腹腔鏡下子宮筋腫核出術数日後に臀部皮膚障害が出現した1例(児島

腹腔鏡下子宮筋腫核出術数日後に
殿部皮膚障害が出現した1例
鹿児島医療センター
児島信子、内田那津子、簗詰友美、飯尾一登
独立行政法人国立病院機構 鹿児島医療センター
緒言
• 術後患者に生じる殿部皮膚障害については以前よ
り報告が散見される。原因については褥瘡、電気メ
ス熱傷、消毒薬などの接触性皮膚炎など諸説ある。
• 今回、腹腔鏡下子宮筋腫核出術後に仙骨部周囲に
皮膚障害を生じた症例を経験したので若干の考察
を行い報告する。
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症例
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34歳、未婚未妊
身長165cm、体重50kg、BMI:18.4
合併症なし
術前検査
TP7.69g/dl、Hb12.8g/dl、ほか特に異常なし
• 腹腔鏡下子宮筋腫核出術
手術時間:1時間30分、摘出筋腫 1個 180g
セボフルレンによる全身麻酔
1%カルボカインによる術後硬膜外麻酔による
疼痛管理
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術中所見1
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術中所見2
病理:Leiomyoma, no malignancy
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術後経過
• 術後1日 通常通り硬膜外麻酔を終了し、歩行開始。
• 術後2日 尾骨・仙骨部から左上臀部にかけて水疱
を伴う紅斑が出現。デュオアクティブETを貼付。
• 術後5日 皮疹に悪化なく、貼付したまま退院。
• 退院後、顔面膿痂疹様皮疹で受診した皮膚科で殿
部熱傷Ⅱ度と診断され、ステロイド軟膏塗布で経過
をみることとなった。
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術後2日目
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術後4日目(退院時)
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経過
術後2週間
術後6週間
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皮膚障害を起こし得る周手術期の要因
①術中に保持される体位
②体位変換に伴う皮膚の圧迫
③電気メスや内視鏡など各種医療器具の使用
④全身麻酔や腰椎麻酔に伴う自力での体位変換能の
低下
⑤痛覚・温覚など局所知覚の閾値の上昇
⑥各種モニタ類やカテーテル類の装着
など
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周手術期皮膚障害の原因
1.術中・術後の褥瘡
2.電気メス熱傷
3.脊椎麻酔後紅斑
4.消毒薬による接触性皮膚炎・化学熱傷
5.保温材などによる低温熱傷
6.各種モニタなどによる皮膚障害
など
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周手術期褥瘡
術中発生型
術中体位に関連した部位に発生
長時間手術や特殊な体位による診療科に多い
↓
多くは術直後に発見
発赤・紅斑の浅い皮膚障害が多い
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周手術期褥瘡
術後発生型
術後の過度な体動制限と安静による外力負荷や
術後経過に関連して起こる。
↓
術後体位(仰臥位)に関連した仙骨・尾骨部や
足踵部などに発生
ときに深部に達する皮膚障害となる
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電気メス熱傷
対極板部で起こるもの
対極板の一部分に電流が集中することによって発生
するとされ、小さな対極板や対極板がはがれたときに
起こる。
↑
対極板の改良や接触不良モニタなどにより
通常使用では起こらなくなった。
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電気メス熱傷
対極板以外で起こるもの
体の一部が金属と接触している場合、そこに高周波
電流が流れること(高周波分流)によって起こる。
↑
小野ら、が行ったボランティアによる実験によると、
現在使用される電流で3cm以上の皮膚障害が起こる
可能性は低いとされる。
※術直後より皮疹が認め得る。
※筋原性酵素の上昇を伴い、MRIで大殿筋の損傷が
確認されたとする報告もある。
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脊椎麻酔後紅斑
脊椎麻酔により生じた自律神経異常による血行障害
や、体重による圧迫で浅筋膜や脂肪組織内がずれて
血管断裂が起こり、その栄養領域の皮膚に皮疹が生
ずるとされる。
圧が加わる部位と離れた部位に発生するといわれる。
腰椎麻酔・硬膜外麻酔のいずれにも生じる
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消毒薬による接触性皮膚炎・化学熱傷
イソジン(ポピドンヨード)・ヒビテン(グルコン酸クロルヘ
キシジン)など
何らかの形で感作が成立した患者に消毒剤使用部に
限局して皮疹が生じる
(遅延型過敏反応)
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術後殿部皮膚障害
近年、
褥瘡のみ、あるいは電気メス熱傷のみが
原因と考えにくい術後殿部皮膚障害が存
在することが広く認識されつつある。
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術後殿部皮膚障害の特徴
• 長野ら
①20~30歳代の若年者にも生じる
②発生するのは泌尿器科・産婦人科・消化器外科など
腹部臓器を扱う科が中心
③手術時間は最短50分の症例でも生じている
④形状は類円形ではなく、不整形の紅斑性の局面な
いし潰瘍で、周囲に毛羽立ったような線状の紅斑を
伴い、時に水疱形成に至る
⑤術直後に気づかれることはまれで、1~2日後に発
見されることが多い
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病態はいまだ不明とされるが、
病変の主座は皮下組織にあるために術直後は
表面的に変化を生じず、数日後に潰瘍あるい
はびらんといった表皮の壊死を示唆する所見が
現れると考えられる。
原因が多岐にわたる可能性、複合的な要因により生
ずる可能性がある。
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予防と対策
病態が明らかでないため、予防・対策は確立していないが、
様々な原因の可能性を考慮しなければならない
・術中・術直後の皮膚症状の観察
・術中体位・緩衝剤の使用・消毒薬など液体の
流れ込み防止策
・術中・術後早期からの褥瘡に対する予防的介
入(体圧分散寝具や体位変換の徹底など)
など
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まとめ
1.今回、褥瘡危険因子のない若年女性で、短時間の
手術であったにもかかわらず、術後殿部皮膚障害の
起こった症例を経験した。
2.術後殿部皮膚障害の病態はいまだ究明されていな
いが、複合的な因子が関与していることが考えられ
る。
3.今回腹腔鏡下手術の術後に発生したが、開腹手術
での症例も報告されている。予防と対策は、周手術
期に個々の複合因子に対する対策を行うことが大切
である。
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