デジタル家電の技術と国際競争力―垂直統合・製造委託・生産立地戦略― 【プロジェクトメンバー】 鈴木良始、Timothy Sturgeon(マサチューセッツ工科大学)、中道一心 【研究期間】 2004 年 4 月-2007 年 3 月 【プロジェクトの概要】 このプロジェクトは、家電製品の基礎技術がアナログ技術からデジタル技術へと大き く転換したことと、安価な製造拠点としての中国の台頭という競争環境の変化のなかで、 デジタル家電産業における有効な競争戦略を製品・製造技術と国際比較の視点から研究 することを課題としている。 基礎技術のデジタル化は、家電産業が PC 産業との類似性を強めることを意味する。 デジタル化以前の家電製品は PC 産業とは技術が異なるため、両産業で活動する世界 の主要企業は異なっていた。 PC とその周辺機器産業では、米国、台湾、韓国の企業 が有力でありつづけてきた。そのビジネスモデルは水平分業型であり、そこでは各企業 はグローバルなバ リュー・チエーン内の特定段階に特化し、その他の機能は製造委託、 部材購入などのかたちでアウトソースする。他方、家電産業ではこれまで日本企業が世 界で強い競争力を保持してきた。そのビジネスモデルは、製品の開発・設計・量産ばか りでなくその主要部材も可能な限り内製する垂直統合型が多く、また特定 製品分野に 特化せずに家電製品全般を比較的広く事業に含む総合家電型の傾向が強い。 PC 産業は部品間インターフェースを標準化し、各部品仕様をかなり厳格に規格化した ため、水平型ビジネスモデルをとる企業が強みを発揮した。 PC 製品では製品の技術 的差別化の余地は小さく、量産規模と安価な労働費用による価格競争力が重要であった。 差別化が通用しないため、日本家電企業は PC 産業では力を発揮できなかった。 中国が世界の製造基地として台頭した現在、世界の PC 産業は中国を水平分業型産業 構造に組み込んできた。これによって、 PC 産業の水平分業型ビジネスモデルは、強 力な低コスト製造パワーを手に入れ、いっそうその競争力を強めてきた。他方、日本の 家電企業は、技術の成熟した家電製品では製造拠点の中国への移管でコスト競争力を確 保しようとしてきたが、技術変化が進むハイエンド製品では、垂直統合・総合型ビジネ スモデルに依拠して国内で開発・製造を続け、差別化された製品で強さを発揮しようと している。 家電製品のデジタル技術化による PC 技術との親和性の増加と、中国の台頭は、日本 の家電産業のビジネスモデルを陳腐化するのか。日本企業は、どのような競争戦略の見 通しをもっているのか。いかなるビジネスモデルがデジタル家電産業に定着するのか。 こうした問題を、産業と個別企業の動向を詳細にサーベイし、主要企業へのインタビュ ー調査を行い、また海外企業との比較分析を行うことで、明らかにするのがこのプロジ ェクトの問題設定である。 本プロジェクトは 2004 年初めからスタートし、ただちに日本の代表的な家電企業のヒ アリングを行った。ヒアリング対象となった企業の競争戦略の共通点は、技術的な差異 化によって競争優位を構築しようとするものであった。そのために、生産の海外移転よ りは国内立地を維持し、また特定のバリュー・チェーン段階に特化するよりは垂直統合 を志向する傾向が明瞭にみられた。 この戦略が有効であるためには、迅速な製品開発による不断の先行、市場が必要性を認 めるような差別化を実現し続ける必要がある。そのためにはハイエンド製品の迅速な開 発を支える国内立地と垂直統合型ビジネスモデルとコスト効率とのトレードオフを可 能な限り高い次元で解決しなければならない。これは可能なのか、また可能だとすれば どのようにしてかを明らかにする必要がある。この点に関連して、コスト効率と国内生 産を両立させる組立方式としてのセル生産方式についても研究する必要がある。 セル生産方式の実施は、日本国内とアジア、欧米でどのような相違をもたらすのか、そ れはどのような要因によるのか。このような問題も本プロジェクトの問題関心の一つで あり、特定企業の日本国内、海外の実践状況の調査・比較研究を実施している。 【提携校】 マサチューセッツ工科大学(米国) 【関連研究成果】 〔学会発表等〕 Yoshiji Suzuki, “ The Rise of China as a Low-Cost Manufacturing Power and Diffusion of Cell Production System in Japan ” The International Pre-seminar on Production Management Systems at The School of Business , Stockholm University , March 27, 2005 鈴木良始「デジタル家電産業と日本的ビジネスモデルの追求」日本経営学会第 79 回全 国大会統一論題(日本型経営の実態分析)報告,2005 年 9 月 10 日,九州大学 鈴木良始 「デジタル情報家電産業における統合型ビジネスモデルと知識創造」、第 19 回 ITEC セミナー、 2004 年 10 月 18 日、同志社大学 鈴木良始 「デジタル家電産業における統合型ビジネスモデルの可能性と日本企業」工 業経営研究学会第 19 回全国大会統一論題 ( モノづくりにおける知の創出と連携 ) 、 2004 年 9 月 12 日、北海学園大学 鈴木良始「セル生産方式普及の市場条件と技術展開の方向性」日本経営学会第 77 回大 会 2003 年 9 月 5 日 於:愛知学院大学 中道一心「産業特性と市場動向への適応方法 ― デジタルカメラ産業のケース ― 」 TIM オープンチュートリアル(於 同志社大学)、 2004 年 11 月 15 日。 Kazushi Nakamichi ”Will Japanese digital still camera manufacturing companies be able to compete?”International Ph.D Workshop on TIM (於 同志社大学)、 2005 年 3 月 12 日。 Kazushi Nakamichi ”Japanese manufacturing companies' competitive advantage in the digital still camera industry,”The International Preseminar on Production Management Systems , Stockholm University , March 27, 2005 〔論文〕 鈴木良始「台湾TFT液晶パネル産業の発展構造と課題」ASIM Working Paper Series No.E-05-07,工業経営研究学会『グローバリゼーション研究』Vol.2 No.2,2005 年 9 月, 17-24 鈴木良始「デジタル家電産業における統合型ビジネスモデルと技術的差異化の競争戦 略」 『工業経営研究』19 巻,2005 年,8-16 鈴木良始「デジタル家電産業と日本的ビジネスモデルの追求」 『日本経営学会第 79 回大 会-報告要旨集-』 (九州大学,2005 年),77-85 Yoshiji Suzuki,” Structure of the Japanese Production System: Elusiveness and Reality ” (2004) Asian Business and Management , Vol.3, No.2, June 鈴木良始「デジタル家電産業における垂直統合型ビジネスモデルの可能性と日本企業」 『工業経営研究学会第 19 回全国大会予稿集』(北海学園大学、 2004 年)、 15-20 中道一心「フレキシビリティの重層性と市場特性 ― デジタルカメラ産業における OEM 企業 A 社のケース ― 」 『同志社大学大学院商学論集』第 39 巻、第 1 巻、 2004 年 9 月 30 日。 中道一心 「サイクルタイムの組み合わせと市場適応力 ― デジタルスチルカメラ産業 における完成品メーカー B 社のケース ― 」 『同志社大学大学院商学論集』第 39 巻、 第 2 巻、 2005 年 3 月 31 日。 〔関連論文〕 鈴木良始 「セル生産方式の普及と市場条件」 (2003) 『同志社商学』第 54 巻第 4 号、 52-72 、2月 鈴木良始「セル生産方式普及の市場条件と技術展開の方向性」日本経営学会編『グロー バリゼーションと現代企業経営(経営学論集第 74 集)』千倉書房、 156-157 、 2004 年 9 月 1 日
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