磁気粘弾性エラストマと 可変剛性型振動制御への応用 金沢大学 理工研究域 機械工学系 准教授 小松崎 俊彦 受動・準能動型制振手法の概要 • パッシブ型 • 固有振動数を低く設計 ⇒ 低振動数の外乱には不適 • 減衰の付与 ⇒ 高振動数領域での絶縁性悪化 • セミアクティブ型 • 本来不変のパラメータ(粘性・剛性)を可変に • 受動型の信頼性確保 + 能動型に近い性能実現 • 磁気粘性(MR)流体はその典型例 剛性可変の場合 粘性可変の場合 剛性Low 剛性Low 剛性High 剛性High Amplitude Amplitude ratioratio Amplitude ratio Amplitude ratio 減衰Low 減衰Low 減衰High 減衰High 0 Frequency [Hz] Frequency [Hz] Frequency [Hz] Frequency [Hz] 機能性流体(MR流体)について • 分散媒(シリコーン油等)中に磁性粒子( < 10μm)を分散 • 外部磁場で分散粒子がクラスタを形成,抵抗増(MR効果) ⇒見かけの粘性変化 • 工学的応用例多数(ダンパー,クラッチ,ブレーキ,バルブなど) 磁界中の状態 磁界がない状態 Force 分散媒 磁場印加 磁性粒子 Flow 抵抗が増す(MR効果) 従来技術とその問題点 • 機能性材料を制振へ適用する利点 – 機構的に粘性・剛性の可変性を実現する手段と比 較して構造が簡易,低コスト,応答性良好,など. • MR流体の利点・問題点 – 弱磁場でも大幅な特性変化が得られる – 適用が比較的簡単で応用事例多数 – 流体のためシール性が問題 – 分散粒子が時間とともに沈殿,性能劣化 磁気粘弾性エラストマ(MRE)概要 エラストマ中に磁性粒子を分散固定 • 外部磁場で弾性的性質を可変(最大約5倍) • 形状保持 ⇒ 成形も任意 • 沈降の問題を回避 • 粒子の易動性は低下 ⇒ MR流体ほど変化しない • 基質エラストマは比較的柔らかいものを選択 • 弾性が支配的 ⇒ 粘弾性特性に着目した評価・利用 新技術の特徴・従来技術との比較 • MR流体は粘性変化を利用するが,本エラストマ は主として剛性変化に着目 – 動的問題の場合,可変剛性型のセミアクティブ制御 • 固体のため,粒子の沈殿,機能性材料としての 性能劣化を回避.シール性も問題にならない • 任意形状の成形・保持が可能なので,そのま ま要素として組み込み可能 – 典型例は防振マウント(MR流体では液封が必要) せん断方向復元力特性 • 磁場に対するせん断方向復元力の変化特性を評価 • 静的評価 ⇒ 水平方向負荷に対する変形量を計測 • 動的評価 ⇒ 基礎励振時の加速度伝達関数から算出 DC Power Supply FFT Analyzer Laser Displacement Sensor Electromagnet MRE Weight MRE せん断方向復元力特性(静的評価) Shear modulus [Mpa] Shear modulus [Mpa] • せん断弾性係数で評価 • 鉄粉含有率(体積割合)10~60% • 試料厚さ20mm(断面寸法25×25mm)の例 Current [A] Iron volume content (%) せん断方向復元力特性(動的評価) Normalized spring constant Normalized spring constant • ランダム加振時の加速度伝達関数より無次元 ばね定数を算出 • 試料厚さ20mmの例 Frequency [Hz] Frequency [Hz] 想定される用途 • 防振・制振等への応用 – 防振支持要素(ブッシュ,マウント等) – 動吸振器への適用(外乱同調型) – ショックアブソーバ(衝撃吸収) m2 MRE c2 MRE – パネル材の支持剛性を可変 ⇒ 非共振型の防音・防振 • その他,触覚インタフェース開発 (レバー,ボタン等)に応用可能. f(t) m1 Primary structure k1 m • 防音への応用 k2 c g k f(t) MRE MRE MRE MRE 可変剛性セミアクティブ振動制御への適用 減衰係数 質量 ばね定数 (k2,low) ばね定数 (k1,high) 基礎振幅 m k c y 可変剛性制御則 x u 1 Ns/m 1.138 kg 974.5 N/m 1948.9N/m 1 mm k1 ( high ) K k 2 ( low ) if if xx 0 xx <0 • 基礎励振を受ける1自由度振動系の絶対変位を抑制 • 磁場on ↔ offに対応した剛性(高 ↔ 低)に切り替え • 剛性変化は2倍に設定 シミュレーション例(~50Hzランダム加振応答) 15 (1)剛性Low 0 .0 0 5 0 .0 0 0 - 0 .0 0 5 0 .0 2 .5 5 .0 7 .5 1 0 .0 Time T im e [[s] s] (2)剛性High 0 .0 0 5 10 (2) 5 (3) 剛 性 H ig h 0 0 0 .0 0 0 5 10 Frequency [Hz] Frequency [Hz] - 0 .0 0 5 2 .5 5 .0 T im e [[s] s] Time 7 .5 1 0 .0 (3)可変剛性 (3 ) Deformation [m] 15 20 0 .0 Deformation [m] Low High on/off control (1) 0 .0 0 5 o n - o ff制 御 0 .0 0 0 - 0 .0 0 5 Transmissibility Deformation [m] Deformation [m] (2 ) Amplitude ratio Amplitude ratio Deformation [mm] Deformation [mm] (1 ) 剛 性 L o w 0A 1.0A 2.0A on/off control 15 10 5 0 0 .0 2 .5 5 .0 T im e [s] [s ] Time 7 .5 1 0 .0 0 5 10 Frequency [Hz] 15 20 動吸振器の概要 • • • • 受動型制振装置 定常外乱が作用する主系構造物の制振 外乱振動数にその固有振動数を合わせて設計 最適同調・減衰条件 ⇒周波数に依らず制振効果を維持 利点 動吸振器 • 構造が簡易,安価 • 信頼性が高い 欠点 • 特性固定のため設計範囲外では制振効果が低い • 非定常外乱には対応できない • 最適設計では最大制振効果が犠牲に m2 c k2 m1 k1 MREによる可変剛性型動吸振器 動吸振器 可変剛性型動吸振器 m2 m2 k2 c2 ・特定振動数の外乱に有効 ・最適設計でも制振効果不十分 k2 c2 ・固有振動数が可変 ・制振効果の向上,適応性付与 磁気粘弾性エラストマ • MRエラストマを適用した可変剛性型動吸振器の提案 • 基本性能の評価 • 計算モデルによる制振効果の数値的予測 可変剛性型動吸振器の試作 外枠 ・ 幅70×高さ60×奥行20[mm] 質量…150[g] 70mm MRE m 可動質量(コイル) 振動方向…紙面に対し直角 巻数…450[turns] 直径50×厚さ24[mm] 質量…350[g] MRE 60mm 固有振動数の変化域 15Hz(無磁場)~29Hz(4A時) 2倍弱の変化 Natural frequency [Hz] 動吸振器特性試験結果 減衰比は0.15前後 Damping ratio Applied current [A] Applied current [A] 可変剛性切り替え則 動吸振器の固有振動数を外力の振動数に同調させる 外力振動数が 可変振動数領域の 外 内 k → low 可変振動数領域より 小 k → low k → variable k → high k→variable 大 k → high 可変振動数領域 数値モデルによる制振性能予測 m2 c2 k2 Fcosωt m1 c1 • 質量比: μ=0.3 • 減衰比: ζ=0.15 • 可変振動数域:0.60~1.15 k1 Variable frequency range 反共振点付近を追従 Variable range 磁気粘弾性エラストマ:まとめ • 剛性変化特性 • 無磁場時と比較して最大で4~5倍程度.損失係数変化は小 • 動特性の周波数依存性は小 • 可変剛性ミアクティブ振動制御 • 特性固定時よりも振動伝達率を抑制 • セミアクティブ防振マウントとしての応用が可能 • 可変剛性型動吸振器への適用 • 固有振動数の変化幅は最大約2倍 • 外乱に同調して動吸振器の固有振動数を変化させ,在来型 よりも優れた制振性能を得ることが可能 実用化に向けた課題 • 実用化に向けて,特性変化幅の改善および再 現性,耐久性の確保が重要. • 現在,さらなる剛性変化幅を確保するための材 料作製方法を検討中. • 最適な材料選定,組成についても検討が必要. • より適切な材料特性の評価方法を検討中. • 材料特性の経年変化,耐久性(物理的・化学 的)の評価は未実施. 企業への期待 • 材料自身の可変性の大幅な向上のためには, 素材レベル,ミクロな視点から材料構成を検討 できる技術を有する企業の協力が必須と考え ている. • また応用面においては,各種構造物や機器類 の制振・防振・免震技術に限らず,機器インタ フェース等に新たな機能性付与をお考えの企 業には,ぜひ本技術に着目していただきたい. 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :磁性粒子複合粘弾性体及 びそれを用いた可変剛性型動吸振器 • 出願番号 :特願2012‐045308号 • 出願人 :国立大学法人 金沢大学 • 発明者 :小松崎俊彦,岩田佳雄 お問い合わせ先 (有)金沢大学ティ・エル・オー シニア・ライセンシング・アソシエイト 中村 尚人 TEL 076-264-6090 FAX 076-234-4018 e-mail e-mail-to@kutlo.incu.kanazawa-u.ac.jp
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