中西準子 - 安全科学研究部門

NEDO プロジェクトの進め方と2年間の成果
中
西
準
子
産業技術総合研究所 安全科学研究部門、〒305-8569 茨城県つくば市小野川 16-1
1. はじめに
06 年度から5カ年計画で始まった NEDO 研究プロジェクト「ナノ粒子の特性評価手法の
研究開発」の構想と2年間の成果の概略を紹介したい。このプロジェクトは、05 年から始
まった産総研内部での研究「新技術のリスク評価・リスク管理手法の研究-ナノテクノロ
ジーのケース研究-」と、産業医大・広島大学による NEDO
プロジェクト「ナノ粒子の
吸入暴露による生体影響評価の予備的試験に関する調査研究」を基礎にして発足した。産
総研内の6研究ユニットと産業医大を含む4大学の約 50 名の博士研究員が参加している。
このプロジェクトの目標は、試験試料の調製方法、粒子の形状や大きさに関する測定技
術、有害性試験手法、暴露評価手法を確立し、それらの手順を manual としてまとめ、公表
すること、そして、最終的には、代表的ないくつかのナノ材料についてのリスク評価結果
とそれに基づくリスク管理に関する提言を出すことである。有害性評価でなく、リスク評
価であることと、試験試料の形態やサイズの測定に力を入れていることは、このプロジェ
クトの他と異なる大きな特色である。
アウトプット、アウトカム
フレームワーク
・規制の枠組みに関する
ガイダンスの策定
リスクマネージメント
リスクマネージメント
・フラーレン、カーボンナノ チューブ、二酸化チタンの
リスク評価書作成
リスク評価
リスク評価
有害性評価
有害性評価
・有害性試験のための
プロトコルの作成
暴露評価
暴露評価
・試験試料調製のための
マニュアル策定
試料調製
試料調製 && 計測
計測
社会的影響
社会的影響
図 1.
研究の全体像
・計測方法のマニュアル策定と
標準化
2.有害性評価についての考え方
2.1
試験試料の調製とサイズの測定
ナノ粒子の有害性試験と試験試料のサイズについては、できるだけ分散された状態の試
料を使うことがのぞましいと考えた。そして、in vitro 試験では、この方針を堅持するが、in
vivo 試験では、吸入試験に支障のない程度に分散された状態で実施することを可とするとし
た。この2年間で、我々が in vivo 試験に用いたナノ粒子の種類とサイズを表1と表2に示
す。
表1.
試験用試料のサイズ(無機化合物-
物質名 (略号)
BET 表面積 (m2/g)
in vivo 試験)
NiO(A)
TiO2 (ST01)
Anatase
TiO2 (ST21)
Anatase
TiO2 (ST41)
Anatase
TiO2 (ST01)
Anatase
105
316
66
10
316
5
平均
一時粒子
20
5
23
154
粒径
二次粒子(液中)
26
19
28
176
(mm)
三次粒子(気中)
59
-
-
-
-
なし
DSP
DSP
DSP
DSP
気管内投与
○
○
○
○
○
吸入
○
なし
なし
なし
なし
分散剤
試験
DSP:リン酸二ナトリウム、
表2.
2
BET 表面積(m /g)
19
試験用試料のサイズ(炭素系 - in vivo 試験)
C60 (SU)
MWCNT
SWCNT
0.92
9
878
-
32
3*
1)
一時粒子
粒径
二次粒子(液中)
26
(500?)
13*2)
(mm)
三次粒子(気中)
約 100
180*3)
-
Tween80
Triton 100 X
Tween80
○
準備中
○
準備中
-
試験
気管内投与
吸入
*1)長さ 1mm 以下、
C60:フラーレン、
300
○:試験中
平均
分散剤
65
○
*2)長さ 420nm、
*3)長さ 4.5μm 以下
MWCNT:多層カーボンナノチューブ、
SWCNT:単層カーボンナノチューブ、
○:試験中
この表に示すサイズの粒子試料を安定に調製することに成功し、かつ、培養液を含む溶
液中の粒子の粒径分布、個数濃度の測定が可能となった。試料調製法の詳細については、
遠藤茂寿氏が報告する。また、気相中粒子については、粒径分布、個数濃度に加え、重量
濃度の計測が可能となった。しかし、これらはいずれも粒子は球形を仮定した値であり、
非球形の場合の計測法の開発を現在進めている。電顕による測定方法の開発については、
山本和弘氏が別途報告する。
ナノ粒子の生体内動態解析は、組織内ナノ粒子の化学分析をすることで進めている。定
量下限値は、NiO の場合には大凡 0.01 mg/kg tissue、フラーレンの場合には 0.1 である。NiO
(平均粒径 26nm)の肺中での半減期は 61±9日であった(田尾博明氏)
。
2.2
有害性試験
有害性試験については、図1に示すような二軸アプローチを基本方針としている。フラ
ーレン、カーボンナノチューブ、対照としての酸化ニッケルなど限られた数種の代表的な
物質については、ラットを用いた in vivo 試験(気管内注入、吸入)、体内動態試験、マイク
ロアレイを用いた遺伝子発現解析を含む詳細な横軸試験系を適用し、人の健康影響への外
挿を行う、他方、簡単な in vitro 試験(複数)の縦軸試験系は約 50 種のナノ材料に適用し、
有害性の相対比較に用いる。やや、この二軸アプローチから外れるが、粒径の異なる二酸
化チタンを対象に、気管内注入法を用いて、粒子サイズの違いによる影響を調べ、また、
経皮暴露に伴う有害性試験を行う。
これらの試験での評価項目及び結果については、有害性試験の課題の中で森本泰夫氏、
小林憲弘氏、吉田康一氏が報告するが、特に、炎症、酸化ストレスの影響を知るための測
定系については、表3に示す。
インビトロデータの活用
ヒトへの影響
ヒトのNOAEL
遺伝子発現解析
バイオマーカー
体内動態
吸入試験
気管内注入
縦軸(インビトロ)
50種のナノ材料
ヒトデータ
(文献など)
動物の
NOAEL
5種のナノ材料
図2.
横軸(インビボ)
有害性評価のための二軸アプローチ(吸入系の場合)
表3.
指標、指標分類
測定指標
ROS
総 ROS、各種の ROS
ROS
総 ROS、各種の ROS
ROS による生成物
DCFH
脂質酸化物
HODE, Isoprostane, DPPP オキサイド
タンパク質カルボニル
タンパク質カルボニル
細胞生存率
MTT 法、LDH 法
マイクロアレイ
マイクロアレイ
核酸塩基酸化物
8-oxo-dG、8-OH-dG
脂質酸化物
HODE, Isoprostane,
抗酸化物質
HO-1,
非細胞系
in vitro
酸化ストレスに焦点を当てた測定系
in vivo
マイクロアレイ
肺
肝臓
マクロファージ
マクロファージ数
好中球
好中球数
LDH(乳酸脱水素酵素)
LDH
サイトカイン
IL-1α,IL-1β, IL-4, IL-6, IL-10, TNF-αGM-CSF, IFN-γ
in vivo での
関 連 指 標
(BALF 中)
グルタチオン
ROS: Reactive oxygen species(活性酸素種)、DCFH: 2‘,7’-ジクロロジヒドロフルオレセイン、
HODE:ヒドロキシリノール酸、DPPP:ジフェニル-1-ピレニルホスフィン、8-oxo-dG:8-オキソグアノシン、8-OH-dG:
8-ヒドロキシデオキシグアノシン、HO-1:ヘムオキシゲナーゼ、LDH:乳酸脱水素酵素、IL:インターロイキン、TNFα:腫瘍壊死因子、GM-CSF:顆粒球単球コロニー刺激因子、IFN-γ:インターフェロンガンマ
3.リスク評価
3.1
暴露評価
ヒアリング、アンケート調査、文献調査、作業環境でのモニタリング、模擬排出試験な
どを行うことで、ナノ粒子の製造から廃棄にいたるライフサイクルでの粒子サイズ別排出
量、排出形態のインベントリーを作成する。それを基に、ほぼ 30 の生活スタイルについて
の暴露量推定を可能とする。現在までの実験結果については、蒲生昌志氏が報告する。
3.2
リスク評価
暴露評価結果と有害性評価結果を基に、リスク評価を行い、2010 年度中にフラーレン、
カーボンナノチューブ、二酸化チタンについてのリスク評価書を作成することを目標に調
査研究を進めている。
NMs:ナノ材料、CNTs:カーボンナノチューブ
FY
in vitro
(培養細胞系)
2006
2008
2009
2010
HaCat, A549, Caspase-3, 拡張
7 15 50
(物質数)
有害性評価
2007
リ
NiO
in vivo
C60
MWCNT
SWCNT
ス
バイオマーカー、体内動態
ク
有害性評価
ア
セ
エアロゾル生成
試料調製
ナノ粒子試験試料の調製
ナノ材料の分散化
試験サンプル, 希釈標準溶液, 組織サンプル
TEM, SEM, DMA, CNC, 化学分析, etc.
計測
ナノ材料の計測手法
標準化法
ス
メ
ン
モニタリングとチャンバーテスト
排出、環境中動態
暴露解析
暴露シナリオ
モデリング
ト
フィルタ性能
職業暴露
30 の
カテゴリー
材料と使用形態による5つのカテゴリ
ー
図3.
リスクアセスメントのロードマップ
4.国際的な活動
OECD Chemicals Committee の下に結成された Working Party on Manufactured Nanomaterials
(WPMN)では、07 年 10 月に開かれた会合で、代表的な 14 の工業ナノ材料について、その
物理化学性質、および有害性に関するデータセットを作成するためのスポンサーを募るこ
とを決めた。
これに呼応して、日本はフラーレン、単層ナノチューブ(SWCNT)、複層ナノチューブ
(MWCNT)について、米国環境保護庁(以下 EPA)と共に、データセットの作成を担当す
るべく提案をし認められた。最終的には、カナダの応援も得られ、この3物質を日米加3
国で担当することになった。
図2には、事前の打ち合わせでの日本(NEDO)と USEPA の分担を示した。この EPA の
部分を、米加でさらに分担することになる。今後とも、このプロジェクトの結果が、国際
的に活用されるべく努力したい。
作業内容
(1)既存情報
(2)試験実施計画
(3)ドシエ作成計画
(4)試験
(5)ドシエ
収集
作成
作成
実施
作成
(a)同定情報
NEDO
NEDO
(b)物理化学的性状
NEDO
NEDO
ドラフト作成と有
NEDO
ドラフト作成と
EPA
識者によるレビュ
EPA
有識者によるレ
EPA
EPA
ー
EPA
ビュー
(e)ほ乳類毒性
NEDO
NEDO
NEDO
(f)危険有害性
?
?
?
エンドポイント
(c)環境中運命
(d)生態影響
EPA
図4.
NEDO
米国との打ち合わせ段階での役割分担