生体用超弾性チタン合金の超弾性処理法の開発 堀内 陽介 (物質科学創造専攻・若島,細田研究室) E-mail:[email protected] 1.研究背景・目的 超弾性合金は金属としての強度を有しながら人体に近い柔軟性を併せ持ち,生体インプラント 材料として最先端医療機器への応用例が年々急増している.現在,唯一の実用化合金である Ti-Ni は極めて優れた超弾性特性を示すが,アレルギー元素である Ni を構成元素としており,人 体への危険性が指摘されている.それゆえ, Ni などの有害元素を含まない生体用超弾性合金が 要求されている.本研究室では Ti-Nb-Al 合金において超弾性の発現に成功している現状にある が,未だ Ti-Ni に匹敵する性能の発現には至っていない.その理由の一つは,良好な超弾性 を発現させるために必要不可欠な組織制御である「超弾性処理法」が,β-Ti 系合金に対し ては十分に開発されていないためである.超弾性処理は, 「すべり変形開始応力が,マルテ ンサイト変態開始応力より十分に高くなるナノ・マイクロ組織」の形成を目的とし,すな わち材料の強化を意味している.そこで本研究は第四元素を微量添加,加工熱処理を施す ことにより固溶強化および析出強化による材料の強化を目指している. 2.実験方法 Ti-24at%Nb-3at%Al (TiNbAl)をベースの合金とし,これに対し侵入型元素である B および C を第四元素として添加した Ti-24at%Nb-3at%Al-Xwt%B,C (X=0~0.1)合金(B,C-added TiNbAl)を作製し,溶体化処理を施した試料,および時効の影響を調べるため,溶体化処 理後に時効処理を施した試料を用意した.これらの試料に対し,XRD による相同定,組織 観察,DSC(示差熱分析)による変態温度測定,引張試験による超弾性・機械的特性の調 査を行った. 3.現在までに得られている主な結果 このことから B および C は変態点の 低下に有効であるということが明らか となった. 0 Temperature ( ℃) ・DSC による変態点の測定 図 1 は DSC によって求められたマル テンサイト変態開始温度(M s )と B, C 添加量の関係を示している.この図 から,Ms は B,C 添加により低下する ということがみられる.この結果から B は 1at%添加当たり約 180℃,C は 1at%添加当たり約 400℃,Ms をそれぞ れ低下させることがわかった. -10 B-added TiNbAl C-added TiNbAl -20 -30 -40 -50 -60 0 0.02 0.04 0.06 0.08 4th element concentration (wt%) 図1 0.1 B 及び C 添加量と Ms の関係 350 ・引張試験による超弾性特性の評価 σ SLIP /MPa 図2は歪み増加サイクル引張試験の結 果から得た B 添加量とすべり臨界応力の 関係を示している.この図よりすべり臨界 応力はB添加により上昇するということ が見られ,その上昇は B 添加量の 1/2 乗に 近いということが明らかとなった. 300 250 200 150 100 0 XRD 回折および組織観察の結果を踏ま えて考察すると,今回見られた臨界すべり 応力の上昇は固溶強化によるものと考え られる. σSIMT /MPa 図3は歪み増加サイクル引張 試験によって得られた,マルテ ンサイト変態誘起応力と応力負 荷-除荷サイクル数の関係を示 している.この図において,マ ルテンサイト変態誘起応力は B 添加の有無に関わらず低下する ことが見られるが,B を添加し た合金におけるマルテンサイト 変態誘起応力の低下率は添加し ていないものに比べ約半分であ る.これは合金中に固溶した B が転位の移動を抑制しているためと 考えられる. 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 B concentration (wt%) 図2 160 140 120 100 80 60 40 20 0 すべり臨界応力と B 添加量の関係 =10MPa/ 1%strain TiNbAl B-added TiNbAl =20MPa/ 1%strain 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 Maximum applied strain (%) 図 3 マルテンサイト誘起応力と応力負荷-除荷サイクル数 の関係(中空:TiNbAl,中実:TiNbAl-0.05wt%B) この結果から B 添加は TiNbAl 超弾性合金の繰返し引張特性の向上に有効であるとい うことが明らかとなった. B と同様に侵入型元素である C を添加した合金においても B 添加合金と同様に固溶強 化されていると思われる結果が得られている. 4.現在までのまとめ ・B は 1at%添加当たり約 180℃,C は 1at%添加当たり約 400℃,マルテンサイト変態開 始温度を低下させる.このように B および C 添加は変態点の低下に有効である. ・Bおよび C 添加により臨界応力は上昇し,材料の強化が認められる.この強化は添加 した元素による固溶強化のためと考えられる. ・B を添加した合金は添加してない合金に比べ,応力負荷-除荷サイクル中でのマルテン サイト変態誘起応力の低下率が小さい.このことから B 添加は繰返し引張特性の向上 に有効であるということが明らかとなった. 現在の研究に関する主な業績 堀内陽介, 稲邑朋也, 細田秀樹, 若島健司, 宮崎修一:TiNbAl 合金の超弾性特性に及ぼす B 添加の影響, 2004 年秋期大会(第 135 回), (2004) 329. 日本金属学会講演概要, 堀内陽介, 福井裕介, 腐食防食協会 堀内陽介 稲邑朋也, 若島健司, 宮崎修一:生体用 Ti-Nb-Ge 合金の超弾性挙動 第 51 回材料と環境討論会講演集, 稲邑朋也 細田秀樹 日本金属学会講演概要, 堀内陽介 細田秀樹, 稲邑朋也 宮崎修一:B 添加 TiNbAl 合金の機械的特性と時効の影響 2005 年春期大会(第 136 回), (2005) 466. 細田秀樹 日本金属学会講演概要, 若島健司 (2004) 259. 若島健司 宮崎修一:TiNbAl 合金の超弾性特性に及ぼす C 添加の影響 2005 年春期大会(第 136 回), (2005) 393. Y. Horiuchi, T. Inamura, H. Hosoda, K. Wakashima and S. Miyazaki: Effect of Boron Addition on Transformation Behavior and Tensile Properties of TiNbAl Alloys, Mater. Trans, submitted
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