米国DOEのバイオリファイナリー・プロジェクトの最新状況(2)

石油エネルギー技術センター
JJP
PE
EC
C レ
レポ
ポー
ートト
第 14 回
2013年度
平成 25 年 9 月 20 日
米国DOEのバイオリファイナリー・プロジェクトの最新状況(2)
~セルロース系エタノール・プロジェクトの状況(後編)~
【内容】
米国では次世代型バイオ燃料の技術開発および
1. 各 PJ の状況概要
p.1
事業化がエネルギー省(DOE)および農務省
p.2
(USDA)の強力な支援により行われており、統合 2. デモ段階 PJ の状況
3. パイロット段階 PJ の状況 p.7
化バイオリファイナリー・プロジェクトとして進行
4. 第二報のまとめ
p.11
中である。当初29事業で開始されたが、既に中断に
至ったプロジェクトも出ている。今回はセルロース系エタノール・プロジェクトに関して、
前回報告(2012年2月および3月)からの進展の後編として、デモ段階とパイロット段階の各プロ
ジェクトの最新状況を報告する。
前回報告:http://www.pecj.or.jp/japanese/minireport/pdf/H21_2011/2011-034.pdf
http://www.pecj.or.jp/japanese/minireport/pdf/H21_2011/2011-036.pdf
1. 各プロジェクトの状況概要
表1にデモ(実証)段階5事業、表2にパイロット(試作)段階5事業の状況概要を示す。
表1 デモ(実証)段階プロジェクトの前回報告時と現在の状況概要
No.
主要企業名と
実施場所
Enerkem Inc.
1
ミシシッピ州 Pontotoc
INEOS Bio
2
フロリダ州 Vero Beach
Lignol Innovations Inc.
3
ワシントン州 Ferndale
Pacific Ethanol Inc.
4
オレゴン州 Boardman
Verenium Corporation
5
ルイジアナ州 Jennings
前回報告時の状況
(2012年3月)
基本的な計画の変更は無い。Enerkemはカナ
ダで1基目の商業プラントを建設中で、本プロ
ジェクトは2012年第4四半期に着工を計画し、
工期は18ヶ月の予定。既に3基目の計画も発
表。
現在の状況
基本的な計画の変更は無い。Enerkemはカナ
ダの商業プラントに注力中。本プロジェクトの環
境アセスメントは承認を得ており、建設と運転
に必要な各種許可を取得中。
基本的な計画の変更は無い。2011年2月にプ
ラントの竣工式を行い、2012年4月の完成を目 基本的な計画の変更は無い。2012年7月に装
指しており、2012年中頃にはスタートアップの 置が完成、2013年8月から製品出荷を開始。
計画である。
Lignolは2011年4月に年産2,100万ガロンの商
業規模プラントのエンジニアリングパッケージを
完成させ、デモ段階を経ず一気に商業化規模
を検討中。
2011年7月、プロジェクト中途終了。
採算性を重視した事業計画見直しを実施、そ
の結果DOEの助成条件と合致せず中止する
も、大型商業化設備建設を目指す。
自社での建設計画は不明。2011年10月には
2011年9月、プロジェクト中途終了。
自社工場に隣接して建設中のZeaChem社の
ZeaChem社との関係強化を図っていくと考えら
パイロットプラントの運転、保全などを行う契約
れる。
を締結した。
Vereniumは、2010年9月に同社のセルロース
系バイオ燃料ビジネス全てを石油メジャーBP
の子会社に売却。本プロジェクトの設備は、BP 2010年9月、プロジェクト完了。
グループのバイオ燃料開発拠点として活用され
ている。
1
石油エネルギー技術センター
表2 パイロット(試作)段階プロジェクトの前回報告時と現在の状況概要
No.
主要企業名と
実施場所
American Process Inc.
6
ミシガン州 Alpena
Archer Daniels Midland Co.
7
イリノイ州 Decatur
ICM Inc.
8
ミズーリ州 St. Joseph
Logos Technologies, Inc.
9
カリフォルニア州 Visalia
ZeaChem, Inc.
10
オレゴン州 Boardman
前回報告時の状況
(2012年3月)
原料は木質パネル製造過程からの加水分解
生成物。2012年前半にエタノール製造を開始
し、その後にバイオブタノールの製造に切り替
える予定。
現在の状況
基本的な計画の変更は無し。
2012年6月からスタートアップを開始、現在は
運転中。
基本的な計画の変更は無し。
ADM社にとっては小規模の研究開発設備であ 2012年に建設完了の計画だが、進捗状況は
るためか、最新の建設情報は不明。
不明。ただし、要員の採用は積極的に行ってい
る。
基本的な計画の変更は無い。2011年6月に改 基本的な計画の変更は無し。
造工事が終了し、2011年後半からデモ運転を 2012年11月には1,000時間運転が成功裏に終
開始すると報告されている。
了したと発表。
基本的な計画の変更は無し。
基本的な計画の変更は無い。2011年5月に竣
2013年5月には連続運転が1,000時間を越え、
工、2012年3月から運転開始の予定。
DOEの目標も達成と発表。
基本計画の変更は無く、2012年前半にエタ
ノール製造運転の予定。2011年10月にPacific
Ethanolと業務提携、プラントの運転などは
Pacific Ethanolが担当。2012年後半からはバ
イオガソリンとジェット燃料のプロセス開発のた
めに設備改造の予定。
基本的な計画の変更は無し。
2012年10月には全建設工事が完了。2013年3
月には、セルロース系ケミカルとエタノールの
商業グレードの製造開始と発表。大型商業化
設備の建設計画に注力。
2. デモ段階プロジェクト(5 事業)の状況
(1) Enerkem Mississippi Biofuels, LLC (Enerkem Project)
本社:ミシシッピ州 Pontotoc(米国法人本社)
、事業場所:ミシシッピ州 Pontotoc
事業内容: デモ段階プロジェクト
採用技術: 熱化学プロセス
(熱分解やガス化などのプロセスを含むもので、発酵を含まない反応プロセス)
投入原料: 選別都市固形ゴミ、木材残渣など日量 300 乾燥トン
製造規模: エタノールおよびメタノール年産 1,000 万ガロン
【事業概要】
カナダの Enerkem Inc.
(EK 社)の米国子会社が事業を行い、都市固形ゴミのリサイク
ルおよび前処理センターへの投資を合わせ、事業費は 2 億 5,000 万ドルと言われている。
2009 年に DOE から最大 5,000 万ドルの支援枠を得ており、2011 年に USDA から 8,000
万ドルの債務保証枠を得ている。
装置の計画は環境アセスメントの要求を既に満足しており、現在は建設と運転に必要な
各種の許可を取得中と報告されている。工期は 18 ヶ月と言われている。
【技術概要】
都市固形ゴミは、選別により約 60%が原料として用いられ、埋め立てに行くゴミ量を
90%以上削減する計画である。設備はゴミ埋立場の傍に設置予定で、原料は確保できてい
るとしている。原料をガス化装置で分解した後で洗浄装置を経て改質装置に送り、次工程
の反応工程で使用可能なクリーンな水素ガスと一酸化炭素からなる合成ガスに転換する
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ことを特徴とするプロセスである。合成ガスは、既に十分に実証済みの触媒反応プロセス
により市販の触媒を用いてメタノール、エタノールおよびケミカル製品を製造する。
【参考情報】
EK 社は、カナダのケベック州 Sherbrooke で 2003 年からパイロットプラント(日量 4.8
トン)を運転し、同じケベック州の Westbury にある 10 倍にスケールアップしたデモプラ
ント(日量 50 トン、製造能力:年産 130 万ガロン)も 2009 年から運転しており、2011
年からメタノール製造を、2012 年春からセルロース系エタノールの製造を行っている。
EK 社ではカナダのアルバータ州 Edmonton で都市固形ゴミからバイオ燃料を製造す
る商業プラント(計画能力:メタノールおよびエタノール年産 1,000 万ガロン)の建設を
2010 年夏に開始し、2013 年中にはメタノール製造運転を開始し、2014 年にはエタノール
製造運転を開始する計画である。
また、EK 社はカナダ最大のアルコール製造会社である GreenField Ethanol 社(本社:
Toronto)との合弁により、ケベック州 Varennes にセルロース系エタノール製造プラン
ト(製造能力:年産約 3,800 万リットル=1,000 万ガロン)の建設を計画している。
参考:http://www.enerkem.com/
http://www.enerkem.com/en/facilities/plants/pontotoc-mississippi.html
(2) INEOS Bio(以下 IB 社)
本社:イリノイ州 Lisle、事業場所:フロリダ州 Indian River 郡 Vero Beach
事業内容: デモ段階プロジェクト
採用技術: 熱化学・バイオケミカル複合プロセス
(熱化学プロセスと発酵プロセスの両方を含むもの)
投入原料: 野菜くず、庭園の雑草、都市固形ゴミ日量 300 乾燥トン
製造規模: エタノール年産 800 万ガロン、発電量約 6MW
【事業概要】
スイスに本社を置くグローバル化学企業 INEOS 社のバイオ部門である IB 社は、事業パ
ートナーの New Planet Energy, LLC(NPE, 本社:テキサス州 League)と合弁会社 The
BioEnergy Centre を設立し、Indian River 郡のゴミ埋立場に隣接して工場を建設していた。
2011 年 2 月に竣工式を行い 2012 年 7 月に完成、その後はスタートアップと多様な原料を
用いての試運転を行い、2013 年 7 月末からエタノールの商業生産を開始している。8 月か
ら製品出荷を開始すると発表している。
プロジェクト費用は1 億3,000 万ドル以上と報告されており、
2009 年にDOE から5,000
万ドルの助成枠を獲得、
2011 年にUSDA から制限付債務保証枠7,500 万ドルが承認され、
2011 年 8 月には資金調達を実施していた。
【技術概要】
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7 年間のパイロット装置での運転データに支えられており、ガス化と発酵の複合プロセ
スで、主要な 4 工程から構成されている。原料はプロセス廃熱で乾燥後、2 段ガス化の第
1工程に送られる。第 2 工程は発酵工程で、合成ガスは天然の嫌気性バクテリアを用いた
発酵槽で選択的にエタノールに変換される。第 3 工程は精製工程で、前工程からのエタノ
ールは精製され、脱水後にガソリンとブレンドされてフロリダ州の E10 グレードの製品と
なる。第 4 工程は廃熱回収で、スチームを発生させプラント内で使用するとともに 6MW
の発電を行い、余剰の約 2MW は外販の計画である。
参考:http://www.ineos.com/en/businesses/INEOS-Bio/
(3) Lignol Innovations, Inc.(米国法人)
コーポレート本社:カナダ・ブリティッシュコロンビア州 Vancouver
事業場所:ワシントン州 Ferndale
事業状況:2011 年7 月DOE プロジェクトとしては中途終了
【事業概要】
カナダのLignol Energy Corporation (LE社) は、ワシントン州Ferndaleで商業規模の10%
スケールでデモ段階プロジェクトを行う計画で、2008年1月にDOE補助事業(最大3,000万
ドル)として承認を得ていた。市場環境の悪化などを背景に、LE社lは自社保有のパイロッ
ト設備のデータをもとに採算性を重視した事業計画の見直しを行った結果、
DOEの当初助成
条件と合致しない状況となり、DOEのプログラムからの撤退を2011年7月にDOEと合意した。
採用技術は、発酵を利用したプロセスで熱化学反応を含まないバイオケミカルプロセスで、
ハンノキ、アスペン、ポプラなどの硬材など日量100トンを原料として、エタノール年産180
万ガロン、高純度リグニン(注1)年産5,500トン、フルフラール(注2)年産500トンを目標として
いた。
注1:リグニンはバニリン(バニラの香りのもと)や接着剤の原料として利用される。また、リグニン製品
はモルタル・コンクリート用混和剤として広く使用される。
注2:フルフラールは芳香族アルデヒドで、フラン樹脂やアジピン酸の原料などとして用いられる。
【技術概要】
製造プロセスは6つの基本工程で構成、原料はミル工程で微粉化された後に液化工程に送
られセルロースを前処理し澱粉質を液化、糖化工程では液化した澱粉を発酵可能な糖類に変
換する。発酵工程では酵素加水分解と発酵を行い、約10%アルコール濃度の発酵液は未反応
の固形分と酵母を分離した後で分留装置・脱水工程を経て製品エタノールになる。ソルベン
トは、リサイクルされるとともに、有用な複製品の回収・製造に用いられる。
本プロセスの特徴は木質系バイオマスの前処理工程においてセルロースやヘミセルロー
スなどの複雑な炭水化物を分離することにあり、リグニンや有用な副製品成分はこの工程で
特殊な有機溶媒で分離される。
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【参考情報】
LE社は、2008年6月からブリティッシュコロンビア州Vancouver近郊のBurnaby にパイロ
ットプラント(処理能力:最大日量1トン)を2,000万ドル掛けて建設し、2009年4月からカ
ナダ産木材チップを原料とするバイオ燃料の製造検討を開始、
2009年末にはプロセス改良の
試運転も成功裏に終了している。最近は種々のバイオマス原料で実証運転を行っていると報
告されており、2013年1月には高純度リグニンを熱可塑性物質分野へ商業規模で供給開始す
ると発表している。
Lignolでは、パイロットプラントからのデータをもとに、2011年4月に商業規模プラント
(エタノール年産8,000万リットル=2,100万ガロン、高純度リグニン年産5万5,000トン)の
エンジニアリングパッケージを完成させたことから、
デモ段階を経ずにDOEの助成が得られ
ない場合でも早期の商業化規模のプラント建設を検討している。
参考:http://www.lignol.ca/
(4) Pacific Ethanol, Inc.(PEI 社)
本社:カリフォルニア州 Sacramento、事業場所:オレゴン州 Boardman
事業状況: 2011 年 9 月 DOE プロジェクトとしては途中終了
【事業概要】
米国西海岸地域で最大のエタノール製造販売会社である PEI 社は、当初オレゴン州
Boardman でデモ段階プロジェクトを行う計画で、2008 年 1 月に DOE から総額 2,432 万
ドルの補助金枠を得ていた。計画では、デモプラントは PEI 社のオレゴン州 Boardman に
ある第一世代エタノール工場(年産 4,000 万ガロン)の敷地内に建設され、バイオケミカ
ルプロセスも用い、投入原料として麦藁、トウモロコシの穂軸やポプラの間伐材を用いて
エタノール年産 270 万ガロンを目標としていた。
PEI 社は、
オレゴン州Boardman の該社のエタノール工場に隣接して建設中のZeaChem
社のパイロット段階プロジェクト(能力:エタノール年産 25 万ガロン)に関して、2011
年 10 月、PEI 社の子会社 Pacific Ethanol Management Services,Corp.がプラントの運営全
般を行うと発表した。PEI 社は将来的に自社にとって有利な技術を探している可能性が高
く、自社のプロジェクトを終了させて ZeaChem プロジェクトに注力すると考えられる。
DOE プロジェクトとしては、2011 年 9 月に中途終了することで DOE と合意。
【技術概要】
当初計画での本プロジェクトの技術は、デンマークの BioGasol, Aps の特許技術を基に
している。BioGasol の主なプロセスは、原料前処理、加水分解、発酵、および水溶液循環
による嫌気性消化の各工程で構成されている。
微粉砕された原料リグノセルロース系バイオマスは、高温下で酸化され、C6 類は酵素
加水分解・発酵工程に送られ、C5 類は発酵工程に送られ別途処理される。
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酵素加水分解槽で生成したグルコースは酵母発酵によりエタノールに変換され、固液分
離後に蒸留工程に送られる。分離固形分はキシロース発酵反応槽に送られ、バクテリアで
処理することで 5 糖類と 6 糖類の両方をエタノールと水素に変換する。
参考:http://www.pacificethanol.net/
(5) Verenium Corporation.(VC 社)
コーポレート本社:マサチューセッツ州 Cambridge、事業場所:ルイジアナ州 Jennings
事業状況:2010 年 9 月 DOE プロジェクトとしては完了
【事業概要】
VC 社は、DOE から 4,000 万ドルの助成枠を認められルイジアナ州 Jennings にデモプ
ラントを建設(費用 7,900 万ドル)
、バイオケミカルプロセスを採用し、投入原料として
サトウキビの搾りかすなどの農業残渣を用いエタノール年産140万ガロンの製造を目標と
し、2008 年 4 月からスタートアップを開始した。
2008 年 8 月、VC 社は石油メジャーの BP との間でセルロース系エタノールの技術開発
と商業化の加速の為に戦略的パートナーシップを結び、BP は 18 ヶ月間で総額 9,000 万ド
ルを VC 社に支援することとした。最終的に戦略的パートナーシップは 2009 年 8 月 1 日
まで 6 ヶ月間延長され、BP は VC 社に追加で 1,500 万ドルを支払っている。
本プロジェクトは 2010 年 8 月までにプロジェクト目標を達成し、2010 年 9 月に DOE
プロジェクトとしては完了した。
2010 年 9 月、
プロジェクトの終了に合わせ VC 社は同社のセルロース系バイオ燃料ビジ
ネス全て(酵素関連を除く)を BP の子会社 BP Biofuels North America(BPB 社)に 9,830
万ドルで売却した。Jennings の各種プラントやカリフォルニア州の研究開発設備などは
BP グループのバイオ燃料開発拠点として継続使用される。VC 社は、バイオ燃料製造に用
いる酵素の事業は継続して行う計画で、2008 年 2 月に改良酵素システムの開発への 4 年
間の助成枠も獲得している。
【技術概要】
サトウキビの搾りかすなどの原料を洗浄後に酸処理し、高温加圧条件下で加水分解を行
い糖類と植物繊維の混合スラリー溶液を生成させる。スラリー溶液をグルコースと非グル
コースに分離した後にグルコースに酵素を添加して処理する。発酵グルコースと非グルコ
ースはそれぞれ次工程のアルコール醸造槽に送られ、非グルコース糖類はバクテリアを用
いた発酵で、グルコース由来の繊維は酵素で糖化して発酵させる。その後、分留装置でエ
タノールを回収する。
参考:http://www.verenium.com/
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石油エネルギー技術センター
3. パイロット段階のプロジェクト(5 事業)の状況概要
(1) American Process Inc.(API 社)
本社:ジョージア州 Atlanta、事業場所:ミシガン州 Alpena
事業内容:パイロット段階プロジェクト
(2012 年 6 月からスタートアップを開始し、運転中)
採用技術:熱化学・バイオケミカル複合プロセス
投入原料:北米産硬材とポプラ類
日量 30 乾燥トン
製造規模:変成エタノール年産 94 万 5,000 ガロン
酢酸カリ溶液年産 69 万 6,000 ガロン
【事業概要】
API 社の自社開発である「GREEN POWER+」技術を、プロトタイプ・バイオリファイ
ナリーで実証する事が目標である。
既にDOE などから2,200 万ドルの助成枠を得ており、
2011 年 3 月に装置の建設に着工し、2012 年 6 月からスタートアップを開始しており、運
転中である。プロジェクト費用は、2,800 万ドルと報じられている。
プロジェクトの遂行会社である Alpena Biorefinery のホームページで、最近のプラント
の写真を見ることが出来る。デモ期間終了後は、顧客などの試作検討にプラントを貸し出
す予定と報じられている。
【技術概要】
原料は木質パネル製造の過程で出てきた木材の加水分解生成物で、発酵槽の中で C5 糖
類と C6 糖類を同時に処理することに特徴がある。熱分解工程からの固形分はバイオマス
ボイラーで燃焼する。製品の酢酸カリは 50%溶液である。
参考:http://www.americanprocess.com/
http://www.alpenabiorefinery.com/
(2) Archer Daniels Midland Co.(ADM 社)
本社:イリノイ州 Decatur、事業場所:イリノイ州 Decatur
事業内容:パイロット段階プロジェクト
(2010 年パイロットプラント建設開始、2012 年完成予定)
採用技術:熱化学・バイオケミカル複合プロセス
投入原料:トウモロコシの茎や穂軸、日量 1 乾燥トン
製造規模:エタノール年産 2 万 5,800 ガロン、アクリル酸エチル年産 2 万 1,000 ポンド
【事業概要】
ADM 社は将来を見据えて次世代エタノール製造プロセスの研究開発に取り組んでおり、
本プロジェクトの開発と建設の費用は約 3,600 万ドルで、
2009 年 12 月に DOE から 2,480
万ドルの助成金枠を得ている。2010 年に建設を開始し 2012 年に完成の計画とされている
7
石油エネルギー技術センター
が、進捗情報は不明。要員の採用活動を積極的に行っている。
【技術概要】
原料のトウモロコシの穂軸は、輸送コストの削減と長期貯蔵の観点などから圧縮しペレ
ット化される。集められた原料は工場で再解砕され、セルロースとヘミセルロースは酸を
加えた後で熱分解により糖類に変換される。リグニンはスチーム発生の熱源として使用さ
れ、発酵槽でエタノールに転換できない糖類は水素化処理してポリオール類に変換する。
ポリオール類は、触媒処理によりアクリル酸エチルに転換される。
参考:http://www.adm.com/en-US/Pages/default.aspx
(3) ICM, Inc.
本社:カンザス州 Colwich、 事業場所:ミズーリ州 St. Joseph
事業内容:パイロット段階プロジェクト
(2011 年後半にデモ運転を開始、運転中)
採用技術: バイオケミカルプロセス
投入原料:トウモロコシの繊維質、スイッチグラス、モロコシ 日量 10 乾燥トン
製造規模:エタノール年産 24 万 5 千ガロン
【事業概要】
LifeLine Foods, LLC の第一世代エタノールのパイロットプラントを改造して、第二世代
のパイロット兼デモプラントとして使用する。DOE から建設と運転費用として 2010 年 1
月に 2,500 万ドルの助成金枠を認められている。
プロジェクト費用は 3,100 万ドルである。
2011 年中頃に改造工事が終了し 2011 年後半からデモ運転を開始する計画であったが、
2012 年 11 月には 1,000 時間運転が成功裏に終了したと報告している。
【技術概要】
プロセスは前処理、酵素加水分解、C5/C6 糖類発酵の各工程で構成され、酵素は
Novozymes North America, Inc.から供給される。プロセスの特長としては、エタノールの
収率が高い、C6/C5 糖類の転換率が高いなどを挙げている。
参考:http://www.icminc.com/
http://www.icminc.com/cellulose-news.html
(4) Logos Technologies, Inc.(LT 社)
本社:バージニア州 Fairfax、事業場所:カリフォルニア州 Visalia
事業内容:パイロット段階プロジェクト(Corn-to-Cellulosic Migration Project)
(既存パイロットを改造し、2012 年第一四半期からデモプラントの運転開始予定)
採用技術:バイオケミカルプロセス
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投入原料:トウモロコシの茎や穂軸、スイッチグラス、木材屑日量 2 乾燥トン
製造規模:エタノール年産 5 万ガロン
【事業概要】
LT 社は EdeniQ, Inc.(本社:カリフォルニア州 Visalia)とプロジェクトを組み、実証プ
ラントは EdeniQ 社が開発した技術を基に EdeniQ 社の既設の第一世代エタノール製造パ
イロットプラントを改造する計画で、2011 年 5 月に竣工式を行った。2012 年夏ころから
スタートアップを行い、2013 年 5 月には性能確認運転が連続 1,000 時間を越え DOE の設
定した目標も達成したと発表している。運転期間は、約 3 年間の予定である。
プロジェクト費用は 2,500 万ドルと言われており、2011 年 3 月に DOE から 2,050 万ド
ル強の補助金枠を得ている。
【技術概要】
機械的前処理工程(開発技術)で原料の粒径分布を最適化することで、糖化工程での酵
素使用量が40%削減できるとしている。
Edeniq社が開発した改良酵素を用いた糖化工程、
USDAの研究所が開発を行っている高収率の酵母を用いた発酵工程が主要工程である。分
離されたリグニンは、コジェネの燃料として使用される。
参考:http://logostechnologies.com/
http://www.edeniq.com/home.cfm
(5) ZeaChem, Inc.(ZC 社)
本社:コロラド州 Lakewood、事業場所:オレゴン州 Boardman
事業内容:パイロット段階プロジェクト
採用技術:熱化学・バイオケミカル複合プロセス
投入原料:品種改良ポプラ、将来的にトウモロコシの穂軸や茎など日量 10 乾燥トン
製造規模:エタノール年産 25 万ガロンおよび中間化学品
【事業概要】
本パイロットプラントは、ZC 社の既設の酢酸エチル・パイロットプラントに設備の追
加・改造を実施。2010 年 12 月に DOE の助成枠 2,500 万ドルの決定を受け、2011 年末ま
でに主要設備の建設を完了、2012 年 1 月から主要設備のスタートアップを開始し、2012
年 10 月には関連設備も含めた建設工事が完了した。
2013 年 3 月、ZC 社はセルロース系ケミカルとエタノールの商業グレードの製造を開始
したと発表した。ZC 社は、原料供給面で GreenWood Resources と、販売面で Valero 社
および Chrysler 社と戦略的パートナーシップを構築している。
ZC 社は、2011 年前半から本格的に大型商業化設備の建設計画に取り組んでおり、商業
化設備の計画に集中するため、2011 年 10 月にパイロットプラントの運転、設備保全、会
計処理などの業務を、
Pacific Ethanol の子会社 Pacific Ethanol Management Services Corp.
9
石油エネルギー技術センター
に委託する契約を締結した。Pacific Ethanol は、パイロットプラントに隣接して年産 4,000
万ガロンのエタノール製造設備を保有しており、自社が行っていたデモ段階の DOE プロ
ジェクトを中途終了させ ZC 社との関係強化を図っている。
【技術概要】
原料は化学分留法により糖類溶液とリグニンを含む固形分に分離され、糖類は嫌気性条
件下でバクテリアまたは酢酸塩生成微生物により酢酸に転換される。酢酸は酢酸エステル
に変換された後、水素化分解工程でエタノールに変換される。酢酸エステルは中間化学品
としても販売される。また、C3 化合物であるプロピレン酸なども製品として得られる。
前処理工程で分離されたリグニンを含む固形分はガス化工程に送られ、発生した合成ガ
ス中の水素は水素化処理装置に送られ、残りのガスは蒸気発生および発電の燃料として用
いられる。
【参考情報】
ZC社は2011年秋、品質改良ポプラを原料としてバイオディーゼルとジェット燃料を製造す
る技術開発にUSDAから4,000万ドルの補助金枠を得ている。この為の改造工事は、2013年
には完成を計画している。
更に2014年にはパイロットプラントに隣接して、年産2,500万ガロン以上のセルロース系
エタノール製造工場を建設する計画である。2012年1月にはUSDAから2億3,250万ドルの債
務保証枠を得ている。
参考:http://www.zeachem.com/
10
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4. 第二報のまとめ
セルロース系エタノールのプロジェクトは、
DOE が推進する統合化バイオリファイナリ
ー28 プロジェクトの過半の 15 プロジェクトに上り、進捗状況は様々である。
デモ段階では 2 プロジェクトが事業途中で中止となったが、LT 社は採算性向上の観点か
ら計画を見直し一気に大型商業化設備の建設を目指す、Pacific Ethanol 社は当初計画して
いた導入技術に見切りをつけた形で中止、など前向きな理由での中止と考えられ、規模の
小さな事業では資金繰りの影響は小さいと思われる。
パイロット段階でも各社の展開は早く、ZC 社のように既に大型商業化設備の計画が具
体的に進んでいるケースも見られる。
各プロジェクトともに、最終的には商業規模製造時に競争力のあるコストを達成・実証
できるかが重要な判断要素になるため、安定した原料の確保、既存の出荷販売ルートの活
用や既設設備との統合による投資削減など、幅広い企業と戦略的パートナーシップを組ん
だ取り組みが多数みられる。筋の良いプロジェクトには、有力企業が積極的に参加してい
る。
各社の発表を見ると、長期間にわたるパイロット装置の運転データから商業化設備への
スケールアップが可能と発言する企業も多く、販売価格の厳しいエタノール以外の製品も
重要との考えも見られるため、今後は現状の規模にかかわらず各プロジェクト技術の商業
化への動きがあるかもしれない。
以上
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]まで
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次回の JPEC レポート(2013 年度 第 15 回)は
「中国の自動車用燃料品質規格の現状」
を予定しています。
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