Annual Report No.27 2013 原子および電子レベルからの ペロブスカイト型非鉛圧電材料の特性機構の解明 Crystal Structure and Phase Transition of Lead Free Perovskite Structure Ferroeleoctrics : Sn-doped SrTiO3 H23助自19 代表研究者 笠 谷 祐 史 静岡理工科大学 理工学部 准教授 Hirofumi Kasatani Associate Professor, Faculty of Science and Technology, Shizuoka Institute of Science and Technology High energy X-ray powder diffraction & MEM/Rietveld analysis and Sn:K-edge transmission XAFS study of lead free perovskite structure ferroelectrics : Sn-10%doped SrTiO3 (abbreviated by SSTO10) were carried out at synchrotron radiation facility SPring-8, in order to clarify the both crystal structures of paraelectric and ferroelectric phases and the mechanism of ferroelectric phase transition. From the XANES spectrum of SSTO10, SnO and SnO2, the energy of main edge-jump of SSTO10 shows almost same value of SnO. On the other hand, SnO2 shows several higher. It was clear that the valence of Sn-ion in SSTO10 is +2e. Fourier transforms of k2χ(k), which is the radial distribution function (RDF) from Sn-atom, for SSTO10, SnO and SnO2 revealed that Sn-atom at Sr-site is going to become the same local structure in SnO crystal. Furthermore, RDF for SSTO10 at temperature from 10K to 300K showed anomaly around phase transition temperature. From the temperature dependence of powder X-ray diffraction of SSTO10, it was clear that the profile at low temperature phase was shown double or shoulder shape of h 0 0 reflection, but no change in the case of h h h reflection. We concluded that crystal system of ferroelectric low temperature phase is not rhombohedral, maybe tetragonal or lower symmetry. From the results of MEM/Rietveld analysis of paraelectric (300K) and ferroelectric (94K) phases, it was clear that at paraelectric phase Sr/Sn was isolated ion state, but at ferroelectric phase very week covalency was obtained between Sr/Sn-O atoms. Crystal structure of SSTO10 at ferroelectric phase was similar to BaTiO3 tetragonal phase. It was thought that local structure around Sn-atom, i.e. disorder state of 6-site to <1 0 0> direction from Sr-position was key factor of structural phase transition from cubic (Pm3m) paraelectric to tetragonal (P4mm) ferroelectric phase. このような強誘電体材料は、一般に各材料の 研究目的 使用温度領域において主として以下のような特 強誘電体は、高誘電率キャパシタ、強誘電 性が求められる。キャパシタ材料は高誘電率 体メモリ、焦電センサ、圧電・電歪トランス 特性を有すること、メモリ材料は自発分極が デューサ、電気光学素子、PTCサーミスタ等、 温度依存しない強誘電性であること、反対に 多くの材料として応用され実用化されている。 焦電センサ用材料は自発分極の温度依存性が ─ 92 ─ The Murata Science Foundation 大きいという特性である。また、圧電材料とし Sr原子をSn置換したSr x Sn1-x TiO3は、低温で てのセンサやアクチュエータ等の場合、強誘電 ブロードな誘電異常を示し、誘電率のピーク 性相転移温度が使用温度より高温にあること 温度は、Sn置換濃度とともに高温側に変化す である。現在、これらの特性を有する種々の る。現在、3種類の置換濃度(2, 5, 10%)試料 強誘電体セラミック材料が使用されているが、 が作成されており、Sn10%置換試料で誘電率の 今後、より高性能で且つ環境にやさしい材料 ピーク温度は約180Kである。この温度以下で、 が望まれており、さらなる材料開発が多くの研 D-E履歴曲線が確認されており、低温相は強 究者によって進められている。特に、現在圧 誘電相であることが明らかになっている。実験 電素子として使用されているチタン酸ジルコン 室系でのX線回折実験も、立方晶系を仮定し 酸鉛:Pb(Zrx Ti1-x)O(略称PZT) には、鉛原子 3 た格子定数の温度変化から、この温度付近で が含まれているため環境面からも、これに代わ の構造相転移の存在を示唆した。しかし、結 る圧電素子の開発が急務とされている。 晶構造は室温低温とも解っていない。そこで、 最近Suzukiらにより、SrTiO3 のSr をSn で Sn10%置換試料(以後、SSTO10と略称)で以下 置換したSr x Sn 1-x TiO(略称SSTO) において、 3 の放射光実験を行った。 低温領域で強誘電性が現れ、その強誘電性相 1.SPring-8:BL19B2での粉末X線回折 転移温度はSn の置換量に依存して高温側に 2.S Pring-8:BL02B2での高エネルギー粉末 2+ 2+ 2+ X線回折とMEM/Rietveld解析 移動することが報告された。SSTOは、鉛原子 を含まない為PZTに代わる圧電素子材料とし 3.S Pring-8:BL01B1でのSn:K -edgeの透過 XAFS測定 ての応用および実用化が期待される。本研究 の目的は、SSTOの強誘電性相転移機構を結晶 これらの結果、現時点で以下のことが明らか 構造の面から解明することである。平均構造と になった。 して高エネルギー放射光粉末X線回折実験及 びMEM/Rietveld解析より、結晶構造及び熱振 1.室温(常誘電相)構造 動振幅や結晶中の電子密度分布から結合電子 BL19B2で、波長λ=0.77455(3)Å(エネルギー の様子等を明らかにする。また、Sn原子周りの E =16k e V)のX線を用いた粉末X線回折実験 局所構造をXAFS測定より明らかにし、Sn置換 を、100,150,200,300,450Kの5点の温度で行っ によるSSTOの強誘電性の出現および相転移機 た。エネルギー16keVはSrの吸収端前であり、 構の解明を目指した。 S/N比の良い回折データが測定でき、300Kお よび450Kの各反射は全てシングルピークであ 概 要 本研究は、最近Suzuki り、立方晶ペロブスカイト構造で全反射を指 らによって見出さ 数付出来た。このことは、BL02B2での高エネ れた、Sr原子をSn置換したSr x Sn1-x TiO 3 の強誘 ルギーX線:波長λ=0.35330(3)Å(エネルギー 電性発現機構および相転移機構を、放射光粉 E=35keV)の測定結果でも同様であった。以上 末X線回折実験とMEM/Rietveld解析による平 のことから、SSTO10の室温の晶系は、立方晶 均構造と電子密度分布の解明およびSn:K-edge 系と結論した。 の透過XAFSによるSn原子周りの局所構造の 一 方 、S n : K - e d g e の 透 過 X A F S 測 定 は 、 解明より明らかにすることを目的とした。 SSTO10の他に参照物質としてSnO及びSnO 2 [1] ─ 93 ─ Annual Report No.27 2013 も室温で測定した。これら三物質の、メイン O間に0.25e/Å3レベルで結合電子の存在が確認 ジャンプのエネルギー値の比較より、SSTO10 された。定性的には、低温(強誘電)相構造は、 中のSn原子は、ほぼ全てが二価のイオン(Sn ) BaTiO3 やPbTiO3と同じであるが、定量的には として存在していることが明らかとなった。さ 室温(常誘電)相構造の立方晶からの歪量は、 らにXAFSシグナルのフーリエ変換による動径 BaTiO3やPbTiO3と比べて一桁以下と小さい。 2+ 分布関数から、三物質のSn-O間距離に大きな 差が見られなかった。 3.強誘電相転移機構 以上の結果を踏まえて、BL02B2での300Kの Suzukiらによる報告及び今回の構造解析の 測定データのMEM/Rietveld解析を行った。こ 結果から、SSTO10の強誘電性相転移機構を以 の結果、Sn原子は、Srサイトに約9%、Tiサイト 下のように考えている。Sr原子と置換したSn原 に約1%存在することが明らかとなった。さら 子は、SnO結晶構造(Sn原子を頂点としO原子 に、XAFS結果より、SrサイトのSn原子を〈100〉 を底面とするピラミッド構造)と同じであろう 方向に等確率に変位している(6サイトモデル として、Sn原子はSr原子位置から〈100〉方向に のsplit-atom)とし、空間群Pm3m、全原子等 変位した位置に存在する。すなわち平均構造 方性温度因子の構造モデルで、Rietveld解析は としてのSn:6-siteモデルである。この結果Sn Rwp =1.986%、RB =1.148%、RF =2.435%、格子定 原子周りに、立方晶:Pm3mから僅に歪んだ 数a=3.90941(1)Åで収束した。MEMによる等 局所構造が、微小な分極領域として出現する。 電子密度面0.25e/Å レベルでも、Sr/Sn原子は孤 これがstaticかdynamicかは現時点では不明で 立イオンでありTi-O間に共有結合性が確認さ あるが、温度低下とともに分極領域が広がり、 れた。 ある臨界の体積分率になると強誘電相に相転 3 移する。したがって、Sn置換濃度による強誘電 2.低温(強誘電相)構造 性相転移温度の変化は、室温での分極領域の BL19B2およびBL02B2の粉末X線回折プロ 体積分率の違いによるものと考えられる。 ファイルともに、低温でh 0 0反射が非対称もし くはdouble peakを示唆するshoulder likeであっ たのに対し、h h h反射に変化が見られなかっ 参考文献 [1] S. Suzuki, et al., Phys. Rev. B86, 2012, p060102 た。このことから、低温相は菱面体晶系では ないことが確認された。XAFSの結果および室 温構造から、現在SSTO10の低温(強誘電)相 は正方晶系と考え、BaTiO 3 の正方晶系の構造 を初期構造モデルとしてRietveld解析を進めた 結果、空間群P4mm、格子定数a=3.88946(2) Å、c=3.89860(2)Å、c/a=1.0023、信頼度因子 はRwp =2.273%、RB =2.382%、RF =2.752%で収束 した。MEMによる等電子密度面から、c軸方向 のTiとO原子の共有結合性に非対称性が確認 され、また室温で孤立イオンであったSr/Snと ─ 94 ─ −以下割愛−
© Copyright 2024 ExpyDoc