氏 名(本籍) 学位の種類 学位記番号 学位授与年月日 学位 - 東北大学

さか
より
まさ
と
1
氏 名(本籍)
酒 寄 真 人(茨城県)
学位の種類
博
学位記番号
医博第
学位授与年月日
平成10年3月25日
学位授与の条件
学位規則第4条第1項該当
研究科専攻
東北大学大学院医学系研究科
士(医学)
1417
号
(博士課程) 内科学系専攻
学位論文題目
出芽酵母を用いた BR (M1 および BRα42 のスク
リーニング法の開発
(主 査)
論文審査委員
教授 金丸 龍之介
,
へ
教授堀井 明
一77一
教授矢嶋 聰
論文内容要旨
【研究の背景・目的】
家族性乳癌/卵巣癌の原因遺伝子である βRα41 遺伝子 (以下 BRα41) および βR(泌2 遺伝子
(以下 βRα42) の変異の大部分は, フレームシフ ト変異とナンセンス変異であり, 変異の位置
は両遺伝子の大きな翻訳領域に広く分布 している。 βR 〔渦1 および BRα42 の変異のスクリーニ
ングには主にPCR single-strand conformation polymorphism 法 (PCR-SSCP 法) が行われ
ているが, この方法は翻訳領域を数十断片に分けて検索する必要があり, 大変な労力が必要であ
る。 最近, protein truncation test (PTT), επ o伽。 synthesized protein assay (IVSP) が
導入され, 検索効率は改善されたが, これらの方法には放射性同位元素や電気泳動が必要であり,
更に簡便なスク リーニン グ法の開発が必要であ る。
本研究の目的は, (1) 家族性乳癌/卵巣癌の原因遺伝子である BRα42 のスクリーニングを従来
の方法より簡略化するために, 当研究室で開発され, BRα型 でその有用性が確かめられている
Stop Codon assay (SC assay) を BEα42 に応用 し, そのスクリー 二・ ング法を開発すること,
(2) 従来の BRα41の SC assay に改良を加え, エキソン11 (約 3.4kb) における変異の存在領域
をより狭い範囲に特定できるようにすること, (3) SC assay の判定用培地を従来のロイ シン・
ウラシル不含合成培地から5-fluoroorotic acid (5-FOA) 添加培地に変更し, 変異を持った
DNA 断片がクローニングされた酵母の回収を簡略化すること, (4) これら SC assay を用いて日
本人家族性乳癌/卵巣癌家系に対して遺伝子診断を行うこと, であ る。
【研究結果】
(1) BRO河1でその有用性が確かめられている Stop Codon assay (SC assay) を βRα42に応
用し, そのスクリーニング法を開発した。 この SC assay を用いて, 既に BRα42 に変異が存在
することが確認されている検体に対 してアッセイ を行い, その変異を検出 し得た。
12) 従来の、BRσ}41 の SC assay に改良を加え, エキソン11 (約 3.4kb) における変異を約 500-
1200bp の範囲に特定できるようにした。 これによ り, 本研究で検出したエキソン11 内の変異の
存在部位をさらに約 1200bp の領域に特定でき, DNA シークエンス解析による変異の同定にか
かる労力を軽減できた。
(3) SC assay の判定用培地を, 従来のロイシン・ウラシル不含合成培地から 5-FOA 添加培地に
変更した。 5-FOA 添加培地上では, Ura一 のコロ土一が増殖するため, 変異を持った DNA 断片
がクローニングされた酵母を, 判定用培地から直接回収することが可能となった。
一78一
(4} 上記 SC assay を用いて日本人家族性乳癌/卵巣癌家系に対 して遺伝子診断を行い, 2家系3
検体で βRσA1 にヘテロ接合性変異を検出した。 DNA シークエンス解析の結果, 変異を
437de1T (1 家系1検体), Q934X (2919 C→T) (1 家系2検体) と同定した。
【考
察】
翻訳領域が 10kb 以上と巨大であり, スクリーニングにかかる労力と時間が大きい βRα42 に
対して, SC assay を応用したスクリーニング法を開発し, 従来の方法より簡便なスクリーニン
グを可能にした。 日本人における BRα41 および BR α42 の変異の頻度や変異キャリアーからの
乳癌あるいは卵巣癌の発症リスクについては, 解析された家系, 患者数が少なく, いまだ不明で
(
ある。 今後, これらの点を明らかにするためには BRα41, BRα42 の大規模なスクリーニング
が必要であり, 本研究により両遺伝子のスクリーニングが可能となった SC assay は, その有用
な手段となる可能性があ る。
峠恩隅
一79一
審査結果の要旨
家族性乳癌/卵巣癌の原因遺伝子である βRα41 遺伝子 (以下 BRα4 1) および BRα42 遺伝
子 (以下 BRα42) の変異は, 両遺伝子の大きな翻訳領域に広く分布している。 このため両遺伝
子の変異検索には, 従来のスクリーニング法を用いて も大変な労力が必要であ る。 BR(酒1 およ
び B盆(】42 の変異の多くがフ レームシフ トまたはナ ンセンス変異であることから, 本研究は, こ
れらの変異を特異的に検出できるStop Codon assay (SC assay) による両遺伝子のスクリー
ニングを可能にした。 この方法は, 従来のスクリーニング法と比較 し, 比較的大きな DNA 断片
を一度にスクリーニングできること, 電気泳動や放射性同位元素を必要とせず, 方法が簡便であ
ること等, 多くの利点を有している。
本研究では (1) Stop Codon assay (SC assay) を, 翻訳領域が 10kb 以上と巨大である BR(】A2
に応用 し, そのスクリーニング法を開発 し, また (2) 従来の βRα41 の SC assay に改良を加え,
変異の同定および変異アレルがクローニングされた酵母の回収にかかる労力を軽減 し, さらに
(3) これら SC assay を用いて日本人家族性乳癌/卵巣癌家系に対 して遺伝子診断を行い, 2家系
3検体で BRα41 にヘテロ接合性変異を検出 している。
本研究により,、8E(漁1 および BRα42 のスクリーニングが可能となった SC assay は, 両遺
伝子変異の検索の有用な手段となる可能性があり, 今後, 日本人家族性乳癌/卵巣癌における両
遺伝子変異の頻度や変異キャリアーか らの乳癌あるい は卵巣癌の発症リスク 等を明 らかにする上
で, 大きく寄与する ものと考えられる。 学位に相当する内容である。
一80一