40年の伝統とノウハウを活かし 高品質のソフトウェアや - NTT

136
株式会社エヌジェーケー
http://www.njk.co.jp/
40年の伝統とノウハウを活かし
高品質のソフトウェアや
ソリューションを提供
2010年春にNTTデータグループの一員となったエヌジェーケー
(NJK)
.1970年の創業以来,コンサルティングやソフトウェア開発
などのさまざまな事業を手掛けてきた.ソフトウェア開発を主力としな
がらも,子会社メディアドライブのOCRソフトは業界No.1のシェアを
誇るなど,実績も豊富である.NTTデータグループの一員になること
を決めた理由や今後の展望などを,同社の谷村直志会長に詳しく伺った.
NTTとは不思議な縁で
両親の代からつながっていた
◆貴社の設立背景を教えてください.
当社の創業者である父は北陸の出身でした.1946年に
エヌジェーケー 谷村直志会長
ら石川県の電話局で電話交換手として勤務していましたか
ら,NTTとのゆかりは公私ともに深いものです.
◆そして一昨年,NTTデータグループに入られたのですね.
残念ながら現在のところソフトウェア業界の環境はあまり
良くありません.独立系企業どうしが合併するなど,業界内
NTTの前身である逓信省に入り,「内地留学」として一橋大
でもさまざまな変化が起こっています.そのような環境下で,
学で電子計算機などをテーマに1年間学びました.その後,
将来を見据えてNTTデータの一員になることを決断しまし
地元へ戻って北陸電気通信局の初代機械計算係長として勤
た.先ほど申し上げたとおり,両親とNTTとのかかわりが深
務.1964年の東京への転勤後は,経営調査室中央統計所
かったこと,長年にわたって取引のあったことが決め手です.
でIBM製のコンピュータ導入などを行いました.以後関東
当社は2001年に東証二部に上場していたため,資本業
逓信病院(現NTT東日本関東病院)の医療システムに携わ
務提携契約締結の後,グループ入りのために公開買い付け
り,コンピュータの専門家として活躍していました.
を行う必要がありました.なかなか大変なこともありまし
そうしてキャリアと人脈を築いた父は,1970年に独立
を果たします.当初はコンピュータ関係のセミナーの企画
や開催を行い,父自らも講師を務めていました.これが評
判となり,たくさんの仕事が舞い込んできました.その中
で,受講される方々から「うちの会社のコンピュータ運営
を任せたい」との要望を受け,1973年以降はコンピュー
タ導入コンサルティングや情報システム開発業務などの受
託や派遣を続けてきたのです.
そのころから電電公社の業務を受けていましたが,NEC
たが,2010年3月にNTTデータが当社株式の50%余りを
取得.当社はNTTデータグループの一員となりました.
多岐にわたる業務をカバーする
3社から成るNJKグループ
◆事業概要をお聞かせください.
まずお話ししておきたいのが,NJKグループはNJK,メ
ディアドライブ,NJKテクノ・システムの3社で成り立っ
ていることです.私はNTTデータグループに入った際に,
経由だったために直接の取引はありませんでした.民営化
NJKグループ全体の責任者として広く目を行き届かせられ
後は,NTTがソフトウェア会社に直接発注を始めたことか
るようにNJKの会長に就任しました.
ら,当社も直接お仕事をいただくようになりました.時に
当社グループのビジネスの柱は4つ.ソフトウェア開発,
は,大手メーカとNJKを並べて,品質を比較されるなどの
ネットワーク機器・システム商品販売,オリジナルパッ
苦労もありました.1992年には私が社長に就任し,それ
ケージ開発及び販売,ハードウェア組立です.
以降もNTTとのつながりは続いています.実は母も戦前か
38
NTT技術ジャーナル 2012.3
当社の売上105億円のうち,ソフトウェア開発が約72
億円と,もっとも大きな割合を占めています.ネットワー
1点目はたくさんのセグ
クシステムの構築やコンサルティングのほか,基盤ソフト
メントに携わっていること
ウェア開発,基幹業務システム開発,モバイル機器の組込
です.ソフト開発ができ,
など,お客さまのニーズに合わせたさまざまなソリュー
ハードがつくれて,流通も
ションを提供しています.
できる.広島などに販売拠
ネットワーク機器・システム商品は売上のうち約12億円
点があるので,NTTデー
を占めています.学校などのネットワーク設計,導入,運用,
タの地方子会社と一緒に
メンテナンスを総合的にサポートしています.
行動できたりもします.
谷村直志会長
オリジナルパッケージの売上高は約15億円です.OCRソ
2点目は,ソフトの大きな事業に関してはISOなどを取得
フト,BIツール「DataNature」,マンション管理会社のシ
しており,品質面で他社に負けないことです.昨年,NTT
ステム,テストツール「KURAGE」など,多岐にわたって
データの仕事で中国の成都などへ出張してきましたが,中
います.特にOCRソフトはシェア国内No.1を占めています.
国の開発パワーには目を見張るものがあり,日本人のプロ
最後に挙げたハードウェア組立は,NJKテクノ・システ
グラマはよほどレベルが高いとか特殊技能があるとかいう
ムが手掛けています.石川県の小松に事業所があり,電子
強みがなければ生き残っていけなくなるのではと思ってい
機器組立や部品管理を行っています.
ます.我々がグループの中でもっとも貢献できる技術者像
◆NTTデータグループ参加によってどのような変化があり
をいくつかピックアップし,それに向けて施策を展開して
ましたか.
いきたいと考えています.
NTTデータグループ企業になって2年.NTTデータは大
◆今後,どのような展開をお考えですか.
企業ですから,内部の様子を把握するのに時間がかかりま
オリジナルテクノロジの製品の比率を上げるつもりで,何
した.少し遅いと思われるかもしれませんが,今こそが当
年も前から準備をしてきました.OCRや音声処理,画像処理
社にとって大きな転換期であり,これからどのようにやっ
はビジネスになるまでが難しい領域ですが,積極的に取り組
ていくのか考えなくてはならない点も多々あります.
んでいきたいと思います.
グループ入りしてから,NTTデータ出身の非常勤の取締
また,NTTデータから安定した受注ができること,オリジ
役が2名,出向者が1名増えましたが,運営体制に大きな変
ナル製品にNTTデータというブランド力が付与できること,
化はありません.しかし,NTTデータから入る情報の量・
販売時にNTTデータの製品を併せて売れることなど,今回の
質は以前とはまったく異なっています.今まで入らなかっ
グループ入りは当社の素晴らしい力になっていくはずです.
た情報が手に入るのは大きなメリットですね.その分,親
それから,現在は当社がNTTデータからお客さまを紹介
会社のスケジュールに合わせなければならない部分もあり
してもらっている立場ですが,今後は私たちからも紹介で
ますが,NTTデータからの受注が増えましたし,グループ
きるようになれればとも思っています.
企業ということで営業や人材採用がスムーズになりました.
著作権や秘密保持などのNTTデータが実施する,全社員が
対象のさまざまな研修も受けられるようになりました.
◆NTTグループに加わったということにもなりますよね.
NTTデータグループの一員になる前から,NTT研究所系
職場はオープンな雰囲気
平均勤続年数が長いのも特徴
◆貴社の社風はどのようなものですか.
人材採用時の売りにもしているのですが,当社は平均勤
の仕事,NTTドコモ系の仕事もさせていただいています.
続年数が16年以上と長いのが特徴です.平均年齢も41歳
今後も大きな意味でのグループ企業として,NTTグループ
ほどと,やや高めです.体育会系の体質ではなく,サーク
各社からの受注量を増やしていきたいですし,それにより
ル活動などもほとんど行われていませんが,職場の雰囲気
NJKの存在価値を示していきたいと考えています.
はオープンですよ.
セグメントの多さと高品質が強み
今後は音声処理や画像処理の領域にも
◆経営姿勢をお聞かせください.
古いやり方だと思われるかもしれませんが,当社では
「品質による経営」を掲げています.具体的にはTQM(総
合的品質管理)を導入し,QC(品質管理)サークル活動も
行っています.品質マネジメントシステムおよび情報セ
キュリティマネジメントシステムでISOを取得するなど,
「きちっとやっていこう」という姿勢を保ち続けています.
◆貴社の強みはどのような点にありますか.
北陸(小松),大阪,広島,福岡,熊本に事業所があり,
月に1度は東京本社に集まって打合せをしています.情報共
有はそのときに行っています.最初は私が全国各地を回っ
ていたのですが,本社にいる時間が短くなってしまって,
それも良くないかなと.ですから地方営業所のトップが東
京に来るというかたちになりました.
◆社員の方々へのメッセージをお願いします.
NTTデータグループに入ったので,まずはその方向性を理
解してください.経営者として,長期的な視点に立って行っ
ていることなので,さまざまな変化も感じるかもしれません
が,1つひとつ地道に対応していってくれることを願います.
NTT技術ジャーナル 2012.3
39
担当者に聞く
OCRとともに歩んで35年間
人間の能力に匹敵するソフトを目指す
た.ハードウェアの活字文書OCRが198万円でしたから,
その10分の1程度と価格だけみると格安ですが,PCのソ
フトとしては高額と言われました.読取り速度は1秒間に
メディアドライブ株式会社 社長 松村 博さん
10文字程度でしたが,当時のOCRソフトとしては優れた
ものでした.現在は計算機パワーが著しく向上しているた
日本のソフトウェアタイプOCR開発の草分けとして
前職時代にハードウェアOCRを開発
◆OCRとはどのようなものですか.
め,1 000文字/秒を読み取ることが可能です.
◆メディアドライブのOCRソフトについて教えてください.
低価格な活字文書OCRソフトとして現在,「e.Typist
v.13.0」を販売しています(図1).ユーザは一般の方々
OCRは,文書や名刺,レ
です.国内最高峰の認識精度のエンジンを搭載し,読み込
シートなどの活字文書を読
んだ画像データを文字認識してWordやExcel,PDFなどの
むものと,手書き帳票を読
ファイルとして出力します.表認識にも対応しています.
むものに大別されます.メ
価格は日本語と英語を認識するものが12 800円,58カ国
ディアドライブではソフト
語に対応しているものが19 800円(税抜)です.
ウェアタイプを中心に両方
ほかに,名刺をスキャンして文字認識する「やさしく名刺
を手掛けています.文書や
ファイリング PRO」や,書類を全文検索可能なPDFにして
名刺,いろいろな帳票の読
管理することができる「やさしくデジタルファイリング」
,レ
取りのほか,当社では扱っ
シートを専用スキャナで読み込む「やさしく家計簿」などが
ていませんが,郵便局で使
松村博社長
われている郵便番号読取り
装置などが代表的なOCRの用途です.
活字文書OCRではまず,スキャナで読み込んだ画像デー
タのレイアウトを解析します.レイアウト解析では,黒い
あります.名刺管理ソフトはジャストシステム社にも提供し
ており,当社と合わせると9割以上のシェアとなっています.
手書き帳票OCRソフトとしては,手書き帳票を読み取っ
てデータ出力をする「FormOCR」などがあります(図2).
業務用がほとんどですね.
部分のかたまりを見つけ,それが文字か文字以外かを判別
活字文書OCRと手書き帳票OCRを比較すると,販売数は
します.その部分が文字であればさらに行を見つけ,登録
活字文書OCRソフトの方が10倍以上と圧倒的に多いので
してある文字パターン辞書と照合して1文字ずつテキスト
すが,単価が安いため,売上では手書き帳票OCRソフトが
データに置き換えていくのです.
多くなっています.また,最近ではスマートフォン版活字
◆OCR技術を長年推進されてきたそうですね.
文書OCRソフトやクラウドサービスの評価版などもつくっ
OCRの仕事をして約35年になります.現在,国内で
OCRにかかわっている専門家の多くが知り合いです.
日本では昭和40年代後半に漢字OCRが誕生しました.
ています(図3).
◆文字認識エンジンの提供なども行っていらっしゃるそう
ですが.
私は前職時代,卓上型手書き漢字OCRを1986年にハード
当社の文字認識エンジンは多くの会社で採用されていま
ウェアとして発売しましたが,198万円もする高額なもの
す.最近の例では,スマートフォンOS(Android OS)で動
だったために200セット程度しか売れませんでした.しか
作する文字認識エンジンが大手通信会社の「料理メニュー
し,当時他社で販売されていた手書き漢字OCR装置は約
翻訳」というアプリケーションに採用されました.料理メ
2 500万円.私が手掛けた装置は識字率も高く,画期的な
ニューにスマートフォンをかざすだけで,英語,中国語,
商品でした.
韓国語をリアルタイムで日本語に翻訳します.日本語メ
1991年に日本初の活字文書OCRソフトが誕生
現在では高性能の製品群を誇る
◆その後,OCRをPCのソフトで実現する方向に転向され
たのですね.
1990年ごろ,PCが普及し始めたときに「ソフトで
OCRをつくりたい」と思い,メディアドライブを創業しま
した.文字認識技術もタイミング良く高速化することがで
き,日本初の活字文書OCRソフト「Mac Reader Japan」
の開発に成功しました.フロッピー1枚の商品ですが,
1991年11月の販売開始当時,価格は24万8 000円でし
40
NTT技術ジャーナル 2012.3
図1 e.Typist v.13.0
図2 FormOCR
図4 手書き文字の認識パターン
図3 スマートフォン版活字文書OCRソフト
ます.それでも人間の能力に一層近づこうと,学習と言語
処理によってどんな文字でも読めるようにするための研究
を行っています.Googleなどが大量のデータを使って言語
ニューを他の3つの言語に翻訳することも可能です.事前に
処理や学習を行っているように,当社のOCRもどんどん賢
翻訳辞書をダウンロードしておけば,通信せずに海外でも
くし,さらに性能を上げていきたいと考えています.
利用できます.なお,文字認識エンジンの提供は国内だけ
◆OCR以外の分野のお仕事を教えてください.
でなく世界展開も考えています.
目標は「人間に近い知的ソフトウェア」
OCRも学習と言語処理の領域へ
◆今後の課題は何ですか.
1990年の創業当初から,「限りなく人間に近い知的ソフ
トウェアの創造」を目指して取り組んできました.OCRは
人間でいえば「目」の部分です.「耳」は音声認識,「口」
は音声出力,「脳」は言語理解や学習などの人工知能,「手」
は今話題になっているAR(拡張現実)や空間把握などです.
OCRが「メモのような手書き文字でも読める」ことを目
メディアドライブはすでにそのすべての領域で開発を行っ
標としています(図4).現在,その目標にかなり近づいて
ており,これからもそれらの技術をさらに高めていくつも
おり,これ以上性能を上げるのが難しいところまできてい
りです.
(インタビュー:村上百合)
■画期的なBUIを搭載「DataNature」
NJKは1996年にデータ活用ツール「DataNature」を製品化しました(図5,6)
.当時は,Excel
やLotus 1-2-3などの表計算ソフトを使いこなすには知識やスキルが必要で,操作に苦戦する企業が多
かった時代.DataNatureに搭載された,既存のデータから操作用のボタンを自動生成するBUI(ボタ
ン・ユーザ・インタフェース)は画期的でした.ボタンの大きさや色でデータ傾向やアラートを確認し
たり,わずか3タッチで集計表をつくれたりと,ほかにはない直感的な簡単さがたちまち人気に.現在も
操作性重視の機能で多くのユーザを引きつけています.
図5 DataNature
■当初はタッチパネルを想定
DataNatureは,もともとタッチパネルを前提として開発されたものだったそうで,指
先のタッチだけですべて操作できる特殊な工夫を凝らしていました.「最近はスマート
フォンなどのタッチ・デバイスが流行ですよね.16年前に苦労したことがようやく実を
結んできたと感じています.苦労はヒットにつながりますよ」とソフトウェアパッケージ
事業部鈴木和憲部長が語ってくれました.
■評価試験に役立つロボット「KURAGE」
携帯の評価作業が連日深夜におよび,
「単純作業を代わってくれるロボットがいたら…」
図6 DataNature 画面イメージ
と思ったことをきっかけに誕生したという「KURAGE」(図7).2003年に実用化しま
した.デジタルカメラやカーナビ,キーボード,ゲームのコントローラなど,さまざまな製品の評価や
環境試験に24時間あたれるという優れもの.現在,常に数機種がベンダの製品テストに使われています.
このロボットを手作業でつくったエンベデッドソリューション事業部吉牟田博課長は「将来的に災害対
策や介護補助にも役立てば」と願っています.
図7 KURAGE
NTT技術ジャーナル 2012.3
41