主体性のある看護補助者を育てる 研修・指導の進め方

特集2
看護補助者配置完了!
主体性のある看護補助者を育てる
研修・指導の進め方
2014年度診療報酬改定による,夜間の急性期補助体制加算や新設の地域包括ケア病棟における看護
補助者配置加算など,看護業務のより一層の見直しと看護補助者への業務委譲,教育の充実とチーム
としての組織化の実践例を紹介します。
患者ケアの質向上と業務効率化を実現!
医療政策・患者ニードを
踏まえた看護部門と連携した
介護・医療支援部門の
役割分担・教育法
公益財団法人筑波メディカルセンター
筑波メディカルセンター病院
瀧口和代 K a z u y o _ T A K I G U C H I
介護・医療支援部門長
1978年国立療養所東京病院附属看護学校卒業。1978年筑波
大学附属病院 入職。1987年副看護師長,1991年 看護師長。
1997年放送大学教養学部卒業。2008年筑波メディカルセン
ター病院入職,介護・医療支援部副部長,同年7月部長就任,
現在に至る。2007年認定看護管理者セカンドレベル取得。
山下美智子 M i c h i k o _ Y A M A S H I T A
副院長兼看護部門長
1978年4月,筑波大学附属病院に看護師として入職。1983年
4月に横浜市立大学医学部付属高等看護学院,1988年4月に
財団法人筑波メディカルセンターに専任教員として入職。1995
年3月,日本大学文理学部卒業。1996年4月,茨城県立つく
ば看護専門学校教務主任に就任。1999年4月より筑波メディ
カルセンター病院,副看護部長に就任。2005年4月より現職。
2006年9月,日本病院会病院経営管理者。
る分野を適切に評価する視点,②患者等から見
て分かりやすく納得でき,安心・安全で質の高
い医療を実現する視点,③医療従事者の負担を
軽減する視点,④効率化余地がある分野を適正
化する視点の4つが示された。①の充実が求め
られる分野は,がん医療や認知症対策などであ
り,②の質の高い医療の実現は,生活の質とい
う観点を含めて患者が納得して医療に参加し,
患者の状態に合った質の高い医療を受けること
ができることとしている。そして,③の医療従
事者の負担軽減の中で,特に看護師の業務につ
いても他職種の支援を受けて勤務環境を調整す
ることが求められている。
このような診療報酬改定の中で,看護師が果
たさなければならない役割はますます拡大して
いる。看護補助者や介護職は,看護師にとって
欠かすことのできないパートナーであるため,
役割分担を実施し,業務を委譲して調整を図る
2014年4月に診療報酬の改定がなされた。
必要がある。
基本方針の重点課題としては,医療機関の機能
本稿では,当院(資料1)の急性期看護補助
分化・強化と連携,在宅医療の充実等が挙げら
体制加算の対象となる介護職などが所属する介
れ,その中の入院医療では,高度急性期・一般
護・医療支援部門(表1)に焦点を当てて,医療
急性期病院の7対1入院基本料の要件が厳格化
政策・患者ニードを踏まえた看護部門との役割
された。7対1入院基本料を算定している医療
分担や業務委譲の実際について述べていきたい。
機関では,退院患者のうち自宅などへの退院患
者割合が75%以上であることの基準が新設さ
介護・医療支援部門の位置付け
れた。また,重症度,看護必要度の名称が「重
介護・医療支援部門は,5部門(診療部門,
症度,医療・看護必要度」とされ,さらに急性
看護部門,診療技術部門,事務部門,介護・医
期患者の特性を評価するA項目が修正されてい
療支援部門)の中の一つに位置付けられてい
る。
る。部門としての独立は,1985年2月の当院
今回の改定の視点として,①充実が求められ
開院後,3期15年の年月を経た2000年4月の
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ことである。5部門の中では最も歴史の浅い部
ある。
門である。
第1期は,開院時の1985年から事務部アテ
組織は病院介護課,医療支援課,在宅サービ
ンダント課発足までとする。当初は,看護助手
ス課の3課で構成され,管理を担う課長および
業務を派遣会社の委託としていたが,その後
副課長,現場を監督・指導する係長,監督職相
1991年には看護助手を病院職員に切り替えた。
当の主任,モデルとなる主任補,係員のライン
その際,所属について検討され,事務部アテン
機能に沿って配置されている(図1,
2)。
ダント課所属となった。看護部門所属ではない
部門成り立ちの経緯については次のとおりで
理由としては,次の3つが挙げられる。
資料1●当院概要
開院:1985年2月16日
開設者:公益財団法人筑波メディカルセンター
病床数:413床(病床区分:一般病床410床,感染症3床)
(救命救急センター 30 茨城県地域がんセンター 156
一般224 二類感染症3)
診療科:18科
職員数:1,209人(2014年4月1日現在)
外来患者数:497人/日 入院患者数:353人/日
平均在院日数:11.7日 平均病床利用率:86.0%
紹介率:68.0% 逆紹介率:68.1%
一般病棟入院基本料:7対1入院基本料
外来初診時選定療養費:1,080円
診療単価:(外来)15,354円,(入院)72,427円
救急車搬送件数:4,775件(内ヘリ搬送72件)
ドクターカー出動件数:280件
※診療統計は2013年度実績
地域医療支援病院,災害拠点病院
臨床研修病院,
地域がん診療連携拠点病院
①看護師と看護助手の業務は異なっていること。
②看護部から看護助手の労務管理は困難である
などの意見が寄せられたこと。
③看護助手の業務に対する主体的取り組みやモ
チベーションの向上を期待されたこと。
第2期は,1991年からの事務部アテンダン
ト課の時代とする。ちなみにattendantには「付
添い人」という意味もあり,
「患者と同じ目線
に立ち,寄り添う」という思いも込められてい
る。第2期は組織化と配置および動機づけが行
われた。事務部アテンダント課が発足して3年
目には,アテンダントマニュアルの完成,リー
ダー制の導入など業務を効率的に実施できるよ
表1●介護・医療支援部門のスタッフ配置数(2014 年6月現在)
病棟名・PPCの主な診療科
外来
手術室
2A 救急救命センター 集中治療室(ICU)
2B 循環器病センター
2C 救急救命センター 重症病棟(HCU)
3A 成人の中症病棟 主に整形外科・呼吸器外科
3B 成人の中症病棟 主に呼吸器内科・総合診療科
4A 成人の中症病棟 主に脳神経外科・脳神経内科
4B 成人の中症病棟 主に循環器内科・心臓血管外科
小児病棟
2E がんセンター 集中治療室(ICU)
3E がんセンターの中症病棟 主に消化器外科・消化器内視鏡科・脳神
経外科・乳腺科
4E がんセンターの中症病棟
主に泌尿器科・婦人科・呼吸器内科・総合診療科
5E がんセンターの中症病棟 主に呼吸器外科・総合診療科・脳神経内科
緩和ケア病棟(PCU)
中央材料室
合計
病床稼働数 介護職員配置数 看護職員配置数
35人
10人※
4人
33人
外来PHS対応
32人
10床
2Cスタッフ対応
21人
6床
3人
32人
20床
7人■
30人
51床
■※
7人
31人
49床
7人■
30人
44床
6人■
30人
50床
3人
25人
27床
外来PHS対応
21人
6床
50床
7人■
30人
50床
6人■
30人
30床
20床
4人■
3人
11人※
78人
30人
22人
413床
432人
※臨時職員を含む ■病棟アシスタントを含む
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うになった。4年目にはほぼ組織としての形は
アサービス」を明らかにして,事務職員やほか
整い,基盤が構築された。さまざまな業務改善
の医療職,そして看護補助者に業務を分担して
プロジェクトも発足され,介護記録にも取り組
いく必要がある。
んだ。そして,在宅ケアにアテンダントを配置
看護職と看護補助者の役割分担と連携に関す
し,在宅介護事業への基礎づくりにも着手した。
る日本看護協会の基本的考え方は,
「看護職は
第3期は,2000年4月から介護・医療支援
看護補助者との協働により,質のよい看護を提
部門の時代とする。職員数の増加,業務拡大な
供する責務がある。看護職は,看護目標を踏ま
どもあり事務部から独立した病院介護課,医療
え,患者のその日の状態を総合的に判断し,責
支援課,在宅サービス課の3課からなる部門が
任を持って看護補助者が関わる患者を選定す
新設された。部門の新設以降,課長,係長はさ
る」と提示している1)。この考え方に基づき,
まざまな病院委員会やプロジェクトのメンバー
看護師の業務範囲における特に「療養上の世
として経験を積んでいる。その後,業務整備を
話」と物品の運搬や補充,文書の整理,環境整
看護と共に構築しながら,協働・連携の下,現
備などに関しては,対象の範囲を規定して看護
在に至っている。
補助者に業務を委譲していくことが必要である。
看護部門業務拡大に当たっての
介護・医療支援部門との連携と
役割委譲
急性期病床の在院日数が短縮される中で看護
介護・医療支援部門では,看護との連携の
下,業務の役割分担,委譲について先駆的に取
り組み,看護師の業務負担軽減を行ってきた。
試行を経て,2012年には新たに「病棟アシス
タント」業務に着手し,
「病棟介護」
「手術室支援」
の業務はますます煩雑となり,7対1入院基本
「中央材料室」
「内視鏡室」の業務見直しを行っ
料は急性期病院にとって,患者への「手厚い看
た。
「病棟アシスタント」
「中央材料室」業務に
護」を表すものではなくなってきつつある。
ついては,より役割分担や委譲を進めている。
チーム医療の推進と患者に対する説明責任が
求められる中で,患者や家族との説明と同意に
よる文書などのやり取りは,その必要性は十分
図2●介護・医療支援部のライン図
介護・医療支援部
管理職層
部長
理解しても看護師の業務を煩雑化させている。
その煩雑化した業務を整理して,
「看護師でな
ければできない業務」が何かという「看護のコ
図1●介護・医療支援部の組織
病院介護課
管理職層
課長・副課長
医療支援課
管理職層
課長
監督職層
係長・主任
監督職層
係長・主任
一般職層
主任補・
スタッフ
一般職層
主任補・
スタッフ
在宅サービス課
介護支援専門員
部長
病院介護課
病院介護
病棟アシスタント
医療支援課
手術室支援
中央材料室
内視鏡室 外来
在宅サービス課
介護支援専門員
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表3●入院時記入チェック表(入院計画書および栄養管理計画書など)
入院日
部屋
患者名
記入
入院計画書
医師
サイン
患者
サイン
表2●病棟アシスタントの主な業務内容
事務的業務など
のサポート
窓口業務の対応
栄養管理計画書
医師
看護師
記入
サイン
サイン
手術同意書サイン
有・無
備考
事前研修を通して,事務的サポート業務の中
退院患者に関連すること
・診療録(カルテ)の伝票整理,まとめ
・入院診療費用支払いの説明
・翌日退院患者のカルテ確認
入院患者に関連すること
・入院患者カルテの準備
・病棟および病室への案内
・入院オリエンテーション
・身長・体重の計測
・翌日入院患者情報の確認,カルテの準
備・緊急入院患者カルテの準備
・入院診療計画書・栄養管理計画書など
のサインの確認
で大半を占める医事的業務のイメージ化が図れ
窓口業務の対応
・入院患者および家族の対応・面会者の
対応・電話の応対
業務の範囲を拡大できたことによって,多くの
たことが業務習得につながったと考えられる。
また,診療報酬に関する業務については,当院
では1日の入退院患者数が多く,入院診療計画
書や栄養管理計画書などの入院時におけるサイ
ン漏れが見られていたため,サイン確認を効率
的に行えるよう新たにチェックシートを作成
し,サイン漏れ防止に取り組んでいる(表3)
。
一般病床7病棟すべてに,病棟アシスタント
看護師は本来の業務に専念できると考える。ま
た,病棟アシスタントの存在を分かりやすく伝
◆病棟アシスタント業務範囲の拡大
え,アピールしたことで,患者・家族,面会者
病棟アシスタントとは,主に病棟の窓口業務
は相談しやすくなり,不安の軽減につながって
や面会者の応対,電話応対,入院オリエンテー
いると思われる。
ション,事務的業務のサポートを行う業務であ
一方,病棟アシスタントの業務量には稼働率
る(表2)。求められる役割から,主任補レベ
が大きく影響している。時間帯を考慮した患
ル相当で,事務的能力や対人関係能力の高いス
者・家族の視点での病棟ラウンド,患者・家族
タッフを人選している。当初は,2つの病棟を
への声かけなどにより,ニーズの先取りを心が
モデルにスタートした。看護部,事務部との連
けていくことも重要である。今後は病棟アシス
携を密に図り,事業計画に沿って,次に3病棟,
タントの定着化に向け,標準化を目指していく。
2013年度にはさらに2病棟と範囲を広げ,一
◆中央材料室のシリンジポンプ・輸液ポンプ
般病床7病棟すべてに導入した。その際には,
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の清掃および一次点検作業
安全・安心に進める方針の下,次の3ステップ
中央材料室(以下,中材)では,当院全体で
で業務習得を目指した。
使用する器材の回収,洗浄・滅菌,滅菌物の供
ステップ1 提示された病棟アシスタント業務
給を行っている(表4)
。業務に携わっている
マニュアルで自己学習を行い,用意・準備する。
職員は,すべて介護・医療支援部門の職員で構
ステップ2 約1カ月の事前研修(見学・体験)
成され,職員の45%(5人)は,日本医療機
を通して業務を習得する。
器学会認定の第二種滅菌技師の資格を持ち,滅
ステップ3 サポートの下,一人で業務を行う。
菌業務に関する意識が高い。
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