ダウンロード - 山形県国際交流協会

日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
第1分科会
「親のことばを学ぶとは?~何歳からどうやって~」
外国出身のお父さん、お母さんは、自分のことばを子どもにも話してもらいたいと思っ
たことがきっとあるでしょう。親子の関係を良好に保つためにも、母語を子どもに伝える
ことは、とても大切です。この分科会では、中国語、韓国語、ポルトガル語の教室の取り
組みを紹介し、母語の継承の大切さ、難しさ、可能性について一緒に考えます。また、親
として家庭でできること、学校、地域でできることは何か、皆さんで知恵を出しあいまし
ょう。
講師
松尾 慎さん(東京女子大学)
専門は、社会言語学・日本語教育・多元文化教育。ブラジルやインドネシア、台湾で日本語教育
に 10 年以上携わり 2009 年より現職。群馬県太田市でブラジル人の子どもたちのための母語教室
に参加している。
報告
渡辺 敏さん(IVY)
フ
ショウキョウ
傅 小 京 さん(瀛華中文学校)
イ
ソ ン ヒ
李 善姫さん(ハングル学校チングドゥル)
35
日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
ぼ
ご
つた
母語を伝えるということ
松尾 慎(まつお しん)
げんだい きょうよう が く ぶ
東京女子大学現代 教 養 学部
[email protected]
じ
こ しょうかい
にっけいじん
たいわん
自己 紹 介 :ブラジル(日系人の子どもたちに対する日本語教育)/インドネシア/台湾
おや
まな
しゅうとく
ふ
えいきょう
① 親のことばを学ぶことが日本語の習 得 に負の影 響 を与えるのか?
しゃ
げ ん ご しゅうとく

両親がろう者の子どもの言語 習 得 (CODA(コーダ)Children of Deaf Adults)

親のことばを学ぶことが日本語の習 得 に負の影 響 を与えるのか?
しゅうとく

ふ
えいきょう
こ そだ
しゅうとく
「子育てを母語ですると、日本語がしっかり習 得 できない。だから、日本語
かんけい
で子育てした方がいい」という考え方との関係

りそうてき
理想的なバイリンガル/ダブルリミテッド(Double-Limited)
みなみ
きょうえい い じ ゅ う ち
にっけい い じ ゅ う ち
② ブラジル 南 マットグロッソ州共 栄 移住地(日系移住地)で見たこと
げ ん ば
そ
ふ
ぼ

3 世代のコミュニケーションの現場で(祖父母 両親 まご)

José Yoshihisa Shirota さん(日系ブラジル人 2 世へのインタビュー)1998 年

「まず中学校の勉 強 をしっかり理解して、高校に入学することが第一。母語は大
べんきょう
り か い
じ ゆ う い
し
だいいち
まな
い け ん
たい
人になってから子どもの自由意志で学べばいい」という意見に対し

しゅう
て い ど
やす
つづ
週 に 2 日、2 時間ずつで週に 4 時間。月に 18 時間程度。一年、休みなく続け
しょきゅう
しゅうりょう
ても 216 時間。日本語の初 級 を 終 了 するためには 300 時間かかる。

しゅうとく
がくしゅう
習 得 ではなく、学 習 によって母語を学ぶことのむずかしさ
か て い
き
そ
ささ
きょういく
きょうしつ
◎「家庭」がすべての基礎・それを支えるのが「教 育 ・教 室 」
けいしょう

家庭で使われない言語は、継 承 されない

一人一言語の原則

ひ と り いちげんご
げんそく
しゅうとく
習 得 が先、それから学習を
にゅうがくご
し よ う
けっていてき
よういん
まえ
ぜんてい

小学校入学後の親との使用言語が決定的な要因(入学前の使用を前提として)

子どもの母語能 力 への期待度が高い
のうりょく
き た い ど
たか
ぐんまけん お お た し
③ Vamos Papear(群馬県太田市:ブラジル人の子どものためのポルトガル語教室)

じんこう
太田市:人口
がいこくじん とうろくしゃ すう
220,407 人、→外国人登録者数7,323 人(市の人口の 3.3%)
げんざい
ブラジル 2,752 人 ※2013 年 4 月現在
かんれん こうじょう
た す う
→SUBARU関連 工 場 などが多数ある

Vamos Papear とは
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日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
うんえい
こうりつ がっこう
はたら
運営:ブラジル人学校や日本の公立学校で 働 く、ブラジル人がボランティアで
がくしゅうしゃ
みしゅうがくじ
たようせい
学 習者 :未就学児~高校生 約 30 名(子どもたちの多様性)
かつどう び
活動日:土曜日 14 時~16 時 30 分
ないよう
内容:
べつ
① 子どものレベル別のポルトガル語学習
たいけん
② ブラジル文化の体験
え ほ ん
よ
き
③ ポルトガル語と日本語による絵本の読み聞かせ
ち い き ぎょうじ
さ ん か
④ 地域行事への参加
だいがく いんせい
そつぎょうせい
さ ん か
東京女子大学「ぱずる」
(大学 1 年生~4 年生、大学院生、卒 業生 )も参加
※
ど う き
い
ぎ
けんとう
④ 母語教育・母語学習の目的や動機、意義とは何か(よくあげられることがらの検討)
こころ
ふか
(1) 親と子の 心 のつながりを深めるため
りょうしん
じ ぶ ん

夫の両 親 が自分の母語をわからないので、子育てで自分の母語を使いにくい。

子どもが母語教室に通い始めてから、自分と子どもの距離が近くなったよう
かよ
はじ
き ょ り
え
な気がする。子どもに母語を教えられて自分自身、パワーを得た感じがする。

けんおかん
も
し よ う
子どもたちが母親(父親)のルーツに嫌悪感を持っている。母語の使用をう
ぎゃく
お や こ
かんけい
わる
つか
ながすことで、 逆 に親子の関係が悪くなる。だから、母語を使わない。
しゃかい
まわ
し せ ん
かんが
かた
 社会や周りの視線や 考 え方が問題
こうちく
(2) アイデンティティを守るため、構築するため

そもそも、「アイデンティティ」って何なの?

アイデンティティを守るために、母語(ことば)は必要なの?行事や価値観、
まも
う
ひつよう
ぎょうじ
か ち か ん
つ
考え方を受け継いでいけばいいのでは?

はいけい
これまで、あまり自分のルーツや背景を考えたことがなかったけど、母語教
かよ
い し き
室に通うようになって、自分が○○につながっていることを意識している。
しょうらい
しゅうしょく
しんがく
ゆ う り
(3) 将 来 の 就 職 や進学に有利だから

英語や中国語なら将来、仕事でも使えるかもしれないけど・・・。

母語の価値は、就 職 に有利だとか進学に有利だとか、そういうものとは別に
か
ち
しゅうしょく
ゆ う り
しんがく
ゆ う り
べつ
かんが
考 えるべきである。
か
ち
たか
ひく
ひと
 価値が高い言語も、価値が低い言語もない。すべて、等しい価値がある。
えいきょう
(4) 母語の学習が日本語での教科教育にいい影 響 を与えるから

でも、母語教室は週に 2 時間だけだから、そんなに関係あるのかなあ・・・。

日本に来る前に、小学校を卒 業 してきたから、日本語に慣れるまでは、母語
そつぎょう
つづ
で教科の勉強を続けたいなあ。
37
な
日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
そんざい
し げ ん
(5) 社会にとってバイリンガルの存在は資源になるから

そうかもしれない。でも、そんなこと考えている人って、どれぐらいいるの?

社会全体のために役立たなければ、母語の価値はないのか。
や く だ
か
ち
じゅぎょう
(6) 小中学校の授 業 よりも母語教室の方が楽しいから
つね

ひょうか
い し き
小学校では、常に評価され「できないじぶん」ばかり意識させられる。母語
せいせき
あんしんかん
教室は成績をつけられない安心感があるし、同じような友だちと会える。
きょうみ

ぶ ん か ぎょうじ
さ ん か
母語学習にはあまり興味がないけれども、文化行事に参加したら楽しかった
じ し ん
し、自信を持てた。
き こ く
かのうせい
(7) 帰国する可能性があるから
た ぶ ん
いっしょう

自分は多分、一 生 日本で生きていくつもりなんだけど・・・。

日本でずっと生きていくけど、時々「帰国」するとき、親戚と話せるから母
ときどき
しんせき
語を学んでおいて、よかったと思う。
て い ぎ
母語の定義 (Skutnabb-Kangas & Phillipson 1989:453)
き げ ん
(1) 一番最初に学んだ言語(起源:origin)
のうりょく
のうりょく
(2) もっとも能 力 が高い言語(能 力 :competence)
き の う
(3) もっとも使用している言語(機能:function)
き ぞ く い し き
はんだん
(4) 自分自身が帰属意識を持つ言語,周囲の人から見てその言語の母語話者だと判断
される言語(アイデンティティ:identification)
い
ぎ
~母語・母語教育の意義~

つかはら
い み ん
じんかく けいせい
はったつ
そんざい
塚原「移民の子どもの十全な人格形成および教育上の発達のために母語の存在が
じゅうよう
重 要 である」
(塚原 2010:72)

たかはし
かくにん
とうじしゃ
高橋「その目的が『ルーツの確認』や『親子のコミュニケーション』という当事者
り え き
かぎ
の利益にとどめられている限り,母語教育はマイノリティ話者やそのコミュニテ
とら
ィだけの問題に終わってしまう。母語教育を社会全体の問題として捉えていくた
こうけん
し ほ ん
いくせい
た ぶ ん か
ふくぶんか
じゅよう
きょう せい
めには,社会に貢献できる言語資本の育成,多文化や複文化を受容し 共 生してい
のうりょくいくせい
そうほう
くための能 力 育成といった,それがマイノリティとマジョリティの双方にとって
い
ぎ
にんしき
意義があるものとして認識される必要がある」(高橋 2012:327-328)
塚原信行(2010)
「母語維持をめぐる認識と実践-ラテン系移民コミュニティと日本社会」
『ことばと
社会』12 号
三元社,48-77.
高橋朋子(2012)
「母語教育の意義と課題-学校と地域,2 つの中国語教室の事例から」
『ことばと社
会』14 号
三元社,320-329.
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日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
さんこうがいねん
<参考概念>
けいしょう
よういん
◎言語の継 承 に関わる要因(Language Shift 言語シフト)
けいざいてき
しゃかいてき
せ い じ て き よういん
(1) 経済的、社会的、政治的要因

おきなわ
りゅうきゅう
か じ ん
沖縄( 琉 球 )/インドネシア華人
じんこう どうたいてき
(2) 人口動態的要因

い し き
じんこう わりあい
こんいん
人口割合/婚姻
か ち か ん
(3) 意識と価値観

ふっこう
イスラエルにおけるヘブライ語の復興
げんごけん
◎言語権としての母語教育・日本語教育


みずか
き ぞ く い し き
しゅうだん
け ん り
自 らが帰属意識を持つ集 団 の言語を習得・使用する権利
とうがい ち い き
当該地域や国で広く使われる言語を学習する権利
◎BICS と CALP

せいかつ
ひつよう
のうりょく
生活に必要な言語能 力 (BICS: Basic Interpersonal Communication Skills)
かくとく
生活に必要な言語能力(例:日常会話)の獲得は子どもは成人より早く、1,2 年
て い ど
み
で母語話者と同じ程度の力を身につけられる。

学習に必要な言語能力(CALP: Cognitive Academic Language Proficiency)
きょうか がくしゅう
ひつよう
かくとく
よう
学習に必要な言語能力(教科 学 習 で必要な力)の獲得には、5~7 年を要する。
さんこう ぶんけん
参考文献
松尾 慎.(2001). 「ブラジル日系人の言語使用」、野呂香代子・山下仁(編)
、
『「正しさ」へ
の問い』
、三元社、pp.149-182.
Skutnabb-Kangas, Tove and Robert Phillipson.(1989).”’Mother Tongue’ the Theoretical and
Sociopolitical Construction of a Concept” : In Ammon,U(ed). Status and function of
languages and language varieties. Berlin, 450-477.
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日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
報告資料「仙台市及び山形市で開講されている子ども向け【母語/継承語/外国語教室】」
2013 年 8 月現在
教室名
IVY 子ども中国語教室
瀛華中文学校
ハングル学校
チングドゥル
言語
中国語(普通話)
中国語・英語
韓国語
会場
主に山形市東部公民館
宮城県青年会館(仙台
仙台国際センター研修
(変更もあり)
市)
室
月 3 回、日曜日の午後
月 4 回、毎週日曜日
年 35 回、土曜日の午後
13:30~15:30
10:00~12:00 中文
15:00~17:00
活動日
13:00~15:00 英文
活動開始時期
2009 年 9 月
2007 年 4 月(本格稼働
2010 年 11 月
は 5 月)
参加費
月 2500 円(兄弟割引あ
1 科目:月 4000 円
り)
2 科目:月 7000 円
無料
(兄弟割引あり)
対象者
6 歳~15 歳
小中学生主体(社会人も可) 韓国につながる子どもたち
現在の参加者
小学生 8 名
5 歳~78 歳
中学生 1 名
幼児 5 名、小学生 17 名、
中学生 1 名、日本人の
親4名
教科書
『中文』(暨南大学出
『中文』(暨南大学出
『Machum 韓国語』
版社)全 12 冊
版社)全 12 冊
(Customized Korean)
全8冊
連絡先/担当者
成果
080-6028-2008 渡辺
022-293-4631 布田
090-6852-3839 宋
090-2365-1208 西上
090-3364-1532 李
090-5597-7437 李
[email protected] 西上
[email protected][email protected] 宋
①中学に進学した子
①中国語スピーチ・才
①親子の継承語教育に
が、2 年生になった今も
芸発表会を 6 回開催。
対するモチベーション
継続して通っている。
②中国語検定試験の准 4
の向上。
②現在日本人の子ども
級、4 級、3 級合格者数
②親の母文化・母語を肯
2 名が参加している。
名。
定的に 受け止 めるよう
③社会人学習者が、
になり、学校でも同級生
2012 年宮城県中国語ス
らに韓 国文化 を伝達し
ピーチコンテストで 3
ようと する傾 向が見ら
位入賞。
れる。
40
日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
課題
①参加者の掘り起こし
①生徒数を増やすこと
①参加者の掘り起こし
②指導者のレベルアッ
②活動経費の獲得
②子どもたちの多様な
プ(研修方法)
年齢・語学力に応じた
③資金
教材開発及び指導方法
④留学生の取り込み
③場所の確保
④親の参加
特筆すべき活動
☆中国行政青年代表
団、中国農業青年代表
団訪日時の通訳のお手
伝い。
☆四川汶川大地震時、
募金活動を行った。
☆松島の小学校と友好
交流活動を数回実施。
☆中国国務院僑弁主催
の『尋根の旅』に参加。
☆東日本大震災による
休講時、一部のこども
は中国国内の学校で学
習及び交流活動を体
験。
(文責:傅 小京、翻訳:西上)
(作成:IVY 西上)
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日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
第1分科会「親の言葉を学ぶとは?~何歳からどうやって~」要旨
IVY 西上 紀江子
1,
東北6県の母語・継承語教室
各県の国際交流関連部署にヒアリングした結果、現在運営されている母語・継承語教
室は、下記7カ所だった。
【韓国語】盛岡ムグンファ学校(盛岡市)
、ハングル学校チングドゥル(仙台市)、山形ハ
いん か
ングル教室(山形市)
【中国語】瀛華中文学校(仙台市)、IVY子ども中国語教室、市立
小学校(山形市)
、つばさ~日中ハーフ支援会(福島県須賀川市)
青森県、秋田県にはなかった。
2,
三教室の活動紹介
① IVY 子ども中国語教室・・・学習へのモチベーション維持が課題
自分の子に中国語を勉強させたいと思い、自分たちで5名の育児サークルを作った
のが最初。だが、維持できなかった。現在、中国ルーツでない日本人の子ども2名
わたなべ
を含め11名が学習中。子ども達が中国語を使う機会を作っていきたい。(渡辺
とし
敏)
② 瀛華中文学校・・・子どもが親の言葉を学ぶのは宿命であり、財産である
5 才から 78 才までの幅広い年齢層が参加。日本人学習者もいる。教室は単に言葉
や文化を学ぶ場所ではなく、情報の集積地・発信地である。日本の進学情報を知り、
親同士が交流する場でもある。子どもたちには、将来のグローバル人材として役割
ふ
を果たしてほしい。
しょうきょう
(傅
小 京)
③ ハングル学校チングドゥル・・・塾ではない!親が先生になることが条件
民団の韓国語教室に通わせたが、内容に進展がなく初級止まりだったことから自分
たちで立ち上げた。親が先生として教室に関わるのはハードルは高いが、そうする
ことで親子がパワーアップしていく。キムチを家族一緒に食べられない家庭がある
と聞いており、親が教える姿を見せることは大事。盛岡のムグンファ学校と合同キ
ャンプなど交流活動をしているが、仲間がいることで子どものモチベーションは上
がる。残念なことは、母親が韓国人である家庭の子どもの参加が少ないこと。父韓
国人、もしくは両親とも韓国人家庭の子どもが多い。家庭の中の力関係を反映して
いるのではないか。場所の確保が最大の課題。
3,
い
そん ひ
(李 善姫)
松尾慎先生のお話
■母語分科会の意義
日本語学習支援の会議の中に、母語教育が分科会として企画されていること、午前中
42
日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
の基調講演で、県国際室の方が継承語の重要性を挙げていたが、他の県では聞いたこ
とがなく、特筆すべきことだと思う。午前中のパネルディスカッションでモリスさん
が、外国人を被支援者としてでなく、主体的に活動する支援者として捉える必要があ
ると言っていたが、母語教育はまさしく外国人が活動のど真ん中に座る活動である。
■言葉の習得には時間がかかる~習得と学習
キムチを一緒に食べる親子関係を一夜にして作れる可能性はゼロではない。が、一
夜にして子どもが韓国語なり中国語を話せるようになることはありえない。言葉の習
得には時間がかかる。日本語の初級を修了するためには 300 時間かかるが、週に 2 日、
2 時間ずつを一年間休み無く続けても 216 時間。日本生まれの子どもが 25 才になって
母親の言葉を学ぼうと思ってもそれは、継承語ではなく、外国語の学習に過ぎない。あ
る程度子どものうちからしておかなければ習得は無理、学習になってしまう。
■子どもの意思に任せるのは、「書く」ことから
家庭内コミュニケーション、外国にいる祖父母とのコミュニケーション、簡単な新聞を
読む程度までは家庭や教室で行い、「書く」ことまで学ぶかどうかは、子ども本人の意思に
任せるのが妥当。
■どうすれば子どもにことばを継承できるか~一人一言語
一人一言語が基本である。日本人父が日本語、外国人母が自分の母語で子どもに語りか
ける。それを崩さないで継続する。が、正解はなく、様々な説があるので、各自で判断する
しかない。人は、生まれも生育環境も、能力も異なるので、別の人間で実験しても意味が無
い。一人の人間に、継承語を教えた場合と教えなかった場合を実験する以外に、継承語教育
をすることの有効性を確認する手立てはないはずなので、「答え」はでてこない。
■つないでいくことの大切さ
普通 2 世は現地語が一番強い言葉になっているが、ある日系ブラジル人 2 世(男性)は、
子どもに徹底して日本語で語りかけていた。子どももほとんど日本語で返していたが、たま
にポルトガル語で返ってきたときには、
「日本語じゃないとお父さんは分からないよ」と答
えていた。
「子どもが大きくなればポルトガル語で生活するだろうが、自分が知っている限
りの日本語を教えてやりたい」
■家庭で使われない言語は継承されない
一方で、家庭内だけでは言葉に限界があり、外に教室があることがのぞましい。
*地域に教室がほしいという声は、この後のグループワークでも多くの方が語っていました。
43
日本語学習支援ネットワーク会議 2013 in YAMAGATA ・ 山形日本語ネットワーク20周年記念シンポジウム
4,
グループワーク~ポスターセッション
4~5 人のグループを 10 グループ作り、
「母語教育を一歩前に進めるには」というテー
マについて、45 分間議論し、その後ポスターセッションを行った。しかし、各自の体
験談や教育論を交換することに話の花が咲いたため、テーマは各グループにゆだねた。
5,
質疑応答
質問 1:生後 8 ヶ月の孫がいる。子どもには英語を継承できなかったが、孫に英語を教え
てと頼まれた。単語レベルの英語を教えようと思うが、それでよいか。
松尾先生::単語レベルではなく文で教えた方が良い。日本語(母語)で子どもを育てると
き、子どもが理解できるかどうかに関わりなく、最初から文で子どもに語りかけている
はず。それと同じように文レベルで語りかけた方が良い。
質問 2:母親の日本語が十分でない場合、何語で子育てしたら良いか。現に今小学校に在籍
している子どもが、障害を持っているか子育て環境による影響か判断に苦しんでいるケ
ースがある。
松尾先生:母親が生活言語としての日本語は理解していても、学習言語としての日本語を
理解していない場合には、日本語で教えることには限界がある。一方で、母親が母語で教
えた場合にも、子どもが母親の母語を理解しない場合には、しっかり教えられないとい
う問題がある。これこそが、本当に難しい。つまり、日本語でも母語でもしっかり家庭
内学習が成立しないということなので。まず、学校に相談し、学校側に問題を伝え、し
っかりと認識してもらうことからはじめてはどうでしょうか。
参加者1:障害かそうでないか、検査してくれる場所がいくつかあるので、後で情報提供
します。
44