インフレリスクの時間軸 - 三菱UFJ信託銀行

ストラテジストの眼
2011年4月号
「 イ ン フレリ ス クの 時 間 軸 」
投資企画部: 澤井 亮
金融危機以降、春先は毎年不透明な市場環
境というのが通り相場となっているが、今年
も例年以上に不透明な環境となっている。過
去を振り返ると(図表1)、2008 年は3月
に米大手投資銀行のベアースターンズが事
実上破綻し、米住宅金融に対する不安が大き
く高まることとなった。2009 年は3月に株
価がリーマンショック後の最安値を付けた
後、V 字回復をみせたが、米銀のストレステ
ストの結果発表を控えるなかでその持続性
が焦点となった。2010 年は 4 月に入り、そ
れまで燻っていたギリシャの債務危機問題
が一気に高まることとなった。そして、2011
年であるが、今年は3月に日本で起きた悲惨
な大震災もあり、投資家の意識は一時グロー
バルに平常時の市場環境から危機時の対応
へと一気にシフトすることとなった。実際、
今回の大震災後に起きた対応で特筆すべき
はこれまで利害の対立から実現不可能と考
えられてきた G7諸国の協調が過度な円高
阻止を目的とする介入という形で一気に実
現したことであり、如何に市場環境に大きな
影響を与えたのかが分かる。
今回の日本の大震災の影響については、国
内的にはまだまだ不透明な要素が多く、その
帰趨を見極める必要があるため、現時点で確
たる想定は立てにくい。特に、足下で最大の
懸案となっている原発事故については、一歩
間違えれば日本にとり深刻な後遺症が残り
かねないだけに、その行方については固唾を
呑んで無事を祈るしかないのが実状である。
一方、平常時の市場環境に対する判断に影響
を与える要素としては、今回の大震災ではい
ずれ大規模な復興需要が出てくるのが確実
であり、そのタイミングが大きな焦点となる。
ただ、足下では電力供給への不安が経済活動
を制約しており、電力需要が高まる夏場は最
初の正念場となることが想定される。
このように国内の投資環境が激変する一
方、海外市場での最大の関心は年初来大きな
変化がみられず、相変わらず北アフリカ・中
東で起きた反体制運動に伴う原油供給への
不安や欧州ソブリン問題といった状況であ
る。なかでも、前者は原油価格高騰を通じ新
興国のインフレ圧力を高めるとともに引き
締め加速懸念に拍車をかけかねないだけに
特に注視すべき状況にある。以下では、足下
1/3
でグローバルに不透明な投資環境の一因と
なっている原油価格に関連し、注目されるポ
イントを列挙するとともに、今後のインフレ
リスクに対する判断基準としての時間軸と
併せて考えてみたい。
原油価格を取り巻く市場環境は、現状をみ
る限り、リビアへの NATO 軍の空爆やサウ
ジアラビア周辺での反体制デモの動きなど、
不安定な状況が早期に解消されることは考
えにくい。このため、原油価格は少なくとも
当面高水準で推移することが考えられる。そ
の上で、今後の更なる原油価格高騰の可能性
や投資環境への影響を考えるポイントとし
ては、①今回の日本の大震災の影響、②価格
高騰の影響が最も懸念される時期、③悪影響
を及ぼす価格水準、の3点にあると考える。
まず、①の日本の大震災の影響については、
95 年の阪神大震災の例では、1月の震災後、
原油輸入量は復旧活動が本格化した3月に
かけ平年比で増加し、夏場以降の需要は低迷
した(図表2)。今回も短期的には原油価格
の押し上げ要因として注視する必要がある。
次に②の価格高騰が最も懸念される時期
については、グローバルにはようやく景気回
復の途についた米国への影響が焦点となる。
図表3は米国個人のエネルギー関連支出を
月別にみたものであるが、夏場の需要は最大
のウェイトを占める。このため、現在の原油
価格高騰をもたらしている要因が夏場まで
に緩和するかどうかは大きな焦点となる。
最後に③の投資環境に悪影響が及ぶ原油
価格水準であるが、過去 2008 年7月には最
高値の1バレル=147 ドル台への高騰を経験し
ているだけに、現状程度の価格水準では驚き
がないほか、企業も対応可能であろう。ただ、
悪影響が生じる基準として過去の年間平均
ピークを大幅に(2割程度を想定)上回るか、
前年平均価格を大幅に(同2割)上回るか、
という観点で価格を眺めると、2008 年の半
年(26 週)平均のピークでもある 120 ドル
程度という水準が浮かび上がる(図表4)。
以上、身近に起きた日本の大震災後の復旧
活動に目を奪われる毎日であるが、グローバ
ルな観点からは夏場に向けての原油価格や
依然沈静化しないインフレ動向に十分注意
したうえで投資環境を眺める必要があると
考えている。
(2011 年3月 25 日 記)
三菱 UFJ 信託銀行 調査情報
2011年4月号
図表1:金融危機後の日米株価
図表2:日本の月別原油輸入量(構成比)
【年平均=100】
2000
120
SP500
TOPIX
2000~2010年の平均
1995年(阪神大震災当時)
1800
115
FRBが米大手銀19行に
対するストレステスト結果を発表
2009/5/7
110
1600
S&Pがギリシャのソブリン
格付けを3ノッチ引き下げ
2010/4/27
105
1400
100
1200
2008/3/16
JPモルガンが
ベアースターンズ買収を発表
95
1000
90
800
原油輸入量(実績)
1994年 2億6700万kl
1995年 2億6390万kl
1996年 2億6150万kl
1997年 2億6830万kl
85
2011/3/11
東北地区
太平洋沖地震発生
600
80
07
08
09
10
11
【年】
1
3
4
5
6
7
8
9
10
11
図表3:米国家計の月別エネルギー関連支出状況
12
【月】
出所:INDB より三菱 UFJ 信託銀行作成
出所:Bloomberg より三菱 UFJ 信託銀行作成
図表4:原油価格高騰の目安
【ドル/バレル】
【年平均=100】
108
2
160
電気及びガス(2000~10年の平均)
ガソリン及びエネルギー製品(2000~10年の平均)
140
106
120
104
2008/7/11ピーク
147.27
WTI原油先物価格
(期近物)
要警戒水準
前年年間平均+20%
あるいは
過去年間平均ピーク+20%
の高い方
121
120
110
100
102
80
100
60
98
40
2010年の個人消費支出額
全体 10兆3506億ドル
うち電気及びガス 2242億ドル
ガソリン及びエネルギ製品 3579億ドル
96
20
94
1
2
3
4
5
6
7
8
9
出所:Datastream より三菱 UFJ 信託銀行作成
10
11
12
【月】
2/3
26週移動平均
要注意水準
前年年間平均+10%
あるいは
過去年間平均ピーク+10%
の高い方
0
05
06
07
08
09
10
出所:Bloomberg より三菱 UFJ 信託銀行作成
11 【年】
三菱 UFJ 信託銀行 調査情報
本資料について
¾ 本資料は、お客さまに対する情報提供のみを目的としたものであり、弊社が特定
の有価証券・取引や運用商品を推奨するものではありません。
¾ ここに記載されているデータ、意見等は弊社が公に入手可能な情報に基づき作成
したものですが、その正確性、完全性、情報や意見の妥当性を保証するものでは
なく、また、当該データ、意見等を使用した結果についてもなんら保証するもの
ではありません。
¾ 本資料に記載している見解等は本資料作成時における判断であり、経済環境の変
化や相場変動、制度や税制等の変更によって予告なしに内容が変更されることが
ありますので、予めご了承下さい。
¾ 弊社はいかなる場合においても、本資料を提供した投資家ならびに直接間接を問
わず本資料を当該投資家から受け取った第三者に対し、あらゆる直接的、特別な、
または間接的な損害等について、賠償責任を負うものではなく、投資家の弊社に
対する損害賠償請求権は明示的に放棄されていることを前提とします。
¾ 本資料の著作権は三菱 UFJ 信託銀行に属し、その目的を問わず無断で引用または
複製することを禁じます。
¾ 本資料で紹介・引用している金融商品等につき弊社にてご投資いただく際には、
各商品等に所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、各
商品等には相場変動等による損失を生じる恐れや解約に制限がある場合がありま
す。なお、商品毎に手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品の契約締
結前交付書面や目論見書またはお客さま向け資料をよくお読み下さい。
編集発行:三菱UFJ信託銀行株式会社
東京都千代田区丸の内 1 丁目 4 番 5 号
3/3
投資企画部
Tel.03-3212-1211(代表)
三菱 UFJ 信託銀行 調査情報