JOGMEC プロジェクト推進部 石澤 英俊 アナリシス 大きなポテンシャルを秘める イランの天然ガス ・ 石油事情 ~天然ガス、石油ともに世界第 2 位の埋蔵量を誇るイランの 油ガス田開発の現在と将来~ はじめに ・天然ガス イランには、ロシアに次ぐ世界第 2 位の天然ガス埋蔵量(2 0 0 7 年末時点での埋蔵量 2 7 兆 8,0 0 0 億 m3: 9 8 1 兆 7,5 0 0 億 cf、世界の 1 5.7 %)が存在している。これは、LNG 輸出を急速に拡大させつつある世界 第 3 位カタールの埋蔵量 (2 5 兆 6,0 0 0 億 m3:9 0 4 兆 6 0 0 億 cf、世界の 1 4.4 %)を上回るものである。 イランは人口約 7,0 0 0 万人を抱えており、現時点で既に米国、ロシアに次ぐ世界第 3 位のガス消費国 であり、現在は輸入量が輸出量を上回っている。これに加え、イラン産原油を輸出に回すことを主な目 的として国内のエネルギー供給を石油製品からガスに転換する政策を採っていることなどから、今後さ らにガスの国内需要が増加する可能性がある。 他方、埋蔵量が多いことから今後、重要なガス輸出国になる可能性を秘めている。現時点までにガス 輸出がほとんど行われていないこともあり、今後のイランからのガス輸出拡大に対して各国から大きな 期待が寄せられており、イランをめぐる難しい国際環境やイランでの困難な契約条件にもかかわらず多 くの外国石油会社がイランでのガス開発に参入するための足場を築いている。 ・石油 イランには、 サウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油埋蔵量(2007年末時点での埋蔵量1,384億バレル、 世界の 1 1.2 %)が存在している。約 4 2 0 万 b/d とされる生産量についても、世界第 4 位、OPEC 加盟国 中第 2 位を占める大産油国であるとともに、約 2 5 0 万 b/d の輸出量を誇る世界有数の輸出国である。日 本のイランからの原油輸入量は、2 0 0 7 年実績で 4 9 万 9,0 0 0b/d(日本の原油総輸入量の 1 2.1 %、原油輸 入元として第 3 位)であり、イランから見ると日本向け原油輸出は全原油輸出の約 2 0 %を占めており、 輸出先第 1 位とされている。 イランにおける原油・ガスの探鉱・開発はイラン国営石油会社(NIOC)が所管しており、実際の事業 は NIOC の地域別子会社が行っている。このなかで、NIOC が外国の資金および技術を導入して行うこ とを決定したプロジェクトについてのみ外国石油会社が関与しているが、イランが 1 9 7 9 年の革命後初 めて外資導入を開始した 1 9 9 5 年以降に外国石油会社が参入したプロジェクトは約 3 0、進出会社数も約 3 0 となっている。 イランは、2 0 0 8 年 5 月に今後の石油開発の重点政策として小規模油田の開発と油田からの原油回収 率の向上を掲げ、生産目標量を 5 5 0 万 b/d とした。イランは基本的には独力で探鉱・開発を行っていく ことを望んでいるものの、イラン側の開発資金不足を主な理由として、これまで外資が参入する機会が なかった小規模油田の開発に外国石油会社が参入する機会の生ずることが想定される。また、2 0 0 8 年 で石油産業誕生 1 0 0 周年を迎えているイランにおいて、老朽化して生産量が減少しつつある多くの油田 からの原油回収率を向上させるための資金と技術を、これまで以上に外国石油会社に求めていく可能性 がある。 63 石油・天然ガスレビュー アナリシス 1. 天然ガス事情 (1)イランのガス需給および消費割合 *1 輸送が容易であることなどから)イラン産原油を輸出に 生産量は 1,1 1 9 億 向けるために国内エネルギー供給を石油製品からガスに m / 年でロシア、米国、カナダに次ぐ世界第 4 位(世界の 転換するとともに、国内エネルギー需要の増加に対して 3.8 %)である。一方、市場向けガス消費量は国内でのガ ガスで対応する、②ガスの油田への圧入:原油の増産・ ス消費拡大などにより 1,1 1 8 億 m / 年で米国、ロシアに 生産維持を目的としてガスを油田に圧入する、③石油化 次ぐ世界第 3 位(世界の 3.8 %)の消費大国である。表 1 学産業の原料としてのガスの利用促進、④ガスの輸出拡 のとおり、国内部分については生産量が消費量を上回っ 大などである。 2 0 0 7 年のイランの市場向けガス 3 3 *2 ているものの、その量はごくわずかである 。 また、 ガス輸出入に関する統計では、 輸入量 (72億6,000 ① 国内での利用促進 万 m / 年:トルクメニスタンから< 1 9 9 7 年開始>)が輸 現在、天然ガスはイラン国内エネルギー供給の 5 割程 出量(6 0 億 2,0 0 0 万 m / 年:トルコ向け< 2 0 0 2 年開始>) 度を占めているとされているが、イラン政府は国内での を上回っている。 ガス利用促進政策によって、このシェアを上昇させるこ 市場向けガスの国内消費における用途別割合は、発電 とを計画している。 用 3 6.1 %、住宅用 3 2.6 %、工業用 1 6.0 %、エネルギー 2 0 0 4 年時点で、イランの発電所の 7 5 %以上がガスを 用 5.3 %、商業および公共用 4.3 %、石油化学原料用 3.8 %、 燃料としている。また、電力需要は年間 1 0 %程度ずつ 輸送中損失 1.4 %、輸送用 0.3 %、統計誤差 0.2 %となって 増加していることから発電所建設に対して多額の投資が いる(2 0 0 5 年実績、IEA ホームページ“Natural Gas in 行われており、発電用のガス需要は増加することが見込 Iran in 2 0 0 5” ) 。 まれている。 3 3 住宅用や工業用などのガスには多額の補助金が投入さ (2)イランのガス利用政策 れ極端な低価格となっていて、浪費を招いていると指摘 イラン政府の主なガス利用政策は、①国内でのガス利 されている。さらに、人口増加によって消費が急増して 用促進:(常温常圧で液体であるためにガスと比較して いる。 イランでは、国内自動車産業の成長 などと歩調を合わせて自動車台数が急 表1 イランの天然ガス事情 速に増加し、それに伴ってガソリン消 埋蔵量 27.8兆cm 981.75兆cf 世界第2位 (世界の15.7%) 生産量※1 1,119億cm 世界第4位 (世界の3.8%) 国内消費量 1,118億cm 世界第3位 (世界の3.8%) 輸入量および 輸出量 輸入(トルクメニスタン)72.6億cm 輸出(トルコ)60.2億cm cm は立方メートル、cf は立方フィート。生産量は年間。 ※1:OPEC Annual Statistical Bulletin 2007(以下「OPEC統計」)によれば、イランの2007 年のガス総生産量は1,742億cm(OPEC統計の数値のうち、市場向け生産量は1,119億 cm<64.2%>でありBP統計と一致。OPEC統計では他に、油田圧入285億cm<16.4%>、 輸送時の縮小181億cm<10.4%>、フレア<焼却>157億cm<9.0%>がある。< >内の数 字は総生産量のうちの割合) 出所:2008年版BP統計(埋蔵量は2007年末、生産量と消費量は2007年の数量)、OPEC統計 (輸入量および輸出量の欄、2007年の数量) 費量が急増してきた* 3。イランは 4 2 0 万 b/d 程度の原油を生産する大産油国 でありながら国内精製設備の能力不足 により国内消費用ガソリンの約 4 0 % を輸入に依存しており、またガソリン の輸入および国内生産に対して多額の 補助金を投入していることから* 4、長 ばくだい 年にわたって莫大な財政負担の問題を 解決する必要に迫られていた。この問 題への対応策として、イラン政府は 2 0 0 7 年 6 月 2 7 日から 1 カ月あたりの ガソリン購入可能量を制限するガソリ ン割当(ration)制度を開始し、ガソリ *1:生産量全体から油田への圧入向けなどを除いたもの。 *2:2007年の日本の消費量は902億m3(世界の3.1%)で、イランの消費量は日本を上回っている。 *3:イラン国内の自動車約850万台、バイク約600万台。ガソリン消費量は7,500万リットル/d(約47万b/d)程度(2007年6月時点、イラン国内報道) 。 *4:1リットルあたりのガソリン価格(2008年9月時点) :ガソリン割当制度(レギュラー:1,000リアル<約12円>、ハイオク:1,400リアル<約18円>) 、 ガソリン割当制度の「枠外販売」 (レギュラー:4,000リアル<約50円>、ハイオク:5,400リアル<約68円>。 2008.11 Vol.42 No.6 64 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 ンの消費抑制を図ることとした* 5。この制度の開始によ 予定であるサウスパース・ガス田フェーズ 6 ~ 8 のガス り、ガソリン代替としてCNG(圧縮天然ガス:Compressed は、油田への圧入用とされているように、圧入用のガ Natural Gas)の利用が増加すると見られている。イラン ス需要は増加すると見込まれる。 では、ガス利用促進策の一環として以前から CNG 自動 車の普及促進策が採られており、テヘランでも CNG を ③ 石油化学産業の原料としての利用促進 利用する乗用車やバスをよく見かけるが、今後はこれま イランは、国内の豊富な天然ガスを石油化学の原料 で以上に CNG 自動車およびガソリンと CNG の双方に対 として利用し、付加価値をつけた製品にして輸出(一部 応した自動車の普及促進が図られるものと思われる。ガ は国内需要向け)することを目的に、石油化学産業の育 ソリン割当制度の開始後、既に政府関係者が CNG 自動 成を長期的な計画に基づいて進めている。 車および CNG スタンドを増やす旨の発言をたびたび 現在、イランの 2 カ所(油田地帯である南西部フーゼ 行っている。 スタン州のバンダル・イマームホメイニ地区と世界最大 以上のように、イラン政府は国内エネルギーのガスへ 級のガス田であるサウスパース・ガス田に近接する南部 の転換を図るとともに、引き続き利用促進のための投資 ブシェール州アサルイエ地区)に石油化学プラントを集 を行う方針である。しかし、政府の想定以上にガス需要 積させるとともに、国内西部にエチレン・パイプライン が増加していることから、イラン国内へのガス供給を担 を建設して沿線にプラントを建設している。この分野で 当しているイラン国営ガス会社(NIGC)のカサイザデ総 も今後ガス需要が増加すると見込まれる(図 1) 。 裁(イラン石油省次官を兼任) (当時) は2007年6月2 4 日、 以下のような警鐘を鳴らす発言を行った。 「現在、イランの人口の約 7 6 %に相当する約 5,3 0 0 万 人が国内パイプラインを通じてガスを利用している。今 ふ せつ 後、パイプラインの敷設など(国内へのガス供給のため ネッカ港 に)年間 6 0 億~ 7 0 億ドルの投資が必要となるだろう。 イランのエネルギー消費の増加率は 1.7 %だが、望まし い増加率である 0.8 %に対して 2 倍以上になっている。 エネルギー消費をコントロールし、削減することができ 主な油田地域 1 なければ将来において間違いなく危機に直面することに なるであろう」 (2 0 0 7 年 6 月 2 5 日付テヘラン・タイムズ、 ほか) 。 ② 油田への圧入 油田への圧入は、主に老朽化した陸上油田に対して行 われ、 油田内部の圧力を高めることによって原油の増産・ 生産維持を図っているものである。イランは、中東産油 国のなかでも早い時期から原油生産を開始しているため に老朽化した油田を多く抱えており、OPEC のなかでア ルジェリア、 ベネズエラに続く第3位のガス圧入量となっ ている(出所:OPEC 統計 2 0 0 7) 。この政策も、ガスを ノースパース・ガス田 ゴルシャン・ガス田 フェルドウシ・ガス田 主なガス田地域 3 2 4 ノースフィールド・ガス田 (カタール) サウスパース・ガス田 石油化学プラント集積地区 ①フーゼスタン州バンダル・イマームホメイニ地区 (Petrochemical Special Economic Zone) ②ブシェール州アサルイエ地区 (Pars Special Economic/Energy Zone) 「カスピ海原油スワップ」用原油受け入れ港 ネッカ (Neka)港(イラン北部カスピ海沿岸) 輸出用原油積み出し港 ③カーグ島(約 90%) ④ラバン島(約 10%) カッコ内は積み出し割合 出所:The World Factbookを基に作成 圧入することによって市場向けのガスを減少させてで も、輸出が容易な原油の生産量増加を優先させているこ 図1 イランの石油・ガス関連マップ とを表していると考えられる。また、間もなく生産開始 *5:購入可能量は車種や業種(タクシーは別枠)などによって異なるが、2007年6月に一般の普通車は1カ月100リットルとして開始され、同年12月に 1カ月120リットルに変更された。その後、2008年3月から制度での購入可能量を超える量についての「枠外販売」が開始され、同年6月から「完 成車輸入された1,300CC以上、国産車で2,000CC以上の自動車はガソリン割当制度の対象外」とされた。 「制度の対象外」とされた自動車は、「枠外 販売」のガソリンしか購入できない。これは、「制度の対象外」とした自動車は富裕層が所有しているものと判断したイラン政府による補助金削 減策の一環である。なお、「ガソリン割当制度」導入の目的の一つは、国外へのガソリン密輸を防止するためとされている。 65 石油・天然ガスレビュー アナリシス (5) サウスパース・ガス田開発計画 (3) 冬期の国内供給に関する問題 いま見たとおり、イランのガス利用政策は国内需要を イラン最大のガス田はペルシャ湾にあるサウスパー 増加させる方向のものである。こうしたことから、イラ ス・ガス田である(図 2) 。このガス田はカタールが LNG ンでは近年、需要が増加する冬期において国内のガス供 開発などを進めているノースフィールド・ガス田と同一 給に支障が出たり、トルコ向けの輸出を一時的に停止し 構造とされており、イラン側をサウスパース・ガス田と たりする事態が発生している。 呼んでいる。 2 0 0 8 年初めの例では、2 0 0 7 年末頃にトルクメニスタ サウスパース・ガス田の埋蔵量は、ガス約 1 4 兆 m3 お ンからのガス供給が停止されたことに加え、イラン国内 よびコンデンセート約 1 8 0 億バレルとされており、ガス の例年を上回る量の積雪と、記録的な低温によるガス消 埋蔵量は世界全体の約 9 %、イラン全体の約 5 0 %を占め 費量増加などのために国内のガス供給に支障が生じ、そ ている(出所:パース・オイルアンドガス会社〈POGC: の後トルコ向け輸出をしばらく停止した。国内供給に最 Pars Oil and Gas Company〉 ホームページ) 。 も支障が出た時点では、イラン国内のセメント工場や製 イラン国営石油会社 (NIOC) は、サウスパース・ガス田、 鉄所などの一部の操業にも影響が出た模様。この際、供 ノースパース (North Pars) ガス田、ゴルシャン (Golshan) 給停止の理由につき、トルクメニスタン側は「ガス輸送 ガス田、フェルドウシ(Ferdowsi)ガス田(すべてペル に関する単なる技術上の問題である」旨発言したが、イ シャ湾海上に存在)の四つのガス田開発を所管する子会 ラン側の一部は「供給を停止することによって、トルク 社として、POGC を 1 9 9 8 年に設立しているが、現時点 メニスタン側がガス価格の値上げ交渉を有利に進めるこ で開発に着手しているのはサウスパース・ガス田のみで とを意図していると考えられる」 旨発言した。 ある。 NIGCのカサイザデ総裁 (当時) は、 「イ ランは、双方による合意に基づいて、 今度の冬の期間にトルクメニスタンか アルメニア ら日量 3,0 0 0 万 m のガスを輸入するだ ろう。今度の冬の期間には、ガス消費 を節約することが不可欠であり、 (ガス の代替として)石油製品を利用すること 製油所 油田 ガス田 アゼルバイジャン 3 カスピ海 トルクメニスタン Astara トルコ Tabriz Rasht も必要になるだろう」と発言している Neka Qazvin (2 0 0 8 年 9 月 8 日付イラン ・ ニュース) 。 Tehran NIGC の予測では、イランのガス生 Rey Sanandaj Saveh 産量は 2 0 0 9 年 1 月に日量 4 億 9,3 9 0 万 Kermanshah m 、同 2 月に日量 5 億 8 1 0 万 m 。イラ 3 3 Arak イラン ンのガス消費量は、2 0 0 9 年 1 月に日量 5 億 6,3 8 0 万 m 、同 2 月に日量 5 億 5,5 0 0 3 万 m とされている。これに基づいて国 3 内生産と国内消費のみを考慮すると、 2 0 0 9 年 1 月は日量 6,9 9 0 万 m3 が不足、 イラク Esfahan マスジェデ・スレイマン油田 アフワズ油田 マルーン油田 アザデガン油田 アガジャリ油田 ヤダバラン油田 Abadan ダルクエイン油田 同 2 月は日量 4,6 9 0 万 m3 が不足するこ クウェート 湾 ャ ルシ ペ ゴルシャン・ガス田 シャ湾海上にあるサウスパース(South Pars) ・ガス田となっており、一部の生 産はその他地域のガス田からも行われ ている (図 1、図 2) 。 Firuzabad ノースパース・ガス田 Asaluyeh サウスパース・ガス田 サウジアラビア Bandar Abbas フェルドウシ・ガス田 イランの主なガス生産地域は、南部 のペルシャ湾沿岸陸上地域およびペル Kerman Shiraz ドロウド油田 とになる。 (4) イランのガス生産地域 ガチサラン油田 Bandar Khomeni バーレーン ノースフィールド・ガス田(カタール) Lavan Island バラル油田 シリ油田 カタール オマーン UAE 出所:JOGMEC作成 図2 イランの主な油ガス田マップ 2008.11 Vol.42 No.6 66 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 POGC は、サウスパース・ガス田を複数の単位(フェー が、開発の遅滞も指摘されている。 ズ:Phase)に分割して開発を進めており、現時点までに 既に生産が開始されているフェーズでは、ガスやコン フェーズ 2 4 までが入札に付されている。報道では、同ガ デンセートなどが生産されている。このうち、コンデン ス田のフェーズは全体で 2 8 になる見込みとされている。 セートなどは主に輸出されているが、ガスについては国 現時点までに開発作業が開始されているのはフェーズ 内需要向けとされている。また、今後生産開始となる 1 ~ 1 0、1 5 ~ 1 8 であり、このうち生産が開始されてい フェーズについてもガスは国内需要向けとされているも るのはフェーズ 1 ~ 5 である。フェーズ 6 ~ 1 0 について のが多くあるが、現時点では、フェーズ 1 1 ~ 1 4 が LNG は 2 0 0 8 年中に生産が開始される見込みといわれている プロジェクトによる輸出向けとされている (表 2、表 3) 。 表2 サウスパース(South Pars)ガス田開発事業の現状 フェーズ名 開発企業 事業概要 フェーズ 1 (1 9 9 7 年 9 月契約) Petropars(イラン)* 国内向け天然ガスおよびコンデンセート等生産。2 0 0 4 年 4 月生産開始。フェーズ 2、3 事業に次ぎ 2 番目に生産開始。 フェーズ 2、3 (1 9 9 7 年 9 月契約) Total(仏)*、Petronas(マレーシア)、Gazprom(露) 国内向け天然ガスおよびコンデンセート等生産。2 0 0 3 年 2 月生産開始。 フェーズ 4、5 (2 0 0 0 年 7 月契約) Eni(伊)*、Petropars、NICO(イラン) 国内向け天然ガスおよびコンデンセート、LPG 等生産。 2 0 0 5 年 4 月生産開始。 フェーズ 6、7、8 (2 0 0 2 年 1 0 月契約) Petropars、StatoilHydro(ノルウェー)* イラン南西部アガジャリ油田への圧入用天然ガス等生産。 2 0 0 8 年中に生産開始見込み。 フェーズ 9、1 0 (2 0 0 2 年 9 月契約) GS(韓国)*、IOEC(イラン)、OIEC(イラン) 国内向け天然ガスおよびコンデンセート、LPG 等生産。 2 0 0 8 年中に生産開始見込み。 フェーズ 1 5、1 6 (2 0 0 6 年 6 月頃契約) フェーズ 1 7、1 8 (2 0 0 6 年 6 月頃契約) ハタモル・アンビア建設本部 (Khatam ol-Anbiya Reconstruction Headquarters) 国内向け天然ガス、コンデンセート、石油化学向け原料等 生産。 国内向け天然ガス、コンデンセート、石油化学向け原料等 生産。2 0 0 7 年 7 月開発作業開始。 IDRO(イラン)、OIEC、IOEC 未定:2 0 0 6 年 2 月末に入札公告を新聞等に掲載。Shell、 国内向け天然ガス、石油化学向けエタン、LPG、輸出用コ フェーズ 1 9、2 0、2 1、2 2 Total、Eni、StatoilHydro、Sinopec、Lukoil、BHP、 ンデンセート、硫黄等生産。 Petrobras が資格審査を通過したとされている。 フェーズ 2 3、2 4 未定:2 0 0 6 年 7 月に入札公告を新聞等に掲載。1 0 月に 再公告。1 1 月末が提出期限とされていた。 国内向け天然ガス、石油化学向けエタン、輸出用 LPG、コ ンデンセート、硫黄等生産。 (注)*はオペレーター。フェーズ 11~14については表3を参照。フェーズ 19~24に関しては上記の区分で入札公告が掲載されたが、最近の報道では フェーズ 19、フェーズ 20~21、フェーズ 22~24の区分で19~21はイラン企業、22~24はトルコ企業と交渉などを実施中とされている。 出所:報道等から筆者作成 表3 イランのLNG計画 LNG 計画名称および対象ガス田 生産量 (万 t/ 年) 関係企業 事業概要 ParsLNG 計画 (SP フェーズ 1 1) 1,0 0 0 Total、Petronas、NIOC(イラン) 生産開始見込み時期:2 0 1 4 年頃 投資決定見込み時期:不明 IranLNG 計画 (SP フェーズ 1 2) 1,0 0 0 Petropars。2007年4月にOMV(オーストリア) と Heads of Agreement 締結。その他の企業と 生産開始見込み時期:2 0 1 2 年頃 も協議中。 PersianLNG 計画 (SP フェーズ 1 3、1 4) 1,6 0 0 Shell(英蘭)、Repsol YPF(スペイン)、NIOC 生産開始見込み時期:2 0 1 4 年頃 投資決定見込み時期:不明 North Pars ガス田 (原始埋蔵量約 5 9 兆 cf) 2,0 0 0 2 0 0 6 年 1 2 月に CNOOC(中国)と NIOC が MOU 締結 投資額合計 1 6 0 億ドル以上(ガス生産約 5 0 億 ドル、ガス液化設備約 1 1 0 億ドル)、4 フェー ズで開発、操業開始まで約 8 年。 Golshan ガス田 &Ferdowsi ガス田※ 1 2,0 0 0 2 0 0 7 年 1 月に SKS(マレーシア)と NIOC が ガス田開発契約は 6 0 億ドル相当。MOU では、 MOU 締結。同 1 2 月にガス田開発について両者 投資額合計 1 6 0 億ドル程度(ガス生産約 5 0 億 が契約締結。 ドル、ガス液化設備約 1 1 0 億ドル)。 年間生産量合計 7,6 0 0 (注)SPはSouth Parsガス田の略。ParsLNG計画とPersianLNG計画については、2008年春頃から対象フェーズについて再検討している模様。 ※1:Golshan:原始埋蔵量約50兆cf、Ferdowsi:原始埋蔵量約10兆cf 出所:報道等から筆者作成 67 石油・天然ガスレビュー アナリシス (6) イランのガス輸出実績および計画 ルイエ地区の約 6 0km 北にあるトンバック(Tombak)地 ① LNG による輸出計画 区に建設される計画となっている。 イランからの LNG によるガス輸出実績はなく、着手 が決定されている LNG プロジェクトもない。現時点に ・その他のガス田での LNG 計画 おいて技術的な検討などがある程度進んでいるものはサ ノースパース・ガス田は、1 9 6 7 年に発見され原始埋 ウスパース・ガス田における三つの計画、技術的な検討 蔵 量 約 5 9 兆 cf、 可 採 埋 蔵 量 約 4 8 兆 cf と さ れ て い る。 などを含めて構想段階にあると思われるものはほかの三 NIOC は 2 0 0 6 年 1 2 月、CNOOC と同ガス田開発に関す つのガス田を対象とした計画である。 るMOUを締結した。MOUの内容は、同ガス田を4フェー POGC のトルカン社長(当時)は 2 0 0 7 年 2 月、LNG 計 ズで開発して 2,0 0 0 万 t/ 年の LNG を生産すること、1 6 0 画について「カタールとイランの将来の LNG 生産能力は 億ドル以上の投資(ガス液化設備 1 1 0 億ドル程度、ガス ほ ぼ 同 程 度 と なるであろう。計画では、カタ ー ル の 生産 5 0 億ドル程度) 、操業開始まで 8 年程度、LNG はイ LNG 生産能力は 2 0 1 1 年までに約 7,7 0 0 万 t/ 年に達する ラン側と CNOOC で 5 0 %ずつの権益を持つなどとされ とされているが、イランが計画している LNG 生産能力 ているようである。 は合計で約 7,6 0 0 万 t/ 年である。内訳は、サウスパース・ ゴルシャン・ガス田(沖合約 6 5km)とフェルドウシ・ ガス田から 3,6 0 0 万 t/ 年(ParsLNG 計画:1,0 0 0 万 t/ 年、 ガス田(沖合約 8 5km)の原始埋蔵量はそれぞれ 4 2 兆~ IranLNG 計画:1,0 0 0 万 t/ 年、PersianLNG 計画:1,6 0 0 5 6 兆 cf、9 兆~ 1 3 兆 cf とされている(これら三つのガス 万 t/ 年)、ノースパース・ガス田から 2,0 0 0 万 t/ 年、ゴ 田 の 埋 蔵 量 の 出 所 は POGC ホ ー ム ペ ー ジ ) 。NIOC は ルシャン・ガス田およびフェルドウシ・ガス田から 2,0 0 0 2 0 0 7 年 1 月、SKS と両ガス田開発に関する MOU を締結 万 t/ 年の生産を計画している」と発言している(イラン した。その内容は、両ガス田を開発して 2 0 0 0 万 t/ 年の 国内報道)(表 3)。 LNG を生産すること、1 6 0 億ドル程度の投資(ガス液化 設備 1 1 0 億ドル程度、ガス生産 5 0 億ドル程度) 、LNG ・サウスパース・ガス田での LNG 計画 はイラン側と SKS で 5 0 %ずつの権益を持つなどとされ ParsLNG 計画は Total および Petronas、PersianLNG ている模様である。NIOC と SKS は 2 0 0 7 年 1 2 月、上記 計画は Shell および Repsol YPF の大手外国石油会社とイ MOU のうちガス生産部分について契約を締結した。 ラン側が数年前から共同で計画しており、技術的検討な これら三つのガス田開発については、これまでに技術 ども進められている。しかし、これらの計画についても 的な検討などがあまり行われていないこと、CNOOC と イラン側との交渉が長期化していることなどにより、計 SKS が資本、技術および経験などの点で LNG プロジェ 画に対する最終的な投資決定は行われておらず、着手さ クトを遂行することが可能なのか明らかでないことなど れていない。さらに、イラン側の要請に基づいて 2 0 0 8 から、今後の推移を見守る必要があるものと思われる。 年春頃から、ParsLNG 計画と PersianLNG 計画に割り当 てられる予定であったフェーズを変更する方向で協議が ・LNG 計画に関するイラン政府の動向 行われている模様であり、最終投資決定時期の見通しは イランとインドは 2 0 0 5 年 6 月、LNG 売買契約(5 0 0 万 立っていない。 t/ 年)を締結した。しかし、イラン側が契約締結後の油 IranLNG 計 画 に つ い て は、 イ ラ ン 側 が 設 立 し た IranLNG 社が単独で事業を進めており *6 パートナーと 価上昇に基づいて LNG 価格の見直しを求めているとさ れており、イラン側による契約の批准がされておらず、 なる資本と技術を持った外国企業を探している状況と見 価格に関する交渉が継続されているようである。 られている。報道によれば港湾設備建設などの基礎的な 報道では、イラン側は LNG の輸送にイラン側船会社 工事が実施されている模様だが、今後プロジェクトを本 (イラン国営タンカー会社〈NITC〉、Islamic Republic of 格的に進めていくには外国企業の参加が必要であろうと Iran Shipping Lines など)を関与させる方針であるとさ 見られる。 れ、LNG プロジェクトに関与する外国企業とイラン側 なお、サウスパース・ガス田での LNG 計画で利用す 船会社が共同会社を設立するための協議を行っていると るガス液化施設は、サウスパース・ガス田のガスを利用 いわれている。 した石油化学プラントが集積しているブシェール州アサ *6:イラン側が設立したIranLNG社が、ペトロパース(イラン)に権益を与えている。 2008.11 Vol.42 No.6 68 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 ② パイプラインによる輸出実績および計画 ≪アラブ首長国連邦 (UAE) 向け≫ ・パイプラインによる輸出実績 NIOC は、UAE のクレセント社とペルシャ湾海上イラ パイプラインでは、既にトルコ向けに輸出が行われて ン領にあるサルマン油ガス田* 7 からのガス輸出に関する いる。 契約を締結。当初の輸出開始予定は 2 0 0 5 年 1 2 月であっ ≪トルコ向け≫ たとされているが、工事の遅れおよびイラン側からのガ 1 9 9 6 年、イランとトルコの間で 2 2 年間の天然ガス販 ス価格見直し要請などにより輸出は開始されていない。 売契約が調印された。契約総額はパイプライン建設を含 2 0 0 6 年 4 月、ヴァジリ・ハーマーネ・イラン石油大臣 (当 めて 2 0 0 億ドル程度、2 0 0 7 年までに 9 9 億 m3/ 年を輸出 時)は、契約上原油の国際価格が上昇した場合にはイラ するという内容とされていた模様だが、2 0 0 7 年の輸出 ン側がガスの輸出価格を見直す権利があるとされてお 量は 6 0 億 2,0 0 0 万 m3/ 年となっている。当初予定よりも り、原油 1 バレルあたり 1 8 ドルをベースとして契約が締 3 年程度遅れて 2 0 0 2 年 1 2 月に天然ガス輸出が開始され 結されたものの原油価格が 6 0 ドル以上に高騰したこと たが、技術的トラブルなどによってたびたび輸出が停止 が、イラン側に価格の見直しを行わせることとなったと しているようである。また、近年はイランの冬の国内消 発言している。 費量が増加して輸出余力がなくなるために一時的に輸出 ・パイプラインによる輸出計画 が停止される場合がある。 現在、初期的な段階を含めて交渉中であると思われる ・契約済みのパイプラインによる輸出計画 主なパイプラインによる輸出計画は下記のとおりであ ≪アルメニア向け≫ る。 1 9 9 2 年、イランとアルメニアは全長約 1 4 9km のパイ ≪パキスタンおよびインド向け(IPI(イラン・パキスタ プラインによるガス供給に関する MOU を締結。計画で ン・インド)パイプライン計画:ピース(Peace)パイプラ はイラン北部のタブリーズから国境までの約 1 0 0km、 イン計画) ≫ アルメニア領内の約 4 0km のパイプラインを建設する予 サウスパース・ガス田から陸路パキスタンを経由して 定であった。しかし、ガス価格およびパイプラインルー インドまで、全長 2,7 0 0km 程度を結ぶ計画。現在、パイ トに関する交渉が長期にわたって難航した結果、ガス販 プライン建設・ガス販売などの契約締結を目的とした 3 売契約およびパイプライン建設契約が締結されたのは カ国による交渉が行われており、2 0 1 1 年操業開始見込 2 0 0 4 年 5 月であった。その後、2 0 0 7 年 3 月にイランか みとされている。1 9 9 3 年、イランとインドが両国間の らの輸出が開始されたと報道されたが、実際には 2 0 0 8 陸上パイプラインに関する MOU を締結して FS(フィー 年 9 月時点まで開始されていない模様。販売量は、2 0 年 ジビリティー・スタディー)を開始。また、2 0 0 2 年にイ 間で約 3 6 0 億 m とされている。なお、イランからのガ ランはパキスタンとの間でパキスタン経由インドまでの ス供給とアルメニアからの電力供給によるスワップ契約 パイプラインに関する FS 実施について合意。本 FS は当 とされている。 時の BHP(オーストラリア)が実施し、4 0 億ドル程度の 3 コストと結論された。一方、インドの要望によりパキス ≪スイス企業向け≫ タンを回避する海中ルートの FS も実施されたが、建設 2 0 0 8 年 3 月 1 7 日、EGL 社(スイス)と NIGEC(イラン コストが経済性に見合わないと結論されている。長年に 国営ガス輸出会社)は年間 5 5 億 m のガスを 2 5 年間にわ わたりインド・パキスタン間の緊張した政治情勢から進 たって売買する契約を締結した。契約額は 2 5 年間で 展が見られなかったが、2 0 0 4 年以降両国間で和平プロ 1 8 0 億ユーロから 2 7 0 億ユーロになる見込みとされてい セスが開始されたことによって 3 カ国による協議が実施 る。同契約の締結には、カルミ=レ・スイス外務大臣が されており、近い将来合意に達することを目標としてい 同席した。イランからの天然ガスをアゼルバイジャンか るとされる。イランからの輸出量は、第 1 段階では 6,0 0 0 らの天然ガスとともにギリシャからアルバニア経由でイ 万 m3/d、第 2 段階では 1 億 5,0 0 0 万 m3/d とされている。 3 タリアに至るガス・パイプライン (トランス・アドリア・ パイプライン)に供給し、イタリアにある EGL 社が保有 ≪欧州向け≫ する発電所の一つに供給する予定。EGL 社は、イラン ・ナブッコ (Nabucco) ・ガスパイプライン計画 からの供給は 2 0 0 9 年に開始される予定であるとしてい OMV(オーストリア) 、MOL(ハンガリー) 、SNTGN る。 Transgaz SA(ルーマニア) 、Bulgargaz(ブルガリア) 、 69 石油・天然ガスレビュー アナリシス BOTAS(トルコ) 、RWE(ドイツ)がナブッコ・ガスパ スのイラン経由トルコまでの輸送を実施する共同会社の イプライン社を設立して検討しているカスピ海地域、中 設立が合意されたとのこと。 東地域、エジプトなどからのガスを欧州向けに輸送する ガスパイプライン計画。全長約 3,3 0 0km、建設費約 7 9 ≪オマーン向け≫ 億ユーロ、建設開始 2 0 1 0 年、操業開始 2 0 1 3 年、最大 2 0 0 7 年 6 月、ヴァジリ・ハーマーネ・イラン石油大 輸送能力 3 1 0 億 m / 年が想定されており、イランはガス 臣(当時)とスルタン・オマーン商業大臣との間で、1 0 供給源の一つとして有力視されている。 億 cf/d のイラン産ガスをオマーンに輸出する初期合意書 3 が締結されている。その後、2 0 0 8 年 9 月、ノーザリ・ (Pars)・ ガスパイプライン (ペルシアン (Persian) ・パース ・ ガスパイプライン) 構想 イラン石油大臣がオマーンを訪問し、オマーン石油大臣 との間で、キーシュ・ガス田の共同開発、オマーン向け トルカン・イラン石油省計画担当次官は2008年9月、 「イ のガス輸出について協議した。本件については、イラン ランは、ナブッコガス・パイプライン計画と契約を締結 が将来、オマーンにある LNG プラント向けにガスを供 しておらず、かかわりはない。イランは、トルコ、ギリ 給する構想もある模様。 シャ、イタリア、スイス、オーストリア、ドイツを結ぶ パース・パイプライン構想について主要な欧州企業と協 ≪クウェート向け≫ 議している。この企業について明らかにはできないが、 クウェートとの間で 2 0 0 5 年 3 月、2 0 0 7 年から 2 5 年 OMV ではない。この構想は、EU が支援しているナブッ 間のガス輸出に関する MOU を締結した。クウェートは、 コ計画、Gazprom によるサウス・ストリーム計画に対す 輸入したガスを発電および海水淡水化に利用する見込み るイランからの回答である。イラン国内への投資が困難 とされている。現時点まで進展はない模様。 だとしても、イランのガスを求める企業がイラン国境ま でのパイプラインに投資することを妨げる障害はないで ≪バーレーン向け≫ あろう。イランは国境までガスを輸送すれば良い」と述 バーレーン石油ガス大臣は 2 0 0 7 年 5 月、2 0 1 5 年まで べた。同次官は10月にも同様の趣旨の発言を行っている。 にガス・パイプラインを建設してイラン産ガスを輸入す この構想の建設費は 4 0 億ドル程度、ガス輸送能力は ることを計画しており、イランとの交渉は既に開始され 3 7 0 億 m / 年程度であると報じられているが、建設開始 ているが、妥結するには数年程度かかると思われる旨発 や操業開始の時期は明らかではなく、どの程度まで検討 言している。 3 が行われているかも不明である。 ≪ギリシャ向け≫ ≪トルコとのガス輸出関連協力≫ 2 0 0 2 年、イランはトルコまでのガス・パイプライン 2 0 0 7 年 7 月、トルコとの間でイラン産およびトルク をギリシャまで延長し、ガスを輸出する総額 3 億ドルの メニスタン産ガスのトルコ経由でのヨーロッパ向け輸出 合意をギリシャと締結した。現時点までにガスの輸出は に関する MOU が締結された。報道では、サウスパース・ 開始されていないが、イランは将来ギリシャを経由して ガス田のあるブシェール州アサルイエからトルコ経由欧 ブルガリアおよび(海底パイプラインを経由して)イタリ 州までのパイプライン建設およびトルクメニスタン産ガ アまで送ガスすることを検討していた模様である。 2. 石油事情 イランの原油埋蔵量は 1,3 8 4 億バレルと世界全体の 盟国中第 2 位を占める大産油国である。輸出量も約 2 5 0 1 1.2 %を占めており、世界第 2 位である。約 4 2 0 万 b/d 万 b/d と世界有数の輸出国である(表 4) 。 とされている生産量においても、世界第 4 位、OPEC 加 一方、近年では主に自動車台数の増加を主な要因とし *7:UAEとの共有油ガス田。UAE側はアブ・アル・ブクーシュ・油ガス田。 2008.11 Vol.42 No.6 70 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 の数量を減らし、現在の輸入量は最盛期の1/3以下となっ 表4 イランの石油事情 ている。 ② イランからの原油輸出 埋蔵量 1,384億バレル 世界第2位 (世界の11.2%) 可採年数 86.2年 生産量※1 440.1万b/d (Natural Gas Liquid <NGL>含む) 世界第4位 (世界の5.4%) 国内消費量 162.1万b/d 世界の1.9% 輸出量 246.7万b/d 日本は、近年においてはイランが原油の約 2 0 %を輸 出している第 1 位の輸出先であるとされており、2 0 0 6 年実績では日本向け輸出は 1 7.9 %とされている(図 4)。 1 9 7 0 年代以降は、ほぼ一貫して日本が最大級の輸出先 であったものと想定される。 (2)イランにおける石油・ガス開発 b/d は、日量バレル。1 バレル=約 159 リットル。 ※1:報 道におけるイラン側関係者の原油生産量に関する発言 (2008年5月22日のジャシュンサズNIOC総裁発言他)によ れば、2008年春時点で約420万b/d。 出所:2008年版BP統計(埋蔵量は2007年末、生産量と消費量は 2007年の数値) 、OPEC統計(輸出量の欄、2007年の数量) イランでは、イラン国営石油会社(NIOC)が原油・ガ スの探鉱・開発を所管しており、実際の事業は NIOC の 地域別子会社が行っている。このなかで、NIOC がイラ ン側の資金と技術による探鉱・開発では不十分であるな どの理由で外国の資金および技術を導入して探鉱・開発 を行うことを決定したプロジェクトについてのみ、外国 てガソリン・軽油の国内消費量が増加している。イラン 石油会社が関与している。 石油省関係者のなかには、イランの最大の課題は国内消 また、NIOC やその地域別子会社はそれぞれに多数の 費量のコントロールであると指摘する向きもある。 子会社を設立して事業を行っており、NIOC の子会社と しては、ペトロパース(Petro pars)(サウスパース・ガ (1) 日本との関係 ス田開発に参加中)やペトロイランなど、外国石油会社 ① イランからの原油輸入 と同様に NIOC と契約して事業を行っていると考えられ 日本のイランからの原油輸入量は、2 0 0 7 年実績で 4 9 る会社もある。 万 9,0 0 0b/d(総輸入量の 1 2.1 %、日本の原油輸入元とし て第 3 位) となっている (図 3) 。 【NIOC の地域別子会社】 一方、1 9 7 0 年代初めにはイランからの輸入量は約 1 6 0 万 b/d で総輸入量の 4 0 %(輸入元第 1 位)程度を占 めていた時期があったが、1 9 7 9 年のイラン革命後はそ ① イラン南部国営石油会社(NISOC:National Iranian South Oil Company) NIOC 最大の子会社で、フーゼスタン州アフワズを拠 日本 サウジアラビア 26.9% その他 15.9% 17.9% その他 13.8% 中国 13.4% ギリシャ 4.7% インドネシア 3.0% 台湾 4.7% クウェート 7.2% UAE 24.5% カタール 10.4% イラン 12.1% イランからの輸入量は 49.9 万b/d 出所:経済産業省統計 図3 わが国の国別原油輸入割合(2007年) 71 石油・天然ガスレビュー インド 12.1% 南アフリカ 5.1% フランス 5.4% トルコ 7.1% 韓国 イタリア 7.6% 8.2% 総輸出量:約 250 万b/d 出所:米国エネルギー省ホームページ 図4 イランの原油輸出先(2006年) アナリシス 点としている。同社はイラン南西部フーゼスタン州およ は、早い時期から油田開発が行われていた。そのため、 びその周辺地域における油ガス田に関する事業を担当。 既存油田の多くで老朽化が進んでいる。イランの原油生 2 0 0 7 年の生産量は、イランの全生産量の約 8 0 %を占め 産量は、ほとんどの油田で外国石油会社が実質的に操業 る約 3 2 0 万 b/d。 を行っていた1970年代に600万b/d程度まで増加したが、 1 9 7 9 年の革命によって外国石油会社を排除して NIOC ② NICOC(National Iranian Central Oil Company) が独力での油田操業を開始したことによる技術不足・資 (Iran Central Oil Field Company という名称が使わ 金 不 足 の 問 題 や 革 命 後 の 混 乱 な ど の 理 由 に よ っ て、 れているケースもある) 1 9 8 0 年には生産量が 1 0 0 万 b/d 台まで急激に低下した。 NISOC が担当するイラン南西部以外の地域の陸上油 その後、近年は 4 0 0 万 b/d 台まで生産量が回復してきて 田に関する事業を担当。主な油田群はイラン中西部の いるものの、既存の油田の老朽化・成熟化が進んで油層 Southern Zagros 油田群等で、2 0 0 7 年の同社生産量は 内部の圧力が低下してしまっているため、生産量が減少 約 1 0 万 b/d。 する傾向にあるとされている。1 年間の自然生産減退量 について、2 0 万~ 3 0 万 b/d 程度と指摘している専門家 ③ イ ラン海上石油会社(IOOC:Iranian Offshore Oil Company) がある一方(例:① 2 0 0 4 年 6 月 1 4 日付 MEES、FACTS Inc. Fesharaki 代表発言「2 0 万~ 2 5 万 b/d」、② 2 0 0 5 年 1 9 7 9 年の革命後、革命前にイラン領ペルシャ湾で操 1 0 月 2 日付 IranOilGas.com、Ali Vatani テヘラン大学石 業していた各石油会社 (米国資本の企業も含む)を再編成 油学部教育研究部長発言「2 0 万~ 3 0 万 b/d」)、米国エネ して設立された会社であり、海上油田に関する事業を担 ルギー省ホームページでは「4 0 万~ 5 0 万 b/d」と指摘さ 当。同社の主な操業対象油田は、Bahregan 油田等のカー れている。 グ島付近の北部海上油田と、Lavan 島付近の南部海上油 田。2 0 0 7 年の同社生産量は約 7 0 万 b/d。 7,000 ④ POGC(Pars Oil and Gas Company) 6,000 ペルシャ湾海上の四つのガス田(サウスパース・ガス 5,000 田:世界最大級の天然ガス田、ノースパース・ガス田、 ゴルシャン・ガス田、フェルドウシ・ガス田)に関する 事業を担当するために 1 9 9 8 年に設立。同社はこれら四 のバイバック(buy back)契約(後述: (5)の①)締結等お 1,000 ⑤ カザール*8 (Khazar)Oil Exploration and Production 消費量 1953年 モサデク首相失脚 1995年 外資の再参入 1954年 AIOCを含む外国 コンソーシアムが復帰 中東地域初の油田 マスジェデ・ソレイマン油田発見 1951年 モサデク政権による 国有化とNIOC創設 1912年 同油田からの 生産開始 0 19 13 19 19 19 25 19 31 19 37 19 43 19 49 19 55 19 61 19 67 19 73 19 79 19 85 19 91 19 97 20 03 の探鉱開発事業を所掌しているようである。 輸出量 3,000 1908年 つのガス田開発に関する外国石油会社を含む石油会社と 1979年 イラン革命と外資排除による 本格的な国有化を開始 生産量 4,000 2,000 よびサウスパース・ガス田の原油層 (サウスパース油田) 日量(千バレル) 年 AIOC(現BP)による独占的操業 外国コンソーシアム などによる操業 イラン側 単独操業 イラン側主導、 一部外資による 操業 出所:OPEC統計2007 Company イラン領カスピ海における探鉱開発を担当。カスピ海 図5 イランの原油生産量、輸出量、消費量 南部イラン領海内における地質スタディー等も、同社が 所掌している模様。なお、カスピ海南部は現時点におい ても国境が確定していない。 ・主要 4 油田の生産量減少 (3) イランにおける既存油田の老朽化による生産量減少 こうした自然減退は、イランの主要 4 油田の生産量の ・既存油田の老朽化による生産量減少 減少に象徴的に表れている。これら主要 4 油田からの生 1 9 0 8 年に中東地域で初の油田が発見されたイランで 産量は、1 9 7 4 年と 2 0 0 7 年を比較すると約 4 0 0 万 b/d か *8: 「カザール」はペルシャ語で「カスピ海」の意味。 2008.11 Vol.42 No.6 72 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 表5 イランの主要4油田の生産量推移(b/d) 1974年 2007年 1.マルーン油田 105万4,000 約45万 2.アガジャリ油田 101万 約20万 3.アフワズ油田 95万5,000 約80万 4.ガチサラン油田 91万2,000 約48万 主要4油田合計 393万1,000(65.3%) 約193万(47.9%) イランの生産量合計 602万2,000(100%) 403万1,000(100%) 出所:主要4油田の生産量は2008年1月9日付IranOilGas.com、イランの生産量合計はOPEC統計 ら約 2 0 0 万 b/d まで減少していることが分かる。なお、 田のフェーズ 6 ~ 8 から生産されるガスを約 5 0 0km の 表 5 の 4 油田はいずれもイランの主な原油生産地域であ パイプラインで同油田まで輸送して行う大プロジェクト る南西部フーゼスタン州およびその周辺にあり、2 0 0 7 として施設を建設中であり、当初計画よりも遅れている 年時点においてイランの生産量の約半分を占めている。 ものの今後数カ月以内に開始される見込みとなってい る。なお、イラン側によれば、現時点ではアフワズ油田 ・既存油田における 2 次回収 に対するガス圧入計画は存在しないという。 既存油田の生産量を維持・増加させるためには、老朽 専門家による発言に見るように、筆者がイランに着任 化した 2 次回収(ガスを油田に圧入して油田内部の圧力 した 2 0 0 5 年の時点で既にこの自然減退のことが広く指 を高める等)が必要であるが、これまでのイラン側の対 摘されていた。加えて、その後も 2 次回収のためのガス 応は、 資金面でも技術面でも不十分なものとなっている。 圧入なども十分には行われていない。こうした状況にも イランでは、老朽化の進んだ油田に対して、陸上油田 かかわらず、統計上では現在に至るまでイランの原油生 にはガス圧入、海上油田には水圧入が主に行われている 産量が維持もしくは増加しているのは、特段の目立った ようである。しかし、資金や技術が不足しているため、 新規油田開発案件や外国石油会社の進出案件がない状況 圧入するガスや圧入用の施設が十分には確保できていな 下で、NIOC および地域別子会社が増産のための努力を いのが現状である。デルパリッシュ・NIOC 企画担当役 懸命に行ってきているためであろうと考えられる。 員は、「これまでの調査の結果、現時点でイランの油田 に圧入すべきガスの量は日量 3 億 3,0 0 0 万 m3 とされてい (4)イラン政府の「新たな石油開発政策」 る。現在、ガス圧入を行っているイランの主要油田は、 2008年5月頃、イラン国営石油会社(NIOC)のジャシュ マルーン油田、ガチサラン油田などであるが、圧入用の ンサズ総裁は、今後のイランの石油開発政策について、 施設が不足しているために計画どおりの量は圧入されて 以下のように発言した。 いない。イランの第 5 次 5 カ年計画(2 0 1 0 年 3 月~ 2 0 1 5 「イラン石油省の二つの優先課題は、小規模な油田の 年 3 月)期間中には計画どおりの量が圧入されるであろ 開発と油田からの原油回収率の向上である。われわれは、 う。現在、日量約 9,0 0 0 万 m のガスがイランの油田に イランにおいて新たな大油田が発見されることは期待し 圧入されているが、ガスの量が不足しているだけではな ていないが、原油回収率を向上させる計画が実施された く、圧入施設も不足している」と述べている(2 0 0 7 年 5 場合には、イランの石油生産量を日量 5 5 0 万バレルまで 月 3 日付 IranOilGas.com) 。なお、イラン国内のガス供 増加させることができるだろう」(2 0 0 8 年 5 月 2 6 日付 給システムでは、国内生産全体から国内一般需要家向け IranOilGas.com)。 に優先的に供給され、残余の量を油田に圧入するシステ 「現在のイランの油田からの原油回収率は平均で 2 7 % ムとなっている。そのため、一般需要が少ない夏期は圧 であるが、今後向上させる計画である」(2 0 0 8 年 6 月 2 入量をある程度確保できるが、需要が増加する冬期は夏 日付 IranOilGas.com)。 期よりも圧入量が減っているのが現状である。 イランでは数年前まで将来の目標生産量を 7 0 0 万 b/d アガジャリ油田へのガス圧入は、サウスパース・ガス 程度とした計画もあったようであるが、いま述べた「新 3 73 石油・天然ガスレビュー アナリシス たな石油開発政策」は、詳細が不明とはいえ、イランが (6)カスピ海原油スワップ 現実を見据えて改めて策定したものと思われる。 イランは、北部がカスピ海、南部がペルシャ湾に接し イランは独力で探鉱・開発を行っていくことを望んで ているという地理的重要性を生かし、海への出口を持た いるが、イラン側の開発資金不足を主な理由としてこれ ない中央アジア諸国にとって貴重な原油輸出ルート国の まで参入の機会がなかった小規模油田の開発に外国石油 一つとなっており、 1 9 9 6 年にカザフスタンと、1 9 9 8 年 会社が参入する機会が想定される。また 2 0 0 8 年で石油 にはトルクメニスタンと原油スワップ契約を締結した 産業誕生 1 0 0 周年を迎えるイランは、老朽化して生産量 他、ロシアとの間でもスワップを行っている。このスワッ が減少しつつある多くの油田からの原油回収率を向上さ プは、中央アジア諸国産の原油をイランのカスピ海沿岸 せるための資金と技術をこれまで以上に外国石油会社に ネッカ港で受け取り、同原油はイラン国内で消費、代わ 求めていくものと見られる。 りに同量のイラン原油をペルシャ湾岸の輸出ターミナル (カーグ島等)から供給するものである(P.6 5 の図 1 参 (5) バイバック契約と米国による対イラン制裁 照) 。 ① バイバック契約 2 0 0 8 年 8 月には、グルジア紛争などの影響で ACG 原 イランでは、憲法により外国企業に対して自国資源開 油の通常の輸出ルートとしている BTC パイプライン等 発の権益を与えることが禁止されており、この憲法上の が利用できなくなったアゼルバイジャンが、初めてこの 制約と外資導入の必要性の妥協策として考案されたのが イラン経由スワップを利用して原油輸出を行った模様で バイバック契約である。契約内容は、外国企業が探鉱、 ある。 開発および生産に係るコストを全額負担し、 開発に成功 すれば外国企業はコストとともにあらかじめ取り決めた (7)イランへの外国石油会社の参入状況 報酬を (原油などで) 回収することができるというもので 既述のように、イランでは 1 9 0 8 年に中東地域初の油 ある。 契約上固定されたコストが契約後に上昇した場合 田であるマスジェデ・ソレイマン油田が発見され、同油 に対応が困難になる一方で、高騰を続けている資材費な 田 開 発 の た め に 翌 年 設 立 さ れ た Anglo Persian Oil どのためにコストが上昇するケースが多いこと、プロ C o m p a n y(1 9 3 4 年 に A I O C:A n g l o I r a nian Oil ジェクトに関与できる期間が数年程度であり PS 契約と Company と社名変更。現在の BP)は英国政府の支援な 比較して短いことなどから、多くの外国企業からは厳し どを受けてイランでの活動をほぼ独占しつつ拡大させ い条件であると考えられている。 た。その後、1 9 5 1 年にモサデク政権によってイラン国 なお、契約期間が短い理由としては、イランが外国企 営石油会社(NIOC)が設立されイランの石油産業は国有 業に主に求めているのが新規の探鉱・開発よりも老朽化 化された。しかし 1 9 5 3 年にモサデクは失脚し、1 9 5 4 した油田の修復にあるためであるとされている。 年に AIOC を含む欧米石油会社によるコンソーシアムが イラン国内での事業に復帰した。その後、1 9 7 9 年のイ ② 米国による対イラン制裁(イラン自由支援法:IFSA < ILSA を改訂>) ラン革命によって NIOC がすべての探鉱・開発事業を担 当することとなり、外国石油会社はイランでの活動から イラン・リビア制裁法(ILSA: Iran Libya Sanction 排除された。 Act)は、イランをテロ支援国家と非難する米国が 1 9 9 6 1 9 9 5 年、NIOC は Total とシリ A・E 油田に関するバ 年 8 月に制定した法であり、イランの石油部門に年間 イバック契約を締結し、これが革命後初めての外国石油 4,0 0 0 万ドル(現在は 2,0 0 0 万ドル)以上の投資を行い、 会社のイランへの参入となった。その後、同年 1 1 月に 同国の石油・天然ガス資源開発に著しく寄与した外国企 第 1 次バイバック・プロジェクト、1 9 9 8 年には第 2 次バ 業に対して制裁を科すというもの。同法は 2 0 0 1 年 8 月、 イバック・プロジェクト、サウスパース・ガス田開発事 米国上下両院の決定により 5 年間延長(なお、リビアに 業、数回の探鉱鉱区入札などによって外国石油会社がイ つ い て は、2 0 0 4 年 4 月 に 同 法 の 適 用 解 除 ) 、その後 ランに参入している。1 9 9 5 年以降、これまでの外国石 2 0 0 6 年 9 月「イラン自由支援法案(IFSA) 」が成立(内容 油会社参入実績は31プロジェクト、外国会社27社となっ 的には ILSA に近い模様)している。なお、EU 諸国等は ている(表 6) 。 同法に対して反発しており、これまでに適用された案件 はない。 2008.11 Vol.42 No.6 74 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 表6 イランにおける外国石油会社の活動状況(2008年9月現在、31プロジェクト、外国石油会社27社) 【開発案件】 油・ガス田名 Sirri A & E 1 (1 9 9 5 年 7 月契約) 関係会社 概要 Total(仏)* 7 0 % Petronas(マレーシア) 3 0 % 2 0 0 1 年 3 月イラン側へハンドオーバー 2 South Pars(フェーズ 2&3) (1 9 9 7 年 9 月契約) Total * 4 0 % Petronas 3 0 % Gazprom(露) 3 0 % 2 0 0 2 年 1 月生産開始。 2 0 0 3 年 1 月イラン側へハンドオーバー 3 Doroud (1 9 9 9 年 3 月契約) Total * 5 5 % Eni(伊) 4 5 % 2 0 0 3 年 1 0 月生産開始 4 Balal (1 9 9 9 年 4 月契約) Total * 4 6.7 5 % Eni 3 8.2 5 % Bow Valley(カナダ) 1 5 % 2 0 0 4 年 8 月イラン側へハンドオーバー 5 Soroosh (1 9 9 9 年 1 1 月契約) 6 Nowrooz (1 9 9 9 年 1 1 月契約) 7 South Pars(フェーズ 4&5) (2 0 0 0 年 7 月契約) Eni * 6 0 % Petropars(イラン) 2 0 % NICO(イラン) 2 0 % 2 0 0 5 年 4 月生産開始。 8 Masjed-e-Suleyman (2 0 0 1 年 3 月契約) CNPC(中国)* 4 9 % Naftgaran(イラン) 5 1 % 2 0 0 1 年 3 月 Sheer Energy(カナダ)がオペレーターとして 契約締結、2 0 0 4 年 8 月 CNPC に譲渡。 9 Darquain (2 0 0 1 年 6 月契約) Eni * 6 0 % NICO 4 0 % 1 6 万 b/d を目標とするフェーズ 3 に移行済み RD/Shell(英 / 蘭)* 7 0 % INPEX(日本)、JAPEX(日本) 2 0 % 2 0 0 5 年 8 月イラン側へハンドオーバー 注)日系企業両社は蘭法人を設立し事業参加。 OIEC(イラン) 1 0 % 10 South Pars(フェーズ 6、7、8) Petropars 6 0 % (2 0 0 2 年 1 0 月契約) StatoilHydro(ノルウェー)* 4 0 % ガスは IGAT5 を経てアガジャリ油田他に 圧入する計画。2 0 0 8 年中に生産開始見込み 11 South Pars(フェーズ 9&1 0) GS(韓国)* 4 2 % (2 0 0 2 年 9 月契約) IOEC(イラン)、OIEC 5 8 % EPC 契約。(GS は旧 LG)。2 0 0 8 年中に生産開始見込み 12 Azadegan (2 0 0 4 年 2 月契約) NICO * 9 0 % INPEX(日本) 1 0 % 2 0 0 8 年 2 月頃から約 2 万 b/d 生産 13 Jofeir (2 0 0 7 年 9 月契約) Belarusneft(ベラルーシ)* 1 0 0 % 投資額:フェーズ 1、2 それぞれ 2 5 0 百万ドル。 契約対象のフェーズ 1 生産量は 1.5 万 b/d 見込み 14 Yadavaran (2 0 0 7 年 1 2 月契約) Sinopec(中国)* 1 0 0 % 総投資額:2 0 億ドル程度(入札後決定の模様)。計画では、 フェーズ 1 で 8 万 5,0 0 0b/d、フェーズ 2 で 1 0 万 b/d を追加 15 Golshan (2 0 0 7 年 1 2 月契約) SKS(マレーシア)* 1 0 0 % 総投資額:6 0 億ドル。計画では、5 年半程度で生産開始。 1 0 0 億ドル相当の LNG 関連契約締結の計画がある模様 Ferdowsi 16 (2 0 0 7 年 1 2 月契約) 【探鉱案件】 17 Anaran 鉱区 (2 0 0 0 年 4 月契約) StatoilHydro * 7 5 % Lukoil(露) 2 5 % 第 2 次バイバック事業(1 9 9 8 年)、アザール(Azar)油田を発見し、 開発に向けて交渉中 18 Munir 鉱区 (2 0 0 1 年 1 月契約) Edison(伊)* 5 0 % Lundin(スウェーデン) 3 0 %、 Petronas 2 0 % 第 2 次バイバック事業(1 9 9 8 年)。商業量を発見できずに終了 19 Zavareh-Kashan 鉱区 (2 0 0 1 年 1 月契約) Sinopec * 1 0 0 % 第 2 次バイバック事業(1 9 9 8 年)。商業量を発見できずに終了 20 Mehr 鉱区 (2 0 0 1 年 4 月契約) OMV(オーストリア)* 3 4 % Repsol YPF(スペイン) 3 3 % Sipetrol(チリ : 撤退) 3 3 % 第 2 次バイバック事業(1 9 9 8 年)。バンデ・カルヘ(Band-e -Karkhe)油田を発見し、開発に向けて交渉中(注:Sipetrol は撤 退した模様だが、権益譲渡先は不明) 21 Farsi 海上鉱区 (2 0 0 2 年 1 2 月契約) ONGC(インド)* 4 0 % IOC(インド) 4 0 % OIL(インド)2 0 % 商業量を発見し、開発に向けて交渉中 22 Tusan 海上鉱区 (2 0 0 4 年 6 月契約) Petrobras(ブラジル)* 1 0 0 % 2 0 0 2 年探鉱鉱区入札(8 鉱区)。作業義務:震探、掘削 23 Frouz 海上鉱区 (2 0 0 4 年 1 0 月契約) Iran-Mehr 海上鉱区 (2 0 0 4 年 1 0 月) Repsol YPF * 1 0 0 % 2 0 0 2 年探鉱鉱区入札(8 鉱区)。作業義務:各鉱区に試掘 24 25 Kuhdasht 鉱区 (2 0 0 5 年契約) CNPC * 1 0 0 % 2 0 0 2 年探鉱鉱区入札(1 6 鉱区)。作業義務:震探、掘削 26 Saveh 鉱区 (2 0 0 5 年契約) PTT(タイ)* 1 0 0 % 2 0 0 2 年探鉱鉱区入札(1 6 鉱区)。作業義務:震探、掘削 (以下、次頁に続く) 75 石油・天然ガスレビュー アナリシス 27 Garmsar 鉱区 (2 0 0 6 年 6 月契約) Sinopec 1 0 0 % 2 0 0 2 年探鉱鉱区入札(1 6 鉱区)。作業義務:震探、掘削 28 Khorramabad 鉱区 (2 0 0 6 年 9 月契約) StatoilHydro * 1 0 0 % 2 0 0 2 年探鉱鉱区入札(1 6 鉱区)。作業義務:震探、掘削 29 Dayyer 鉱区 (2 0 0 8 年 1 月契約) Edison * 1 0 0 % 2 0 0 7 年探鉱鉱区入札(1 7 鉱区)。作業義務:震探、掘削 30 Danan 鉱区 (2 0 0 8 年 3 月契約) PetroVietnam(ベトナム)* 1 0 0 % 2 0 0 7 年探鉱鉱区入札(1 7 鉱区)。作業義務:震探、掘削 31 Moghan-2 鉱区 (2 0 0 8 年 4 月契約) INA(クロアチア)* 1 0 0 % 2 0 0 7 年探鉱鉱区入札(1 7 鉱区)。作業義務:震探、掘削 (注)*はオペレーター。特に記載がない場合はすべてバイバック契約形態による事業。 【探鉱案件(交渉中)】 カスピ海南部 Petrobras、CNPC、ONGC 【参考】外国石油企業と交渉を実施したその他の事業(第2次バイバック事業) 油ガス田名 会社名 概要 Bangestan 陸上 ・Ahwaz ・Mansuri ・Ab-Teymour PetroIran ガス圧入による EOR 事業。1 9 9 8 年の入札当初は、3 油田の一括開発と個別開発のオプション があったが、Ahwaz 先行の方針に決定された。2 0 0 4 年 1 2 月、NIOC は入札をキャンセルし、 PetroIran が開発事業を担当することが決定。 Cheshmeh-Khosh 陸上 NICOC ガス圧入による EOR 事業。1 9 9 9 年に Cepsa(スペイン)と交渉開始。その後、OMV が交渉に 合流。2 0 0 4 年 1 月 NICOC が EPC 契約締結 出所:報道等から筆者作成 外国石油会社による探鉱事業によって発見された油ガ ・バンデ・カルヘ(Band-e-Karkhe)油田 ス田として以下の三つがあり、現在、いずれも開発契約 フーゼスタン州西部メフル(Mehr)鉱区(生産見込 を締結するための交渉が行われているとされている。 み 量 は、 日 量 約 2 万 バ レ ル 程 度 )( 外 国 石 油 会 社: OMV、Repsol YPF) 【外国石油会社による探鉱によって発見された油ガス田】 ・アザール (Azar) 油田 ・Farsi 鉱区 イーラム州西部アナラン(Anaran)鉱区(油層がイ ペルシャ湾海上で油ガス田を発見(外国石油会社: ランとイラクに跨っている可能性がある模様) (外国 ONGC.IOC.OIL) またが 石油会社:StatoilHydro、Lukoil) 3. まとめ ①イ ラン国内のガス田の開発をさらに進めることに ②ま た、イラン国内の油田開発を独自で行うための資 よって今後イランが本格的なガス輸出を行うために 金、そして原油回収率を向上させる技術がイラン側 は、国内消費量の増加を上回る開発を行う必要があ には不足しており、油田開発にも外国の資本および るが、国内の資本および技術のみで開発を行うこと 技術のさらなる導入が必要であろう。 は困難であり、外国の資本および技術の導入が必要 と考えられる。 ③外 国の資本および技術の導入に際しては、イランを めぐる国際環境の悪化やイランの契約条件に対する 2008.11 Vol.42 No.6 76 大きなポテンシャルを秘めるイランの天然ガス・石油事情 外国企業側の不満などが障壁となっており、本格的 イランからのガス輸入を検討している。これは、既 な開発には課題も大きいと思われる。国際環境の悪 に世界各国におけるガス開発が進行しているために、 化は、イランでの事業がファイナンス面で制約を受 今後輸出余力がある数少ない国の一つがイランであ けるなどの悪影響を生じさせている。また、イラン ると考えられていることが大きな理由だと思われる。 での石油・ガス開発契約であるバイバック契約は、 既述のとおり、イランでのガス開発には課題もある 契約上固定されたコストが契約後に上昇した場合に が、各国は虎 視 眈 々 とイランでのガス開発への参加 対応が困難となっている一方で、高騰を続けている およびガス輸入の機会をうかがっていることも見逃 資材費などのためにコストが上昇するケースが多い せない。 こ し たん たん こと、プロジェクトに関与できる期間が短いことな どから多くの外国企業からは厳しい条件であると考 ⑤また、イランは石油についても埋蔵量世界第 2 位であ り、ポテンシャルは引き続き高い。最近のイランは えられている。 ガスに対する注目度が高いが、開発に参入できる可 ④こうしたなかでも、ガス埋蔵量世界第 2 位のイランの ポテンシャルは引き続き高く評価されており、既述 能性などの観点を含めて石油開発についても引き続 き注目すべきであろう。 のガス輸出計画にあるとおり多くの国および企業が 4. イランでの生活 筆者は、2 0 0 5 年春から 2 0 0 8 年秋まで首都テヘラン ツの種類が多いことに驚いた。花屋では、多くの種類 で生活したが、その間に感じたことを若干紹介してみ の花が飾られており、イラン人のおじさんの店員が非 たい。 常にきれいに花をアレンジしている。私も数回依頼す イランについて皆さんはそれぞれに印象をお持ちだ る機会があったが、その度に安さとセンスの良さに感 と思うが、私個人について言えば、着任前の印象と実 心した。イランでは結婚式の際に花婿の車をたくさん 際に生活してみての印象は大きく異なるものであった。 の花で飾り、花婿がその車で花嫁を迎えに行って式場 テヘランで生活してみて、花屋・ケーキ屋の数とフルー まで一緒に向かうのが一般的であり、日本の土曜日に あたる木曜日の夕方などには花で飾った車をよく見か けた。ケーキ屋では数多くの種類のケーキやドライフ ルーツが売られており、近所のケーキ屋ではイラン人 が箱いっぱいのケーキを 1kg 単位で大量に購入していく のを毎週のように見かけた。 またイランでは、親戚や友人と集まってパーティー をする機会が非常に多い。われわれも、イラン風菓子 とともにケーキを味わった。フルーツについては、ス イカ、メロン、ザクロの他数多くの種類が日本に比べ るとずっと安く売られており、滞在期間中に家族で多 くの量を食べた。 一方、イランは公式統計でも年間二十数パーセント にものぼる物価上昇に直面している。実際の物価上昇 出所:筆者(左) 率は公式統計を上回っているとも言われており、ケー 写 77 石油・天然ガスレビュー テヘランの花屋にて キやフルーツを含めてさまざまな品の価格が上昇し、 私が離任する頃には、着任時と比較して随分値上がり アナリシス したと感じることも多かった。また、女性は外出の際、 イラン人は、約 2,5 0 0 年前のアケメネス朝ペルシャ、 髪の毛を隠すためのへジャブとコートの着用が義務づ その後のササン朝ペルシャなど大帝国を築いた歴史に けられているが、このことが生活上の困難さを増して 誇りを持っている。また、ササン朝から日本に渡来し いる。 た文物が、奈良の正倉院に保存され、祇園祭りの山 車 日本の 4 倍以上の面積があるイランの国土は多様であ に飾られていることなど、日本との長い交流の歴史を り、イラン国内を旅行した際には、ペルシャ湾沿岸の 持っており、さらに全般的に親日的な人々が多い。今後、 高温多湿、イラン中部の土漠の乾燥、カスピ海沿岸の こうした文化的基盤をもとに、油ガス田開発において 湿潤な気候を実感し、テヘランでは冬の積雪と氷点下 も両国間の関係が発展するように微力ながら努めてい の気温および夏の乾燥した高温を体感した。 きたい。 だ し 【参考文献】 1. 米国エネルギー情報局ホームページ:Country Analysis Briefs Iran、Energy Information Administration、United States http://www.eia.doe.gov 2. パース・オイルアンドガス会社ホームページ http://pogc.ir 執筆者紹介 石澤英俊(いしざわ ひでとし) 埼玉県さいたま市出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。 1993年石油公団(当時)入団。経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課出向、Arthur D. Little School of Management 修了などを経て、2005年春から2008年秋まで在イラン日本大使館勤務。 合気道初段。イランでは日本の武道に人気があり、イランでの合気道の稽古にも参加した。 家族は妻、長男、長女。 2008.11 Vol.42 No.6 78
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