平成25年度 研究成果発表会 平成 25 年度 研究成果発表会 MR エ ラ ス ト グ ラ フ ィ に よ る 大 腰 筋 弾 性 率 の 計 測 ○沼野 智 一 *1)、 高 本 孝 一 *2)、 川 崎 一 郎 *3)、 甲 斐 範 光 *4)、 水 原 和 行 *5) 1.はじめに 組織の硬さ(弾性)の的確な診断は、疾患状態を把握する上で重要な情報になりうる。 現在、その診断方法は、乳がんなどに代表されるように医師による触診が一般的である。 し か し 、触 診 は 病 変 組 織 の サ イ ズ が 小 さ い 場 合 や 体 内 深 部 で は 見 逃 し て し ま う 場 合 も あ る 。 こ の よ う な 背 景 の も と 、 現 在 基 礎 研 究 段 階 に あ る MR エ ラ ス ト グ ラ フ ィ ( MRE) は 、 組 織 弾性の定量的な評価ができる可能性をもった画像診断法として注目を集めている。 腰痛原因の一つに、大腰筋の過緊張が指摘されている。触診は筋肉の過緊張の具合を定 性 的 に 評 価 可 能 だ が 、大 腰 筋 は 体 の 深 層 部 に あ る 筋 肉 で あ る た め 触 診 が 難 し い( 図 1)。そ こ で 、 現 在 基 礎 研 究 段 階 に あ る MRE に よ っ て 大 腰 筋 の 硬 さ 大 腰 筋 背 を定量評価できる可能性がある。 こ の よ う な 背 景 の も と 、 我 々 は MRI メ ー カ ー の 技 術 に 頼 ら な い 、 独 自 技 術 で の MRE 実 施 を 実 現 し た 。 さ ら に 、 フ ァ ン ト ム 実 験 に よ る 性 能・特 性 評 価 か ら 、本 手 法 で も 十 分 に MRE 結腸ガス が実施可能であることを証明してきた。本報告では、本手法 腹 の技術的側面を述べると共に、健常人の大腰筋を対象にした 図 1. 腰 部 MRI preliminary study の 結 果 と 今 後 の 発 展 性 に つ い て 報 告 す る 。 2.実験方法 MRE は 撮 影 対 象 へ の 強 制 的 な 加 振 が 必 要 で あ り 、 そ の 加 振 は MRI 装 置 と 正 確 に 同 期 し て い る 必 要 が あ る 。MRI は 極 め て 強 力 な 磁 場 を 発 生 さ せ て い る の で 、MRE に は 超 高 磁 場 環 境下での強制振動技術が不可欠である。そこで我々は、スピーカが発生する音圧をビニル チ ュ ー ブ 等 で MRI 装 置 内 に 搬 送 し 、撮 影 対 象 物 に 設 置 し た パ ッ ド を 振 動 さ せ る こ と で 、超 高 磁 場 環 境 下 で の 強 制 振 動 を 実 現 し て い る 。ま た 、ス ピ ー カ が 発 生 さ せ る 音 圧 は MRI 装 置 と 同 期 し た 正 弦 波 発 生 機 に よ っ て 制 御 さ れ る の で 、撮 影 対 象 物 の 強 制 振 動 が MRI 装 置 に 同 期 す る 。 こ う し て 得 ら れ た 画 像 デ ー タ は 画 像 処 理 ( Local Frequency Estimate: LFE) を 行 う こ と で 、 局 所 的 な 弾 性 率 ( 硬 さ ) の 違 い を 反 映 さ せ た 画 像 ( Elastogram) を 生 成 す る 。 大 腰 筋 を 効 率 良 く 振 動 さ せ る た め に 、2 個 の 振 動 パ ッ ド を 腹 ば い で 寝 か せ た 被 検 者 の 腰 に 腰椎(背骨)を挟んで対象に並ぶように設置させた。 3.結果・考察 本 手 法 に よ っ て 得 ら れ た 腰 部 Elastogram を 図 2 に 示 す 。本 手 法 は 大 腰 筋 の 硬 さ を 定 量 的 に評価できる可能性を持った技術であることを実証できた。しかし、結腸内のガス(図 1 の 黒 い 部 分 )が Elastogram 算 出 に 影 響 を 与 え る こ と が 分 か っ た 。MRI( MRE も 含 め て )は 磁化率が大きく変化する部分に磁化率アーチファクトを生じることが良く知られている。 腸管内のガスは内臓組織と磁化率が大きく異なるため磁化率アーチファクトを生じやすく、 上向・下向結腸は大腰筋に接近しているため、大腰筋に 磁化率アーチファクトを生じる可能性がある。さらに、 MRE 撮 影 は そ の 特 性 上 、こ の 磁 化 率 ア ー チ フ ァ ク ト に 敏 感 に 反 応 す る 。そ の 結 果 Elastogram の 算 出 に 誤 差 を 生 じ 、 正しい弾性率を表示しない可能性がある。今後は、結腸 ガ ス に よ る 磁 化 率 ア ー チ フ ァ ク ト が Elastogram に 与 え る [kPa] 影響を分析し、正確な弾性率表示するために必要な技術 図 2. 腰 部 MRE の開発を行う。 *1)首 都 大 学 東 京 、 *2)富 山 大 学 、 *3)帝 京 平 成 大 学 、 *4)帝 京 短 期 大 学 、 *5)東 京 電 機 大 学 | 69 |
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