脳血管障害による片麻痺者の体脂肪率測定

第48回日本理学療法学術大会(名古屋)
P-B生活-119
脳血管障害による片麻痺者の体脂肪率測定
杉山 真理 1), 清宮 清美 2), 鈴木 康子 2), 河合 俊宏 3), 武川 真弓 4), 廣島 拓也 4)
1)
2)
3)
4)
埼玉県総合リハビリテーションセンター 自立訓練担当 ,
埼玉県総合リハビリテーションセンター 福祉工学担当 ,
埼玉県総合リハビリテーションセンター 地域支援担当 ,
埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科
key words 体脂肪率・片麻痺・肥満
【はじめに、目的】
脳血管障害者の多くは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を基礎疾患として有している。2008 年から特定検診・特定保
健指導が義務づけられ、生活習慣病の予防対策が行われるようになった。障害者においても体重・体脂肪率の測定および
運動や食事の指導が必要であるが、市販の機器を用いた測定には裸足立位が必要であり、装具使用者の測定は不可能であ
る。二重エネルギー X 線吸収法(DEXA)にて体脂肪率測定が可能な医療機関もあり、定期検診や人間ドックに利用されて
いる場合もある。しかし、在宅生活における日々の健康維持・管理に役立てる方法はない。当センターでは、身体の特定部
位の皮下脂肪厚から体脂肪率を算出するキャリパー法を用いている。しかし、近藤らの先行研究によって麻痺部は非麻痺
部に比べ、脂肪が厚く分布することが明らかになっており、キャリパー法によって算出された体脂肪率が、対象者の体組
成を表しているかについては検証が必要である。本研究では、脳血管障害による片麻痺者で装具を用いている方を対象と
し、麻痺側および非麻痺側からキャリパー法で算出された体脂肪率に差異があるか検証する。さらに、腹部脂肪計(タニタ
社製 AB-140)にて計測した体幹部脂肪率と比較する。その結果から、在宅における障害者の健康維持・管理方法について
検討する。
【方法】
対象は脳血管障害による片麻痺で下肢装具を使用している男性 16 名、女性 4 名である。キャリパー法による体脂肪率の
測定を行った。麻痺側および非麻痺側の肩甲骨内側と上腕後面の脂肪厚を各 3 回測定し、その平均値から体脂肪率を算出
した。算出式は長嶺と鈴木の式を用いた。算出された体脂肪率は t 検定を用いて比較した。また、腹部脂肪計にて体幹部脂
肪率と推定ウェスト周囲径を測定した。体幹部脂肪率とキャリパー法にて算出した体脂肪率を Dunnett 法による多重比較
を用いて比較した。データの統計処理はすべて Dr.SPSSll 11.0.1J を用いて行い、有意水準は 5% 未満とした。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究の目的および方法について説明し、同意を得た。また、当センター倫理委員会の承認を得た(承認番号 H24-5)
。
【結果】
特定保健指導の対象となる、ウェスト周囲径より高値を示した者は、男性 16 名中 11 名、女性 4 名中 2 名であった。キャ
リパー法にて算出された体脂肪率は麻痺側が有意に高値を示し、最大で 13.0% の差が生じていた。さらに、体幹部脂肪率と
の比較では、すべての対象者で体幹部脂肪率が高い値を示した。体幹部脂肪率とキャリパー法にて算出された体脂肪率に
は、麻痺側および非麻痺側のいずれにおいても有意差が認められた。
【考察】
皮下脂肪は麻痺側に厚く分布する傾向にあり、近藤らによる先行研究と同様の結果となった。キャリパー法によって算
出された体脂肪率は、麻痺側・非麻痺側どちらの測定値を採用するかによって、差が生じることが明らかになった。臨床
場面で脳血管障害による片麻痺者に使用する場合には、同一側で測定する必要がある。体脂肪率を正確に測定するために
は、二重エネルギー X 線吸収法および水中体重測定法が適しているが、身体への負担が大きいことや大規模な設備が必要
であり、臨床場面で使用することは困難である。本研究では生体インピーダンス法にて測定した体幹部脂肪率を体組成を
示す値とし、キャリパー法にて算出した体脂肪率と比較した。麻痺側および非麻痺側のいずれにおいても有意差が認めら
れたが、キャリパー法は主に皮下脂肪を表しており、生活習慣病で問題視される内臓脂肪との関連性は低いことが確認さ
れた。特定保健指導ではウェスト周囲径より内臓脂肪を推定しているが、脊髄損傷者を対象にした先行研究では、座位で
測定したウェスト周囲径と内臓脂肪量の関係は健常者と異なり、より厳しい基準が必要であるとされている。ウェスト周
囲径より内臓脂肪を推定することは、在宅における健康管理として実践可能な方法と思われるが、麻痺部である体幹部の
脂肪厚の特性や測定肢位とウェスト周囲径の関係など、明らかにしなければならない課題も多い。いずれにしても、裸足
立位が困難であり、上肢に麻痺を有する脳血管障害者の場合、在宅にて体脂肪率を測定し、日常の健康管理に役立てるこ
とは困難である。安全にかつ簡便に体脂肪率が測定可能な方法や機器の開発が急務である。
【理学療法学研究としての意義】
立位困難者や装具使用者の体脂肪率を容易かつ正確に測定できる方法がなく、適切な栄養指導や運動処方は困難を極め
ている。本研究の特徴は立位困難者と装具使用者を対象とし、より正確な体脂肪率測定方法を探り、個別の運動処方およ
び栄養指導に役立てる基礎的なデータを得ることである。