金 光 明 経 に おけ る 陀 羅尼 (平 松) 松 金 光 明経 におけ る陀羅 尼 平 澄 空 金光明経 は不思議 な経典ハであ る。曾 て は 護国三部経 の 一つと し て、法華経、仁 王経 ととも に珍重され、聖武天皇 の御代 には金光明 経を所依 とす る金光明四天 王護国寺が各地に建立され て、盛ん に読 諦された。然る にその寿命は意外に短く、歴史 の表面から消え てし ま ったのである。金光明経 の特色 の 一つと考える陀羅尼 の面から考 一 三六 るに至り、念語、念神、念仏 これ皆三昧 の途 で あ る と す る な ら い と ころ で あ る ﹂ (1 ) ば、 その念 の対象となる神仏 の名称、標識 乃至それを表現 する語 言 が即 ち総持、換言すれば陀羅 尼であるとする ことも己むを得な と述 べて、 諸 種 の秘 密 語 を も って 陀 羅尼 と な す に 至 った も ので あ ろ う と さ れ て いる。 更 に 陀 羅尼 使 用 の目 的 に つい て仏 教 以前 の呪 と、 (2) 仏教 に採 り 入 れ ら れ た 呪 と に 分 け、 仏教 の 呪 は 小乗 と 大乗 に つ い て 述 べておられる。大乗 の呪 の目的は次の三 つである。 (甲) 仏法 又は持経者守 護の呪。仏教 への関係 が比較 的密接 ではあ るが、仏教 の教 義そ のものとは交渉 を有 しない。 の呪であ り、顕 教にお いては其 の教義 に対 す る関 り の度合 に よ っ (丙) 純密教 の呪。 以上の三区分であるが、大乗 の呪の発展 した究極 的なものが純密 教 (Z) 既 にそれが仏法修行 の 一方法たるのみならず、 この呪を諦 す れば能く 女神を転じ自ら宿命 を知り、弊 悪の身 を超脱 し、我が身 を見、大歓喜 を得、三昧 及び陀羅尼 を得 るなどと説 かれる。 陀羅尼 はdharaのn 音i 写であるが、総持、能 持あ る い は能遮 な どと訳 され、能く総持 して忘失させな い念慧 の力 と説明 され て い 察を加 えてみた い。 る。また これに類した言葉 で呪、真言があるが、呪 は怨敵 に災禍を て、甲と に区分されたも ののようである。 被ら しめ、ある いは自己 の厄難を擁わんがために諦す る 一種 の秘密 語を言 ってお り、梵文般若波羅蜜多経 はmantr をa 呪 と訳 し、法 金光 明経 は漢 訳とし て三本現存して いる。1曇 無識訳金光 明経四 巻 (四巻本)、2宝貴等訳合部金光 明経八巻 ( 合部 八巻本)、3義浄 訳金光 明最勝王経十巻 (義浄十巻本)の三本であるが、梵 文も現存 華経陀羅尼品 ではdharaをn呪iと訳して いる。真言 は ma nt raの 訳 で仏、菩薩 の本誓を示す秘密語と説明されて いる。陀羅尼、呪、 真言は本来の意義 は別であるけ れども、古来 多く混用され ていたも して いる。四巻本は北涼元始元年から十 年 (曲四 三二 四 三一) の 唐長安三年 (曲七〇三) の訳出とされてい魏。 陀羅尼 に つい てみると、新本ほどその数 が増加 し、陀羅尼 の内容 訳出、合 部八巻本は開皇十七年 (A五D九七)の訳出、義浄十 巻本は のと考えられるのである。本 田義英博 士はその著 ﹁法華経論﹂ にお いて、陀羅尼 に ついて詳細 な考察を加 えておられるが、 ﹁陀羅尼 は要す るに喩伽 三昧 に入 る最も重 要 な精 神統 一の段階 で あ り、更 に発展 して三昧 に入 る方便 としての総 てを総持と名つく -621- も複雑化 してい っている。す なわち四巻 本では全 十九品のうち 三品 護身、請召、本呪など密教 の事相 における儀軌的面も窺 えるも ので 以 上でみる限り、古 訳から新訳になるほど密教 的色採 が極め て濃 ・堅牢地神品第十八⋮請召呪、護身呪、現身呪 に該当するも のには、築壇、結界、 清浄、 三句 の陀羅尼 のみであ るが、合部八巻品では全二十四 品 のうち四品 ある。渡辺海旭 師は義浄訳に ついて、そ の陀 羅尼呪 の豊富 な こと及 び大弁財天女 の洗浴 に関する壇場作法 の精密な記述などから、純密 厚 とな っている。特 に ついて分類す れば次 の如くなろうと考えて いる。 十 七句 にふえ、義浄十巻 本では全三十 一品 のうち実 に十品 三十五句 に増加 している のであ る。更に陀羅尼 の内容を前述 の目的 に (1) 教 とし て金光明経を位置づけ ておられ るほど である。また金勝陀羅 尼品と吉祥天女品には、陀羅尼を呪する前 に 礼拝 す る 諸仏 の申 に 経 典ハ と し て位 置 づ け ら れ る の で はな いか と 考 え てい る。 如 き 純 密 教 経典 と いう よ り、 顕 教 か ら 密 教 え の過 渡 的 な 半 顕 半 密 の の加 上が 行 わ れ た こと も 考 え ら れる の であ る。 た だ渡 辺 師 の指 摘 の (5 ) は、不動 (阿閾)、宝憧、無量寿、天鼓雷音 の胎蔵界四仏 の名 が 見 (4) (2) (仏法修行 の 一方 法) 〇四巻本⋮ ・功徳天品第 八⋮灌 頂章句陀羅尼 ら れ、 あ る いは 大 日 経 の系 統 の密 教 々団 の影 響 を 強 く受 け て、 経 典ハ (守護 の呪)該当 なし ○合部本⋮ ・陀羅尼最浄 地品第六⋮初 地乃至十 地陀羅尼 ・銀 主陀羅 尼品第十 一⋮不染著陀羅尼 ・功徳天品 第十三 (合部本に同じ) ・金勝陀羅 尼品第 八⋮金勝陀羅尼 ○義浄訳 ⋮ ・最浄 地陀羅尼品第 六 (合部本に同じ) に 該 当 し、 仁 王 経 に は奉 二品 に 陀 羅 尼 が あ る が 前 者 は、 後者 は 持 品 に 一句 あ って 同 じ 護 国 経典ハ と さ れ た 法 華 経 に は、 陀 羅 尼 品 と 普賢 菩 薩 勧 発 品 の ・大吉祥 天女増長財物品第十七⋮請 召呪 は、 そ の過 渡 的 な 半 顕 半 密 の性 格 か ら 空 海 に よ る純 密教 の 出 現 弘 通 ・無染 著陀羅 尼品第十三 (合部本に同じ) ・僧慎爾薬 叉大将品第十九⋮本呪 3 1 壷 月全 集、 上 巻 金岡秀友著 同右 本 田 義英 著 金 光 明 経 の研 究 同右 法華経論 一 三五 一 三三 三頁。 と 密 接 な 関連 が あ る のか も 知 れな い と考 え る も ので あ る。 に 当 って いる。 金 光 明 経 の寿 命 が短 か か った の ・長者 子流 水品第 二十五⋮十二縁起陀羅尼、法擁護 呪 2 ㈲㈲ ( 純密教) ○合部本⋮ ・大弁天品 第十二⋮薬洗浴 法呪、結界呪、洗浴呪、護身 呪、本 呪 4 九 頁。 七 三三三頁。 一 三七 (大 正 大学 大 学 院) 一 三六 頁。 ○義浄訳 ⋮ ・四天 王護 国品第十二⋮護身呪、請召呪、如意末尼宝 心 呪 大 正蔵 16巻、 四 二 三 c、 四 三 九 b。 七三〇 ・如意宝樹 品第十四⋮無雷電怖呪、執金剛呪、梵天呪、 5 帝釈天呪、多聞 天呪、諸大龍 王呪 松) ・大弁天品第十 五 ( 合 部本 に同 じ) 金 光 明 経 に お け る 陀 羅 尼 (平 -622-
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