ISO レポート ISO/TC 4/SC 8/AHG 1 第 2 回ウィーン会議報告 (ハイブリッド軸受の定格荷重) NTN株式会社 1. 平澤 義光 まえがき 2011 年 6 月の TC 4/SC 8 ブリュッセル会議において、ハイブリッド軸受の定格荷重の標準化につい て 検 討 す る た め の Ad hoc グ ル ー プ ( AHG 1 ) を 設 立 す る こ と が 決 議 さ れ た 。 2012 年 4 月 の TC 4/SC 8/AHG 1 第 1 回ベルリン会議に引き続き、2012 年 10 月 16 日に第 2 回ウィーン会議がオース トリア規格協会(ASI)で開催され、日本のエキスパートとして会議に出席したので、その概要及び 今後の予定について報告する。 2. SC 8/AHG 1 第 2 回ウィーン会議の概要 第 1 回ベルリン会議以降の関連文書を表 1 に、第 2 回ウィーン会議の議事次第他を表 2 に示す。 表 1-SC 8/AHG 1 関連文書 文書番号 提出国 題目又は内容 発行年月 SC 8 N 391 幹事国 AHG 1 N 022 幹事国 TC 4/WG 19(鋼製円筒ころの規格を作成する作業 グループ)の解散中止の提案に関する投票結果 TC 4/WG 19 の解散の通知 AHG 1 N 023 幹事国 ウェブ会議の案内 2012-06 AHG 1 N 024 ロシア AHG 1 N 025 に対するロシア意見 2012-07 AHG 1 N 025 オーストリア ハイブリッド軸受の静定格荷重規格素案(第 1 版) 2012-07 AHG 1 N 026 アメリカ AHG 1 N 027 オーストリア AHG 1 第 2 回会議の日程と場所の連絡 2012-07 AHG 1 N 028 オーストリア ハイブリッド軸受の静定格荷重規格素案(第 2 版) 2012-07 AHG 1 N 029 幹事国 AHG 1 第 2 回ウィーン会議の案内 2012-10 AHG 1 N 030 フランス AHG 1 N 028 に対するフランス意見 2012-10 AHG 1 N 031 日本 AHG 1 N 028 に対する日本意見 2012-10 2012-05 2012-05 論文「窒化けい素転動体が軸受寿命に与える影響」 2012-07 表 2-SC 8/AHG 1 第 2 回ウィーン会議の議事次第及び参照文書 議題 議事次第 1 開会 2 出席者の点呼 3 議題の採択 ハイブリッド軸受の定格荷重について 4 4.1 静定格荷重について 4.2 動定格荷重に及び定格寿命について 5 その他の業務 6 今後の会議 7 閉会 3. 参照文書 - - N 029 N 024, N 025, N 026, N 028, N 030, N 031 - - - 会議の内容 議題 1 開会 プロジェクトリーダーであり SC 8 への報告者の Correns 氏(ドイツ、Schaeffler、SC 8 議長)が、 1/4 定刻に開会を宣言した。 議題 2 出席者の点呼 出席者全員が自己紹介を行った。SC 8/AHG 1 第 2 回ウィーン会議には、表 3 に示す 6 か国 8 名 が参加した。 表 3-SC 8/AHG 1 第 2 回ウィーン会議参加者 番号 1 参加者名 Martin Correns 国名 所属 ドイツ Schaeffler(AHG 1 プロジェクトリーダー、SC 8 への報告者及び SC 8 議長) 議題 3 2 Hubert Köttritsch オーストリア SKF 3 Gerwin Preisinger オーストリア SKF 4 Magnus Olofsson スウェーデン SKF 5 Antonio Gabelli オランダ SKF 6 Gunnar Simm オーストリア NKE 7 Bruno Mevel フランス SNR 8 平澤 日本 NTN 義光 議題の採決 N 029 の会議議題が承認された。 議題 4 ハイブリッド軸受の定格荷重について 4.1 静定格荷重について オーストリアが作成した、静定格荷重の規格素案である N 028 に対するフランス意見(N 030) 及び日本意見(N 031)を含め議論が行われた。 この規格のタイトルは“Rolling bearings-Static load ratings for hybrid bearings with rolling elements made of ceramics”とする。日本はタイトルの範囲を広く確保する目的で with 以下を 削除するよう提案したが、転動体がセラミックスである(軌道輪がセラミックスでない)こ とを明示すべきであるとの意見があり、上記タイトルに同意した。詳細な適用範囲は規格内 の Scope に示すことになった。 ISO 26602(転がり軸受球用窒化けい素の材料規格)では、窒化けい素のヤング率として 270GPa~330GPa 及びポアソン比として 0.23~0.29 を規定している。実際の静定格荷重の計 算に、この範囲内のどの値を使用するかが議論となった。日本は ISO 26602 で規定されてい る範囲の中央値としてヤング率 300GPa 及びポアソン比 0.26 を、ドイツはヤング率 315GPa 及びポアソン比 0.26 を提案し、議論の結果、日本提案が採用された。N 028 内の静定格荷重 の計算式はドイツ提案値をもとにしているので、次の素案では計算式内の係数が若干変更さ れることになる。 N 028 には玉軸受及び円筒ころ軸受の静定格荷重の計算式が記載されている。しかし、セラ ミック円筒ころは材料規格及び製品規格に該当する ISO 規格がなく、また生産実績も乏しい ことから、当該規格からころ軸受に関する記述を除くよう日本から意見を出した。議論の結 果、円筒ころ軸受に関する記述は ISO 規格には記載せず、技術仕様書(TS)または技術報告 書(TR)への記載を検討することで合意した。 N 028 では静定格荷重の計算式のみが記載されているが、使用者の利便性を考え、ISO 76 (鋼製軸受の静定格荷重の規格)と同様、計算値の一覧表を加えるようフランス及び日本か 2/4 ら意見を出し、合意された。 2012 年 7 月 12 日に行われたウェブ会議で日本が出した、「静定格荷重の基準を永久変形量 でなく接触面圧とした理由を記載すべきである」という意見に対し、今回オランダからスラ イド資料を用いての説明があった。この資料は、同じ荷重を負荷した場合でも、試験片の厚 みによって永久変形量が変化するため、静定格荷重の基準として永久変形量を採用するのは 難しいことを実測データで示している。日本からこのデータを当該規格に載せてほしいとの 意見を出したところ、技術仕様書または技術報告書に載せる旨の回答があった。 接触面圧の基準値として、ドイツ及び日本は鋼製軸受と同じ 4200MPa(玉軸受の場合)を、 SKF 勢(オーストリア、スウェーデン及びオランダ)は 4600MPa を提案した。4600MPa の 根拠は、 「ハイブリッド玉軸受は鋼製軸受に対し接触だ円が小さく、そのために圧痕の範囲が 狭い」というものであった。この課題については会議内で結論が出ず、次回の SC 8 会議で 議論することになった。 鋼製軸受と同様、安全係数を設定し、当該規格に記載することとなった。安全係数の具体 的な値は、上記接触面圧の基準値に応じて決定する。すなわち面圧基準値を 4200MPa とする ならば安全係数は鋼製軸受と同じ値とし、面圧基準値を 4600MPa とするならば安全係数は鋼 製軸受の値の 1.3 倍とすることが合意された。 静等価荷重を表す記号は現在 P0a 及び P0r であるが、これを F0a 及び F0r へ変更したいとの意 見があった。理由は荷重を表す量記号が現在 P と F の 2 種類があり、一般の人に分かりにく いため統一した方が良い、というものである。しかしこの変更は他の規格にも影響を与える ため、SC 8 会議で改めて議論することになった。 N 028 の附属書 B には、窒化けい素球の材料等級及び公差等級と、適用可能なアプリケー ションの関係を示す図が記載されている。この図は窒化けい素球の選定に利用できる可能性 があるが、静定格荷重とは直接の関係がないため、日本から削除を提案した。しかしこの図 が記載されているのは附属書であり参考情報扱いなので、削除の必要はないとして残される ことが決定した。 4.2 動定格荷重及び定格寿命について 動定格荷重には未だ素案がないが、以下の議論が行われた。 動定格荷重の決定には、鋼製軸受とハイブリッド軸受の寿命データの比較が必要、という フランス意見に対し、ドイツでは 15 年前からハイブリッド軸受の耐久試験を行っており、デ ータはあるとの回答があった。また SKF 勢も独自のデータを持っている模様である。 動定格荷重の計算式は N 008(ハイブリッド軸受の動定格荷重に関する討議資料)に記載さ れているドイツ案が採用されることになった。この式は細かい係数こそ鋼製軸受と異なるも のの、最終的な計算結果は鋼製軸受の動定格荷重と同じ値になるようになっており、鋼製軸 受と同じとすべきとの日本の意見とも合致するものである。 寿命修正係数 aISO については、現時点でそれを決定するだけの十分なデータが揃っていな いことから、AHG 1 にて継続審議が必要との結論になった。そのため、当初 2013 年 5 月の SC 8 上海会議で解散する予定であった AHG 1 を、その後も存続させるよう SC 8 に提案する ことになった。 議題 5 その他の業務 特になし。 3/4 議題 6 今後の会議 今後の会議スケジュール案として、表 4 に示す内容が合意された。 表 4-今後の会議スケジュール案 会議の種類 日付 開催地 ウェブ会議 2013 年 2 月 14 日 - TC 4 本会議及び SC 8 会議 2013 年 5 月 27 日~31 日 中国、上海 議題 7 閉会 Correns 氏から会議参加者に謝意が述べられ、閉会した。 4. あとがき 今回のウィーン会議は、今年 4 月のベルリン会議に引き続いて SC 8/AHG 1 として 2 回目の国際 会議である。 ベルリン会議では、まずハイブリッド軸受の定格荷重規格の制定にあたって検討すべき課題を全 て列挙し、マインドマップ(N 019)としてまとめた。その後静定格荷重に関しては、マインドマッ プを考慮した規格素案(N 028)が発行されたため、国内審議にて検討の上、日本意見を提出した。 日本意見は数点が認められなかったものの、「接触面圧を基準とした理由を記載する」、「ころ軸 受について、今回は規格化しない」等の重要な提案は認められ、日本としては概ね満足できる結果 となったと考える。 一方動定格荷重については規格素案がなく、会議でどのような議題が上がるか不明であった。最 も重要な項目と思われる動定格荷重の計算値については、2012 年 7 月のウェブ会議で日本が鋼製軸 受と同じ値を提案したのに対し、アメリカが鋼製軸受と同じ値とすることに反対する意見を出して きた(N 026)。そこで日本としてアメリカに対抗すべく、日本提案を補強する説明を国内審議の上 準備し、ウィーン会議に臨んだ。ところがウィーン会議にアメリカが欠席したため議論がなされず、 SKF 勢、ドイツ及び日本の意見の一致で、鋼製軸受と同じ値が採用された。日本としては渡りに船 だったわけであるが、“たとえ事前に意見を出していても、実際の会議の場で主張しなければ顧み られない”という厳しさを感じた場面であった。 今後も、今回の会議での決定事項を盛り込んだ規格素案に対し、国内審議で日本意見をまとめ、 幹事国へ提出していくことになる。日本ベアリング工業会各社の皆様方のご助力を得ながら、日本 の不利にならないような規格作成を続けていく。 以上 4/4
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