A運動器の解剖と機能概論

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A 運動器の解剖と機能概論
A
運動器の解剖と機能概論
ぶ.
1
体肢は上肢 upper limb,upper extremity と
体表の区分
下肢 lower limb,lower extremity に分けられ
る.上肢は三角筋の起始部縁から手指までで,
上腕 upper arm,前腕 forearm,手 hand に分
けられる.体幹とは両側の鎖骨と肩甲骨からな
る上肢体(肩甲帯)により境界されている.下
1.人体の区分(図 II-A-1, 2)
肢は鼠径靱帯から足趾までで,大腿 thigh,下
人体は体幹 trunk と体肢(四肢)limb,
腿 leg,足 foot に分けられる.体幹とは両側の
寛骨からなる下肢体(骨盤体)により境界され
extremitiy に大別される.
体幹はさらに頭 head,頚 neck,および狭義
ている.
の体幹に分けられる.頭は頭蓋と顔面に区別さ
れ,頚の後面は項と呼ぶ.狭義の体幹は胸
breast,腹 abdomen および骨盤 pelvis に区別
され,胸・腹の後面は背 back と呼び,骨盤の
後面上方は腰 waist,後面下方は臀部 hip と呼
2.全身の骨格と筋
全身の前面と後面の骨格と筋を図 II-A-3, 4
に示す.
手
頭
頭
前 腕
肩
上 肢
項
頚
肩
肘
胸
上 腕
上 肢
上 腕
背
肘
腰
前 腕
腹
殿 部
手
大 腿
大 腿
下 肢
運
動
器
の
解
剖
と
機
能
2
2
膝
膝 窩
下 腿
下 腿
足
足
踵
■ 図 II-A-1 人体の区分(前面)
■ 図 II-A-2 人体の区分(後面)
下 肢
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前頭骨
前頭筋
側頭骨
眼 窩
眼輪筋
頬 骨
上唇挙筋
笑 筋
顎関節
下顎骨
口輪筋
鎖 骨
下唇下制筋
僧帽筋
胸鎖乳突筋
肩関節
三角筋
第 1 肋骨
胸 骨
胸骨剣状突起
上腕骨
1
体
表
の
区
分
大胸筋
上腕二頭筋
(長頭・短頭)
前鋸筋
肘関節
仙腸関節
腸 骨
上前腸骨棘
尺 骨
橈 骨
股関節
上腕筋
円回内筋
腹直筋
外腹斜筋
腕橈骨筋
橈側手根屈筋
尺側手根屈筋
手関節
手根骨
恥骨筋
第 1∼5 中手骨
手の指骨
大腿骨
大腿骨内側上顆
大腿骨外側上顆
膝蓋骨
膝関節
縫工筋
長内転筋
薄 筋
大腿四頭筋
(大腿直筋・
外側広筋・
中間広筋・
内側広筋)
膝蓋腱
腓 骨
脛 骨
足関節
足根骨
第 1∼5 中足骨
趾 骨
前脛骨筋
長趾伸筋
上伸筋支帯
長母趾伸筋
下伸筋支帯
■ 図 II-A-3 全身の骨格と筋(前面)
(臨床スポーツ医学編集委員会(編)
:新版スポーツ外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド,文光堂,pp556-557,2003
より)
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頭頂骨
後頭骨
乳様突起
後頭筋
頭板状筋
第 1∼7 頚椎
僧帽筋
肩 峰
大結節
三角筋
肩甲骨
第 1∼12 胸椎
広背筋
上腕三頭筋
(長頭・外側頭・
内側頭)
肘 頭
第 1∼5 腰椎
腕橈骨筋
肘 筋
長橈側手根伸筋
尺側手根屈筋
仙 骨
尺側手根伸筋
中臀筋
恥 骨
大臀筋
大転子
伸筋支帯
坐 骨
大内転筋
腸脛靱帯
半腱様筋
大腿骨内側上顆
大腿骨外側上顆
大腿二頭筋
(長頭・短頭)
半膜様筋
足底筋
縫工筋
腓腹筋
ヒラメ筋
内 果
外 果
運
動
器
の
解
剖
と
機
能
2
4
踵骨筋
(アキレス腱)
■ 図 II-A-4 全身の骨格と筋(後面)
(臨床スポーツ医学編集委員会(編)
:新版スポーツ外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド,文光堂,pp556-557,2003
より)
参考文献
1)金 子 丑 之 助 ( 原 著 ), 金 子 勝 治 , 穐 田 真 澄 ( 改
訂)
:日本人体解剖学,上巻,南山堂,2005.
2)越智淳三(訳)
:解剖学アトラス,文光堂,1983.
3)藤田恒太朗:人体解剖学,南江堂,2009.
4)臨床スポーツ医学編集委員会(編):新版スポーツ
外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド,文光堂,
2003.
(鹿倉 二郎)
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運動の表し方
身体の運動を表すには,基準となる姿勢,肢
位について理解しておく必要がある.
2
運
動
の
表
し
方
1.基本姿勢(基本肢位)
a.基本的姿勢 fundamental position(図
II-A-5)
基本的立位姿勢,基本的立位肢位とも呼ばれ
る.この姿勢では,顔は前方を向き,両方の上
肢は下垂し,手掌は体幹に向き,足は平行に揃
えて立ち,つま先は前方を向いている.
■ 図 II-A-5 基本的姿勢
b.解剖学的姿勢 anatomical position(図
II-A-6)
身体の運動を表す際に基準として用いられる
姿勢,肢位で,解剖学的立位姿勢,解剖学的立
位肢位とも呼ばれる.この姿勢では,顔は前方
を向き,両方の上肢は下垂し,手掌は前方に向
き,足は平行に揃えて立ち,つま先は前方を向
いている.基本的姿勢との大きな違いは,前腕
が回外し,手掌が前方を向いていることである.
2.運動の面と軸
人体の各部の基本的な動きは,身体の一部が
軸 axis を中心に回転し,面 plane に沿って生
じる.運動の基本面,基本軸は以下の通りであ
る.
a.運動の基本面
■ 図 II-A-6 解剖学的姿勢
1)矢状面 sagittal plane(図 II-A-7)
人体を左右に分ける垂直面のことで,特に左
右を均等に二分する面を正中矢状面,あるいは
単に正中面という.正中矢状面は 1 つしか存在
transverse plane と呼ばれることもある.
b.運動の基本軸
せず,それに平行に無数の矢状面があり,これ
1)前額軸(前頭軸)frontal axis
を傍矢状面 parasagittal plane と呼ぶこともあ
人体の左右方向の軸で,この軸を中心に身体
る.
2)前額面(前頭面)frontal plane(図 II-A-8)
人体を前後に分ける垂直面のことである.冠
状面 coronal plane と呼ぶこともある.
の一部が回転すると,その動きは矢状面上で生
じる.
2)矢状軸 sagittal axis
人体の前後方向の軸で,この軸を中心に身体
3)水平面 horizontal plane(図 II-A-9)
の一部が回転すると,その動きは前額面(前頭
人体を上下に分ける面のことで,横断面
面)上で生じる.
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A 運動器の解剖と機能概論
■ 図 II-A-7 矢状面
■ 図 II-A-8 前額面
3)垂直軸 vertical axis,longitudinal axis
人体の上下方向の軸で,この軸を中心に身体
の一部が回転すると,その動きは水平面上で生
じる.
■ 図 II-A-9
水平面
c.外旋 external rotation と内旋 internal
rotation
垂直軸を中心に水平面上で生じる運動を回旋
rotation という.上腕部あるいは大腿部の前面
3.基本的な関節運動
を外方に回す運動を外旋といい,内方に回す運
動を内旋という.前腕に関しては外旋,内旋と
人体各部の運動を表すには,共通の用語を用
いう用語は使わず,肘関節を屈曲した状態で手
いる必要がある.代表的な関節運動を表す用語
掌が上を向く運動を回外 supination,手掌が下
は以下の通りである.
を向く運動を回内 pronation という.
a.屈曲 flexion と伸展 extension
屈曲とは隣接する部位が近づき,互いのなす
d.分回し運動 circumduction
前述の基本的な運動のうち,屈曲,伸展,外
角度が小さくなる運動のことである.伸展は反
転,内転の組み合わせによって生じる動きで,
対に隣接する部位が遠ざかり,互いのなす角度
遠位部が円を描くような動きをすることから描
が大きくなる運動のことである.これらの運
円運動と呼ぶこともある.例えば肩関節をぐる
動は,前額軸を中心に矢状面上で生じる.足
ぐる回すような動きのことである.
関節では屈曲を背屈 dorsiflexion,伸展を底屈
plantarflexion という.また,肩関節では屈曲
この他,身体各部位特有の運動がある.
を前方挙上(前挙),伸展を後方挙上(後挙)
例えば,肩関節では 90 °外転位で上腕の前方
と呼ぶことがある.
運
動
器
の
解
剖
と
機
能
2
6
b.外転 abduction と内転 adduction
外転とは身体の一部が正中線から遠ざかる運
への運動を水平屈曲 horizontal flexion といい,
後方への運動を水平伸展 horizontal extension
という.
足部では回内,外転,背屈が組み合わさり,
動で,
反対に内転は正中線に近づく運動である.
足底が外を向く運動を外がえし eversion,回
これらの運動は矢状軸を中心に前額面上で生じ
外,内転,底屈が組み合わさり,足底が内を向
る.肩関節では外転を側方挙上(側挙)と呼ぶ
く運動を内がえし inversion という.
ことがある.
外反,内反という言葉は一般に足部の変形を
表しており,正式な関節運動を表す用語として
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は用いない.
6)後方 posterior(背側 dorsal):人体の後
面に近い位置を示す.
4.方向あるいは相対的位置関係
を表す用語
空間における方向あるいは相対的位置関係を
表す際に共通の用語が用いられる.以下に代表
的な用語をあげる.
1)上方 superior(頭側 cranial):頭に近い
位置を示す.
7)近位 proximal :四肢で用いられ,体幹
に近い位置を示す.
8)遠位 distal :四肢で用いられ,体幹から
遠い位置を示す.
9)浅 superficial :人体の表面に近い位置
を示す.
10)深 deep :人体の表面から遠い(深い)
位置を示す.
2)下方 inferior(尾側 caudal):頭から遠
い位置を示す.
3)内側 medial :正中矢状面に近い位置を
示す.前腕では尺側,下腿では脛側と呼
ぶことがある.
4)外側 lateral :正中矢状面から遠い位置
を示す.前腕では橈側,下腿では腓側と
呼ぶことがある.
5)前方 anterior(腹側 ventral):人体の前
2
運
動
の
表
し
方
参考文献
1)Moore KL, Dalley AF(著),佐藤達夫,坂井建雄
(監訳):臨床のための解剖学,メディカル・サイエ
ンス・インターナショナル,2009.
2)Thompson CW, Floyd RT(著)
,中村千秋,竹内真
希(訳):身体運動の機能解剖,改訂版,医道の日本
社,2004.
3)Behnke RS(著)
,中村千秋,渡部賢一(訳):キネ
ティック解剖学,医道の日本社,2007.
(鹿倉 二郎)
面に近い位置を示す.
7