知財部会 平成26年1月9日発表 練習用箸事件 (大阪地裁平成25年(ワ)第2464号:平成25年10月31日判決) 第1 事案の概要 原告 P1 自然人たるパック,ビ ョング,ジンさん(韓 国) 特許権 被告 スケーター株式会社 特許権侵害 (子供用の練習用箸で 有名) 第 3766831 号 平成18年2月3日登録 不競法2条1項1号 被告は,被告製品を製造販売した。 株式会社ケイジェイシー (「エジソンの箸」で有 名) (クレーム1) クレーム1) A 親指を挿入する親指挿入穴と B C 固形物を掴み取る第1パッドとを有する第1箸部材であって, 第1箸部材の上部に親指挿入穴を形成し, D E F G H 第1箸部材の下端に第1パッドを形成した第1箸部材と, 人差し指および中指を挿入する保持ユニットと, 保持ユニットの固定位置を調節する調節手段と, 固形物を掴み取る第2パッドとを有する第2箸部材であって, この保持ユニットが人差し指を挿入する人差し指挿入穴と中指を挿入する 中指挿入穴とを有し, I 第2パッドを第2箸部材の下端に形成した第2箸部材と, J 第1箸部材および第2箸部材の上部に形成され,第1箸部材および第2箸部 材を所定の間隔で結合する結合手段と K を有する,知的能力を発達させる練習用箸。 1 (請求) ①原告P1は,被告の行為が本件特許権を侵害するものであるとして特許法 100条1項及び2項に基づき,② 原告ケイジェイシーは,被告の行為が不正 競争防止法2条1項1号の不正競争に当たるとして同法3条1項及び2項に基 づき,それぞれ,被告に対し,被告製品の製造販売の差止め及び廃棄を求めて いた事案。 →結論は,請求いずれも棄却(控訴は不明。)。 第2 争点における当事者の主張と裁判所の結論 争点は5つである。 (1)原告P1の本件特許権に基づく請求に関する争点 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1) (2)原告ケイジェイシーの不正競争行為に基づく請求に関する争点 ア 原告商品の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たる か(争点2-1) イ 原告商品の形態は原告ケイジェイシーの商品表示として需要者の間に 広く認識されているか(争点2-2) ウ 被告製品の形態は原告商品の形態からなる商品表示と類似の商品表示 であるか(争点2-3) エ 被告の行為は原告ケイジェイシーの商品と混同を生じさせる行為であ るか(争点2-4) 他方,裁判所が判示したのは,争点1と争点2-1のみ。 特許権侵害の争点1のみ検討する。 2 争点1-1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)の争点表(パッド) X(P1) Y 裁判所 判断 ①「パッド」の 本件特許発明の「パッ 「パッド」は一般的に「当て ・・・本件特許発明 クレーム解釈 ド」は固形物をつかみ取 物,詰め物」の意味である の「パッド」とは,通 ることができることに技術 が,請求項の文言自体から 常の箸先とは異なる ものであり,固形物 的意義がある。 は意義が明らかでない。 したがって,「固形物を 本件明細書等の記載によ をつかみ取るための つかみ取ることに適した れば,箸を上手に使えない 部材(当て物)として 形状に加工,形成された 者でもビーズ等の極めて小 箸先に取り付けら 部材」をいうものである。 さな物体を掴むことができる れ,取り外しが可能 ようにするため,箸部材が なものであることが 本来有する通常の形態とは 認められる。 異なる特別に形成された偏 平部材をいうものと解され る。また,内面にエンボス加 工が可能なものである。 ②「パッド」の 被告製品は箸先が四角 照合 形であり,丸形やその他 の形状の箸と比較すれ ば固形物と接触する面積 が広く,固形物が落ちに くい形状である。 また,被告製品の全長 は,装飾部分を含めても 17㎝未満であるのに対 し,滑り止め加工が施さ れ,固形物をつかむ部分 として想定されている部 分は4㎝もの長さがあ る。 このように,被告製品 は,固形物をつかみ取る ことに適した形状に加 工,形成された部材を有 するから,「パッド」に相 当する構成を有する。 被告製品は,第1及び第2 箸部材の断面が四角形で あり,下端に向けて先細り 状に形成されている。先細り 部分にある節状の凹凸は, エンボス加工ではなく,箸部 材をプラスチックで一体成形 するときに同時に成形され る。 したがって,被告製品は, 「箸部材が本来有する通常 の形態とは異なる特別に形 成された偏平部材」の構成 を有しない。また,被告製品 の上記構成は,古くから汎 用されている周知・慣用技 術であり,何人も自由に実 施できる自由技術である。 3 証拠(乙7)によれ ば,被告製品の箸 先には滑り止め加 工が施されているこ とが認められるもの の,固形物をつかみ 取るための部材(当 て物)として箸先に 取り付けられ,取り 外しが可能な構成を 有しているとは認め られない。 したがって,被告 製品は「パッド」に相 当する構成を有する ものとは認められな い 結論 構成要件 B,D,G及 びIを充足す るとはいえ ない。 争点1-2(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)の争点表(調整手段) X(P1) Y 裁判所 判断 ①「調整手 特になし。 構成要件Fの「調節手段」は,単に保持ユニッ ・・・「調節手段」は,位置を調節 段」のクレー トの位置を調節するものではなく,保持ユニット する前後において,保持ユニッ ム解釈 の「固定位置」を調節するものであるから, トを固定することができるもので 調節後にも位置がずれ動くことのない「固定状 なければならないと解される。 態」とすることができるものである。 前記イの本件明細書等の記 載もこの解釈に沿うものであ る。 ②「調整手 被告製品のシリコン 被告製品では,第2箸部材の上方位置の正面 証拠(乙7)によれば,被告製 段」の照合 ゴム製の筒部は,下方 側に反り板状の親指座があり,下方位置の背 品の第2箸部材は,上方位置 に向けてずらすことが 面側には突起があるから,上部筒部と下部筒部 の正面側に反り板状の親指座 可能で は親指座と突起によって上下を挟まれている。 があり,下方位置の背面側に ある。また,シリコン樹 また,上部筒部と下部筒部の内面にはリブが形 突起があるから,上部筒部と下 脂と 樹脂(箸部材)の 成されており,第2箸部材の側面に設けられた 部筒部は親指座と突起によっ 摩擦力によって,保持 上部凹溝と下部凹溝に嵌着している。 て上下を挟まれている。また, ユニットは第2箸部材 これらの構成によって,上部筒部及び下部筒 上部筒部と下部筒部の内面に に固定されており,箸 部は第2箸部材の軸方向に摺動不能に固定さ はリブが形成されており,第2箸 の使用によっても容易 れているものである。 部材の側面に設けられた上部 にずれない固着力を有 上部筒部と下部筒部はシリコンゴム製であり, 凹溝と下部凹溝に嵌着している する。 弾性変形させることによって第2箸部材の下方 ことが認められる。 したがって,被告製 に向かって引き抜くことは可能であるものの,第 そうすると,原告P1が「保持 品のシリコンゴム製の 2箸部材は下端に向けて次第に細くなってお ユニット」に相当する旨主張す 筒部は,保持ユニット り,下方にずらすと固定することができなくなる。 る被告製品の上部筒部及び下 の固定位置を調節する そもそも,被告製品は,箸の使い方を練習す 部筒部は,位置を移動させない ことができるから,構 るに当たり,練習の進行に応じ,親指リング,中 ことを前提とした構成のもので 成要件Fの「調節手 指リング,人差し指リングを順次,取り外すこと あり,位置を調節するための構 段」に相当する。 ができる構成のものである。これらのリングを取 成を有するものとは認められな り付けたまま上部筒部及び下部筒部の固定位 い。 置を調節することは予定していない。 したがって,被告製品は構成要件Fの「調節手 段」に相当する構成を有しない。 4 結論 構成要件Fを を充足しな い。 (参考) 【0006】 韓国実用新案第2001-23369号公報には、より改善された練習用箸 が開示されている。参照する図2に ついて説明すると、箸部材50a、50 bの上部をヒンジ51´を含む接合ピン51によって相互に接続する。箸部材 50aに親指を掛ける穴51を形成し、もう一方の箸部材50bに人差し指 を掛ける穴52および中指を掛ける穴53を形成する。これらの穴51、5 2、53は、指の挿入角度に合うように箸部材に対して角度を付ける。指掛 けユニット55に、人差し指を掛ける穴52および中指を掛ける穴53を一 体に形成する。箸部材50bの外側に雄ネジ50bを、そして指掛けユニッ ト55の内側に雌ネジ55aを形成し、使用者の指の大きさに合わせて、指 掛けユニット55の固定位置を調節できるように構成する。 以上 5
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