新標準測定法01の解説 教育講演 - MT Pro

新標準測定法01の解説
(西臺)
回
59
大会
術
学
総会 講演
第
27
会期:2003年 4 月11日
会場:パシフィコ横浜会議センター
新標準測定法01の解説
教育
西臺武弘
日本医学物理学会測定委員会
An Explanation of the New Standard Dosimetry 01
Takehiro Nishidai
Japan Society of Medical Physics, Committee of Dosimetry
はじめに
すなわち,放射線治療では正確な線量を治療部位に限
日本医学物理学会測定委員会は,外部放射線治療に
局して投与しなければならない.放射線治療患者に投
おける吸収線量標準測定法の大幅な改定を行い,2002
与する線量評価の不確定度は,Fig. 1に示すようにȀ5
年 9 月,新たに
『外部放射線治療における吸収線量の
%以内が勧告されている.このうち,Ȁ4.3%は治療
1)
標準測定法
(標準測定法01)
』
(以下,新01法と記す)
と
計画に使用され,残されたȀ2.5%が治療装置の出力
して発刊した.なお,旧標準測定法は1986年に発刊さ
測定に残された不確定度である.それを受けて
れ,1989年に改定された
『放射線治療における高エネ
JASTROのQAプログラムではX線Ȁ2%,電子線Ȁ3%
2)
ルギーX線および電子線の吸収線量の標準測定法』
以内が勧告されている14).そのためには,リファレン
ス線量計の国家標準に対する不確定度はȀ1%以内が
(以下,旧86法と記す)
である.
放射線治療施設のリファレンス
(基準)
線量計の校正
60
要求される.
は,IAEA,AAPMはじめ国際的には, CoͲ線の照射
線量の精度とは,国家標準
(産業技術総合研究所:
線量場を基準とした校正から水吸収線量場を基準とし
以下,産総研と記す)
へのトレサービリティにおける
た 校 正 へ と 移 行 し て い る . 新 0 1 法 は , I A E A,
相対精度である.日本におけるすべての放射線治療施
AAPM,BJR等の報告
3∼7)
を参考にして,主にIAEA
3)
設が,国家標準のもとに統一された同じ方法
(標準測
TRS 398 を取り入れ,水吸収線量校正定数ND,Xを用い
定法)
で,治療線量を求めることが重要である.さら
た新標準測定法への変更,用語,データの見直しと新
に理想的には国際的なトレサービリティが求められ
たな採用,さらに定位照射等におけるナロービームの
る.国際度量衡局
(パリ)
の基準線量計はわが国の産総
線量測定,および陽子線,炭素線の線量測定を追加し
研と同じく電離箱線量計であるが,多くの国の1次標
た.
準線量計はカロリメータが多い.現在,多くの国家間
以下に新01法の解説を示す.本文中,下線で示した
の1次標準
(国家標準)
は空気カーマ値でȀ0.5%以内の
個所は旧86法からの変更,追加等である.なお,新01
差になっている15).
法発刊後に報告された関連文献8∼13)をも参照していた
だきたい.
2.リファレンス線量計の校正
リファレンス線量計の校正は日本医学放射線学会医
1.新標準測定法01の目的
療用線量標準センター
(以下,標準センターと記す)
で
新01法の目的は,各放射線治療施設の高エネルギー
行われる.
光子線,電子線,陽子線,炭素線による線量を国際的
リファレンス線量計はそれぞれの施設の基準となる
に統一された方法で測定することにより,わが国の放
線量計であり,新01法では,原則として,ファーマ形
射線治療線量のトレサービリティを確立し,放射線治
[電離箱]
線量計をリファレンス線量計とする.ただし
–
電子線の場合,平均入射エネルギーE 0が10MeV以下
療のQA/QCを確立することにある.
ある種の癌は線量を10%上昇させるとその制御率を
の場合には平行平板形電離箱線量計を,10MeV以上
15%から75%に上げることができるといわれている.
では平行平板形およびファーマ形電離箱線量計をリフ
一方,腫瘍の周りの正常組織は有害事象が発生しない
ァレンス線量計とする.ファーマ形電離箱線量計は,
ように可能なかぎり線量を落とさなければならない.
電離体積 0.6ml,円筒形部外形 7mm,内径 6mm,長
2004 年 1 月
日本放射線技術学会雑誌
28
Fig. 1 放射線治療における線量評価の不確定度
さ24mm前後の大きさを持つ円筒形電離箱である.旧
86法ではファーマ形の一種であるJARP形電離箱線量
計がリファレンス線量計であったが,新01法では現在
Fig. 2 水吸収線量校正定数N D,wを使用する理由
一般的に市販されているファーマ形に変更した.
放射線治療の線量測定における基準線質Q0は60CoͲ
線である.リファレンス線量計の校正は,産総研の
る.一方,定位照射ビームの測定では,ユーザーによ
60
CoͲ線による国家標準に対して校正定数を持った標
りユーザービームを用いた感度比較によって得られた
準センターの標準線量計
(医療用 2 次標準器)
によっ
使用線量計のコバルト校正定数
(感度校正定数)
をNλと
60
て, CoͲ線の照射線量が確定した校正位置
(空中,照
表記する.
射野10×10cm)
で行われる.リファレンス線量計の指
新01法では,コバルト校正定数Nc,Nc,Xから得られ
示値から,一般に繰り返し計測の平均値を使用して,
る水吸収線量校正定数ND,wを使用する.放射線治療の
コバルト校正定数Ncが与えられる.60CoͲ線照射線量
基礎は水吸収線量であり,照射線量のコバルト校正定
場でビルドアップキャップを装着した電離箱線量計を
数Ncの使用よりも水吸収線量校正定数ND,wの導入によ
校正する場合,電離箱
(ファーマ形および平行平板形)
って,Fig. 2に示すように,各治療施設における線量
の幾何学的中心位置における照射線量をX air,このと
測定の誤差要因が減少する.旧86法の出力測定では,
きの線量計の指示値をMとすると,コバルト校正定数
リファレンス線量計の指示値MにNcおよび吸収線量変
N cは次式で与えられる.
換係数Cλ,CEを乗じて校正点吸収線量を求めていた.
(1)
Nc = Xair / M ……………………………………
一方,新01法では指示値Mに標準センターから与えら
れる水吸収線量校正定数ND,wおよび線質変換係数kQを
なお,新01法の校正定数は,旧86法と同様に,
“湿
乗じることにより校正点吸収線量を求める.2002年 8
潤空気”
で与えられる.一般的な空調がなされた環境
月の標準センター会議において,従来のNcとともに
での湿度範囲内で測定を行えば,その湿度補正係数kh
ND,wを供給することが決められた.なお,リファレン
値として 0.9975が採用でき,その誤差は最大でも 0.1
ス線量計の校正は年 1 度の頻度で行うことが望まし
%である.日本における測定では,産総研での値づけ
い.
をも含めて,この誤差を容認して測定ごとの湿度補正
水吸収線量校正定数N D,wは,コバルト校正定数N c
はお互いにキャンセルできるとして,特に湿度補正を
(あるいはNc,X)
にリファレンス線量計ごとに与えられ
11)
行っていない .
コバルト校正定数はファーマ形電離箱線量計で水フ
ァントムまたは水等価ファントム中のリニアックX線
場における標準線量計との感度比較によっても得ら
る校正定数比kD,X
(=ND,w/Nc)
を乗じて求める.
(2)
ND,w = Nc kD,X ……………………………………
ここで,校正定数比kD,Xは次式で与えられる.
れ,このときのコバルト校正定数はNc,Xと表記する.
標準センターは,ファーマ形電離箱線量計99本に対し
て,X線の公称エネルギーや加速器の機種の違いには
有意には依存せずにNc,X/Nc=1.001Ȁ0.006を実験的に得
ている
k D, X =

 L 
N D,w W air
katt km kcel  
Pwall Pcav Pdis Pcel 
=
Nc
e
 60Co
 ρ  w,air
………………………
(3)
16)
.N c,N c, Xは標準センターにより与えられ
第 60 卷 第 1 号
新標準測定法01の解説
(西臺)
29
新01法では,W/e値として国際的に勧告されている
照射野A(A)
0
を10×10cmにセットする.ただし,電
空気乾燥状態の33.97Ȁ0.15 J/Cを採用した.一方,旧
子線の照射野
(A0)
はR50によって決定する.
86法では,湿度状態の値として33.73 J/Cを採用してい
たが,本来,産総研
(旧電総研)
での値づけは
(乾燥状
態の)
照射線量でなされ,産総研における新W/e値
(R50≦7gcm−2)
A0 = 10×10cm
A0 = 20×20cm
(R50>7gcm−2 )
33.97 J/C採用
(1995年)
以降の一連の校正および測定に
高エネルギー光子
(X,Ͳ)
線の線質指標は,組織フ
おいては乾燥状態のW/e値を使用すべきであった.こ
ァントム比TPR20,10で与えられる.TPR20,10は,線源
のW/e値に関連する新旧の相違は+0.7%(33.97/
検出器
(電離箱)
間距離を100cm,その位置での照射野
33.73=1.007)
となる.
を10×10cmとした場合の水中での20cmと10cm深さの
60
kattは電離箱材質による CoͲ線の吸収および散乱の
水吸収線量の比である.なお,TPR20,10の測定では測
補正係数であり,旧86法のAcである.kmは電離箱壁お
定位置は電離箱幾何学中心で,その変位補正は行わな
60
よびビルドアップキャップの空気に対する CoͲ線の
い.旧86法では,線質表示にTPR20,10と深部量 7 割深
不等価性の補正係数であり,旧86法のA wである.kcel
d0.7を採用していた.高エネルギーX線のTPR20,10と公
は,新01法に新しく採用した補正係数で,中心電極の
–
影響の補正項である.
(L /ρ)
W,airは水と空気との平均制
称エネルギーである加速エネルギー
(MV)
との関係近
限質量衝突阻止能比である.電離箱を水中に設置する
ある.
似式は次式で表される13).ここで X はTPR20,10の値で
ことによる擾乱補正係数PにPwall,Pcav,Pdis,Pcelがあ
λ
(MV)
=−1818.9+8183X−12284X2+6172X3
る.各擾乱補正係数については次節で説明する.概念
(4MV≦λ≦18MV)
……………………
(4)
60
的には,kD,Xは旧86法での CoͲ線に対するCλに相当す
kD,X値は,既存の電離箱線量計に関して新01法冊子
電子線の線質はR50から求める.電子線の公称エネ
–
ルギーである平均入射エネルギーE(MeV)
0
は,次式に
に与えると同時に,その計算法を解説している1).そ
より求める.
る.
の値のない線量計あるいは今後新たに導入される線量
計に関しては,その形状,材質の近い線量計の各補正
係数等を使用して求めるものとする.なお,新01法で
は種々の係数の定義,名称,および記号を変更した.
また,それらの名称,記号は新01法1),IAEA 3∼5),
AAPM6),BJR7)冊子でわずかずつ異なるので注意が必
–
(5)
E0=2.33・R50 ……………………………………
R50は深部電離量半価深I50から次式により求める.
R50 = 1.029 I50−0.06gcm−2
(I 50≦10gcm−2) ……
(6)
(I50>10gcm−2) ……
(7)
R50 = 1.059 I 50−0.37gcm−2
要である.
ここで,I50は水ファントムまたは水等価ファントムを
2002年 8 月の標準センター会議以後に,国家標準の
用いてSSD 100cmで測定する.
Xair値がわずか
(0.3%下方修正)
に変更され,また校正
高エネルギー光子線の校正深dcは,ビーム軸に沿っ
定数比kD,Xに使用されている種々の係数値についての
た水中10cmの深さである.一方,電子線の校正深dcは
変更があるので,一般ユーザーはすべてのリファレン
R50を用い,次式により決める.
ス線量計の校正を改めて受ける必要がある.
3.高エネルギー光子線,電子線の校正点吸収線量の
測定
(8)
dc = 0.6 R50 −0.1gcm−2 …………………………
なお,旧86法の校正深は線質ごとに決められていた.
水ファントム中の測定では,測定位置が電離空洞内の
測定用ファントムは,基本的に水平断面積
どこにあるかを決めなくてはならない.円筒
(ファー
30×30cm,深さ30cm以上の水ファントムである.特
マ)
形電離箱では,電離空洞内面が曲面であるから電
3)
6)
に,IAEA ,AAPM では,水ファントム以外での使
離空洞内の線量勾配を補正するため,測定の実効中心
用を避けることを強く勧告している.ただし電子線の
–
場合,深部[吸収線]量半価深R 50 が4.0gcm −2(E 0 ≒
は電離空洞の幾何学的中心から線源寄りの位置にある
10MeV)
未満では,水等価ファントムを使用してもよ
Dcの測定では,ファーマ形電離箱幾何学的中心を測定
と考えられている.しかし,光子線の校正点吸収線量
い.そのときには,あらかじめファントム材質の違い
点として変位補正係数P disによる補正法を採用する.
に対するスケーリング補正係数
(深さスケーリング係
なお旧86法では,変位補正係数または半径変位法
(2/3r
数c pl,フルエンススケーリング係数h pl )
を求めてお
前方変位,r:円筒形の半径)
の採用が認められてい
く.ファントムは,その表面がビーム軸に垂直でコリ
た.電子線の測定では,平行平板形電離箱線量計の測
メータに対し指定の位置になるよう固定する.
定点は電離箱空洞内前壁
(前壁変位法採用)
であり,フ
2004 年 1 月
日本放射線技術学会雑誌
30
Table 1 高エネルギー光子線,電子線の校正点吸収線量D c測定の基準条件
項目
光子線
電子線
ファントム材質
水
水または水等価ファントム
校正深,dc
10cm
dc=0.6 R50−0.1g cm−2
電離箱
ファーマ形a
平行平板形,ファーマ形
電離箱の基準点
幾何学的中心
前壁内側中心(平行平板形)
0.5rcyl(ファーマ形)d
基準点の位置
校正深(水):10cm
校正深
SSDまたはSCD
80cmまたは100cmb
80cmまたは100cmb
照射野
10×10cmc
e
−2 または
10×10cm(R
50≦7gcm )
e
−2)
>7gcm
20×20cm(R
50
a 平行平板電離箱は,光子においては,リファレンス線量計として推奨されていない.
b SSDまたはSCDは臨床に使用しているセットアップ値にする.
c 照射野サイズは,SSDセットアップではファントム表面の値であり,STD(SAD)
セットアップでは校正深の
電離箱平面の値である.
d ファーマ形電離箱は,R50が4.0gcm−2以上の場合に用いることができる.
e 照射野サイズは,ファントム表面の値である.
ァーマ形電離箱線量計の測定点はその電離箱の幾何学
的中心より0.5rcyl前方である
(半径変位法,rcyl:円筒形
の半径)
.なお旧86法では,光子線の場合と同じく2/3r
前方変位であった.
高エネルギー光子線,電子線の校正点吸収線量Dc測
定の基準条件をTable 1に示す.

 L 
 
Pwall Pcav Pdis Pcel 

 ρ  w,air
Q
k
=
……………
(11)
Q

 L 
 
Pwall Pcav Pdis Pcel 
 60Co
 ρ  w,air
–
ここで,
(L/ρ)
W,airは水と空気との平均制限質量衝突阻
上記の条件で測定したとき,必要な補正を施したリ
止能比である.光子線TPR 20,10を関数とした材質と空
ファレンス線量計の指示値Mは,次式で求められる.
気の平均制限質量衝突阻止能比の新旧相違は,高エネ
M = M raw kTP kpol ks kelec …………………………
(9)
ルギーで差が生じ,約10MV X線で約−1%の修正とな
っている.一方電子線の場合,平均制限質量衝突阻止
–
ここで,Mrawは 3 回以上の測定により得られるリファ
能比の相違は浅部で+0.5%程度,深部で−0.5∼1.0%程
レンス線量計の平均指示値,k TP は温度気圧補正係
度の差となる.
数,kpolは極性効果補正係数,ksはイオン再結合補正係
Pwallは電離箱壁材と電離箱防水鞘材質の水不等価性
数,kelecは電位計校正定数である.なお,kelecは新たに
による電離箱線量計の応答の違いを補正する係数
(壁
導入された校正定数であり,電離箱および電位計を一
材質補正係数)
であり,2 次電子平衡が成立している
体として校正した場合の値は1.0である.新01法で
60
CoͲ線では 1.0である.Pwallは次式で与えられる.
は,これら係数の一部の名称および記号を変更した.
校正点吸収線量D cは,次式より求める.
(10)
Dc = M ND,w kQ ………………………………
( Pwall )Q
  L

 µ en 
 µ en 
 L
 L
+ (1 − α − τ ) 
+τ 
α  





 ρ  sleeve,air  ρ  w,sleeve
 ρ  w,air 
  ρ  wall,air  ρ  w,wall
=

 L


 


 ρ  w,air


ここで,M,N D,w ,k Q はリファレンス線量計の指示
……………………
(12)
値,水吸収線量校正定数,および線質変換係数であ
ここで,Ͱは電離箱内空気の電離箱に対する電離箱壁
る.
から発生した 2 次電子による電離割合,τは電離箱内
線質変換係数kQとは,電離箱線量計の校正に用いる
60
空気の電離量に対する防水材質から発生した 2 次電子
基準線質Q(=
0
CoͲ線)
と測定対象とする線質Qに対す
による電離割合である.
る電離箱線量計の応答の違いを補正する係数である.
Pcavは水中に電離箱の空洞がある場合とない場合に
kQの値は線質Q
(光子線ではTPR20, 10,電子線ではR50に
ついて,電子の散乱の変化に起因する電子フルエンス
よって規定)
の関数で,電離箱線量計に依存する.kQ
の相違に基づく電離箱線量計の応答の違いを補正する
は次式で与えられる.
係数
(空洞補正係数)
であり,旧86法のPfに相当する.
光子線のPcavは円筒形の 2 次電子平衡が成立している
第 60 卷 第 1 号
新標準測定法01の解説
(西臺)
31
場合で1.0,平行平板形で 1.0 である.電子線のPcavは
平行平板形
(Capintec PS-033 およびMarkus形を除く)
で1.0,円筒形の場合は次式で表される.
P cav=1−0.0217rcylexp
(−0.153R50)
………
(13)
Pdisは測定の実効中心を電離箱の幾何学的中心とし
た場合,水を電離箱空洞で置き換えることによる影響
を考慮した係数
(変位補正係数)
であり,旧86法のPdに
相当する.円筒形電離箱のPdisは,一般に次式で表さ
れる.
 1  D20 

Pdis = 1 − 
ln
(14)
 − 0.0016  deff − dp ………
 100  D10 

0.6<
(D 20/D 10)
<0.8および90cm<SSD<100cm
(
)
ここで,D20/D10=TPR20,10,deff-dp=0.6×rcyl,rcylはmm単
位の空洞半径である.60CoͲ 線の場合は次式で表され
Fig. 3 代表的な電離箱線量計の光子線kQ値
る.
(15)
P dis=1−0.004r cyl ………………………………
Pcelは円筒形電離箱による水ファントム内測定の場
合,中心電極による電離箱線量計の応答の影響を補正
Dr = 100Dc/PDDc ………………………………
(16)
(17)
Dr = Dc/TMRc ………………………………
する係数
(中心電極補正係数)
で,中心電極の空気不等
ここで,PDDc,TMRcは線質Qの照射野10×10cm,校
価性に対する補正係数である.1mm直径のAl電極を
正深における深部量百分率,組織最大線量比である.
1)
持ったファーマ形電離箱のPcelが新01法冊子 に与えら
なお,基準点とはビーム軸上の基準深drの点であり,
れている.
一般的にはPDDの100%,TMR,TPRの 1 となる深さ
リファレンス線量計のkQ値を既存の電離箱線量計に
1)
である.
関して新01法冊子 に与えると同時に,その計算法を
加速装置のモニタ線量計は,通常,照射野10×10cm
解説している.Fig. 3に代表的な電離箱線量計のkQ値
のD rを出力として校正する.モニタ線量計の校正で
を示す.
は,測定を迅速に行うためには,水等価ファントム
線質変換係数kQと校正定数比kD,Xを乗じた値は概念
(大きさが20cm×20cm×20cm以上)
の使用が便利であ
的に旧86法の吸収線量変換係数C λ,C Eと同じもので
–
ある.新01法では,W/e値,阻止能比値,各種補正係
る.ただし,あらかじめ水ファントムとの比較を行
数等の見直しを行い,その値を変更している.Table 2
正係数を求めておく.モニタ指示値の直線性等は,外
に代表的な電離箱の旧86法のCλ値と新01法のkD,X ×kQ
部放射線治療装置の保守管理プログラム14)などを参考
値を比較する.これらの値のうち 0.5%を超える差を
にして,チェックされていなければならない.
生じるものもあるが,その比の平均は+0.2Ȁ0.4%
ビーム軸上の任意深さ d,任意照射野A
(A0)
の深部
(n=42)
であった.旧86法から新01法の変更により,Nc
〔吸収線〕
量D
(d, A
(A0)
)
は,照射野10×10cmのDrから
い,大きさおよび材質の違いに対するスケーリング補
の国家標準が約−0.3%修正,光子線ではkD,X ×k(=C
Q
λ)
基準点出力係数 OPFrおよびPDD,TMR,TPR を用い
が約+0.2%の変更であり,その結果,新01法採用によ
て計算により求める.
る光子線の出力測定値の変更はほとんどないといえ
る.
4.基準点吸収線量D(
r A0
(A )
)
および深部吸収線量
D
(d ,A
(A 0)
)
の計算
D
(d,A0)
= D(A
r
0=10cm×10cm)
・OPF(A
r
0)
・PDD
(d,A0)
/100
……………………
(18)
D(d,A0)
= D(A=10cm×10cm)
r
・OPF(A)
r
・TMR(d,A)
……………………
(19)
治療装置の出力である基準点吸収線量D(最大深吸
r
ここで,それぞれの治療装置の水中深部量比
(PDD,
収線量D
(dmax)
)
は,校正深で測定した校正点吸収線量
TMR)
および各種照射野と照射野10×10cmとの出力比
D cから深部量比PDD,TMRを用いた計算により求め
であるOPF(A
r
(A)
0
)
は,前もって,各種線量計を用い
る.
て求めておく.
2004 年 1 月
日本放射線技術学会雑誌
32
Table 2 代表的な電離箱のC λ値とkD, X ×k Q値との比較
線質/MV
TPR20,10
JARP
PTW233
NE25/3A
NE2571
NE2581
PR-06C
Cλ
0.572
Cλ
kD,X
比
36.77
37.00
1.006
36.81
36.94
1.004
36.72
36.95
1.006
36.72
37.09
1.010
36.54
36.68
1.004
36.43
36.72
1.008
4
0.626
Cλ
kD,X×kQ
比
36.65
36.83
1.005
36.67
36.78
1.003
36.67
36.91
1.006
36.67
37.04
1.010
36.29
36.43
1.004
36.48
36.71
1.006
6
0.676
Cλ
kD,X×kQ
比
36.64
36.68
1.001
36.67
36.62
0.999
36.74
36.78
1.001
36.74
36.92
1.005
36.28
36.18
0.997
36.55
36.58
1.001
8
0.713
Cλ
kD,X×kQ
比
36.43
36.45
1.001
36.47
36.39
0.998
36.53
36.61
1.002
36.53
36.75
1.006
36.07
35.92
0.996
36.38
36.37
1.000
10
0.731
Cλ
kD,X×kQ
比
36.35
36.33
0.999
36.39
36.27
0.997
36.41
36.50
1.002
36.41
36.63
1.006
35.91
35.77
0.996
36.26
36.24
0.999
15
0.763
Cλ
kD,X×kQ
比
35.99
36.00
1.000
36.02
35.95
0.998
36.09
36.21
1.003
36.09
36.35
1.007
35.55
35.43
0.997
35.90
35.91
1.000
20
0.782
Cλ
kD,X×kQ
比
35.67
35.79
1.003
35.71
35.73
1.001
35.81
36.00
1.005
35.81
36.14
1.009
35.24
35.22
0.999
35.59
35.66
1.002
注)下線は 0.5%以上の差が生じた場合を示す.
5.深部量百分率曲線および基準線量分布の取得
療装置の保守管理プログラム14)などによって担保され
光子線の深部量百分率は,使用する円筒形電離箱の
ていることが必須である.さらに治療装置,線量計
半径変位法
(0.6rcyl:rcyl円筒形の半径)
を採用すれば,
側,自動制御水ファントム,およびこれら相互の幾何
電離量百分率と同じになる.電子線の場合,小型円筒
学的配置条件に関わる恒常性が維持されていなければ
形電離箱では0.5rcyl
(半径変位法)
,平行平板形電離箱
ならない.これらの測定は,治療装置あるいは計画装
では電離箱空洞内前壁
(前壁変位法)
として,測定した
置ごとに,使用者の責任において実施しなければなら
深部電離量百分率に各深さにおける平均制限質量衝突
–
阻止能比
(L/ρ)
W,airを考慮することにより得られる.特
ない.
に,電子線の深部量百分率は深部における変化が激し
おわりに
く,その測定にはなるべく小型の線量計を使用するこ
標準測定法01では,水吸収線量校正定数を用いた標
とが望ましい.現時点では,電子線のための擾乱補正
準測定法への変更,用語,データの見直しと新たな採
係数が深さにより変化しない平行平板形電離箱を用い
用,さらに定位照射等におけるナロービームの線量測
て深部量百分率を測定すべきである.
定,および陽子線,炭素線の線量測定を追加した.こ
外部照射による体内線量分布を計算する治療計画装
こでは主に光子線と電子線の標準測定法について新標
置に,実際に用いる治療装置の実測ビームデータを格
準測定法01を解説した.今後,すべての放射線治療施
納する必要がある.新01法では,これら測定項目,方
設において,この新標準測定法01に準拠して線量測定
法,設備を具体的に説明している.まず治療装置の線
がなされ,わが国の放射線治療QA/QCシステムの確
量および機械的精度に関わる諸条件が,外部放射線治
立に寄与されることを希望する.
第 60 卷 第 1 号
新標準測定法01の解説
(西臺)
33
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