鋼鉄道橋用制振材(SB ダンパー)の開発 63 鋼鉄道橋用制振材(SB ダンパー)の開発 Development of Vibration Damper for Railway Steel Bridge (SB Damper) 三宅清市 村西 哲 増村照文 加藤直樹 Seiichi MIYAKE Satoru MURANISHI Terufumi MASUMURA Naoki KATO 鋼鉄道橋は,列車通過時に鉄道振動が構造物(鉄橋)に伝達し固体伝搬音として周囲に騒音公害をもたらす 原因となる。この固体伝搬音を低減すための拘束型制振材を開発したので,報告する。この制振材は,鋼鉄道 橋規格(SRS 41)を満足している。 When a train passes the objects such as railway steel brides, the structure of bridge is vibrated and the noise pollution is caused by solid-borne sound all around. We report the development of the damper with constraining layer, which consists of a constraining layer made of steel and damping materials layer to decrease the solid-borne sound. This damper satisfies the railway steel brides standard (SRS41). 1.は じ め に の性能を表 1 に示す。 鋼鉄道橋は,列車通過時に軌道振動が構造物に伝搬して 表 1 制振材の要求性能 固体伝搬音として周囲に大きな騒音が発生し,近隣住民に 騒音公害をもたらすことがある。このような騒音公害を抑 えるために,さまざまな対策が取られている。そのひとつ の対策として,固体振動の伝搬を減衰させるために鋼鉄道 項 目 制振性能 耐熱老化性 性 能 損失係数が 0.1 以上 外観上異常が無く,熱老化後の損失係数が 0.07 以上 熱老化条件: 70 ℃で 96 時間の熱履歴 橋本体に制振材を貼り付ける方法がある。 ここで使用される制振材の特性は,鋼鉄道橋規格 (SRS 41)1) 制振材用接着剤の性能規格 で規定されている。この規定は,騒音低減の目的で鋼鉄道橋 2.1.2 ならびに類似の構造物に使用する制振材に関しても適用でき 制振材用接着剤の性能を表 2 に示す。 る内容になっている。 表 2 制振材用接着剤の要求性能 今回,ゴム・アスファルト系の材料でこの規格を満足す 項 目 る製品を開発し,出荷に向けての製造工程の安定性を確認 したので,ここに報告する。 本製品の名称を SB ダンパーとした。 接着強さ 性 能 制振材部分で破壊すること。且つ引張せん断試験で 0.5 N/mm2(MPa)以上 熱老化条件: 70 ℃で 96 時間の熱履歴 2.鋼鉄道橋規格(SRS 41) 鋼鉄道橋規格(SRS)は,鉄道構造物等設計標準(鋼・ 合成構造物)に基づいており,鋼鉄道橋の設計に適用され 2.2 形状・寸法及び材質規格 制振材の寸法を表 3,形状は図 1 を標準とする。 ている。制振材に関しては,SRS 41 に規定されている。 表 3 制振材の規定寸法 今回開発した製品(SB ダンパー)の構成は,制振材と 拘束板(亜鉛鋼板)を重ねて一体化させた製品(拘束型) 略 称 長さ(mm) 幅(mm) である。鋼鉄道橋への取付は,専用接着剤とボルト締めを 3030X 注 1) 300 ± 2 300 ± 2 3015X 300 ± 2 150 ± 2 1515X 150 ± 2 150 ± 2 併用して固定する。 このような複層型に対する SRS 41 の規格を次に示す。 2.1 2.1.1 性能規格 制振材の性能 温度 20 ∼ 40 ℃において,周波数 500 Hz における制振材 厚さ(mm) 最大 50 注 2) 注 1) X は,下記の A,B,及び C のいずれかを示す。 A :ボルト用孔なし B :六角ボルトを使用する場合で,図 1 のボルト孔径 15 mm C :スタットボルトを使用する場合で,図 1 のボルト孔径 18 mm 注 2) 厚さは拘束型の場合,亜鉛鋼板を含めた厚さ。 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 64 300 150 75 75 150 り表 1 の仕様を満足するものが得られた。新材料(SB ダン パー用制振材)の概略配合を表 4 に示す。 150 75 75 3030X 3015X 3.2 接着剤の選定 接着箇所は,拘束板と制振材を接着する部分と SB ダン パーを鋼鉄道橋に接着させる二箇所がある。 150 75 75 150 150 300 300 150 150 150 Vol. 59, No. 1 (2012) 拘束板と制振材を接着する材料は,SB ダンパーの生産 性とこれまでの使用実績を考慮してアクリル系粘着剤を使 1515X 図 1 制振材の形状 用する。 このアクリル系粘着剤は経年による凝集硬化が起こり, 粘着強度が増大していく特長がある。この粘着剤の接着力 (せん断応力)を表 5 に示す。 複合型で使用する拘束板の鋼板は,厚さ 2.3 mm の JIS G 表 5 粘着剤の接着力 3302(溶融亜鉛めっき鋼鈑及び鋼帯)に規定される一般用 SGHC Z27 とする。 2.3 粘着条件 評価方法 制振性能試験は,幅 25 mm,長さ 500 mm,厚さ 10 mm せん断応力(MPa) 粘着後 1.0 粘着後 70 ℃× 96 時間 1.7 の基板(JIS G 3101 の SS400)に試験片を貼り付け,イン ピーダンスヘッドを用いた共振法で,損失係数を求める。 製品(SB ダンパー)を鋼鉄道橋に取り付ける接着剤は, 取り付け作業の施工性(夏場の作業性)を考慮して,通常 3.製 品 開 発 の接着剤より硬化時間の長いものを開発し,SB ダンパー 制振材の構造は,材料単体で使用する非拘束型と拘束板 に貼り付けた状態で使用する拘束型がある。制振材は,材 料そのものが歪むことで充填剤と高分子間との摩擦により 熱エネルギーに変換され,制振性能が発揮される。非拘束 専用の接着剤(製品名: SB ボンド)とした。 この SB ボンドはエポキシ系接着剤で,混合比は主剤, 硬化剤を重量比 1 : 1 で使用する。 SB ボンドのせん断応力を表 6 に示す。 型は,伸縮変形によるエネルギー吸収であるが,拘束型は 表 6 SB ボンドの接着力 制振材の厚さが薄くてもせん断変形が大きく,エネルギー吸 収が大きい。そのため,拘束型のほうが同じ特性を得るに は制振材の厚さを薄くできる。 今回の開発品は,拘束型とし,拘束板の厚さを含み製品 接着条件 せん断応力(MPa) 硬化後 7.5 ∼ 8.5 硬化後 70 ℃× 96 時間 7.5 ∼ 8.5 厚さを 5.3 mm(制振材料の厚さ 3 mm)とした。 3.1 材料開発 当社の標準的な制振材は,エポキシ系材料(ショウダン プ NH-1)とゴム・アスファルト系材料(ショウダンプ R-1) 3.3 制振特性の評価 2.3 で示された試験体を作成し,損失係数の測定を行っ がある。制振性能を示す損失係数は,制振したい鋼板の厚 た。測定法は中心加振による共振法で,この測定システム さと制振材の厚さの比に大きく依存する。 の主な構成機器は,2 チャンネル FFT アナライザー(リオン 事前評価では,基板厚さ 10 mm に対する既存のエポキ 社製 SA-74B),振動試験装置(振研社製 G-2005D),イン シ系材料(ショウダンプ NH-1)とゴム・アスファルト系 ピーダンスヘッド(リオン社製 PF-60A)である。この測定 材料(ショウダンプ R-1)で,表 1 の仕様を満足する制振 システムは,安定な測定ができる反共振を利用したもので 材の厚さはそれぞれ約 20 mm と約 4 mm であった。 ある。測定システムのダイアグラムを図 2 に示す。 材料の開発方針としては,施工性,生産性を考慮して, 測定試料の温度を一定にするために,図 3 に示すように ゴム・アスファルト系材料の材料構成を見直すこととした。 恒温槽の中で測定を行った。測定温度範囲は,仕様では 結果として,添加剤の種類,配合比率を見直すことによ 20 ∼ 40 ℃であるが,参考として 0 ∼ 60 ℃で 10 ℃毎に測定し た。代表的周波数依存性の測定結果を図 4 に,500 Hz で温 表 4 SB ダンパー用制振材の材料構成 材料の種類 構成比率(質量%) アスファルト系成分 15 ∼ 25 樹脂成分 5 ∼ 15 ゴム成分 2 ∼ 20 充填剤 50 ∼ 70 その他 1∼5 度依存性の測定結果を図 5 に示す。 鋼鉄道橋用制振材(SB ダンパー)の開発 恒温槽 65 今回開発した製品(SB ダンパー)の寸法を表 7 に,外観 を図 6 に示す。拘束板は,溶融亜鉛めっき鋼鈑を所定の寸 F(力) マスキャンセル アンプ 測定試料 FFT分析器 SA-74B V(速度) インピー ダンスヘッド パワー アンプ 加振器 層の無い部分が存在する。この部分の防錆を確保するため, 常温亜鉛めっきを実施している。JIS Z 2371 に準拠した塩 コンピュータシステム IP-300シリーズ 加振信号 法に切断して使用しているため,切断断面部は亜鉛めっき 損失係数測定ソフト 水噴霧試験で,溶融亜鉛めっき鋼板の表面と同等の防錆能 力が確保されていることを確認している。 表 7 SB ダンパーの寸法 図 2 測定システムのダイアグラム 品 番 長さ(mm) 幅(mm) 3030X 注 1) 300 ± 2 300 ± 2 3015X 300 ± 2 150 ± 2 1515X 150 ± 2 150 ± 2 厚さ(mm) 5.3 (拘束板2.3+制振材3.0) 注 1) X は,下記の A,B,及び C のいずれかを示す。 A :ボルト用孔なし B :六角ボルトを使用する場合で,図 1 のボルト孔径 15 mm C :スタットボルトを使用する場合で,図 1 のボルト孔径 18 mm 図 3 測定システム外観 1.00 40℃ 30℃ 20℃ 損失係数 図 6 SB ダンパーの外観写真 10℃ 0.10 4.量産性の確認 50℃ 60℃ 本製品(SB ダンパー)の最も重要な仕様である損失係数 0℃ 0.01 100 のばらつき要因は,制振材料の不均一性にある。この制振 材の製造は,原材料の混合からシート出しまで連続した 1000 10000 周波数(Hz) 製造ラインで行う。 この製造ラインの安定性を確認するために,工程能力指 数(工程の安定性を統計的に評価する指数)を調査した。 図 4 損失係数の周波数依存性 この工程能力指数は,目標管理値の上限管理限界(USL) と下限管理限界(LSL)の間に,6 σ(σ:測定サンプルの 1.00 標準偏差)がいくつ入るか(=(USL-LSL)/6 σ)という 損失係数 周波数:500 Hz 指数である。一般には,Cpk=1.33(8 σすなわち,USL と LSL の平均値が測定値の平均値と等しい場合,片側 4 σ) であれば,充分な安定性が確保されているとされている。 0.10 一日の生産品からランダムに14箇所からサンプリングした 材料に関して,20 ℃,30 ℃,40 ℃(規定測定温度)での 500 Hz における損失係数の測定結果(熱老化前)を図 7 ∼ 0.01 図 9 に示す。また,同じ測定サンプルを 70 ℃× 96 時間, 0 10 20 30 40 温度(℃) 図 5 損失係数の温度依存性 50 60 70 ℃× 1000 時間の熱老化を実施した後の測定結果を表 8 に 示す。 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 66 上記の評価結果から,少なくとも工程能力指数(Cpk) 下限値 5 サブグループ内 全体 度数(個) 潜在的な(サブグループ内)工程能力 Cp * 5.90 CPL * CPU 5.90 Cpk 全体の工程能力 Pp * 6.31 PPL PPU * Ppk 6.31 Cpm * 工程データ 0.1 * * 標本平均 0.19715 標本番号 16 標準偏差(サブグループ内) 0.00548463 標準偏差(全体) 0.00513066 LSL 目標 USL 0.05 0.10 0.15 0.20 サブグループ内 全体 度数(個) 潜在的な(サブグループ内)工程能力 Cp * 5.14 CPL * CPU 5.14 Cpk 全体の工程能力 Pp * 4.54 PPL PPU * Ppk 4.54 Cpm * 工程データ 0.1 * * 標本平均 0.182006 標本番号 16 標準偏差(サブグループ内) 0.00531915 0.0060148 標準偏差(全体) LSL 目標 USL 0.15 0.20 0.25 損失係数 図 8 30 ℃における損失係数の工程能力指数 下限値 4 サブグループ内 全体 度数 度数(個) 潜在的な(サブグループ内)工程能力 Cp * 2.47 CPL * CPU 2.47 Cpk 全体の工程能力 Pp * 2.06 PPL PPU * Ppk 2.06 Cpm * 工程データ 0.1 * * 標本平均 0.133094 標本番号 16 標準偏差(サブグループ内) 0.004474 標準偏差(全体) 0.00535101 LSL 目標 USL 確率 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 損失係数 図 9 40 ℃における損失係数の工程能力指数 表 8 損失係数の熱老化による影響 測定温度 5.ま と め 今回開発した鋼鉄道橋用制振材(製品名: SB ダンパー) は,既存製品(ショウダンプ R-1)の材料を基に材料開発 を行い,製造工程管理も含め鋼鉄道橋用規格(SRS 41)を 安定的に満たす製品開発を行うことができた。 1)譛鉄道総合技術研究所:鋼鉄道橋規格(SRS) ,p.86(2010 改訂) 下限値 0.10 いることが確認できた。 参考文献 図 7 20 ℃における損失係数の工程能力指数 0.05 は,2.0 以上あり,現状の製造工程管理は十分に安定して 0.25 損失係数 5 Vol. 59, No. 1 (2012) 工程能力指数 注 1) オリジナル 70 ℃× 96 H 70 ℃× 1000 H 20 ℃ 6.52 5.71 4.16 30 ℃ 4.51 6.59 7.08 40 ℃ 2.54 2.54 5.20 注 1) LSL= 仕様値とした場合,USL が存在しないので,Cpk は次式の値とした。 Cpk=2 ×(平均値-LSL)/6 σ 鋼鉄道橋用制振材(SB ダンパー)の開発 昭和電線デバイステクノロジー㈱ 三宅 清市(みやけ せいいち) 免制震制音ユニット 技術課 主幹 防振・制振製品の設計・開発に従事 昭和電線デバイステクノロジー㈱ 村西 哲(むらにし さとる) 免制震制音ユニット 技術課 主査 防振・制振製品の設計・開発に従事 昭和電線デバイステクノロジー㈱ 増村 照文(ますむら てるふみ) 免制震制音ユニット 技術課 主査 防振・制振製品の設計・開発に従事 昭和電線デバイステクノロジー㈱ 加藤 直樹(かとう なおき) 免制震制音ユニット長 67
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