特 集 第 4 回 マルチモダリティーシンポジウム “Versus” 1 シンポジウム 各モダリティーの肝臓検査の現状と問題点 [CT] 肝臓をMDCTで探る ─ダイナミックスタディで得られるボリュームデータの有効利用─ 広島大学病院 診療支援部 石風呂 実 ある.肝臓を左葉,右葉の大きく 2 つに分けることで, はじめに 解剖学的には外観と機能から見た 2 つの方法論があり, 腹部領域のCT検査では,多角的に論じられる肝臓領域 外観においては,さらに 2 つの異なった基準で 2 分す は永遠のテーマを掲げた結論が見出せない領域であり, る.臨床の現場においては,肝静脈と門脈の血管走行を 各施設間での考え方,読影などで,検査手技の方向性を 基準においた機能的区分が主流である (図 1,2) . 見失うことがあると感じる.従来から肝臓の質的診断法 4 区域分類は 2 区域に分けた左葉,右葉をさらに 2 分 で行われているダイナミックスタディが,MDCTにおい した 4 つの領域を示す.左葉では外側区域と内側区域に分 ては高空間分解能ボリュームデータで取得できている利 かれる.右葉では前区域と後区域に分かれる (図 3,4) . 点を活用し,3 次元画像化による形態診断の構築が必要 と感じる.今回は,MDCTの特長を主体とした肝臓領域 マルチスライスCTで行われる肝臓の検査 での検査法,画像表示法などについて改めて紹介する. CT画像による診断のベースは,単純と造影の平衡相で 疾患の有無を判定できるベースが築き上げられているの 肝臓の区域について で,ノンヘリカルスキャンでダイナミックスキャンを必 肝臓には,区域分類があり2,4,8 区域の大中小に分 要としなくても,肝臓の腫瘍性疾患の有無についての存 けることができる.その代表的な分類は,2 区域分類で 在診断は可能である (図 5) . a.外観から見た肝臓の 2 区域分類 その 1(正面像) 右葉 左葉 b.外観から見た肝臓の 2 区域分類 その 2(足側像) ある人物 (Cantlie) が 取り決めた基準線 Cantlie線 葉 左 葉 右 肝鎌状間膜 血管支配および胆管の走行に基づいた線 (胆n底と肝背面の下大静脈の 2 点を結んだ線) この線が右葉,左葉の基準線 c.外観から見た肝臓の 2 区域分類 その 3(正面像) Cantlie線 図1 a:外観から見た肝臓の 2 区域分類は肝鎌状間膜で分ける方法を示す. b,c:下大静脈と胆n底と結んだ線をCantlie氏が取り決めた基準線Cantlie線で 2 分する方法. 2 機能的区分した肝臓 2 区域分類 その 1(足側像) 機能的区分した肝臓 (右葉,左葉) その 2(足側像) 図 2 下大静脈と中肝静脈を結んだ線が右葉,左葉に分ける基準線となる.Cantlie線と一致することがあるが,切除,切離面の決 定は血管支配下で決定することが一般的である. 機能的区分した肝臓 (左葉:外側,内側区域) その 3(足側像) ているため,スライス厚の自由化が進 化した装置であるので,詳細にみたい 領域は後処理 (再構成) で高空間分解能 外側区域 内側区域 画像などに置き換えることが可能であ る.また,ほとんどがヘリカルスキャ ンで撮影しているので,高密度な 3 次 元画像データで取得していることを意 味する. したがって,マルチスライスCTで の肝ダイナミックスキャンは,従来の 画像より多くのphase( 時相)を撮影 し,かつ,3 次元画像化して形態情報 を含めた画像診断の展開が望まれてい 図 3 左葉は肝鎌状間膜で内側,外側区域に分ける.外側区域は肝臓の外観から分けた左 葉にあたる. る.その特長を活かす反面,被検者に は被ばく,造影などに関する多少のリ スクを与えることになるが,「肝臓を 機能的区分した肝臓 (右葉:前・後区域) その 3(足側像) マルチスライスCTで探る」 という目的 としては,精査による鑑別診断の確立 前区域 で,急性期,慢性期の肝炎,肝硬変, 腫瘍性病変の有無,転移性病変の有無 または経過観察で正常,異常の血管情 報,機能評価などを,マルチスライス CTは 3 次元画像ボリュームデータで取 得しているので,すべてを網羅してい 右肝静脈 後区域 図 4 右葉を右肝静脈の走行で分けると前区域,後区域に 2 分できる. ることになる. 肝ダイナミックスキャン 肝臓の血流支配は動脈と門脈の二 ヘリカルCTが登場してスキャン時間の短縮 (高速化) に 重支配下であるので,ダイナミックCT で血流をみようとすると動脈と門脈は絶対に欠かせない より,造影剤の急速静注で肝臓全域の血流動態が把握で フィールドである.腫瘍病変をみるのであれば単純と平 きるダイナミックスキャンが確立した.現在はさらに高 衡相の 2 つがあれば良いが,双方みるのであれば動脈と 速スキャンが可能となったマルチスライスCTが開発さ 門脈の血管相を追加することでダイナミックスキャンの れ,4∼64列まで多種にわたって検出器の幅が広くなっ プロトコルが成り立つ (図 6) . ている.しかも同時に多種類のスライスデータを取得し ただし,各時相に異なった画像を取得するためには, 3 肝臓をCTでみる 造影 (平衡相) 単純 a 図 5 古典的HCCの症例の単純と造 影平衡相の画像 33秒注入法のTDC HU 腹部大動脈 300 門脈 肝実質 200 100 30 60 90 120 150 sec 血流動態を密に観察するゾーン(時相数の決定!) b 一枚の絵から鑑別するdynamic scan(5 時相) ─古典的肝細胞癌─ Plain 70 sec 20 sec 45 sec 図6 a: 33秒注入で行った場 合,肝門部レベルでの腹部 大動脈,門脈,肝実質の CT値の変動を時間の経過 と共に示したグラフを示 す. b:肝腫瘍性病変の鑑別診 断のための血流動態撮影 (ダイナミック 5 相)を示 す. 180 sec 造影剤の注入方法と撮影タイミングの組み合わせで,肝 時間の経過と共に造影効果をグラフ化したものである ダイナミックの本質は左右される.造影法については, (図 7) .これは多くの文献でも紹介されているので参考 読影基準や各施設間で異なっており,肝ダイナミックス にすると良い. キャンのプロトコルは各施設のオリジナルであるため全 われわれの施設では,造影剤を約33秒で注入してい 国的に統一はできていないのが現状である. る.TDCからも腹部大動脈が一番よく描出する30秒が動 最適なダイナミックスキャンを行うためには,タイム 脈相,門脈は50秒あたりを門脈相と定め,肝実質は門脈 デンシティカーブ (TDC) が参考となる.これは肝臓のレ の立ち上がりに伴って徐々に濃染してくる.血流動態を ベルでの腹部大動脈と門脈,肝実質の 3 つを主とした 緻密にみていくためには,動脈の立ち上がりから門脈の 4 第 4 回 マルチモダリティーシンポジウム “Versus” 特 集 立下りの領域に対して時相の数を設定することが,肝臓 は向上したと感じる.しかしそれらは,再現性のある造 のダイナミックスキャンの考え方である. 影法を基に行った場合であり,造影条件を低速注入また ある施設では被ばくなどを考慮して,時相数を減らし は投与量の減少については,TDC自体が変わるために, たり,反面質的診断の向上を図っている施設では時相数 最適なTDCと比べると造影効果は低下し,質的診断への が増えたりさまざまである.このような状況において 悪影響をもたらす原因となるので,十分理解したうえで も,目的の時相を確実に捉えることが必要条件にあげら 行うことを望む. れる. 肝細胞癌 (HCC) また,マルチスライスCTの多列化で撮影時間が大幅に 短くなり,時相数を容易に増やせる環境が整ってきたの で,以前よりは情報量が多く収集できるため,質的診断 古典的肝細胞癌 (HCC) をCT画像上で鑑別する場 合,前述したダイナミックスキャンを用いること で腫瘍の確定診断につながるマルチスライスCTで は,アキシャル断面以外に再構成により 3 次元画 よく見かけるTDC HU 像データを活用したMPR,MIP,VRで表示可能 300 であるので,今まで行っていたDSAなどの検査が 省略できる (図 8) . 250 全国のCT稼動状況を基に考えると,シングルス 200 動脈相 門脈相 平衡相 大動脈 大動脈 150 100 肝臓 肝臓 50 0 ライスCTは全体の約80%も稼動している.わずか 20%がマルチスライスCTである.現実に戻ると, このように装置間で温度差を感じながらHCCをど のように捉えて,最適な画像を取得すれば良いの かを少し悩む場合があると感じる.考え方 (選択 0 20 40 60 80 100 120 秒 ヘリカルCT 肢) として,マルチスライスCTはボリュームデー タ取得,シングルスライスCTは従来の診断法を基 ノンヘリカルCT 準にしたアキシャルデータ取得に目的意識を割り 図 7 シングルスライスCTとノンヘリカルCTの撮影が可能となる時相を 文献でよく見かけるTDCでシミュレーションしたグラフ 切ることが大切である.これを混在させてしまう と悪い結果を生じる場合もある. 3 次元ボリューム画像データ取得の利点 Axial MIP early artery phase delay artery phase portal phase 図 8 ダイナミックスキャンで捉えた動脈早期相,動脈後期相,門脈相の再構成MIP画像 5 注4.0mL/secの急速静注に耐えられなかった症例 体型:痩せ型 HR:55以下 スポーツ心臓系, etc. 動脈相で肝静脈描出 図 9 造影剤の逆流した画像を示す.心機能が異常または体型が極端に小さい,心拍数が少ない症例に多く見られる現象. 表 1 肝ダイナミック 5 時相プロトコルを示す. Liver dynamic study 5 phase protocol Delay time 1st phase Plain 2nd phase 3rd phase 4th phase Early artery phase Delay artery phase Portal venous phase 20 sec ∼ 70 sec 5th phase Equilibrium phase 180 sec いてもみられることがあるので,注入速度の調整を考慮 しなくてはならない.特に目立たないのがスポーツ歴の あるスポーツ心臓の被検者であり,同じような現象が生 じることがあるので注意すべき項目の 1 つと考える. ∗注入時間33秒の造影法のプロトコル ∗2∼4 時相は固体差による造影剤到達時間の違いを生じること が多いのでdelay timeの設定には要注意! マルチスライスCTでの肝造影検査の課題として,第 1 にあげられるのは投与法である.投与量については体重 に対して幾らとか各施設間で違いがあり,統一性が見出 せないのが現状であり,これについては永遠のテーマで もある.われわれの施設では造影剤投与量の決定は体重 を一応考慮している.投与量の基準は750mgI/kgにして いる.最大投与量は中濃度造影剤150mLであるが,体重 が重く明らかに造影効果が不慮と予測される場合には 造影法 150mL以上使用することもある.肝臓のプロトコルを示 す (表 1) . マルチスライスCTに移行してシングルスライスCTで 行ってきた造影法が,マルチスライスCTで代用はできな ボリュームデータの有効活用 い.基本はTDCにあり,早く撮影ができるからといって 造影剤注入速度をむやみに上げることや,安易に従来と われわれマルチスライスCTユーザは,ボリュームデー 同じタイミングで撮影することをしない.最適な造影効 タを取得して何らかの形で画像処理していかねばならな 果を得るために個体差で判断することが必須である.人 い義務があるのではと感じる.ボリュームデータで撮っ 体に受け入れられるものと受け入れられないものがあ たものは,きちんとボリュームデータの画像で返してあ る.注入速度 4mL/secで行った場合の動脈早期相を示す げることが第一優先だと思う.その画像は 3 次元画像の (図 9) . VR,MPR,MIPであるが,VRとして処理する場合はそ このように動脈早期相で肝静脈が濃染しているのは, れなりのCT値の確保が必要であるので,撮影法を含む造 右房に原因があり,静注した造影剤が入りきれなくて下 影法との組み合わせが重要なポイントとなる. 大静脈へ逆流した症例である.主に心機能に問題がある われわれの施設では,肝ダイナミックで撮影した動 被検者に多くみられる.また,体型が小さい被検者につ 脈,門脈相はそれぞれの血管をVR画像として作成するこ 6 第 4 回 マルチモダリティーシンポジウム “Versus” 特 集 図10 当院の肝ダイナミックスキャンはル ーチンで動脈,門脈のVRを構築する. early artery phase 図11 左は上腸間膜動脈から右肝動脈血管 走行を認める.右は食道静脈瘤を認める異 常血管のVRを示す. portal venous phase RFA施行前後のfusion画像 RFA前 CT arteriography RFA後 門脈相 + fusion後 = 図12 HCCの治療前後の評価 (fusion画像) とがルーチン化している (図10) .それにより,診断のた ほかに,RFAなどのfollow-upに 3 次元画像のfusion画 めのDSAは当施設では消滅している.また,DSAで行わ 像で治療効果を把握することで,追加RFAの必要性の判 れるIVRにおいて,TAI,TAEを施行する際に血管の走 定としても扱われている (図12) . 行と異常血管の有無が事前情報としてあれば,治療の方 また,外科的手術の必要な場合,ダイナミックスキャ 針またはIVRに要する時間の短縮にも反映する (図11) . ンのデータを用いて 3 次元画像上で手術計画のシミュレ 7 胆n癌手術シミュレーションvolumetry 内側区域右葉拡大切除 図13 3 次元画像による胆n癌手術シミュレーション ーションを行い,肝臓のボリュームを亜区域ごとに計測 は,正常は表面が滑らかで,異常は表面が凸凹している することも可能である (図13) ,特に,肝部分切除,生体 のも一目瞭然である.肝硬変においては,高い確率で門 肝移植術の切離面の決定は 3 次元画像で行い,切除領域 脈圧亢進症による食道静脈瘤,胃静脈瘤等の側副血行路 の容積計測は当施設では必須である. を認めることがある(図17).治療法としてIVRによる BRTOや内視鏡で行う硬化療法があり,術前,術後にお 症例提示 いても 3 次元画像で評価を行なっている. A-P shuntを認めた症例を示す (図14) .これは動脈早期 生体肝移植 相で,動脈と同じ濃度で肝門脈が濃染することはここに shuntがあることを意味する.アキシャル画像では, 生体肝移植ドナーの 3 次元画像による手術シミュレー shuntがある領域の肝実質が濃染で診断ができる.これを ションを示す (図18) .ドナー候補には肝ダイナミックス 3 次元画像処理すると,Shunt部位をより一層把握しやす キャンを施行するが,通常のプロトコルの最後の平衡相 くなる.この情報を取得することで,HCCに対するIVR をカットした撮影を行う.目的となるデータ収集は動 を施行する際に治療方針,または手技の変更を事前に検 脈,門脈,肝静脈の血管を 3 次元画像として取得するこ 討できる. とである.そして,肝静脈が描出した時相で肝実質のボ 肝血管腫を認めた症例を示す (図15) .動脈相,門脈相 リューム計算を行う. のどちらにおいてもアキシャル画像において疾患部位は 3 次元画像解析では距離,面積,体積等は簡便に行え 強い濃染を認める.HCCの場合,動脈相で強く濃染した るため,肝実質と肝静脈の重ね合わせした 3 次元画像よ 部位が門脈相でwash outしていくことが判定材料にな り左葉,右葉に切り分ける切離面を決定する.また,そ る. れぞれの容積測定を行い,左右差を把握することが容易 この場合,単純と造影のシンプルな造影検査であれば に行なえるので,当施設では生体肝移植のドナー候補の 悪性腫瘍と判定されていたかもしれない.ダイナミック 術前シミュレーションは 3 次元画像が主体となる.した スキャンを施行し,多くの時相をみることで血管腫であ がって,各 3 次元画像に置き換えるために,3 次元画像 ると判定される. 用にCT値の確保が必要となる検査を施行することが重要 肝硬変症例を認める症例を示す (図16) .3 次元画像で である. 8 第 4 回 マルチモダリティーシンポジウム “Versus” 特 集 A-P shunt 動注に良い情報となる early artery phase 図14 肝動脈門脈短絡 (A-P shunt: arterio-portal shunt) を認めた画像 血管腫 early artery phase portal venous phase 図15 肝血管腫を認めた画像 9 第 4 回 マルチモダリティーシンポジウム “Versus” 特 集 正常 異常 表面が滑らか 表面は凸凹 図16 正常の肝臓と肝硬変の VR 門脈圧亢進症による食道静脈瘤 図17 門脈圧亢進症による食 道静脈瘤のVR portal venous phase 生体肝移植におけるvolumetry whole liver 1071.3 cc whole liver 1071.3 cc 図18 生体肝移植のドナー候 補の手術シミュレーション像 おわりに 臓に限らず他の部位でも言えることである.マルチスラ イスCTで病態を探るためには基本検査体制を明確にし, 「肝臓をマルチスライスCTで探る」 ことは,3 次元画像 できる限りの画像情報を引き出すことを念頭に置くこと データであるボリュームデータの扱いであり,論点は肝 で,高品質な画像を見出すことを願う. 10
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