連 載(最終回)

連 載(最終回)
FET 入力型のシミュレーション解析と実験
遠坂 俊昭
第2
1回 トランジスタで作る超低雑音アンプ その4
図 21 − 1 に示すのは,前回紹介した図 20 − 1 の入力
トランジスタを低雑音 FET 2SK369GR に交換した
Toshiaki Enzaka
雑音増幅器(図 21 − 1)を実際に試作して,その雑音特
性や安定度を確認します.
FET 入力の低雑音増幅器です.入力が FET のため入
FET 入力型低雑音増幅器の設計
力電流がごくわずかで,信号源抵抗が変化しても直流
オフセット電圧が変化しません.
今回は,この低雑音 FET アンプの設計過程を紹介
します.後半では,前回紹介したバイポーラ・トラン
■ CR 部品の役割と定数の意味
ジスタ入力型低雑音増幅器(図 20 − 1)と FET 入力型低
回路の動作は,前回示した図 20 − 1 とまったく同じ
VR1
C6
R 10
200Ω
0.1μ
R3
100Ω
910Ω
Tr13
Tr9
R 16
R4
Tr3
FET
C2
510Ω
47p
Tr4
100Ω
C3
R 11
J1
Tr2
4.3k
3k
R1
C 4 330Ω
C7
0.1μ
Tr6
Tr14
R7
10μ
25V
R 14
R 28
GND
10Ω
R 19
820Ω 100Ω
10Ω
1W
C9
470μ
35V
820Ω
R 27 1k(1W)//100k
C5
R 29
100p 2k
2
COM
Tr16
R 24
Tr11
R 15
11k
10Ω
R 17
100Ω
Tr12
C1
R6
1k
2.2Ω
R 22
R 12 1k
Tr5
J2
1
OUT
R 26
0.1μ
500Ω
VR 2
100k
COM 2
2.2Ω
R 20
R 13
R9
TP1
R 25
Tr10
3.9k
IN 1
Tr15
10Ω
33k
2 0V
TP3
R 21
47p
R8
Tr1
R 5 10k
470μ
R 23 35V
10Ω
1W
R 18
Tr8
910Ω
Tr7
R2
C8
TP2
430Ω
J3
1
+24V
Tr1, Tr2:2SK369GR
Tr3, Tr4, Tr6, Tr11, Tr12,Tr13:2SC1815Y
( Tr7:2SK170
IDSS =4mA)
Tr8, Tr9,Tr14:2SA1015Y
J3
3
−24V
Tr5, Tr10:2SC3423Y
Tr15:2SC4793
Tr16:2SA1837
図 21 − 1 FET 入力型の超低雑音増幅回路
バイポーラ・トランジスタ入力型
(図 20 − 1)の Tr1 と Tr2 を FET に交換.入力換算雑音電圧密度 1 nV/√ ̄
Hz 以下,100 Ω駆動可能
Keywords
2SK369,PSpice Model Editor Demo,2SC3329,LF412
240
2006 年 11 月号
です.ここでは,定数の異なる部品の役割を説明します.
Z初段のゲイン
FET の gm は,トランジスタとは異なり品種に依存
● 初段のドレイン電流
します.2SK369 の場合は図 21 − 3 に示すデータシート
のグラフから,ID = 5 mA のとき約 40 mS になります.
図 20 − 1 と同様に,一番重要なのは Tr1 と Tr2 のド
図 21 − 4 に示すように,FET の差動増幅器の場合,
レイン電流の設定値です.
ドレイン電流を多くするほど gm は大きくなり,低
雑音になりますが,R2 と R3 での電圧降下が大きくな
Tr2 の FET のゲートを接地して考えると,Tr1 はソー
ス共通増幅回路になり,Tr2 のソースから見たインピー
り,電源電圧の利用率が悪くなります.電源電圧の利
用率を確保するには,R2 と R3 を小さくしなければな
ダンスは 1/gm です.したがって,FET の差動増幅器
のゲイン GF[倍]は次式で求められます.
りません.しかし,R2 と R3 の値を小さくするとゲイ
GF =
ンが低下します.R2 と R3 の代わりにトランジスタを
使用した定電流回路を構成すれば,この問題から開放
− gmRC
2×
(1 + gmRE)
……………………(21 − 1)
されますが,今回は回路が煩雑になるため採用しませ
んでした.
● R2 と R3
VR1 を含めた R2 と R3 の値を 1 kΩにすると,そこで
前回説明したようにドレイン電流を 5 mA に設定す
の電圧降下は 5 V になります.電源電圧の利用率が少
ると,図 2 1 − 2 に示すデータシートのグラフから,
1 kHz で入力換算雑音電圧密度が 0.73 nV/√ ̄
Hz になり
し悪くなりますが,この値と gm = 40 mS からゲイン
を計算すると,RE が 0 Ωなので 20 倍になります.
ます.差動増幅器なので,3 dB 悪化すると考えると,
目標値ちょうど(約 1 nV/√ ̄
Hz)になります.そこで,
雑音特性を考慮しつつも,あまりゲインを下げたく
ないのでこの値に決定しました.
70
10.4
60
50
入力換算雑音電圧 vN[nV/ Hz ]
順方向伝達アドミタンス [mS]
Yfs
ドレイン電流を 5 mA に決定しました.
19.6
14.6
25.3
IDSS =5.0mA
40
30
ソース共通
20
VDS =10V
f =1kHz
TA =25℃
10
0
0
4
8
12
16
20
ドレイン電流 ID[mA]
24
28
図 21 − 2 図 21 − 1 に使用した FET 2SK369 の gm − ID 特性
1.4
ソース共通
VDS =10V
f =1kHz
TA =25℃
1.2
1.0
0.8
0.6
0.1
0.3
1
3
10
30
ドレイン電流 ID[mA]
図 21 − 3 図 21 − 1 に使用した FET 2SK369 の入力換算雑音電
圧−ドレイン電流特性
VCC
RC 1
Tr1
IN
gm 1
RE 1
VCC
RC 2
OUT
100
RC 1
Tr2
gm 2
RE 2
VEE
(a)基本回路
ゲート共通回路の入力インピーダンスは1/g m2.
図
(a)
はソース抵抗が RE 1+RE 2+1/g m2のソース共通
増幅回路と見なせるので,
RE 1=RE 2= RE ,RC 1= RC 2 = RC ,gm1=gm 2 = gm
とすると,電圧ゲインG[倍]は,
− gm RC
− gm RC
G=
=
1+ gm(2RE +1/gm ) 2×
(1+ gm RE )
Tr1
IN
OUT
gm 1
RE 1
RE 2
1/gm 2
gm 2
Tr2
(b)図
(a)
のゲインを
求めやすくなるよ
うに変形した回路
図 21 − 4 FET を使った差動増幅回路のゲイン計算
2006 年 11 月号
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