第27回 講演者 : NPO法人シーエム会 開催日: 平成22年6月25日 会 中央区月島区民館 場: 木皿儀 隆康 交流サロン 18:00-20:30 氏 一般社団法人・日本伸銅協会 講演テーマ: 技術部長 銅のおはなし 講演概要 1.銅の起源 銅のクラーク数(地殻中 16kmまでの岩石中の元素量)は 0.01%と少ないが、 幸い地表近くで銅が濃集している場所があり、それを銅鉱床といい、その銅鉱石 から製錬により銅を取り出すことから始まるが、銅は紀元前 8000 年さかのぼる最 古の金属元素であり、我が国では弥生式時代の後期(紀元後)に古代中国や朝鮮 の影響を受けて青銅器や銅鏡、銅剣などが宝物として輸入され、やがて日本でも 和鏡や銅鐸を生んだ。 特に、青銅は古代人が銅の強度高めるために作り上げた合金であり、錫の含有 量により様々な道具が作られた(鐘:14%、斧:17%、鉾:20%、刃物:25%、 矢じり 30%、鏡:50%)。 現代では、様々な用途に呼応した銅合金が開発され、現在も新合金の開発にし のぎが削られている。特に、管分野では高強度薄肉化、黄銅分野では環境に優し い鉛を使わない快削黄銅材、板条分野では急速な IC 関連の需要の拡大(特にコン ピュータ関連や HV・EV 自動車関連等)により、リードフレーム材・端子・コネクター材 等、曲げ性・強度・電気伝導性・薄肉化等、それぞれの用途に応じた優れた特性 を併せ持つ新合金を開発し、世界をリードしている。 かっては日本での銅の生産高は元禄 10 年に世界一の約 6000 トンを記録したが、 その後、需要量の拡大や国内銅鉱床の閉山や休鉱により、国内需要をまかなうた め、現在では鉱石の多くを輸入に依存している(主に、南米太平洋沿岸の国々、 ソ連、北米等)。 2.銅と健康 <誤解されていた緑青有毒説> 厚生省の研究は昭和 56 年から 3 年をかけ、国立衛生試験所及び国立公衆衛生院、 東京大学医学部の三者によって生体に及ぼす影響に関する厚生科学研究班が組織 され、調査研究の結果、緑青有毒説は誤りであることが判明し、1984 年 8 月7日 厚生省の見解として NHK テレビ、朝日、毎日、読売の各新聞の朝刊で「銅有毒説」 は誤っていたと報道された。しかし、過去のイメージからか、今でも猛毒だと信 じ込んでいる人が多いのは残念である。海外では文献を調べても緑青の毒性を訴 えているものは無く、日本だけの問題のようである。 <アルツハイマー病に一筋の光> 甲南大の杉本直己教授は、アルツハイマー病の際に脳内に沈着するたんぱく質 に銅イオンを混入させると、銅とたんぱく質のアミノ酸の一部が結合し、たんぱ く質の増加を抑制することを実験により確認した、まだ人体検証は難しい段階で あるが、今後の研究に期待するところ大である。 <銅は必須金属> 銅が人間の健康にとって不可欠な成分であることが判ったのは今から約70年 前のことで、銅や亜鉛などのいくつかの金属元素が人間の健康にとって不可欠で あることが証明されており、特に、食べ物の中では牡蠣に豊富に含まれている。 その他、海老、椎茸、大根、レバー、ココアの順となっている。 <美味にこだわる>:あくまでも人の感覚ですが 銅のジョッキでビールを飲むとおいしく感じる訳は熱伝導が大きいことに起因 するようである。冷たいビールを容器に注いだとき、直ちに容器が冷えてビール の炭酸の蒸発を抑え泡を小さくし、口当たりをよくしているのではないかとの見 方がある。グラスの場合は予めよく冷やしておくやり方はよく見かけるのはこの 理由かもしれない。 その他、食材の調理や過熱時に銅の容器が伝統的に使用されているが、やはり、 長い歴史の中で味に重要な影響を与えているようである。 例として、おでんの 鍋、コヒーのお湯を銅のケトルでたてると美味しいとされるその筋の噂、帝国ホ テルの厨房で使用される調理鍋、卵焼き器、和菓子の釜等々。 <くらっときたら血のミネラル> 血液中に銅が不足するとヘモグロビンの合成や赤血球の生産などの触媒的働き が阻害され、鉄分の利用が妨げられ貧血を招く。ちまたでは鉄や銅は「血液のミ ネラル」と呼ばれたりしている。しかし、銅はたくさんの食べ物に含まれており、 一般的な食生活を送っていれば問題はない(2~5mg/日)。 3.銅と衛生・抗菌 <ヒントは十円玉にあり> たくさんの人の手から手に渡る十円玉の表面には雑菌がウヨウヨ・・と思いき や、硬貨の細菌を調べる試験で、使いまわしの銅コインは全くの無菌状態である ことが判明。銅には様々な細菌や微生物の働きを抑える力がある。 銅の微量金属作用とよばれており、銅イオンが様々な細菌の働きを抑えるよう であり、詳しいメカニズムは解明されていない。 <あのレジオネラ菌が参った> 実際、銅はどんな菌に対し有効なのか、日本銅センターではこれまで、学界等 の研究機関と共同で、身近で問題となっている様々な菌を使い実験を行なってき た。 先ず、ステンレス材及び塩化ビニール、銅の3種類にレジオネラ菌をまき、培 養後の抗菌効果を調べたところ、ステンレス、塩化ビニールは初期状態の菌数の ままであったのに対し、銅の菌数はその 1/600 まで減少していた。銅はレジオネ ラ菌に対し優れた抗菌効果を持つことが判った。 また、病原性大腸菌 O-157 に対しても抗菌効果を発揮することが実験でわかっ ている。 <蚊を絶つ> 墓地の周辺には蚊が多いといわれるが、これは墓地の花立てなど、水が溜まる 箇所が多く、この中に蚊が卵を産むからだといわれている。この対策として昔か ら伝えられているのが花立の中に十円玉を入れておくという知恵であった。 なぜなのか、この銅のパワーを確かめるため銅の容器とガラスの容器で実験を 行なった結果、銅の容器の場合はボウフラが全て羽化せず全て死滅、しかし、ガ ラス容器の場合は9割が羽化して蚊になった。銅の微量金属作用のはたらきが蚊 の発育を抑えたと考えられる。ボウフラが死滅する詳しいメカニズムの解明はこ れからであるが、実用的に活かすため、現在は公園などで実験が行なわれている。 <水虫君さよなら> あるタクシーの運転手が水虫で困っていたが、靴の中に十円玉を入れて仕事を 続けた結果すっかり直ってしまったとう話はその業界では有名な話だそうである。 一般的に、足のにおいは皮膚にある雑菌と汗の成分が反応して起こるといわれ ており、銅入り靴下や靴の中敷などの抗菌グッズが発売されている。 <イオンは強い見方です> 銅イオンはこれまで触れてきたように、微量金属作用があり、水やお湯を循環 ろ過して使用するプールや温泉風呂、噴水、人造池などで採用されており、特に 藻はレジオネラ菌などの巣窟になりやすく、銅イオンの抗菌作用はこれらの問題 解決に大きく貢献している。
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