239号 - 平野薬局

平野医薬ニュース 第 239 号 10/9
2010.9 N o.239
◆2型糖尿病予防のためのロシグリタゾン+メトホルミン
低用量併用療法(CANOE 試験):二重盲検無作為化比較試験◆
【背景】 2型糖尿病のさらなる広がりにより、ヘルスケア提供者には様々な糖尿病予防戦略の安全
性および有効性を評価することが要求されている。The CANOE 試験(CAnadian Normoglycemia
Outcomes Evaluation)は、2型糖尿病の発症における低用量併用療法の作用について調査した。
【方法】 この二重盲検無作為化比較対照試験はカナダの施設で実施され、耐糖能異常患者 207 名
をロシグリタゾン(2mg)+メトホルミン(500mg)1日2回投与群とプラセボ群に無作為割付けし、中
央値 3.9 年(IQR 3.0-4.6)追跡調査した。無作為化はコンピューターで4つのブロックに分け、参加
者も調査実施者も治療振り分けが分からないよう行われた。
主要アウトカムは糖尿病発症までの時間
とし、経口ブドウ糖負荷試験により判定、または空腹時血糖値が2回 7.0mmol/L 以上となった場合
とした。解析は包括解析により行なった。この試験は、ClinicalTrials.gov、ナンバーNCT00116932
に登録されている。
【結果】 参加者 103 名がロシグリタゾン+メトホルミン群に、104 名がプラセボ群に割り当てら
れ、すべてが解析対象となった。参加者 198 名(96%)について生命状態の確認が得られ、またメトホ
ルミン+ロシグリタゾン群の 78%(n=77)、
プラセボ群の 81%(n=80)が、
服薬コンプライアンス良好(割
り付け薬を少なくとも 80%服用)であった。糖尿病の発症は、実薬治療群(n=14[14%])がプラセボ群
(n=41[39%])に比べて有意に少なかった(p<0.0001)。相対リスクの減少は 66%(95%信頼区間 41-80)
であり、絶対リスクの減少は 26%(14-37)で、治療必要数(a number needed to treat:NNT)は4
(2.70-7.14)であった。治療群の 70 名(80%)で耐糖能が正常に戻っていたのに対して、プラセボ群で
は 52 名(53%)だった(p=0.0002)。試験終了時のインスリン感受性はプラセボ群で低下(中央値-1.24、
IQR-2.38~-0.08)、ロシグリタゾン+メトホルミン群は変化のないままであった(-0.39、-1.30
~0.84)(両群間 p=0.0006)。The insulin secretion-sensitivity index-2(ISSI2)を用いて測定したβ細
胞機能の変化は、両群間で差がみられなかった(プラセボ群-252.3、-382.2~-58.0 vs ロシグリタ
ゾン+メトホルミン群-221.8、-330.4~-87.8;p=0.28)。プラセボ群と比較して、実薬治療群で
下痢の増加が認められた(16[16%] vs 6[6%];p=0.0253)。
【考察】 ロシグリタゾンとメトホルミンの低用量併用療法は、耐糖能異常患者の2型糖尿病予防に
高い有用性を示し、これら2つの薬剤と臨床的に関連のある有害事象はほとんどみられなかった。
(376;103-11:Bernard Zinman et al:JULY 10,2010)
※ロシグリタゾンとメトホルミンの合剤は国内未発売だが、
ピオグリタゾンとメトホルミンの合剤が
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「メタクト配合錠」の商品名で武田から発売されている。
◆変形性関節炎と関節リウマチ患者でのセレコキシブ vs
オメプラゾール+ジクロフェナク(CONDOR):無作為化試験◆
【背景】 シクロオキシゲナーゼ(COX)-2 選択性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と、非選択性
NSAIDs+プロトンポンプインヒビター(PPI)では、上部消化管アウトカムに関しては類似している
が、消化管全体にわたる臨床アウトカムのリスクは、非選択性薬剤よりも選択性薬剤の方が低い可能
性がある。我々は、セレコキシブと徐放性ジクロフェナク+オメプラゾールに関連した消化管イベン
トのリスクを比較しようと試みた。
【方法】 我々は、32 の国と地域の 196 施設で消化管リスクの増大した変形性関節炎または関節リ
ウマチの患者に対して6ヵ月間の二重盲検無作為化試験を実施した。患者は、ヘリコバクターピロリ
検査が陰性の 60 歳以上、あるいは消化管潰瘍既往のある 18 歳以上であった。我々は、セレコキシ
ブ 200mg 1日2回投与、あるいは徐放性ジクロフェナク 75mg 1日2回+オメプラゾール 20mg
1日1回投与に1:1の比率で患者を割り当てるために、
コンピューター処理の無作為化表を使用し
た。患者と研究者は治療の割り当てについて知らされていなかった。主要エンドポイントは臨床的に
有意な上部あるいは下部消化管イベントを複合させたものとして、
第三者委員会によって判断された。
分析は包括解析によって行われた。この試験は ClinicalTrials.gov、ナンバーNCT00141102 に登録
されている。
【結果】 患者 4484 名が無作為に治療に振り分けられ(セレコキシブ群 2238 名、ジクロフェナク+
オメプラゾール群 2246 名)、包括解析が行われた。セレコキシブ投与群患者 20 名(0.9%)と、ジクロ
フェナク+オメプラゾール投与群患者 81 名(3.8%)が、主要エンドポイントの判断基準を満たしてい
た(ハザード比 4.3、95%CI 2.6-7.0;p<0.0001)。セレコキシブ投与群患者 114 名(6%)とジクロフ
ェナク+オメプラゾール投与群患者 167 名(8%)は、消化管有害事象により早期に試験を中止した。
【考察】 消化管全体にわたる臨床アウトカムのリスクは、非選択性 NSAID と PPI の併用で治療
された患者よりも、COX-2 選択性 NSAID で治療された患者の方がより低かった。これらの結果は、
NSAID 治療のリスクを減らすためのアプローチの再考を後押しするものとなるであろう。
(376;173-79:Francis K.L.Chan et al:JULY 17,2010)
※セレコキシブは「セレコックス」の商品名でアステラスから、ジクロフェナクは「ボルタレン」が
ノバルティスから、オメプラゾールは「オメプラール」と「オメプラゾン」がそれぞれアストラゼ
ネカと田辺三菱から発売されている。
◆大量出血の外傷患者での死亡、血管閉塞性イベント、
および輸血におけるトラネキサム酸の効果(CRASH-2)◆
【背景】 トラネキサム酸は、選択的手術を受ける患者の出血を減少させることができる。我々は、
外傷患者での死亡、血管閉塞性イベント、および輸血について、早期の短期間トラネキサム酸投与の
有効性を評価した。
【方法】 この無作為化比較対照試験は、40 ヵ国の 274 病院で行われた。出血の激しい、あるいは
その危険性がある成人外傷患者 20211 名を負傷後8時間以内に、トラネキサム酸(10 分以上かけて
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1g を初回投与し、その後8時間以上かけて 1g を点滴投与)またはプラセボを投与する群へと無作為
に割り付けた。無作為化は、コンピューターで発生させた乱数表による8つのブロックサイズに基づ
く連続的な割り付けにより、中央にて釣り合いが取られた。参加者と研究スタッフ(施設調査員およ
び試験コーディネイト中央スタッフ)の両者とも、試験の割り付けについて知らされていなかった。
主要アウトカムは負傷後4週間以内の病院内での死亡とし、次のようなカテゴリーで表された(出血、
血管閉塞[心筋梗塞、脳卒中、および肺塞栓症]、多臓器不全、頭部損傷、その他)。すべての分析は包
括解析によって行われた。この試験は、ISRCTN86750102、Clinicaltrials.gov NCT00375258、お
よび South African Clinical Trial Register DOH-27-0607-1919 に登録されている。
【結果】 患者 10096 名がトラネキサム酸群に、10115 名がプラセボ群に割り付けられ、その中で
それぞれ 10060 名と 10067 名について分析を行った。総原因死亡はトラネキサム酸群で有意に減少
した(トラネキサム酸群 1463 名[14.5%] vs プラセボ群 1613 名[16.0%];相対リスク 0.91、
95%CI 0.85
-0.97;p=0.0035)。出血による死亡のリスクは有意に減少した(489 名[4.9%] vs 574 名[5.7%];相対
リスク 0.85、95%CI 0.76-0.96、p=0.0077)。
【考察】 この研究において、トラネキサム酸は出血している外傷患者の死亡リスクを安全に減少さ
せていた。これらの結果に基づいて、出血している外傷患者へのトラネキサム酸の使用を考慮すべき
である。
(376;23-32:CRASH-2 trial collaborators:JULY 3,2010)
※トラネキサム酸は「トランサミン」の商品名で第一三共から発売されている。
◆BRCA1 または BRCA2 変異のある進行性乳がん患者での
経口ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ阻害薬オラパリブ◆
【背景】 新しい経口活性ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬のオラパリブ(olaparib)
は、BRCA 欠損細胞において人工的な致死性を誘導した。BRCA 欠損卵巣がん患者における最大耐
容量と有効性の最初のシグナルは報告されている。そこで我々は、BRCA1 または BRCA2 に変異を
有する進行性乳がんの女性患者において、オラパリブ単独での有効性、安全性、そして忍容性を評価
した。
【方法】 BRCA1 または BRCA2 の変異が確認された再発進行性の乳がん女性患者(18 歳以上)を、
オーストラリア、ドイツ、スペイン、スウェーデン、英国、および米国の 16 施設で行った第二相試
験において、2つの連続するコホートへと振り分けた。最初のコホート(n=27)には経口でのオラパリ
ブの最大耐容量(400mg を1日2回)、2つ目のコホート(n=27)では低用量(100mg を1日2回)をそれ
ぞれ連続で投与した。有効性の主要エンドポイントは客観的奏功率(objective response rate:ORR)
とした。この試験は、ClinicalTrials.gov、ナンバーNCT00494234 に登録されている。
【結果】 患者らは、これまでに中央値で3種(コホート1では幅 1-5、コホート2で 2-4)の化学
療法レジメンを受けていた。
ORR は、
400mg 1日2回投与群が27 名中 11 名(41%)(95%CI 25-59)、
そして 100mg 1日2回投与群が 27 名中 6 名(22%)(11-41)であった。毒性は主にグレードの軽度な
ものであった。400mg 1日2回投与群で原因として関連のある最も多い有害事象は倦怠感(グレード
1 または 2、11 名[41%];グレード 3 または 4、4名[15%])、嘔気(グレード 1 または 2、11 名[41%];
グレード 3 または 4、4名[15%])、嘔吐(グレード 1 または 2、3名[11%];グレード 3 または 4、3
名[11%])、そして貧血(グレード 1 または 2、1名[4%];グレード 3 または 4、3名[11%])であった。
100mg 1日2回投与群で原因として関連のある最も多い有害事象は、嘔気(グレード 1 または 2、11
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名[41%];グレード 3 または 4、なし)と倦怠感(グレード 1 または 2、7名[26%];グレード 3 または
4、1名[4%])だった。
【考察】 この試験の結果は、BRCA 欠損乳がん患者における PARP 阻害コンセプトの確実な証拠
を示しており、また BRCA1 または BRCA2 と関連する DNA 修復機能に遺伝子欠損のあるがん患者
において、新しい標的治療戦略として有益な治療指数を示している。BRCA1 および BRCA2 変異の
ある女性での毒性は、この変異を持たない女性で以前に報告されたものと同様であった。
(376;235-44:Andrew Tutt et al:JULY 3,2010)
医薬ニュース
N o.239 2010.9
平野情報委員会
※先生方のご意見・ご要望をお待ちしています。 情報委員: 香西真由美
松田泰幸
連絡先: 平野屋薬局 ℡(0898) 32-0255
梅村由貴
笠原直美
<URL> http://www.hirano-pharmacy.co.jp
編集責任者:佐伯久登 発行責任者:平野啓三
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