推進計画の実施に必要な調査に関する事項、 質問にとどまった。
『あくまでもマイカー規制を最終目標にすべし』
―― 平成17年度第1回利用対策部会及び森林生態系部会合同部会 ――
午前中の評価委員会に引き続き、午後 12 時 30
分から「平成 17 年度大台ヶ原自然再生推進計画
評価委員会利用対策部会及び森林生態系部会合同
部会」が委員 16 名(内 2 名欠席)、関係機関 15
名、事務局 10 名が出席して開催された。
【議事】
―1―
◆ 平成 17 年度大台ヶ原利用対策調査について
【これまでの経緯と平成 17 年度の調査の目的】
自然環境への負荷を軽減するため、自動車利用
るが、マイカー規制の大目標がこれにすり替わっ
てしまったのでは意味がない。
9 月 24 日に予定されている「大台ヶ原と世界
適正化、利用調整地区の導入、総合的利用メニュ
ーの充実によって、自然環境の保全と質の高い自
然体験の両立を目指すことを目標とする。
平成 17 年度調査では、上記の目標を実現する
遺産大峰奥駈道の利用を考えるシンポジュウム」
のテーマは公共交通利用促進のようであるが、事
情の異なる大台、大峰を一括りに論じるには無理
があるのではないかと発言した。
ため、公共交通利用促進の検討、自動車利用に伴
う自然影響調査、利用調整地区の導入検討、総合
的な利用メニューの充実検討を行うとともに、自
然再生の取り組みに係る普及啓発を行うことを目
再生推進計画の検討段階から地元関係機関には
多くの思惑、誤解、理解不足が交錯して協力的と
は言えない状況が続いたが、本年 1 月の計画策定
的とする。
【調査項目】
1.公共交通利用促進の検討
の最終会議で、奈良県は「再生計画に賛成する。
進めてほしい。」と明言するのを聞いて驚いた。
それが、いよいよ実施段階に入って、再び非協力
的姿勢に戻るとは全く理解し難い。環境省の粘り
1−1 公共交通利用促進のための広報
1−2 混雑緩和のための緊急対策の検討
1−3 公共交通利用促進事業の効果に関する調査
委員から重要な発言があった。「公共交通利用
強い努力を期待したい。場合によっては、部会で
地元関係機関と直接論議する機会を設定してもい
いのではないか。
促進キャンペーンは、折角盛り上がったマイカー
規制の気運を削ぐことにならないか」と。 座長
はじめ委員からも同様主旨の発言が続いた。環境
省が作成した車内吊広告、ポスター、チラシなど
2. 自動車利用に伴う自然環境影響調査
2−1 自動車排気ガス調査
2−2 自動車利用に伴う自然環境への負荷調査
この調査については 6 月 30 日に大阪で開催さ
にもマイカー規制を目指す文言はない。
環境省は「マイカー規制をあきらめたわけでは
ない。第一段階である。今後も関係機関と調整を
進めていく。」と答えた。
れた、筆者も参加したワーキンググループの突っ
込んだ論議において、これから費用と時間をかけ
て調査をしても期待する結果が出るか疑わしい、
従来のデータのシミュレーションの方が適切では
会議の最後に、傍聴していたニホンジカ保護管
理部会委員が発言を求めて「パーク&ライド(マ
イカー規制)を最終目標にすべきだ。それを阻害
ないか、との意見が大勢を占めたにも拘わらず、
何故調査をするのか質問したが、「シミュレーシ
ョンは行う。調査データは初期値にする。」とい
うのが環境省の返事であった。
している要因は何か。環境省はいつまでに実現す
るのか、はっきり答えてもらいたい」と質問した
が環境省は確答を避けた。環境省の「期間と手
順」では 5 年以上の「中期」になっているので、
樹上性の蘚苔類の調査について、森林生態系部
会委員から「単なるコケの調査で、自動車利用に
伴う環境負荷について評価できるデータが得られ
るか疑問だ」との発言があった。
もっと早くすべきだ、と利用対策部会で何度も論
議したが短くならなかった。
近鉄、奈良交通を利用する「レイル&バス」の
3. 利用調整地区の導入検討
3−1 現況把握調査
3−2 利用適正化計画の検討・立案調査
キャンペーンは本会も主張してきたことで賛同す
―2―
環境省はこれを本年度最大の課題としている。
スケジュールによれば、10 月に「利用適正化計
画検討協議会」設立の予定になっている。今年度
であったのだ。その意味で田垣内委員の指摘は鋭
い。
国有化後 30 年の観光政策で東大台はすでに観
中に素案を作り、ヒヤリング、パブコメを経て来
年度から実施にもっていきたいと意気込んでいる
ことを多としたい。
そのためには、自然環境情報等の整理、自然環
光地化されたが、西大台が奇跡的に残されている。
しかし、観光バスツアーの増加でいまや危機的状
況にある。早く利用調整地区に指定して保護しな
ければ、東大台のようになることは目に見えてい
境への影響の把握、自然体験の質に係る現況把握、 る。森林生態系部会委員から「まず、規制であ
る」と発言があった。
整備水準の把握、管理水準の把握、入込みの実態
把握など膨大な調査が残されていて心配ではある
利用調整地区の指定を受けるためには、原生的
が、事務局の努力に期待したい。
環境省は部会の意見を協議会に反映したいとし
ているが、次回利用対策部会は来年 2 月に予定さ
れているだけなので、それで反映できるのか質問
したが、必要があれば適時開催するとの返事であ
な自然環境であることの立証に止まらず、指定認
定機関をはじめ実務的な体制、計画を作り上げる
必要があり、今後、短期間に仕上げる作業は大変
であろうが、事務局の努力に期待したい。そして、
った。
この課題の実現は、難航しているマイカー規制の
実現に必ずや大きな影響を与えるであろう。
最近、各地の国立公園、例えば尾瀬などでもオ
ーバーユース対策として利用調整地区導入が検討
されていると聞く。大台ヶ原でも西大台より東大
台が先だ、という意見がある。しかし、それらは、
利用調整地区創設の目的を正しく理解していない
発想である。
4.総合的な利用メニューの充実検討
4−1 キャンプ指定地似ついての検討
4−2 登山道の現況把握調査
4−3 自然体験プログラムの立案および実施
森林生態系部会委員からキャンプ指定地設置に
2003 年に自然公園法を改正して利用調整地区
制度が創設された目的は、「近年、国民の自然志
向の増大等によって、従来ほとんど利用者が立ち
入ることのなかった原生的な自然を有する地域を
ついて反対意見がでた。ゴミの散らかったキャン
プ場をイメージする大方の意見であろうが、計画
しているのは予約制の有料指定地で、集団施設地
区の駐車場南側の台地に 5∼10 張り程度のサイト、
訪れる利用者が増加しつつあり、当該地の原生的
な雰囲気が失われるとともに、風致景観、生物多
様性の保全上の支障が生じている事例がみられ
る。」その地域は「より深い自然とのふれあいと
給水設備を設置するので、この実態を説明すれば
賛同が得られると確信している。かつて大台ヶ原
に登山者はテントを担いで登ったが、ドライブウ
エーが造られて山小屋が建てられるとキャンプが
体験が得られる場として重要であり、一定のルー
ルとコントロールの下で持続的な利用を図ること
が有効だと考えられる」としている。西大台は正
にその目的にふさわしい地域である。
禁じられた。第三セクターの営業政策でしかなく、
キャンプ禁止の正当性がないままで 40 年が経ち、
「キャンプ禁止の山」のイメージが人々に定着し
たのは、自然と深く触れ合う意味を考えれば、実
は由々しきことである。間違っている。
田垣内委員は「大台ヶ原全域が利用調整地区で
ある」と発言した。30 年前に 22 億円で買い上げ
られた理由は、原生的自然が人間の活動によって
再生計画によって観光地を脱し、「新しいワ
イズユースの山」を目指して「利用の質の改善を
影響を受けない様にするというのが国有化の理念
図る」とすれば、自然の深い体験のために予約制
―3―
有料キヤンプ指定地を設けることは当然であり、
必要不可欠の条件である。尾瀬にすらキャンプ指
定地はある。「テントを担いで、電車・バスで大
台ヶ原へ登ろう」というのが次世代のキャッチフ
レーズになるようにしたい。そのために、評価委
員の迷妄から解いていかねばならないのは大変で
はあるが、必ず理解してくれると希望を持ってい
る。
5. 普及啓発
5−1 大台ヶ原ビジターセンター展示及び開
設標識の充実
5−2 大台ヶ原と世界遺産大峰奥駈道の利用を
考えるシンポジュウムの開催
5−3 ホームページ情報の充実と利用者参加型
企画立案・実施
2005 年 8 月 31 日
田村 義彦
西大台利用調整地区制度の導入にむけて論議進む
―― 平成 17 年度第 2 回利用対策部会・森林生態系部会合同部会 ――
2005 年 12 月 16 日に奈良市において標記合同
どの論議に時間が費やされることがなくて良かっ
部会が開催された。
この合同部会に先立ち 11 月 25 日に、両部会の
委員から成る第 1 回利用適正化計画検討ワーキン
ググループ(非公開)が開催され、「利用調整地
た。
利用調整地区設定の要件は、あくまでも「核心
的な自然景観を有し、原生的な雰囲気が保たれて
いる地区で、利用者圧が高まり、現状のままでは
区(案)の区域」「東大台の利用に関する考え
方」「西大台での利用調整地区設定の考え方」
「大台ヶ原全体の利用対策」「利用調整地区の導
入と地域との関係」などについて率直な議論が行
自然景観や生物の多様性の維持に支障を生じ、原
生的な雰囲気や優れた自然景観の享受ができなく
なる恐れがある地区」を対象にしている。
その「利用者圧の高まり」について、委員から
われ、西大台で利用調整地区の指定を目指すこと
について共通の理解を得た。
「根拠を明確にせよ。<継続的利用の結果>と<
利用圧の高まり>には若干の齟齬がある。利用者
制限をする日本最初のモデルだけに、社会的影響
は大きい。」との発言があった。
「本合同部会で議論すべき主要論点」は大台ヶ
原自然再生推進計画(2005.1)第 6 章 3.(3)2)の
「基本方針」を踏まえ、西大台地区を対象として
検討された。なお、本検討は、「マイカー規制」
「総合的な利用メニューの充実」と連携して具体
化されることによって効果が発揮されるため、こ
れらと一体的に推進するものとされた。
(1)利用適正化を図るための基本方針について
議論のほとんどはこの問題に費やされたが、そ
の中で、利用調整地区制度を過剰利用対策に使お
うとする誤解、対象地域の生態系の価値比較論な
正に論理的には鋭く正しい指摘である。しかし、
大台ヶ原の森林衰退の根拠を示す明確な数字がな
いのと同様に、西大台についても明確な根拠を示
す確かに数字はない。その科学性の欠如が大台ヶ
原自然再生推進計画の弱点でもある。中央環境審
議会の委員諸侯は、本邦初演の決定を下す前にぜ
ひ西大台に足を運んで戴いて、危機的雰囲気を感
得して戴きたいと願う。
また、他の委員から「国立公園には 70 年の歴
史がある。利用規制をドラスティックに行う
―4―
な。」との発言があったが、私は「70 年の歴史
のなかで、自然公園法第 1 条の保護と利用を残し
たまま利用調整地区制度を導入したのは正にドラ
のは無理であるが、地元の雇用を考慮した体制を
考えてほしい。木和田道の歩道は県が管理してい
るが、入口は国立公園区域外であるから考慮して
スティックなことで、だからこそ一気にやるべき
だ。」と発言した。他の複数の委員からも「理想
は高く掲げるべきだ。モニタリングをしっかりや
って順応的管理をやろう。」「予防的措置として
もらいたい。」と、それぞれ前向きの発言があっ
たので、正直なところほっとした。村と県の協力
なくしてはこの制度の実現は不可能である。
また、上北山村は西大台をアマゴの禁猟区に
利用調整地区指定は必要だ。」との発言があった。 指定しているが村の監視員の目が届かないので魚
類も規制の対象にしてほしい、との要望があった。
利用調整地区の「禁止事項」に入る要件であろう。
(2)区域の設定
議題から反れたが、奈良県タクシー協会からマ
環境省案では、県有地で第 2 種特別地域である
集団施設地区を含めて「概ね特別保護地区(一部
2 種特別地域)」となっているが、法の要件は
「特別保護地区あるいは第 1 種特別地域」である
から、要件を満たすべく第 2 種特別地域の集団施
イカー規制の際、乗合タクシーを認めてほしいと
の要望があった。上高地などの例をみても実現可
能であろう。
設地区をはずしては如何、と提言した。環境省は
検討するとのことであった。
傍聴席から、先程のある委員の発言「両生類の
調査では河川の形態を変えないとできない」を受
けて、「調査研究の名目で研究者みずからが原生
的自然の破壊をすることは許されない」と苦言が
(3)利用調整を実施する期間等
(4)利用者数の設定
(5)その他・・・注意事項・モニタリング事
項・立入認定の手続きに関する事項など
各委員から利用形態が重要であるとの発言が
呈された。併せて、協議会に参加したい、マイカ
ー規制を実施せよ、などの発言があった。
あったが、時間切れで、上記具体的項目は協議会
にゆだねられることになった。協議会では原案に
数字がなければ無用の混乱に陥る危険性があるの
で、出来ればこの合同部会で概略的な数字を出し
開催されてから、早くも一年が経った。その間、
環境省は努力を続けてきたが、その経緯を知らさ
れない村民が不安に思うのは当然である。最近、
環境省が村の理解、協力を求める努力をはじめ、
たいと考えていただけに残念であった。環境省が
協議会に提出する原案には、あらかじめ具体的数
字を提示することを望みたい。
理解が得られるようになったと聞くが、喜ばしい
限りである。
日本で初めてのパイオニヤーワークである。多
くの試行錯誤を繰り返しながら軌道に乗るまで恐
最後に上北山村からは、「若い人達がウオーク
などの新しい試みをはじめて、気運は盛り上がっ
ている。村として、どう組織立てていくか、前向
きに模索している。」奈良県からは、「区域設定
らく数十年はかかるであろうが、パイオニヤーの
誇りをもって粘り強く努力して戴きたいと願う。
2005 年 12 月 20 日 田村 義彦
思えば、2 回目の上北山村住民説明会が河合で
に異論はない。県が管理運営について体制を組む
―5―
鹿 118 頭捕殺して、「印象としては鹿の頭数は横這い」
<平成 16 年度 第2回大台ヶ原ニホンジカ保護管理部会>
2005 年 3 月 25 日、奈良市において表題の会
議が開催された。
とは不確かな数字をどれだけ並べられても何の
説得力もない。
「大台ヶ原ニホンジカ保護管理計画」に基づ
いて、2002 年に 25 頭、2003 年に 45 頭、2004
年に 48 頭、合計 118 頭の鹿が捕殺された。検
討委員から「印象として減ったか?」と捕殺を
【胃内容物分析結果】
毎年のことであるが、トウヒは春 0%、夏 0%、
秋 1.0%。その他の針葉樹の樹皮を合算しても、
実行している事務局へ質問が出た。答えて曰く、
「昼は見なくなった。しかし、夜は中道、正木
ヶ原、牛石ヶ原にごろごろ寝そべっている。こ
の3年間でオスをとったので、若いオスが減っ
春 0.4%、夏 0.3%、秋 1.9%。これで鹿がト
ウヒを枯らしていると言えるのか。むしろ鹿の
冤罪を晴らすデータではないのか。ササ・グラ
ミノイド・広葉樹と草本類の葉、枯葉を合算す
た。全体的には横這いかな・・・」と印象を語
った。それを聞いた新聞記者が「横這いでは殺
した甲斐がなかったのか・・」とつぶやいた。
これで5年計画の3年が終わったので2年後
ると、春 97.5%、夏 95.4%、秋 89.4%。
にモニタリングと称する評価をしなければなら
ないが、捕殺効果を科学的に評価するのは難し
いであろう。
箇所で、枯死木・倒木状況及び剥皮状況の調査
を続けているが、鹿の剥皮が枯死に至る因果関
係は証明されていない。
【密度】
もはや書き疲れたが、この検討会に出てくる
数値には捕獲頭数以外確実性がないので本当は
何も書きたくないが、参考までに一つだけ紹介
【平成 17 年度調査】
・アルパインキャプチャーも麻酔銃も捕獲効率
が下がっているので、検討会としては捕獲柵と
ドライブウエィのゲートが開く前に猟友会に頼
する。
2002 年、大台ヶ原に鹿が何頭いるのかわか
らないまま、糞粒法による「推定頭数」195 頭、
「推定密度」27.7 頭/K㎡を基本数値として
んで銃で捕殺したいが、具体的にはワーキング
グループを作ってつめることになった。
・成獣メス鹿 4 頭にGPSテレメトリー首輪
(400g1年でドロップアウト)をつけて行動
捕殺を開始した。そしで3年後の 2004 年の密
度を見ると、鹿を捕殺した A1 地区では 62.0 頭、
捕殺していない A2 地区で 17.6 頭、A1/A2 平
均で 32.4 頭であった。即ち、3年間で 118 頭
域調査を行うとのこと。
殺した結果、鹿の密度は 27.7 頭から 32.4 頭へ
増えているのだ。ブラックユーモアではない。
やはり、上記のような印象を語るしかないのだ。
これが実態だ・・・。測定区ごとの測定値にバ
年度の取り残し 16 頭を加えた 60 頭を目指すこ
とになった。
2005 年 3 月 26 日
田村 義彦
【剥皮状況調査】
環境省は平成7年に設置したコドラード 20
【捕獲頭数】
計画4年目の 2005 年度は、計画の 44 頭に本
ラツキが大きいのはフィールドデータとして理
解できるが、確かな数値は捕獲頭数だけで、あ
―6―
西大台利用適正化計画に満場一致で賛成
――
第 1 回西大台地区利用適正化計画検討協議会
――
2006 年 2 月 26 日、吉野町中央公民館で標記協
議会が開催された。自然環境等に関する専門家・
研究者、関係行政機関、関係団体・地元住民・山
明しなかったことをお詫びします。ご指摘の通り、
再生計画は東大台が中心です。しかし、その再生
計画の中に、この西大台利用調整地区の問題が入
岳団体・NPO など 23 名、事務局側は環境省 7 名、
スペースビジョン 4 名が出席して、「吉野熊野国
立公園西大台地区利用適正化計画検討協議会」の
最初の会議が開かれた。
っているのです。そこで再生計画が昨年一月に決
まったあと、評価委員会はこの西大台利用調整地
区の問題にとりかかりました。何度も会議を開い
て喧喧諤諤の論議をしてきました。東大台ではな
目的は、西大台に利用調整地区を設置する「利
用適正化計画(案)」について協議して、関係者
の合意形成を図ることであった。
く西大台なのには理由があります。それは法律の
しばりです。法律では、原生的自然が残っていて、
利用者が増えることで破壊されるおそれのあると
ころに限っています。従って、すでに原生的自然
【何故、西大台なのか】
最初に霞ヶ関から臨席した環境省自然環境局国
立公園課公園計画専門官から、利用調整地区制度
について<制度創設の背景と経緯><制度の概要
がなくなった東大台は法律の対象にならないので
す。しかし、再生計画によって将来もし東大台に
原生的自然が回復すれば、その時は東大台も利用
調整地区になるでしょう。私達の願いは大台ヶ原
><利用調整地区における立入認定・許可><利
用調整地区設定までの手順き>などの説明があっ
た。
それに対して、上北山村漁業協働組合長から、
全体を利用調整地区にすることです。」
「いままで村であった地域説明会で聞いてきたの
は東大台の話ばかりで、今日突然西大台と聞いて
びっくりした。何故西大台なのか。将来東大台へ
広げるのか」と質問が出て、環境省統括自然保護
されず、過剰利用対策と誤解されている傾向は実
に強い。過剰利用による自然破壊がひどいために、
誰しも過剰利用対策と考えるのは無理のないとこ
ろではあるが、身近でも筆者の説明に納得しない
【法改正の理解の難しさ】
利用調整地区設置の法改正の主旨が正確に理解
人は何人もいた。わかってくれたのはごく最近の
ことである。だいいち、評価委員会においても、
利用計画立案に関わらなかった植物、動物担当の
2004 年 11 月に上北山村で 2 回目の村民説明会
を開いてからすでに 15 ケ月が経ったが、その間、 委員の中では、「東大台が先だ」と主張する委員
企画官が答えた。
が多く、正しい理解を得るために多くの時間を要
環境省が村民に直接説明していなかったのは事実
である。ただ、環境省が全く放置したのではない。 した。
新任の統括自然保護企画官等が村役場に足を運ん
奈良県山岳連盟から、「一日 160 人の利用者で
で、村の理解、協力を得る努力をした。その環境
省の努力の結果、地域振興課などの理解が深まり、
協力が得られることになった。しかし、その努力
が組合長にまで伝わっていなかったのは残念であ
った。組合長の納得し難い表情をみて、筆者は蛇
本当に多いのか。何人なら適正なのか。大台ヶ原
は環境省所有地なので地権者がいなくてやりやす
い。やりやすいところからやろうという役人の思
惑を感じる」と鋭い質問が出た。筆者は「環境容
足を加えた。
「ご指摘は全くその通りで、長い間村の方々に説
量の確かな数字はない。確かに官僚がメンツのた
めにやるのかもしれないが、仮にそうであっても、
―7―
良いことをやるのであれば認めてもいいのではな
いか」と発言した。
因みに、古くは白井光太郎以来大台ヶ原とは深
して、市民にもわかるような手立てを考えるべき
であろう。
思い起せば、2003 年 9 月の最初の上北山村村
いつながりのある日本山岳会も委員を委嘱されて、
民説明会では環境省は全く説明しなかった。そこ
本部と支部が連携をとって参加することになり、
で、筆者が「ピエロにするのか」と怒った。翌年
当日は東京から篠崎 仁理事が出席し、斧田関西
11 月の二回目の説明会ではじめて環境省は説明
支部自然保護委員長が傍聴した。
【住民・関係者に対する資料と説明】
環境省はこの会議のために、西大台地区の<自
然の概況><自然環境の現状と課題><利用の状
に立ったが、後半は検討委員に説明させる形にし
た。環境省自身がもっと前面に立つべきであるの
に、何故後ろに引くのか疑問であったが、時の所
長が、官僚の住民相手の説明下手を承知のうえで
見事に演出したのかと今にして思う。そして、検
況><検討事項><適正化計画に向けた骨格的な
討委員のピエロは宿命か、とこの日も改めて思っ
考え方>など利用調整地区関係を含む 12 項目の
た。
資料と、他に参考資料 4 項目の合計 16 項目の膨
大な資料を用意した。初めてこの会議に臨む住民、
関係者のために膨大な元資料から抜粋、要約した
努力と的確さは評価したい。特に「西大台地区に
おける利用調整地区の指定について」は活字も大
きく、文章も簡にして要、官僚の優秀さを証明す
【「検討事項」はワーキンググループで】
「検討事項」とは多岐にわたる具体的事項であ
る。従来数回の評価委員会・部会でも決めずにこ
の協議会にゆだねられた。しかし、<論点 1.利
る秀逸な出来であった。しかし、残念ながら、秀
逸なのはその一枚だけで、あとは検討会向きの資
料そのままであった。
用の質の向上を図る方法>では出席者から具体案
は出なかった。また、<論点 2.利用の調整を図
る方法><論点 3.利用調整の実施体制>は、閉
会時刻を 30 分延長しても時間が足りなくて審議
議事は定番通り、環境省が資料を読んで出席者
が意見を出す形で進められた。出席者の理解を妨
げたのは会場のスピーカーの位置の悪さ、ハウリ
ングだけではなかった。事情を全く知らない地元
できなかった。
しかし、この三つの課題は具体的に過ぎて、協
議会の場でまとめるのは無理である。環境省で決
めるか、小人数のワーキンググループで担当を決
住民が、日常生活でなじみのない資料を初めて渡
されて、お役人の固い説明を理解できるほうが不
思議である。理解できなくていらいらしたり、だ
らけたりする姿が見受けられた。
めて具体的に作るかしかない。その上で、次回協
議会に提案しなければ、このままでは何回協議会
を開いても決まらないであろう。
環境省が配慮した努力は認める。しかし、検討
会の類は経験豊富であっても住民説明会はいささ
か経験不足ではないのか。「市民参画」「情報公
開」のために、更なる工夫を望みたい。市民は検
【総論において合意形成成功】
決めるべき具体的事項の殆どを先送りしたとは
いえ、23 名の出席者全員が西大台に利用調整地
区を設置する「利用適正化計画」に総論において
討会・審議会に提出されるような科学的数字の羅
列は要らない。数字をわかりやすい言葉にした説
明がほしい。官僚が市民を蔑視していることは充
分承知しているが、本当に「関係者の合意形成」
賛成を表明し、合意形成が図れたのは成功であっ
た。特に、上北山村議会総合開発特別委員会委員
長が「参加していきたい」と賛成を表明された意
味は重く、嬉しかった。率直に言って、理解不足
を望むのであれば、所謂「官僚的」な発想から脱
に基づく異論・反論の頻発を心配していただけに
―8―
紛糾もなく合意形成を図れたことにほっとした。
しかし、多くの出席者にとって資料が初見であ
ることもあって、総論賛成にしても各論には疑問
あったが、西大台は環境省自身が「登山道」と規
定して「積極的には整備しない」と言ってきたと
ころである。利用調整地区に指定されれば、当然
が残ったかもしれない。次回の協議会では、でき
れば環境省原案を事前に、出席者に送付して勉
強・準備をしてもらっては如何であろう。より強
い合意形成が図れるのではないか。
更に厳しく規制されて然るべきである。利用調整
地区に指定されれば、あとは安心して環境省に任
しておけばよいと考えていたが、これでは安心な
どしておられない。環境省の整備計画を注視しな
ければならくなった。
【西大台の施設整備と公認ガイドの養成】
今回、構成員公募に応募した個人と NPO の二つ
のガイド組織から期せずして歩道整備要請の発言
一方、中高年登山ブームに便乗した自称プロガ
イドによる遭難事故が各地で続発して放置できな
があった。筆者は、環境省の管理計画には積極的
な施設整備は行わないとなっているので歩道整備
はしませんよ、と発言して後は環境省にゆだねた
が、環境省は『管理計画』を見ながら、「全くし
い状況になったため、北海道、東京都、長野県、
屋久島などでは罰則付きの条例を作って厳しい規
制をかけてきた。大台ヶ原においても、県か村で
公認プロガイドを養成することが急務である、と
ないということではない」とつぶやくのには驚い
た。役所の法令には逃げ道と解釈の幅が用意され
ているのは誰でも知っている。そんなことではな
くて、西大台は wilderness area として保存す
筆者は以前から言ってきたが、早速とりかかって
ほしい。
るのだ、と環境省に毅然として答えてほしかった
のだ。
管理計画の保全方針には「この地域に多数の利
用者が入りこむことのないよう、積極的な施設の
責任を果せ】
環境省は、予約者に事前レクチャーを実施する
という。ぜひ、VC(ビジターセンター)を使って
義務化してほしい。ところが、奈良県は VC の現
整備はおこなわない。」と明記されている。実際
に、逆峠を少し整備したくらいで、ほとんどの歩
道は整備されていない。歩道が整備されていない、
道標も建っていない、だからこそ、今日まで西大
在の態勢は手一杯だという。となれば環境省自身
が張り付かねばならない。本来そうあるべきで、
本会は従来、VC には環境省職員が常駐すべきだ
と言ってきた。昨年度から環境省の予算による派
【環境省は住民やボランティアに任せずに主体的
台の「原生的な雰囲気」が保たれてきたのである。 遣職員 2 名が配置されて利用者指導業務行ってお
り、アクティブレンジャー2 名も採用された。い
ずれにしても、環境省が予算措置をした職員が事
今後プロガイド組織が、入山料をとったのだか
前レクチャーに専念してもらいたい。
らと客の歩きやすさ、安全性を環境省に対して求
この会議の冒頭でも発言したが、利用調整の目
めてくる可能性がある。また、利用調整地区にな
的は入山者数の規制と教育の二つである。教育が
れば、それを“付加価値”にして有料ガイドツア
ーが増えるかもしれない。それに対して環境省は、 不充分になればこの制度は堕落し、瓦解するであ
ろう。
利用調整地区の入山者には自己責任を求めている
のであるから、毅然として、基本姿勢である原生
的雰囲気の維持を貫くべきである。
また、この制度が実施されれば、受付業務と同
様に、「入山後の巡視、指導体制」が必要になる。
東大台の周回線歩道は環境省が「自然観察路」
ところが、協議会委員に委嘱した「公園利用
と規定しているために本会は大目に見たところも
の管理・巡視実施者」はボランティアである。ボ
―9―
ランティアでは責任がとれない。この制度は今更
言うまでもなく、国の業務である。入山許可は環
境大臣が与えるのである。国の責任において行う
少の失敗、試行錯誤は避けられないが、だからと
言って基本的な責任から逃れることは許されない。
この事業は絶対失敗してはならないのだ。
本邦初演の大事業である。勿論市民の協力抜きに
は成功しないが、教育、指導の最前線では責任の
ある環境省職員が職責を全うすべきである。制度
だけ作って後は住民・ボランティアで宜しく、で
次回協議会は 3 月 26 日に吉野町中央公民館で
開催される。多くの市民が参加することを願う。
2006 年 2 月 28 日
田村 義彦
は済まない。全国民、全世界が注視している。多
第二回西大台地区利用適正化計画検討協議会行われる
利用適正化計画は総量の規制と質の高い利用の両輪ですすまなければ意味がない!!
3 月 26 日(日)吉野町中央公民館において表
るクライマーは事前の申請が必要です。帰路の植
記協議会を傍聴してきました。第一回協議会で総
論において賛成、合意形成ははかられましたが、
多岐にわたる具体的事項をまとめることは出来ず、
今回の会議に下記 6 項目の計画素案が提示され、
生への影響は小さいかもしれないが特別扱いは如
何なものか、という意見もありましたが、クライ
マーは少ないので昔からの細い踏み跡をたどる帰
路の植生への影響は心配ないだろう、と本会会長
協議されました。(太字は素案より抜粋)
1)利用調整を行う地域
2)対象とする期間
3)利用人数の適正化の方法
4)利用方法に関
する規定
5)管理運営体制
6)モニタリン
が説明しました。
区域に関しては大きな反対がなく、素案に合意
が得られました。
グ
2)ドライブウェイ開通期間・年度ごとに定める。
冬季に利用を調整する必要性はない。
1)西大台地区の核心的な自然環境を有する地区
450 ヘクタール。特別保護地区かつ環境省所有地。 3)利用人数の適正化の方法については環境省の
地元から、最近利用者の増えている三津河落山
を含むドライブウェイ北側も含めよという意見が
出ました。「利用調整地区の真中をドライブウェ
イが走っている状況では指定になりません。経ヶ
理念がハッキリしていない為 総量規制かピーク
カットか?会長が所長に環境省の態度表明を迫り
ましたが、所長は明言を避けました。村は総量規
制には反対のようです。多くの人に西大台を知っ
峰から先を車両乗り入れ規制にすれば、理想的な
利用調整地区になります。世界に誇れますよ」と
会長は話しましたが、ドライブウェイを閉鎖して
大台ヶ原全山を利用規制すれば、それこそ世界に
て欲しい、来て欲しいというのが地元の偽らざる
気持ちでしょう。奈良県山岳連盟の「ピークカッ
トでいいのなら、土日の規制で充分だ。税金の無
駄遣いだ。」との優れた意見がありました。その
誇れる山になるでしょう。実務段階に来てこの論
議は出来ませんが、大事なことです。
他多くの要望、発言がありましたが、環境省はあ
えて総量、人数の上限については結論を急ぎませ
んでした。今後の重要な課題です。
東ノ川右岸が境界になり、車道(大台ヶ原ドラ
イブウェイ)、歩道(筏場道)、沢(東ノ川)が
除かれました。千石嵓、中ノ滝、西ノ滝を登攀す
―10―
が必要とあります。また西大台の自然や利用のあ
平成 17 年度(4/28∼11/31)総入込み数:5016
人、一日平均:24 人、一日最大入込み数:169 人、 り方など地域に関する理解が不可欠とあります。
ガイドの質もレクチャーの内容も最重要課題なの
100 人を超えた日は 9 日間(データーより)
利用調整が周知されれば、西大台への注目度も
上がり、入込み数が 100 人を超える日は増える可
能性が大きくなるのではないでしょうか。それは
喜ばしいことではありません。総量を規制し、入
です。
山を待ってもらうことが望ましいと考えます。利
用者は待てるはずです。利用者の質の良し悪しを
何処で判断するのか?案内する者としては来る者
を拒むことは出来ない、というNPOからの発言
きました。本来は自由な精神活動であるべき自然
とのふれあいです。しかし、人間の身勝手な行動
から自然を食い潰してきたことを改め、利用者全
てが不便さをもって原生的な自然のあるがままの
残念ながらドライブウェイ開通以来過剰な利用、
整備によって貴重な原生的自然が損なわれ続けて
姿を守り後世に残そうという取り組みは誇れるも
がありましたが、質の悪い利用者を入れては困る
のです。それが西大台の利用適正化計画であると
のです。例えば、ある登山団体が 100 名、数班に
考えます。
別れ代表者を別名で申請したとします。この団体
村から学校の集団登山への配慮も検討すべき、
の質はどうでしょうか?私は良くないと考えます。
利用人数の適正化の理由として特定の時期に集中
して入り込むことによる踏み荒らし、歩道の複線
化等が問題である他、マナーの徹底等が課題であ
り、西大台の豊かな自然を体験するにふさわしい
との意見がありました。子供達の経験は最も重要
なもののひとつと考えます。彼らこそが未来なの
です。しかし、学校教育における集団行動をここ
に当てはめてはいけないと思います。彼らにこそ
静寂性が確保され、自然環境への影響の生じない
利用密度に誘導する必要がある。
少人数での豊かな経験を踏ませてやって欲しいも
のです。
4)素案では認定書(入山許可証)を郵送すると
5)受付の方法:自治体、関係団体、NPO、地
なっていますが、レクチャーを義務化すべきです。
認定書を手にしたら誰が面倒なレクチャーを受け
たがるでしょうか。所長が「受付体制がとれな
い」と言い訳をしたが、本来 24 時間体制を取る
区代表等の組織が指定認定機関として管理運営
6)大台ケ原自然再生推進計画の「新しい利用の
あり方推進」の取り組みとして実施するものであ
る
べきです。それができないのなら計画はやめた方
が恥をかかずにすみますよ。日本で初の利用調整
地区の設定にかける意気込みをまだ感じることが
出来ません。
内容が多岐にわたり、充分な論議ができず、結
論は先送りされました。
次回協議会は一ヶ月ほど先になるようです。環
境省にとって初めてのケースとなるだけに、未経
地元のNPOから「中高年にとってガイド資格
取得は厳しいので、甘くみて欲しい」という意見
が出ました。気持ちは理解できなくもありません
が正直情けない思いがしました。山岳ガイドを甘
験の素案作成は大変でしょうが頑張っていただき、
協議会構成員の皆様には知恵を出し合ってもらい
しっかりしたものを作っていただくよう祈念して
傍聴をおわりました。以上報告を終わります。
く考えないで欲しいです。命にかかわる仕事なの
ですから。机上の知識と現場での経験双方をもっ
た名ガイドの集団になっていただきたいと思いま
す。未整備のガイド制度については、一定の期間
2006 年 3 月 28 日
河内由美子
―11―
語るに落ちた話・ニ題
この会議では、暗澹たる思いにさせられたエ
ピソードがあった。
遣職員が 2 名勤務している。また、毎日ではない
にしてもアクティブレンジャーも 2 名働いている。
【その一】
奈良県の担当者から「この場で自然保護団体と
同じ様に初めて素案を見せられた。素案に<ビジ
従来は県の職員が 3 名いたが、奈良県の業務だけ
で手一杯で、環境省の業務は何もできていない、
と県自身から公式の席で説明を聞いた。“展示業
務をしている”と力説するが矛盾する。“展示事
ターセンターにおいて>とか、<ビジターセンタ
ーを中心に>とか出てくるが、事前の話が全く無
い。ビジターセンターは確かに環境省の財産であ
るが、フロアーは奈良県が借りて展示事業を行っ
業”と力むが、利用者が勝手に展示物を見てきた
だけであろう。その展示物改装が現在環境省の直
轄事業として検討が進められている。また、目の
前の駐車場でペットが走り回っていても、ワゴン
車に倒木が運びこまれていても、注意する姿はつ
ている。県は山を下りろというのか。」と言う発
いぞ見かけたことがない。
言があった。店子が大家に文句を言っている妙な
話であるが、言い分は簡単で、事前に根回しをし
本会は永年、環境省職員のVC常駐を要望して
ろ、ということである。しかも、発言からすれば、
実はこれと似た話が昨年8月にあった。大台ヶ
きた。利用調整地区がスタートすれば、その必要
性は更に増すであろう。そもそもこの集団施設地
区は、本来国の所有になるべきものを、奈良県が
本州製紙に寄付をさせて県有地にして、3 セクの
原の筏場と大峰の前鬼で施設整備の現地説明会が
行われたが、その場で奈良県から、すでに環境省
によって削除されていた奈良県案の図面が突如参
加者に配布され、復活要求がなされた。私は驚い
山小屋、売店を建てたのである。あまり、胸をは
ってここは県有地だ、とは言えないはずだ。環境
省が積極的に自然再生推進事業をやろうとしてき
たこの際、県は国に寄付をして本来あるべき姿に
て、そのような行政同士の話は別のチャンネルで
やってもらいたい、市民の前でやられても困る、
と言った。
戻してはどうか。
同じ感覚だ。環境省に事前の根回しを要求する
のか、哀願するのか、ともかく事前に話をしてく
れと言うのであれば、市民の前でよりは直接やっ
てほしい。だいいちこのような繰り言を市民の前
環境省自然公園指導員でない女性が腕章を着けて
いるのを目撃して、本人に糺したところビジター
センターで借りたと言う。
環境省自然環境局長から委嘱されているこの業
で言うのはみっともないし、市民にとっては与か
り知らぬことだ。
務の腕章が、貸し借りできないことは今更言うま
でもない。自然公園指導員設置要綱によれば「指
導員にふさわしくないと認められる場合」は解嘱
されることになっているが、それに相当する事例
自然保護団体と同列に扱われたことが、いたくお
役人のプライドを傷つけたようである。
ところで、引き合いに出された自然保護団体と
【そのニ】
昨年、大台ヶ原で行われたある自然観察会で、
である。
して、すこし発言したい。県は“店子の権利”を
主張したいようであるが、ビジターセンターには、
昨年度から環境省の予算による受付業務を行う派
―12―
が、“地域振興”という名で装われた飽くなき利
この事例を引いて、利用調整地区の認定書が郵
送された場合は貸し借りされる可能性があるため、 益追求と非常識な状況で汚辱に潰えることのない
よう、構成員の自覚と環境省の毅然とした態度を
事前レクチャーを義務化してそのあとで認定書を
渡すべきだと筆者は提案した。ところが、以前ビ
ジターセンターに勤務していた人物が筆者に向っ
て、「そんな話を私は知らない。ここで言うこと
ではない。県か環境省に報告しろ。」と言った。
望む。
言われるまでもなく筆者はすでに、本年 1 月
20 日の奈良県主催の自然公園指導員連絡会議に
おいてこの事実をあってはならないこことして正
式に報告してある。環境省職員も同席していた。
協議会閉会の挨拶で、小沢統括自然保護企画官
が本会の名前を出して民有地買上げ当時の官民一
体となった運動を紹介したが、まことに時宜を得
た挨拶であった。
発言者は従来の民間人と奈良県職員を使いわけ
るので筆者は不思議に思っていたが、どの立場に
あろうとも、自分が知らないことを根拠に他人を
中傷するのは非常識の極みである。
当時は上北山村役場、上北山連合青年団、西原
青年団も本会前身の大台ヶ原の自然を守る会の団
体会員であった。その後 35 年の時を経て、観光
【環境省・住民・自然保護団体・山岳会など官民
一体で成果を】
発言者は、会議終了後、環境省職員から事実で
あることを教えられておとなしくなったが、筆者
には謝罪もせずに帰ってしまった。
地化とバブル崩壊の歴史のなかで、本会と村との
関係も疎遠化したが、再生計画を機会に再び共に
活動を進めることとなった。
本会はあくまでも自然保護団体として大台ヶ原
このような低次元なことで目くじらたてるのは、
いい歳をした老人として恥ずかしい思いもするが、
満座のなかで筆者を中傷した発言は、当然ながら
次回の会議で撤回させざるを得ない。これが中傷
の原生的自然の保存を第一義的に考える立場にあ
るため、地域振興に力点を置く村の立場とは必ず
しも同一ではないが、地域振興も大台ヶ原の原生
的自然の保存があって初めて成り立つものである
でなくて、何が中傷か。
ことを村の方々によく考えていただいて、官民一
体の運動が成果をあげるよう共に進むことを望み
たい。
2006 年 3 月 27 日
田村 義彦
元々32 名もの立場が異なる人々で構成される
協議会であるにしても、利用者のモラルの向上、
質の向上を目指す再生事業、利用調整地区事業の
前途多難を思わせる事例である。高く掲げた理想
―13―
2005 年日本山岳会自然保護全国集会報告(2005 年 4 月 9 日)
大台ヶ原のマイカー規制と利用調整地区実現をめざして
―― 羊頭狗肉の「大台ヶ原自然再生推進計画」 ――
環境省は 2005 年 1 月 18 日、直轄事業「自然
関西支部
田村 義彦
で作成された計画が便宜的に包含された。捕殺を
再生推進計画調査」に基づいて「大台ヶ原自然再
生推進計画」(以下、計画と略す)を足掛け 4 年
をかけて策定した。しかし、科学性に欠け、多様
な主体の参画が担保されていないために羊頭狗肉
裏付 ける説得力のある科学的データはなく、捕
殺効果の評価も行われないまま、既に 118 頭が捕
殺され、今後毎年約 50 頭が捕殺される。
・「利用」については、筆者は検討委員として参
の計画となった。
画して登山者の立場から提言した。従来、門前払
いを 受けてきた「マイカー規制」「利用調整地
区」「登山道の充実」「キャンプ指定地の設定」
などを本計画にリストアップすることができた。
◆環境省は自然再生事業の進め方について重要な
ポイントを二つあげている。一つは「科学的デー
タを基礎とする丁寧な実施」で、内容として「順
応的な事業実施」「人間は、自然の回復力の補助
者」「きめ細かな丁寧な手法」を謳っている。
本計画は、「森林」「鹿」「利用」の三分野に
しかし、環境省の“市民対策”のきらいがあり、
実現への熱意に欠ける。
分けられるが、
・「森林」については、確たる調査データの集積
がなく、しかもデータの評価を先送りしたため、
生態 系の現状分析と将来展望・仮説の構築に至
な主体の参画と連携」を掲げ、「実施に当たって
は、調査計画段階から事業実施、維持管理に至る
まで、国、地方自治体、専門家、地域住民、NP
O、ボランティア等多様な主体の参画が重要であ
っていない。事業計画を作ることが出来ず、7 タ
イプの条件設定によって発芽環境を調査する実験
計画を作るに止まった。ところが、その実験の一
部は、表層土の落葉層、腐食層を 30cm 以上剥が
る」としているが、本計画では市民の参画は担保
されていない。
本計画は、今後「基本計画」を決定したうえで、
実施段階に入るが、重点課題である「マイカー規
して播種する乱暴なもので、「自然の回復の補
助」「きめ細かな丁寧な手法」などに反する強引
な手法である。
・「鹿」については、自然再生検討会とは別組織
制」と「利用調整地区」の実現を目指して、真の
協働のために市民の参画と情報の共有を求め、全
力を尽くしたいと考えている。会員諸兄姉のご指
導ご鞭撻を乞う。
◆環境省は重要なポイントの二つ目として「多様
―14―
西大台利用調整地区の区域設定についてのアピール
―― 千石嵓・中ノ滝・西ノ滝の登攀者を無法者にしないために ――
西大台地区利用適正化計画検討協議会
奈良県勤労者山岳連盟 自然保護委員 島村 慶子様
奈良県山岳連盟 副会長
社団法人 日本山岳会 理事
(協議会構成員名簿順)
梅屋 則夫様
篠崎 仁様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会・日本山岳会 田村 義彦
環境省自然環境局国立公園課近畿地方環境事務所は西大台地区利用調整化計画を今月下旬を目途に策
定中ですが、その区域設定によって千石嵓・中ノ滝・西ノ滝と並ぶ一連の岸壁群を登攀するクライマー
と、千石尾根を帰路に選ぶ東ノ川遡行者が無法者にされる可能性があります。
現在の環境省案によりますと、東ノ川右岸北側・山上駐車場からシオカラ谷に至る歩道の西側が利用
調整地区に入り、千石嵓・中ノ滝・西ノ滝が含まれますのでこの岩壁群を登る登攀者が規制対象になり
ます。駐車場から下る登攀者、東ノ川を遡行してきた登山者に厳密に事前予約を求めるのであれば法的
整合性がありますが、監視体制が整わない現実からは実効性が疑われます。
方法を二つ愚考します。一つはこの一連の岸壁群を利用調整地区から除外することですが、登攀者の
帰路を含めて考えると地形が複雑で、線引きは不可能です。河合道南側まで除外すれば線引きは簡単で
すが、利用調整地区の面積が大幅に削減されて芳しくありません。
もう一つの方法はこの岸壁を登る登攀者を規制対象者から法的に除外することです。
勿論、これ以外にも名案があるかもしれません。利用調整地区の検討がはじまった時点で、この問題
を環境省に提起しましたが、環境省は現在、
「千石嵓のクライマー、東ノ川遡行者を規制することは難
しい」としています。
「難しい」とは、法的には非合法であるが黙認するというのか、合法扱いするの
か不明です。
一般登山者に厳しい規制を求めておきながら、登攀者を大目に見る、見て見ない振りをするのは整合
性に欠けます。理想を高く掲げて日本ではじめての事業を行う国の姿勢として首肯し兼ねます。登山を
精神的文化活動と認識して長く山を登ってきた一登山者として、若い登攀者をアウトローにしたくない
と同時に、国自身が毅然とした姿勢で理想実現に邁進することを望みます。
本アピールの賛否を別にして、環境省に対するご意見ご提言をお願い申し上げます。
2006年3月10日
―15―
西大台の防鹿柵は本当に必要なのか
西大台に防鹿柵は要るのか、という疑問が断ち
難く、河内さんを煩わして、まず、2003 年に経
的」を「シカによる実生および成木(母樹)の樹
皮の採食を防ぐ」ためだとしている。
ヶ峰の南に設置された防鹿柵を観察に行った。
位置は、西大台最深部のワサビ谷と高野谷の源
流部に位置する標高 1470m前後の台地状の尾根
の上に広く設置されていた。山上台地に 30 数箇
私達が見る限り「成木(母樹)の剥皮」はほ
とんどない。「鹿の剥皮を防がなければならな
い」根拠になる確かなデータはあるのか。また、
所ある防鹿柵のなかで、最大級の広大なものであ
る。2003 年度には、都合 8 ヶ所設置されて、
「合計の設置面積 16.48ha、設置延長 5190m、工
事費 1 億 8700 万円」と公表されているだけで
「シカによる実生の採食」を立証するデータはあ
るのか。
環境省の鹿生息密度調査では、防鹿柵は 4 つの
メッシュの交点に位置するが、そのデータはそれ
個々のデータはわからないが、翌 2004 年に七つ
池に設置された防鹿柵が、「設置面積 4.06ha、
設置延長 1286m、工事費 5021 万円」であること
と比較すれば、こちらの方が大きいので多分 6 千
ぞれ、0.4 頭、0.5 頭、2.9 頭、4.7 頭で、平均
2.1 頭。1平方キロに鹿は、2 頭しかいないので
ある。林床の広い範囲がミヤマシキミに覆われ、
ミヤコザサが生育していないこの場所に、果たし
万円はかかったのではないか。道路公団の副総裁
が税金を無駄遣いして逮捕された金額は 5 千万円
である。
て鹿が餌を求めてやって来るのだろうか。「成木
樹皮」は鹿の主食ではない。
昨年のニホンジカ保護管理検討会で、「西大台
地図上の計測で、延長概算 1400mと思われる
防鹿柵に沿って一周して観察した。柵の内外には、
ブナ、ミズナラ、ヒノキ、トウヒ、ウラジロモミ
などの巨木が林立する見事な原生的自然であった。
はスズタケの枯死で餌不足になって、東大台の密
度が増えている。」と、したり顔でこじつけられ
たが、それなら、西大台の防鹿柵は要らないはず
だ。また一方では、「東大台に設置された防鹿柵
林床にはミヤマシキミが地表を覆い、スズタケの
姿はなかった。大台教会の田垣内氏は「ここはも
ともとスズタケの少い場所だ」と言う。鹿の剥皮
痕が針葉樹の数本に見られたが、すべて瘢痕形成
によって鹿は西大台に逃げて来るから予防措置
だ」とも言う。一体どちらが本当なのだ。科学的
に確かなことがわからないまま、巨額の税金を遣
っていい加減なことをしないでもらいたい。なぜ、
をした古いものであった。鹿の糞が柵外の斜面で
僅かに見つかっただけで、鹿道も、姿も、声も、
なかった。
大台ヶ原自然再生推進計画では、7 つの植生タ
自然の摂理にゆだねることができないのか。
登山道から遠く離れ、ドライブウエーに近いに
も拘わらず何故か車の音が全く聞こえず、つい声
をひそめて話してしまうような静寂に包まれた原
イプに分けているが、何故かその場所が明示され
ていないので想像するしかないが、多分この場所
は「Ⅶ ブナースズタケ疎」に対応する場所では
ないかと思われる。そして、その場所の「考えら
生的自然は、正に近い将来「利用調整地区」の指
定を受けるにふさわしい場所である。その場所に、
グロテスクな人工物があることで、指定の阻害要
因になりはしないだろうか。また、利用調整地区
れる阻害要因」は「シカによる実生の採食、成木
(母樹)の剥皮」だとして、「「防鹿柵設置の目
に指定されたあかつきには、原生的自然を損なう
この人工物は撤去されて然るべきだ。
―16―
ドライブウエーの近くで、植物の盗掘跡らしき
ものと、斧で削って昆虫の幼虫を取り出した古木
を見た。原生的自然の中で防鹿柵同様、人間の身
勝手さを見る思いがした。
2005 年 7 月 31 日
田村 義彦
「鹿捕殺と笹刈り」で大台ヶ原の自然再生はできない
―― 日本森林学会シンポジュウム「野生動物と人との共生を考える」 ――
2005 年 11 月 19 日にウイングス京都で、日本
森林学会関西支部一般公開シンジウム「野生動物
まであったが、ようやく近々書き直されることに
なった。研究者の将来予想はかくも曖昧なもので
と人との共生を考える」が開催された。文部科学
省が研究成果公開促進の補助金を出して、学者研
究者を象牙の塔から市民の中に出すことを試みる
ことには意義があるが、シンポ参加者のほとんど
ある。
は学会関係者で、残念ながら一般市民は少なかっ
た。また、市民の質問も的外れな自己顕示で、演
者らの市民蔑視を増幅する結果になったであろう。
「合意形成」のためには、研究者はまず、真実を
代の周辺自然林の拡大造林によって、山上台地に
ミヤコザサが拡大し、そのためにシカが増えて森
林を衰退させていった(その間の経過はここでは
省略する)、という。そこで、防鹿柵の中に 20m
今更繰り返すまでもなく、演者は、1959 年の
伊勢湾台風、61 年のドライブウエイ開通、60 年
公開すべきであり、市民にはそれを正確に理解し、 ×20mの実験区を作って実験し、そのデータか
らシミュレーション・モデルをつくった。要約す
批判する能力、努力が求められる。このままでは
ると、シカとササは平衡状態にあり、あちら立て
「合意形成」も「市民参画」は道遠し、である。
ればこちら立たない状態にある。従って、シカを
基調講演で森林総合研究所関西支部(以後、森
林総研と略す)のH氏が「シカの個体数管理から
森林生態系管理へ」と題して、大台ヶ原の実験報
告をした。実は、この報告は 2002 年に発表され
捕殺しながら、ササ刈りを毎年繰り返すしかない、
と言う結論に達した、という。
たもので、2003 年 10 月に森林総研が京都で市民
向けに開催したシンポジウムでも説明されていた。
(自然保護ニュース№57「研究発表会という名で
行われた鹿殺しキャンペーン」)
遊びで現実性はない」と感想を述べたが、演者は
認めた。認めたのは合意ではなく反論が面倒なだ
けである。何故か農水省関係の役人には共通した
傲慢さがある。
ともあれ、その後3年間の研究で新しい知見が
追加されていることを期待したが、「大台ヶ原自
然再生推進計画」から写真、資料を援用するだけ
で、鹿を殺しながら笹刈りを続ける、という結論
また、フロアーから「シカとササのバランスが
とれている(平衡状態)のであれば、いままでシ
カを殺した意味は何か」「シカは増えすぎたらク
は同じであった。ただ、2年前には、「あと 20
年で大台ヶ原の森は消える」と市民を煽ったが、
その後に策定された再生計画の「100 年先を見す
えて」と整合性に欠けるので「20 年」はとり下
ラッシュを起すのではないか」との質問が出たが、
意味不明のことを言うだけで、まともな回答はな
かった。
また、フロアーから「演者が森林衰退の原因の
げていた。「大台ヶ原の森林はすぐ消える」と脅
す看板が 15 年ほど前に大台ヶ原に立てられたま
一つとした<観光客の影響>について説明がない。
観光客を止めることの方がササを刈るより効果的
―17―
筆者は、フロアーから「所詮、研究者の実験の
ではないか。ササ刈りの現実性は?」という質問
に「観光客の影響のデータはない。ササ刈りはボ
ランテイアがやりたがっている。」と答えた。
て、木の進入を防いでいると、筆者は 18 年前に
会報 No.42 に書いた。
演者はこれらのやり取りにうんざりしたのか、
最後に、いささかの躊躇をみせながらも、遂に本
音を言い切った。曰く「ササが無かった所は表層
基調講演のあとで、同じ森林総研の研究者がコ
メンテーターとして「ギャップ」について説明し
た。そのなかで、大台ヶ原自然再生推進計画で使
われている「植生現況図」をつかって正木ヶ原、
土を剥がしてササを根絶せよ。」よく言ったもの
だ。さすがに、国有林を皆伐して荒廃させた林野
庁関係者である。自然を私物化して省みない傲慢
さは昔のままだ。「生物多様性の保護」「野生動
牛石ヶ原、三津河落岳のミヤコザサ群落をギャッ
プのためとしたので、筆者は「三津河落岳は皆伐
跡地、正木ヶ原、牛石ヶ原は江戸時代から笹原で
あって共にギャップのせいではない」と発言した
物と人との共生」を謳いながらササとシカを根絶
した大台ヶ原が彼等の理想郷なのであろう。いか
に、無知蒙昧な市民でもこれを肯定することはで
きない。
が、反論はなかった。素人の市民を相手にしたシ
ンポとはいえ、曖昧なことを言って、笹を悪者扱
いするのは如何なものか。近年、役人・研究者は
「生物多様性」を水戸黄門の印籠のように使うが、
それを口実に特定の種を排除する矛盾には触れな
ササ刈りの「現実性」とは広い面積での技術的、 い。かつて“極相林”を宝物のように言った平衡、
調和、秩序を重視する古典生態学よりも、ギャッ
物理的荒唐無稽もさりながら、それ以上に、毎年
プで説明される撹乱、不均一、変動の生態学のほ
ササを刈り続けることが、どうして原生的自然の
再生になるのか、という問いなのであるが、演者
は答えなかった。演者は「シカの増加、森林の衰
退をもたらしたのは自然現象ではなく人間活動の
影響である。即ち人災である。だから、人間には
うが説得力があると筆者も考えるが、この例示は
新しい生態学の説明としては適切ではないであろ
う。現在大台ヶ原では、いかがわしい御用学者に
よって「ササが増えてシカが増え、ササとシカが
それを修復する義務がある。」という。この台詞
は自然再生肯定派が必ず口にするが、「人災」へ
の反省ではなく、人災を逆手にとった再生事業正
当化の詭弁にすぎない。シカとササを排除した大
森林を衰退させている」という単純な説明でササ
とシカを犯人扱いしているが、極めて恣意的で非
科学的である。
台ヶ原が、目指すべき原生的自然の姿だと思う市
民はいないであろう。市民の共有財産である大台
ヶ原で、研究者面をした役人が税金をつかって実
験データを作り、それをコンピューターにほり込
もう一つの基調講演は兵庫県の熊の報告があっ
た。紙面の都合で省略するが、コメンテーターの
京都大学農学研究科の高柳 敦氏の示唆に富むコ
メントを記しておきたい。メモ書きなので、不充
んで、戯言を言ってもらっては困るのだ。人間が
贖罪のためにいま為すべきは、人工を排して自然
にゆだねることである。仮に大台ヶ原の森林が消
え、笹原になったとしても、それを人間の愚かさ
分、不正確であると思われるが訂正を乞う。
☆科学的情報の不足
・シカの影響が少なかった昔が正しい自然と
は限らない。人間は勝ち過ぎていた。
の結果として受け入れるしかない。変化していく
自然に、草刈機で立ち向かう愚劣さに気付かない
のであろうか。ドイツのリューネブルクハイデ国
立公園では、ヒースを「人間が犯した自然破壊の
・シカの適正頭数は不明。捕獲では効果は期
待できない。特定のホットスポットの防除が
必要。
☆市民参加による合意形成
シンボル」として保存することを最重要目標にし
・管理手法は目標を決定しない。
―18―
・専門家は管理目標を決定できない。
・行政が関係者(被害者、加害者、狩猟者、一
般市民など)の合意の下に、管理目標を決める。
☆長期ビジョンの共有
・モニタリングをしっかりやる。市民からの正
確な情報が必要。
因みに高柳 敦氏は 1979 年創立の「ノンスポ
ンサード・ボランテイアグループ」「かもしかの
会関西」の代表者でもある。来年のシンポでは、
研究者でかつ市民活動家でもある高柳氏にぜひ基
調講演を望みたい。それこそが、シンポ開催の趣
旨に沿うであろう。森林総研の市民を愚弄するデ
マキャンペーンはこのあたりで御免蒙りたい。
2005 年 11 月 21 日
田村 義彦
本当に、西大台のブナを鹿が枯らしたのか・・?
――
西大台の原生的自然に手をふれるな!
――
たとは思えない。演者の説明が、「鹿が西大台の
2005 年 7 月 2 日∼3 日に福島県只見町で「世
界ブナ・サミット 2005 in ただみ」が開かれた。 ブナを枯らした」と聞こえたので、初めて聞くそ
河野昭一京都大学名誉教授(国際自然保護連合
生態系管理委員会・東北アジア担当副委員長)が
永年培った人脈で、米国・ドイツ・韓国・マレー
シア・中国・日本のブナ研究者を招待して、先生
のショッキングな内容に驚いて、隣の席に座って
いた知人の京都のある大学の教授に向かって思わ
ず声を上げた。「え!本当ですか!」
の研究のフィールドである只見町の主催で開かれ
た。2 日は講演会とパネル討論、3 日は研究者、
住民、子供達が参加して現地のブナの観察会を行
われた。300 名を越える参加者が集まり大成功で
◆ なぜ、「樹木」の死亡率が上がったのか?
スライドの内容は「木の密度」1986 年:657/
0.8ha、1991 年:619、1996 年 555、2001 年:476
と減っている。「死亡率」が 1986 年:1.2%、
あった。
◆ 樹木かブナか?
講演とシンポの内容について詳述することは紙
1991 年:1.2、1996 年:2.2、2001 年:3.0 とな
っていた。演者は「死亡率が、1.2 が 2.2 になり
3.0 になることは僅かなことと思うかもしれない
が大変なことなのだ。」とフロアーに向かって言
面の都合で次の機会にゆずるが、演者の一人が
「日本のブナ林とその保全」と題して発表し、そ
の中に大台ヶ原が出てきたが、その内容に驚いた
ので報告する。
ったが、「大変な理由」を一言も説明しなかった
のが奇妙に印象に残った。数字の絶対値よりも死
亡率の増加の原因が重要なのではないのか。それ
を説明しないとフロアーは何も理解できない。
会場で撮影してきたスライドを今見ると、タイ
トルは「樹木の密度変化」となっている。会場で
私はこの「樹木」を「ブナ」と理解したが、残念
ながらテープにとっていないので確かなことは言
スライドには「1991 年まではササの存在によ
り新規加入が少なかった。」「1991 年以降はニ
ホンジカにより死亡率が高まると同時に加入も少
えない。何故「ブナ」ではなく「樹木」なのだと
今になって思う。演題のテーマはあくまでも「ブ
ナ林」であったのだから、私の聞き間違えであっ
なくなった」と書かれていた。鹿が「樹木」を枯
らしたと言うことなのだ。しかし、スライドには
確かに「ブナ」とは書かれていない。同時に「樹
―19―
木」が何であるとも書かれていない。
◆ 環境省の調査・・・「枯死・倒木の増加率」
れないが、西大台で鹿がブナを枯らしたという結
論はこの検討会では出していないと、私は認識し
ていた。それだけに、先に書いたように、演者の
6年間で 0.5%、剥皮も増えていない
数字にこだわってあまり言いたくないが、環境
省の調査(平成 16 年度第 2 回大台ヶ原ニホンジ
カ保護管理検討会資料)によれば、ドライブウエ
発表を聞いて驚いて声をあげたのだ。
ー南側の 3 地点で 202 本の樹木について、1999
年から 2004 年まで 6 年間の「枯死木、倒木の割
合(%)」の「年平均増加率」がそれぞれ 0.7、
0.4、0.4 である。3 地点平均 0.5%。これは勿論、
のデータが検討会に提出されたこともない。とこ
ろが、環境省は西大台に 2 ケ所、大きな防鹿柵を
一昨年と昨年に設置している。一つは 5 千万円か
かっている。理想的な生息密度以下の状態で鹿が
◆ それなのに、なぜ、防鹿柵を?
この演者は検討会のメンバーではないし、演者
生息する西大台に、多額の税金を遣ってまで何故
寿命、病気、台風などの原因と鹿を区別していな
防鹿柵が要るのか。
い数字である。鹿のいない森の対照の数字が記さ
れていないが、6 年間で 0.5%増えたからと言っ
既に設置されてしまったが、昨年の検討会で、
て、鹿が森を枯らしていると言えるのであろうか。
また「幹被害の割合(%)」は、0.0、0.0、
ある委員から「鹿の密度が下がれば防鹿柵を撤去
すべきだ」と発言があったのを鮮明に記憶してい
る。本来であれば撤去されるべき防鹿柵である。
鹿を単純に物理的に排除して事足れりとする発
0.7 である。この数字が示すように、剥皮がこの
6 年間増えていないとすれば、鹿は剥皮以外のど
のような手段で樹木を枯らしたのであろうか。だ
いいち、鹿はブナをかじらないといわれている。
想は、生物多様性の保全を目指すからには間違っ
ているだろう。確かなことはほとんどわかってい
ない状況で事を為そうとするからには、多少の試
行錯誤はやむを得ないとしても、無駄であったと
◆ 西大台の鹿の生息密度は理想的
環境省は 1k ㎡のメッシュを作って鹿の生息密
度を調査した。ドライブウエー南側の 6 箇所のメ
わかった時、殺された鹿の生命は戻ってこない。
人間に対してすら責任を取らない役人とそれに関
わる研究者は、鹿に対して責任を取るはずもない
が、生命の意味において人間も鹿も同じであろう。
ッシュでは 0.4 頭∼5.4 頭(/k㎡)で、平均
2.85 頭であった。特定鳥獣保護管理計画では理
想的な生息密度を 3 頭∼5 頭としているが、それ
以下の数字である。西大台では理想的な密度で鹿
◆ 責任を取らない役人
演者は最後に、これから「どうすべきか?」に
ついて「残っている原生林は全部残す」とおっし
これくらいの変化は自然に在り得ることではない
のか。
が生息しているのである。それでも、森を枯らし
た犯人だというのか。
2001 年から発足したニホンジカ保護管理検討
ゃった。林野庁出身で拡大造林政策で全国の木を
切ったと自らおっしゃる演者にこう言われても、
白けるだけだ。責任を取らない役人にお教えいた
だかなくとも、納税者の住民は、役人が切り残し
会には多くの調査データが資料として提出されて、 た森を何とか保全しようと努力している。
それに基づいて検討、論議された。足掛け 4 年間、
いま、大台ヶ原の山上台地に追いやられて、森
私はすべての会議を傍聴し、発言もしたが、本会
林破壊者の汚名を着せられ、毎年殺されている鹿
HP に何度も書いたように、資料の数字の信憑性
に全く興味を失っていたので聞きもらしたかもし
の中には、林野庁が大杉谷の国有林を皆伐したこ
―20―
とで追い上げられてきた鹿もいるはずだ。大台ヶ
原の原生的自然を衰退に追いやっている元々の原
因は拡大造林計画を煽った国・林野庁ではないの
はない。下生えの多い日本海型のブナ林に比べて
暗くて下生えの少ない林相は、何も鹿の食害が喧
伝されるようになってからのことではなく、昔か
か。
らである。演者は西大台に 20 年通っていると強
調するが、私達は 30 年以前から、西大台に入る
たびに、ブナの稚樹が少ないのを見て、これで森
は続くのかと心配してきた。すべてを鹿のせいに
◆ 利用調整地区・西大台の原生的自然に余計な
手を加えるな!
演者はまた「更新に失敗した場所の実態を調べ、 して、学際的研究をしない環境省と研究者は最も
非科学的であり政治的である。
できるだけ速く再生する方法を探る」ともおっし
ゃる。お願いだから、「西大台のブナ林が天然更
◆ ブナに寄生したゼイキンクイムシ?
新能力を失っているから、人工的な再生手法が必
シンポが終りに近づいたとき、隣席の大学教授
要だ」などと、早まったことを言わないでもらい
からメモを渡された。
たい。すでに、不必要な防鹿柵の場所を指示した
「カナダではブナにカイガラムシがついて困っ
とはいえ、これ以上余計なことはしないでほしい。
ていると発表されたが、日本のブナ林にも病害虫
西大台はやがて利用調整地区に指定される。そ
のためには原生的自然に絶対に手を触れてはなら
ない。
◆ ほとんど確かなことがわかっていない
がいることが発見された。その名はゼイキンクイ
ムシ(税金食い虫)。この虫に効く薬はあるの
か? ある! 市民が目覚めること。」と記され
てあった。
スズタケが何故枯れたのか?一斉開花枯死説は
俗説として環境省も研究者もとりあわない。鹿が
食べたと言う。大台ヶ原に詳しい住民は鹿はスズ
タケを食べないと言う。正確なことは何もわかっ
その夜の懇親会では、ドクターストップの酒を
痛飲したが、何故か倒れることはなかった。
ていないのだ。演者の別のスライドには西大台の
スズタケ減少の写真があったが、減少の原因が書
かれていないのは何故だろう。
翌日、ブナの観察会で 5mの豪雪に耐える日本
海型ブナに逞しさに衝撃を受け、その翌日尾瀬に
入って圧倒的な原生的自然に再び打ちのめされた。
教授が言われるようには市民が目覚めることのな
ブナ林は乾燥と温度上昇で簡単に消えるという
学者がいる。周辺の原生林が皆伐されてコアが露
出した状態で、大峰山系からの西風に曝されてい
る西大台のブナ林が、その視点で調査されたこと
い日本で、ブナ林がゼイキンクイムシの感染から
癒えるときはいつ来るのだろうか。
2005 年 7 月 18 日
田村 義彦
◆ 圧倒的な原生的自然
―21―
残された自然の保全を優先し
――
何もせずに自然にゆだねるべし
羊頭狗肉の「大台ヶ原自然再生推進計画」 ――
2005 年 2 月 26 日 第 34 回総会において
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
要 約
環境省は自然再生推進法ではなく直轄事業「自然再生推進計画調査」として「大台ヶ原自然再生推進
計画」を策定した。自然再生事業の前提になる「失われた自然」の分析、記述はなく、「複合的要因」
が列記されているだけで、その相互関係も解明されていない。「再生すべき目標」も曖昧である。生態
系を壊すことはできても作ることのできない現代科学の限界と破綻を思わせる。
・ 森林再生計画は天然更新を非科学的に否定し、調査データの評価を恣意的に先送りして表層土を除
去した乱暴な実験に走っている。
・ 鹿捕殺計画は樹木枯死との因果関係の立証、捕殺効果の評価ぬきに予定通り実行する。
利用対策計画は市民篭絡のきらい濃厚であるが、官僚が「マイカー規制」と「利用調整地区」の実現に
どれだけ誠意をもって臨むかが試されるところである。
当初危惧された通りの「再生ありき」とばかりに強引で乱暴な巨大土木事業の展開を予見させる危険な
計画である。
KW:大台ヶ原・自然再生事業・生態系・野生動物管理・人間/自然中心主義・保全生態学・自然再生
計画
2002 年 11 月に検討会が発足した「大台ヶ原自
然再生推進計画」(以下、再生計画と略す)が
的知見が、大台ヶ原での問題提議を、真の自然保
護を訴えるための、各方面への大きなうねりとし
2005 年 1 月の自然再生検討会で承認、決定され
た。足掛け 4 年、環境省は手の込んだ手法を使っ
て難解で特異な再生計画を作った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
てくださることを願っています。」と訴えた。
【Ⅰ】「大台ヶ原自然再生検討会」
の難解で特異な経緯
1.当初、環境省は官民一体で「マイカー規制」
民・市民、NGO/NPO、企業・事業者をも含
む広範な主体の英知により、十分な論議を尽して
いく必要がある」として、「大台ヶ原森林生態系
保全対策検討会(利用対策部会、植生保全対策部
を実現しようとした
2001 年、大台ヶ原に突然、新しい風が吹き始
めた。
同年 11 月に「ニホンジカ保護管理計画」が策
会、ニホンジカ保護管理部会)」を新設した。
本会は自然保護団体として利用対策部会委員の
委嘱を受けた。過去2回の委嘱は懐柔と理解して
断わってきたが、今回はマイカー規制を審議する
定された時点で、時の環境省近畿地区自然保護事
務所長市原信男氏は『所長からのメッセージ∼特
に、市民・NGOの方々へ∼』を自ら書いて、
「この計画作成に自然保護調整人としてこれまで
検討会だけに、常任委員会で慎重に論議をし、弁
護士に相談したうえで受諾した。
3ヶ月間携わってきましたが、今後は、市民・N
GOの自発的・積極的行動、場合によっては専門
ところがその頃から、与党三党と環境・国交・
農水三省は自然再生推進法成立を目指して準備を
―22―
更にその想いを「付帯提言」にまとめ、「今後、
マイカー規制、立入等規制の導入のために地元住
2.環境省「自然再生事業」へ邁進
進めていたが、弁護士会、自然保護団体等から
「形を変えた開発だ」と廃案を求める強い反対が
起き、国会審議が難航した。予定より半年以上遅
まぎらわしい名前が付けられていたが、「直轄事
業なので自然再生推進法ではない」と説明した。
本会はマイカー規制を審議する利用対策部会に
れて、修正案に付帯決議を付けて、年末にようや
く可決した。
参画したが、自然再生推進法には反対を表明して
いたので会議の度に質問を繰り返したが納得のい
く回答はなかった。
法案成立に努力した環境省は自然再生推進法成
立をもって、大きな政策転換を行った。「大台ヶ
原を全国で最初の森林に関わる自然再生地区と指
定し、そのモデル地区と位置付ける。大台ヶ原の
自然再生の手法が紀伊山地全域、ひいては全国の
2003 年、霞ヶ関で自然再生推進法成立に関わ
り、著述もある亀澤玲治所長の赴任を機に、本省
課長補佐の臨席が終り、自然再生推進法との関連
を否定し続けた説明も終った。しかし、説明を終
森林生態系再生の契機となることを期待する。」
とした。人為を排するために買い上げた大台ヶ原
で人工造林の実験を行うという驚くべき変貌であ
る。
る理由の説明はなかった。そのために、検討委員
達の殆どは、自然再生推進法との関連が否定され
なくなったこの時点で、自然再生推進法が適用さ
れたと受け止めたようだ。本会も、なしくずしに
自然再生推進法では、「実施者」と呼ばれる提
案者が「自然再生協議会」を組織することになっ
ているが、環境省は大台ヶ原ではこの形をとらな
かった。すでに立ち上げていたマイカー規制のた
自然再生推進法に移行したと理解した。しかし、
その認識は間違っていた。検討委員の間違った認
識は今日まで尾を引いている。
もともと環境省は個別法で始めて、自然再生推
めの検討会を利用することにして、2002 年の年
明け早々に、「大台ヶ原自然再生検討会(利用対
策部会、森林再生手法検討部会、野生動物部
会)」と改名、改組した。ニホンジカ保護管理検
進法適用の機会をうかがっていたが、この時点で
断念したのか、或いは当初から個別法でいくつも
りであったのかは定かではないが、その間の事情
を環境省は一切説明をしなかった。自然再生推進
討会は別枠にした。
市民は検討会が改名されても当初の目的通りマ
イカー規制実現を目指すものだと信じて疑わなか
った。
法ではなく個別法でいった理由は、大台ヶ原が環
境省の直轄地であるだけに、農水、国交の干渉を
排除するためだという解釈も成り立つが、もしそ
うであるなら何故、自然再生推進法の適用をほの
めかしたのであろうか。
3.説明責任を果たさない環境省
自然再生推進法の国会審議が難航したため、そ
の間検討会は開かれなかった。成立の見込みがつ
4.協働か自然保護団体対策か?
本再生計画の「新しい利用のあり方推進計画」
いた 2002 年 11 月中旬に至ってようやく最初の会
議が開かれた。検討会には、その都度本省の課長
補佐が臨席して、「現時点では自然再生推進法を
適用して基本的な考え方を示して協議会を呼びか
の 8 項目の内 5 項目、「マイカー規制」「利用調
整地区」「登山道・自然観察路の充実」「キャン
プ指定地の設定」「ビジターセンター機能の充
実」は、本会が 1978 年に『大台ヶ原山の保護と
ける段階ではない。将来、条件が整った段階で適
用するかどうか検討したい。」と説明を繰り返し
た。環境省が提出する資料は自然再生推進法と同
じ用語を使用して、「自然再生推進計画調査」と
利用への提言』の小冊子を作って以来、提言し続
けてきたことであった。その提言が 25 年目にし
てようやく環境省の施策として俎上に載ったこと
にある種の感慨を覚え、行政との協働に希望を抱
―23―
いたが、“自然保護団体対策”のきらいも否定で
きない。
つの目安として 30 年代前半までの状況を目指
す」という。
環境省は最初、「国立公園指定時の鬱蒼とした
【Ⅱ】“科学”の限界と破綻をみせた
「大台ヶ原自然再生推進計画」
1.「自然再生の基本的な考え方」の基本的欠陥
生態系は構成要素が互いに循環する巨大なシス
森林に戻したい」と言ったのである。国立公園指
定は 1936 年であるから 70 年前のことである。と
ころがその後、20 年前の「環境省所管時」に変
更した。そして今回更に、50 年前の「昭和 30 年
テムである。その複雑さは現在の科学をもってし
てもとうてい把握しきれない。まして生態系を人
工で作りあげることなど到底不可能である。いい
加減な族学者が跋扈していた大台ヶ原にはまとも
代前半」に三転した。すべて確たる根拠のない思
いつきであろう。
「昭和 30 年代前半」が何故望ましい状態なの
か、「失われた自然」とは何を指すのか、一言の
な「科学的データ」は存在しなかった。今回の調
査担当者の労苦は多とするが、短期間の調査資料
が量的にも質的にもおよそ「科学的データ」とは
言い得ないものであることは今更言うまでもない。
記述もない。「昭和 30 年代前半」といえば 1955
年から 1959 年までである。大台ヶ原ドライブウ
エーが着工したのが 1958 年である。ドライブウ
エーと山上駐車場は、人為によって損なわれ自然
環境省霞ヶ関は「科学的データを基礎とする丁寧
な実施」を謳っているが、本再生計画は「科学的
データのない性急で乱暴な実施」と言わざるを得
ない。
の復元力では修復し難いもので、正に「自然再生
事業」の対象である。アメリカのダム撤去のよう
に、この道路を撤去しなければ「昭和 30 年代前
半」に戻したことにならない。
本再生計画では「過去に失われた自然を積極的
に取戻すことを通じ生態系の健全性を回復するこ
とを目的とした」という。生態系は自律的に回復
また、伊勢湾台風で正木ヶ原のトウヒの純林が
倒されたのが 1959 年である。すでに 50 年近い時
を経て、遷移の過程でミヤコザサの草原になって
いる。そのミヤコザサの草原を「あってはならな
する能力を持っているが、その維持機構、回復力
を考えずに無用の人為を加えると却って自然の回
復力を損なうことになる。大台ヶ原の生態系につ
いての正確な認識と、人為を最小限度にとどめる
い状況」と勝手にきめて、無理やり再びトウヒの
純林に戻そうとするのが本再生計画の目標のよう
である。官僚と検討委員の傲慢な愚行に多額の税
金が浪費されようとしている。
確たる姿勢がないことが、本再生計画の基本的欠
陥である。
「健全性」などという人間の利己的価値観が忽
然と現れて驚く。人間に関心を示さず、それ自身
充足している自然は、人間に対して時には無情で
冷酷で、人間を拒絶することもある。自然の悠久
を考えるべき場にこのような人間中心主義の価値
本再生計画では、「30 年代前半の自然再生の
目標」に至る流れとして、まず「鹿の捕殺と利用
対策」で「森林生態系の衰退を防止する保全対策
を強化」して、「自然の復元力に委ねる」という。
そして、これでも「森林の健全な更新が期待出来
ない個所」は「積極的な発芽環境の改善など実証
的手法により森林生態系の再生を試みる」という。
観を持ち込むことは混迷の度を深めるだけである。 しかし「保全対策」には殆ど力を注がず、一気に
再生のための実験段階に突入している。「自然の
復元力に委ねる」などは心にもないウソで、闇雲
2.曖昧な再生目標設定
に人の手を加えようという衣の下の鎧が丸見えの、
本再生計画では、「再生に 100 年かかるが、現
状において可能な具体的な目標像」として「ひと
危険な計画である。
―24―
地球温暖化や大気汚染などによって現在の大気
環境は 50 年前と大きく変わっている。まして、
に描いた餅になるばかりか、むしろ御用自然保護
団体、NPO等で固めて環境省が独走する可能性
が高い。鹿捕殺計画についても、環境省は捕殺ネ
100 年後にどのような環境になっているのか想像
もつかないだけに、「現状において可能な具体的
な目標像」などが言えるわけがない。現状分析を
可能にする確かな科学的データすらない状況で、
ットの所在すら市民に明かしていない。全分野に
ついて市民の参画は担保されていない。
本再生計画策定の最後の段階で、「森林再生推
進計画」に「多様な主体の参画」の文字が突然挿
この曖昧な目標設定は自然再生事業の幻想をばら
まく無責任な宣伝である。
入されたが、内容は「手足」の作業ボランテイィ
アを求めているだけで、これでは本来の意味での
「主体の参画」ではない。端なくも「多様な主体
の参画」についての環境省の本音である市民蔑視
3.自然再生計画は独自事業
が露呈してしまった。本再生計画は環境省霞ヶ関
・本再生計画の三分野「利用」「植生」「鹿」の
うち、「新しい利用のあり方推進計画」の中では、 の方針を満たしていない。
「マイカー規制」と「利用調整地区の設定」につ
「森林生態系保全再生計画」
いては、それぞれ「協議会」の組織化が記されて
いるが、他の「総合的利用メニュー6 項目」につ
いては記されていない。
・「森林生態系保全再生計画」については協議会
の明記は一切ない。計画の一部の実験、防鹿柵設
・・・正確な現状分析も将来の展望もない
1)本当に森林が衰退しているのか
再生事業を実施するためには、前提として大台
ヶ原の現状を否定的に規定する必要がある。環境
置が 検討会を無視して計画策定前に先行着手さ
れている。
・「ニホンジカ保護管理計画」は環境省によって
2002 年度から実施されていて、既に 134 頭の鹿
省と検討委員は「森林の衰退」を当然のこととし
ているが、本当に衰退しているのか。多くの複合
的要因によって森林がダメージを受けているのは
確かであろうが、人為で「再生」しなければ消滅
が捕殺されている。
即ち、本再生計画の殆どは市民の参画が担保さ
れていない環境省の独自事業である。
環境省霞ヶ関の方針では、自然再生事業の事業
してしまうところまで果たして衰退しているのだ
ろうか。歴史が示すように、過酷な環境変動のな
かで大台ヶ原の森林は遷移を繰り返してきた。
実施、維持管理に至るまで、市民との合意形成・
連携・参画を図ることになっているが、本再生計
画にこの方針が盛り込まれているとは読めない。
本再生計画には「針葉樹林、落葉広葉樹林とも、
種子生産は行われ、多くの実生個体がみられ
た。」とある。そのうえで「森林の構造的変化が
起きている」として「現在、稚樹が見られないの
4.「多様な主体の参画」は担保されていない
上記二つの「協議会」にしても、自然再生推進
法がいう「自然再生協議会」のように、手を上げ
た者の参画が担保されるものではない。「関係機
はシカによる採食の他、林床の乾燥、コケ類の減
少、菌根菌の不足、日照時間の変化などが考えら
れる要因であるが、詳しい因果関係が未解明な点
もあり、今後、防鹿柵内外での比較を含めた継続
関と調整する」と書いてあるだけで、関係機関と
緊張関係にある市民団体や自然保護団体などの参
画は楽観を許さない。確かに「多様な主体の参
画」として「自然保護団体」の文字も見えるが、
的な調査により解明していくことが必要であ
る。」としている。本再生計画の中でこの記述だ
けが何故か異質で、まともで説得力がある。現状
分析も将来への展望も、まだ、正確にできない今
具体的にはそれを保証する手立てがないだけに絵
の段階で、不充分な再生計画を無理やり見切り発
―25―
車させることが将来に禍根を残すことになること
はこの記述からも明らかである。
成育するのは当然のことで、それを「森林衰退の
あかし」とこじつけるのはナンセンスである。
かつて、族学者が学問的根拠のないままに「本
当に近い将来大台ヶ原の森林がなくなる」と市民
に対して危機を煽った。「近い将来」は過ぎ去っ
たが森林は消えず、「本当」ではなかった。また
1789 年に野呂介石が大台ヶ原に登山した時、
正木ヶ原、牛石ヶ原はすでに笹原であった。下っ
て明治時代の古文書にも、「まさきはげ」「ほう
そはげ」「大はげ」などの記述がある。正木ヶ原、
近年、農水省の独立行政法人も、市民を対象にし
て「20 年で大台ヶ原の森林は消える」と危機を
煽っている。18 世紀以来、「無知なる大衆」を
支配してきた“科学”の虚名で、森林衰退を恣意
牛石ヶ原がすでに笹原であり、ミヤコザサ、スズ
タケが成育し、鹿がいたにも拘わらず天然更新が
維持されてきたのである。
族学者の風説で、大正時代の四日市製紙の東大
的に煽っている。発表された報告を読んでも、
「20 年後」と断定的に言える確かな根拠が見あ
たらない。自然再生事業は国交・農水・環境三省
共同の公共事業である。2002 年 7 月 1 日、山下
台伐採が「択伐」と流布しているが、近年、日本
科学史学会々員川端一弘氏の研究で、皆伐を裏付
ける公文書が発見された。柴崎篤洋著『梢の博物
誌』、遅塚麗水等篇『大台ヶ原登山の記』にも皆
環境副大臣と岩永農水大臣政務官が帯同して異例
の大台ヶ原視察をしている。農水省予算をあてに
した紀伊半島の自然再生事業はすでに始動しいて
いるのか。
伐の様子が記されている。環境省はこの事実を認
め、本再生計画を「皆伐にちかいかたち」と書き
改めた。択伐と皆伐では意味が大きく異なる。皆
伐後 87 年間、大台ヶ原の森林は天然更新を続け
て来たのである。
2)ミヤコザサ優先地の天然更新を否定する恣意
的暴論
本再生計画では「後継樹の欠落が明らかになっ
本再生計画では「天然更新により後継樹が健全
に成育する森林を再生する」という。出来もしな
た」「ミヤコザサ優先地で天然更新が困難であ
る」と断定するが、数十年、数百年単位で論ずべ
き天然更新を、僅か数年で否定するのは早計に過
ぎ、驚くべき独断である。「天然更新」を一応掲
いことであるが、仮に天然更新できる森林を人工
的に作ったとしても、その時すでにその森林は立
派な人工林であって、「天然林の再生」でも「天
然更新」でもない。このパラドックスに素知らぬ
げておいて、このようなこじつけで否定するのは、 振りをするのは卑怯だ。
人工林化に道を開く恣意的暴論である。
3)すべてを先送りした無責任な再生計画
一部の検討委員はミヤコザサと鹿を森林更新の
環境省は 2004 年 1 月の検討会で、「従来のよ
二大阻害要因と断罪して、ミヤコザサの優先がな
ければ森林は更新するとでも言いたいようである
が、ミヤコザサも鹿も、古来、大台ヶ原の自然で
あることを忘れているのであろうか。13 ページ
にミヤコザサの分布拡大図を掲載しているが、そ
うに苗木を移植するのでは駄目だ。発芽環境の改
善を図る手法を考えた。播種は手法ではなく擬似
的に行う。発芽床をどう作るかが課題である。」
と説明したが、自然再生事業の著述のある委員か
の図で広い面積を占める三津河落山から大和岳に
至る釜ノ公谷源流部は、特別保護地区であるにも
拘わらず、かつて拡大造林時代に皆伐されてしま
った。植林されていない皆伐跡地にミヤコザサが
ら「自然再生事業は仮説をたててそれを検証して
いくのであるが、この案には仮説がない。調査の
目的を明らかにして、仮説を言葉で表せ」と批判
を受けた。森林生態系部会座長は「データ解析が
―26―
まだ出来ていない。頭にある程度あるが、まだは
っきりしない。」と答えた。
それから1年を経た本年度最後の部会で、その
乾湿の変化の差の大きい場所でなく、蘚苔類の中
のような乾湿の変化少なく湿気のよく保たれたと
ころで発芽するといわれてきたトウヒの種子を、
硬質土壌の上に播種して果たして発芽するのか。
座長は「解析はしない。二三のデータを計画に書
くにとどめる」と無責任にもすべてを先送りした。 確たる科学的確証があってのことであろうか。
解析をしなかったのではなく、解析できるデータ
最後の自然再生検討会で、かつて「トウヒ林保
の量と質、解析する能力の欠如から解析を放棄し
たのであろう。再生計画作成には至らず、七つの
植生タイプに分けて発芽状態を観察する実験手法
が記されているだけで、「再生のための道筋を想
定した仮説」「天然更新により後継樹が健全に生
全対策事業」に関わった委員から厳しい批判がで
た。「表層土がかなり深くまで除去されているが、
大台ヶ原は浸透性が高くないので池にならないか。
昔の播種実験の経験では、梅雨期に種子が流亡し
育できる基礎的条件」など、どこにも書かれてい
ない。鹿の捕殺計画同様、「初めに再生ありき」
と思わざるを得ない。
この乱暴で粗雑な実験計画で、多くの関連学会
たり移動したりして失敗した。降雨の影響の評価
を考慮しなければ結果の解析が難しくなる。無理
やり地面を切り下げなくても、むしろ上等の土の
盛土でもよいのではないか。また、播種と周囲の
の批判に堪えられるのであろうか。このようない
い加減なものを自らの政策にすることを誇り高い
官僚がよく認めたものであるが、得意芸の「自然
の不確実性」ですべてを言い抜けるつもりなので
母樹からの自然落下との区別をどうつけるのか。
細かく目を配らないと実験にならないかもしれな
い。」と。実験計画を作った森林生態系部会座長
も環境省も黙して語らなかった。
あろうか。
4)表層土除去実験は暴挙である
2002 年の検討会初日に、「重機で表土を剥が
環境省は「自然再生事業の進め方」において、
「人間は自然の回復力の補助者」として「科学的
データを基礎とする丁寧な実施」「きめ細かな丁
して土を入れ替え、菌根菌をまいてトウヒを植え
たい」と委員から発言があり、正に自然再生推進
法が危惧された「形を変えた開発事業」を思わせ
る内容であったが、今になってその発想が、この
寧な手法」を用いるという。この実験のどこが
「科学的データを基礎」にした「きめ細かな丁寧
な手法」なのか。すべて全く逆である。「自然の
回復力」を阻害しようとしている。
「表層土除去」実験に生かされていた。
環境省は再生計画の「新たな展開への契機」
(P.44)で、紀伊半島全体への事業展開を書いて
いる。それが自然再生推進法成立の究極の目的で
温度の低い亜高山帯針葉樹林で、30cm もの表
層土が集積されるまでには想像を絶する歳月が必
要であったであろう。実験が失敗するか終了する
あろう。今の時点では一応そこまでの事業計画が
立てられなかったにしても、この実験を設定した
ことで、将来それを根拠に表層土を除去した大規
模土木事業に発展する可能性を否定することはで
時、この穴の修復をどうするかについては全く書
かれていない。自然公園法第 14 条第 3 項によっ
て、市民は枯枝一本枯葉一枚拾ってもいけない特
別保護地区において、リスクを予測しないまま乱
きない。
暴に行うこの実験は暴挙である。
すでに実験と称して、表層土の落葉層(リター
層)、腐植層を 30cm 以上剥がしてトウヒの種子を
5)何故、まだ、トウヒなのか
確かに本再生計画から「トウヒ」の文字が、
200 粒ずつを播種している。従来、裸地のような
「針葉樹」や「特定の樹種に限らず」などに書き
―27―
の実験で播く種子が何故トウヒなのか、ウラジロ
替えられた。しかし、それなら何故、実験で播種
モミなのか、全く辻褄が合わない。しかも環境省
される種子がトウヒなのか。また、本再生計画に
は「擬似的に散布された状態をつくる」とあるが、 は本再生計画を「あくまでも実験である。将来森
環境省は「積極的に播種する」と説明している。
当然こちらが本音であろう。環境省(庁)は
1986 年以来 2003 年度まで 18 年間にわたって
「トウヒ林保全対策事業」を行い、6 億円の血税
林再生事業を行う場合は別の検討を行う。」と言
うが、無責任な発言である。将来の森林再生計画
を立て、その計画実現を目指して実験を行うのが
当然であって、実験と将来の事業は別だとする発
を浪費して 58,000 粒のトウヒを播種したが 1 本
も育っていない。この失敗を承知の上で、更に屋
上屋を架そうとするのは何故か。
埋蔵種子の花粉分析学的研究によれば、「1300
想は無責任の極みである。この実験の目的が益々
わからなくなる。
年前の大台ヶ原はトウヒが非常に少なく、ミズナ
ラが周囲に存在し、現在よりもヒノキの多い植生
であった。」「現在はブナーウラジロモミの林で
あるが、本来はヒノキやコウヤマキがもっと多い
“自然再生事業”について、学識経験の深い研
究者など望むべくもないが、自然を物質と考える
狭い専門領域の自然科学者だけに好き勝手をさせ
るわけにはいかない。人文・社会科学の広い分野
森林だったと考えてよい。」と報告されている。
自然再生の著述がある検討委員は、「衰退した
のはトウヒ林で、森林は変化しているのでしょ
う」と皮肉った。
の専門家、哲学者、宗教家の参加が必要である。
また、自然に対して巨大なインパクトを加え、地
域住民に大きな影響を与える事業である以上、行
政の責任は計り知れない。今後のモニタリングの
先にふれた自然を「健全」「不健全」と評価す
るご都合主義同様に、トウヒを勝手に「価値があ
る」ときめて、そのトウヒを穿皮する鹿を有害と
断定して殺す論理をぜひ開陳していただきたい。
評価のためにも、行政追従の族委員を排して広い
人材を募るべきである。
鹿はスケープゴートにされても抗弁できない。
環境省は「トウヒの南限だから貴重だ」と言っ
て来た。地球的規模の気候変動によって多くの動
植物、昆虫などの「北上」はいまや疑いようのな
い現実である。にも拘わらず、かつて大台ヶ原を
6)何故、大台ヶ原の天然林の中で紀伊山地の人
工造林の実験をするのか
7)何もしないことを選択することが真の学識
8)環境省官僚の前例主義の呪縛
紀伊山地の自然再生事業の具体的内容はまだ聞
こえてこないが、農水省の予算を使って、広大な
針葉樹の人工林を広葉樹林に替えるのだと漠然と
聞こえてくる。本会も大台ヶ原周辺の人工林を天
特徴つけた文言に未だにに固執するのは時代錯誤
であり、出来もしない再生を試みるのは傲慢であ
る。
然林に替えることが鹿問題の根本対策だと考えて
いる。きめの細かい混交林であるならまだしも、
現在生えている杉檜を林道をつけてなぎ倒し、林
業経営の見通しのないまま広葉樹を植林をするの
巷間言われる「前例主義」にしても、20 年前
に族学者にだまされて先輩官僚が言い出した「ト
ウヒ林再生」のお題目を、再生の可能性が失われ
た今に至ってもまだ後輩官僚が呪文のように繰り
では、かつての高度経済成長期の林業政策の裏返
しになるだけで、結果は広範囲な自然破壊をもた
らすことは明らかだろう。
しかも、その造林実験をなぜ、大台ヶ原の天然
返すのには何か理由があるのか。市民はすでに聞
き飽きた。環境省のパンフレット『忘れてきた未
来』には、「トウヒ群落の分布域の減少図」を掲
載して自然再生の必要性を強調しているが、もう
林の中でやらなければならないのか。しかも、そ
いい加減、「トウヒ」の呪縛から解き放たれても
―28―
してどうするつもりだ。昔、国交省が長良川で、
いいのではないのか。大台ヶ原の樹木はトウヒだ
けではない。トウヒにうつつをぬかしている間に、 「工事をしながら調査をする」と言ったのと同じ
論理で、これを「順応的」とはいわない。杜撰で
西大台のブナが危機的状況に陥ってしまった。
傲慢というのだ。
◆「ニホンジカ保護管理計画」・鹿捕殺は科学の
問題ではなく行政・政治の問題である
冒頭に書いたように、大台ヶ原のシカ問題が公
すでに環境省は「鹿の剥皮が枯死に結びつくか
どうか明確にはわからない」と報告している。こ
開の席で論議されるようになったのは 2001 年 5
月の「ニホンジカ保護管理検討会」以来であるか
ら足掛け 5 年になる。
もともと「初めに鹿捕殺ありき」でスタートし
の後追い調査に期待するものは全くない。かえっ
て、すでに本会HPで何度も指摘したように、一
部の検討委員の最近の報告の中に、真実を歪めて
環境省の方針に媚びる強引なこじつけがみられる
て、「第 9 次奈良県ニホンジカ特定鳥獣保護計
画」に間に合わせるべく、2001 年 11 月に「大台
ヶ原ニホンジカ保護管理計画」を科学的根拠のな
いまま、パブリックコメントの 85%の反対を無
だけに、捕殺追認のいかがわしいデータがでてく
る危険性が多分にある。検討委員の一部は、大台
ヶ原の鹿を日本各地の里山における鹿の「食害」
と同列に論じるようになっている。昨秋、例年の
視して、見切り発車した。
ところが、その奈良県の特定計画策定(2002
年 3 月)の前に、「新・生物多様性国家戦略」に
は、「個体数管理を進めている」と書いている。
数倍のクマが里に出て社会問題になったが、奥山
の生息環境、里山と田畑の連続(コリドー)、人
間の居住地の環境、行政の対応など緻密に分析し
て対策が模索されているのと比較すると余りにも
鹿をまだ捕殺していない段階で、既に殺している
と書くのは政府が批准国にウソをついたことにな
るが、ウソ上手の官僚や政治家にとってこれくら
いのウソは日常茶飯事なのであろう。
粗雑な殺し方である。
又、1999 年に鳥獣法を改正するために、環境
庁(当時)官僚は、政治家やメディアに対して
「大台ヶ原では増えた鹿が森を枯らしている。法
検討委員は鹿の剥皮で樹木は必ず枯れると盲信
しているが、捕殺した鹿の胃からは、僅かな樹皮
しか出てきていない。剥皮されても種子をつけ、
元気に成育しているトウヒはいくらでもある。専
門家は山火事にあっても枯れないという。鹿がミ
ヤコザサ飽食の結果、バランスをとるための樹皮
食いではないか、と調査を続けている研究者もい
律を改正して駆除しなければならない。」と吹き
込んだ。今でもそう信じている人が多い。いまや、 ると聞く。土地の古老は薬として剥皮するとも言
う。確かなことは何もわからないまま鹿の捕殺が
鹿を殺さないことには官僚のメンツがすたれる。
強行されているのが現実である。
1)データに何の意味もない鹿捕殺計画
見切り発車以降、すでに 3 年間で 118 頭捕殺し
た。今になって、2004 年最後の検討会で、「針
葉樹と広葉樹では剥皮による影響が異なるので、
果たして昔、大台ヶ原には鹿が多くいたのか、
それとも少なかったのか、地元住民の意見は分か
れる。生息頭数もわかっていない。概算 1/9000
の面積を調べて鹿の密度を出し、統計処理の対象
樹種ごとに剥皮率の推移、剥皮から枯死に至る年
数、枯死した理由など」を調査するとして、新た
に 7 ケ所の調査地点を設けたと誇る。もともとこ
れらの調査は鹿を殺す前にやるべきであったもの
にすらならない少ないデータで、極端な場合は一
つのデータでもって断定的な結論を出している。
それを本会は足掛け 5 年、百万言を費やして批判
して来たが、いまや語るべき言葉もない。
を、3 年も経った今頃になって“後追い調査”を
―29―
繰り返し言ってきたが、鹿捕殺問題は科学の問
題ではなく行政・政治の問題である。森林再生計
画同様、評価を先送りした科学とは無縁の行政措
本会は、「大台ヶ原自然再生推進計画」の「基
本的な考え方」で示す「多様な主体の参画」の方
針に基づいて、「新しい利用のあり方推進計画」
置である。118 頭も殺して、樹木の剥皮や枯死は
減ったのか、僅かなデータによると、鹿の密度は
下った場所もあれば逆に捕殺して上がった場所も
ある。
の中に記されているマイカー規制に関わる「大台
ヶ原交通利用対策協議会」と、利用調整地区設定
に関わる「利用適正化計画検討協議会」(仮称)
への参画を求め、すでに要望書を提出した。二つ
もっとも、環境省と一部の検討委員にとって評
価など、どうでもよいことであろう。彼等にとっ
て、データはあればあったでいいが、なくても一
向に困らない。何故なら、捕殺はデータの評価に
の目標の実現に向かって全力をあげて努力する。
影響されることなく計画通り遂行されるのだから。
ドライブウエーについては既にふれたが、大台
ヶ原ドライブウエーと山上駐車場こそが、人為で
自然を損ない、自然が自律的に修復できない場所
である。だとすれば、まず、マイカー規制で走行
2)「ニホンジカ保護管理計画」の便宜的包含
「ニホンジカ保護管理計画」は、「自然再生検
2)ドライブウエー・山上駐車場の撤去こそが真
の「自然再生事業」
討会」とは別組織である「ニホンジカ保護管理検
討会」で作られたものであるが、本再生計画をま
とめる最後の段階でそのまま自然再生推進計画に
包含された。依って立つ法律も異なり、内容的に
車両と入山者を減らし、将来的にはドライブウエ
ーを廃道にすることこそ、真の「自然再生事業」
であろう。
整合性に問題がある鹿捕殺計画をそのまま再生計
画に入れるのはあまりにも便宜的に過ぎる。
3)鹿捕殺計画に市民の参画を
【Ⅲ】今後の活動のために
1.残された自然の保全を優先し、何もせずに自
然にゆだねるべし
本会は 2002 年 11 月に、自然再生事業について、
「ニホンジカ保護管理計画」を本再生計画に
入れたからには、「基本的な考え方」において
「多様な主体の参画」を謳っている以上、その基
本方針に基づいて、「ニホンジか保護管理検討
「いま、大台ヶ原に必要なのは再生ではなく保全
である」と基本理念を明らかにした。この度策定
された「大台ヶ原自然再生推進計画」はこれらの
基本理念のすべてを否定するものである。
会」に市民の参画を求めたい。そうでないと、
「基本的な考え方」がウソになる。
◆「新しい利用のあり方推進計画」
かつて自然再生推進法が国会で審議された際、
弁護士会、自然保護団体等から廃案を求める激し
い批判が浴びせられたが、いまや全く聞かなくな
1)マイカー規制の実現を目指して!
先に述べたように、環境省は自然再生推進法を
成立させた時点で、マイカー規制を実現する意志
を捨てたと思われる。自然保護団体がうるさいか
った。国交・農水・環境の莫大な予算を、不況に
苦しむ地域にばらまくことで地域を取り込んで自
然再生事業が進められようとしている。自然再生
事業は「第二の列島改造論」「形をかえた公共事
らとりあえず並べておけというのが本再生計画の
「利用計画」8 項目であろう。しかし、看板を掲
げた以上、それが市民の願いであるだけに、実現
に向かって努力するのが環境省の当然の責任であ
業」として、国土に深刻な自然破壊をもたらすこ
とは明らかである。今の時点で改めて本会の基本
理念を強調したい。
ろう。看板に偽りあり、では市民は許さない。
2.自然再生事業に対する本会の基本理念
―30―
(1)「失われた自然を取戻す」など自然に
対する冒涜である。
(2)自然は物質ではない。「積極的に取戻
を感じていただけに、行政との協働に期待をかけ
たのも事実である。そのために検討会に参画し、
市民の立場から非力ながらも精一杯努力してきた
す」策はない。
(3)生態系の「健全」「不健全」の判断は
人間の身勝手である
(4)「原生的自然の再生」は暴挙であって、
つもりである。
壊滅的破壊を招く。
(5)なぜ、天然林の中で人工林再生手法の
実験をするのか。
(6)「多様な主体」がどのように参画でき
は裏切られ、無力感と無関心がいま社会を覆って
いる。本再生計画策定の経緯と結果に同質のもの
を感じる。それだけに、ここで無力感に陥っては
ならないと考える。時が動き始めた中で、官僚が
るのか。
(7)大台ヶ原でいま必要なのは「再生」で
はなく「保全」である。
本質的なところで少しも変わっていないことを知
った体験は無駄ではない。一方で、市民との協働
を誠実に努力する官僚が生まれてきたのもまた確
かな事実である。その数少ない官僚を知り得たこ
3.真の協働のために、更なる説明責任、情報公
開、市民参画を求めて
本会の歴史は行政に対する異議申立ての歴史で
あった。その理由は、大台ヶ原のあるがままの自
とは幸いであったと考える。甘いと批判されるか
もしれないが時の動きを信じ、開き直ってやろう
と考えている。
然を観光開発によって破壊するのが行政自身であ
ったからである。そして、大台ヶ原のあるがまま
の自然を救う道は入山規制しかないと考えた。
北海道のキリギシ山で、観光客から高山植物を守
本会は従来、環境省と奈良県が最も嫌悪する
「情報公開」と「市民参画」を繰り返し求めてき
た。変化を嫌い、改革を拒否する官僚・役人の弱
点がここに隠されているという役人もいる。そう
思えば、冷戦体制の崩壊後、旧来の体制が変わ
るかに思えて、その兆しが何回も見られたが期待
ろうとする地元山岳会の願いを行政がくみ上げて、 だとすれば、本会の活動は正鵠を射ていたことに
なる。むしろその活動があったからこそ、検討会
官民一体となって、この国で最初の完全入山規制
参画があったとも言えよう。
に成功した実例があるだけに、大台ヶ原でも市民
環境省の方針によれば、自然再生事業の「調査
と行政の協働による実現を願ったのである。
計画段階から事業実施、維持管理に至るまで、関
係省庁、地方自治団体、専門家、地域住民、NP
近代の変容が論じられ、環境問題がグローバル
O,ボランティ等多様な主体の合意形成・連携・
化するなかで、この国の官僚たちも軽蔑する市民
の声をようやく聞かざるを得なくなった。しかし、 参画が必要である」としている。本会は今後も環
牢固たる官僚制度と戦後 60 年を経て完成した衆
愚政治を承知しているだけに、奈良で実現した情
報公開と市民参画に過剰の期待をかけたわけでは
なかった。霞ヶ関からの「パートナーシップ」の
境省に対して「説明責任」「情報公開」と「市民
参画」の要求を更に強めていきたい。衆愚政治の
中で役人は市民に「従順なる羊」を求めているが、
本会は自立した市民として真の協働を求めて行き
呼びかけを、多くの NPO のように信じることもな
かった。検討会発足後、最初の一年間はほとんど
疑い、二年目からは半信半疑であって、基本は疑
うことであった。しかし、官僚が心ならずも市民
たいと考えている。
本会は、本再生計画策定後直ちに、「マイカー
規制」「利用調整地区」の二つの協議会に参画を
要望したが梨の礫である。今後の自然再生事業の
の声に耳を傾けざるを得なくなった「時の動き」
実施段階で、官僚の誠実さが試される。
―31―
「大台ヶ原自然再生推進計画」に想う
―― 大台ヶ原の森林の変化は衰退ではない ――
「大台ヶ原自然再生推進計画」ではその基本的
何万年何千年と世代交代を繰り返して次世代に
な考え方として「過去に失われた自然を積極的に
取り戻すことを通じ生態系の健全性を回復するこ
とを目的とした」とあります。そして大台ヶ原の
森林の現状を「衰退」と決め付け、ミヤコザサが
生命を繋いできた土壌でなければ、あの自然環境
で木々を支えることは出来ません。生命力の宿ら
ない土壌、その土地のものでない「よその土」に、
樹木が「健全」になど育つわけがないのです。こ
森林更新の阻害要因の一つであると断定し、また
一方では表層土を除去しトウヒの種子を蒔く再生
実験がすでに実施されています。
これらの発想の背後に共通して見られるのは、
れは土壌の化学的性質とかそういった理屈以前の
問題であり、実験をして確かめてみるまでもない
ことです。
「自然は物質である」という唯物的な思想です。
しかし、言うまでもありませんが、自然は物質で
はありません。
人間の臓器移植がその良い例です。移植臓器の
定着、維持には常に免疫抑制剤が必要ですし、本
来の健康な臓器と同等の働きは移植臓器には期待
出来ないのです。そして移植臓器の遺伝子は次世
表層土除去実験といいますが、それがどれほど
「自然」を冒涜したものであるか、分かってやっ
ているのでしょうか。
山の土というのは、その大部分がその山に棲息
代に引き継がれることはありません。
また 18 年間にもわたって行われたトウヒの播
種実験が全て失敗に終わったのは、自然にそぐわ
ない無理な実験に対する拒絶反応に他ならないと
しかつて棲息した生物が姿形を変えたものではな
いですか。樹木からの落葉、草の枯葉、倒木、そ
して動物、昆虫、その他の生物の死骸が土に変わ
ったものでしょう。ですから大台ヶ原の基岩の上
思うのです。
に積もっている土の層というのは、まさに大台ヶ
原の自然の歴史そのものです。そしてこの生命の
循環こそが現在の生態系を支えているのではない
ですか。
育成に相応しくないと仮定して取り除くとは、大
台ヶ原の自然を否定する暴挙以外の何ものでもな
いということを理解した上でなお、実験を計画、
実施しているのでしょうか。
大台ヶ原の土を入れ替えるというのは、庭や植
木鉢の土を入れ替えるのとは訳が違います。大台
ヶ原の樹林というのは、平成 16 年の集中豪雨や
またミヤコザサを森林の天然更新を阻害する悪
者と一方的に決め付けていますが、大台ヶ原のよ
うな豪雨地帯で、樹林の乏しい場所にミヤコザサ
相次ぐ台風の襲来、年間総雨量の数値を見れば分
かるように、それはもう想像を絶する自然界の試
練を、ひとりで耐え抜かなければならないのです。
普通の人間であれば集中豪雨の中に 1 時間と立っ
がなければ、いったい誰が風雨から表土の流出、
喪失を阻止するというのでしょう。なぜミヤコザ
サのせいで大台ヶ原の自然が行き詰っているなど
ということが言えるのでしょうか。ミヤコザサが
ていられないでしょう。
地表を覆い樹林に代わって土壌を守っているから
その大台ヶ原の自然史そのものであり自然のい
のちそのものである土を、土壌の性質がトウヒの
―32―
こそ、将来の天然更新が約束されているのではな
いのですか。
その順応現象である変化を人間の勝手な思い込
みやこじつけ、理屈で妨げることは絶対にしては
なりません。それは健全な回復を妨げるものに他
それに伊勢湾台風が数多くの木々をなぎ倒した
といいますが、台風もまた自然の一部ではないの
ですか。暴風に煽られることで、木々は一層しっ
かりと根を張ろうとします。過去の数々の台風も
なりません。
また、大台ヶ原の自然を創ってきたのではないの
ですか。どうして台風と山の自然とを分けて考え
なけばならないのですか。
固有の概念が生まれる遥か以前から存在していま
す。そして原生的自然というのは、妨げこそあれ、
人間の手助けなしに独自に成長発展を遂げてきて、
現に我々の目の前に存在しているのですから、人
あらためて言うまでもありませんが、自然とい
うのは、「科学的」だとか「理屈」といった人類
自然界のことは自然が一番よく分かっています。 間がその存続に積極的に関わる状況など何一つ存
在しないのは当たり前のことです。
自然界のことを一番わからないのが、自然からか
け離れてしまった人間です。スマトラ沖地震の際
「自然」は一つの大きな生命体であり、その自
に動物達は大津波をいち早く察知して海岸から離
れ奥地へと逃げたといいます。都会の空き地に咲
く小さな雑草の花は、雨が降ってくることを察知
して、花びらを閉じて降雨に備えています。自然
の変化を感知出来なくなっているのは人間だけで
然に対して人間が出来ることはただ一つ、物質を
交換することでなく、人間社会が自然界に及ぼし
ている悪影響、すなわち人為を排除すること、た
だその一つのことだけです。
す。
「人間には自然は創れない」という至極当たり
前のことを、大台ヶ原で実験的に確かめる必要が
どこにあるというのでしょう。
自然界は人類の誕生する遥か以前より、地球の
環境の変化に順応しながら今日まで続いています。
近年の急激な環境の変化においても、それは変わ
るものではありません。大台ヶ原の樹林帯も、将
来に備え現在起こりつつある環境の変化に対して
最も適した植生へと変わりつつあるのではないで
大台ヶ原・大峰の自然を守る会総会に出席して
2005 年 2 月 26 日 T.Kazushino (医師)
すか。現在残っている種はすべて、その存続をか
けて変化に適応してきたのです。
平成 17 年度大台ヶ原施設整備現地説明会
2005 年 6 月 28 日に大台ヶ原ビジターセンター
において、
「平成 17 年度大台ヶ原周回線歩道・標
識整備、筏場大台ヶ原歩道整備の現地説明会」と
【1】「平成 17 年度大台ヶ原公共標識整備事
業」
2003 年 12 月と 2004 年 2 月に、「大台ヶ原地
いう長い表題の現地説明会が開かれ、地元自治体、 区サイン計画懇話会」で論議した標識が、「一体
自然保護団体、山岳会などが多数参加した。
的な整理(不要標識の撤去・統一デザイン)、利
用者の安全確保、利用マナー啓発」を目的として、
―33―
いよいよ本年度に設置されることになった。本会
は懇話会で、不要標識の撤去・統一デザインに賛
同するが、数をもう少し減らせるのではないかと
らない。
標識は地元木材を防腐剤を使用せず焼き付け磨
き処理したものを使用し、設置にセメントを使用
提案したが受け入れられなかった。
記載の中に「ペットの持ち込みはご遠慮くださ
い」となっているが、禁止にできないのか提案し
たが、「環境省の管理計画が禁止ではなく指導に
せず、地中で十字クロスにして容易に補修できる
設計にしている。
なっているから」という説明であった。自然公園
法に明確な禁止規定がなく、ペット愛好団体の働
きかけ、外来動物とのからみもあって、環境省は
強い姿勢を出せずにいるが、野生動物保護の観点
には記載内容が間違っているものもある。懇話会
で先送りされた「解説標識」の内容の検討を環境
省は「今年度早期に開始する」とのことである。
本会は何度も要望書を提出し、『自然保護ニュー
から善処を望みたい。
本会は 7 月 11 日、下記の要望書を環境省へ提
出した。
ス』に詳述してきただけに期待したい。
― 要 望 書 ―
「大台ヶ原のペット持ち込みについて」
先般、平成 17 年 6 月 28 日の大台ヶ原現地説明
会で、貴省から、公園計画ではペット持ち込みは
2002 年に大蛇嵓一帯の民有地がようやく買い
上げになり、大蛇嵓分岐から大蛇嵓までを「区間
I」として歩道脇にロープ柵を設置することにな
った。路面は現状のまま。
禁止ではなく指導であるとの説明を得ました。因
みに日光国立公園・尾瀬では禁止されていて各自
然保護事務所で対応が異なっていることは承知致
しております。
説明会参加者全員で現地に行き、意見を述べた。
当初の計画では、4区間に設置することになって
いたが、ロープ柵がない個所は逆に歩道外に出て
も良いと思わせる可能性があるので、全面的に連
一方、西大台の「大台ヶ原における利用適正化
計画に向けた骨格的考え方(案)」では、「生き
た動植物の持ち込み」は「禁止行為」と規定され
ています。勿論まだ案の段階ですが、利用調整地
続して設置することになった。
複線化されている歩道は原則として本道 1 本に
戻す。中揚谷側の絶壁上部に、危険性を知らない
ままトイレルートが何本も出来ているのでロープ
区にとっては必須条件でありましょう。その利用
調整地区と東大台を単純に同一視することは難し
いとは思いますが、将来を見通した環境省の姿勢
の整合性の視点から、ご検討を改めて要望致しま
で規制する。
昨年設置された区間C・G・Dのロープ柵用の
丸太杭を固定したコンクリートが地面に露出して
いるので、I区間ではコンクリートを使わずに、
す。
現地砂積め、付き固めとする。杭もロープも細く
する。
以 上
しかし、今回多くの標識が残されたが、その中
【2】「大台ヶ原周回線歩道整備事業」
(1)区間I(アイ)にロープ柵設置
(2)区間E‐2の水路工補修
新しい標識には「キャンプ禁止・たき火禁止」
は記載されているが、
「コンロの使用禁止」は削
除された。
「大台ヶ原自然再生推進計画」にはキ
ャンプ指定地を設置することが予定されているが、
本会HP、要望書などで何度も指摘したように、
水路に小さな石を並べただけであったことが昨年
の豪雨で露見して、ようやく大きな石を土中に埋
め込むことになった。昨年工区Cで実施された技
そのときにはこの記載は当然訂正されなければな
法である。
―34―
水路の傾斜を歩道の石段に平行に作り、そこで
水勢を削いで段差で落とすという工夫は長い水路
だけに理解できるが、図面の留め石の下の水叩き
書を環境省へ提出した。
石が小さいのが気になる。小さい石は落下する水
勢に負ける。むしろ留め石並みの大きさが必要で
はないか。
工事説明に、水路の中の「留めとなっている大
「筏場線歩道整備について」
平成 17 年 7 月 5 日付事務連絡拝受致しました。
ご主旨了解致しましたが、貴連絡文書の若干の誤
りの指摘と本会の要望を申し上げます。
きな石が現状で流失しているため、新たに設置す
る。」とあるが、「大きな石」であれば流失しな
かったはずで、小さい石で施工したから流失した
のである。簡単にいえば、傾斜水路に小さな石を
貴連絡文書の「1」.2行目に「鋼製吊橋」と
ありますが、「鋼製吊橋」は2号個所であって、
ここ1号個所は「H桁鋼橋」ではないでしょうか。
従いまして、「鋼鉄吊橋の鉄柱の基礎として想
並べただけであったから当然のこととして流失し
たのである。したがって、工区Cのように大きな
石を埋め込めば、豪雨に耐えることが期待できる
だろう。水路を階段から 20cm 下げるのは、階段
定していた岩盤が想定以上に深いことが判明し
た」とあるのは貴連絡文書「2」の、2号個所の
説明ではないでしょうか。
を流れる雨水が減って有効であろう。
ただ、長い水路の途中に排水溝が 2 本あるが細
くて落ち葉が詰まって機能していない。この排水
溝を大きくすれば長い水路の負担が減るのではな
1、1号個所で落橋した桟橋は相当以前に谷川に
傾いて通行不能になり、以来、登山者は橋と山側
の隙間を通っていました。その山側の岩盤に鎖を
設置し、足場を整理すれば、新たに橋を設置しな
いか、と提案したが、県は何故か関心を示さなか
った。この水路工補修工事が成功すれば、周回線
歩道整備はほぼ満点に近い出来上がりになる。
くても充分通過出来るのではないかと考えます。
【3】「平成 17 年度筏場・大台ヶ原線歩道整備
事業」---本年度工事中止
昨年春、銀嶺水のすぐ上の桟道が落ちた
(『「通行禁止」の筏場道を入之波まで歩く』)。
谷の下部は極めて急峻であるが、上部は浅くて傾
斜も緩やかで、問題なく渡ることができましたの
で、この捲き道開設のご検討を要望致します。
貴省の添付資料の「2号個所の谷の上部」(手前
そして、昨年の豪雨でその三つ上の橋が落ちて視
界から消えた(『通行止めの筏場道を登る』)。
更に、大台辻の下の、以前から傾いていた橋も落
ちたようだ。それらの復旧工事の現場写真、設計
に測量用の赤白ポールが写っている)の写真から
も谷の上部の様子がうかがえますが、捲き道開設
は充分可能であると考えます。吊橋のための岩盤
を求めて、結果として長大な吊橋になることは古
図が配布されたが、やや確認に欠ける内容であっ
た。
現地説明会の翌日、環境省・県は現地調査を行
った。その結果大台辻のすぐ下の1号個所とその
道の雰囲気を損ねることになります。
下の2号個所は架橋の基礎としての岩盤が得られ
ず、本年度は工事を中止することが環境省によっ
て決定された。18 年度以降に改めて検討するこ
とになった。
備を考えていないとする貴省・奈良県のご判断を
支持致します。
以 上
― 要 望 書 ―
2、2号個所については、落橋後の 2005 年 5 月
22 日に現場を登った本会会員の体験によれば、
3、銀嶺水上部の落橋跡は、現在、山側斜面のト
ラバースルートを安全に通過できるので新たな整
それを受けて、本会は 7 月 11 日に下記の要望
―35―
安心橋の架け替え工事は完成した。歴史的古
道・筏場道が、大台ヶ原では避け難い雨の日でも
登れるようになることを期待したい。西大台が利
本会は、「環境省が現場で市民の意見を徴する
積極的姿勢を多とするので、可能な限り参加した
い」と答えた。行政に対して情報公開、市民の意
用調整地区に指定されて、定員予約制有料地域に
なり、キャンプ指定地が作られ、大台ヶ原が再び
山として復権することを祈りたい。
見の反映を求めておきながら現地に行かないとい
うのは無責任である。役人に汗を流せと要求する
のであれば、市民は汗も血も流さなければならな
い。
【4】 大峰山系整備説明会の出欠について
すでに、本HPに何度も書いたように、昨年
「大峰山系環境共生推進計画」が策定された。
本年度は、イ.洞川自然研究路整備、ロ.弥山山頂
公衆トイレ整備、ハ.前鬼橡ノ鼻線歩道、ニ、金峰
神社前公衆トイレの整備が行われるが、環境省か
ら、「個々の整備事業について現地説明会をした
いが出席できるか、もし不可能な場合は山麓でス
とりあえず、洞川自然研究路整備については
2005 年 7 月 7 日(木)午後 1 時から、天川村・
洞川エコミユージアムで開催される。行きやすい
場所でもあるので、たくさんの市民が参加される
ように期待したい。弥山、前鬼は未定である。
2005 年 6 月 29 日(7 月 7 日追記)田村 義彦
ライドを使って説明をしたい」と参加者に問いか
けられた。
大台ヶ原周回線歩道区間 E-2
やり直し工事の現状
昨年度に施工された大台ヶ原周回線歩道工事
のなかで、ただ 1 箇所、E-2 区間の水路工が杜撰
で、流水で石が流されて水路として機能しないた
しかし、重要なことは、工事の様子よりは、こ
のやり直し工事の在り様である。
め、本年度に“補修”工事を行うことが 6 月の現
地説明会で発表された。
◆何故か、奈良県からの連絡がなかった
◆やり直し工事が何故“補修工事”なのか
現地説明会の資料では、「整備済みの水路工
が一部崩れている区間において補修を行う」とし
て、No.4 から No.11 までの 56.9mの水路工が施
私は昨年同様、工事の進捗状況を現地に見て、
このHPで報告したいと考えて、環境省に着工に
なれば知らせてもらうように頼んでいた。秋にな
っても知らせがないので、年を越してからの着工
工された。しかし、昨年度の工事が不充分である
ことは、このHPでも数回指摘した。確かに施工
後石が流れたが、それは施工の時点で流れること
が予想されていたのである。
かと思っていたところ、施工委任を受けた奈良県
は既に 11 月 8 日に着工していたが、何故か環境
省に連絡していなかったことが 11 月 22 日になっ
てわかった。路線バスは 23 日で止まるが間一髪
にも拘わらず「整備済み」と認定して、その上
で本年度「補修」するというのは業者の手抜き工
事を行政が是認することであり、責任は重大であ
る。その上、その工事のやり直しのために、改め
間に合った。あわてたので、カメラのバッテリー
が上がっていたのに気付かず、文字だけの報告で
わかりにくいことをお許しいただきたい。
て予算を組むのは明らかに税金の浪費である。
―36―
やり直し工事の具体的指示は、「留めのための
大きな石が流失しているため、これを新たに設置
(直径 350mm、高さ 450mm 程度)し、留め石と留
その土を流し去れば、石は昨年同様崩れるであろ
う。昨年度、他の工区でも同様の「水路工」が行
われたが、すべて土中に埋められた部分を確認で
め石の間に、現地にある石(直径 100mm∼200mm
程度)を設置する。」「設置にあたっては、大き
な石については縦方向に土中に埋め込む形とし、
現地にある小さな石についても、極力縦方向に向
きた。石の上に土がかけられていたところは記憶
にはない。
昨年の完工後、環境省の施設整備科長はこの工
区を施工した会社の社長を帯同して、すべての工
けて土中に埋め込む形にとする。」となっている。 区の状況を視察した。社長は反省したのであろう
か。残念ながら、本年度の工事に反映されている
現地説明会の資料では「留め石」をわざわざ赤で
とは思えない。
囲って、更に念を入れて「留めとなっている大き
な石が現状で流失しているため、新たに設置す
ところが、昨年度の工事指示書の「水路工」に
は、文字こそないが図面で上記の指示と同じこと
・やり直し工事区間が短く、水路としての一貫
性に欠ける。更に前後に長く工事するべきであっ
た。No.6∼No.7 間は、昨年度「水止工」であっ
たために本年度の工事対象になっていないが、水
が明記されているのだ。即ち、昨年度の工事は、
指示通りしなかった手抜き工事であり、本年度の
工事で改めて昨年度の指示を実行するということ
である。「溜めの石が流失」したのではない。指
路が歩道面より高くなっている。水路全体をよど
みなく雨水を流すことを目指せば、いかに「水止
工」区間であったとしても「水路工」として工事
をやり直すべきであった。「水路工の補修工事で
示よりも小さい石をただ並べただけで埋め込んで
いなかったので流されたのである。
この様な昨年度の工事の手抜きを「完工」と認
あって、水止工は関係ない」という、正にお役所
的杓子定規の発想である。雨水が路面を流下する
現状を肯定するのか。工事対象外の No.0∼No.4
も水路が歩道面と同じ高さである。
めた奈良県の責任はどうなるのか。また業者のペ
ナルテイはどうなるのか。昨年度の不充分な工事
のやり直しであるから、新しく予算をつけた補修
工事ではないはずだ。奈良県はこの事実、責任を
・水路の上部では一応指示通り、歩道面より約
20cm 低く水路が作られているが、下の部分では
10cm 位しかない。
る。」と赤で囲っている。
明らかに自覚しているはずだ。その後ろめたさが
あるからこそ、上記の赤字のウソを糊塗すること
になったのであろう。
◆やり直し工事の実情・・・全体として杜撰で納
得し難い
・工事は昨年度同様杜撰だ。一応指示通り、約
1mおきに昨年度よりも大きい留め石が配置され、
・水路右岸(谷側)の法面が土壌のままであっ
たり、土壌の上に小さな石が並べられているだけ
であって、大きな石を埋め並べて法面の土壌を守
っているところがほとんどない。流水で側方侵食
されていくのは目に見えている。恐らく、工事指
示書には何も記されていないからしなかったと業
者は言うであろう。しかし、他の工区では現場責
任者の工夫で図面にない完璧な工事がなされたこ
その間に小さな石の「敷均し」になっているが、
何故か、それらの石の表面に土がかけられていて、 とを思うと、この業者のおざなりな姿勢には納得
できないものを感じる。
指示通り石が土中に埋められているのかどうか、
うかがい知れない。仮に昨年度同様、石を地面の
上に並べて、隙間を土で埋めたとすれば、流水が
―37―
・No.4 では図面にない排水ロが作られている
が、水衝部の石組みが杜撰で台風が来れば崩れる
であろう。他の排水路共々、何故もっとしっかり
明日、11 月 25 日、奈良県は中間チエックをす
るという。完璧な工事を願うだけである。
その 5 日後の 11 月 30 日にドライブウエーが閉
した工事ができないのか! 他の工区では 4200
ミリの豪雨と積雪に耐えたのだ! この杜撰な工
事を承認すれば、来年度、再び「補修工事」が必
要になるのは明らかである。まさか、それを狙っ
鎖されるので、来年 4 月下旬まで、市民は工事の
実態を見ることができなくなる。
同時進行で施工されている区間Iのロープ敷設
現場には、残念ながら下山バスの時刻と体調不良
ているのではあるまい。いま、完璧な工事をする
べきである。
・ついでにいえば、No.21∼No.24 の「水止
工」の石が小さいし数も少ない。
のため行けなかった。行き会った登山者に聞くと、
手で支柱の穴を掘っていたという。いつもながら、
現場の職人さんのご苦労には頭がさがる。
2005 年 11 月 24 日
田村 義彦
本年度のやり直し工事の発注と工事の実態は共
に杜撰の印象を拭い難く、納得できない。
―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―・・―
大台ヶ原周回線歩道区間 E-2 再度のやり直し工事行われる
2005 年 11 月 25 日、区間 E-2 補修工事につい
て奈良県の中間検査が行われた。通常、中間検査
図面に指示のなかった水路右岸の法面の土壌
には石が埋込まれていた。水路下部は 20cm に掘
は、施工委任を受けた奈良県が単独で行うもので
あるが、今回は急遽、環境省も立ち会った。
本会の指摘(「大台ヶ原周回線歩道区間 E-2
やり直し工事の現状」)が現地で確認されて、そ
り下げられ、施工範囲外の 5m程の区間が、業者
の奉仕で手直しされていた。昨年度「水止工」で
あったため今年度の工事対象にならなかった
No.6∼No.7 は、傾斜が緩いために並べられた石
の場で奈良県から業者にやり直しが指示された。
が今のところ安定しているので暫く様子を見るこ
業者は翌 26 日から再度のやり直し工事に入った。 とになった。
昨年の着工以来三度目だ。2 日後の 28 日、環境
省は奈良県、業者並びに本会を召集して、異例の
23 日に本会が現地を見てから今日までの僅か
現地調査を行った。すでに 2 日間でかなりの部分
の手直しが行われていたが、更に 5 人ほどの職人
さんが、ゲンノーを振りながら手作業で工事を進
めていた。水路工の留め石は指示通りの大きさの
石に替えて根入れされ、自然石敷並べも埋込まれ
ていた。
5 日間の短いドラマであったが、関係者の迅速で
真摯な対応で事態が改善の方向に向かったことに
感謝したい。関係者の願いをこめて、石組みが今
冬の強い凍上に耐え、春を迎えることを祈りたい。
2005 年 11 月 28 日
田村 義彦
―38―
“安全信仰論”で混乱した現地検討会
―― 国と地方の役割の明確化を望む ――
環境省は 2005 年 8 月 10 日・11 日の両日に大
ところが、4 箇所に減らされた奈良県は不満に
台ヶ原の筏場と大峰山系の前鬼で現地検討会を連
続して開催した。多忙な来住弘之さんに無理をお
願いして筏場に参加することができた。
思って、奈良県原案も検討してくれと、抜き打ち
の実力行使に出たのである。しかし、これは不当
な行為である。環境省の決定に不満であれば、事
前に環境省に対して復活交渉を事務レベルで行う
(1)筏場 2005 年 8 月 10 日
【環境省の整備方針と整備区間】
歩道整備の対象地は大台ヶ原筏場線、いわゆる
筏場道の登山道入口から釜ノ公谷出合までの約4
べきであって、現場に来て、事情を知らない参加
者(自然保護団体、山岳会、研究者)の前で行う
べきことではない。
検討会は、まず、釜ノ公谷出合まで登って、帰
km、歩いて片道約1時間の第3種特別地域である。
路に個々の整備個所について説明が行われ、意見
検討会冒頭、環境省近畿地区自然保護事務所岩
を述べる形で行われたが、それとは別に、この行
田施設科長から「環境省はこの歩道を中・上級者
政の不一致について何度も激しい議論が交わされ
向きの登山道と規定して、崩壊したため通過が困
難な個所において、必要最低限度の整備を行う」
と整備方針が述べられた。
た。
環境省は参加予定者に対して、設計図面・現場
【関係者の考え】
北村林業・・・この歩道は北村林業の所有地であ
写真などを事前に送った。現地検討会(説明会)
は都合6回開催されたが、資料が事前に配布され
たのは今回初めてのことであり、参加者には事前
に検討する時間が与えられて有意義であった。ま
る。1960 年代は林業従事者の通い道として、単
で走れるように一部コンクリート舗装が行われた
跡が残っているが、近年の林業不振で利用頻度は
減っている。この度の歩道整備についても間伐材
た、環境省近畿地区自然保護事務所のHPに公開
されて、一般市民の参加が呼び掛けられたのも初
めてであった。前鬼で1名の一般参加があった。
の使用など協力的であるが、それ以上の強い要望
は出ていないとのことである。
川上村・・・途中の五色湯跡まで村主催の自然観
察会を行っているので歩道整備を歓迎するが、五
【奈良県の“実力行使”】
ところがここで、全く予期せざる事態が生じた。
奈良県が県の原案の配布を突然環境省に求め、
突然のことに当惑する環境省を他所に、強引に資
色湯跡から奥については要望はない。県の 14 箇
所についても村の要望は入っていない。村の観光
案内図に三之公谷と並んでこの谷も案内されてい
るが、三之公のようにトイレ、ベンチを設置する
料を配布した。何故、この様な事態に至ったかに
は理由があった。
今春、環境省・奈良県・川上村・設計業者四者
で現地調査を行い、奈良県は 14 箇所の整備要求
考えはない。
奈良県・・・この歩道の道路管理者であるので、
事故が起きないように、安全な施設整備を望む。
を環境省に上げた。環境省はそれを審査して 4 箇
所に絞った。そしてその 4 箇所について環境省は
現地検討会を設定したのである。
三位一体改革に伴う国と県の役割について環
境省近畿地区自然保護事務所は県に対して役割を
まだ明確にしていないようである。そのために、
奈良県の実力行使はその間隙を突かれたともいえ
―39―
る。一方県は、施行委任返上をほのめかしながら
も、工事量の増加を強く要求して本音が窺い知れ
ない。直轄事業を返上する自治体もあれば、誘致
後程、前鬼のところで書くが、当然強い整備要
求を出すであろうと予想した地元が橋は要らない
と言い、過剰整備に反対すると予想した修験道の
に手を上げるところも出るであろう。国立公園は
国がやれと言う自治体と地域の財産と考えて熱意
をもってやる自治体に二極分化が進むのではない
か。
行者さんが最大限の整備を要求したり、既成概念
というか先入観が見事に粉砕されたのがこの度の
現地検討会であった。やはり、立場の違う人が集
まって、利害を抜きに率直に話し合うことは必要
大台ヶ原については、従来永い間、環境省
(庁)が奈良県に任せっきりできたのは事実であ
る。その間の奈良県の努力、功績を決して否定す
るものではない。県は大峰・大台に愛着を持って
である。その意味で、この度はいささか混乱した
が、今後も現地検討会を継続してもらいたい。そ
のためには、国の整備方針の説明と、合意形成を
図るために市民の意見を徴するのが目的で、多数
いるであろう。しかし、県が市民の意見を排して
やってきたために過剰整備になっているのもまた
事実である。
しかも、既成施設の国への移管ができず、維
決ではなく国が責任と権限をもって最終決定をす
る、という原則と性格を事前に説明すべきであろ
う。
持管理に県が予算を組まなければ荒廃することは
目に見えている。今後は、国が全責任を持つのが
基本だと考えるが、問題の根が深く、将来展望も
方向性が問われているだけに楽観できない。この
屏風滝のすぐ上流で幅、高さ共 30m位の岩盤
の大崩落が起きて、歩道が壊れていた(1 号地)。
雑練石積工で整備されることになった。
尾根の上に立っていた大木が台風であふられて、
際県は不細工な実力行使は止めて、国と地方の役
割について本音で詰めてもらいたい。大台・大峰
の原生的自然が保全されるか、それとも三位一体
改革で荒廃するのか、いま岐路に立たされている。
根が食い込んでいた岩盤を破壊したのではないか、
と見られた。家位の大きさの巨岩が谷の真中に落
ちていた。大杉谷を壊滅的に破壊した昨年の台風
のすさまじさに圧倒された。
【整備内容】
崩壊もしていない、通過困難でもない個所を
何故整備するのか
【安全至上主義の登山団体】
2 号地は現時点では不用だと思ったが「やがて
崩れる」という“登山団体”の意見で施行される
環境省の 4 案のうち、一番奥の釜ノ公谷出合
手前の張出歩道(4 号地)については参加者は全
員が賛成した。増水で崩落した石積み・・・100
年前の土倉古道の修復について私ひとりコンクリ
ことになった。山道はすべて「やがて崩れる」。
「やがて崩れる」ので整備するのであれば、この
登山道を下から上まですべてを整備しろ、と叫ん
でしまった。
ートの使用に反対したが多勢に無勢であった。
そのやや下流の歩道が一部崩落した地点(3 号
地)に溝型鋼橋を設置する計画について、多くの
環境省は整備方針に、「中・上級者向きの登山
道」と規定して、「崩壊したため通過困難な個
所」と明記している。「崩壊もしていないし、通
参加者から、すでに捲き道ができているので橋は
要らないのではないかとの意見が出て、現状のま
まで様子をみることになった。県は設置を強く求
めたが、村が山人の素朴な感性から不要論を唱え
過困難でもない個所」を何故整備するのか。しか
もその整備を求めたのが“登山団体”であること
には唖然とした。最近の登山はかくも安全至上主
義に堕落したのか。整備で安全が確保された登山
論議を導いたのが対照的で、強く印象に残った。
道を登るのは既に登山ではない。このような過剰
―40―
整備は税金の無駄使いでしかないが、こともあろ
うに、何故“登山団体”が荷担するのか。
うが、それまでにどれほどの時間がかかるのであ
ろうか。
また、「最近中高年の沢登りが増えたのでそち
らの整備もしてほしい」との発言があったので、
「冗談じゃない」と声を荒げてしまった。中高年
の登山者が稜線に飽きたのか、最近沢に入るのが
(2)前鬼 2005 年 8 月 11 日
筏場の翌日、前鬼で現地検討会が開催された。
河内由美子さんに無理をお願いして、4 時起きで
長躯前鬼に 9 時に入った。
増えたのは事実で、沢登りを専門とするグループ
が遭難多発を心配していると聞いていた。かつて
山に登山道がなかった時代に、沢を詰めて頂きに
立ったのは日本固有の登山形態であったが、強烈
【環境省の整備方針と整備区間】
整備区間は前鬼の小仲坊から三重滝まで往復4
時間の歩道である。環境省は、行者さんと、中・
上級の登山者を対象にした歩道と規定し、特別保
な体力とルートを選ぶ感性と経験が必要であり、
カネとヒマをもてあます定年退職者には遭難必至
の愚行である。その連中のために税金を使って何
をせよと言うのか!冗談じゃない!(因みにこの
護地区であるから「自然環境・安全確保を配慮し
た必要最小限度の整備」を行う、とした。
登山団体は日本最古の山岳会であり、私は恥ずか
しながら 43 年間在籍している。そして現地検討
会に呼ぶように環境省に頼んだには誰あろう、私
自身である。慙愧の念に堪えない。)
実は、この検討会に修験道の行者さんの参加を
求めることを私は環境省に進言し、3 名の行者さ
んが参加して戴けた。行者さんに来て戴いたのに
は理由がある。昨年、行者さんから本会の資料
このあたりから国の計画と県の復活要望案が交
錯して、県の説明を聞く意欲を失った。14 箇所
を改めてどう決定するかは、環境省が持ちかえっ
(『修験道と登山を冒涜する奥駈道整備』)を送
るようにとのメールを戴き、本会の考え方を論議
して戴いて、同感だ、とのご返事を戴いていた。
また、昨年奈良県が設置した「大峰山系環境共生
て検討する。従来の現地説明会では、環境省はほ
とんど現地で決定を下した。例え反対意見で計画
を取止め、変更になる場合でも、環境省は現地で
即座に決定を下した。しかし、この度はそれがで
推進計画懇話会」委員の修験道代表の住職から
「行者のなかに奥駈道の過剰整備を心配する声が
ある」と率直な発言があった。私は事前に環境省
に対して「この度の整備ルートは行場である。行
きなかった。一旦却下した県の 10 案の復活を現
地で認めることなどできるはずがない。かくも混
乱した現地検討会は初めてあり、その原因は県の
強引で不当な実力行使にある。環境省の毅然とし
者さんたちが過剰整備を要求するはずがない。行
者さんたちの意見を尊重してほしい。自然保護団
体、登山者としての発言を控える。」と進言して
いたのである。
【行者さんへの呼び掛けと意外な発言】
た決定を期待する。
【想像を絶した本沢川の変貌】
昨年の連続した台風は上流から膨大な量の土砂
ところが、冒頭の挨拶で、行者さんの代表から、
環境省の方針「必要最小限度の整備を行う」を受
けて、「最大限の整備を行ってほしい」と発言が
を運んで谷を埋め、水が姿を消していた。一変し
た谷の姿に呆然とした。五色湯跡では、いままで
歩道からでもかすかな硫黄の臭いがしたが、土砂
で埋められて臭いはしなかった。やがて流水は長
あった。険しい山道を歩く困難があるからこそ修
行なのだと考えていただけに驚いた。私は洒落と
理解した旨発言したが、洒落ではなく本心である
と再発言があった。
い時間をかけて砂利を更に下流に押し流すであろ
―41―
今更言うまでもなく、私は勿論、あらゆる整備
に反対しているのではない。過剰整備に反対して
いるのである。また行者さんも、安全至上主義で
過剰整備を求めているのではない、そこそこの整
備を求めているのだと私は信じたい。
市民の前で展開したこの醜態は、自己の目的達成
のために手段を選ばず、現地検討会の崇高な目的
をゆがめる暴挙と言わざるを得ない。
【下北山村の大量動員】
【整備内容】
誰でもが行けるコースではない
検討会は三重滝まで行って、帰路説明する形で
一方、県の呼び掛けを受けたのか、下北山村関
係者の 10 名近い大量参加があった。村は、世界
遺産登録をうけて前鬼の観光ツアーを計画してい
るとのことなので、この度の整備に期待した組織
行われた。ところが、行程の途中で私の肺気腫が
悪化し、持参した酸素 2 本を使い切ったので引き
返した。以下、河内 由美子さんにレポートして
戴く。
増員であろう。
世界遺産登録は保全が目的である。ところが日
本では金儲けと受け止めている。特別保護地区の
なかに観光客の「安全確保」のために歩道を過剰
当地を始めて訪れたのは二十歳そこそこでした
ので、岸壁を登るのに下から押し上げてもらわな
ければならなかったコリトリ場の行場と、北俣川
整備することは許されない。村も観光客誘致を理
由にしにくかったのか遭難者搬出を理由にしたよ
うであるが、山岳地帯では遭難は不可避であり、
当然自己責任であるが、地元自治体の責任も不可
を遡行の真似事をしながら清流の冷たさに悲鳴を
上げたことなど、断片的な記憶しかありませんで
した。26 年前に感じた水の冷たさを、時季は同
じでも今回は全く感じませんでした。険路・悪路
避である。昔のような善意に基づく出動の時代は
過ぎた。すでに各地で実施されている冷静な対策
を講ずべきであろう。そして、遭難を云々する前
に、まず遭難の可能性のある場所に観光客を誘致
ということは承知のコースでしたので、県が昭和
58 年に改修する前のことで、桟橋が老朽化して
いたことは覚えていますが、あるがままを受け入
れて歩き、当然のことながら登山道の整備につい
すべきではない。頻度の低い登山者の遭難対策論
議はその後のことであろう。
このコースの入り口に必要最小限度の内容の、
小さな警告板が必要である。大きな看板に多くの
て何か思い巡らしながら歩いた記憶はありません
でした。
情報を書いても人は読まない。
【奈良県の再度の不当な実力行使】
驚いたことに奈良県は前日の筏場に続いて、再
先達なしで巡ったり、地図の読み取りが出来ない
ハイカーが巡るコースではないと、私なりに再確
認しました。もともと大峰は、油断できない危険
な山です。だからこそ役の行者が開山して近年ま
度、資料配布を強行した。筏場でその不当性を私
は指摘し、奈良県は認めておきながらの再度の資
料配布に私は怒りを覚えた。現場の論議も混乱し
たようである。現地検討会終了時にその不当さを
で、その姿を変えることなく伝えられて、守るべ
き世界遺産として登録されたのでしょう。現地説
明会の中で、「誰にでも来られるように整備して
ほしい」「誰もが迷わないよう案内板を立ててほ
非難した。これでは、法律に基づいて業を為す立
場の役人の所業とは到底思えない。復活折衝につ
いては行政の手続きに基づいた手段があるはずで
ある。どこかの政党か組合のように村に動員をか
しい」という意見を何度も耳にしながら、認識の
差を感じました。毎年のように起こる遭難対策の
ご苦労を承知で言わせてもらえば、「人に優しい
登山道」等という考えはそれこそ遭難に手を貸す
この中上級者コースは大勢のツアーや熟知した
けたり、現地検討会を復活折衝の場に利用したり、 ようなもので、「人に厳しい登山道」、だから覚
―42―
悟してかかるようにという周知こそが必要だと思
いました。
ここは出来るだけ耐久性の良いものを使用した方
がいいように思いました。鉄の棒を渡した梯子で
は、足元が透けて恐怖感があるのでは、という声
具体的な整備についてですが、環境省が配布し
た資料の 1 号地、コリトリ場への下り:渓流部斜
面で崩壊消失した桟橋箇所は、今後も崩壊が続く
と予想されるので地盤が落ち着くまで桟橋工事は
もありましたが愚論だと思います。
せず、路線変更とそれに伴う鎖の整備をするとい
う整備内容に対して、参加者から「コース取りが
おかしい」と少し上部の足場の良いコースを使い
途切れた桟橋部に取り付くという案がでました。
について先に話が進み始め、驚きました。県のや
り方は本当にフェアーではない、幻滅しました。
その後も環境省案にはない案内表示板や巻き道の
改修、踏み跡程度でいいとする環境省の案に路面
地元から環境省のコース取りでは遭難者を担架で
運び上げられない、一刻一秒を争う、という声が
ありました。
が濡れると絶対滑る・怪我をしたら誰が責任をと
るのかという地元の意見まででました。山での責
任のなすり付けほど醜いものはありません。過去
の悪い事例を作ってしまったのも登山者でしょう。
2 号地:三重滝降口の岸壁地で老朽化した桟橋
設置箇所での鉄梯子の整備については、鉄の棒を
2 本渡した横板では滑るので木材ではどうか、と
いう意見が出ました。焼付け程度の防腐加工しか
情けないなあ・と思いました。
許されない木材では耐久年数がそれ程長くないこ
と、又行者さんからは丸太も滑るので、滑らない
仕様を施してほしいと意見がありました。かなり
の急傾斜地、補修改修が容易ではない箇所だけに、
でしょう。自然林の大規模伐採を食い止める為、
保護と保全を目的に平成 3 年に 1 億円の国費で買
い上げた宝ですから、出来るだけあるがままの姿
であってほしいと願わずにはいられません。
三重滝に着き小休止をとっていると県担当者が
配布した資料を基に、県職員と参加者一部で改修
先にも書きましたが、このコースは誰でもが行
けるコースではない・という共通認識をもつべき
2005 年 8 月 13 日 河内 由美子・田村 義彦
通行止めの筏場道を登る
T. Kazushino
大台ヶ原への登山道として古くから開けた筏場
道。その筏場道は昨年の相次ぐ大型台風により橋
が落下するなどして通行不能となり、一年近く経
った今も開通の目処が立たないまま、通行止めが
した。登山口は通行止めの看板とロープにより閉
鎖されていますが、看板は「釜ノ公吊り橋より先
通行止め」となっています。登山道に入り白倉又
谷出合の橋の上から望む本沢川。素晴らしい渓谷
続いています。そこで私は現在の筏場道の状態を
自分の眼で確かめようと思い、5 月 13 日に入之
波から筏場を経て、筏場登山口より大台ヶ原山頂
に向けて通行止めの登山道を歩いてみることにし
美です。
渓流に沿って登山道を歩いていくと、所々に倒
木や落石はあるものの、道そのものに目立った崩
れは無く、五色湯跡、黒倉又谷出合と順調に進み
ました。
早朝の筏場登山口には他に人は誰もいませんで
ました。
本沢川対岸の自然林。藤の花が彩りを添え、急
―43―
峻な山肌に聳え立つ栂の深い緑と新緑のコントラ
ストが印象的です。水の流れが、あたりの静けさ
を際立たせています。
台辻に到着です。
大台辻より釜ノ公吊り橋への下りを禁止するロ
ープと警告板。西谷方面と川上辻方面には×印
釜之公谷手前の桟道には、新しく鉄橋と鎖が設
置されています。釜之公谷出合に着くと、かつて
の木の吊り橋は頑丈な鉄製の橋に付け替えられて
おり、橋の向こう側に「これより先 通行止め」
がなく通行可能のようです。
一息ついた後、川上辻へ向けて歩き出すと、ミ
ズナラやブナの巨木がなぎ倒されて道を塞ぎ、ど
こが登山道かわからなくなっています。倒木を迂
と書かれた看板が見えます。
そのまま進むと登山道は本沢川から離れ、三十
三荷を経て釜之公谷側へと転じて、栂の巨木が立
ち並ぶ山腹を通って行きます。登山道左手の尾根
回し、なだらかな尾根をさまようと、満開のシャ
クナゲが実に誇らしげです。このあたりはまさに
桃源郷。離れがたい気分です。
再び登山道を見出してしばらく歩くと、突如道
筋にシャクナゲの群生が見事な満開です。
通行止めの荒れた登山道をひとり手探り状態で
歩いていく緊張感は、思った以上です。道の両側
に咲くシャクナゲ、アカヤシオ、ミツバツツジの
の真ん中に看板が現われます。近づくと、なんと
「安心橋付け替えの為、通行不可」のお知らせで
す。こんな中途半端な場所で“お知らせ”頂いて
も困ります。川上辻へはゲンコツ峠から迂回ルー
優しい花に救われながら無事銀嶺水に辿り着くと、
あたりは一面眩いばかりの新緑です。
銀嶺水よりすぐ上で橋が落ちています。昨年 6
月の会長の報告「“通行禁止”の筏場道を入之波
トを登るしかありません。とぼとぼと歩きながら
水場に差し掛かると、向こうから単独の登山者が
降りて来ます。今日山中ではじめて出会った人は
「川上辻から筏場道を下って」きました。安心橋
まで歩く」の通り、橋が元あった高さに綺麗なト
ラバースルートが付いており、そこを速やかに通
り抜けました。
落橋を過ぎてからは道を塞ぐ倒木の数も減り、
は通れるのです。
足取りも軽くなり、快調に進みます。アケボノ
ツツジが岩肌を彩り、登るにつれシャクナゲの花
も赤い蕾が目立ちます。山抜けの場所には山肌に
次の谷に掛かる橋も無事でした。が、ほっとした
のも束の間、目の前で突然道が寸断されています。
そこは谷で、手前の斜面が大きく崩壊して橋が橋
脚コンクリートブロックごと流されているのです。
ロープが張られています。道を塞ぐ倒木も見られ
ません。金明水を過ぎ、ようやく問題の安心橋で
す。安心橋は工事中(写真左)で、その横に作業
用の仮設の橋が架かっています。通ると上下に揺
谷はかなりの急傾斜で、底は流された土砂が溜ま
り、橋はどこにも見当たりません。自然の猛威の
前に立ち尽くします。
ここは谷を大きく高巻くしかありません。滑り
れる“ちょっと心配”橋ですが、渡り終えてひと
安心。
「安心橋」とはよく言ったものです。
あとは残りの道をひたすら歩くだけです。まだ
冬枯れ色の稜線が、山頂に近づきつつあることを
やすい山の斜面を登りに登って上方で慎重に谷を
渡り、対岸の急な植林の中を下って登山道に降り
立ちました。何とか無事渡り終えて、やれやれで
す。
教えてくれます。川上辻に出る前にバイケイソウ
の芽吹く“ある場所”に立ち寄り、リュックを降
ろします。今日一日を振り返ると、こうして無事
山頂に辿り着けたことを、自然に感謝せずにはい
さらに道を進んでいくと、また橋が落ちていま
す。これで三つ目です。ここは以前から落ちてい
た橋のようで、手前の橋脚のみが谷に落ち、斜め
に傾いています。橋と山側との隙間に降りて渡る
られません。
時刻は午後 3 時過ぎ。柔らかな春の日差しが大
台ヶ原の原生林を包んでいます。
平成 17 年 5 月 22 日
と、後は淡々と歩き通行止めのロープを跨いで大
―44―
2005 年 5 月 13 日
環境省自然環境局近畿地区自然保護事務所
所長 亀 澤 玲 治 様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長
田村 義彦
「大台ヶ原周回線歩道整備基本計画」についての要望書
記
(1) 融雪後の歩道補修について
昨年ご尽力いただいた周回線歩道はゴールデンウイークの入山者に好評でした。4200 ミリの豪
雨に耐えた歩道は全体的には、例年より多い積雪にも耐えましたが、当然のことながら部分的には
崩れたところがあります。弊会HPで「4200 ミリの豪雨に耐えた空積み石歩道は冬の積雪にも耐
えている」とレポートしています。この現状はすでにご承知であり、対策をご検討のことと思いま
すが、梅雨をひかえて適切な補修工事を要望します。
(2) 解説標識の記載内容の見直しについて
昨年、「大台ヶ原サイン計画」が策定され、それに基づいてサインが設置されました。本会は
2001 年 12 月 5 日に「大台ヶ原・東大台歩道沿いの普及啓発看板の記述についての要望書」
、2004
年 1 月 4 日に「大台ヶ原サイン計画策定に当って、解説標識記載内容の訂正並びに撤去の要望書」
を提出し、同年 1 月 9 日に、「大台ヶ原のサインの再整備を順次行っていく考えですが、記載内容
については、その際に必要な見直しを行う予定です。
」と回答を得ました。
解説標識の記載内容の間違いについては、上記の要望書に詳述しましたので繰り返しませんが、
その間違った記載内容によって永年にわたって多くの入山者に間違った認識を与えてきました。そ
の責任は重大です。最早一刻の猶予もできません。大台ヶ原自然再生検討会との整合性も図られる
べきです。植物の名称の記載間違いの標識ははずしてありますが、それ以上に重大な間違いをおか
している解説標識を永年放置しているのは無責任です。
昨年同様懇話会を組織して衆知を集め、現時点での適切な解説に一刻も早く糺すことを強く要望
します。
(付記)協議会参画について 本会は 2005 年 1 月 28 日に大台ヶ原自然再生推進計画に基づく大台
ヶ原交通利用対策協議会並びに利用適正化計画検討協議会参画への要望書を提出しましたが、未だ
回答を得ていません。その後の経過についてご教示ください。
以上
―45―
事 務 連 絡
平成 17 年 6 月 8 日
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長田村義彦様
環境省自然環境局
近畿地区自然保護事務所
「大台ヶ原周回線歩道整備基本計画」についての要望書に対する回答
日頃は吉野熊野国立公園の保護管理にご理解とご協力をいただき誠にありがとうございます。
さて、平成 17 年 5 月 13 日付けでいただいたご意見等について、下記のとおり回答しますので
ご理解の程よろしくお願いいたします。
記
(1)融雪後の歩道補修について
要望書とともに頂いた情報をもとに、平成 17 年 6 月 3 日に当事務所職員が現地調査を行
いました。その結果も踏まえ、歩道補修について次のとおり対応する考えです。
区間 C
:6 月 3 日の現地調査の際に、職員により、現地の石・倒木を用いて簡易な補
修を実施した。今後も継続的な状況把握に努め、必要に応じてこまめな補修
を行う。
区間 E−1:登山靴などの装備であれば安全に利用できる状態と思われるため、現時点で
あえて手を加えないが、今後も継続的な状況把握に努め、必要に応じてこま
めな補修を行う。
区間 E−2:水路工については、根石の再整備等含めた設計・整備を本年度に行う。
また、横断側溝工については、6 月 3 日の現地調査の際に、職員により、堆
積土砂の除去を実施したが、今後も継続的な状況把握に努め、こまめに堆積
土砂を除去する。
(2)解説標識の記載内容の見直しについて
「大台ヶ原自然再生推進計画」との整合を含めて修正が必要な解説標識の見直しについて
は、今年度早期にその作業に取組みます。
(3)協議会参画について
大台ヶ原における自動車:交通対策、利用調整地区の設定に向けた検討については、現在、
奈良県、上北山村などの関係機関と調整を行いつつあるところですが、現時点では、今後の
具体的な進め方やスケジュール等の見通しは立っていません。貴会から協議会への参画要望
をいただいておりますが、このような状況のため、ご回答できる段階にないことをご理解下
さい。
以上
―46―
2005 年 6 月 13 日
環境省自然環境局近畿地区自然保護事務所
所長 亀 澤 玲 治 様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長
田 村 義 彦
大杉谷歩道整備についての要望、並びに平成 17 年 6 月 8 日付回答について
記
【Ⅰ】大杉谷歩道整備についての要望
1979 年の大杉谷吊橋事故に関して、裁判所が行政の管理責任について間違った判断を下したた
め、大杉谷歩道は過剰整備をされましたが、昨年の度重なる台風の豪雨によって壊滅的な損傷を受
けました。25 年の時を経て、大台ヶ原の原生的自然が、事故と裁判にまつわる人間の愚劣さを流
し去ったように感じます。
現在、三重県が日出ケ岳経由で上流側から補修作業に入っていると聞きますが、昨年 10 月の
「三位一体改革」で、今後は環境省が直轄事業として行われることと考えます。
かつて、神戸地裁の裁判官は実地検証を行わないまま、この歩道をハイキングコースと認定し、三
重県は 3 億 7 千万円を投じて、ハイキングコースにふさわしい過剰整備を行いました。しかし言う
までもなく、このコースは荒々しい危険に満ちた登山道であります。補修工事が、原生的自然にそ
ぐわない過剰整備にならないよう、必要最小限度に止めていただくように切望いたします。昨年の
大台ヶ原周回線歩道整備の成果をここ大杉谷でぜひ生かしていただくように切望いたします。
【Ⅱ】平成 17 年 6 月 8 日付ご回答拝受致しました。
(1)融雪後の歩道整備について、
区間C
:早速の現地の補修ご苦労様でした。「今後の継続的な状況把握」と「必要に応
じたこまめな補修」に期待いたします。本会も、今後とも適切な情報を提出
すべく心がけます。
区間E−1:本会も同じ様に考えております。今後とも適切な情報を提出すべく心がけます。
区間E−2:折角の周回線歩道整備が、この区間の水路工によって画龍点晴を欠いているの
は残念であります。今年も集中豪雨が予報されています。4200 ミリの豪雨と積
雪に耐えた他の工区の実績を生かして、この工区が立派に完成されることを期
待します。
(2)解説標識の記載内容の見直しについて
本会は 2001 年 12 月 5 日の要望書提出以来、機会ある度に要望してきましたが、未だに実現し
ないことは遺憾であります。国が利用者に対して誤った教育宣伝を行うことは由々しき問題だと言
わざるを得ません。昨年度の「サイン計画懇話会」の積み残し案件でもあります。
現在のような非科学的、情緒的な間違った表現を正すためには、当然しっかりした論議が必要で
あります。「早期にその作業に取組まれる」ことを期待、切望いたします。
(3)協議会参画について
各関係機関との調整にご苦労されていることは拝察いたします。
―47―
県並びに地元の村は大台ヶ原自然再生検討会・利用対策部会に「関係機関」として参画し、大台
ヶ原自然再生推進計画に賛同しています。それらの関係機関を含む協議会の組織化すら見通しが立
たないとは信じ難いことです。それでは、大台ヶ原自然再生計画は絵に描いた餅になってしまいま
す。
マイカー規制の実施と利用調整地区の設置は共に急務でありますが、マイカー規制に時間を要す
るようであれば、関係機関が少ない「利用適正化計画検討協議会(仮称)」の組織化を先行させ、
事業を進めては如何でしょうか。日本で初めての利用調整地区設置に成功すれば、必ずやマイカー
規制実施に良い影響を与えることでしょう。
貴省の主体的積極的な、粘り強いご努力を切望いたします。
以上
2005年6月22日
環境省自然環境局近畿地区自然保護事務所
所長 亀 澤 玲 治 様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長
田 村 義 彦
西大台登山道複線化防止のためにロープ設置を望む要望書
記
本会は2005年6月17日の現地調査で、西大台七つ池∼開拓間の登山道の数カ所で、入山者が登
山道の岩の段差を避けて横の斜面に踏み込む複線化の傾向を確認しました。西大台においては複線化現
象は近年まで見られなかったことで、観光業者が募集した団体客が経ヶ峰コースを利用して入山するケ
ースが増加したために生じた“観光地化現象”であると考えます。
従来から開拓付近で、登山道を示すために黒色のロープを立ち木にくくるかたちで設置されています
ので、同様なかたちのロープの設置を望みます。
東大台にみられるロープ柵と同様のものが西大台に設置されることには原生的景観維持の意味から本
会は賛同できません。しかし、西大台は近い将来、利用調整地区として質の高い利用が予定されている
だけに、このまま放置して原生的自然を荒廃させることは許されません。最低限の処置としてのロープ
設置が緊急の課題であると考えます。現在の踏み跡程度の端緒の段階で防止しなければ、東大台の二の
舞になる危険性があります。
また、同区間の一箇所で、登山道のすぐ傍のギャップで数十本の稚樹が生育しているところがありま
す。登山道の路肩で登山者に踏まれる危険性がありますので、併せてロープの設置を希望します。同時
に、ギャップによる植生変化の解説板を設置すれば有意義であると考えます。
以上
―48―
2005 年 9 月 20 日
環境省自然環境局近畿地区自然保護事務所
所長 出江 俊夫殿
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長 田村 義彦
利用適正化計画検討協議会(仮称)参画への要望書
記
貴事務所が先般公表した予定によれば、大台ヶ原の利用調整地区設置に関わる第1回利用適正化計画
検討協議会を 10 月に開催するとある。すでに9月下旬である。
本会は過ぐる 2005 年1月 28 日付で、利用適正化計画検討協議会(仮称)への参画を求める要望書
を既に提出しているが未だに回答がない。
本会は、自然公園法改正以前の 1978 年 12 月に改訂した『大台ヶ原山の自然保護と利用への提言』
においていち早く利用調整地区指定を提言し、大台ヶ原自然再生検討会発足後は利用対策部会委員とし
て、一貫してその実現に努力してきたことは貴事務所も承知している通りである。
大台ヶ原自然再生推進計画の「基本的な考え方」に謳われている「多用な主体の参画」の理念は、意
のままになる NPO だけを侍らせることではない。
本会の利用適正化計画検討協議会への参画を強く要望する。
以上
2005 年 9 月 20 日
環境大臣
小池 百合子殿
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長田村 義彦
環境省近畿地区自然保護事務所の
真の市民参画・協働を拒否する強権姿勢への逆行に抗議する
記
【協働の歴史】
2001 年 7 月、新任所長の赴任をもって大台ヶ原にコペルニクス的変革が起きた。本会は 1969 年創
立以来 35 年間に亘って環境省(庁)に対して多くの提言を続けてきたが、その多くは拒絶されてきた。
しかし、環境行政に行き詰まった環境省はやむなく情報公開、市民参画政策をとらざるを得なくなり、
本会との対話・協働が可能になった。
爾来4年間、三代に亘る所長の下で、本会は大台ヶ原自然再生推進計画の策定、大台ヶ原周回線歩道
整備基本計画の策定、実施などに誠意をもって臨み、緊張関係を保ちながら協働に努力し、環境省も忍
耐をもって本会の異論に耳を貸し、協働の成果を積み上げて来た。
―49―
【協働を拒否し、強権姿勢に逆行】
ところが、本年度の人事異動による所長赴任をもって、環境省近畿地区自然保護事務所(以下、近畿
事務所と略す)は豹変して、本会との協働を拒否し、実績を否定する挙に出た。
それが霞ヶ関の政策転換であるのか、或いは、大台ヶ原再生推進計画策定までは本会との協働を装い
ながら、策定後は本会を排除せよとの基本政策があったのかは知る由もないが、いずれにしても、この
様な逆行は環境省が謳う市民参画・協働がウソである証明となり、これ以上の市民に対する欺瞞、愚弄
はない。現在、各地で進められている市民参画による各種の自然再生事業に大きな影響を与えるであろ
う。
(1)シンポジュウムからの排除
本会排除の最も端的な例は 9 月 24 日開催の「大台ヶ原と世界遺産大峰奥駈道の利用を考えるシンポ
ジュウム」からの排除であろう。
本会は大台ヶ原自然再生検討会利用対策部会委員として参画し、
「新しい利用のあり方推進計画」8
項目のうち5項目は本会の提案に基づくものである。その他数々の提言をしてきた。
しかし、近畿事務所はその成果を否定すべく、シンポから本会を排除し、意に沿うイエスマンを掻き
集めた。
“自然保護団体”と称して突然登場したのは昨年作られた NPO で行政の補完作業をしている
が、そのメンバーの奈良県職員が「地域から見た賢明な利用について」講演するというから呆れる。
「賢明な利用」とは本会が参画した利用対策部会において論議、策定した政策である。勿論演者は検討
委員ではなく、この論議には全く参加していない。政策について語るにふさわしい人物とは思えない。
異をとなえる自然保護団体を排し、意に沿う NPO のみを登用することは、真の市民参画、協働の精神
に反する愚行である。真の民主主義とは少数意見の尊重である。そこに、立場の違う多くの市民が参画
する意義がある。
大台ヶ原自然再生推進計画の目標は、公共交通促進ではなくマイカー規制である。本会も「レイル&
バス」を提唱してきたが、それはマイカー規制が目的なのである。そのマイカー規制が、いま、奈良県
の卑劣な反対によって、頓挫している。その打開にこそ環境省は努力すべき時に、その怠慢を糊塗する
かの如く、恥知らずにも反対している奈良県の「後援」をもらって“公共交通利用促進キャンペーン”
を行うという。しかも、日頃マイカーを常用して、公共交通を利用したことのない面々が、高みから公
共交通利用を説くというから、その恥知らずに呆れる。ミスキャストのオンパレードでは真面目にシン
ポに参加する市民に対する愚弄である。
(2)評価委員会の軽視
このシンポについては 8 月 30 日の大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会並びに利用対策・森林生態
系合同部会で厳しい批判が出た。
「シンポは公共交通利用促進のために開かれるようであるが、マイカ
ー規制に向けて盛り上がっている気運をそぐことにならないか。
」
「マイカー規制をあきらめて公共交通
利用にシフトしたと市民に誤解されないか。
」
「公共交通利用促進はマイカー規制への第一段階であると
明記すべきだ。
」
「マイカー規制が最終目標だ。それを阻害しているのは何か。いつまでにマイカー規制
を実施するのか環境省は明らかにすべきだ。
」などの意見が出た。
ところが、近畿事務所から送られてきた評価委員宛の「案内」には、この論議を無視して「マイカー
―50―
規制」の文言はどこにも入っていない。だいいち、評価委員会で批判した当の委員宛に平然と「案内」
を送ってくる傲慢な神経も普通ではない。しかも姑息にも評価委員会当日には、既に決決定していたシ
ンポのメンバーを隠していたのである。
評価委員会はあと 1 回、来年 2 月に開かれるだけである。環境省の政策を追認せよとばかりの古典
的発想を今になって持出してきたのも、評価委員会軽視、強権姿勢逆行の表れである。
(3)施設整備現地説明会の御用化
姑息なことではあるが、施設整備現地検討会に突然、近畿事務所の意に沿う植物担当の教師2名を動
員した。登山についてのさしたる理念もなく、施設整備の専門家でもないご両人に何の助けを求めると
いうのだ。
本来現地説明会は、本会の情報公開の要望に基づいてはじめられたもので、現地でフランクな意見交
換ができた。その成果が周回線歩道整備では見事に結実した。数度の現地説明会、会議、パブコメなど
が行われ、市民の意見が 95%認められて立派な基本計画が作成された。所長の英断と聞く。施行段階
においても、インターネットによる環境省、業者、本会の協働によって国立公園歩道整備の範足る整備
が完成した。
しかし、近畿事務所はその協働の実績が気に食わないのであろうか、従来の名称「現地説明会」を
「検討会」に変えた。協働の精神を否定したい姑息な思いつきであろう。また、従来使ってきた「自然
保護団体」を「民間」に書き換え、上記の官製 NPO を「自然保護団体」と呼ぶのは姑息に過ぎる。
合意形成を図るべき折角の現地説明会を、事務所案を追認させるために御用化、形骸化するのは市民
参画の精神の否定である。
【吹き始めた新しい風を止めることはできない】
本会は、数年前から始まった国交・農水・環境各省官僚の「パートナーシップ、市民参画」の呼びか
けがアメリカのエコシステムマネジメントのコピーであって、決して官僚の本心でないことは充分承知
している。しかし、官僚と市民の協働によって大台ヶ原の原生的自然が保全されるのであれば良しとし
て、緊張関係を保ちながら可能な限り誠意を尽くして努力してきた。
しかし、今春の人事異動以後、時代に逆行する強権的発想で、協働を拒否する近畿事務所に本会は怒
りと憐憫の情を催す。本会を排除して、官僚の意のままになる者のみを侍らせ、大台ヶ原を私物化する
ことは権力欲を満たし、心地よいことは確かであろう。しかし明治以来続いてきたその古典的手法が破
綻したからこそ市民参画を求めたのではないのか。その歴史的経緯を正確に理解できず、不毛の歴史に
ピリオドを打つどころか、逆に市民排除の強権時代に戻ることを願う官僚は、これからの国を担う公僕
に値しない。
世界的に吹き始めた新しい風は最早誰にもとどめることは出来ない。時代は動き始めて、大台ヶ原で
はすでに 4 年が経った。その 4 年間の協働の実績を時代に逆行して抹殺しようとしても絶対に出来る
ことではない。必ずや歴史が、環境省近畿自然保護事務所の時代錯誤的愚行を嘲笑するであろう。
【市民の信頼を裏切った近畿事務所】
―51―
協働の基盤は信頼である。この 4 年間の協働は国立公園に関わるく全国の方々に注視されてきた。
この度の近畿地区事務所の所業は本会は勿論、それらの方々の信頼までも裏切った。
ここに、環境
省近畿地区自然保護事務所に強く抗議する。
本会は今後更に、大台・大峰山系の生態系が目先の利益のために破壊されない為に全力を尽くす決意
であることを表明する。
以上
事
務
連
絡
平成17年9月22日
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長 田村 義彦 様
環境省自然環境局
近畿地区自然保護事務所
「真の市民参画・協働を否定する強権姿勢への逆行に抗議する」について
平素より自然保護行政につきまして、ご理解・ご協力賜り厚く御礼申し上げます。
特に、近年の「大台ヶ原自然再生推進計画」の策定、大台ヶ原周回線歩道整備等に当たりましては、検
討会や地元説明会などの場を通じ、多大なご協力、ご助言を賜り深く感謝いたします。おかげさまで、
大台ヶ原の自然再生事業については、平成17年(2005)1月には多くの方々のご理解・ご協力を得
て「大台ヶ原自然再生推進計画」を策定することができ、現在、その実施段階に至っております。
この度、貴会より2005年9月20日付けで「真の市民参画・協働を否定する強権姿勢への逆行に
抗議する」文書をいただき、この中で、2001年からの、情報公開、市民参画に関する当事務所の取
り組みについて評価いただく一方、本年7月以降の取り組みについて、近年の取り組み姿勢からの後退
が見られ、これまでの信頼関係を損する行為があるとのご叱責及びご抗議をいただいたところです。
当事務所としましては、本年7月以降につきましても、
「大台ヶ原自然再生推進計画」を推進するた
め、貴職を含め、学識経験者、関係団体、地元自治体等の参画を得て「大台ヶ原自然再生推進計画評価
委員会」を発足させ、多くの方々のご意見をいただきながら事業等を進める体制を整えるなど、これま
での経緯を踏まえ取り組んできており、情報公開、市民参画等に関しての当事務所の取り組みの考え方
につきましては、それ以前と変わるものではありません。
現在、当事務所が抱え取り組むべき課題は、計画段階から実施段階に移行した「大台ヶ原自然再生事
業」など少しずつ変化してきておりますことから、実施に当たっては、これまでの考え方を踏襲しつつ、
その状況に応じ、より良き形での情報公開、市民参画等となるよう意識し努めてきたものと考えており
ます。
しかしながら、最近の取り組みが、結果として、ご指摘・ご叱責いただくこととなりましたことは、
その説明の不足、対応の不十分さ等もあったことと受け止め、今後の大台ヶ原自然再生事業の推進や歩
道整備・維持管理に向けての調整等の取り組みに生かしていきたいと考えておりますので、ご理解いた
だければと存じます。
今後とも大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会を始めとする様々な機会等において、協力、ご助言い
ただきたいと考えておりますのでよろしくお願い申し上げます。
以下、具体のご指摘につきまして、当所の考え方をご説明・お伝えいたします。
―52―
(1)シンポジウムについて
本シンポジウムは、毎年多くの方々が訪れる大台ヶ原と世界遺産に登録され注目を集める大峯奥駆道
において、自然を守りつつ、多くの人にその魅力を伝えられる持続的な利用のあり方について普及啓発
を図るため、広域的な公共交通利用や山岳利用のネットワーク、賢明な利用のための登山道の整備・維
持管理等について、様々な立場からご提案をいただくとともに、広く一般の方々を交え、意見交換等を
行おうとするものです。
ご指摘の通り、今回、貴会に講演者・パネラーをお願いしておりませんが、今回のテーマが大台ヶ原
に利用対策のみならず、大峯地域を含めた広域的な山岳利用・公共交通のネットワーク、地元との協働
による登山道の維持管理といったことも含むため、関係する地元行政担当者、公園管理・利用等に学識
のある学識経験者、山岳登山関係者、地域で植生保護活動や登山道の維持管理、環境教育などの活動を
されているNPOの方などに、講演・パネラー参加をお願いしたところであり、
「異をとなえる自然保
護団体を排除する」といった意図は持っておりません。
当日は時間的な制約もありますが、講演者・パネラー以外の方からもパネルディスカッションの揚な
どでご意見いただく機会を設ける予定としております。貴会にも、ぜひ本シンポジウムに参加いただき、
意見交換の揚でご意見をいただければと思います。
なお、本シンポジウムでは、大台ヶ原自然再生検討会及び大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会利用
部会における議論を含め、スペースビジョン研究所の宮前洋一氏より事務局サイドとして、ご報告させ
ていただく予定であり、この中で、マイカー規制導入に向けた取り組みの一環としての公共交通利用促
進キャンペーンの位置づけにもふれることとしております。
(2)評価委員会について
評価委員会においてご指摘のあった「マイカー規制をあきらめて公共交通利用にシフトしたと市民に
誤解されないよう」
、
「公共交通利用促進キャンペーンはマイカー規制への第1段階であると明記すべ
き」という点等に関しましては、ご指摘を踏まえ検討会資料の修正を予定しております。作業の遅れに
より修正版の送付が遅れておりますことお詫び申し上げます。
また、講演者・パネラーにつきましては、評価委員会の段階では、調整中であったため評価委員会に
て報告出来なかったもので他意はございません。
(3)施設整備現地説明会について
施設整備に関連する情報公開、現地説明会の実施につきましては、これまでの経過を踏まえ、その後
の施設整備計画においても踏襲しているもので、平成17年9月6日付け回答でもご説明しましたとお
り、
「当該地域の自然の現状、利用状況等を踏まえ、自然環境・景観に配慮した適切な施設整備とする
ため、現地において、環境省として整備の考え方をお伝えし、意見交換の中から一定の合意形成を図る
ことを視野に入れつつ、民間、関係団体(※今回注 貴団体を含む〉
、地元自治体等から広く意見をう
かがう場」として設定しており、今年度も、箇所毎実施し都合5回開催しているところです。貴団体か
らは、毎回ご参加をいただいており、貴重なご意見を賜り感謝申し上げます。
実施方法につきましては、幅広くご意見を伺うという目的に添った範囲でこれまでも工夫しながら実
施してきたところであり、ご指摘の回は前鬼三重線であると思われますが、当該路線は、修験道の裏行
場となっていることもあり慎重に検討を行うとの観点から、これまでの経緯を踏まえ事前にご連絡して
いた貴団体、山岳関係者、地元自治体等に加え、修験者の方にもお声掛けをすると共に、当該地域の植
―53―
物等に詳しい先生方にもお声掛けをしたところです。
(なお、筏場大台ヶ原線についても、連日開催で
あったため同じくご案内しています。
) なお、
「現地説明会」を「現地検討会」に変更したことにっい
ては、
「現地説明会」ではこちらが整備内容を一方的に説明するイメージが強いのではとの懸念から、
前記の通りの会の性格を踏まえ、より意見交換の雰囲気が出るようにとの考えで「現地検討会」とした
もので、他意はございません。次回以降、これまで使用してきた「現地説明会」としてご案内申し上げ
たいと思います。
百万言を弄するより結果で示されたい
―― 環境省近畿地区自然保護事務所の「回答」について ――
大台ヶ原・大峰の自然を守る会会長 田村 義彦
本会は 2005 年 9 月 20 日付で小池百合子環境
キャンペーンの位置付けにもふれることとしてお
大臣並びに出江俊夫近畿地区自然保護事務所長宛
に抗議文『真の市民参画・協働を否定する強権姿
勢への逆行に抗議する』を提出したが、9 月 22
日付で近畿地区自然保護事務所から回答を得た。
ります」と答えるだけであるが、後に述べるよう
に、翌日のシンポではマイカー規制についてはあ
いまいな説明しかなかったと聞く。回答は1日に
して信憑性が崩れた。
3頁に及ぶ饒舌に過ぎる回答には、本会が当事
者として先刻承知している経緯と、言い訳がまし
い記述が長々と続くだけで、本会に対する回答と
いうよりは霞ヶ関に対する弁明書を思わせる内容
本会に対してフロアーから意見を出せと言うに
至っては、本会の抗議に対する拒否、挑発である。
言い訳に終始する回答の中で、ここに端なくも事
である。
まず総論において、27 行の内、「情報公開、
市民参画等に関しての当事務所の取り組みの考え
務所の本音がうかがえた。勿論本会は権力に擦り
寄る連中との対話を拒否する意味でシンポをボイ
コットした。
「(2)評価委員会の軽視」については、市民に
方につきましては、それ以前と変わるものではあ
対するマイカー規制のアピールを「検討会資料の
りません。」と、おざなりに否定するだけで、本
修正」(検討会は既に無く、評価委員会の間違い
会が提起した「協働を拒否して強権姿勢に逆行す
る疑念」解明への積極的熱意を全く感じさせない。 であろう)にすりかえただけで、本会が提起した
各論においても、「(1)シンポジュウムからの
排除」については、言い訳がましい長々とした説
「評価委員会があと 1 回、来年 2 月だけでは評価
委員会の意向を協議会に反映できない」とする問
いに全く答えていない。去る 8 月 30 日の評価委
員会の席では、来年 2 月までの間にワーキンググ
明の後に「異をとなえる自然保護団体を排除する
といった意図は持っておりません。」と否定する
だけで、本会が提起した「奈良県の卑劣な反対で
頓挫しているマイカー規制の打開にこそ努力すべ
ループ、部会を適時開催したいとの説明があった
が、行政の常として、開催しなくても誰も責任を
問われない。巷ではこの場合「開催しない」と同
義語と理解されている。
回答ではなく、拒否を感じさせる。
きだ」という問いに対して「マイカー規制導入に
向けた取り組みの一環としての公共交通利用促進
―54―
「(3)施設整備現地説明会の御用化」につい
ても、本会が先刻承知している 20 行に亘る長々
とした説明のあとで、「他意はない」から「現地
時期についての質問にも答えなかった、という。
にも拘わらず事務所長は「環境省は裏切らない。
信用される環境省を目指す。」と言ったと聞く。
説明会」に戻すというだけである。前回の現地説
明会では、「あとで文句を言われても困る。いま
言ってくれ。」との発言が事務所員から出た。御
用化を焦るあまりのいらだちか。この姿勢では市
回答の内容にせよ、シンポの実態にせよ、これで
何を信用せよと言うのか。饒舌とは裏腹に、不信
感がつのるばかりである。
行政は結果である。百万言を弄するよりは
民との真の合意形成は図れない。
以上見てきたように、回答には、言い訳、あ
いまいな言い逃れ以外に何の反省、誠意も感 じ
られず、白々しいだけである。
「裏切らない信用できる」具体的な結果を示され
たい。
本会は「利用適正化計画検討協議会(仮称)」
への参画要望書をすでに 2 回提出しているが、未
ところで、近畿地区事務所はこの回答を出した
翌日、本会を排除したままイエスマンを侍らせて
シンポを開催した。しかし、マイカー規制につい
だに回答がない。霞ヶ関への弁明書は書くが、市
民への回答は書かないということなのか。いまま
で通り市民参画を拒否しない、本会の抗議は誤解
だと言うのであれば、信用に足りる結果を示すべ
て明快な方針が聞けると期待して出席した市民に
対してあいまいな説明しか行わず、具体的な実施
きである。市民はその結果によって回答が嘘か真
実かを判断するであろう。
2005 年 9 月 29 日
2005年6月24日
株式会社 昭文社殿
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長
田村 義彦
『山と高原地図51・大台ヶ原(高見・倶留尊山)発行:2004年』
訂正の要望書
冠省
いささか旧聞に属しますが、本会は19年前の1986年に、当時の貴社発行『エリアマップ・
山と高原地図(58)大台ヶ原・大杉谷』について5項目の間違いを指摘しました。貴社は著者と
協議されて5項目の記載が不適切であることを認められて、既に印刷されていた7000部を破棄
して改訂版を印刷されました。本会は貴社の真摯な姿勢を高く評価致しております。
ところで、それ以後率直に申し上げて貴地図を緻密に検討したことはありませんでしたが、今回、
西大台の調査で表題の貴地図を参照しまして、下記の記載の間違いに気付きました。
貴地図の裏面「大台ヶ原詳細図」の西大台の「七ツ池」が標高1380m地点(B,4)に記載
されていますが、地元では記載地点から南東にある標高点1494mの東の尾根上の湿地(C,
4)を「七つ池」と呼んできました。いまは乾燥しましたが、昔は湿地の中に池が点在したという
ことで、いま正確に表現すれば「七つ池跡」でしょうが、
「七つ池」と呼ぶ人が多いです。
尚、本地図表面の5万図では適切な場所に記載されていて整合性に欠けます。因みに、貴社
―55―
1992 年発行の『大台ヶ原 大杉谷・高見山』では、表面の5万図も裏面の「渓谷遡行」図も適切
に記載されています。
実は、このような瑣末とも思える一つの地名を取り上げるのには理由があります。
大台ヶ原ではデホルメされた観光地図が数種類配布されていて、多くの利用者がそれを利用して
「実態と合わない。遭難しかかった」と苦情が絶えません。デホルメされているので実態と合わな
いのは当然ですが、最近の利用者は正しい地図を読みません。本会は正しい地図を読むように言っ
ていますので、あえて、指摘をさせて戴いた次第です。
更に昨年、環境省が広大な防鹿柵で七つ池一帯を囲ってしまい、七つ池がわからなくなりました
が、道標には「七つ池」が記されたままですので、入山者の困惑が更に増えることを危惧致してお
ります。ご調査の上、善処されることを要望致します。
尚、他の場所の間違い、表記の疑問などもありますが、後日に譲ります。
草々
平成 17 年 7 月 1 日
大台ケ原・大峰の自然を守る会 殿
前略
平素は弊社製品をご愛題いただき、厚く御礼申し上げます。
さて、先日は、弊社出版物「山と高原地図 51 大台ヶ原」に関するご指摘のお手紙を頂戴し、誠
にありがとうございました。
ご指摘の「七ツ池」につきましては、確かに 2.5・5 万図の表現により位置が分かり難くなって
おります。ご迷惑をお掛けしまして申し訳ございません。位置および表現方法につきましては、著
者との打合せ・再取材を行った上で、次回出版の際に適切な訂正をいたす所存でございますので、
ご了承いただきますようお願い申し上げます。
このたびは、貴憩なご指摘を誠にありがとうございました。今後ともわかりやすく正確な地図作
成に努めますので、ご愛顧のほどをよろしくお願い申し上げます。
〒532-0011
大阪市淀川区西中島 6 丁目 11 番 23 号
株式会社 昭文社 大阪支店 地図編集部
編集担当:黒木
―56―
2006年4月12日
環境省近畿地方環境事務所
所長 出江 俊夫様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長
田村 義彦
西大台利用調整地区創設について
国民全体のための、透明性のある、質の高い政策を求める要望書
記
西大台地区利用適正化計画検討協議会は第 1 回会議において出席者全員 22 名により計画総論の
賛同が得られ、第 2 回会議において区域及び期間が決定した。今後、「指定認定機関」の設置など
の管理運営体制の細目を決める作業が進められるが、いまの時点でこれまでの経緯、協議を振りか
えり、環境省に要望したい。
(1)西大台利用調整地区創設は、あくまでも、国民全体の共有財産である原生的自然の保存が目
的である
言うまでもなく本事業は地元上北山村村民の協力なくしては為し得ない。しかし、その協力を得
るために地元への利益誘導はあってはならない。同時に、“地域振興”という美名の下に地元偏重
の利益追求もあってはならない。従来の行政が所管業界や族議員の顔色をうかがい、充分な調査や
透明性ある議論を行わずに国民全体の利益に反する政策を行ってきたことがいま白日に曝されて世
の指弾を受けている。日本で初めての高い理想を掲げた本政策において、その愚を繰り返すことは
許されない。
(2)前例・横並び至上主義を排した透明性の堅持を望む
本政策が日本で初めてのものだけに、霞ヶ関と近畿地方環境事務所にとって政策の効果や他省庁
の類似政策との比較検討が、官僚の不謬信仰のなかで正に骨身を削る作業であることは想像に難く
ないが、環境省が国民全体への奉仕者として政策の目的、理想を堅持し、透明性を維持することを
切望する。
(3)総量規制でなければ政策目的に矛盾する
環境省は「一日あたりの人数上限」について、50 人案と 100 人案のピークカット案を提示して
いる。50 人案では年間 5016 人(平成 17 年度)のうち 1124 人(22%)が他の日に移ることになる
が、100 人案では年間 184 人(4%)が他の日に移るに過ぎない。昨年、一日あたり利用者が 100
人を超えた日数は僅か 9 日に過ぎない。これでは本政策が求める原生的自然に対する「利用者圧」
の軽減、排除には役立たない。しかもピークカット案では総量規制にならず、将来、利用者の増加
―57―
が許容される可能性が残る。奈良県山岳連盟の「ピークカットであれば規制は土日だけでよいはず
である。毎日行うのは税金の無駄遣いだ。」という意見は卓見である。
上記調査によれば一日平均利用者は 24 名である。総量規制ではこの数値で現状維持なのである。
100 名案などは暴論に過ぎる。原案に<「利用の質の向上がはかられれば量が増えても問題ない」
という意見もあり>とあるが、将来の仮定の話を現時点で持出すのは恣意的であり、環境省の本音
を窺わせる。
確かに科学的適正容量はない。またモニタリングによる見直しは当然であるにしても、事業発足
時に、政策目的に立脚した毅然とした姿勢が示されない限りは、利害関係者の圧力に屈して「一日
あたりの人数上限」が増やされる危険性がある。そこに本政策の堕落瓦解の萌芽を予感する。ピー
クカットは換骨奪胎である。本政策の目的はあくまでも「利用者圧の軽減、排除」であるという原
点に立ち戻り、拙速を排して透明性のある充分な論議を望む。
(4)「利用者の質の向上」のために、事前レクチャーの義務化は必須条件
環境省は、認定証を郵送するという。そして“交通機関の拠点でレクチャーを行う”という。量
の規制をもって事足れリとする信じ難い愚策である。原案は何度か書直されてきたが、最後の段階
で突如現われたこの教育放棄の消極的姿勢に驚嘆する。理想を高く掲げた本政策を自ら貧しいもの
にする自己否定である。
2005 年 1 月に策定された大台ヶ原自然再生推進計画の利用計画基本方針は、「<量の適正化>
と<質の改善>によって新しいワイズユースの山を目指す」ことである。そして、環境省が自然公
園法の改正までして創設した「利用調整地区」の中で求められることは「質の高い自然体験」であ
る。そのためには認定者に対する事前のレクチャーの義務化が必須条件なのである。「交通機関の
拠点で誰か」に任せる形は、環境省の責任放棄である。到底、質の高いレクチャーは望めない。
アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどでは規制と教育の二本立てが当然の如く行わ
れていることを、膨大なデータを有し、海外経験豊富な環境省が知らないはずがない。
初めての政策だけに予算、人員などに煩雑な手続きを要し、不明な事項が多く、具体的な将来像
が把握できないことは想像に難くないが、だからといってここでリスクを避けて消極的になり、拙
速によって政策の質を落すことは国民の期待を裏切ることになる。
(5)質の高いガイド公認制度の確立を望む
大衆登山状況に便乗したいかがわしい NPO や自称ガイドによる遭難事故が全国各地で続発し、放
置できなくなったために北海道、東京都、長野県、屋久島などでは罰則規定を含む条例を作成して
公認ガイドの質の向上を目指している。
―58―
本会は協議会においてその実情を紹介して行政による認定制度の制定を求めたが、それを承知の
上で、簡単な講習でガイド資格を求める厚顔破廉恥な御用 NPO があるのは誠に嘆かわしい。利用者
の質の向上に益するどころか低俗化を招くことは必至である。本政策はあくまでも環境省の責任に
おいて為されるものであり、人命に関わるガイドの不心得はすべて環境省の責任に帰する。拙速に
陥ることなく、時間をかけて各地の経験に学び、質の向上に資する公認ガイドの認定制度の確立を
望む。
本会は昨年来、貴事務所が市民参画を口実に使い易い御用 NPO を侍らせる傾向の見られることを
遺憾として指摘してきた。その弊害の結果がこれである。足下を見られ、経済優先の非倫理的な低
俗な要求に屈することのないよう、政策の質を堅持した毅然とした姿勢を切望する。
以 上
2006年5月5日
環境省近畿地方環境事務所
所長 出江 俊夫様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長 田村 義彦
東大台周回線歩道整備工事・区間E−2の
設計・施工の再検討を求める要望書
記
【経 緯】
平成15(2003)年度大台ヶ原周回線歩道改修工事が三業者によって区間A、C、D、E−
1、E−2で施工されたが、他の区間の見事な出来ばえに比べて区間E−2だけが杜撰であったの
で、本会はHPで二度にわたり指摘した(2004年7月24日、8月13日)
。
翌年、環境省は施工委任の奈良県に対して、当該区間内の56.9mについて「水路工補修」を
命じた。
「補修工事」というのは間違いで、正しくは手抜き工事のやり直しである。
本会は、そのやり直し工事の結果を2005年11月23日に現場で見たが、決して満足すべ
きものではなく、再び手抜きが疑われたので翌24日に環境省近畿地方環境事務所に報告した。環
境省は直ちに奈良県に連絡をとって、翌25日に行なわれた奈良県の中間試験に異例の立会いを行
なった。現場でやはり手抜きが確認され、その場で奈良県は業者にやり直しを命じた。更に環境省
担当責任者は、28日に奈良県、業者、本会を現地に召集して視察、点検を行なった。全く異例の
処置であった。
再度のやり直し工事は11月25日から行われ、12月1日に奈良県が試験をしたと聞いた。
本会は、ドライブウエイが再開した2006年4月22日、27日に現場を見た。昨年の環境
省の再度にわたる異例の強い姿勢を業者も知って、今度はしっかりしたやり直し工事をしているで
あろうと期待したが、残念ながらその期待は満たされなかった。
業者の度重なる不誠実な姿勢は常軌を逸している。この際、2003年の設計図に基づいて、
―59―
それ以後の都合3回の工事を検証する。時系列で写真を提示したいが、紙面の都合で本年4月撮影
のものに限る。
(撮影・河内 由美子)
(1)設計ミス
環境省の図面によると、
「水止工」は山側に高さ45cmの石を並べ、根入れ(石の下部を土中
に埋め込む)をして法面の土壌が流水で崩されるのを防いでいるが、何故かその石が「水路工」に
はない。
「水止工」は屈曲点だから法面に石が必要であるが水路工は直線部分だから必要ないと考
えたのかもしれないが、それは甘い。直線部分でも大台ヶ原の雨は法面を崩す。設計者にその認識
がなかったための設計ミスである。
後で述べるが、NO.6∼7は水路工にすべきを水止工にしたのも設計ミスである。
(2)他の業者は設計ミスをカバーして良心的施工をした
ところが、区間Cでは水路工でも水止工と同じように大きな石が根入れをして並べられ、その
ために4500ミリの豪雨に耐え、びくともしていない。それでは何故、図面以上の施工をしたの
か。それは現場監督の勘と誠意である。図面にない法面の石を、根入れした場合とただ並べて置く
だけの比較実験をした上で、水路工でも水止工と同じように石を根入れした。
実は、施工直後の大雨で石が流されたという噂を耳にして筆者は愕然として現地に走った。そ
こで見たのがこの実験だった。並べただけの石は流されていたが、根入れをした石は流水に耐え、
毅然として立っていた。しかも、石を横に並べれば済むところを、石を縦に並べたために3倍の石
を要したが、現場監督が社長に叱責されながらも、採算を度外視して誠意ある施工をしたのである。
水路工の設計ミスは、05年の“補修工事”でも改められなかった。200m近い急傾斜を直
線的に流れ下る雨水から法面の土壌を守るためには、法面に根入れをした大きな石を並べることは
絶対に必要である。この設計ミスが、他の区間では職人の勘と誠意で救われたが、区間E−2では
業者が図面通りの工事をして、更に手抜きをして涼しい顔をしていたわけである。他の業者との落
差は目に余る。
(3)国民を愚弄する手抜き工事と行政の責任
図面では水路の底に直径15cm程度の石を表面まで土中に埋め込むことになっていたが、業者
はただ地面の上に並べてだけであったため、流水で流された。やり直し工事では改めて埋め込みが
指示されたが、業者は再び石を並べただけで、今度はその手抜きを偽装するために上から土をかけ
た。筆者はその土に不審を抱いた。そして県の中間検査で手抜きが確認され、3度目のやり直し工
事でようやく石は埋め込まれた。不誠実極まりない。
更に、流速を削ぐ「留めの石」も、指定の直径35cmに満たない小さい石を置いただけであ
ったので当然のこととして流された。3度目の工事でようやく所定の大きさの石が埋め込まれた。
他の区間を担当した三業者と比較して、恐るべき不誠実な業者である。
最初の工事で手抜き工事が明らかになったので、時の環境省担当責任者はこの業者の社長を帯
同して周回線歩道全域を歩き、他の工区の見事な仕上りを見せている。ところが、昨年11月25
日の環境省担当責任者の異例の現地視察に同社社員2名が同席したが、一言の謝罪、説明もなかっ
た。この業者全体に反省の姿勢は見られない。
―60―
環境省・奈良県は、05年度の工事を「整備済みの水路工が一部崩れている区間において補修
を行う。
」とした。これでは最初の04年度の工事を完工と認めた上でのことになるが、それはお
かしい。手抜き工事であったのだから工事はまだ終わっていない。
「補修」ではなく「やり直し」
である。当然工事費が支払われる理由はない。もし、両年度の工事費が支払われるとすれば、国費
の不正支出である。04年度の杜撰な工事を完工と認めた行政の責任が問われて然るべきである。
(4)
「水路工補修範囲」を何故56.9mに限ったのか
また、この業者の手抜き工事は恐るべきことに区間E−2全域約450mに及んでいる。05
年度のやり直し工事がその内の57mに限ったのは納得できない。この際、N0.0∼N0.39(IP.
0∼IP.42)について手抜き工事の実態を明らかにしたい。
(5)全域にわたる卑劣な手抜き工事の実態
山の家の前からシオカラ谷に向って見て行く。
① N0.33∼35の水溜工は、図面にある水流を受ける対面の石組みが施工されていない。
② IP.36の水路工施工の痕跡がはっきりしない。
③ NO.31の石積工では、使ってはいけないコンクリートを隠して使用している。業者の卑
劣な姿勢を端的に示している。そのコンクリートのせいなのか、隙間だらけの石組みが
崩れていない。石の階段が方々で崩れている中でここだけ崩れていないのが異様に映る。
「コンクリートを使わない伝統工法の空積み」が本整備工事の誇るべきメインテーマで
あったはずだ。他の業者はその伝統工法を生かすために困難な技術に挑んだ。その誇り
に泥を塗った卑劣な行為である。この恥ずべきカンニングが許されるはずがない。整備
目的に反した石組みは、当然空積みで組み直すべきである。
④ NO.27∼30の石階段工のすべては、
図面で指定された根入れを全く行な
わず、ただ並べただけで、水叩き石
も置いていないため、すでに崩れて
いるところがある。
(写真1)
⑤ NO.11∼16の約50mの水路工は、
「敷均し石」を地面に並べただけで、
指定された埋め込みを全く行なって
いない。傾斜が緩いためいくつかの
石が流されずに残っているが、むき
出しの土壌は落ち葉に隠れて見えな
い。この区間は何故か05年度のやり直し工事の対象になっていないが、水路として充
分機能させるためにはきちんとした水路にやり直べきである。落ち葉をかぶった雑然と
した手抜き工事に強い違和感と怒りを覚える。この杜撰な工事を完工と認めた行政の姿
勢は納得し難い。(写真2)
⑥ NO.4∼10の56.9mの水路工が05年度の「補修工事」の対象である。三度目の工
事でようやく指定通りの仕事ができたとはなんとも情けない。今更評価すべき言葉もな
い。
(写真3)
⑦ NO.8の排水路の水受け石が少なく投げやりだ。やがてすぐ、流水で土壌がえぐられるだ
ろう。多量の石で土壌の侵食を防いでいる区間 A の丁寧な工事を見習うべきだ。この業
者の杜撰な作業態度が表われている。
⑧ NO.6∼7の約9m位が、直線部分であるにも拘わらず「水止工」になっている理由が理
―61―
解できない。現場の状況は「写真4」でわかるように前後の水路工と全く同じ直線部分で
ある。明かに設計ミスである。水止工であるため「補修工事」の対象にされず、04年の
手抜き工事のまま放置されている。
(写真4・・画面左側の水路の、中程から上が05年
にやり直した水路工で、それから下の雑然とした部分が04年の手抜き工事のままの水止
工)
⑨ 図面では NO.4∼6のコンクリー
ト丸太16本の内6本を撤去する
ことになっているが、14本が現
存する。区間E―1では狭い急峻
な谷道からでもコンクリート丸太
を撤去している。コンクリート丸
太は危険だから撤去するのだ。コ
ンクリート丸太を撤去すれば、当
然そのあとに手を加えなければな
らないので、この業者はそれを避
けたのであろう。やらなければな
(写真5)
らない仕事をしていないのだ。
(写真5)
⑩ NO.5∼10の水路は「補修工事」の指示通り階段から20cm下げていたが、NO.4に
至ると10cm位しか下がっていない。
(写真6)
⑪ 更に工事の起点 NO.0∼3は04年の杜撰な工事のまま。水路は階段と同じ高さなので雨
水は階段の上を流れて、雑然と石が並べられた水路は全く機能していない。
(写真7)
ここまで見てきたように、三度の工事でようやく水路としての態をなしたのは中程の50m位
で、あとは04年の手抜き工事のままである。他の区間に比べて、その差は歴然としている。この
業者は、してはならないことをして、しなければならないことをしていない。環境省と納税者の国
民を愚弄している。
区間 E−2は駐車場に近く、自動車から直ちにリフトで資材が搬入でき、他の区間のようにヘリ
ポートから背負い子で運ぶ必要もない。地勢も単純で最も工事のしやすい区間である。その恵まれ
た区間で行なわれた杜撰で卑劣な手抜き工事には弁解の余地はない。
行政としては一応今回の「補修工事」をもって終了する予定であろうが、改めて設計と施工を
再検討していただきたい。そして、設計ミスの個所を改めた上で、業者を替えて再施工を求めたい。
周回線歩道の全周が、レベルの高い空積み伝統工法によって同じ仕上りに揃うことを願う。
他の三業者が、採算を度外視して困難な伝統工法に挑戦し、試行錯誤を繰り返しながらも誠意
を尽くして全国の国立公園歩道整備の範足る工事を仕上げてくれたにも拘わらず、一悪徳業者の卑
劣な手抜き工事で、画竜点睛を欠く結果になっていることが残念でならない。
現状を報告し、環境省の再検討を要望する。
以 上
(紙面の都合で写真は割愛しています。
)
―62―
「大峰山系環境共生推進計画」が環境省直轄事業になる
<大峰山系環境共生推進計画 第2回懇話会傍聴記>
【国立公園における公園事業の執行について】
奈良県は 2005 年 2 月 15 日、奈良市において表
題の会議を開いた。
った。この会議の説明のなかでも、奈良県は「国
は県の事業執行を妨げるものではない」と空威張
りをしたが、環境省から「仕組みとしては県の単
冒頭議事に先立って、国立公園における公園事
業の執行について、所謂「三位一体改革」につい
て奈良県、環境省から説明があった。
昨年(2004 年)10 月 26 日に小池百合子環境大
独事業ができるが、従来国の補助なしでやった例
はない」といなされてしまった。いままで、「県
には金がない、国でやってほしい」と言ってきた
のであるから、県は「直轄事業」を歓迎するのか
臣が自然公園の整備について、「国と地方の役割
分担を明確にする観点から、国立公園については
補助金を廃止して国の直轄事業を実施する」方針
を発表、12 月に決定した。これに基づいて「大
と思っていたところ、土壇場にきて縄張りが奪わ
れるとなると、金がないことを棚に上げて縄張り
を主張するとは、わかりやすい話ではあるが虫が
良すぎて、公式の席の論議としては恥ずかしい話
峰山環境共生推進計画」は平成 17 年度(2005
年)から環境省の直轄事業として引き継がれるこ
とになった。
であろう。そしてまた、施工業者の選定などを県
にやらせてほしいとも言う。正直な願望であろう。
しかし昨年、地元の間伐材を使った西大台の防鹿
柵の工事を環境省が業者選定をして施工している。
本会は、このHPに掲載した第1回懇話会報告
のタイトルを『環境省直轄化を願う』としたよう
に、従来の奈良県の過剰施設整備体質と環境省が
昨年施工した大台ヶ原周回線歩道整備の姿勢を比
国に態勢さえできれば当然国が簡単にやることで
あるが、「その態勢ができるまで当分は奈良県に
対する<施工委任>のかたちでいくことになるだ
ろう」と環境省は結論づけた。
較すると格段の差があるため、直轄化を願ってき
ただけに今回の方針を評価したい。決して小泉内
閣の「三位一体」政策総体を認めるわけではない
が、仕事をしたがらない官僚の世界で、ひとり環
「国のことは国がやれ」ということになれば、
まさに大台ヶ原は国の土地である。ビジターセン
ターに常駐の職員を置くか、奈良支所から職員が
境省官僚だけが今まで地方にやらせてきた仕事を
自ら買って出て、予算獲得のために財務省と交渉
した心意気だけは、どうせ良からぬ思惑が裏にあ
るのは確かにしても、単純に多としたい。簡単に
詰めてもらいたい。思い切って奈良支所が引っ越
しては如何であろうか。そして、奈良県は本州製
紙に寄付させた集団施設地区を、この際環境省に
寄付してはどうだろう、いい機会だと思うが。
地方の時代とか言われているが、特定計画の際に
も地方に任せてよいのかと論議されたように、今
の段階では県よりまだ国がましだということであ
る。
環境省は本計画を尊重するとしているが、決し
て予算が潤沢にあるわけではない。倍の予算がい
るわけだが、事業規模を半分に削ればすむことで
かつて、環境庁があまりにも何もしなかったた
め奈良県がすべてやってきたのは事実であり、そ
の努力は多としたいが、それがかえって大台大峰
あろう。その可能性は十分にある。やる必要のな
いところはやらなければよいのだ。本会としては、
大台ヶ原で環境省が 95%認めた市民、登山者の
感覚、発想を完全に拒否する奈良県にはこれ以上
は自分たちのものだという縄張り意識を永年の間
に醸成してしまったのは決してよいことではなか
手を出してほしくない。
―63―
【奥駈道は保護・現状維持を基本とし、補修以外
の整備をしない】
議事(1)第 1 回懇話会の課題の整理と大峰山系
他の委員から、現状認識のためのデータが不足
しているとの指摘があったが、奈良県はデータ収
集には時間と金が要る、と説明した。お題目を掲
の現状の再認識(資料 1・2)
第 1 回懇話会の意見の反映として二つの重要な
方針転換が報告された。
1.奥駈道は保護・現状維持を基本とする
げながら中身はなく、「初めに整備ありき」と突
っ走るのが行政のいつものパターンである。
【山岳トイレ新設は弥山だけ、なぜ山上ヶ岳をは
【「修験道の行者さんや講の方々は懇話会に対す
ぶいたのか】
議事(2)整備基本計画の確認及び整備計画の検
討(資料 3・4)
環境省から、山岳トイレは維持管理が難しいの
る不安が大きい」】
修験道代表の委員から「前回の懇話会のあと、
多くの方々の意見が寄せられた。奥駈道が石畳に
なるのではないか、靡きごとにトイレが作られる
で地元の協力が得られない場合は作らない、と説
明があった。
弥山については、土壌浄化循環方式では電源と
広い土地がネックになって難しいので、貯留方式
のではないか、といった過剰整備について懇話会
に対する不安が大きい」と発言があった。私たち
の不安と全く同じである。
一応奈良県が方針転換をして、奥駈道は「現状
にして小型モノレールでの搬出が適当ではないか
との説明があったが、今後,詳細検討を行うこと
になった。山岳トイレ問題は難しいが、この検討
をどこで誰がやるのだろうか。
の保存を基本とし、補修以外の目的の整備は実施
しない」としたが、油断できないのが「補修」の
整備である。従来の過剰整備のほとんどが「補
修」の名目で行われた。実は、このHPにも何度
奈良県は、前回の懇話会でリストアップされて
いた山上ヶ岳を今回リストから消した理由を、
「現在の仮設トイレ周辺が史跡に指定されていて
も書いたが、奥駈道は前鬼∼釈迦ヶ岳、弥山∼聖
宝宿跡、大普賢岳∼和佐又山、稲村ヶ岳∼レンゲ
辻など既に過剰施設整備が終わっている。今後、
環境省の直轄事業になれば少しは安心できるかも
関係方面の協力が難しいので断念した。清浄橋で
用をたせるのだから上には要らないのではない
か」と説明したが、修験道代表の委員から「200
m離れている宿坊のトイレを使えというのは無理
しれないが、それにしても、注意深く監視をしな
ければならないことは確かだ。たとえば資料 2 に
自然歩道が踏圧や流水・植生の繁茂・台風、豪雨
による影響を受けた登山道の写真が載っていて、
だ。前向きに考えてほしい。」天川村長から「山
上には電気が入ったので合併浄化槽も設置できる。
管理面が楽になった。」と発言があった。座長は、
「懇話会は最終案を作るのではないので、優先順
このように荒れているから整備が必要だといいた
いのであろうが、既に改修過剰整備の済んだ写真
がどれほどひどいものか委員に見てもらいたいも
のだ。
位をつける位に止めては」と逃げた。年間 9 万人
の登山者が登る山上ヶ岳と弥山を同一視するのは
ナンセンスである。山上ヶ岳はいまや洞川の観光
地の範囲に入れて考えるのが現実的であろう。
2.トイレ新設は山上ヶ岳の予定を取り止め
弥山だけとする
「自然では個人の糞便であれば昆虫や細菌など
同委員から小笹宿は歴史的に重要な行場なので
が処理してくれるが、集めると処理不能になり環
誘導板を兼ねた案内板がほしいという適切な提言
があった。あの雰囲気を阻害しない材質、大きさ、 境汚染になる」、という発言に対して、自動車か
デザインなどの配慮がほしい。
ら降りて近くで排便すれば大変なことになると反
―64―
元来ここはマイカー登山者の路肩駐車に始まり、
論があったが、状況をわきまえない文字通りの
「味噌糞論議」「屁理屈」に、聞いていて呆れた。 マイカー族の自己責任で勝手に駐車してきたとこ
ろである。ところが、ここに公的な「登山基地」
また、トイレは当然有料にすべきであるが、懇話
会では何故か全く議論にならなかった。次回懇話
会ではぜひ論議してもらいたい。
修験道代表の委員から、「人の入らない行場の
が出来たと知れば、“マイカー観光登山ブーム”
のご時世だけに安易な観光客が押しかけるのは明
らかである。野営場に家族連れのキャンパーが集
まり、ゴミの山になるであろう。委員からも「行
鎖が傷んでいるところがあるが、危険であること
の指導を地元自治体でしてほしい」との要望があ
った。
者還トンネルの野営地の管理が出来るのか」とい
う発言があった。
県は地元の要望だというが、天川村には増築さ
れた行者還避難小屋の管理もある。安全面、防災
【アプローチルートと登山基地について・・・慎
重な検討が必要である】
◆仏生ヶ岳アプローチと登山基地
委員から「トイレを作れば人が集まる。仏生ヶ
面、自然保護の観点から責任を持った管理運営が
できるのだろうか。管理運営の体制なしに施設を
作ることは自然破壊に荷担する無責任な行為であ
る。むしろ、川合か洞川で奈良交通の路線バスに
岳の登山基地は要るのか」と発言があった。
仏生ヶ岳アプローチルートは、そこに至る危険
極まりない白川又林道の安全性、維持管理が前提
になる。数年前、落石で死亡事故が発生して長く
接続する村営送迎マイクロバスをトンネル入口ま
で運行する方が村財政にとって有効ではないか。
封鎖されていたが、落石による自動車の通行不能
は日常茶飯事の林道である。この林道の維持管
理・安全性は担保されているのか。その担保なし
にアプローチルートを作っても機能しないだけで
すでに登山口の川合にあるのだから必要ない。
なく事故につながる危険性がある。林道走行中の
落石事故、林道に車を置いて仏生ヶ岳を往復した
帰り、林道が落石で封鎖されている可能性も高い。
上北山村はエコツアールートとして計画してい
イカー登山族」に迎合した過剰施設である。いま、
この国の自然を破壊しているのは「マイカー登山
族」の安易な登山姿勢である。行政が税金を使っ
て迎合する必要など更々ない。車が傍にあるのに、
ると聞く。林道の管理は上北山村森林組合である
が、巨額の費用が継続的に必要になるであろう。
懇話会には何故か上北山村が招かれていないが、
村の構想をしっかり確認して、県、国としてバッ
何故「降雨時の浸水対策として高床」が要るのか。
トイレだけにして、上屋は全く不必要だ。これは、
奈良県が都市公園で培った得意のノウハウの発揮
である。自然公園に都市公園の感覚と経験を持ち
クアップ体制を検討すべきであろう。単に登山道
を作るだけでは無責任である。
込んで、自然破壊をされては困るのだ。
◆栃尾辻の「登山基地」の図面が資料にないが、
◆旭釈迦ヶ岳線の「登山基地」
宇無ノ川不動小屋谷の「登山基地」は正に「マ
◆行者還トンネル西口登山基地
◆七面山アプローチルート
奥駈道から七面山まで短いアプローチルートを
同様の危険性は行者還トンネル西口の登山基地
にもいえる。周知のごとく行者還林道の上北山側
は砂上の楼閣で雨のたびに崩れて、しばしば通行
止になっている。天川側も川迫川の増水で橋が落
整備するというが、整備の目的・意味がわからな
い。近年の“マイカー登山”ブームで船ノ川、宇
無ノ川の林道に車を置いて七面山を往復する登山
者が出てきたが、その登山者にはこのアプローチ
ち、路面が洗われ、崖が崩れている。
ルートは要らない。七面山は大峰山系最奥の地味
―65―
「議事要旨」は、テープ起こしをしたのか、本会
なピークであり、山馴れた登山者の山域である。
また、修験道の修行のためにも必要ないであろう。 の指摘通りになっていた。
しかし、奈良県庁の公式HP掲載の「議事要
もし、登山者のために、奥駈道からの「七面山往
復ルート」を新たに開発するつもりであるとすれ
ば、奥駈道の自然性、神聖性を保全するために余
計なことをする必要はないと言わざるを得ない。
旨」は 2005 年 2 月 16 日現在、間違ったままであ
る。対外的にはこれが正式の「議事要旨」である。
委員の名前も記されている。杜撰なのか故意の改
ざんなのか、いずれにしても信じがたい出来事で
ある。奈良県のHPは早急に訂正されるべきであ
◆上記以外に 8 本のアプローチルートがある。
る。
奈良県が「大きな予算が付いたからこの際全部
やっておこう」と地元の希望を集めたのであろう。
【奥駈道の自然性・神聖性保護のための世界遺産
殆どが既存のルートであるが、問題はその改修の
思想と技術である。個々の状況がかなり異なるの
で現状分析と改修のやりかたについて慎重で綿密
な検討が必要である。環境省の直轄事業になった
のは幸いであるが、奈良県の施工委任になれば奈
登録】
ユネスコは奥駈道を、特有な自然環境に根ざし
た信仰に関わる自然性が高い神聖性を評価して、
その保護管理を求めているのである。しかし、そ
良県の思想と技術も大きく発揮されるわけである
から大いに心配である。それをどうチエックする
のか、例えば大台ヶ原で行われたような現地説明
会を開いて登山団体や自然保護団体の意見を聴取
のための保全プロジェクトがない日本は登録をあ
せって申請書類から「文化的景観」の文言を削っ
て、あとで適切な保護提出管理計画を提出すると
いう条件でなんとか登録が許されたといわれてい
するのか、現地が無理なら、奈良か大阪で設計図
を公開して市民の意見を聴取するのか、設計施工
段階での市民意見の反映をどう担保するのか、次
回懇話会でしっかり論議してもらいたい。
る。その保護管理計画を 2006 年度末までに提出
しなければならないので、現在和歌山、三重、奈
良の3県で作成中と聞く。これ以外にも世界文化
遺産登録の条件を満たしていない内容については
【第 1 回懇話会で公開を拒否した整備計画がなぜ
公開されたのか】
前回の懇話会レポートでも書いたように、奈良
多くの問題点が指摘されているが、それについて
は他の機会にゆずるとして、ここで一つだけ指摘
しておきたいことがある。
県が「計画が一人歩きするから」と頑なに公開を
拒否した整備計画が何故か今回公開された。理由
の説明は一言もなかった。こういう場合、当然行
政に説明責任があるにも拘わらず平然としている
今回の登録は『紀伊山地の霊場と参詣道』とい
う表題で登録された。構成は「吉野・大峰」「熊
野三山」「高野山」の『霊場』と、それらを結ぶ
『参詣道』に分けられ、『参詣道』は熊野参詣道、
無責任さには言葉がない。
高野山長石道と並んで大峰奥駈道が登録された。
【奈良県HP掲載の「議事要旨」はなぜ訂正され
ないのか】
これはおかしい。大峰奥駈道は古来修験道の
『霊場』である。日本が提出した申請書が元々参
第 1 回懇話会の[議事要旨]が翌日 2004 年 12 月
8 日に各委員に送られてきたが、その中で二人の
委員の発言が歪められていたので事務局に訂正を
求め、このHPにも書いた。しかし、それ以後訂
詣道であったのかユネスコがそう判断したのか知
る由もないが、申請書が参詣道であったとすれば
関係者の認識不足が問われるべきである。修験道
の歴史を詳述するまでもなく、大峰奥駈道は霊場
正した旨の回答はなかったが、この日配布された
をつなぐ参詣道ではなく、それ自体が『霊場』で
―66―
ある。登録された『霊場』は 17 の寺社であるが、
2004 年 7 月 23 日、「世界遺産登録記念祝賀式
そのどれと比較しても奥駈道は優るとも劣らない
典」で、柿本奈良県知事は「これで多くの観光客
立派な『霊場』である。国内法でも重要文化財、
が来てくれるであろう」と臆面もなく挨拶する姿
史跡、天然記念物に指定されているが 17 社寺は
すべて及ばない。一方、観光客が押しかけている
熊野参詣道、高野山長石道と同列に見るのも間違
っている。ユネスコに提出する保護管理計画も奥
をテレビで見た。メデイアも「算盤勘定」を書く
だけで「遺産の保護」に触れたところはなかった
が、ユネスコの文書のどこにも「金儲けしろ」と
は書いていない。ユネスコが評価したのは、自然
駈道は霊場であるという認識に立って、有効な保
全策を作成するように奈良県に望みたい。
性と神聖性であり、世界遺産登録の目的は保護管
理であることをしっかり認識しなければならない。
2005 年 2 月 16 日
田村 義彦
環境省「大峰山系の整備計画を公開し、
可能な限り現地説明会を開いて合意形成を図りたい」
<大峰山系環境共生推進計画 第3回懇話会>
2005 年 3 月 25 日、表題の懇話会が奈良で開催
された。
前回に続いて、行者還トンネル西口の「登山基
対する認識に疑念があるので、注視する必要があ
る。
山上ヶ岳のトイレを、県は「整備必要個所」と
地」について賛否両論が出た。村の希望ではある
が、村にしっかりした管理方針があるわけでもな
い。環境省が、「ハード(施設)だけではなく管
理を含めて検討すべきだ」と締めくくった。環境
位置づけて先送りしたが、懇話会として早期施行
を希望することになり、県も努力すると発言した。
登山基地は仏生と栃尾辻が「今後検討が必要と
考えられる個所(条件がそろえば検討)」にラン
省の判断に期待したい。
このたびの計画は、この場所だけではなく、整
備個所の一つ一つについて整備を必要とする具体
的な事情が提示されていない。第1回の懇話会で
クダウンした。仏生については上北山村の代表を
懇話会に呼んで意見、事情をきくべきであった。
天川村から委員が2名出ているだけではバランス
に欠ける。村の考えも現地の事情も知らない懇話
環境省から、委員の共通認識のために映像が必要
だ、と提案されたが、総論の資料に写真が入って
いるだけで、各論については実行されなかった。
したがって、多くの整備個所が、行ったことも見
会委員に計画の可否を委ねること自体無理である。
たこともない委員によって計画が承認されること
になった。それは無責任ではないかと、第2回懇
話会のHPレポートにも書いたし、この日も傍聴
席から発言した。
県の当初の計画に、奥駈道から七面山までの 1
km余りの登山道を整備するとあったので、前回、
HPに下記のように書いた。
「奥駈道から七面山まで短いアプローチルート
環境省は「大台ヶ原の周回線歩道整備が現地説
明会(3回)を開いてうまくいったので、大峰に
おいても情報を公開し、可能な限り現地説明会を
開いて合意形成を図りたい。」としめくくった。
期待したい。ただ、施行委任を受ける県の登山に
を整備するというが、整備の目的・意味がわから
ない。近年の“マイカー登山”ブームで舟ノ川、
宇無ノ川の林道に車を置いて七面山を往復する登
山者が出てきたが、その登山者にはこのアプロー
チルートは要らない。七面山は大峰山系最奥の地
★ 大峰山系の秘境七面山に登山道整備も「登山
基地」もいらない!
―67―
味なピークであり、山馴れた登山者の山域である。
県は登山道を「核心ルート・重点配慮ルート」、
また、修験道の修行のためにも必要ないであろう。
「主要アプローチルート・重点配慮ルート」、
もし、登山者のために、奥駈道からの「七面山往
復ルート」を新たに開発するつもりであるとすれ
ば、奥駈道の自然性、神聖性を保全するために余
計なことをする必要はないと言わざるを得な
い。」と。
「アプローチルート」の5分類をして「整備の考
え方」を決めている。この七面山ルートは「アプ
ローチルート」に規定されて「基本的に新たな整
備を行わない。」となっているのも拘わらず、第
ところが、県はそれを読んで「大台ヶ原・大峰
の自然を守る会のHPに、七面山往復ルートと書
いているので、登山道を林道(篠原線)まで延ば
3回懇話会で公表した「平成 18 年度以降に整備
を検討する事業」のリストには「七面山歩道」と
して歩道を整備し、標識を設置し、「駐車場・休
憩所・公衆トイレ」を建設すると立派に記載され
した」とわけのわからないことを言った。図面も
書き直した。
どういうことなのか!私はこのルートの整備
は要らないと言っているのだ!
ている。これでは「登山基地」ではないか!しか
し、図面には記載されていないので委員は気付か
ず、論議にもならなかった。
上述の5分類にしても、一応定義づけはあるが、
私が所属する日本山岳会でも林道篠原線から七
面山に登る例会を組んでいる。踏跡があるので迷
うことはない。七面山往復だから奥駈道までは行
全て最後に「補修等に努める」となっている。要
するに「補修」名目でどこでも整備をするという
ことで、何の歯止めにもなっていない。奥駈道に
しても「基本的には現状保存」とあるのが白々し
かない。
県は登山者が増えていると言うが、山上ケ岳の
登山者「横ばい」を「増加」と偽って平然として
いる県のことだ、ウソだろう。データがあるなら
い。「配慮」というのも自然に対する配慮ではな
く、既設の施設に対する配慮であることに驚く。
一言でいえば整備をしたいのである。
出してもらいたい。ほとんどの登山者は舟ノ川、
宇無ノ川の林道に車を置いた「マイカー登山者」
であろう。奥駈道から七面山を通って下山しても
林道に待っているのは長いアプローチなので、い
県は第1回懇話会で業者の絡みで整備計画の
公開をかたくなに拒んだが、そのあと、環境省が
直轄事業として行うことになったので、掌を返し
たように 18 年以降の整備計画までも開示した。
まどき、そのような行程を組む登山者はまずいな
い。いずれにしてもこの山域を歩く登山者はある
程度山馴れした者であろうし、「登山道の整備」
など全く必要ない。
環境省に対する県の希望の開陳である。みっとも
ない。しかもそれを見透かされているにも拘わら
ず、開示の理由を本会常任委員の「谷委員が尋ね
たから」と他人のせいにした。録音テープをチェ
第1回、第2回懇話会の図面に七面山までしか
ルートの記載がなければ「往復ルート」と受け止
めるのはごく当然のことではないのか。それを、
ックしたが、事業費を尋ねたことはあるが事業内
容などを尋ねたことはない。責任回避は役人の本
性であろうが、すべてを自然保護団体のせいにす
る姑息なやりかたには哀れをもよおす。
私がHPに「往復ルートと書いたので林道まで延
長した」とはどういうことなのか! 私のせいに
して、登山道を延長したいのか。想像を絶する卑
劣さだ。繰り返すが、私は延ばせと言っているの
しかし、今となれば県の思惑などどうでもよい。
環境省の冷静な調査、判断を期待したい。大峰山
ではなく、整備は要らないと言っているのだ!
系で最も登山者の少ないこのエリアに「登山基
―68―
地」は勿論、登山道の整備など全く必要ない。か
つては、大峰山系の秘境と言われた最奥の地を、
王子製紙の皆伐で荒らされたとはいえこのままそ
っとして置いてほしいと願う。
懇話会の最後に、委員の提案によって、「懇話
会として過剰整備を望まない」ことが全員一致で
確認されたことがせめてもの救いである。
2005 年 3 月 26 日
田村 義彦
2005年9月10日
環境省自然環境局国立公園課 御中
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長
田村 義彦
国立・国定公園の公園区域及び公園計画の変更への意見
「吉野熊野国立公園の公園区域及び公園計画の変更並びに懐中公園で捕獲を規制する動物
(オオナガレハナサンゴ)の追加について」 (4)利用施設計画
ウ. 歩道の変更
記
が「熊野古道のアクセスルート」になるはずがな
い。
(1)環境省は、奥駈道が「世界遺産に登録さ
れ、利用者の更なる増加が見込まれることから、
(3)「歩道の変更」計画は、奈良県が策定し
歩道計画の全体的な見直しを行う。」として「熊
野古道へのアクセスルートとなる4歩道を追加す
る(略)」としている。
しかし、当該地である奥駈道は、古来修験道の
た「大峰山系環境共生推進計画」が、策定途中で
発表された三位一体改革による国直轄化によって
環境省に引き継がれたものの丸写しである。
何を基準に「見直した」のか理解できない。登山
行場であり、ブームにあふられて簡単に登山でき
る地域ではない。世界遺産登録により一時的に登
山者が増えるかもしれないが「増加を見込んで」
新ルート4歩道を開設する必要はないと考える。
者誘致を願う奈良県案の安易な踏襲は国の姿勢と
して納得し難い。
(4)「4歩道」に共通して言えることは古く
(2)ユネスコの指定の構成は「参詣道」が
「大峰奥駈道」「熊野参詣道(中辺路・小辺路・
大辺路・伊勢路)」「高野山町石道」の三つに分
からの踏跡の登山道化である。特に問題なのは
「③白川川又仏生ヶ岳線」である。残されている
踏跡を登山道として利用した登山者はほとんどい
ないであろう。登山道の下でつながる 10km 余り
類されている。貴省は付図で、奥駈道を「熊野古
道の一部」と記しているが「熊野古道」とは「熊
野参詣道」のことをいうのであって奥駈道を熊野
古道とはいわない。熊野古道では確かに観光ツア
の白川又林道を通らなければ国道 169 号線に出ら
れないが、この林道は破砕帯を切って開設された
崩れやすい林道で、雨の度に法面の岩が崩落して
道を塞ぎ、路面が崩落することも珍しくない。一
ー客が増えているが、奥駈道も同じように登山者
が増えるとイメージ付けることは、新ルート開設
を合理化するためのこじつけである。「4歩道」
昨年は落石で死亡事故が起きて長く封鎖されてい
たが、昨年も台風で10箇所近い崩落があり、現
在もまだ封鎖されたままで復旧の目途も立ってい
―69―
ないと聞く。
この林道の安全通行が確保されない限り、登山
道を開設しても機能しない。本登山道を下山した
世界遺産登録によって聖なる行場が破壊される
ことを心配する声が修験道の中にあると聞く。
場合、仮に林道が通行可能であるとしても、国道
に出るまで徒歩4時間を要し、その間落石の危険
は避けられない。また逆に、マイカーを林道に置
いて仏生ヶ岳を往復したとしても林道の崩落で帰
世界遺産登録をもくろんだ奈良県によって数年前
から行われてきた奥駈道の過剰整備を知っての心
配であろう。その過剰整備に屋上屋を架す必要は
ない。
路が断たれる危険性がある。エスケープルートと
して使用するのも全く無理である。
環境省近畿地区自然保護事務所には、「維持管
(6)「①小坪谷線」については、現在、行者
還トンネル西口から、急傾斜ではあるが短い距離
で安全に稜線に出るルートが存在し、多くの登山
理を地元が責任を持てない施設整備は行わない」
とする明確な方針があるにも拘わらず、本登山道
がリストアップされているのは理解に苦しむ。林
道を管理している森林組合、上北山村と維持管理
者に利用されていて何も問題がない以上、新ルー
トを開設する必要は全くない。新ルート開設で幾
分時間短縮になるかもしれないが、その代償とし
ての自然破壊は余りにも大きい。
についての協議、合意は為されたのであろうか。
奈良県の要求を鵜呑みにして公園計画に載せ、歩
道整備をして後は知らないでは国として許される
ことではない。
小坪谷には「九人臥せり」という伝説があった
ことが『吉野郡名山図誌』に記されている。その
雰囲気を残す源流域をマイカー登山者の利便ため
に破壊すべきではない。
(5)「②頂仙岳明星ヶ岳線」は、すでに昭和
初期の登山案内書に記載されているが、30年代
には藪にふさがれていたとある。近年誰の手によ
環境省は、本年9月に奈良県において「大台
ヶ原と世界遺産大峰奥駈道の利用を考えるシンポ
ジュウム」を開催して、公共交通利用のキャンペ
るのか高崎横手に道標が立てられ、ルートの大部
分にロープが張られ、登山者が利用している。周
遊路にする構想であろうが、古くからの川合から
の登山道に問題がない以上、静謐を保つべきこの
ーンを行うという。「大台ヶ原自然再生推進計
画」で決定された「マイカー規制」が、奈良県の
反対で頓挫して方向性の見出せない混沌とした現
状にあることを棚上げして、徒に公共交通利用の
山域に一般登山者に対するサービスのために新道
整備が必要であるとは考え難い。一部踏跡が定か
でないところがあり、精通者向きのルートとして
おけば事足りる。
イメージをばらまくイベントは無責任である。
本会は以前から「レイル&バス」を登山者に訴
えるべきだと主張してきたが、それはあくまでも
マイカー規制実現のためである。しかし、過日の
本来、主稜線の奥駈道は1300年続いた修験
道の行場として、静寂な原生的空間を保つべきで
あり、なすべきは新道開設ではなく、朽ちている
大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会においても
疑念が呈されたが、環境省が「マイカー規制」に
全く触れていないのはなぜか。
日頃公共交通を利用したことのないマイカー利
大峰七十五靡の再建であろう。それが世界遺産登
録の意義である。世界遺産登録は「保全」が目的
であるにも拘わらず、地元では経済的利益を得る
好機と理解して疑わず、登山者を呼び込もうとす
用者である演者等が、演壇の高みから公共交通利
用を説くのは市民に対して失礼であり、恥ずべき
ことである。
奈良県原案では「4歩道」すべてにマイカー登
るのは恥ずべきことである。
山者のための「登山基地」設置が予定されている
―70―
が、環境省はそれを踏襲するのであろうか。公共
交通利用キャンペーンを張りながら、現実の政策
としてマイカー登山者を誘致する施設整備を行う
のは支離滅裂である。
マイカー登山を促進する「4歩道の追加」は必
要ない、と考える。
以 上
環境省のパブリックコメントへの回答について
本年(2005 年)8 月から 9 月にかけて行われ
捕殺は強行された。パブコメによって行政の原案
た「吉野熊野国立公園の公園計画の変更に関する
パブリックコメントの実施結果」が公表された。
◆ 本会が提出した「歩道 4 本は要らない」と言
が撤回された例があるのだろうか。意見を出して
も、正直、無力感が残る。市民が自立してパブリ
ックコメントの力で行政の原案を変えるところま
でいかなければ、単なるアンケートと化して、や
う意見は拒否された。近畿地方環境事務所は口頭
で、「四つの歩道は地元の要望が強いので公園計
画に載せるが、施設整備を前提としたものではな
い。今後の整備については個々に慎重に検討す
がて制度的にも廃止される事態に至るのではない
か。 パブコメの形骸化が官僚の市民蔑視を増幅
し、ひいては民主主義の形骸化に至ることを怖れ
る。
る。」とのコメントを加えた。しかし、地元は公
園計画に載ったことで、「次ぎは全額国費負担の
施設整備だ」と期待するに違いない。
「そうでなければ、何のために公園計画に載せた
田村 義彦
◆ 4 歩道は、既に利用され歩道敷きが洗掘され
ているという理由で 3 歩道を即整備、1 歩道を慎
のか」と言ってくるであろう。その時どう説得す
るのか。このコメントの真偽が今後試される時が
必ず来る。しっかり記憶に留め、環境省の対応を
注意深く見守って行かなければならない。
重に検討のうえ整備するという回答になっている。
利用を抑える発想不足の意見に対する回答も、上
記の理由から、必要な整備と適切な管理を検討し
ていくからやると言っている。
そして、個々の施設整備を考える場合、環境省
が今後どのように大峰山系を保全していくのか、
将来像、グランドデザインが必要になる。環境省
が早くまとめるように本会は要望している。
世界文化遺産の管理計画をベースにした整備に
すべきという意見で足止めをかけようとした意見
については、環境省は管理計画の主管部署ではな
いので、作成されたらそれに則って整備はしてい
吉熊についてのパブコメは僅か数件だったとい
う。戦後の衆愚政治に馴れきって、自立した市民
の少ない時代風潮の反映かもしれないが、市民参
画の折角の機会が生かされないのが残念である。
くという逃げの回答である。奥駈道の熊野古道と
の混同は記載誤りとしてさらっと答えている。
要するに意見は貰ったが、慎重に検討するとは
言いながら何の変更もせずにやると言っているの
同時に、よく言われるパブリックコメントの形骸
化が心配である。行政に「市民の意見を聞いた」
という免罪符を与える機会として利用されるのが
なさけなく、かつ、腹立たしい。
である。自然を本当に大切にしたいという国民の
意見を真剣に聞き客観的判断をするのではなく、
自治体の観光誘致の思惑が見え隠れする一般登山
者が容易に入り込めるようにする 4 歩道追加計画
過去何度かのパブコメに意見を出したが、受け
入れられた覚えがない。大台ヶ原の鹿捕殺のパブ
コメでは 101 人のうち 76 人が捕殺に反対したが
はそのまま通そうというのである。この回答が環
境省のあるべき行動と言えるだろうか。
2005 年 12 月 04 日 鈴木遵司
―71―
大峰山系・洞川自然研究路整備現地説明会
山上ヶ岳の登山口洞川のエコミュージアムか
ら大峰大橋までの山上川に沿った3km余りの自
然研究路が、「昭和40年代から50年代にかけ
一箇所、かなり以前に山側から落ちた崩土が道
を覆っていて、すでに草や稚樹が生えているのを
取り除いて下の石畳を出したいと県が主張した。
て整備されたが、昨年(2004年)の台風で大
きく被災し、部分的に完全に機能を喪失しており、
早急に整備が必要。」(環境省)として、200
5年7月7日に現地説明会が開催された。大峰山
本会は、歩行に邪魔になっていないし、このよう
に土が安定すれば植生が生えてやがて森に戻る教
材として使えるのではないかと議論になったが、
最後は環境省の英断で取り除かないことになった。
系では初めて、大台ヶ原を含めて5回目の現地説
明会であった。
一方、大量の地下水が歩道を流れているところで
は、木道でいいのではないかと発言したが、環境
省の決定で飛び石状に石を置くことになった。こ
の個所は湧水だという意見も出たが定かではなく、
片道3km余りの自然探求路を10工区に分け
て歩道改修と標識設置が計画されていたが、それ
ぞれの場所で、必要性について突っ込んだ検討、
論議が繰り返されて往復4時間もかかった。大台
ヶ原では歩くことに時間をとられたが、ここでは
仮に湧水でなくても植林地の端の5mほどの崖か
ら大量の地下水が出ていることは確かなので、教
材として使えるのではないかと提言した。
歩く距離が短かったので検討に時間をかけること
が出来たのはよかった。
結果論ではあるが、研究路新設当初に、あまり
にも川に近くに、所によれば護岸の上を歩く様に
設置されていたため、台風の増水で壊されたとこ
ろは森の中に逃げて歩道が設置されることになっ
説明は施工委任を受けた奈良県と設計業者が行
った。当初からコンクリートは使わないことにな
っていたのは、昨年度の大台ヶ原の方針の踏襲で
あり評価できた。しかし、「必要最小限度の整
備」という環境省の基本方針からすれば、余分と
た。私はむしろ全行程を森の中に移動した方が良
いようにすら感じた。
ところで、最初に少し書いたが、現地説明会は
思われる歩道整備、標識設置がいくつかあったが、 今回通算5回目で、行程が短く、時間もあったの
参加者の意見で整理、削減されたところもあった。 で、今までになく施工個所の論議が盛り上がった。
しかし、少し心配なことも出てきた。それは、参
加する市民の側の発言が、しっかりした感性、論
本会にとって「自然探求路」は初めての経験で
あったが、自然を体験、研究する道は登山道と同
じ様に、できるだけ人工を排した、あるがまの自
然である方が良いだろうと考えて発言した。とこ
ろが、ある登山団体から登山道と自然研究路は違
理に基づく提言でないと、折角現地説明会を開い
た行政の期待にそむくことにならないかというこ
とである。ただ、市民が集まればよい、というも
のではない。御用発言は行政には心地よく響くで
う、という批判がでたが、それではどう違うのか
は説明がなかった。どうせ、為にする御用発言な
ので論議はしなかった。できるだけ人工化しない
自然を体験させることこそが自然研究路の目的で
あろうが、やがて、行政が市民へ責任を転嫁し、
市民を愚弄する結果を市民自らが招くことになる。
現地説明会で行政に対立、否定するのが我々の本
意ではない。自然にとっても人間にとってもより
あって、それを理由も述べずに批判、否定する理
由を聞くほど当方も閑ではない。
良い整備にするための市民からの具体的提言の場
である。その提言は多分行政にとっては不愉快で
あろうが、にもかかわらず忍耐強く現地説明会を
―72―
継続開催することに敬意を払いたい。自立した市
取)である。一週間前の告示を早めて、土・日も
民として、それに応える責任が我々にはある。民
含めて、多くの市民が参加できるような配慮を期
主主義が未成熟なこの国では困難かもしれないが、 待したい。本会はどのような現地説明会にも参加
折角の現地説明会を形骸化、御用化することは絶
対避けなければならない。
現地説明会は立派なパブコメ(市民の意見聴
するが、市民の参加を考慮した映像による説明会
を否定するものではない。
2005年7月12日
田村 義彦
弥山山頂公衆トイレ新設現地説明会
2005 年 10 月 25 日に天川村役場において「平
成 17 年度大峯縦走線歩道公衆トイレ整備事業現
地説明会」が開催された。環境省近畿地方環境事
日帰り登山者が弥山、八経ヶ岳周辺で雉を撃った
ことになる。勿論全員ではないが半数にしても恐
るべき数字である。「弥山神社のすぐ横で排便し
務所(5名)、奈良県森林保全課(2名)、天川村
観光農林課(2名)、坪内地区区長、同環境整備委
員(2名)、弥山神社宮司、弥山小屋管理人、登山
団体、市民など 30 余名が出席した。本会から森
て聖域を汚している」と宮司さんは怒りをあらわ
にされた。坪内区の代表は、「弥山は聖地だ、神
の山を守らなければならない」と発言された。地
元の方々の聖なる山を守ろうという願いはわれわ
本幸治事務局長と田村が出席した。
環境省の計画は、昨年度に奈良県が作成した
「大峯山系環境共生推進計画」を踏襲したもので
れの願いと同じである。
修験道のメッカ山上ヶ岳には年間9万人の参詣
者が登るといわれているが、その数と比較してこ
の5万人はいかにも多い。私のトンネル開通前の
あった。奈良県、天川村、森林組合が7回現地に
入って測量した詳細かつ多量の図面と写真が資料
として配布されて、居ながらにしてイメージする
ことができた。ここまで準備された関係者のご努
古い記憶に照らすと、大袈裟な表現であるが天文
学的数字に感じる。奈良県の資料にある同年の稲
村ヶ岳 25,000 人、和佐又山 27,000 人に比べて倍
である。尤も、弥山は翌年平成 15 年には 47,000
力に敬意を表する。
人と9%程減っているが、トイレ新設計画の基礎
数字には平成 14 年の 51,500 人を使っている。
◆ 弥山登山者 51,500 人!?
「弥山小屋のトイレが、小屋宿泊者以外の日帰
◆ 309 号線のパラドックス
り利用者の使用を認めている結果、特に連休や夏
季などトイレの処理能力(100 人/日)を越えた
未分解の屎尿による周辺への影響が生じている」
ため、数年前から地元が公衆トイレ建設の陳情を
国道 309 号線をつかって行者還トンネル西口か
ら登るこの信じ難い数の日帰り登山者が、公衆ト
イレ新設の原因である。そしてまた、その日帰り
登山者の屎尿を国道 309 号線を使って搬出するわ
出していたという。
まず、資料にある弥山の平成 14 年度の年間利
用者(登山者)数 51,500 人の数字に驚いた。奈
良県の共生推進計画書によると、「小屋の宿泊者
けである。更に言えば、トンネル西口にトイレを
作れば、弥山山頂には要らないことになる。この
パラドックスについて説明会で発言したが何故か
論議にならなかった。しかし、大峯山系をマイカ
数やテント宿泊者数、及び日帰り登山者のトイレ
利用者数のカウント」が平成 14 年は 12, 500 人
であるから、単純計算では、その差 39,000 人の
ーで日帰りできる便利な山にしてはならない、汗
して登る不便な山として残さなければならない、
と自然保護団体としても基本的な考えは発言した。
―73―
屎尿は搬出用の小型モノレールを「布引谷二俣
正面切った反論はなかったが、「日帰りでもいい、
の尾根」に最短距離の 2500m敷設して、国道 309
うどんを食べて風呂に入って帰ってもらいたい」
号線に降ろす。午後、車に分乗して現地を見に行
という切実な願いがあることはひしひしと伝わっ
てきた。
計画によると、山頂に貯留式の公衆トイレ本体
8.2m×4.6m×高さ 5.9m:男子用 2 穴、女子用
3 穴1棟と、モノレール収納庫 8.2m×3.3m×
高さ 5.2m1 棟を建て、国道沿いにモノレール収
納庫と付帯施設を建てる。
ったが、景観を阻害しない適地であった。敷設の
ための伐採も、胸高直径 20cm が1本、15cm が 15
本、あとは 10cm 以下で、さしたる自然破壊では
ない。1箇所小さな谷を横断するところが大雨で
流される心配があるが、村内には総延長 30Km の
モノレールの実績があり、修理資材、技術、経験
が蓄積されているので心配はないとの村の返事で
あった。
想定 51,500 人分の屎尿 25 トンを降ろすには1
◆ 本会の提案
環境省の説明に引き続いて、本会が提案をした。 回 0.4 トンであるから 63 回。費用は1トン 12 万
円で、年間 300 万円かかる。環境省は建設費を全
詳細は本会HP別掲の「弥山山頂公衆トイレ新設
についての提案」にゆずるとして、要点のみ記す。 額出すが、維持費は全額地元負担である。天川村
「公衆トイレ新設によって弥山小屋トイレのオ
ーバーユースは解決するとしても、土壌浄化浸透
方式は不完全な処理方法であるため、降水時のオ
ーバーフロー、臭気などは改善されず、問題を積
が年間 300 万円をこれから先ずっと負担しなけれ
ばならない。財政の苦しい村で果して負担し続け
られるのか心配なので質問したが、努力する、と
の返事であった。
み残すことになる。公衆トイレを新築せずに、弥
山小屋トイレを搬出を前提にした貯留方式に改築
して、この際、根本的な解決を図ってはどう
か。」と提案した。
なお、奈良県はヘリコプターによる搬出も検討
したが、弥山山頂の気象条件から無理で、一方、
屎尿処理の電源として太陽光、風力発電も検討し
たが景観を阻害しコスト高であるため断念したと
のことであった。
◆ 環境省「私有財産に国費を出せない」
村からは「ベストの方法である」と賛同を得た
が、環境省から「村の財産である弥山小屋を、国
今後の予定は、1 期工事(平成 17 年度):公衆
トイレの付帯施設、2 期工事(平成 18 年度):
費の執行で改築できない。会計検査院の検査を通
らない。」という見解が示された。新潟地震の被
害家屋に、「私有財産の復旧に国費は支出できな
い」と補助しない杓子定規な解釈に似た見解であ
公衆トイレ本体と付帯施設。 総工費約 1 億 5 千
万円、環境省の直轄事業で奈良県への施行委任で
ある。
◆ じっくり検討できた最初の現地説明会
ろう。
しかし、搬出作業は国を離れて村に委ねられ、
村の費用で行われる。運用で工夫して弥山小屋の
屎尿を搬出して周辺植生への悪影響を断つことが
現地説明会は今回が第 9 回である。この 3 年間、
回を重ねてきた現地説明会のなかで、今回は時間
をかけて論議検討できた最初の検討会であった。
自然保護団体として天川村の方々の想い、希望を
必要である。この形で改善されるのであれば本会
に異存はない。
虚心に聞くことができた初めての機会であったし、
本会の考えを率直に発言することができ、村の
方々からも話し合えてよかったという感想が聞け
て嬉しかった。整備内容にもよるが、今後もこの
◆ 搬出用小型モノレール
ような形の現地説明会を企画していただきたい。
―74―
お二人の一般市民の出席は初めてであった。お
一人から「守る会のHPを見て出席したが、守る
会が環境省に敬意を表されたので驚いた」と聞い
の道になっている。弥山への登山道は小坪谷を更
に奥へ進んで、1 本は尾根を、もう 1 本は沢を詰
める。沢の道は大雨の度に倒木が出るので、現在
て私も驚いた。守る会と環境省のすさまじい激突
を期待されて出席されたのであろうか。環境省が
出席者全員に発言を求めたがお二人の発言がなか
ったのが残念である。もしこの HP をご覧であれ
は閉鎖状態。
これら 3 本の登山道は昔からの杣道で、近年登
山者が勝手に歩いて広げた。道標、テープも登山
者の勝手な設置で、天川村も弥山小屋も関与して
ば、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
いない。最近の登山者は勝手なルートを作り、そ
れをネットで自慢して、更にそれを読んだ登山者
がその真似をしてエスカレートさせている。テー
プ、道標の撤去に苦労している。一寸歩けばビニ
現地説明会は本年度だけで 6 回開催された。驚
異的な回数である。環境省が多大な労力を費やし
て膨大な資料を用意した現地説明会はここにきて
定着してきたことを感謝したい。ほとんどの国立
公園ではやっていないのではないか。「吉熊方
式」とも言えるこの方式を今後も継続して、より
ール袋が一杯になる。」
私も、テープ、道標の撤去は昔から方々の山で
してきたが、その状況が大峯山系においてもこれ
よい協働に発展させることができれば幸いである。 ほどひどくなっているとは知らなかった。尤も大
台ヶ原の堂倉山への道が、古道尾鷲道を無視して
近道に勝手にテープが巻かれていて、かえって迷
それにしても、長期赴任にピリオドをうって転
いやすい。行く度に取っているが蝿を追いような
任された酒向貴子熊野支所長が、本会の情報公開
の要望を容れて、渋る奈良県を指揮して第 1 回大
台ヶ原現地説明会を強引に開催したのが 2002 年
9 月 10 日である。その後も、密室主義の奈良県
政の厚い扉を押して今日の情報公開を導いてこら
ものだ。日出ヶ岳から三津河落山に至る稜線もい
たちごっこである。
れたご努力に遠い奈良の地から、改めて敬意を表
したい。
大台ヶ原に空中回廊が設置されてからのこの 5
年間は、本会にとって正に激動の 5 年であった。
小坪谷登山道を公園計画に載せる計画を立ててパ
ブコメにかけた。本会は高崎横手から明星ヶ岳に
至る登山道と併せて掲載反対の意見を霞ヶ関へ送
った。(本 HP「国立・国定公園の公園区域及び
ようやくここまで来た、という感が深い。それに
しても、天川村役場の方も同じ思いであったこと
が衝撃的であった。天川村にも新しい風が吹きは
じめたとすれば、そんな嬉しいことはない。
公園計画の変更への意見」) 私はこの 2 本のル
ートは共に、天川村又は弥山小屋が登山者誘致に
ために開削したのかと、正直、若干の遠慮があっ
た。しかし、歴史的古道を尊重することも知らず、
【付記】環境省の公園計画に①小坪谷線・②頂仙
岳明星ケ岳線を掲載してはならない
現地説明会に出席された弥山小屋管理人の西岡
登山の本道をわきまえない無法登山者の勝手な
「なし崩し登山道」を、こともあろうに国が既成
事実として追認するとは由々しき行為であり、あ
ってはならない。
満氏から小坪谷登山道について詳しく教わること
ができた。
即ち、「行者還トンネル西口から小坪谷を登る
登山道は 3 本ある。1 本は西口からすぐ左の尾根
環境省は「なし崩し登山道」が、市販の地図帳
に実線で記載されていることを気にしているよう
であるが、売るために読者に迎合する商業出版社
の営業政策を国が気にする必要など毛頭ない。西
にとりついて急坂を登る道で、現在は行者還岳へ
岡氏はその出版社の地図を訂正させているが、本
ところで、環境省は公園計画の見直しで、この
―75―
会もかつて書店にある 7000 部の地図を回収させ
て全面改訂させたことがある。現在も別件で申し
入れている。
更に公園計画掲載に反対するもう一つの理由は、
小坪谷線を環境省が認めることはマイカー日帰り
登山による大峯山系の観光地化に糸口を与えるこ
とになり、各地の登山基地建設に広がっていくか
らである。
2005 年 10 月 26 日
田村 義彦
【平成 17 年度大峰縦走線歩道公衆トイレ整備事業第 1 回現地説明会提出 2003・10・25】
聖地大峰山系を“マイカー日帰り登山”で穢してはならない
―― 弥山山頂公衆トイレ新設についての提案 ――
大台ヶ原・大峰の自然を守る会 会長
田村 義彦
◆ はじめに
平成 17(2005)年 3 月、奈良県は「大峰山系
環境共生推進計画」を策定した。昨年、懇話会で
登録 1 ヶ月後の 2004 年 7 月 31 日に奈良におい
て開催された国際シンポジュウム『紀伊山地にお
ける文化遺産について考える』において、4 年前
の検討中に「三位一体改革」によって環境省の直
轄事業に移行することになった。
奈良県は登録を予想して、数年前から歩道、避
難小屋などの過剰施設整備に努め、すでに殆ど終
に世界遺産登録に最初に手を挙げた金峰山修験本
宗宗務総長・金峰山寺執行長 田中利典氏は「世
界遺産というと、観光資源とか地域振興にばかり
利用されるふうに聞いておりましたので、もし今
わったといえる。弥山山頂公衆トイレは本年度に
残された最後の課題であるが、それにとどまらず、
来年度以降に予想される「登山基地」建設につな
がる重要な課題である。公衆トイレの技術的検討
度の登録によって吉野・大峰がそういう形になっ
たら、かえって、手を挙げない方がよかったので
はという気すらしてきまして、本当にこの1ヶ月
ぐらい気落ちしてまいりました。世界遺産登録に
の前に、世界文化遺産登録後の大峰山系全般の施
設整備について考えたうえで、提案をしたい。
◆ 世界文化遺産登録の誤った理解
手を挙げたのは一つには、吉野・大峰の聖地性、
歴史性を地元の人に自覚していただきたいという
思いからで、修験者自身がもう少し自負心をもっ
てほしいと思ったからです。もう一つは、壊れつ
和歌山・三重・奈良三県が世界遺産登録に期待
したのは経済的利益でしかなかったが、ユネスコ
の意図は勿論そうではない。人類が長い歴史の中
で創造し継承してきた文化的な価値を有する記念
つある大峰の自然環境と修験の場を守っていきた
いという思いからであります。」と発言された。
((財)ユネスコ・アジア文化センター 文化遺
産保護協力事務所編集発行の『記録集』)
物、建造物、遺蹟などを、次世代に継承するため
に「危機にさらされている世界遺産リスト」に登
録されたのである。「紀伊山地の霊場と参詣道」
は、単なる社寺と道の関係ではなく、山岳信仰の
私は、このシンポジュウムに出席したが、
「記録集」にはテープ起しされていないが、田中
利典氏は「金儲けしろとはどこにも書いてない」
とまで発言した。
霊場と修行の道の関係にあるという「文化的景
観」に価値が置かれ、それを保全するために登録
されたのである。
また、修験道の行者さんからは本会HPを読ん
で賛同のメールが届き、「行者さんの中に、世界
―76―
遺産登録を期に、奥駈道が過剰整備されることを
心配する声が上がっている。」と教えて戴いた。
改めて言うまでもなく、古来、弥山は川合から
長い尾根道を辿るか、険しい弥山川を遡行して一
日かけて頂きに達し、感動にふるえた聖峯であっ
ところが、洞川で開催された登録記念式典で奈
良県知事が「これで観光客が増えるだろう」と挨
拶する姿がTV、新聞で報道された。文化よりも
お金を優位に置くこの国、この県の恥ずべき現実
た。ところが行者還林道開削によってトンネル西
口に車を置いて日帰りする登山者・観光客が増え
ていった。その登山道を誰が開設したのか知る由
もないが、近年更に、昔からの小坪谷源流の踏み
である。
世界自然遺産登録後の屋久島、白神山地、白川
郷などの観光公害の惨状には言葉を失う。奈良県
は屋久島の現状を受けて、「これだけ多くの観光
跡を広くして道標まで建て、近道であるため殆ど
の日帰り登山者・観光客がこのルートを利用する
ようになり、日帰り観光バスまで来るという。
環境省は公園計画見直しでこのなし崩し短縮ル
客が来るからそれを受け入れる施設が必要だ」と
いうが、それは間違った発想である。そのような
惨状を大峰山系で繰り返してはならないのだ。
ートをリストアップするというが、現状追認は奥
駈道の堕落につながる国の責任放棄である。強く
翻意を求めたい。リストアップすれば次ぎはトン
ネル西口の登山基地建設につながり、更に、上北
◆ 大峰山系を不便な山として保全しよう
奈良県の計画では来年度以降、林道と登山道の
接点に「登山基地」(トイレと休憩所)新設がい
くつか予定されている。
山側のエコツアーを受けてトンネル東口の登山基
地建設にもエスカレートし、大峯山系の観光地化
が一気に進むことになる。
世界文化遺産としての価値が評価された大峰山
系の聖地性、歴史性は、都市から遠く離れ、交通
の便が悪いために容易に人が立ち入ることが出来
ない地域に宗教が存在したからこそ今日まで存続
ちょうどこのケースに酷似した例が北海道・大
雪山国立公園トムラウシ山にある。トムラウシ山
は大雪山国立公園のなかで最も原生的な自然景観
を残す山であり、当然日帰り登山は不可能であっ
し得たのである。世界文化遺産登録を観光の目玉
にして、地域振興の美名の下に、大峰山系を“マ
イカーで日帰りできる観光の山”に変えてはなら
ない。長いアプローチを汗して登る不便な山とし
たが、近年、近道として利用されてきた林道の踏
み跡がなし崩しに登山道になり、日帰りが可能に
なった。そのために、トムラウシ山直下の南沼キ
ャンプ指定地の高山植生の破壊や屎尿問題が顕在
て残すことこそが、世界文化遺産登録の精神に沿
うことである。
大峰山系最奥の七面山に、荒れた舟ノ川篠原林
道を 4WDを駆って登るのはまともな登山ではな
化してきた。現地では、このなし崩し短縮登山道
の閉鎖が真剣に論議されている。
◆ 弥山山頂公衆トイレ新設は奥駈道観光地化の
はじまりである
い。登山の堕落であり、聖地七面山に対する冒涜
古来、長い奥駈道を辿る行者、登山者のための
である。坪ノ内林道が稜線に達したからといって
公衆トイレは 1 箇所もなかった。弥山山頂公衆ト
そこに登山基地を作る必要はない。大峰同様に世
界文化遺産登録を受けたイタリアのアッシジでは、 イレは行者還トンネル西口からの日帰り観光登山
観光バスやホテルの姿はないという。
◆ 弥山は“マイカー日帰り登山”の観光の山で
はない
者のためのものである。小坪谷源流の自然を破壊
しているなし崩し登山道を閉鎖すれば公衆トイレ
の必要はない。弥山に安易に訪れる日帰り観光登
山者のために、聖地弥山山頂に公衆トイレを新設
することは、修験道の霊場に対する冒涜であり、
―77―
観光地化に手をかすことになる。奥駈の修行に励
む修験者の横を日帰り観光登山者がぞろぞろ歩く
姿はあってはならない光景である。
できないので、モノレールによる搬出を前提にし
た貯留方式に改造することを提案する。新しい建
物による景観阻害を防ぎ、税金の節約にもなるで
あろう。
◆ 質問
(1)弥山公衆トイレ設置の理由(目的)は、
奈良県の資料では「弥山小屋のトイレは、降雨時
◆ 奥駈道の道標についての要望
「吉野熊野国立公園吉野地域管理計画書」の
やピーク時に土壌処理槽の容量が不足し、液肥状
の未処理水がオーバーフローし、周辺植生への影
響、臭気等の問題が発生しているから」とされて
いるが、公衆トイレの新設によって、弥山小屋の
「第3 大峰山脈管理計画区」の「1 管理の基本
方針」「(1)保護に関する指針」の「ア 風致
景観の特性及び保全対象」に「建築物、歩道、標
識等公園施設等の整備にあたっては、木材等自然
この問題は確かに解決するのか?
・土壌浄化浸透方式(奈良県資料 P.84)は不確
かな方式であるから、宿泊者・従業員だけでも処
理しきれないと考えるが大丈夫か?因みに、奈良
材料を使用し伝統的な雰囲気を保つことに留意す
る。」とある。
ところが、五番関から奥駈道に、奈良県教育委
員会の「奈良県歴史の道(大峯奥駈道・熊野参詣
県の資料 P.36 では「合併処理方式(土中蒸散方
式)」とも記されているが、正確な表記に統一さ
れたい。
・降雨時のオーバーフローは利用人数に関係ない
道小辺路)整備活用計画」に基づいたと思われる
灰色の石材の道標が三県共通のデザインでいちは
やく設置された。人工石と思われる道標は、自然
景観、雰囲気を阻害し、既設の木材の道標に対し
のでは?
(2)公衆トイレ建設費は? 費用対効果は?
・奈良県の資料によると、弥山小屋の宿泊者・テ
ント宿泊者・日帰り登山者のトイレ利用者の総数
て違和感があり、重複設置の個所もある。吉野・
大峰の世界遺産は未完成であって、ユネスコから
管理計画の提出を求められ、現在作成中である。
その段階で、緊急を要しない道標設置を急ぐとは
が、平成 15 年は 8000 人、16 年は 1 万人になっ
ているが、宿泊者以外のトイレ使用者は何名?
・弥山小屋定員 100 人を越える公衆トイレとして
の利用日数は平成 15 年で 22 日、16 年度で 23 日
理解に苦しむ。
環境省は大台ヶ原においてはサイン懇話会を開
催して時間をかけて入念に検討してきたが、大峰
山系において、特別保護地区内のこの性急な設置
で、共に 12%に過ぎないがC/Bは?
(3)搬出費はどこがいくら負担するのか?
◆ 提案・・公衆トイレ新設を止めて、弥山小屋
について充分な検討がなされたのであろうか。
奈良県森林保全課には「大峯奥駈道保存管理計
画」があるが、むしろそれを隠れ蓑に過剰施設整
備を行ってきた。行政の縄張り意識で、それぞれ
トイレの貯留式改造を
弥山小屋のトイレ処理問題が積み残されるので
あれば、公衆トイレ新設の目的を満たさない。山
岳トイレの処理方法は環境省の「環境技術実証モ
勝手に乱雑に整備することは許されることではな
い。環境省は大台ヶ原同様整理して、重複するも
のは撤去していただきたい。
今後も出るであろう各自治体からの身勝手な整
デル事業検討会」などでいろいろ検討されている
が、生物学的にも、物理化学的にも未だに完全な
技術は開発されておらず、乾燥・焼却か搬出しか
ない。弥山小屋の現在の土壌浄化浸透方式は期待
備要求に対して、大峰山系の自然と文化の保全に
責任を負う環境省は、毅然とした姿勢で臨んでい
ただきたい。
以 上
―78―
平成17年10月27日
大台ヶ原・大峰の自然を守る会 様
近畿地方環境事務所
統括自然保護企画官 小沢晴司
平成17度大峯縦走線歩道公衆トイレ整備事業現地説明会について
標記について、予定通り10月25日(火)に実施いたしましたところ、ご多用にも関わらず多くの
関係の皆様のご参加をいただきました。ありがとうございました。
説明会での意見交換を通じ、トイレの整備や屎尿の搬出方法につきまして一定の合意形成を得ること
ができたと理解しておりますが、参加の皆様のご協力に深く感謝申し上げるとともに、別紙のとおりご
報告申し上げます。
また、今後も、地元との一層の連携が必要であることなど多くのご指摘をいただきました。私どもと
しましても、大峰山系の自然と文化の保全について、地元はじめ関係の皆様との連携の重要性を改めて
理解し、当日いただきましたご意見を踏まえ、整備内容や管理運用の方法等について、さらによりよい
方向に向かうよう検討を進めてまいりたいと考えております。
事
務
連
絡
平成17年10月27日
大台ヶ原・大峰の自然を守る会 様
近畿地方環境事務所
平成17年度大峯縦走線歩道公衆トイレ整備事業について
先の平成17年度10月25日に開催しました現地説明会にご出席頂き、貴重な意見を賜り誠にあり
がとうございました。大峯縦走線歩道公衆トイレ整備事業の整備につきましては、現地説明会での意見
交換等踏まえ、下記の方針により整備することと致しましたので、お知らせします。なお、当初予定し
ておりました10月30日の第2回現地説明会については要せずとのご確認をいただきましたことから、
第2回現地説明会の開催は行わないことを申し添えます。
記
<整備方針>
・ 自然の現状、利用状況を踏まえ自然環境に配慮した適切な整備とします。
・ 適切な維持管理に留意した整備とします。
<整備内容>
大峯縦走線歩道公衆トイレについては、弥山山頂部において貯留方式(モノレールによる
搬出)により整備します。
―79―
やはり間違っている登山道の木製階段
2005 年 7 月 7 日、近畿自然歩道の整備計画の
現地検討会に出席する為、一年ぶりに天川村に行
まの登山道であれば、ご婦人は文句を言ったでし
ょうか?もし、不満を言うのであれば、自分自身
って来ました。世界遺産登録から一年、村の様子
は道路拡張という形で変わりつつあることがすぐ
に分かりましたが、平日ということ、梅雨という
こともあってか観光客が押しかけるという感じは
の体力や脚力に対してであり、雨水で掘れた登山
道に対してではありません。
木製階段は登り難いし、下りは危険です。その
危険性を、階段を設置した役所に対して「手すり
せず、村は静かでした。弥山・八経ヶ岳の天川村
からのトンネル西口の登山口へ通じる行者還林道
は昨年の大雨以来不通のままです。
を付けなければ危険で仕方ない」と訴えたのでは
ないでしょうか。
大台ケ原の空中回廊や大峰の階段も、気がつい
たら既に出来ていました。一度工事をすれば、そ
の撤収は困難ですが、根気強く訴えるしかありま
その弥山への登山道に取り付けられた木製階段
について、登山者が地元役場に怒鳴り込んで来た、 せん。
また、大台ヶ原周回路の整備で実績があった現
という話を県の担当者から雑談の中で聞きました。
地説明会のように、今後も現地で検討することは
中年の女性の登山者は「木製階段に手すりをつけ
ろ」と言った、というのです。それを聞いて、私
は開いた口が閉まりませんでした。
始めは「ナンセンスだなあ、それでも登山者?」
と呆れてものが言えなかったのですが、ご婦人は
大きな意味を持つでしょう。反面、整備のあり方
については、参加者が慎重で思慮深くなければ、
逆効果ということも考えられます。しかし、環境
省がしっかりした計画案を作れば、何も問題はな
い訳です。期待したいと思います。
長時間粘って手すりを付けろ、とだけ言ったとは
河内由美子
考えられません。どのような登山暦がある人かは、
全く分かりませんが、階段を付けず元のありのま
市民参画・情報公開の重大な危機!
――「大峰山系地域整備計画(案)に関する説明会」――
意見等も参考にして、基本計画をとりまとめる予
奈良県は、2005 年 3 月に「大峰山系環境共生
推進計画」を策定した。しかし、その策定途中で、 定です。」との案内があったので、表題の会議に
“三位一体改革”によって国立公園の施設整備が
出席するため、2006 年 3 月 7 日に谷幸三常任委
全額国費による直轄事業になったため、奈良県の
計画を下敷きに、環境省で改めて整備計画を練り
直すことになった。
員と吉野町まで出かけた。
◆「合意形成」とはお上のお達しか
そこで、環境省近畿地方環境事務所が、関係機
関、住民などと「意見交換を行い一定の合意形成
を図る場」を設定し、「そこでいただきましたご
地元の市町村が動員をかけるであろうから、自然
保護団体の出る幕はないかもしれないと予想した。
しかし会場には、各市町村から役場の職員が 1 名
出席しているだけで、地元住民の姿はなかった。
「地元負担なしで国がやってくれるのなら全部
やってもらおう」と、前鬼の現地説明会のように
―80―
したがって、出席したのは山岳団体、自然保護
団体と奈良県が計画を策定したときの旧懇話会メ
ンバーの 10 名足らずが召集されていたに過ぎな
かし、環境省は地元の要望が強いので、という理
由で拒否した。しかし「施設整備を前提にしない。
整備を行うときは協議する」ということであった。
かった。そうなれば、「意見交換」とか「合意形
成」というのは建前で、山岳団体や自然保護団体
に対して、すでに決定している計画のお達しを下
して納得させることが目的だったということにな
ところが、その 4 路線が全部、中期計画に入って
いたのである。だまされた、と瞬間思った。
4 路線の内の 2 路線、白川又仏生ヶ岳線・七面
山線はアプローチの林道の危険性から現実性のな
る。環境省も不思議な会議を開いたものだ。
い歩道である。その理由をここでは繰り返さない
が、パブコメにも、口頭でも度々実情を説明して
きたので環境省は良く承知しているはずだ。それ
でも、何故、計画に入れるのか。筆者は声を大に
◆環境省は計画案を変える可能性を認めた
上記のように「基本計画をとりまとめるために
して理由を述べ、計画案からの削除を求めた。奈
意見を聞きたい」ということであったので、環境
省が模索中に民意を徴することを評価していたが、 良県勤労者山岳連盟も本会と同じ理由で削除を求
めた。環境省の回答は勿論、意味不明であった。
会場で配布されたのはすでに出来上がった計画案
だったのでオヤッ?と思った。
◆緊急性も必要性もない 2 路線をリストアップし
冒頭、環境省から「現在、全国的に国立公園の
た理由を答えよ
公園計画を作っているが、説明会を行っていると
環境省はこの 2 路線について、「利用実態調査
ころは少ないと聞いている。」との挨拶があった。
を先行して整備を検討する」と書いている。その
それを受けて筆者は「近畿事務所の良き慣習・伝
統を継続していただけることに敬意を表します。
ところで、この計画案は民意を徴して変更するの
ですね。確認したいのです。」と糺した。回答は
官庁用語で明確ではなかったが一応変える可能性
様な緊急性も必要性も把握できていないルートを,
何故中期計画に入れる必要があるのか。「少数の
縦走利用が見られる程度である」と書いているで
はないか。「緊急時のエスケープルートとしての
を認めたと理解して、一応安堵した。
◆しかし、質問・要望への回答は官僚答弁
環境省の一時間に及ぶ長い説明が終わって、や
必要性も視野に入れながら」というが、このルー
トを下って人家のあるところに出るには荒れて危
険な林道を歩いて 6 時間以上かかり、エスケープ
ルートとしては全く機能しない。
っとフロアーからの発言が許された。県の計画と
の関係、各地の実情を踏まえた質問、要望につい
て環境省は答えた。しかし、それはかつて飽きる
ほど聞いてきた官僚答弁であって、熱い血が流れ
事情に通じた者しか歩かない踏み跡程度の道に
は歴史を示す高い価値がある。その踏み跡を何故
一般登山者のために、周辺の原生林を破壊してま
でわざわざ開削しなければならないのか、万人が
納得できる理由を明示してもらいたい。白川又源
る人間の言葉ではなかった。発言者は空論を言っ
流の仏生ヶ岳東面の原生林は大峰山系の唯一の宝
ているのではない。汗を流して現地に足を運び、
現地の実態を踏まえて質問、提言をしているのだ。 物である。宝物は秘めておくべきである。
繰り返される同じ調子の意味不明、責任の所
◆公園計画追加の 2 歩道を整備計画から削除せよ
昨年の公園計画の見直しで、追加の歩道 4 路線
◆マイカー登山こそ大峰山系破壊の元凶である
皆伐し尽くされた大峰山系に僅かに残る原生的
自然は、不便であったことと修験道のお蔭で残さ
れてきた。その僅かに残された自然を保存すべき
は必要ないと本会はパブコメに意見を出した。し
責任と義務を負う環境省が、こともあろうに観光
在不明の官僚答弁に筆者は我慢の限界を越えた。
―81―
登山者誘致のために新しい登山道を開削する理由
など、どこにもない。しかも、すべてマイカー利
用者に便宜を提供するものである。「施設整備基
◆奥駈道の宗教施設保存に無関心
奈良県勤労者山岳連盟から、深仙の宿の潅頂堂
本方針」に「利用者の安全確保や便宜を図るため
の整備は実施しない」とあるのが白々しい。環境
省は大峰山系を大台ヶ原のようにマイカー登山に
よってボロボロにしたいのか。天川村の心有る住
横の奥駈道が崩れていて、このまま放置すればや
がて潅頂堂が壊れるのは確実だから修復すべきだ
との発言があった。環境省は関心を示さず官僚的
答弁を繰り返した。
民は、「大台ヶ原の轍を踏むな」と言っている。
山麓からの長い道を、重荷を背に汗して登る登
山者には全く不必要な整備である。
新宮の山岳会が他の会議で、この場所の修復の
必要性を発言したが、行者さんから歩けるから必
要ないと拒否された、と発言があった。筆者は、
奥駈道は行場であるから行者さんの意見を尊重す
◆市民参画は単なる見せかけか
「市民参画、情報公開」が誇り高い官僚の本音
でないことは充分承知している。しかし、官僚が
環境行政の壁にぶつかったために、やむなくアメ
べきで、登山者が出る幕ではないと発言した。
『吉野群山記』『大峰山脈と其渓谷』『近畿の
山と谷』などをみると、この場所には古くからい
くつかの参篭所があって、建てては壊れる歴史を
リカのエコシステムマネジメントを真似て、省に
昇格した 2001 年から突然市民に向かってパート
ナーシップを呼びかけてきたのである。そのため
に、侮蔑する市民とつきあう官僚にフラストレー
繰り返してきたようである。それを知る行者は倒
れたら建てればよい、とそれほど心配していない
のかもしれないが、環境省の立場としては奥駈道
の保存が義務であるのだから、修験道の方々と協
ションが溜まり、ついに限界に達し、本音を出し
てきたということなのか。それとも、本省霞ヶ関
の方針が転換したのか。環境省の自然保護事務所
が環境事務所に衣替えしてから、官僚の衣の下の
議して対策を講ずるべきであろう。歴史的な建造
物である潅頂堂の保存は世界遺産登録の目的にか
なうことであり、この国の義務であろう。災害の
緊急復旧には予算がついている。大台ヶ原の中道
鎧を瞥見する機会が増えた。
が一昨年の台風で崩れたが、直ちに修復された。
全く必要の無い歩道開削を考えるよりは、この修
復こそが急務であろう。
環境省が冒頭の挨拶で、住民に対する説明会を
他の国立公園ではやっていないと言ったのは、市
原所長赴任の 2001 年以来の良き行政慣習・歴史
を評価してのことだと思った筆者の解釈は間違っ
ていた。われわれに恩を着せるためだったことが
ここにきてわかった。何と言うことだ。官僚にと
◆官民の努力で築かれてきた市民参画の実績を否
定するのか!
亀澤前所長は、奈良県が策定した東大台周回線
歩道整備基本計画を白紙に戻して、三度の現地説
って市民参画・情報公開とは市民に恩を着せるた
めのものだったのか。
明会で徴した住民の要望を 95%認めた基本計画
を作り直したが、その結果として全国に誇り得る
素晴らしい歩道ができあがった。本会も工事中何
度も現地に足を運んで HP を使って報告・提言を
沖縄返還の時、日本政府が多額の金をアメリカ
に支払った密約がアメリカの情報公開で明らかに
なったが、当時、沖縄返還を装うために秘密文書
で使われた言葉が appearance だったという。環
境省の市民参画・情報公開を翻訳すれば
重ね、業者はその意見に誠実に答えた。環境省・
業者・自然保護団体のトライアングルが機能した。
協働といえる作業として筆者は誇りに思っている。
appearance になるのか。
―82―
また、環境省担当者の努力で度々開催されてき
た現地説明会では、最終決定は勿論環境省が下す
にしても、参加した住民の意見で変更されたこと
ばよいという露骨な意図を強く感じる。一方で
「市民参画」に名を借りて、御用団体・NPO を周
囲に侍らせて、ガードを固め様という卑劣な意図
は実に多い。筆者は担当者の緻密な努力に敬意を
表してきた。2001 年以来積み重ねてきたこの良
き行政慣習・実績がどこの国立公園でも行われて
いないことは充分承知している。それだけに、国
も明かに見られる。市民参画・情報公開が重大な
危機に直面したと認識する。
環境省統括自然保護企画官は開会と閉会の挨
拶で、吉野熊野国立公園の自然保護の父、岸田日
立公園行政の範足り得ると環境省に敬意を払い、
日本山岳会全国集会でも報告してきた。臨席した
環境省高官は「誉め殺しか」と笑った。
出男が、自然保護のためには命を投げ出してもよ
いと語ったと挨拶した。環境省高官の口から岸田
の名が出たのは嬉しかった。その岸田日出男が昭
和 9 年、『秘境大杉大峡谷の概観を述べ之が保存
自然保護事務所から環境事務所に衣替えし、
人事も一新した現在の事務所は、この誇るべき行
政慣習・実績をここに来て否定しようとするのか。
2001 年から動き始めた時を止め、新しく吹き始
の急を訴ふ』のなかで、「吾等は国宝的大風景地
帯の施業立案にあたり、他の意見を聞かず単に管
理者のみの見解の下に決定するは決して當を得た
ものではないと信ずるのである。」と書いている。
めた風を止め、逆風にしようとするのか。歴史に
逆行するのは暴挙である。
72 年後のいま、この言葉に今日的意味が存在す
るのは、この国の官僚の本質が全く変わっていな
いということである。
環境省は「説明会」の結果を整理して出席者に
◆評価委員会の形骸化と御用団体の召集
評価委員会が同日に二つの部会を連続開催する
事が多くなった。事務局の報告を聞くだけが精一
杯で、論議をする時間がなく、委員から不満の声
が出ている。どうせ通過儀礼だから形式的にやれ
送付すると言ったがまだ届かない。しかも、決定
期限の年度末まで旬日を余すばかりになった。
2006 年 3 月 12 日
田村 義彦
第 34 回総会
去る 2 月 26 日、奈良市において前回総会から
いかがわしさに対する怒りから入会されたご婦人
2 年間を開けて第 34 回総会が開かれました。本
会が活動を再開するきっかけとなった 1999 年の
ニホンジカ捕殺計画から 2005 年大台ケ原自然再
生計画案策定に至るまでの 5 年間は、本会の長い
の出席も印象的でした。そして、総会には出席で
きない多くの会員の皆様のご支援に支えられてい
ることは言うまでもありません。この場をお借り
して、皆様に御礼申し上げます。
活動の中でも重要な節目となりました。その総括
とも言える今回の総会は、出席者の数こそ多くは
ありませんでしたが、感性、論理、個性において
すごいメンバーの結集体となりました。
総会は活動報告、会計報告が承認されたあと、
大台ヶ原自然再生検討会と自然再生推進計画の評
価、東大台周回線歩道整備の成果についてのプレ
ゼンと、現在検討中の大峰山系環境共生推進計画
貴重な時間を割いて東京、愛知、神戸から駆け
つけていただきました。また会の活動に賛同いた
だく新会員も増えている中で、ニホンジカ捕殺の
について報告があったあと討論に入りました。
弁護士のT先生から、環境省の検討会に自然保
護団体として本会が参加した成果をまとめる必要
―83―
である、という貴重なご提案を頂き、後日まとめ
ることになりました。
討論は主に環境省の真意をめぐって議論されま
にアップ、環境省、業者の誠意によって工事に反
映されました。特異な自然環境にある大台ケ原の
周回路が醜い木製デッキではなく自然に限りなく
したが、本会としては、あくまでも基本的方針で
あるマイカー規制、利用調整地区実現を目指して
進むことに意見が一致しました。
昨年の活動で特筆すべきは何と言っても「東大
近い工法で見事に整備されたのは、控えめな整備
を訴えた本会とそれを受け入れた環境省・職人さ
んの協働であったと自負に値するという総会出席
者全員の感想でした。
台周回線歩道整備」であります。多く来訪者の顰
蹙をかった、歩道を覆った木製デッキの周回路が
更にシオカラ谷まで延びる計画案を撤回させ、近
自然工法を取り入れた石積みが見事に実を結びま
また、大峰奥駈道が世界遺産に登録されること
で過剰整備を危惧していた本会は、現在全力を挙
げて保全を訴えていることに、賛同と力強い応援
をいただきました。
した。本会は工事の間に毎週のように入山して、
工事施工を見守り確認、レポートをホームページ
2005 年 3 月 3 日 河内由美子
第 35 回総会
第 35 回総会が 3 月 18 日に奈良で開催され、悪
天候にもかかわらず、愛知、神戸、大阪など遠方
からも多くの人が参加されました。病気をおして
参加して戴いた方、初参加の方、創立以来の方も
を監視する
あらためて振り返ってみるとニホ
ンジカ保護管理計画は、信頼できるデータは捕獲
数だけで他のデータは信頼できないこと、まして
や捕殺を始める原因となったトウヒ枯死との因果
ありました。感謝致します。
会計・監査報告が承認されたあと、会長から大
台ケ原の自然再生事業と大峰山系地域整備基本計
画についてこれまでの動きと問題点を浮き彫りに
関係が全く証明されていないのに継続されている
ことに改めて怒りを感じました。本会の活動の再
開のきっかけとなった「鹿捕殺」は正しく検証さ
れずに見切り発車しましたが、いまだにその矛盾
した報告が「大台ケ原自然再生推進計画実施段階
に入る」「“新しい風”を止め、逆風にするの
か・・」というテーマで行われました。報告事項
が多かったために充分な討議時間がとれませんで
点は検証されていません。この先も出来ないと思
います。東大台での歩道整備の方針が見事に方向
転換されて自然工法の素晴らしい整備がされたよ
うに、日本ジカ保護管理計画も原点に立ち返って
したが、来年は報告を短くして討議時間を長くし
たいと思います。
最後に、「今後の活動のために」と下記の 5 項
目が提議され確認されました。
見直してもらいたいものです。
西大台利用調整地区指定の作業が行われていま
すが、環境省の動きが悪くなっているように感じ
ます。総会での報告だけではなく、先日傍聴に行
1.残された自然を優先し何もせずに自然にゆ
だねるべし 2.近畿地方環境事務所の逆風に抗
議し、真の協働のために、更なる市民参画、情報
公開、説明
責任を強く求めていく 3.西
った評価委員会利用対策部会で委員全員に積極的
推進の意気込みを感じましたが環境省には意気込
みは感じられません。先送りしたい理由でもある
のでしょうか。そんなことは許されません。反対
大台利用調整地区創設をめざして全力を尽くす
4.大台ケ原マイカー規制実施をめざす 5.大峰
山系過剰整備反対「大嶺山系地域整備基本計画」
に無気力さを感じました。マイカー規制の実現に
ついても、手段としての公共交通機関利用推進が
―84―
目的化されかけているように感じました。ごまか
そうとしているような感じです。
大峰山系整備基本計画については、「環境を守
がない」と登山者から率直な疑問の声がありまし
た。
る立場にある環境省がなぜ、登山者数の少ない大
峰山系の登山道を新たに整備するのか、いままで
道は荒れていても整備して欲しいとは思ったこと
吹き始めた新しい風を止めないためにも、まや
かしやごまかしが行われないように監視していく
必要を強く感じた総会でした。
2006 年 3 月 18 日 森本 幸治
尾瀬長蔵小屋・平野紀子さんの大台ヶ原の印象
石楠花がほころびはじめた大台ヶ原に、平野
紀子さんご一行 10 名が「スタディツアー」に来
私の住む尾瀬も、ここ数年でずい分変わりまし
た。同じ様な木の階段、木の廊下・木道が、いつ
られました。弊会に入会していただいた間瀬さん、
田井さんも同行されました。
「スタディ」とは環
境省の施設整備を勉強しようということです。
日出ヶ岳頂上から正木ヶ原まで延々と続く空中
の間にか増えています。アスファルトジャングル
から逃れて、土の道を歩く最大の目的が失われて
います。必要最小限度の整備で十分と思います。
「一木一草を大切に」の精神を掲げることはいい
回廊に皆様は唖然とされました。代表して、平野
紀子さんのご感想を、ご承諾を得て掲載させて戴
きます。(田村 義彦)
『 守る会の資料で想像していた以上の人工
と思いますが、現実の日本の山々は、笹の繁茂で
いつの間にか、かつてそこにあった高山植物が消
えています。
守る会の皆さまが骨身を削って闘った行動と資
工作物の景観に唖然としました。空中回廊、日出
ヶ岳山頂への階段、金属製の防鹿柵・・ここまで
自然を冒涜した国立公園は世界の恥です。一日も
早く、環境省が自ら早急に撤去して、それからあ
料は、環境行政に大きな影響を与えています。行
政だけに責任をおわせるのではなく、私たち一人
一人の行動と発言が如何に大切かということも学
ばせていただきました。鹿と共存する大台ヶ
らためて多くの人の意見を取り入れ、原始の姿に
戻していく気長な作業をするべきだと思います。
けもの道、人の歩く道は自然に出来ていくと思い
ます。
原・・・上高地・尾瀬・乗鞍のマイカー規制がそ
こにも始まる事を希望します。
2005 年 6 月 2 日
長蔵小屋 平野紀子 』
―85―
大
峰
の
未
来
土井 滋有行
◆ 世界遺産登録の意義は観光地化ではない
求されるという、いわば相反する二項の狭間で苦
大峰奥駆道を含む紀伊山地の一定エリアが世界
遺産に登録されてから一年以上が経過した。貴会
のレポートを読むにつれ、この地域も、あるいは
進むべき方向とはまるで反対の方向へ向かってい
悩していく道を選んだ、と言えなくもない。それ
こそ道標のない山道を行く時のように、緊張感を
持って口元を引き締める事態だと思うが、そのこ
とが理解されていたとしたら、世界遺産登録をバ
るのではないかとの懸念を抱く。核心部分ではな
いが、今春ふと思い立って観音峰に登った際に感
じた土地一帯の様子(たとえば洞川の温泉センタ
ー周辺で行われていた大規模な遊歩道整備、にわ
ンザイで喜ぶことも、それはそれでおかしな事で
はなかっただろう。
かに増加したのぼりや看板など)に思いを巡らし
ても、やはり同じ感想を抱いてしまう。
行政側の持ち出す「保護・管理」の内容は、相
も変わらず「整備」という開発型思考であり、あ
なぜ手を加えないという勇気を持てないのか。
特に大峰奥駆道においては、登山者の増加への
対応が必要だとしても、対策をするべきは自然そ
のものに対してではなく、そこへ立ち入っていく
まつさえ観光の旗振り役までかって出ているのだ
から、行き着く先は大峰の観光地化であるだろう。
観光産業は「まだ広く世間に知られていない秘
境」の存在を新たに手に入れて集客し、地元は今
人間の方に対して行うべきだろう。自然に対して
手を加えることはたやすく、確かに建物の設置や
道などの改修によって目下の問題(要求)には対
処できるのだろうが、しかし何を犠牲にするのか
こそと「経済的効果」を得ることに邁進し、そし
て自然を「愛する」多くの登山・観光者は、その
個々の行為がもたらす帰結を考えることもなく笑
顔でかの地を訪れる。そうして気がついた時には、
をよく考えなければならない。人が増えたから、
危険だから、不便だからと言っていちいち工事を
していたのでは、街中のそれと何も変わらぬこと
ではないか。
◆ 人と自然の永続的な対話が行える場
大峰固有の自然は失われているのかもしれない。
◆ 保護して将来世代に残す責務
世界遺産といえば、人によっては、何かとんで
この地は自然公園だから利用の増進も図らなけ
ればならないと言っても、程度の問題は大事なこ
とである。つまりそれは質と量の問題ということ
もない宝を手に入れたことのように思うかもしれ
ないが、言うまでもなく、「世界の文化遺産およ
び自然遺産の保護に関する条約」のことであって、
その「リストに記載登録された」と言うところが
になる。世界遺産といっても利用をして良いこと
は自明のことだし、もとより修験も登山もなされ
ている。しかし他方、そこに貴重な自然が同時に
存在することを忘れてはならない。人と自然の継
正しい。つまりはその時点から、対象を大切に守
り保護し、将来世代に残していく責務を負ったと
いうことであり、登録に手を挙げた時点でそのこ
とはすでに理解されている必要があると言える。
続的な関係が評価されているとしても、自然(生
態系)そのものは、やはり微妙なバランスの上に
成り立っていると考えるのが妥当であり、現在に
至るもなお人々の心を揺さぶる景観が残されてき
言い換えれば、行政か市民かまたは地元かという
立場に関係なく、よりよい生活の希求と同時に、
経済的享受とは一定の距離を保っていくことも要
たのは、取りも直さず、これまで壊れるほど人間
が入らなかったか、または幸いそのような接し方
をしてこなかったか、ということに尽きるだろう。
―86―
そういう意味でも、まさにここは人と自然の永続
的な対話が行える場なのであり、この理解と実践
なしでは、なし崩し的に自然も文化も失われてい
く恐れがある。
◆ 一定の距離をとって接する本物の自然
人々の意識が、より一定の距離をとって接する
◆ 守るために必要な節度と自制
大峰のなにかを守ろうとする時、最も大切なこ
とは、人間ひとりひとりの節度や自制なのではな
いかと思える。行政はしかるべき誘導を行い、地
元は持続的に発展できる何かを目指し、登山・観
光者は、どうすれば自然に対してよりインパクト
という方向に向かうのならまだしも、逆に皆がそ
れとの距離をあらゆる面で縮めたがる現状は、大
峰の自然変化を悪いほうへ向かわせることになり
はしないか。長い時間をかけての一定の人為的イ
を少なくできるかを一人一人が考えることである。
そういったプログラムとコンセンサスを、広く浸
透させていくことが必要なのではないか。
ンパクト――ということであれば、その間自然に
とって多少の影響はあったとしても、おそらくそ
のぶれ幅は小さく、たとえ失われたかに見えても
自立的な回復の余地を残すものであるだろう。だ
具体的に考えてみる。もし入山者増加によるオ
ーバーユースを問題とするならば、登山道や施設
の利便性向上を図るよりも、まずはそれなりの緩
やかな規制を考えるべきだろう。すなわち、たと
けどもそのような関係性を無視し、ただやみくも
に訪れ、変え、楽しむだけでは、加速度的に自然
と文化は失われていくことになるだろう。
えば天川村河合と上北山村天ケ瀬を結ぶ国道 309
号(行者還林道)の一定区間について、許可車両
(たとえばタクシーや地元住民)以外は年中通行
禁止にしてしまうということもひとつの案ではな
むろん、そこが修験者と山に精通した者だけの
世界だと言うのではない。誰でもこの地を訪れる
権利は持っているし、まだ見たことのない自然に
多くの人が触れるのは良いことだ。見たことも触
いだろうか。排ガスによる大気汚染を低減させる
こともあるが、「登りにくくする」ということの
意味も含まれる。これはつまり、近畿最高峰領域
への最短ルートに一定の縛りをかけるものである。
れたこともないのに、何が大切なのか分かるはず
もない。まずは知ること、それ自体は大変重要な
ことだ。実際行かなければ、それがホンモノかニ
セモノのかの判断さえできないのだから。
山に入ってはいけないということではないのだ。
入るのは自由だが、それなりの不便を受け入れて
行こうというものなのだ。受け入れるのは初心者
もベテランも当然同じである。自然にとってこれ
だからこそ大峰にあるべき自然が、いつでも、
しっかり「ホンモノ」でなくてはならない。それ
はつまり、人間にとっては、おおよそやっかいで
が何よりであることに、誰も疑いを持たないだろ
うと思う。
あるいは別のことで言えば、洞川の温泉センタ
面倒でかなわない代物でなくてはならない。気軽
に行くことができ、苦労が不必要であり、簡単に
手に入るようなものであってはならない。そのよ
うな気軽な自然は別のところで存在するべきだし、
ーすぐ横の山で大規模な遊歩道整備が行われてい
るが、そんなものの必要性が本当にあるのだろう
か。あの風景に相当の違和感を覚えてしまったが、
そう思う自分の方がひょっとしておかしいのでは
わざわざ用意するにしてもふさわしい場所がある
はずだ。対話を怠っても問題のないような、そん
な自然ではいけないのだ。大峰はもとよりそのよ
うな場所ではない。だからこそ世界遺産になりえ
ないかと逆に自問したほど、まるで風景に合って
いない。「山」を目当ての人はいかにも作り物と
いったそのような場所を好むはずがなく、ハイキ
ングコースならばすでに洞川自然研究路というな
たのだ。
かなかの歩道があるのだし、いわんや温泉目当て
―87―
の観光客が気軽に登るにはあの勾配はおそらく相
当大変である。いったい誰のために作ったものか
さっぱり分からない。しかも温泉施設や山上川の
プダウンで事の全てが決まっていくという図式を
解体することが必要だ。パブコメなどの発言機会
があるといっても、それは「一応与えられてい
真上と言えばそうであって、ただでさえ保水力が
乏しいとされている植林地の、さらにその木を切
ってしまうとは理解できない。土砂崩れでも起き
たら大変である。世界遺産登録に伴う管理内容、
る」という性格のものであり、決して対等という
ものではない。省庁・地方行政・地元・自然保護
団体・関係企業・学術教育機関などの本来利害が
対立する者同士が、その力関係において最初から
地元社会の環境・生命・財産保全と照らし合わせ
るならば、ここは「天然林へ戻す」といった選択
もあったのではないか。
対等で集まり、科学的なデータを用いながら、決
して経験と勘をおろそかにせず、何より参加者が
自然への愛情と畏怖の念を持ち続けながら、しっ
かり対話をしていくことが大事なのだろう。それ
そしてこの整備の一件は、世界遺産地域の核心
地域より、むしろその周辺地域において開発行為
が進行しやすいことを示しているのではないだろ
うか。「観光誘致」や「自然との触れ合い」とい
は今より時間がかかり、労を要することかもしれ
ないが、どのような結果に至ったとしても、話し
合った事実が納得を生むことにもなり、確信はな
いが、よりましな結果が生まれそうな気がするの
った類の名目でもって、手をつけやすい所からど
んどん「整備」されていく。それは核心地域と周
辺地域の生態的連続性を絶ち、ともすれば核心地
域の孤立を招くことになるだろう。種がそれのみ
だ。
官は本来それらを調勢する役なのであって、官が
思い通りに何でも出来るわけではないはずである。
では生きていくことができないように、一定のま
とまった貴重な自然もまた、線引きされた領域だ
けで成立するわけではない。
カヌーイストでエッセイストの野田知佑氏がか
つてその著書で、「川を知らない人間が川をいじ
ろうとするからおかしなことになる」という趣旨
のことを書いていたが、そのとおり、山を知らな
それまでに一応の保全がなされていた(たとえ
結果的であったとしても)から世界遺産になった
のであって、だから基本的に「今までどおり」で
いいはずなのに、どうしてそんなにあちこち急い
い人間が山をいじろうとするからおかしなことに
なるのであって、自然を理解しない(しようとし
ない)人間が自然をどうにかしようとするから話
がややこしくなるのである。山で風雨にさらされ
で手を加える必要があるのだろうか。法律で許さ
れているから構わないのだ――という思想が常に
優位にあるとすれば、これは本当に自然の恩恵を
忘れてしまった愚かで悲しい行いだと言えるだろ
た経験などなく、雷や暗闇におびえたことがない
人間が、山についての何かを知っているはずはな
いだろう。事を決めるに当たって、全般的に力を
保持しているのがそういった不適格である集団だ
う。
としたら、その部分こそが最も大きな問題点なの
だろう。そして同時に、市民たる多数の「自然・
山愛好者」の側もまた、思考を忘れ、怒りを忘れ
てしまったという点で、等しく問題であると言え
◆ 大峰の未来のために、立場が違う者が同じ条
件でテーブルを囲もう
大峰の未来を間違っても真っ暗なものにしない
ように、おそらく大事なことは、立場が違う者同
士が最初から同じ条件でテーブルを囲み、そこか
ら始めていくという決定プロセスを構築すること
るだろう。
だろう。現在のような、国や地方行政からのトッ
ムに合うのではないか。そうすれば、やっぱりや
もう少し決定に時間がかかるくらいの方がいい
のではないか。もっとゆっくりの方が自然のリズ
―88―
めておこう、失わないでおこう、という結果が今
よりもっと導き出されるのではないだろうか。そ
れは即、大峰の自然と文化をそのまま後世に残す
ということに繋がる、と思うのだが。
2005 年 12 月 9 日
入山規制は大人の教育が重要
35 回総会ご苦労様でした。参加できなくて申
し訳なく思います。
ゃないんですよ」「お金儲けの道具じゃないんで
すよ」と教えなければいけない。
4/1 の入山規制の事、読ませていただきました。
今の子供はそれなりに環境教育が成されている
私も同感で早く規制が実現すれば良いと心から望
のでむやみにゴミを捨てたり汚したりはしません。
んでいます。
厄介なのが大人です。
「量の規正と同時に重要なのは利用者の質の向
当たり前ですが親が子供の手本です。私達大人
上であり、そのための教育の問題である。」と私
が未来の事を真剣に考えるときが来ていると思い
自身この事について考えさせられることが多々あ
ます。子供に夢を託すなんて無責任の極みです。
ります。回数だけを競う山登り、有名な山を登り
今起きてることは今生きてる大人が責任を取らな
自慢する山登り、危険な山登り、このように自分
の満足だけを追求する山登りは、反対です。
ければ未来はありません。
回数だけを追求し 1 年に 366 回登ったとか自慢
している人達の山に昨年の春登ったのですが、そ
昨日、白馬で遭難があったようです。自分の命
れはひどい光景でした。この時期、沢山スミレが
を大事にできない人は、自然や他人を大事にでき
咲いているのですが、ことごとく踏まれぺしゃん
ないと思います。
こです。出会う人は、一点だけを見つめ黙々と登
生き物は生まれてやがて死んで行く訳ですがそ
っている、戦いにいくみたいです。何なんでしょ
の事を正面から考えないと人間は滅びます。何か
うね。若者が訓練の為登るのは解るのですが年配
を残さないと次がない。動物や植物に学ぶことは
の方が戦っている姿はいただけません。
今年の冬も沢山の人が遭難し、命を落としまし
た。どう考えて無理があったと思われる天候でし
た。長野県の平地で昼間マイナス 5 度位であれば
三千メートル級の山はどうなっているかは、普通
であれば想像かつきます。今は装備も良くなった
と言われますがかなりきついと思います。今年も
何回か近所の山に出かけたのですが 1500 位の山
でも夏とは大違いで天候が悪ければ大変な事にな
ります。
沢山あります。
西大台の利用者に対する「教育の問題」は大変
な課題のように思います。今の日本人にそれが通
用するのか、自分中心に生きてきた人達に「山は
道具じゃありませんよ」「自然は貴方だけの物じ
2006 年 4 月 5 日
春近い長野より
鷹彦
いつもお世話いただきありがとうございます。
4/5の長野の鷹彦さんからのご意見を読んで、
そのとおりだと思います。 私は自宅近くの山の
整備をしているのですが、いっしょに整備してい
ていも鷹彦さんのような思い を持っている方は
少ないです。 本当に人の教育の大切さ、そして
これから育てていく子どもの教育の重要性を痛感
します。 子どもを教育する私たちが問われてい
ることに改めて気を引き締めて子どもたちと関わ
っていかなくてはと教えられました。ありがとう
ございました。
2006 年 4 月 10 日
西宮T.N
―89―
エコシステムマネジメントと「大台ヶ原自然再生推進計画」
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
田村 義彦
【はじめに】
ト』(2000 年・築地書館)によってその種明か
日本弁護士連合会は「2006 年人権大会(北海道
釧路大会)」を、仮題「エコシステムマネジメン
ト −野生動物との新たなる関係− 」をテーマ
に開催する予定で、そのために本年5月に大台ヶ
しができた。
原の現地視察を行う。その参考資料として、本年
1月に策定された「大台ヶ原自然再生推進計画」
(以下「大台再生計画」と略す)をエコシステム
マネジジメントの視点から考察する。
源管理を打開する〔救世主〕としての期待をもっ
て登場した」と書いているが、日本においては、
「行き詰まった公共事業を打開する〔救世主〕と
して登場」したと言えるようだ。平成 10 年
<要 約>
エコシステムマネジメントの二つの基礎的条
件である「科学性が確保」できず、「多様な主体
(1998 年)度の林業白書、環境白書にエコシス
テムマネジメントの考え方が環境保全の方向性と
してとりあげられ、河川法・森林法・自然公園法
など各法の改正などにつながり、自然再生推進法
の参画」も担保されていない大台ヶ原自然再生推
進事業(2005 年 1 月)においては、エコシステ
ムマネジメントは成り立たないと考えざるを得な
い。学術調査を実施してデータを蓄積し、多様な
を生み、各省の再生事業を支えることになったよ
うである。聞きなれない「パートナーシップ」の
生みの親はアメリカの「エコシステムマネジメン
ト」であったようだ。
主体の参画が法的に担保された暁に、初めてエコ
システムマネジメントが成立するのではないだろ
うか。
KW:エコシステムマネジメント・自然再生推進
さて、柿澤氏はエコシステムマネジメントに
「パラダイム転換を行うための基礎条件」として、
(1)市民参加、(2)職員の多様性・専門性、(3)
柿澤氏は、エコシステムマネジメントは 1980
年代のアメリカにおいて、「行き詰まった自然資
【行き詰まった公共事業の「救世主」として登場
科学性の確保、(4)資源管理の主体としての市民
の成長、の四つをあげている。(1)と(4)、(2)
と(3)は同じ範疇にくくれるので、「市民参加」
と「科学性の確保」の二つが基礎条件となる。
したエコシステムマネジメント】
江戸時代後期に構築された官僚機構は、官尊民
卑の風潮のなかで国民を蔑視し続けてきたが、突
然数年前から霞ヶ関官僚が「パートナーシップ」
一方日本では、まるでそのコピーのように、
2002 年に成立した自然再生推進法の基本理念に
「多様な主体の連携」と「科学的知見に基づいて
実施する」ことが謳われている。また、環境省の
などと聞きなれない言葉を口にして市民に近寄っ
て来た。市民はとまどった。いままでアポも取れ
なかった霞ヶ関官僚に、突然仲良くしようと言わ
れても簡単に信じるわけにはいかない。官僚の突
個別法に基づく「自然再生事業の進め方」では、
「重要なポイント2点」として「(1)科学的デー
タを基礎とする丁寧な実施」、「(2)多様な主体
の参画と連携が必要」が謳われている。
然の変貌の原因は多分外圧であろうとは予想して
いたが、柿澤宏昭氏の『エコシステムマネジメン
そこで、大台再生計画が果たしてその二つの基
礎条件を満たしているのか、考えてみたい。
法・大台ヶ原自然再生推進計画・科学性の確保・
市民の参画
―90―
《大台再生計画の内容は次の三分野から構成され
ている。「自然生態系保全再生計画(以後、森林
と略す)」、「ニホンジカ保護管理計画(以後、鹿
案を作成した部分が多かった。しかし、検討委員
にとっては、遠い将来を見据えた再生計画を責任
をもって立てる自信がなかったのであろう、それ
と略す)」、「新しい利用のあり方推進計画(以後、 を「慎重で順応的な姿勢」と言うのは正しくない。
利用と略す)」》
発芽環境の観察程度の実験であれば、林野庁に
豊かな経験が蓄積されていると思われるが、縦割
(1)科学性の確保
大台ヶ原においてはいままで一度も学術調査が
行われたことがない。環境省は、昭和 61 年
(1986 年)から平成 15 年(2003 年)まで 18 年
間、「トウヒ林保全対策事業(後に森林保全対策
り行政の弊害か、環境省は林野庁に協力を求めず、
検討会に加わる林野庁もあえてサジェッションを
避け、必ずしも専門とはいえない検討委員が実験
計画を作った。それが果たして学問的批判に堪え
事業と改称)に約8億円の経費を投じたが完全に
失敗し、関係した研究者は確かな科学的データを
何も残さなかった。2002 年に発足した大台ヶ原
自然再生検討会は「大台ヶ原にはまともなデータ
るものであるのか、関連学会の意見を求めるべき
であろうが、例えば本年3月に大阪で開催された
第 52 回日本生態学会では大台再生計画に関する
演題は見当たらなかった。
はない」という認識からスタートした。
環境省は 2 年間調査を実施したが、事務局であ
る(財)自然環境研究センターの限られたスタッ
バブル崩壊の中で、名前を変えた公共事業とし
ての自然再生事業を急ぐあまり、法律、行政が先
行したが、それを支える科学的データがアメリカ
フと短い時間では満足なデータが得られなかった。
環境省は計画策定を一年近く延期して調査を継続
したが、生態系の正確な科学的把握・解析には不
充分であった。森林生態系部会もニホンジカ保護
のように蓄積されていなかったといえよう。生物
のゲノム解析が進み、生命現象の根幹が明らかに
なる一方で、森林生態系に生きる多様な生物の動
態はまだよく知られていない。例えば、自然再生
管理検討会も共にデータの評価を先送りした。
自ら「科学性の確保」を謳いながら限られたスタ
ッフと時間しか用意しなかった環境省の真意を疑
わざるをえない。
事業の模範のようにいわれる霞ヶ浦のアサザプロ
ジェクトにしても市民レベルの試行錯誤を学問が
後追いしている段階である。
<エコシステムマネジメントと自然再生事業
の理念が基礎条件として求める「科学性の確保」
データのない大台ヶ原で自然再生事業を行うた
は大台ヶ原自然再生推進計画においては満たされ
めには、質量ともに豊富な人材と大学機関の協力
を得た 5 年以上にわたる学術調査が必要であろう。 ているとは言えない。>
エコシステムマネジメントは生態系の持続性を目
的としているといわれるが、大台ヶ原においては
生態系解明の入り口で立ち止まった、と言わざる
を得ない。
【自然生態系が科学で解明できるのか・・・】
ところで、ここまでの議論は、あくまでも「科
学」を是認してのものであるが、実は本会は現代
科学が自然を解明できるとは考えていない。18
その結果、具体的な事業計画を立てることがで
きず、トウヒの発芽の様子を観察する初歩的な実
験計画の作成に止まった。従来、各種審議会・検
討会は行政が作成した案の追認を常とする通過儀
世紀後半から用いられるようになった「科学」と
言う言葉は、その後、「科学的」と言えばあたか
も真理性や確実性の代名詞のように使われるよう
になり、国家権力の後ろだてによって優越性、正
礼であったが、本検討会においては各部会で具体
当性が与えられた。科学が神にかわったといえる。
―91―
人間の知は常に未熟であり、不完全であり、自然
を科学知をもって理解したと判断することは早計
に過ぎると考えている。
プの中の嵐であって、生態系解明にそれほど大き
な進歩があったとは思われない。自然は相変わら
ずわからないことばかりで、驚きと不思議に満ち
環境省は自然再生事業の前提として、まず現在
の大台ヶ原の生態系が衰退していることを立証し
なければならなかったが、大台再生計画では、考
ている。なによりも「大台ヶ原自然再生推進計
画」の不充分さがその証明である。検討委員が一
級の学者研究者揃いでなかったとはいえ、大台再
生計画の粗雑さは未成熟な生態学の限界を示して
えられるいくつかの原因を「複合的要因」として
列記するに止まって、その相関関係、因果関係を
科学的に解明していない。例えば鹿がトウヒを枯
らしたとして鹿の捕殺を始めて 3 年が経過し、す
おり、「不確実性」で言い訳できるものではない。
でに 118 頭を捕殺して更に今後も継続する計画で
あるが、その因果関係の科学的立証、捕殺の成果
の証明が未だに為されない。原生的自然の中での
動植物の動態がほとんどわかっていないにも拘わ
識があっても、次ぎの一歩を踏み出さなければな
らない・・・適応型管理実行の問題」としている。
官僚は「自然は不確実であり、確かな科学的デー
タを待っていたのでは行政は何もできない」とよ
らず、官僚が「生物多様性の保全」を呪文のよう
に唱えながら「トウヒのために鹿を殺す」という
不可解な施策を強行しているのが実態である。鹿
捕殺計画の非科学性については、本会の「残され
く言うが、それは自然の不確実性を口実にした行
政の施策強行を願ってのことで、それを「適応型
管理」というのは正しくない。(柿澤氏が「適応
型管理」という Adaptive Management を日本の官
た自然の保全を優先し 何もせずに自然にゆだね
るべし」(2005 年 2 月 26 日)に詳述しているの
で省略する。
僚は「順応型管理」という)
(1984 年に近畿弁護士会連合会が奈良において
第 13 回人権擁護大会を開催したが、その際、奈
良弁護士会が作成した『大台ヶ原―その保存のた
めにー』のなかで、「疑わしきは保護する」とい
少なくとも大台ヶ原においては、科学の歴史より
もはるかに古くから自ら然るべく天然更新を行っ
てきた原生的自然を、人間が「すでに天然更新で
きなくなった」と断定し、人工で更新をしてやる
う判断原則が打ち出され、その後、大阪弁護士会
の山田隆夫弁護士が『自然の権利』(1996 年
信山社)において「開発謙抑の原則」に発展させ
た。)
という自然再生事業のパラドックスは超えられて
いない。自然再生事業は擬似自然をつくることで
あって自然の再生ではない。
また、鷲谷氏や環境省は自然再生事業の手法と
【自然の不確実性】
柿澤氏は生態学の発展がエコシステムマネジメ
ントの登場を可能にしたと書いている。大台再生
して、仮説を立ててそれを検証していくとしてい
るが、本再生計画では、しっかりした「仮説」を
立てることができなかった。したがって、事業計
画を立てられるはずがなく、観察実験計画でお茶
計画の検討会メンバーであり日本の保全生態学の
第一人者といわれる鷲谷いずみ東大教授(日本生
態学会会長)も所謂古典生態学を批判している
(『自然再生事業』2003 年・築地書館)。しか
柿澤氏はエコシステムマネジメントを実行する
備えのいくつかの課題の一つとして「不確実な知
【自然再生事業のパラドックス】
柿澤氏は「パラドックスを超えて」と書くが、
を濁し、一年近く遅れた再生計画を見切り発車し
たのである。
(2)市民参加
し、市民の立場からすればこの生態学論議はコッ
―92―
大台再生計画の調査・検討段階では三部会の一
つである利用対策部会に本会が参加し、「マイカ
ー規制」「利用調整地区」など五項目を大台再生
のように輩出したNPOは、僅かな補助金ほしさ
に行政ににじり寄るばかりで、ここでいう「市民
の参加」とは無縁のものである。曽根綾子が
計画に入れることが出来た。しかし、三部会は大
台再生計画の策定を終わった時点で任期が切れた。
策定後の事業実施・維持管理段階において多様な
主体との連携・合意形成をどう図るかは未知数で
1997 年に「・・今やNPOは、専門職でもない、
アルバイトでもない、奉仕でもない、という不気
味な素人集団を生温かく食わせる温床になりかね
ない。二十一世紀には、そうした「ボランテイア
あり、市民・自然保護団体の参加は担保されてい
ない。
又、大台再生計画では「基本的な考え方」とし
業」が流行しそうな予感もする。」と書いている
が、残念ながらその予感は的中した。本音では軽
蔑、嫌悪する市民ににじり寄る不気味な官僚とそ
れに媚びる不気味な素人集団とのいかがわしい相
て「多様な主体の参画」を謳ってはいるが、森
林・鹿・利用の三分野において、今後、再生協議
会への市民参加の可能性があるのは、利用計画の
中の二つの課題に過ぎない。他の事業はすべて従
姦図が現在の実態ではないだろうか。
未だに官尊民卑の風潮が根強い現状では、市民
参加を官僚が本音で考えているとは思えないし、
官主導に馴れきった市民の側も本気で市民参加を
来通り環境省官僚だけで実施できるわけである。
これは、個別法で自然再生事業を実施している国
交省、農水省などにおいても同様であろう。
願っているとも思えない。到底、「協働」などが
望める状況ではない。西欧諸国と日本との絶望的
な違いではないだろうか。
官僚の側が、官僚である前に一人の市民である
自然再生推進法では、行政の承認が必要である
にしても手を挙げた市民が自然再生協議会へ参加
できることが法的に担保されているのに比較して、
「個別法に基づく自然再生事業」では市民参画が
という自覚をもち、行政の提案は市民の提案と対
等な「提案の一つ」であるいという認識を持ち、
市民の側も行政と対等に論議できる専門性と責任
の自覚を持たなければ、真の「協働」など百年河
担保されていない。この違いは大きい。巷間「自
然再生事業」という言葉が氾濫しているが、自然
再生推進法に基づく場合と、一般名称として使用
される場合の内容が大きく異なることは全く知ら
清を待つに等しい。
<エコシステムマネジメントと自然再生事業の理
念が基礎的条件として求める「市民の参加」は大
台ヶ原自然再生推進計画には担保されていない。
れていない。何故か環境省はその違いを明らかに
しようとしない。むしろわざと曖昧なままにして
いる様にすら感じる。市民参加を装いながら従来
通りの密室行政を行おうとする衣の下の鎧が垣間
>
見える。
一方、市民の側をみれば、戦後 60 年、民主主
義は未だ未成熟のままで衆愚政治が横行し、自立
参画」も担保されていない大台ヶ原自然再生推進
事業においては、エコシステムマネジメントは成
り立たないと考えざるを得ない。学術調査を実施
してデータを蓄積し、多様な主体の参画が法的に
した市民が社会的発言、行動をほとんどしない閉
塞現状では、例え、市民参画の可能性があったと
しても、果たして行政と対等に責任ある提言、行
動ができるかどうか極めて疑わしい。市民が参加
担保された暁に、初めてエコシステムマネジメン
トが成立するのではないだろうか。現状では、日
暮れて道遠し、の感を否めない。
2005 年 4 月 6 日
エコシステムマネジメントの二つの基礎的条件
である「科学性が確保」できず、「多様な主体の
すればいいという問題ではない。近年、雨後の筍
―93―
自然保護団体として初めて環境省の検討会に参加して
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
田村 義彦
案を論議する検討会であるだけに懐柔として拒否
【はじめに】
本年(2005 年)2 月 26 日の本会総会において、 することはできない。常任委員会で論議を重ね、
自然保護団体として初めて環境省の検討会に参加
した成果を総括するようにとの提案があった。再
生計画が策定されただけで、今後に事業実施、維
持管理の難問題が残されている現時点での総括に
自然保護運動に関わる弁護士に意見を求めた上で、
辞表懐で要請を受けた。
委員会はその後、自然再生計画を検討する方向
にシフトされて「大台ヶ原自然再生検討会」と改
は時期尚早の感を否めないが、一つの区切りとし
て整理する。
環境庁からの検討会参加要請は過去に二度あっ
た。しかし、世上知られるように、審議会・検討
称、改組されたが、利用対策部会では、「付帯提
言」を確認してその方向で論議を進めた。
会の類が役所の原案追認の通過儀礼に過ぎないこ
とを承知していただけに、自然保護団体の反対意
見の封殺、懐柔が目的であろうと判断して即座に
辞退してきた。
な内容をホームページで公開
2001 年から足掛け4年間、利用対策部会・現
地視察会・ワーキンググループ・ワークショッ
プ・地域説明会に委員として 10 回出席した。更
2001 年 5 月 10 日の第 1 回大台ヶ原ニホンジカ
保護管理検討会が初めて公開で開催され、自然保
護団体も傍聴できるようになったので、本会は毎
に、自然再生検討会(親会議)・森林再生手法検
討部会・野生動物部会・森林生態系部会・ニホン
ジカ保護管理検討会を都合 23 回傍聴した。
公開されたすべての会議に出席又は傍聴して、
回傍聴して意見を述べた。そして、同年 10 月 31
日に「大台ヶ原ニホンジカ保護管理計画」が策定
されたが、その「付帯提言」に、「委員及び市民
等の意見は、可能な限り計画案に反映するべく配
会議の内容を事実を損なうことのないように細心
の注意を払いつつ、自然保護団体の立場から批判
を加えて本会ホームページに掲載した。5万語を
越えた。
慮したが、特に重要な点について共通認識とする
とともに、市民からの基本的な考え方に対する強
い意見が寄せられたことに鑑み、下記のとおり検
討会として提言を付帯する。」として、マイカー
HPの内容は環境省にとって極めて不快なもの
であったと思う。検討委員と同様に傍聴者、メデ
イアにも配布された環境省の原案、附属資料、検
討委員の発言テープなどを事実に忠実に公開した。
規制、利用調整地区設置、大台ヶ原トウヒ林(植
生)保全対策事業公共投資効果の評価、大台ヶ原
周辺人工林の自然林化、情報公開など、本会が従
来から提案要望して門前払いにされてきた事項が
環境省からの訂正要求は氏名の誤記が1回だけで
あった。環境省と自然保護団体では当然意見が分
かれ、対立することはしばしばであったが、HP
に書いた内容について環境省から抗議されたこと
列記されていたのである。正にコペルニクス的転
換であった。
は一度もなかった。
一方、検討委員からは検討会発足当初、発言
内容をHPに掲載したことに抗議されたが、後に
抗議は撤回され、それ以後は何もなかった。勿論
この保護管理計画に基づいて、「大台ヶ原森林
生態系保護対策検討会」が設置され、その中の
「利用対策部会」へ本会の参画が要請されたので
ある。検討会は、上に述べた本会の従来からの提
(1)本会の主張を最後まで貫き、検討会の詳細
本会の意見がすべて通ったわけではなく、無視、
拒否されることはしばしばであったが、といって
―94―
辞表を出す事態には至らず、本会は最後まで主張
を貫いた。
はないかと考える。情報公開に徹底して抵抗する
奈良県当局も、環境省関係の懇話会だけはしぶし
ぶ公開するところにまで来たのは、環境省の強い
検討会の傍聴者は少なかった。里山ブームに関
心を抱く市民は多くても、原生的自然の保護に関
心を抱く市民は少ない。しかし、ネットの特性に
よって、検討会の実情が早く広く読まれたことを
指導があってのことではあるが、本会のHPもさ
さやかな圧力になったであろう。
読者の反応によって知ることができた。環境省近
畿地区自然保護事務所もHPに公式の議事要約を
掲載しているが、議事録ではないので現場を知る
ものにとっては隔靴掻痒の感が強い。本来であれ
本会は 1978 年に『大台ヶ原の自然保護と利用
への提案』の小冊子を出し、2003 年に改訂した。
環境省が大台ヶ原自然再生推進計画の中の「新し
い利用のあり方推進計画」として策定した三本柱
ば、中央の各種審議会のように、議事録が掲載さ
れるべきであろう。
しかし、議事録によって議事内容が正確に公開
されただけでは足らない。検討内容に対して、市
のニ本「マイカー規制の実施」「利用調整地区の
設定」は本会の提案である。そして残り一本の柱
「総合的な利用メニューの充実」の 6 項目中 3 項
目は本会の提案である。「利用計画」のほとんど
(2)環境省、「利用計画」に市民の要望を反映
民の批判、提言がなければ情報公開の意味がない。 に本会の提案が明記された。
本会は「マイカー規制」を従来から機会あるた
その意味で行政にとっても本会のHPは有意義だ
びに環境省(庁)に要望してきたが門前払いにさ
ったであろう。
れてきた。しかし、全国に 28 ある国立公園のう
検討会の内情を率直に書いたことに対して、委
員の立場をわきまえて内情暴露を慎め、という批
判が関係者の中には多分あったであろう。一方、
結果として行政追認に荷担したと自然保護運動の
側から裏切り者呼ばわりされることも承知してい
ち、すでに 15 の国立公園でマイカー規制が実施
されている。上高地ではマイカー通年規制に加え
て昨年の夏は観光バスの乗り入れ規制を実施した。
環境省は国立公園の中で「変化するもの、しない
たが、本会が自然保護団体の立場を最後まで貫き、
検討会の実情、問題点を赤裸々に公開したことが、
行政にとっても市民にとっても有意義であったと
確信している。
もの」「変わっていいもの、いけないもの」を的
確に把握し、対策を講じるべし、としている。大
台ヶ原のマイカー規制も決断の時と判断したので
あろう。
行政は市民とメデイアに知られることを極端に
嫌う。フランスの哲学者レジス・ドブレ氏は「イ
ンターネットには権威やピラミッド型の秩序を崩
また、これ以外にも一々列記しないが、計画
策定段階で、本会の意見に基づいて修正されたこ
とは幾つかあった。例えば、大正時代の四日市製
紙による東大台の伐採が、従来は族学者によって
してゆく性格がある。」と言う。インターネット
には、権力による情報の独占や支配の秩序を崩す
可能性が秘められているのかもしれない。勿論、
中国のように、権力が支配の手段として利用する
「択伐」とされてきたが、市民が提出した新しい
資料を環境省が検討して、「皆伐に近いかたちで
伐採」と修正された。択伐と皆伐ではその後の森
林遷移の評価が大きく違ってくる。
危険性もある。
敗戦後、民主主義が未成熟なままで市民運動が
育たず、権力の情報に対抗する自立した市民のネ
ットワークが一向に構築されないが、本会のHP
しかし他方で、環境省は重要な事実の修正を頑
なにまで拒否した。正木峠のトウヒの純林が
1960 年代の伊勢湾台風、第二室戸台風等によっ
が、現場の情報公開に小さな針の穴を開けたので
て倒されたが、その風倒木を行政が「搬出」した
―95―
ために“倒木更新”が出来なくなったと族学者は
言ってきた。機会があったので、林野庁の責任者
に事実確認をしてもらった。丁度 50 年近く前の
元住民を集めた現地説明会を2回開催して意見を
聞いて改めて図面を引き直した。地元に伝わる伝
統工法によって、入山者に土と岩を踏む喜びを与
事情を知る唯一人の職員が見つかり、「林野庁所
管地については、風にもまれた木は中が割れてい
て高く売れないので搬出していない。搬出したの
は環境庁所管地ではないか。」という事実が判明
える登山道を作りあげた。本会は工事中度々現地
に通い、進捗状況と本会の意見をHPに速報して
業者・環境省と意志の疎通を図り、官民一体とな
って全国に範たる歩道整備を成し遂げた。
した。私はそれをニホンジカ保護管理検討会で発
(4)実施・維持管理段階で多様な主体の参画が
言して、臨席の三重県森林管理署長、同流域管理
担保されていない
調整官と環境省が共同で調査することになった。
ところが、残された問題が大きい。確かに本会
林野庁所管地の面積は環境省よりもはるかに広い。
環境庁所管地は地元の業者に搬出を委託したと
思われるので少し調べたが、「昔のことで書類が
残っていないので確かなことはわからない。搬出
したとしてもトウヒではなくて金になる檜ではな
は計画策定に参加して意見を述べてきた。しかし、
計画策定後、3月末で検討会はその任期を終わっ
た。そして、今後の実施段階、維持管理段階で自
然保護団体など多様な主体の参画は法的にも制度
いか。」ということであった。檜では「倒木更
新」には関係ない。
ところが驚いたことに、次回の検討会で、環境
省は両庁の対応の違いを全く説明せずに「ドライ
的にも全く担保されていないのである。市民参加
の可能性があるのはマイカー規制と利用調整地区
の二つの協議会だけで、他の多くの事業は従来通
り官僚が市民の声を考慮せずに実施できるのであ
ブウエーを使って搬出した。」と平然とウソをつ
いた。当然私は抗議し、環境省は林野庁が確認し
た事実を認めた。大学教官の検討委員も「学生に
ウソは教えられない」と発言した。
る。
しかし、大台ヶ原自然再生推進計画書には「搬
出」とウソが書かれたままである。トウヒが天然
更新できないファクターとして「倒木搬出」の有
無は重要である。
査計画段階から事業実施、維持管理に至るまで参
画できることになっている。例えば釧路湿原自然
再生協議会は 117 名の多様な主体で構成されてい
る。(中身はかなりいかがわしい者も見受けられ
環境省自身が調査した事実を何故認めないのか。
族学者のウソに官僚が上塗りをしなければならな
い理由が何かあるのか。林野庁職員の証言を環境
省が認めて記述を改めるとメンツがすたれるのか。
るが、ここでは問わない。) しかし、「個別法
に基づく再生事業」では市民の参画は担保されて
いない。同じ再生事業といいながら、この違いは
大きい。環境・国交・農水の官僚はその違いを使
やがて、生き証人が役所を去り、真実が閉ざされ
てウソだけが残る。尤も、計画書からこの類の疑
わしい記述を選び出せばキリがない。
い分けて、各省それぞれ「個別法」で事業を実施
している。大台ヶ原でも当初は自然再生推進法の
適用を匂わせながら、何故か、結局は個別法でい
くことになった。
(3)環境省、空中回廊延長工事を撤回して伝統
工法に転換
検討会と同時進行で実施された東大台周回線歩
道改修工事においては、環境省は4年前に決定し
環境省霞ヶ関のHPでも、この違いの説明を避
けている。環境省の“広報”によって世間では自
然再生事業は自然再生推進法に基づいて実施され
ていて、そこでは市民の参画が担保されていると
自然再生推進法では、行政の承認が必要である
にしても手を挙げた市民が協議会に参加して、調
ていた計画を撤回し、自然保護団体、山岳会、地
―96―
思っているのであろう。個別法の抜け道は全く知
られていない。
言い換えれば、大台ヶ原では、マイカー規制実
ったに過ぎない。重要なのはこれからの実施段階
に市民の声を反映させることである。本会は、計
画策定後直ちに、マイカー規制と利用調整地区に
施、利用調整地区設定が絵に描いた餅になる可能
性が高いのである。しかし、本会は絵に描いた餅
を食べられる餅にするために全力を尽くす。環境
省が大台ヶ原自然再生推進計画の「基本的な考え
関する協議会への参加を要望したが、梨のつぶて
である。これが、市民に協働を呼びかける官僚の
姿であろうか。
2005 年 4 月 13 日
方」に掲げる「多様な主体の参画」の実現を求め
て、開き直って全力を尽くす。
(http://www.odaigahara.net/index.html「大台
ヶ原自然再生ホームページ」「大台ヶ原自然再生
追記(2006年2月15日)
(1)「大台ヶ原自然再生検討会」は2005
年3月31日をもって任期を終わったが、改組し
推進計画」「第 4 章 自然再生の基本的な考え
方」)
(5)マイカー規制実現と利用調整地区設置を目
た上で同年8月、再生計画の実施状況の調査・評
価を目的に「大台ヶ原自然再生推進計画評価委員
会」として発足した。本会は、利用対策部会とニ
ホンジカ保護管理部会の委員委嘱を受けた。
指して
大台ヶ原自然再生推進計画策定に自然保護団体
として参加した本会の責任は大きいと考えている。
計画策定で事が終わったのではない。出発点に立
(2) 利用調整地区については2006年2月
に「西大台地区利用適正化計画検討協議会」が設
置され、本会は委員委嘱を受けた。2月26日に
第1回協議会が吉野町で開催される。
日本山岳会自然保護委員会会誌『木の目草の芽』より転載
新しい風 ― 市民参画と協働について ―
霞ヶ関の官僚が、数年前に突然“イークオル
パートナーシップ”などと言い馴れない言葉を口
田村 義彦
しかし、その理由は、わかれば実に簡単なこと
であった。環境政策で行き詰まったアメリカで、
にして市民に近寄ってきた。市民は、今まで門前
払いにされてきた官僚に突然仲良くしようと言わ
れても、すぐには返事ができるはずもなかった。
30 数年前、環境庁が発足して暫くは市民との
クリントン政権の時代に自然資源の保全を図るた
めにエコシステムマネジメントが「救世主」とし
て登場したが、その政策の中身が「市民参加」と
「科学性の確保」であった。アメリカ同様、環境
蜜月時代が続き、課長クラスまではアポなしに会
うことができた。ところがその後、環境庁が必ず
しも市民の期待に応えるものではないことがわか
ってくると、次第に不協和音が聞かれるようにな
政策に失敗して壁に突き当たっていた日本の国交、
農水、環境各省は、「アメリカが風邪をひけ
ば・・・」の例にならったという次第のようだ。
り、ついに十数年前からはアポすらとれなくなっ
た。それだけに、突然の“ラブコール”に市民は
戸惑った。
環境省は 1989 年に自然環境保全審議会に「自
然公園の利用のあり方小委員会」を設置して検討
を始め、昨年「中間とりまとめ」が発表された。
―97―
その中に、自然再生事業において法的に規定され
ている、地域住民やNPO等の多様な主体が参加
した協議会のシステムが「自然公園内で行われる
した。それ以後、大台・大峰関連の検討会・懇話
会は公開で開催されるようになり、市民が参画し
て対話できるようになった。
主要な事業計画等に取り入れられることが望まし
い。」としている。
大台ヶ原では、環境省が一九九八年度に策定し
た大台ヶ原整備五ケ年計画に基づいて木道(空中
3年かけて策定された大台ヶ原自然再生推進計
画の利用計画八項目のうち5項目は守る会の年来
の提案であった。
回廊)を設置したが世の顰蹙を買い、2000 年で
一旦工事を中止して内部で計画を見直した。
2002 年に環境省と奈良県が自然保護団体、地
域関係機関を召集して現地説明会を開いた。行政
市民参画についてガス抜きだとする言い古され
た高踏的批判がある。従来は確かに当っていたで
あろうが、現在では時代錯誤の批判と言いきれる。
自立した市民として行政と対話できる場に着くこ
が事業計画を事前に公開して市民の意見を徴する
のは初めての画期的なことであった。
この現地説明会の意見を入れて再検討された整
備基本計画が翌年の三月に発表されたが、空中回
とには、従来のような野良犬の遠吠えとは異なる
大きな意義がある。
行政との対話の中で、登山と自然保護の基本理
念を堅持するために、サーカスの綱渡りに似た緊
廊についての反省が見られず、自然保護団体、山
岳会は拒否した。
環境省は再度現地説明会を開催し、一方、利用
動向調査・インターネットによるアンケート調査
張を強いられる。綱から落ちないためには、研ぎ
澄まされた感性と行政を納得させ得る論理が求め
られる。外野から野次っている方がはるかに楽で
ある。行政と市民との対話、協働はまだ実績も少
を行って同年 10 月に再度基本計画をまとめた。
内容は、市民の要望を 95 パーセント認め、必要
最少限度の整備しか行わないという画期的なもの
であった。正に、コペルニクス的転換であった。
なく、評価も定まっていないだけに、すべてが試
行錯誤の連続であり、身を削る作業である。
翌 2004 年、この基本計画に基づいてコンクリ
ートを使わない伝統的工法・空積み石段によって、
登山道整備の範足る施工が行われた。空積みの歩
道は近来稀な猛台風と豪雨に耐え、更に冬の大雪
等の立場”が、さも当然のように語られているが、
それは違う。巨大な権力、資金力、情報量を持つ
行政と、力も金もない市民とが「対等の立場」に
立つことなど本来有り得るはずがない。
にも耐えて施工技術の確かさが立証された。
現地説明会はその後大台ヶ原で2回開催され、
この8月にも開催される。一方大峰山系において
も本年7月に開催され、やはり八月にも開催され
市民にできることは、対話(異議申立てと提
案)に過ぎない。情報公開、市民参画の決定権を
行政に握られていることを意識した緊張の中でこ
そ対話に意味が出てくる。
巷では、冒頭に述べた“パートナーシッ”“対
パートナーシップなる言葉は、徳川時代以来の
る。参加者は当初は環境省が指定したが次第に枠
永い官僚機構の中で民百姓を軽蔑して権勢をほし
が広げられ、この8月からは事前にHPで公表さ
れて一般市民も予約をして参加できる形になった。 いままにしてきた官僚が、いま、環境政策の失敗
から、心ならずも市民の声に耳を傾けざるを得な
一方、大台ヶ原・大峰の自然を守る会は 1978 年
に『大台ヶ原の自然保護と利用への提案』を発表
して以来、情報公開と市民参画を求めてきたが、
2002 年に大台ヶ原自然再生検討会が設置された
い、時にはそのポーズをとらざるを得なくなった
ために、不本意ながら口にしているに過ぎない。
この空疎な言葉を信じて、雨後の筍のように輩
出したNPOが、僅かな補助金欲しさに行政にに
機会に委嘱を受けて、利用対策部会に初めて参画
じり寄り、補完的な行為をしている姿は醜悪であ
―98―
る。戦後 60 年、民主主義は未だ成熟せず、衆愚
政治に馴れ切って自立できない国民が、奉仕の精
神のないまま商業化して、さりとて「専門職でも
国際的に新しい風が吹き始め、時が動き始めた
ことを最早とどめる事は出来ない。しかし、経験
のない「市民参画」について市民は軽率であって
ない不気味な素人集団」(曽根綾子・1997)を形
成して行政に安上がりに利用されている。この醜
悪な関係は「市民参画」とも、「協働」とも無縁
なものである。
はならないと思う。市民が、ただ集まって汗を流
せばいいというものではない。
登山はもともと無償の行為であることに価値を
置いた。ここ数年の「参画」は同じ想いである。
林野庁 北海道・崕山の入山規制を無期限継続 !
富良野芦別道立自然公園特別地域に指定され
者のアンケートで、5年間の規制を「短い」と答
ている崕山(きりぎしやま)は南北2キロの石灰
岩の岩峰群に固有種キリギシソウ、特定希少種ホ
テイアツモリソウなど石灰岩植物が生育していた
が、その貴重さを知る地元や営林署は、80 年代
えた人が 1999 年の 12%から 2002 年には 57%に
増えた。
植生は回復のきざしを見せ、入山禁止の効果が
出始めた。キリギシソウの群落が、10 年ぶりに
の登山大衆化現象のなかでも無闇な開発と過剰利
用を避けるために登山道の整備を見送り、あるが
ままの自然に手をつけずに見守ってきた。
ところがその後、国道の舗装化と登山ブーム、
あちこちで小さな花を付けた。
園芸ブームの激化で盗掘により山の植生は激減し
た。それを知った研究者、芦別山岳会が呼びかけ
て営林署・芦別市・芦別木材協会・芦別山岳会で
官民一体の「崕山自然保護協議会」を設立し、会
が回復基調にあるなら、より多くの入山者を受け
入れてはどうか。国民の山である国有林を開放し
たい」と規制解除の意向を明らかにして、規制継
続を願う地元を驚かせた。
長に芦別山岳会会長が選任され、林野庁に保護を
要望した。
林野庁は要望をふまえて、「希少野生動植物種
保護管理事業」として 1999 年から 5 年間、165ha
何という不可解な発想であろう。植生の回復基
調は入山規制あってのことであり、僅か 5 年では
端緒にすぎない。自然を破壊するのは簡単である
が、回復には想像を絶する時間と努力が必要であ
の入山制限をスタートした。日本で初めての措置
である。300 万円で林道ゲートを設置し、60 万円
で監視小屋を新築し、協議会会長と元営林署職員
に自然保護看視員を委嘱し、パトロ−ルが実施さ
る。地元の人は言う、「植生が回復したといって
も花を咲かせたキリギシソウが数十株増えたとか、
ホテイアツモリソウが 50 株あったとか、そんな
レベルの話しであって、自然界では決して多いと
れた。
か増えたとか言える数ではない。」まさに正論で
ある。
ここで解禁すれば、いままでの 5 年間の努力、
成果が瞬時にして水泡に帰すのは明らかである。
崕山自然保護協議会は入山規制の実態を一般
登山者に体験し、自然保護の意識を高めてもらう
ために、毎年3回、各回 30 名の「学習登山会」
を実施した。(筆者は 2001 年 6 月に参加、会誌
『自然保護ニュース』NO.53 に報告を掲載)参加
ところが、2004 年の期限切れを前にして、林
野庁の出先機関である北海道森林管理局は「植生
芦別市長は自然保護協会と連名で、「ここで規制
を解除すれば、また元の荒廃した状況に逆戻りす
―99―
る怖れが強く、高山植物を守れない。」と要望書
を林野庁に提出した。
安易な登山大衆化状況の中で、登山を権利だと
英断を多とするが、今後右顧左眄することなく、
折角の「無期限」を堅持してもらいたい。
誤った主張をする登山団体や思慮の浅い観光客は
多いが、その要求を「ガス抜きが必要」と受け止
めるのではなく、毅然とした姿勢で、自然保護の
ためには規制が必要なのだと説得することこそが
林 政志芦別市長は林野庁へ敬意を表して次の
様に書いている。「国と地元が一体となった保護
活動の推進は、今後の自然保護のあり方として全
国に先駆けた貴重なモデルケースになるものと確
責任ある行政のとるべき態度であろう。
粘り強い地元の努力により、紆余曲折の末、林
野庁は入山規制無期限継続を決断した。
信致しております。崕山に自生する貴重な植物は
市民はもとより国民の貴重な財産であります。こ
の貴重な財産を私たちの時代に絶えさせることな
く、大切にして次代に継承していかなければなら
近年小泉内閣のいかがわしい「規制緩和」を善
しとする安易な風潮が蔓延しているが、JR福知
山線の転覆事故に見られるように安全のためには
ないと改めて認識しているところであり、今後と
も積極的に保護活動の推進を図ってまいりたいと
考えているところであります。」国と地元、官と
民が一体となった日本で初めての画期的な壮挙で
規制は必要であり、自然保護のためには規制が必
要である。行政が政治家の真似をして国民におも
ねる姿勢をとるべきではない。林野庁のこの度の
ある。大台ヶ原においても環境省、県、村はこの
貴重な経験を範として学んでもらいたい。
2005 年 4 月 30 日
田村 義彦
北海道・キリギシ山の入山禁止を続けてください
●高山植物の危機
官民一体となった保護管理監視体制が実施され
北海道芦別市の富良野・芦別道立自然公園 崕
るともに、入山規制の趣旨を教育するために年3
(キリギシ)山(1057m)の固有種キリギシソウ、 回、毎回 30 名の 1 泊 2 日の学習登山会が行なわ
絶滅危惧種ホテイアツモリソウなどの高山植物が、 れ、私も好運にも一昨年(2001)参加が許され、
1997 年の国道舗装化をきっかけに、盗掘と登山
勉強することができました。ショッキング且つ有
ブームによって絶滅の危機に瀕しました。
意義な体験でした。参加者のアンケート調査では、
「5年間は短い」が 46%、「適当」が 43%でした。
●官民一体の入山禁止規制
保護を願う地元の芦別山岳会、芦別市当局、木
材協会などの関係者に林野庁も加わって崕山自然
保護協議会が設立され、地主である林野庁北海道
●植生回復のきざし
入山禁止4年目の昨年(2002)の調査で、崕山
自然保護協議会山岡桂司会長は「ホテイアツモリ
森林管理局森林技術センターの英断によって、
「希少野生動植物種保護管理事業」に基づいて崕
山頂上部を「高山植物保護林」に指定し、1999
年から5年間の入山禁止規制が日本で初めて実施
ソウがこれまで見当たらなかった場所で見つかり、
キリギシソウも確認できた。登山者の踏みつけが
目立たなくなり山が生き生きしてきた。」と実感
を語り、70 年代から調査をしている北海学園大
されました。他に例を見ない画期的な施策でした。 学佐藤謙教授は「全体的には 80 年代の状態にま
だ遠い」と語りました。(北海道新聞 02・6・
14)
―100―
僅か4年で際立った回復が望めないのは当然で、 合、生息地内への人の立ち入りを禁止する「立ち
入り制限地区」を設けることができます。
道遠しといえども明らかに回復のきざしがみられ
るのですから、その成果を生かすためにも入山禁
止措置は当然継続されるべきです。「崕山自然保
護協議会は、04 年以降新たな規制が必要との認
識が強い」と新聞は書きました。(北海道新聞
02・11・29)
しかも、その北海道環境生活部自然環境室、空
知支庁自然環境係が 12 月に、崕山自然保護協議
会に参加しました。
そしていよいよ今年(2003)、入山禁止 5 年目
の期限切れを迎えて、今後の方向性を決めねばな
りませんが、ここにきて、難しい問題が生じまし
た。
更に北海道庁は、自然公園法の改正に基づいて
検討している道立自然公園条例改正案では、立ち
入り人数などを規制する「利用調整地区」創設を
柱にする考えで、崕山を含む富良野・芦別道立自
●林野庁の方針変わる?
崕山自然保護協議会のメンバーとして入山禁止
措置を強力に推進してきた林野庁北海道森林管理
然公園の指定範囲や、自然保護の施策を含む公園
計画見直しに本年度(2003)から着手するといい
ます。
環境省は昨年、自然公園法を改正して国立自然
局空知森林管理署芦別事務所が本年度中(2003)
に撤収して、岩見沢署に統合されることになり、
人事も替わりました。
公園の中に「利用調整地区」を創設しました。残
念ながらまだ知床、小笠原だけで、オーバーユー
スで原生的自然が破壊されている全国の国立公園
には広がっていません。
役所の組織と人事が替ると認識・方針も変わる
ことはよく経験することですが、森林管理局が突
然「林野庁としては、国有林は国民に開かれた場
所との方針がある。釣り、山菜愛好者の意見にも
しかしそれはさておき、この法改正によって都
道府県立自然公園でも「利用調整地区」制度を定
めることが出来ることになりました。環境省の審
議会でも「地方自治体の工夫も考慮せよ」という
耳を傾けたい。希少野生動植物種保護管理事業は
5年間で終了する」と言い出しました。林野事業
計画の中に崕山の環境保護をどう位置付けるか、
オリジナルな構想、ビジョンを期待していた地元
意見が出ていますし、環境省も国定公園・都道府
県立自然公園に広げたいと表明しています。崕山
が「利用調整地区」に指定されて、高山植物が保
全されることになれば素晴らしいことです。
を落胆させました。
●北海道庁の決意
しかし、ここで北海道庁が動きました。
国(環境省・国交省・農水省)が自然再生の美
名をふりかざして、釧路湿原を皮切りに北海道の
原生的自然の破壊を始めただけに、地元北海道庁
の自然保護を目指す積極的な姿勢に期待します。
2002 年 5 月 1 日施行の「北海道希野生動植物
の保護に関する条例」に崕山に生育するキリギシ
ソウ、オオヒラウスユキソウ、キバナノアツモリ
ソウの 3 種を追加指定しました。
崕山同様、高山植物の宝庫と言われる大平山
(1119m 後志菅内島牧村)でも、道指定希少野
生動物種のオオヒラウスユキソウが道路開通と登
この条例は指定希少動植物の生息地保護と流通
監視(業者は登録制)に重点がおかれていて、罰
則規定もあります。指定希少野生動植物の捕獲・
山者増加で危機に瀕しているために、北海道庁は
6 月 15 日、高山植物保護対策会議を設置して官
民一体の協力体制を作ったとごく最近報道されま
した。
採取・傷つけが禁じられることは勿論、必要な場
―101―
8 月に崕山の植生回復調査が行なわれると聞き
ます。その結果をふまえて 5 年間の総括が行なわ
れるでしょう。林野庁も今後の方向をはっきり決
でしょうか。崕山で、日本で初めて灯した、根源
的な自然保護の灯火に、油を注ぎ続けていただき
たい。絶対に消さないでください。
めるでしょう。他の省庁に例を見ない立派な保護
政策「希少野生動植物種保護管理事業」を行なっ
た林野庁は、ぜひ思い直して事業を継続していた
だきたい。
続いて大台ヶ原でもその灯火をともすために、
残された僅かな命を捧げたいと老人は願っていま
す。
30 年間大台ヶ原の入山規制を願ってきましたが、
そして、いよいよ来年度からの方向性が決まり
ます。原生的自然の保護を願う全国の人々が注目
しています。
一昨年、学習登山会に参加させていただいた時は、
正直、その実現は遠い遠い夢でした。ところが、
その年の秋、突然、環境省が検討会の中に利用対
策部会をつくりました。信じられないことでした。
●環境省の資料に崕山の入山規制が掲載
ところで、今年の 3 月、大台ヶ原自然再生検討
会利用対策部会の資料に環境省は初めてキリギシ
山を加えました。環境省は 2 月に地元に資料を要
委員の委嘱を受け、論議が始まりました。
願い続ければ夢が実現することを知りました。も
う一度信じられないことが起きて、入山規制が実
現する日まで、願い続けたいと思います。希望を
求して、送られてきたA4・39 枚の資料をたった
1 枚に事務的にまとめました。誰かが「まるで子
供の夏休みの読書感想文」と言いましたが、逆に
そのことから、環境省官僚の入山規制をやりたく
捨てなければ必ず実現すると、エベレストの頂上
に立った同じ歳の三浦さんが言いました。
2003 年 7 月 10 日
田村 義彦
ない気持ちが十分に伝わってきます。建て前だけ
装って本音は別というのが官僚のいつものパター
ンです。入山規制は、いまや避けられない時代の
要請であることを官僚達は何故、正視できないの
鎮
魂
三
平
峠
ブナ・サミットのあと、桧枝岐から尾瀬に入
りました。雨でした。
水芭蕉が終わり、ニッコウキスゲには少し早い
尾瀬には人影が少なく、平野家三代のお墓が奉ら
れた柳蘭の丘から見える尾瀬塚の三本唐松が、雨
平野長靖・紀子共著の『尾瀬に死す』を読ん
だのが昨日のように想えますが、数えてみると、
すでに 33 年の歳月が経っていたのです。長い間
の夢でしたが、やっと、長靖氏の最後の道をたど
の中に凛として立っていました。
長蔵小屋で平野太郎さんに「今年は花が美しいで
す。たくさんの人に見ていただきたいのに、訪れ
る人が少なくて残念です」とうかがいました。熱
ることができました。
亡くなられた所はどこだろうとずっと考えな
がら下ると岩清水に着きました。峠のすぐ下の木
道に突然子兎が現われて足元までやってきました。
いコーヒーをご馳走になって、三平峠に向かいま
した。
あわてて写した写真はピンボケでした。古い尾瀬
―102―
紀行文にはよく兎がでてきますが、いまでもたく
さん棲んでいるのでしょう。
のは最近のことだ。」平野紀子さんも横でうなず
いておられました。
確かに、平野長蔵氏は大正 3 年に尾瀬沼区画漁
長蔵ロッジに着いてから間瀬さんに教えていた
だくと、長靖氏が亡くなられた所は私の予想とは
大きく違って、もう少しで一ノ瀬というところま
で下られていたそうです。尾瀬の将来について多
業権を獲得し、水産講習所の淡水養殖講習に出席
し、養漁事業を志しました。最初に入れたのはヒ
メマスの稚魚でしたが生育せず、その後、マス、
イワナ、ワカサギなどの養漁が試みられたが、い
くの想いを残して、さぞや無念であっただろうと
胸が詰まりました。若くて体力があり、通い馴れ
た道での突然の死は、例え吹雪いていたにしても
所謂「遭難」とは私には想えません。後に残され
ずれも見るべき成果もなく終わったようです。
北米原産のコカナダモは 1961 年に琵琶湖北部
で発見されたのが日本で最初の記録なので、コカ
ナダモといえば誰しも琵琶湖を思い浮かべますが、
た紀子夫人の筆舌に尽くし難いご苦労を思えば、
そんな理不尽で承服し難い非情なことが、何故、
圧倒的な原生的自然の中で起きたのか、どう考え
ても私には納得できません。確かに自然は時に非
いまや、どこの湖沼にも広がりました。これらの
稚魚が琵琶湖から尾瀬沼に入れられたのは本当な
のでしょうか。
情です。しかし、それにしても納得し難い最後で
す。
太郎さんにいただいたメモのバスの時間が迫っ
ているのをよそに、休憩所でひとりぼんやりとキ
平野紀子さんは、『いわつばめ通信』第 27 号
に次の様に書かれています。「近頃の新聞・雑誌
等で、さかんに“オバケ水芭蕉”などという言葉
がつかわれていますが、本当のことを知っている
ユゥリをかじっていました。最近、ひとり山に入
ると、いつも雨に濡れ、死を想います。
のでしょうか。昔から咲き始めは小さく可憐で、
最後には葉がとても大きくなるのです。(略)山
小屋が、あたかも汚染して大きくなった様に書か
れているのを見て、ガッカリします。林間や誰も
長蔵ロッジで平野紀子さんに先日の大台ヶ原
ご来訪のお礼を申し上げ、ちょうど、ロッジ主催
の至佛山高山植物探訪ツアーに来合わせておられ
た間瀬さん、田井さん、小瀬野さんにもお礼を申
し上げることができて好運でした。
入れない湿原にも、大きいのは昔から大きいので
す。」平野長蔵氏が「尾瀬沼紹介者」の記念碑を
建てた水彩画家大下藤次郎氏が、明治 41 年 7 月
に初めて写生に入ったときの紀行文『尾瀬沼』に、
そして、このツアーのために長蔵小屋から下り
てこられた祐さんにお会いできました。44 年前
の 20 歳のときに入山、以来ずっと長蔵小屋を手
伝ってこられた方でした。
「水芭蕉はその丈四五尺、葉は幅広く花は目立た
ぬ。」と書いています。まさか、“富栄養化”で
四五尺になったのではないでしょうね。
不確かなことをしたり顔で書いてある生態学と
やらの書物を、数年前にすべて捨てました。
実は、先日、湖沼・湿原の研究者に、「尾瀬沼
のコカナダモは水鳥の足に着いて入ったという説
祐さんの真実の人生は、あと 6 年経てば入山
があるが、そうではなく漁業者が琵琶湖の稚魚を
放流したのが原因ではないか」と聞いていたので、 50 周年です。平野紀子さんが盛大にお祝いをす
祐さんに教えを乞いました。
「昔は尾瀬沼でアマゴがわいていた。桧枝岐の
人達は保存食に鮨をつくった。その頃はコカナダ
モはなかった。コカナダモが目立つようになった
るとおっしゃいました。私は自分のことを棚に上
げて、祐さんに、長生きしてくださいとお願いし
ました。
祐さんに「俺は尾瀬に 40 年住んでいるが、尋
ねられるのはいつも花の名前で、こんなこときか
―103―
れたのは、あんたが初めてだ」と言われました。
今回はメモ書きでしたが、今度はテープレコーダ
ーと一升瓶をもって尾瀬に登りたいと想っていま
す。本当は、自然保護を一日も早く止めて、それ
に専念したいのです。
2005 年 7 月 25 日
田村 義彦
2005 年 7 月 25 日
日本勤労者山岳連盟 自然保護憲章制定委員会
座長 鈴木 貫太様
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
会長 田村 義彦
『労山自然保護憲章・解説書(第一次案)』についての「外部意見」
【はじめに】
制」「入山料」に反対する」について
私は 2002 年以来、自然保護団体代表として環
境省の大台ヶ原自然再生検討会利用対策部会に参
画し、大台ヶ原の利用の「量の適正化と質の改
善」を目指して非力ながら努力致しております。
貴解説書では林野庁の森林生態系保護地区と環
境省の「利用調整地区制度」が一緒に議論され
ていますが、論議をシンプルにするために、論
点を「利用調整地区」に限ります。また、論議
(因みに、正確な日時は忘れましたが、数年前、
河野 昭一京大名誉教授が、『登山時報』に国立
公園の登山道について執筆されたとき、著者に求
められて大台ヶ原の木道(空中回廊)の写真を編
のすれ違いを避けるためにできるだけ大台ヶ原
について、貴解説書の文章に逐条申し述べます。
(1)P.11 L.15∼16 「・・・入山を禁止する
集部に送り、掲載されたことがありましたが、あ
の写真は私が撮影したものであります。尤も、何
故か、「事務上の手違い」とかで本会の名前も撮
影者の名前も誌面では伏せられていましたが。)
ことは住民の生活を侵害するだけではなく保護の
担い手を失うことになる。」
確かに L.14 「・・・山岳自然の多くは地域住
民との共存によって維持されてきたもの」を前提
にする限りこの論は成り立ちますが、地域住民の
生活圏外に存在し、「保護の担い手」 もいない
さて、近畿の労山から「労山自然保護憲章・解
大台ヶ原の原生的自然の保護を、自然保護団体が
説書(第一次案)」を頂戴しまして拝読しました。 目指す場合は、「住民の生活の侵害」と断定する
貴解説書に「9.住民や利用者の声を無視した
ことには無理があります。
「入山規制」「入山料」に反対する」「10.望ま
しい行政とのパートナーシップ」について記述が
あります。「外部意見」提出が許されるとのこと
ですので、マイカー規制、利用調整地区の実現を
環境省と大台ヶ原自然再生検討会利用対策部会
は入山規制と地域振興の両立を求めて都合4回、
地元住民に対する説明会を開催して合意形成を図
ってきましたが、大台ヶ原の原生的自然に関心が
目指して環境省と協働作業に努力している立場か
ら、若干の意見・感想・要望を申し上げることを
お許しください。従いまして、本稿は、環境省並
びに利用対策部会には全く責任がないことは当然
なく、行ったこともない住民がかなり存在するの
も事実であります。日本の農山村住民の生活圏と
関心が意外に狭いことは、日頃、登山をしていて
体験するところであります。
であります。
【目先の利益を追って衰退した原生的自然】
◆「9.住民や利用者の声を無視した「入山規
―104―
大台ヶ原の場合、当初、地元は「秘境の原生的
ようなものです。入山者には国民の共有財産を無
自然」を売り物にして観光収入を得て来ましたが、 料で利用する権利はないでしょう。
開発後 40 年を経て、その原生的自然がいくつか
の複合的要因で衰退し、商品価値を失ってきたこ
とに気付いた住民が、危機感を抱いて環境省や自
然保護団体と協議する気持ちになってきたのが実
態であります。環境省と自然保護団体と住民の想
まして「自然保護費用捻出」などは大台ヶ原の
場合は考えてもいません。マイカー規制と同時に
東大台の入山者から入山料を徴収する計画もあり
ません。入山料徴収は西大台の利用調整地区だけ
いがタイミング良く一致したと言えます。
で考えています。利用調整地区で国が考えている
入山料(手数料)は「実費を勘案」して適切な額
を決めることになっています。利用者アンケート
調査では、入山料(手数料)を負担することへの
地域振興が自然保護と相容れなくなったときに
は、迷うことなく自然保護の立場をとるのが本
会の基本姿勢であり、その説得を住民に繰り返
しているところですが、理解してくれる若い世
代が増えています。目先の金を追うだけで自然
を大切にして来なかったツケが、いま日本各地
で見られるようになりました。生活至上主義が
結果とした自然を破壊してきたことに住民は気
付き初めています。
抵抗は見られず、500 円∼1000 円が 72%でした。
「自然保護予算が貧しいことから入山料導入を
評価する意見もあるが、自然保護対策としては安
易 であり・・・」
仮に「自然保護予算が貧しいことから」入山料
を導入することは決して「安易」だとは考えませ
ん。その場合入山者に情報を公開して予算の窮状
(2)P.11 L.18 「自然を人間の生活から隔離
して保護する方針は誤りであること」 元々「生
活から隔離された」 原生的自然が大台ヶ原に存
在する以上、それを保護するのは「誤り」ではな
を訴え、理解を得る様に努力することは決して
「安易」ではなく当事者の責務であります。むし
ろ、すべての尻を国に持って行くことこそが、は
るかに「安易」でしょう。入山者自身が自然の加
く、市民の当然の責任ではないでしょうか。
害者であることを棚上げした、無責任な要求では
ないでしょうか。
(3)P.11 L.18 「地域指定や入山禁止規制にあ
たっては、地域住民や利用者、自治体等の幅広い
合意が必要であることを求めている。」
また、「入山者を固定するとともに、これまで
最も難しいのが、既得権益がからむ自治体である
徴収によって運動に「水が差される」とは全く考
ことに驚きます。業者の利権を背負わされた自治
体役人の頑迷固陋には度し難いものがあります。
えません。
の自然保護運動やモラル向上運動に水を差す恐れ
全く同感で、その合意形成のために対話を重ね
が大きい。」とありますが、30 年以上「これま
ていますがが、最も理解してくれるのが利用者で、 で自然保護運動」を続けてきた者として、入山料
(4)L.21∼24「入山料導入の名目は入山者規制
だが、自然保護費用捻出策の側面が大きい。」
「入山料導入の名目」は「入山者規制」だけで
「登山は権利である」という労山の基本理念か
らすれば、入山規制は権利侵害であり、入山料
はありません。入山料は、貴重な国民の共有財産
を利用する当然の利用者負担であって、簡単に喩
に反対となるのかもしれませんが、国立公園に
は自ら適正な容量があり、その範囲内で利用者
に質の高い自然体験を提供し、かつ自然環境の
保全と両立させなければならない難しい課題を
えれば、国立博物館、国立美術館の入館料と同じ
抱えていることを、ぜひお考えいただきたい。
―105―
前段のお話の続きですからこうなりますが、入
【利用者の高い意識】
山料を徴収した管理者には当然義務が生じるわけ
しかも、いまや、利用者の意識は進んでいます。 で、面積の広い狭いは問題ではなく、また仕事の
大台ヶ原の利用者アンケート調査では、過剰利用
について、「規制が必要である 86%」、「現状
のままでよい 14%」と回答しています。また、
西大台の利用者についてのアンケート調査では、
困難容易の問題ではないでしょう。管理者には管
理しなければならない責任があるのです。
それにしても何故ここで突然、労山が管理者に
同情してボランテイアに変じるのでしょうか。不
利用制限の導入(利用調整地区)に対する賛成意
見は 74%で、反対が 17%でした。「不便になる
が自然を守るためなら仕方がない」と言う意見が
多く寄せられ、私達は励まされました。利用密度
思議な変身です。
【モラルよりルールを】
更に「解決策」ですが、モラルでは解決しませ
の低い西大台に登る利用者の意識は高いといえま
ん。日常生活の次元でも決してモラルが高いとは
す。登山の本質を理解しているこれらの登山者の
いえず、旅に出れば恥はかき捨てのこの国で、山
期待に、私達は背いてはならないと考えています。 のモラルを問うだけでは百年河清を待つに等しい
でしょう。モラルよりもルールを確立し、教育を
(5)L.28∼29「「料金を徴収する」ということ
は、支払った側は対価としてゴミ処理を要求する
ことになり、徴収者が管理責任を負うことにな
る。」
極めて当然のことですが、「支払った側が要求
する」のはゴミだけではなく、質の高い自然体
験を要求するでしょうし、管理者はそれに応え
る責任があります。
して、そのルールを遵守させることです。できな
い人は退場を求めるしかありません。何故なら、
国立公園は、後世に残す義務が私達に課せられた
国民の共有財産だからです。
★ P.12 は、まだ試案の段階であるためか、
同じ記述が繰り返されたり、文章がかなり乱れた
りして、逐条の検討はできませんので、気付いた
点だけを申し上げます。
(6)L.29∼30「このため、私たちがクリーンハ
イクで進めてきた“ゴミは捨てない、持ち帰る”
というモラル向上運動に水を差すことになりかね
ない。」
失礼ですが、いささか滑稽なお話ではないでし
ょうか。公園管理者がゴミの収集を完全に行えば
労山のモラル向上運動に「水を差される」ので困
(8)入山料には反対するが「トイレのチップ
制」だけは認める、とありますが、モラル意識の
低いこの国ではチップ制は無意味です。尾瀬でも
大台ヶ原でもチップの箱には僅かしか入っていま
せん。料金制にしなければ実効が上がりません。
る、ということであるとすれば、労山のモラル向
上運動を行うためには国立公園の中にゴミが捨て
られていた方が良い、と言い替えることができま
すが、この言い替えで正しいのでしょうか。そし
(9)P.12 L.19「オーバーユース対策として
てこのお話に説得力があるのでしょうか。
業者すら分散できないのが、自由放埓な観光客を
分散できるはずがなく、未だ「入山者抑制」の実
効が上がっていません。また、「登山口の見直
し」とは具体的に何をどうするのでしょうか。多
(7)P.12 L.1 「広大な自然を管理者だけで
保護するのは困難で利用者のモラル確立こそが解
決策である。」
の入山者抑制は、便利になりすぎた登山口の見直
しや、利用者の分散対策が効果的である。」
尾瀬で分散利用がいわれて久しいですが、観光
くの利権が絡む登山口に触ることは火中に栗を拾
―106―
うようなもので、「効果」は期待できないでしょ
う。
に利用者が増加する傾向が見られ、原生的な雰囲
気が失われ、景観、生物多様性の保全に支障を生
じるようになったので利用調整地区を創設したの
です。まさに、西大台がその限界であり、東大台
【量の適正化と質の向上】
はすでに手遅れです。
オーバーユースを解決するためには、まず利用
者の数を減らし、利用の質の向上を図ることです。
実は私達は、大台ヶ原が国有化された 1975 年
自然保護全般に言えることですが、数こそが諸悪
の根源だと考えます。「登山人口の減少は自然保
護の世論を遠ざけることになりかねない。」と文
末に書かれていますが、登山人口が減れば、自然
保護の多くの問題が自然に解消されて行くでしょ
の時点で、入山規制による原生的自然の保護を夢
見ました。ところが期待に反して、国・県・観光
資本が第3セクターを作って観光政策を推し進め、
過剰利用によって原生的自然はダメージを受けま
う。
した。今回、ようやくこの政策が打ち出されまし
たが、ここに至るまでに実に 30 年の歳月を要し
たのです。遅きに失した感が強いですが、西大台
だけは、かろうじて間に合います。
(10)L.20「「利用調整地区制度」により新設さ
れた入山登録制は、手続き委託先への財源措置を
怠ると、費用捻出のために入山者の増大を図る必
要が生じるので、経費はすべて国が負う必要があ
る。」
「手続き委託先」とは指定認定機関のことかと
思いますが、これは民間団体ですので、「経費を
すべて国が負う」ことは無理だと思います。そし
【権利と義務】
労山の基本理念に、「(5)限りある自然を守
り、後世に残す」とあるからには、「登山の権
利」を主張するだけではなく、利用調整地区制度
て、法律によって指定認定機関の「遵守事項や秘
密保持義務、監督命令、報告徴収及び立入検査等
を活用して貴重な原生的自然を破壊から守って、
永く後世に残す「義務」があることについてもぜ
ひお考えいただきたい。
の規定」が設けられていますので、間違っても
「入山者の増加を図る」ことはあり得ないでしょ
う。
国立公園法を改正する時点で、具体的な目標に
◆「10. 望ましい行政とのパートナーシップ」に
ついて
【情報公開と市民参画】
されていた知床と小笠原が頓挫しましたが、知床
では世界自然遺産登録を機に再燃の動きがあるよ
うです。私達は大台ヶ原の指定を目指して全力を
尽くしておりますので、近い将来、具体的な姿を
本会は、1978 年に『大台ヶ原の自然保護と利
用への提案』を発表して以来、情報公開と市民参
画を求めて活動を続けてきましたが、最近に至っ
てようやく環境省、奈良県の大台ヶ原・大峰山系
お見せできると思います。
なお、労山に「西大台はまだ利用者が少ないの
で、利用調整地区にする必要はない。むしろ過剰
の各種検討会が公開されることになり、委員とし
ての参画して対話することが可能になりました。
大台ヶ原自然再生推進計画の利用計画 8 項目のう
ち、5 項目は本会の年来の提案であります。
利用の東大台が先ではないか」というの批判があ
ることは承知しております。一応、筋の通った意
見だと思います。
しかし、自然公園法改正の目的は、従来ほとん
【現地説明会】
また、大台ヶ原・大峰山系の施設整備事業につ
いて、環境省・奈良県は設計段階で、自然保護団
ど利用者が立ち入ることのなかった原生的な自然
体、登山団体、地元関係機関などを施工現場に集
―107―
めて現地説明会を開催しています。すでに5回開
催され、慣例化しました。
参加者は現場で設計図に基づいて自由闊達に意
民の立場からの異議申立てと提案に過ぎません。
尤も、登山者として論議するリーダシップ、メン
バーシップにと違って、パートナーシップにはい
見を出し合って多くの設計変更が行われます。施
工段階でも業者の協力を得て、地元に伝わる伝統
工法を使って、全国の登山道整備に範足る登山道
が昨年完成しました。
ささか胡散臭い偽善性を感じて正確には把握し兼
ねます。閑話休題
【新しい風】
現地説明会の参加要請は、当初は本会だけでし
ここ 10 年以上、アポすら取れなかった霞ヶ関
たが、本会が要請して日本山岳会、労山に拡大し、 官僚が、数年前に突然、“イークオル パートナ
日本山岳会は東京から自然保護担当理事が参加し
ーシップ”などと言い馴れない言葉を口にして市
ました。今後は更に、一般市民も自由に参加でき
民に擦り寄ってきました。いままで門前払いを食
るように環境省に要望しています。
【ホームページによる情報公開と対話】
私は、すべての検討会、懇話会、現地説明会の
らっていた官僚に、突然「仲良くしよう」と言わ
れても、直ちに信じる訳にもいかず当惑しました。
不愉快でした。
しかし、その理由は、わかれば実に簡単なこと
内容を逐一、HP に掲載しています。その内容は、
行政の資料の公開だけではなく、自然保護団体の
基本姿勢からの批判を貫いていますので、世間に
知られることを嫌う行政にとっては不愉快極まり
でした。環境政策で行き詰まったアメリカで、ク
リントン政権時代にエコシステムマネジメントの
政策が打ち出され、その内容が科学性の確立と
「市民参画」だったのです。アメリカ同様、諸政
ないことばかりでしょうが、会議場の外まで延長
した行政との真剣で激しい公開対話であります。
行政が忍耐して対話を継続している姿勢は高く評
価すべきです。
策が失敗して壁に突き当たっていた日本の国交・
農水・環境各省の官僚が例によって見事に真似た
ようです。
しかし、いつものように外圧により真似たにし
前で述べた登山道整備は、自然保護団体が進捗
状況をHPに公開して問題点を指摘し、行政が施
工業者に指示を出し、業者もHPを見て自ら考え、
三者の緊迫したやりとりで成功したと言えます。
ても、国際的に新しい風が吹き始め、時が動きは
じめたことを官僚は理解しています。国交・農
水・環境各省が基本法を改正したのはそのためで
しょう。この風を止めてはなりません。
一方、市民の HP 来訪者は開設 5 年にして、近
く 10 万人に達します。力も金もない自然保護団
体のささやかな HP が情報を公開して行政と対話
している姿は、正にネット時代を象徴しているの
【パートナーシップの儀慢性】
“パートナーシップ”なるものは、徳川時代以
来の永い官僚機構のなかで、民百姓を軽蔑して権
かもしれません。
(1)P.12 L.6「行政と国民(市民)との真の
協同(パートナーシップ)は、対等の立場からお
互の問題点を認識した上で進められねばならな
い。」
巨大な権力、資金力、情報量を持つ行政と、
力も金もない市民との「対等のパートナーシッ
プ」などあり得ません。私達にできることは、市
勢をほしいままにしてきた自尊心の強い官僚が、
環境政策の失敗から、心ならずも市民の声に耳を
傾けざるを得ない、時にはそのポーズを取らざる
を得なくなったために、不本意ながら口にしてい
るに過ぎません。市民が“パートナーシップ”の
幻想に酔うことは許されません。真の協働は官僚
との緊張関係の中にこそ、はじめて存在し得ます。
【自然保護団体の基本姿勢の堅持】
―108―
各種審議会・検討会への市民参画に対して、行
政追認、ガス抜き、裏切りなどと定番の高踏的
批判がありますし、それが当たっている側面も
行政の姿勢は頑迷固陋でしたが、最近は過去の政
策を反省して、変更、撤回する場合も出てきまし
た。市民が提言を粘り強く繰り返すことが必要で
確かにあります。しかし、前に述べたように
「対等の立場」はないにしても、行政と対話で
きる場に着くことは、野良犬の遠吠えとは違う
大きな意味があります。
しょう。
【協働とは無縁のいかがわしいNPO】
ところで、近年憂慮すべき事態が生じています。
そして行政との対話、協働の中で、自然保護団
体としての基本的な姿勢を堅持することは、サー
カスの綱渡りに似た緊張を強いられる困難な課題
であります。綱から落ちないために、研ぎ澄まさ
それは、NPO法案によって雨後の筍のように輩
出したいかがわしい NPO が、僅かな補助金欲しさ
に行政ににじり寄り、補完的な行為をしているこ
とです。
れた平衡感覚と行政を納得させ得る論理が求めら
れます。外野席からやじっている方がはるかに楽
であります。
戦後 60 年、民主主義は未だに成熟せず、衆愚
政治に慣れきって自立できない市民が、ボランテ
イア精神の何たるかも理解できず、さりとて専門
職でもない不気味な素人集団を形成し、行政は安
【自立した市民】
また、L.11 に「責任の所在を明らかにし」と
ありますが、責任のとれる「自立した市民」が、
いまこそ求められます。市民参画とは市民を数集
上がりの補完組織として利用しています。この醜
悪な関係は、「協働」とは全く無縁なものであり
ます。
【おわりに】
めれば良いというものではありません。しかも、
貴「解説書」の1.から8.についても意見が
民主主義が未成熟なこの国で、現在最も少ないの
ありますが、本稿の主旨から逸れますので申し述
が「自立した市民」です。この悲しい現実が、
「責任をとらない役人」を跋扈させているのです。 べません。本稿はあくまでも、本会が関わる「利
だからこそ、私達は立案段階から情報公開を求
用調整地区」と「協働」について愚見を述べさせ
ていただきました。
失礼な言葉を書き並べましたことを最後に改め
てお詫びいたします。
め、参画して提案しているのです。また、従来の
以上
(2)L.9「行政側に一度決めた政策を変えさせ
るのは容易ではない。」
盗採か? 大台ヶ原山採り蘭がネットオークションに出現
◆ 驚くべき出品
zousan7070(ヤフーID=ネット上の名)は「★大
新年早々、インターネットに自然保護の願いを
踏みにじるような悪質な商品が出品された。ヤフ
ーオークション中の「花・園芸」カテゴリーに 1
月 2 日に 3 件が出品され、更に 5 日に 1 件が追加
台ヶ原山採り・・・奈良県大台ヶ原の山採りで花
が楽しみです。花芽あり。6 条立て。」などと臆
面も無く表示し、自ら大台ヶ原山での山採りであ
ることを誇示している。
出品されたもので、厚顔無恥にも堂々と「大台ヶ
原山採り」を掲げ、写真入りで長生蘭(セッコ
ク)が売りに出されている。出品者の
◆ 盗品か詐欺か
―109―
いうまでもないが、大台ヶ原の山頂一帯は国立
公園の特別保護地区、特別地域に指定されており
蘭など野生植物を採取することは全面的に禁止さ
ようだが、もし通告を知りながら出品を増やした
のであれば、かなり悪質な盗採屋ではないかと思
われる。
れている。また山頂周辺の買い上げ区域が国有地
であることは勿論だがその周辺にも個人の所有地
は無く、大台ヶ原山採りが本当なら他人の土地の
自生植物を盗採したものであることは疑いない。
本会は環境省への通知と同時に、ヤフーの「ガ
イドライン違反申告フォーム」に基づいて「オー
クション ID と、違反していると思われる理由」
を付して直接申告したが「Yahoo!オークションパ
自然公園法第 13 条 3 項(特別地域の禁止事項・
指定植物)または 14 条 3 項(特別保護地区の禁
止事項)違反であり同法第 70 条により六月以下
の懲役又は 50 万円以下の罰金に処するべきであ
トロールチームが該当オークションを調査し、ガ
イドラインに反すると判断した場合には、対象者
への警告や削除など、規定に則って対応いたして
おります。」と回答してきた。ところが肝心の調
る。また盗採は刑法 235 条(窃盗罪)にあたるれ
っきとした犯罪で、10 年以下の懲役刑である。
巧妙にも「大台ヶ原山採り」とのみ表示し大
台ヶ原のどこで採取したかは示されていない。い
査した結果は通告者には回答されないという。今
回の場合もオークションパトロールが本当に出品
者に問い合わせるなど調査したのかどうか、その
結果何が判明し、何が不明だったのか、あるいは
ざとなれば「禁止区域外の大台ヶ原山麓で採取し
た」と主張するつもりなのだろう。だが、それな
らどの場所で採取したというのか。出品者は大台
周辺に自分の所有地などあるわけないから、頂上
どのようなことが証拠不十分でクロと断定できな
かったのかなど全く説明がないまま、出品され続
けている。これは明らかにオークション管理者の
責任逃れの姿勢と言わねばならない。形ばかりの
であろうと麓であろうとどっちにせよ盗採である
ことに違いない。もし盗採でないというなら大台
ヶ原山採りというのが真っ赤なウソで、採取地を
偽って売れば詐欺罪(刑法 246 条・懲役 10 年以
調査をして、確証が得られないかぎり何もしない
というのであれば、はじめから何もしないのと同
じである。出品者は違法行為を百も承知で出品し
ているのであり、明白な犯行の証拠を残すような
下)である。
◆ ヤフーの責任は重大
盗品であれ、詐欺であれいずれにせよ、ヤフー
ドジを踏むはずがないからである。管理者は出品
者に対し大台ヶ原山のどの区域で採取したかを問
い詰め、期限内に回答がない場合は自然公園法違
反の盗品とみなして削除するとともに、出品者の
の出品規定に反する(盗品、不当表示品)ことは
明らかだ。この蘭の出品については 1 月 5 日に本
会の会長から環境省の近畿地方環境事務所に通知
した。これに対し環境省は異例なスピードで本格
登録を抹消すべきである。一度削除された出品者
が再度同じ品を出品したこともあったと聞くが、
二度と同じ人間が出品しないようにオークション
から永久に追放し、悪質な場合は氏名を公開する
的に対応し、その日のうちに環境省本省からヤフ
ーのオークション管理者に対し「違法のおそれが
ある」旨通知され、更に夕刻に近畿地方環境事務
所からも再度通知されたと聞いている。だが、そ
など社会的制裁を加えるべきである。
れにもかかわらずヤフー管理者は環境省の通告か
ら 4 日が経過した 1 月 9 日現在になっても出品を
取り消していない。それどころか 5 日夜には出品
者は「大台ヶ原山採り」をもう 1 件追加して合計
法コピーソフトやわいせつ図画、個人のプライバ
シーを侵害する画像など様々な違法商品が取引さ
れており、出品者の匿名性が犯罪に利用されてい
る。ヤフーはいわば泥棒市場として犯罪品の取引
4 件になっている。出品者は女性だと称している
に場所を提供し多額のショバ代を得ているのであ
◆ 山採り出品の全面削除を
ネットオークションでは盗採植物に限らず、違
―110―
る。今回は筆者がたまたま大台ヶ原の地形図が欲
しくて「大台ヶ原」を検索して偶然見つけたもの
だが、改めて現在開催中の「花・園芸」のオーク
「公開された覇者のアルゴリズム」のなかで「原
則的にいえば、インターネットの自由な発展と拡
大という、ビジネス上の利益が、フェアネスとか、
ションで「山採り」を検索してみると、寒蘭、春
蘭、エビネ、シダ類、乾燥水苔など何と 105 件も
の商品がヒットした。さらに過去の終了分を検索
してみると昨年 10 月には 390 件、11 月には 322
正義という問題にぶつかる場合、優先するべきは
当然フェアネスであり、正義の方です」と述べて
いる。願わくば孫正義氏は名前負けすることなく、
このご自分の言葉を守っていただきたいものであ
件の「山採り」商品が落札されている。年間では
4000 件のこえる「山採り」植物が取引されてい
ると思われる。この数字は全国の園芸店の売り上
げから見れば小さな数字かもしれないが、絶滅が
る。
環境省の皆さんが野生生物の保護に真剣に取
り組んでいただいていることは大変心強い。今回
の迅速な対応に敬意を表するとともに、何とか良
心配される希少品種が多い出品された植物たちに
とっては絶望的な数字である。
「山採り」はほぼ全てが「盗採」と同意語であ
ろう。ヤフー会長の孫正義氏は、自分の事業が盗
い結果が出せるよう、引き続きあと一押しの努力
をお願いしたい。この記事がHPに掲載されるこ
ろには、せめてこの破廉恥な出品が取り消されて
いることを心から願うものである。
2006 年 1 月 9 日
採者の盗品販売に野放しに利用され、希少品種の
絶滅に手を貸していることに恥を知るべきである。
オークションはヤフーばかりではないが、質、量
ともに他の追随を許さない圧倒的シェアを誇るヤ
来住弘之
フーの責任は重い。孫正義氏はインタビュー記事
通知 10 日後に 1 件落札・・・ その翌日ようやく画面から削除
本会は 1 月 5 日に環境省近畿地方環境事務所
に通知し、環境省は異例の早さで、その日のうち
ヤフーからのメールがその翌日(17 日)の夜に
本会に届いた。その内容ではヤフーが削除したの
に二度にわたりヤフーに対して通知した。しかし、
オークション画面から削除されることなく、入札
は継続された。
本会はヤフーの「企業の社会的責任(CSR)」に
か出品者が取り下げたのか定かではない。メール
の宛名も記載されていないし、tense からすれば
恐らく所定のフォームに若干の手を加えて機械的
に送られてきたもので、回答ではなく「クレーム
訴えるべく、資料を添付したメールを 10 日に直
接送り、質問に答えて重ねて 14 日に再送した。
その頃、ヤフーから環境省近畿地方環境事務所
に問い合わせがあったと聞く。そして、ようやく
受理通知」に過ぎない。しかも、「調査結果につ
いては答えない」と最初から断っている。調査結
果を明らかにして、その結果どのように処置した
かを答えなければ社会的責任を果したことにはな
16 日午前に至って、オークション画面から削除
された。
しかし、その前日に 1 件が落札されて破廉恥
な愛好者の手に渡ってしまった。ヤフーが環境省
らない。
から通知を受けた 1 月 5 日以後の早い時期に適切
な処置をこうじておればこの落札は防げたはずで
ある。
論出品者に採取場所を尋ねたが返事はなかった。
ヤフーがそれを糺して、自然公園法違反の疑いが
認められたから削除したのか、警告に基づいて出
今回の問題は採取場所が鍵を握っている。そし
て出品者がその真実を語るかどうかだ。本会は勿
―111―
品者が自発的に取り下げたのか、落札された蘭は
合法的な商品なのか違法な品なのか、何一つ明か
にされないまま真相が闇に中に消えたのは遺憾で
まとわざるを得ないのではないのか。ネットオー
クションの場では今回のような事例は日常茶飯事
なのかもしれない。だとすればクレームを放置し
ある。
ヤフーのマニュアルメールには「早期解決のた
め」とか「迅やかに回答させていただきます」な
て時の経過にゆだね、オークションの時間切れを
待つのも社内マニュアルの「解決方法」になって
いるのかもしれない。極言すれば合法非合法が同
居する無法地帯ではないか。ヤフーはそれを承知
どの常套句が並ぶが、通知 10 日後の画面削除で
は決して「早期解決」ではない。出品者はその後
も他の商品の出品を続けている。大台ヶ原山採り
蘭の再出品不可の処置でなければ解決ではない。
しているからこそ終始責任回避で逃げ廻るのでは
ないのか。
改めて言うまでもないが、ネットオークション
の闇は匿名性に起因していることは常識である。
加えて画面から消えて 2 日後の連絡では「迅やか
な回答」ではない。対応がいかにも遅い。
オークションというシステム自体には何の問題も
ない。氏素性を明かにした者が競り合えば楽しい
だけで何の問題もない。“個人情報保護"などと
いういかがわしい大義名文の裏で白昼公然と犯罪
因みに、ヤフーの今回の処置(カスタマーサポ
ート)をどう評価するか「満足度アンケート」に
答えろと求められたのには呆れた。メールもアン
ケートもすべてが誠意の感じられない形骸化され
たフォームに過ぎないが、このようなマニュアル
的行為がまかり通り、ヤフーがその場を提供して
利益をむさぼっている姿は決して誉められたもの
ではない。
大台ヶ原の山採品はこれで一応削除されたが、
でユーザーに満足を与えているとヤフーが考えて
いるとすれば、日本人も馬鹿にされたものだ。日
本の官僚も、最近ではこれほど官僚的ではない。
他の山採品はそのままである。インターネットの
闇の部分に対する社会の批判は高まっている。ヤ
フーがこのままインターネットを使った犯罪に手
を貸し続けるなら、いずれ 社会的指弾と制裁を
商売である以上、顧客である出品者の利益を擁
護するのは当然だとヤフーは主張するかもしれな
いが、商品と出品者に反社会性が疑われる場合は
その利益は擁護されるべきではない。反社会性を
受けることになるであろう。これだけは、ヤフー
オークションの管理者並びに孫正義会長に警告し
ておきたい。
2006 年 1 月 18 日 田村 義彦
排除してこそ、ヤフーが高らかに謳う「企業の社
会的責任」を果したことになる。皮肉に言えば、
ヤフーが社会的責任を果せないからこそ、虚飾を
通過儀礼瞥見
自律せよNPO・・・
―― 第三次環境基本計画(案)に対する近畿ブロックヒアリング ―
正直なところ政府の基本方針には切実な関心は
ない。床の間の飾りくらいにしか思っていなかっ
た。この類のものには、いままで何度かパブコメ
ング”である。一応民百姓の声も聞いてやったと
いうポーズに過ぎない“意見発表者募集”に何の
興味も感じなかったので応募しなかった。
などで意見を出してきたが何の意味もなかった。
文字通り形骸化して通過儀礼に過ぎない“ヒアリ
ただ、最近「市民参画・情報公開」の虚しさに
ついて考えていて、近く総会で報告したいと思っ
―112―
この提案は、さすがの官僚にとってもお笑いで
ていたので、ヒアリングをする側の中央審議会の
委員諸侯と霞ヶ関官僚の反応に興味があったので、 あろう。いくらなんでも露骨すぎる。賢明な官僚
はそんな下手なことはやらない。やるなら民主的
それだけを見るつもりで時間を割いて、2006 年 2
月 29 日に大阪へ出かけた。
装いで厚化粧をしてもっと上手にやるだろう。こ
んな提案は、官僚の国民蔑視を増幅させるだけだ。
意見発表者 5 名の発言内容は予想通りここに書
くほどのことはなかったが、ただ一人、奈良の
この発言を聞いて思い出したことがある。2001
NPO の“意見”に驚いたので、この駄文を書くこ
とになってしまった。
現在大阪には、環境省が「近畿環境パートナー
シップオフィス(きんき環境館)」を作って情報
年に川口環境大臣がタウンミーティングという名
で市民との対話集会を東京で開くというので、自
然公園法の改正を直訴しようと上京したが、フロ
アーからの発言は、口をそろえて「金がない、場
を発信し、イベントを主催し、環境グループに交
流・情報交換の場を提供している。畏友西岡氏が
主宰する「ウータン・森と生活を考える会」は会
議の場所を借りている。先日筆者もその総会に行
所がない、人がいない、環境省でなんとかしてほ
しい」という哀願であった。唖然とした。ところ
が、僅かな補助金欲しさに官に媚び、安い労働力
として行政の補完作業を行い、その恥辱を省みな
ってきたところだ。近ければ、本会も借りたいく
らいだ。(ただ、職員数名が、すぐそばに机を並
べているのが気になった。集会のすべての発言が
聞こえるし顔も見える。筆者の様に環境省批判を
い NPO の基本体質は、5 年経っても少しも変わっ
ていなかった。封建の世ですら民百姓は命をかけ
てお上へ異議申立てをしたが、いまの民百姓のこ
の卑屈な姿を歴史はどう評価するのだろうか。勿
公然としている者は平気であるが、行政批判を遠
慮しながら発言する人には気になる存在であろう。
牽制や情報収集のためではないと思うが、いささ
か配慮を欠く、無神経な配置ではないか。環境問
論、言うまでもないことだが、すべての NPO がそ
うだとは言わない。筆者が尊敬する知人、友人が
独立独歩で立派な事業を行っていることは知って
いる。
題はきれいごとではない。行政や企業との軋轢の
問題を多く含むだけに、きがねなしに自由に論議
できる場を提供すべきではないか。閑話休題)
クリスチャンで作家の曽野綾子氏が 1997 年に
『片手間の誠実』と題して書いた一文を書き写す。
「NPO 法案が整備されればされるほど、ボランテ
奈良の NPO の提案はそのオフィスを全国に作ろ
うということのようだ。その限りにおいては結構
であるが、問題は作り方である。役所に予算がな
いだろうから、環境省で基準を定めて、現在活動
イア活動は、その奉仕の精神を失い、商業化する
だろう。・・・今に NPO は、専門職でもない、ア
ルバイトでもない、奉仕でもない、という不気味
な素人集団を生温かく食わせる温床になりかねな
している団体を募って審査の上で、パートナーシ
ップオフィスに認定してくださいと言うのだ。不
思議な発想だ。
環境省が基準を定め、審査して認定するのだか
い。二十一世紀には、そうした「ボランテイア
業」が流行しそうな予感もする。」 無償の宗教
的ボランティアを長く続けている作家の感性はさ
すがに鋭い。先見の明と言うべきであるが、本当
ら、民間団体の事務所を環境省御用達のオフィス
にするということになる。それを何故、市民がお
願いするのか?作るべきは、自律した市民のネッ
トワークではないのか。市民が官製ネットワーク
はあたってもらいたくなかった。
を有り難がる感性は理解の範疇を越える。
いうことなので、検討委員として参画した 5 年間
冒頭に書いたようにこのヒアリング会場には傍
聴にだけ行ったのだが、傍聴者にも発言を許すと
―113―
の体験を踏まえて、基本方針の美辞麗句を現実の
ものにしてもらいたいと、軽率にもセレモニーに
参加してしまった。いま己の発言の虚しさにほぞ
ろうか。それが官僚の本質だろう。そして官僚の
御下命の受け皿が NPO であるとすれば、正に不気
味で危険で醜悪な構図である。
を噛んでいる。
しかし、気を取り直して少しだけ基本計画を見
てみよう。第三次環境基本計画(案)の「第 4 節
環境省は、政策形成過程から施策の実施、事後
の評価まで、「国民や民間の各種団体の参加・参
画を得ながら進めていきます」と結構なことを書
国、地方公共団体、国民の新たな役割と参画・協
働の推進」には「1 国、地方公共団体、国民の
役割を踏まえた連携の強化」「2 施策プロセス
への広範な主体による参画の促進」「3 行政と
いているが、間違っても、御用 NPO を周囲に侍ら
せてバリアを築くようなことはしないでください
よ。最近、身近でそれが起きた。市民参画を逆手
にとった官僚の卑劣で巧妙なやり口だ。
国民とのコミュニケーションの質量両面からの向
上」とある。実現すれば、まことに結構である。
検討会の類に自然保護団体からもっと多く参加さ
せるべきだ。
この基本計画は 50 年後を見通しながら、毎年
チエックしていくというから、多くの基本計画が
そうであるように、床の間の飾りで納まるのか、
「国民の役割」の文字が二度出てくるが、それ
を誰が決めるのか?自律した市民であれば言われ
なくてもわかっているが、衆愚政治に馴れきった
国民は、上記の NPO のようにお上に決めてくれと
それとも現実のものになるのか、しばらく様子を
みることにしょう。
それにしても、政府・官僚はアメリカの「エコ
システムマネジメント」にひれ伏したのか。国民
頼むのだろうか。それとも、お上の方から役割を
与えてくるのだろうか? 筆者は戦時中、少国民
の役割を教育されて、役割を果すべく敗戦まで生
きていた。官僚は、パートナーシップとか協働と
を蔑視する優秀な頭脳から、なぜ独創的な施策は
出てこないのか。外圧による民主化のポーズはグ
ロテスクだ。官僚自身のプライドも許さないはず
だ。「市民参画」「協働」が虚ろに響くが、まさ
か心にもない言葉を並べるが、本音は、地方自治
体や国民に対して上から役割を押しつけたいのだ
か基本計画は「大本営発表」ではないでしょうね。
2005 年 3 月 2 日
田村 義彦
西大台利用調整地区制度の導入にむけての個人的想い
(12 月 16 日 合同部会を傍聴して)
平成 14 年の自然公園法の一部改正によって利
用調整地区制度が整備されました。国立・国定公
で簡単に行くことは当たり前のことで、過剰な利
用を過剰とも感じる人は極僅かでしょう。それは、
園の風致又は景観の維持とその適正な利用を図る
ため、利用調製地区を指定し利用者数の調整を図
るというものです。法律によって、利用より自然
保護優位が謳われ、西大台が始めての実施ケース
人が道を付けた時に、当然のこととして生まれて
くる感情なのかもしれません。また、自然公園法
も人の為に存在していると言えなくもありません。
そんな利用することを前提とした環境・公園法の
となる、大事な正念場にきています。
大台ケ原はドライブウェイが開通し 40 年以上
が経過し、以前の様子を知る人も少なくなってき
ています。開通後しか知らない人たちにとって車
中で利用調製地区制度が法制化されたことは、日
本の国立公園が変われる可能性を持てたのかもし
れません。
私は本来はドライブウェイを閉鎖し、大台ケ原
―114―
全域を入山規制することが望ましいと考えますが、
今後、色んな立場の人から構成される協議会が
自然再生推進計画を踏まえ、「新しい利用のあり
設置され、具体的な内容が詰められていきます。
方推進計画」に位置づけられている「マイカー規
縄張り根性や私利私欲を捨てた、大台ケ原の自然
制の実施」「新しいメニューの充実」とも連携し
て具体化されることで効果を発揮する、と大台ケ
原自然再生計画評価委員会の合同部会において意
思表明されたことが、控えめな利用に向けて大き
を出来る限り控えめに利用させていただくという
共通の意識を持って望む協議会であって欲しいと
祈念しています。
2005 年 12 月 18 日
河内由美子
な意味をもって欲しいものです。
日本山岳会自然保護委員会会報『木の目草の芽』第 61 号(2006 年 3 月 20 日発行)より転載
やがて、大台ヶ原で入山規制が
大台ヶ原自然再生計画の大きな目標の一つが、
西大台に利用調整地区を設置して、入山者数の調
整と教育を行うことである。
田村 義彦
壊してきた歴史を考えれば、いまや権利主張に説
得力はない。環境省が自然公園法の目的の一つで
ある「利用」をあくまでも前提にしたまま、登山
環境省は、二〇〇二年に自然公園法を改正して、
国立公園の特別保護地区・第一種特別地域の中で、
「原生的な雰囲気が保たれている地区で、利用者
圧が高まり、現状のままでは自然景観や生物の多
ブームの中で好運にも僅かに残された原生的自然
を今からでも保存しようという苦肉の策である。
自然公園法の第一条の「利用」を削除して「保
護」一本に絞るべきだと永年要望してきた者にと
様性の維持に支障を生じ、原生的な雰囲気や優れ
た自然景観の享受ができなくなるおそれがある地
区に利用調整地区を設けて利用人数の調整をする
こと」になった。正に、西大台のブナ原生林の現
っては、正直、遅まきながらの感は否めない。
それだけに、対象地はそう多くはない。環境省
は、法律改正の時点で知床と小笠原を対象地に考
えていたようであるが、いずれも地元の賛同が得
状が法改正の主旨にぴったりである。環境省と関
係者で、昨年来準備を進めてきた。
一方、法改正の主旨が正しく理解されず、過剰
利用対策と受け止めるきらいがあって、西大台よ
られず頓挫したままである。幸い、大台ヶ原は環
境省の所有地であるので反対する地権者もなく、
奈良県・上北山村も共に賛成している。もし、実
現すれば「本邦初演」の快挙になる。
りも東大台で先に実施せよという声がある。しか
し、先に述べたように守るべき原生的自然がまだ
残されているところが対象であって、すでに観光
地化した東大台は対象にならない。この誤解は各
本年ニ月二十六日、現地で開催された協議会で、
出席者ニ十二名全員が利用調整地区指定に賛成し、
合意形成が図られた。今後さらに具体的な事項を
つめ、九月頃には計画案をまとめ、中央環境審議
会への諮問を目指す。協議会には日本山岳会も本
部篠崎仁氏と関西支部斧田一陽氏が連携を取って
一方、登山を権利と主張する登山団体や山岳界、 参加している。
地にあるようで「過剰利用対策に利用調整地区設
置を検討」という話をよく聞く。
メディアなどで、国民の権利侵害と受け止めるむ
きもあるかもしれないが、そのような利便性を求
める人間中心的発想が、これまで原生的自然を破
実施となれば、地元に指定認定機関を作って、
入山希望者の事前予約を受付け、事務手数料(入
―115―
山料)を受取るなど管理業務を行う。入山者は、
歩道外への立入り、野営、生きた動植物の持ち込
み、野生動物への給餌、野生動物に影響を及ぼす
《マイカー規制》《利用調整地区設置》と並んで、
「質の向上」のために、《自然体験プログラムの
充実》《ビジターセンター機能の充実》を挙げた
のである。入山者には事前にビジターセンターで
撮影・観察、ゴミの廃棄などが禁じられる。皆様
オリエンテーションを受けることを義務化したい
良くご存知のアメリカの国立公園のような運用に
と考えている。
なるであろう。
アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド
そこで問題なのは、利用者の教育の問題である。
日本ではまだ、利用調整といえば入山者数の規制
だけを考えがちであるが、量の規正と同時に重要
なのは利用者の質の向上であり、そのための教育
の問題である。
などでは規制と教育の二本立が当然の如く行われ
ているなかで、環境後進国の日本も早くそうなっ
てもらいたいと願う。
ところで最近、里山ブームもあって、自然保護
昨年一月まで足掛け四年間、大台ヶ原自然再生
検討会において大台ヶ原の利用計画を論議してき
たが、その基本方針は『「量の適正化」と「質の
改善」によって新しいワイズユースの山を目指
の論議で必ず出てくるのが“地域振興”である。
しかし、かりに経済性に力点を置けば、この試み
は必ず堕落、破綻するであろう。目的は原生的自
然の保存と質の高い自然体験であることを胆に銘
す』こととした。(日本山岳会大蔵喜福理事から、 じなければならない。
計画案ができればインターネット等を通じて公
海外での豊富なご経験に基づくご教示を戴いたこ
表され、広く国民の意見が求められる。会員諸兄
とを記して感謝したい。) 関係者が量の規制を
姉の率直なご意見を乞う。
もって事足れり、と考えているとすれば大きな誤
りである。利用計画では「量の適正化」のための
ニ〇〇六・ニ・ニ七
(関西支部)
一日も早く西大台を利用調整地区指定へ
2005 年 6 月 17 日、梅雨の晴れ間を縫って久し
ぶりに西大台を一巡してきました。昨年の相次ぐ
台風で大台周辺も被害を受けましたが,ナゴヤ谷
から逆川までは特に目立った被害はないように見
実生の確認
ナゴヤ谷に沿って歩いていると、枯れたスズタ
ケが新しい葉をつけていましたが、開拓分岐辺り
受けられました。しかし、ワサビ谷高野谷出合下
流で、木の間に黄土色の地肌を広範囲に見せてい
て、その異様な風景が何であるのか理解するのに
長い時間がかかりました。また、七つ池の近くで
は以前は人の背丈ほどもあるスズタケで覆われて
いたとは想像できない程、林床はすけています。
しかし分岐からワサビ高野の出合までの広い平坦
地は、20 年も前からすでに後継樹が育たなくて
は、これまでに見たこともないような根こそぎ倒
れた巨木を見つけました。伐採を免れた巨木も、
自然の摂理にしたがって命を次世代に引き継ぐ時
が来たようです。
心配されていたと聞きます。勿論鹿が食べたので
はありません。西大台はバッファーゾーンがない
ため大峰山系からの西風を直接うけます。乾燥、
温度上昇でブナ林は消えると学者は言います。何
―116―
一つ確かな調査をしないまま、すべての責任を鹿
に押しかぶせる近年の風潮はおかしいです。
西大台は環境省の「大台ヶ原自然再生推進計
「七つ池」と書いたままですが、七つ池跡はもは
や見られないのです。看板に偽りあり、では洒落
にもなりません。
画」によると、自然再生対照区Ⅵ(ブナースズタ
ケ密)・Ⅶ(ブナースズタケ疎)と表記されてい
て、平成 15 年・16 年に三箇所の防鹿柵が設置さ
れています。昨年 2 月と 11 月のニホンジカ保護
ササが枯れた理由は 55∼60 年に一度花が咲い
て枯れる・と言う説が妥当だと思いますがはっき
りとは分かりません。しかし枯れたお陰で、種子
の発芽を阻むものがなくなり、沢山の実生を見る
管理検討会の際、牛石ヶ原やナゴヤ岳周辺に多く
生息しているらしいニホンジカが今後西大台へも
侵入してくるのではないか、シカに食べられる前
に手を打つ必要がある・と傍聴席で聞きました。
ことができました。
朽ちた倒木に根付いた実生も、岩盤に根付いた
ものも、自然のあるがままを受け入れて育ちます。
いとおしい自然の姿です。(写真下・右下)余計
豊富なミヤコザサがあるのに、なぜわざわざス
ズタケが枯れた西大台へ来る理由があるのでしょ
うか?それとも、餌となるスズタケが消失してい
るので、樹皮をかじられては大変ということでし
なことをしたり、言ったりするのは人間だけです。
枯れた稚樹
私にはウラジロモミかトウヒかの区別はつきま
せんが、ワサビ高野出合下流でギャップに沢山の
ょうか?食痕があってもほとんどはケロイド状に
なった古いもので、枯れることなく立派に生育し
ている木は幾らでもあります。驚いたことに全周
剥皮されても元気に生育している胸高直径 50 セ
稚樹が 30∼40 センチまで育ったものの、枯れた
ものが目立ちました。沢のすぐ横というのも気に
なりますが、理由は分かりません。勿論、シカの
せいなどではありません。他でこのような立ち枯
ンチ位の大木すらありました。
環境省は、学者が唱える自然再生への影響が少
ない生息密度を 3∼5 頭/平方キロメートルとし
ていますが、西大台を 7 区画に分けて調査したと
れは目にしませんでした。トウヒの南限は徐々に
北上しているといいます。環境に適応できなけれ
ば生きていけないのは自然なことですが、全ての
生き物が環境に適応すべく力をつけながら今日あ
ころ 0.4 頭から 5.4 頭で平均 2.8 頭だったと今年
3 月の報告書に書いてあります。理想的な状態な
のです。今回歩いていて一頭のシカにも遭いませ
んでした。警戒の鳴き声も聞きませんでした。
ります。また種子の中には地中深く気の遠くなる
ような永い眠りにつき、大いなる自然に身を任せ
次に発芽する時をじっと待つものもあるそうです。
自然に逆らって生きている生き物は人間だけです。
デモンステレーションのためにどの防鹿柵も登
山道に沿って設置されていますので、嫌でも目に
付きます。環境省がいう所の「後継樹が健全に生
育できる森林の再生に向けた防鹿柵」です。シカ
原生的な自然が残る西大台をありのまま残すた
めに、一日も早く利用調整地区に指定すべきです。
それが、大台ケ原を食いつぶして来た人間のせめ
にかじられた木や枯れたササが不健康とはどうい
う意味でしょうか。あらためて防鹿柵の設置理由
に疑問を抱かずにはいられません。理想的な密度
で生育する鹿をなぜ防がなければならないのでし
てもの償いでしょう。
河内 由美子
ょうか。
しかも、大台ヶ原を代表する七つ池跡が、昨年、
広大な防鹿柵で囲われて近寄れないのには驚き呆
れました。以前はここが昼食場所だったのですが
腰をおろすところもありません。道標には大きく
―117―
西大台の利用調整地区指定を名目的なものにしてはならない!
―――「西大台地区利用適正化計画(素案)」批判―――
環境省の近畿地方環境事務所は、既設の大台ケ
原自然再生推進計画評価委員会のメンバーや地元
関係団体のほか、1月下旬に公募した構成員で
を企画し易い人数の配慮が伺われる。結局これは
現状と差して変わりのない量規制案である。年度
毎に見直すというおまけまで付いて観光行政から
「吉野熊野国立公園西大台地区利用適正化計画検
討協議会」を設置し、2月に第1回、3月26日
に第2回の会議を開催した。そこで「西大台地区
利用適正化計画(素案)」(以降素案と表記)が
の要望があれば何時でも答えて増やせる道まで用
意している案なのである。
筆者は言いたい。現状の3割以上減になるよう
な思い切った総量削減目標を掲げ、見直しは5年
とか10年にするべきだ。
提示され具体的な検討が始まった。この素案を見
ると、素案とはいえ形ばかりのつくろい案であり、
◆入山者指導強化(質の向上)も甘い
原生的な自然を将来にわたり持続的に守りながら
質の高い自然体験の場は、何も手を加えないで
活用していく計画案とは程遠く、腰の座った計画
自然のまま放置し、人が極力自然を痛めないよう
案に煮詰めなければ西大台を又もや環境省や奈良
県によって、弄ばれるだけに終わる危惧を感じる。 に入山することであり、入山者に相応の指導が必
要なことは明らかである。素案ではレクチャーな
りガイドによる入山者の指導を図るとしているが、
◆入山規制の仕方(量の規制)が甘い
衰退が進行しているとはいえ、西大台には東大
台に比べ質の高い自然が現存している。その自然
を昭和30年台に戻そうとする自然再生推進計画
の一環として西大台を質の高い自然体験の場とし
その中身は極めて実効性の無い消極的な計画にな
っている。
ビジターセンター若しくは交通機関の拠点等で
レクチャーをし、入山の為の認定書は事前に郵送
て保全を目指すものであり、現状の利用状況をベ
ースに人間が自然に与える負荷を相当量軽減して
こそ効果がある。利用調整地区指定はこれまでの
人間中心の管理から自然中心の管理に切り替える
である。マナーの悪さが目に付く現状、入山者の
内どれだけの人が認定書を手にした後にレクチャ
ーを受けに行くだろうか。管理のし易さに主眼を
置いた形式的な指導体制に過ぎない。
ことであり、利用者や営利団体の希望に沿った意
向を反映した軽減をすることではない。思い切っ
た軽減値を取り入れることである。
しかるに、素案では一日当たりの入山者数を5
指定後、取り入れるガイド制度は更に酷い。ガ
イドがやらなければならない仕事は、入山者に自
然破壊をさせない・守らせる、自然体験の手助け
をする、安全確保と万一の事故に対して救急処置
0人(17年度、22%が希望日に入山難)か10
0人(同、4%)に押さえ、一団体15人までとし
て、この数値は年度毎に見直すとしている。
西大台に入る人達が希望日に入れなければ諦める
をする等、ボランティアガイドでは容易に出来な
いことである。プロガイドの仕事である。このよ
うな体制を敷くためには順序だてて構築の為の実
現計画が必要である。これを作らなければ実現す
という人がどれだけいるだろうか?パーティーを
組んで山に入った場合、リーダーが全員を視野に
いれ掌握していくには15人は多すぎる。将来ガ
イドによる案内体制に移行したときも同様の難儀
るのはおぼつかない。それは今作っても実行に移
せるのは何年か先になるのだから、当初からその
計画を建て動かさなければ絵に描いた餅に終わる。
全く腰が引けている。
が生まれてくる。せいぜい10人までである。こ
の15人にはツアー会社が利益優先でツアー登山
早急に実施に移せるガイド制度のための準備計
画を作り、準備に邁進すべきだ。
―118―
◆モニタリングは言葉だけ掲げても始まらない
そもそも利用調整地区は、規制値を仮決めして
程度の登山技術を持っている人達が人の手を殆ど
加えていない自然を体験することが出来る場であ
ろう。これは技術レベルの異なる広い層の人達が
運用を開始する。自然への影響の科学的分析や目
指す自然再生は、順応的管理の名の下に事後検証
していき必要な規制値修正、再生処置の変更等は
後に行うことになる。これは自然再生推進計画の
自然に浸ることが出来る貴重な場所だといえる。
又西大台がより原生的自然に進展して行けば屋久
島に憧れる人が多いように大台に目を向ける人が
増加すると期待できる。斯様に西大台の規制を厳
基本になっている。このような手法を使うからに
は可及的速やかにモニタリングを開始しなければ
ならない。ところが、素案にはモニタリングの言
葉は載っているが、何処で何を何時どのような方
しくして真の原生的自然造りをして東大台と差別
化をしていけば、大台は一層魅力を拡大していく
ことになり、麓の村の過疎脱却にも繋がる可能性
は大きい。目先の入山者数確保に走るのではなく、
法で誰がしていくのか明確にしていない。運用開
始と共にモニタリング調査が始動しなければうや
むやになっていくのは目に見えている。効果的な
調査をしていかなければ鹿捕殺問題の身近な悪例
長期的に見て人が求めている場所に育んでいくこ
とが真の行政を司る人達の取るべき道ではないの
か。
地元の関係者もこのことを理解して思い切った
の二の舞をなるだけだ。
モニタリングは呪文を唱えても出来ない。確か
な実施計画を作るべきだ。
計画の採用に賛同すべきである。
◆言葉だけの自然再生では何も変わらない
このように見てくると利用調製地区指定に向け
た計画案の素案は、自然公園法が定めている基本
的事項について、地域の短期的利益追求を踏まえ
計画に時間をかけて詰めたものほど良い結果を生
んでいる。素案はこれから更に煮詰めていく途上
のものだと言うだろうが、案を見る限り腰が引け
ている様子が伺われ、これでは単に時間を掛けて
て形だけのつくろい案で仕上げてあるとしか言い
難い。これでは指定しても何年か後も大した変化
は無いであろうし見直しで緩和していけば悪化も
進み、管理の為の税金は無駄遣いになり、利用者
いったとしてもずさんな計画から脱することは無
いように感じる。考えを入れ替え目先に捕らわれ
ない真の自然再生を図るための計画を熟考して煮
詰めてもらいたい。そして指定は実効が期待でき
からは面倒な認定手続きの不満がでるのが落ちで
ある。大台の魅力は上がらない。
数年後に目に見えるほどの変化が見えてこそ、
その指定に価値があり意義がある。
る名目的でないものになることを願う。
2006年4月11日 鈴木遵司
◆腰を据えて計画煮詰めを!
企業の事業展開では実行に時間をかける以上に
◆西大台の利用調整は過疎脱却に繋がる可能性が
ある
大台ケ原は、東大台では登山技術を持たない人
達が幾らかの人工物共存の自然を、西大台はある
―119―
『環境省がまず方針を出してから村と調整すればよい。
維持管理予算の確保が前提。』
――
西大台への利用調整地区の指定に関する懇談会
2006 年 4 月 26 日に上北山村河合の振興セン
ターで表題の 3 回目の懇談会が開催された。
04 年 2 月 8 日に同じ場所で、時の亀澤玲治自
然保護事務所所長が、次回はマイカー規制協議会
をこの場所で開催したいと言う意味の挨拶をした
第 2 回懇談会に続いて 2 年振りに開催された。
第 2 回懇談会のあと、環境省は大台ヶ原自然
再生推進計画策定に邁進し、05 年 1 月に策定し
た。その後マイカー規制協議会の立ち上げに努力
したが奈良県の反対で頓挫している一方、再生計
画の重要な施策である西大台利用調整地区創設に
努力してきた。その 2 年間の情報が全く村に伝
えられなかったために不信感が募っていたが、環
境省近畿地方事務所の努力と村議会の熱意でこの
懇談会が開催された意義は大きい。村民は本音で
語った。
長嶋俊介利用対策部会長の『利用調整地区の指
定に向けて』と題する講義のあと、2 年間アメリ
カの国立公園で研修をしてきた霞ヶ関の自然環境
計画課 鈴木 渉調査専門官が『米国における利
用規制と料金徴収の事例』についてスライド 60
枚によって貴重な最新情報の説明があったが、持
ち時間がわずか 10 分であったために駆け足にな
ったのが実に残念であった。近畿地方事務所が出
席者の意見聴取にこだわったための時間短縮であ
ろうが、村民に対する啓蒙も懇談会の重要な目的
だけに、機会をみて再度プレゼンを望みたい。
――
たいことから発言していただいたが、期せずして
「具体的な課題は専門家がいる環境省が主体的に
自信を持って決めて村に提示してもらいたい。そ
の方針を村と調整すればよい。維持管理予算の確
保が前提である。
」というところに集約された。
筆者も全く同感であった。筆者の立場で言えば
身も蓋もないが、例えば「利用人数の上限の設
定」について利用対策部会で論議したときも、
20 人、50 人、100 人、150 人の各論が出たが、
誰も自説を引かないために結論は出なかった。ま
して、懇談会の出席者の立場、知識は千差満別で
議論をして集約できるはずがなく、小田原評定に
終わらざるをえない。
利用調整地区創設の目的、理想が正確に理解さ
れているとはとても言えない。例えば、協議会構
成員に応募してきた二つのNPO(有料で参加者
を募集して山行を実施している)が協議会で、
「西大台に道標をたててくれ、歩道を直してく
れ」と利用調整地区創設の目的に反する要求を平
然としてくる始末である。筆者はそれが間違った
考えであることをたしなめたが、次回の会議で、
再び同じ要求をする体たらくであった。NPOは
西大台に客を連れてくることを考えているのであ
ろうが、環境省がそのような馬鹿な要求を聞くは
ずがない。他のNPOも簡単な講義でガイド資格
を与えよ、と非常識な要求をくりかえしている。
NPOのいかがわしさについてはすでに何度も書
いたが、曽野綾子氏がいう「不気味な素人集団」
によって利用調整地区創設の理想を汚させてはな
らない。我が国初の大事業は国自身の責任におい
て為し遂げるべきである。
懇談会後半は第 2 回懇談会同様に、出席者が 4
グループにわかれてディスカッションが行なわれ
た。環境省が求めた課題は、○利用人数の上限の
設定 ○利用方法に関する規定 事前レクチャー
ガイドの同行 ○管理運営体制 であった。
積年の環境省、自然保護団体に対する不信感は
筆者が司会を担当したテーブルには村会議員 4
払拭されていないが、お互いに本音で語り合えた
名、村漁協組合長、森林組合などが集まったので、 ことは従来 2 回の懇談会をしのぐものがあり、
村民がいないテーブルが出来たようだ。時間がな
今後にとって有意義であった。
いので、議論は総論、各論の順序をつけずに言い
―120―
環境省は協議会メンバーによる現地調査会を 6
スムーズな運営までに 10 年はかかるであろう。
月初旬に開いたうえで、18 日に第 3 回協議会を
2006 年 5 月 9 日
田村 義彦
開催し、そこで原案が決定されるのであろう。環
境省に残された時間は多くないが、いかに前例が
ない政策にしても右顧左眄することなく毅然とし
て原案を作り上げてもらいたい。当然最初から完
璧は望めない。実施するなかで直していけばよい。
【新刊紹介】
枯れはじめたブナ・・・世界遺産指定後の白神山地の激変
――奥村清明著『白神山地ものがたり』を読んで――
白神山地のブナ原生林を守る会事務局長で日本
その人間の知性を磨く場がブナの森である」と著
者はいいます。
山岳会会員の畏友奥村清明氏から表題の著書の贈
「第ニ章」では「青秋林道計画の浮上」の経過
呈を受け、拝読して驚きました。世界遺産指定後、
を、「第三章」で「ブナ林を守るために、人々は
激増した入山者によって、白神山地のブナの巨木
立ち上がった」経緯を書いています。青秋林道反
の、根元の土が固められてしまい、水を吸い込め
なくなって次々に枯れてきているそうです。土壌
硬度が通常の 2.7 倍にもなり、地元の人々が、硬
い土壌に穴を開けて、ブナが水を吸いやすくなる
ように工夫しているが、ついに樹齢 400 年のブナ
も枯れはじめたということです。身体がふるえる
くらい衝撃をうけました。奥駈道が世界遺産に登
録されただけに他人事ではありません。
対運動に著者は心血を注ぎましたので、その文章
は心を打たれますが、この拙文ではテーマ・世界
遺産に絞るために紙面の都合で紹介しない非礼を
お許しください。
そして「第四章」が「世界自然遺産に指定され
てから」です。重要な記述があります。
白神山地は 1993 年に世界自然遺産に指定され、
さて、本書は「第一章 白神山地とブナの森」
には、ブナ林の豊かさと多様さが述べられていま
す。
ブナ林は縄文人たちの住処であって、現代人が受
1995 年に日本政府がユネスコに白神山地の管理
計画を提出しましたが、それは「金を使わず、人
も増やさず、現行の法体系をそのままにして管理
するというものでした。」と著者が書いているの
け継ぐべき縄文人の心を説き、ブナ林の恵みに生
かされてきた現代人の癒しの聖地がブナの森であ
ると書かれています。「自然界ではあらゆるもの
が、どれ一つ同じものはなく、それぞれ違った顔
に驚きます。
世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と
参詣道」の管理計画を来年提出するために、いま、
和歌山・三重・奈良の三県で作成中ですが、保全
をしています。それでいて、秩序よく共存してい
ます。」そして、先人が後世に残してくれた最大
の遺産は知性ではないか、と問いかけます。「知
性は透徹した論理性に貫かれ、皆のために良いと
のために登録されたはずが、金儲けに利用される
だけで本来の目的に反する結果を生むことに日本
政府、自治体が留意せず、またユネスコもそのよ
うな管理計画を受け取ってそれで終りとは、世界
思うことを考え抜き、実践していく力であって、
遺産登録の目的を疑いたくなります。昨年来この
―121―
HPでも、世界遺産登録を好機と受けとめた奈良
県の過剰施設整備計画を何度も批判してきました
が、この白神山地の経験を知れば、管理計画に注
して、首尾一貫、入山規制を強く主張してきまし
た。
意を払わなければなりません。
著者は【地元の人々こそ、白神山地を守れる】
と書いていますが、要約の紹介では著者の意を伝
秋田県総合食品研究所と秋田県在住の世界的酵
母学者の小玉健吉氏が、白神山地のブナ原生林の
腐葉土からパン酵母を発見して「白神こだま酵
母」と命名され、【遺伝子資源としてのブナ原生
えきれないので、少し永くなりますが、全文引用
します。 『前述した観光客の激増による山の汚
染は、当然予想されたことでした。山が汚染され
て被害を受けるのは山の動植物であり、これまで
林】を守らなければならないと訴えています。
この酵母は発酵力が強くて零下 80 度に耐える
スーパー酵母で、すでに秋田県の学校給食などに
使われていて、将来、パンの歴史を変えるものと
山に生かされてきた地元の人々です。来るものは
拒まず、金を落としてくれるのであれば、山の荒
廃には目をつぶるなどという考え方が地元にあれ
ば、現在の日本では、金儲け主義の激浪に席捲さ
期待されているそうです。
これにひきかえ、大台ヶ原の原生的自然のなか
の腐葉土を、深さ 30cm以上掘り捨ててトウヒ
の種子をまく馬鹿の一つ覚えを、20 年経っても
れ、白神山地の貴重な自然など、アッという間に
裸にされてしまうでしょう。
地元の人々の総意で、観光客受け入れのきちんと
したルールを作ることが、なによりも重要です。
また継続しようとする役人と取り巻き達には怒り
以外の言うべき言葉がありません。
そのルールに従えない人は来ないでくださいとい
うべきでしょう。過疎化の流れにも冷静さを失わ
ず、観光客にすり寄るような卑屈さは、結局、自
らを苦しめるだけになるのではないでしょうか。
などの著書があり白神山地に精通する著者は、
「第五章白神山地を訪れたい人のために」次のよ
うに呼びかけています。
(1)「来山される前に、まず、白神山地について
世界遺産に指定された条件であるブナ原生林の
厳重な保護・保全のためには、場所によっては入
山の禁止措置なども、当然検討すべきものです。
国有林には、国民は誰でも自由に入山できる権利
書かれた刊行物などにぜひ目を通して、おおよそ
の理解をして来ていただきたいということで
す。」「山地の中にも車が走れる林道がたくさん
ありますが、未舗装道路が大部分です。車でスイ
がある、などと主張する人もいます。国有の施設
に国民はいつでも自由に出入りはできません。国
道の真ん中をだれでも自由に歩くことはできませ
ん。利用するためには、どこにでもルールがあり
スイ走りながらブナの森を見たいなどという方は、
来ないでください。」
(2)白神山地を知るには、ブナ林の理解が不可欠
です。」「初めての方は、ガイドなどの解説者と
ます。国有林でも同じだと思います。自由に誰で
も入山させて山の汚染が加速し、その結果、世界
遺産としての資格がなくなってしまうということ
も考えられます。やはり、しっかりしたルールを
同行してくださることを勧めます。」「藤里町の
岳たいというブナ林はブナの水を守るために木道
を歩いてください。」
(3)「ブナの森のなかを、短時間ではなく、少な
作って、それを守れない人には、入山させないよ
うにするべきではないでしょうか。(略)』 大
台・大峰にもそのまま当てはまる重要な教示です。
著者は青秋林道反対運動当初から多くの批判に抗
くともニ、三時間は実際歩いていただきたい。」
(4)「一度は、高い山の頂上に立って、ブナ原生
林のはるかな広がりを目にしていただきたい。」
(5)「多少無理なお勧めになりますが、四季のブ
『秋田の山登り 50』『秋田のハイキング 50』
ナ林に足を運んでいただきたい。」
―122―
(6)「ブナの森にあなたのやさしさが欲しいので
す。」「訪れる人の、ブナの森へのやさし
さが、白神山地の変わらぬ豊かさと、美しさを、
奥村清明著 『白神山地ものがたり』
2005 年 3 月 31 日 定価 945 円
無名舎出版発行
子供たちに残すことになるのです。」
秋田市広面字川崎 112−1
電話(018)832−5680
【新刊紹介】
岡田 満写真集 『一本だたらの森』
2005 年度 第 2 回 田淵行男賞写真作品公募 岳人賞受賞作品
7 月に本会HPのイベントページで紹介した岡
田 満氏の写真集が出版されました。すべてモノ
優先しない。その辺のところが、実にうまく折り
合っている。
クロの作品に驚きました。「人間の深いところに
在る感性に訴えるために」著者の全作品はモノク
ロだそうです。三木慶介氏のモノクロ作品集『登
(のぼる)』が好きな私は嬉しくなりました。
《 著者後書きから抜粋 》
・現存する原生林の生態系は、永い時間をかけ
てつくりあげられてきた必然性に裏付けられた生
大台ヶ原の“美しい写真集”は本屋の書架にあ
ふれていますが、大台ヶ原を考えるとき、本書抜
きには語れません。写真の迫力は勿論ですが、後
書きの文章も素晴らしいので、紹介文を止めて、
命の法則そのものです。私達には次世代のために
この貴重な森を守る責務があります。今、原生林
を守る運動は河川・海域・大気・国土の全てにわ
たる環境保全の要となっています。またこうした
著者の原文を抜粋します。画文集などにも見られ
るように、自然を鋭く見つめる芸術家の哲学と思
想は深いです。「自然再生」とやらを“科学者”
だけに任せるのは間違っています。(HIKO)
原生林の生命の哲理は、私達の今日の生き様を点
検し、生命の法則に照らして人間や社会の有り様
を考えるためにも重要なのです。ですからなんと
してもこの原生林の生態系を後世に残さなければ
《 選評から抜粋 》
一つの森を完全に知り尽くして見えてきた世
界を写真にしている。森の多様さをしっかり撮っ
なりません。
大台ヶ原の森との長い間のつきあいの中で、私
を魅了し続ける森のこの魅力は、必然性が生み出
す生命の連鎖に裏付けされた森の輝きにあるのだ
ている。非常に風格のある写真。大台ヶ原という
ところが、心底好きで、何回も登り、良く見てい
る。大台ヶ原を自分の体の中に染み込ませ、それ
を敬意をもって撮っている。大台ヶ原が痛んでい
くとき、それに対する怒りみたいなもの、爆発す
だと私は思います。この法則的生命の展開が森の
輝く一瞬一瞬を私にかいま見せてくれるのです。
るんじゃなく、じわーっと出てくるから、非常に
風格がある。意図するものと構図がぎりぎりのと
ころに入っている。自分が大台ヶ原をこう見てい
るんだっていうところから撮っていると、構図が
台の森のもつ魔性を未来につなげたいと思うので
す。そのためには、人間は自然の一部でしかなく、
その自然のふところはとてつもなく深いというこ
とを自覚しなくてはならないと思います。
―123―
・私には一本だたらの森が急速に傷み、その神秘
性を剥奪されていくことがたまりません。私は大
・森ではいろんな生き物との競合や共生、変化す
る環境への創造的適応、そして新しい世界への進
出のための自己変革といったことが、何千年もの
『一本だたらの森』 2005 年 7 月 1 日発行
25.7cm X 33.3cm 定価:本体 2857 円+税
発行所 うめだ印刷株式会社
間繰り返されてきた中で、今の生命が連綿として
受け継がれてきました。与えられた環境の中で、
ただただ生きるということに真摯であったという
ことが、生命の輝きを支え続けたのではないだろ
〒546-0022 大阪市東住吉区住道矢田 6-9-2
Tel:06-6797-1345 Fax:06-6797-5598
発売 株式会社 日本機関紙出版センター
〒553-0006 大阪市福島区吉野 3-2-35
うかと思うのです。生命の輝く美しさを理解し、
それを表現することができるのは、それを見つめ
て美しいと思う自分の感性が、生命の法則性と一
体となる時だと思います。
Tel:06-6465-1201 Fax:06-6465-1205
・自然界の生命の連続性の元では人間の寿命など
ほんの瞬くほどの短い瞬間でしかありません。
生命の本質は個を越えたその連続性にあるのだと
思います。進化はその連綿と続く生命の痕跡なの
だと思います。しかし、人間は自然の必然性に従
うだけでなく、夢や願いをそれに重ね合わせて進
化してきました。人間は自然淘汰の中えて包み込
み、共に生きていく道を選んだのです。種を受け
継ぎ、環境を有利に変革していくという努力と、
支え合うというやさしさの創造的思想が、どれほ
ど人間の生き物としての生命のありようを豊かな
ものにしてきたことでしょう。
編 集 後 記
会誌編集中にニュースが入ってきた。『川の蛇
行復活、釧路川の曲げ戻しには十億円の高い代
償』
(5 月 1 日 asahi.com) 直線にした釧路川を
30cm も剥がしてトウヒ発芽の実験をしているの
で心配でなりません。「釧路川の曲げ戻し」の論
を借りるとすれば、ドライブウェイが開通して大
再びもとの蛇行した川に戻すという自然再生法に
台ケ原の自然が破壊され始めたのだから、そのド
基づく工事だ。自然再生推進法案が議論された時、 ライブウェイを閉鎖することです。
第二の列島改造論で「公共事業を合理化するおそ
環境省の態度は委員会を傍聴しても弱腰とし
れあり」と各方面から反対意見が出された。今そ
か思えないところがある。マイカー規制と西大台
れが実施されようとしている。
まさか大台ケ原でトウヒ林の造林工事をやらな
いでしょうね、環境省さん。しかし、表土を
の利用調整地区の指定の実施を環境省の勇気と努
力で 1 日も早く実現してもらいたい。 (森本)
―124―
目
次
【大台ケ原】
――― 自然再生推進計画評価委員会 ―――
1.H17 年度大台ヶ原自然再生推進計画評価委員会の初会合開かれる
・・・・・・・・・・・・・1
2.あくまでもマイカー規制を最終目標にすべし(H17 年第 1 回利用対策・森林生態系合同部会)
3.西大台利用適正化計画に向けて議論進む(H17 年第 2 回利用対策・森林生態系合同部会)
・・・1
・・・・・4
――― 鹿捕殺問題 ―――.
1. 鹿 118 頭捕殺して「印象としては横這い」
(H16 年第 2 回ニホンジカ保護管理部会)
2.西大台の防鹿柵は本当に必要なのか?
・・・・・・・・6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3.
「鹿捕殺と笹刈り」で大台ヶ原の自然再生はできない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
4.本当に、西大台のブナを鹿が枯らしたのか・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
――― 森林生態系再生問題 ―――
1.残された自然の保全を優先し 何もせずに自然にゆだねるべし
2.
「大台ヶ原自然再生推進計画」に想う
・・・・・・・・・・・・・・22
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
――― 西大台利用適正化計画問題 ―――
1.利用適正化計画検討協議会(仮称)参画への要望書
2.大台地区利用適正化計画に満場一致で賛成
3.総量の規制と質の高い利用の両輪が必要
・・・・・・・・・・・・・・・・・49
<第 1 回協議会>
・・・・・・・・・・・・・7
<第 2 回協議会>
・・・・・・・・・・・・・・10
4.大台ヶ原のマイカー規制と利用調整地区実現をめざして
・・・・・・・・・・・・・・・・14
5.西大台利用調整地区の区域設定についてのアピール
・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
6.西大台利用調整地区制度の導入にむけての個人的想い
7.やがて、大台ヶ原で入山規制が
・・・・・・・・・・・・・・・・114
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
8.一日も早く西大台を利用調整地区指定へ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
9.西大台の利用調整地区指定を名目的なものにしてはならない!
10.環境省がまず方針を出してから村と調整すればよい。
・・・・・・・・・・・・118
<利用調整地区の指定に関する懇談会>
・・120
――― 施設整備問題 ―――
1.
「大台ヶ原周回線歩道整備基本計画」についての「要望書」と「回答」
・・・・・・・・・・45
2.大杉谷歩道整備についての要望、並びに平成 17 年 6 月 8 日付回答について
3. 西大台利用調整地区創設について質の高い政策を求める要望書
4.H17 年度大台ヶ原施設整備現地説明会開催
・・・・・・・・47
・・・・・・・・・・・・・・・57
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
5.大台ケ原周回線歩道区間 E-2 のやり直し工事の現状と、再度のやり直し工事行われる
6. 東大台周回線歩道整備工事・区間E−2の設計・施工の再検討を求める要望書
7.
“安全信仰論”で混乱した現地検討会<筏場・前鬼>
8.通行止めの筏場道を登る
・・・・・・36
・・・・・・・59
・・・・・・・・・・・・・・・・・39
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
9.西大台登山道複線化防止のためにロープ設置を望む要望書
・・・・・・・・・・・・・・・48
【大峰山系】
――― 大峰山系環境共生推進計画(奈良県) ―――
1.「大峰山系環境共生推進計画」が環境省直轄事業になる <第 2 回懇話会>
・・・・・・・・・・・63
―125―
2.環境省「大峰山系の整備計画を公開し、合意形成を図りたい」 <第 3 回懇話会>
・・・・・・・67
――― 大峰山系地域整備基本計画(環境省) ―――
1.環境省パブリックコメントへの意見「大峰山系歩道の追加は必要ない」
2.環境省パブリックコメントへの回答について
・・・・・・・・・・69
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
3.大峰山系・洞川自然研究路整備現地説明会
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
4.弥山山頂公衆トイレ新設現地説明会
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
5.弥山山頂公衆トイレ新設についての提案(附・奥駈道の道標についての要望)
・・・・・・76
6.環境省「 平成 17 度大峯縦走線歩道公衆トイレ整備事業現地説明会について」
・・・・・・79
7.やはり間違っている登山道の木製階段
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
8.市民参画・情報公開の重大な危機!<大峰山系地域整備計画(案)に関する説明会>
・・・・・80
―― 論評・要望書・抗議文・回答・他 ――
1.エコシステムマネジメントと「大台ヶ原自然再生推進計画」
・・・・・・・・・・・・・・90
2.自然保護団体として初めて環境省の検討会に参加して
3.新しい風
4.林野庁 北海道・崕山の入山規制を無期限継続!
5.鎮魂三平峠
・・・・・・・・・・・・・・・・・94
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
6.
『労山自然保護憲章・解説書(第一次案)
』についての「外部意見」
・・・・・・・・・・・104
7.盗採か? 大台ヶ原山採り蘭がネットオークションに出現
8.通過儀礼瞥見 自律せよNPO
・・・・・・・・・・・・・・109
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112
9.真の市民参画・協働を拒否する強権姿勢への逆行に抗議する
・・・・・・・・・・・・・・49
10.回答「真の市民参画・協働を拒否する強権姿勢への逆行に抗議する」について
11.百万言を弄するより結果で示されたい <環境省からの回答について>
・・・・・・52
・・・・・・・・・54
12.
『山と高原地図 51・大台ヶ原(高見・倶留尊山)発行:2004 年』訂正の要望書と回答
・・・55
―― 投 稿 ――
1.尾瀬長蔵小屋・平野紀子さんの大台ヶ原の印象
2.大峰の未来
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
3.「入山規制は大人の教育が重要」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
――― 書 評 ―――
1.奥村清明著 『白神山地ものがたり』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121
2.岡田 満写真集 『一本だたらの森』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123
―――― 総 会 報 告 ――――
1.第 34 回 ・第 35 回 大台ヶ原・大峰の自然を守る会総会報告
編集後記
・・・・・・・・・・・・・・・・83
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124
自然保護ニュース No.58 平成 18 年 6 月 1 日発行
編集発行:森本幸治
大台ヶ原・大峰の自然を守る会 〒619-1127 京都府相楽郡加茂町南加茂台 1-14-10 森本幸治方
TEL/FAX0774-76-2844 郵便振替 00960-1-15440
http://homepage1.nifty.com/oodai oodai@mbe.nifty.com
―126―