自社のCAD/CAMを強化する3つの方向性と具体例 - 寺崎武彦ホームページ

自社の CAD/CAM を強化する 3 つの方向性と具体例
寺崎武彦
自社の競争力を維持するために、ITの有効活用によ
きく3つのパターンについて,CADシステムの導入の
る生産性の改善や業務の特色づくりが進行している。
方向性を述べてみたい。
大部分の金型メーカはすでに何らかのCAD/CAMを
すでに導入しており,現在は,ますます進む 3D-CAD
【1】社内の生産性アップを図る
からの製品データの支給へ対応するために,その使い
最新のCAD/CAMシステムを検討する動機としてよ
こなしと補強のための追加導入が行われている。取引
く耳にするのは,CADにおいてはソリッドモデルを活
先との役割分担の変化に伴って,新たにCADを導入す
用した新しい仕事のしくみづくりやサーフェスとソ
る企業もある。
リッドを混在できるハイブリッドモデリングへの期待,
CAMにおいては加工形状を認識した早送りやアプロー
(1)金型づくりはミッドレンジで
チパスの最適化,キワ加工など隅部処理,それらの
3 次元 CAD は,価格や機能に応じて,従来から(1)
ツールパスの信頼性や安定性,切り込みと送り速さを
ハイエンド,
(2)ミッドレンジ,
(3)ローエンドとい
最適調整できるなどの高精度・高速加工の機能による
うようなカテゴリー分けが便宜的に行われてきた。
加工時間の短縮などがある。
機能の傾向としては,複数部門をまたがって幅広く
これに関連して,加工データの作成やそのために必
使用でき,各部門の業務を連携させる働きをもつハイ
要なモデリング作業を,加工ノウハウと現場の最新状
エンド CAD に対して,ミッドレンジは CAD は特定の
況を熟知している加工技術者自身に担当してもらうこ
目的に絞り込んだ現場志向の製品という違いがある。
とへの期待もある。この点では,機能の自動化や簡単
金型メーカなどの受注型の企業では,ミッドレンジ
で分かりやすい操作性も関心がおよぶ。
CAD のような目的特化型の CAD システムを中心とし
これらを具体化しようとして初めに考えるのが,
“既
たシステム導入が行われてきた。
存のCAD/CAMシステムを活かしつつ最新システムを
本稿では,
「生産性アップのための追加導入」
「取引
追加導入する”
,という方法である。
(図 1,図 2)
先との連携強化」
「時代に対応した新規導入」という大
数年前,金型メーカがいちばん始めに導入したシス
【図 1】
“CAM だけの CAM”との
データ連携の例(FFCAM)
【図2】隅部の取り残しを処理する
ツールパスの例(msg)
IGES を使ったモデルデータの受
自社の加工に最適な製品を選べる
け取しが一般的だが,Parasolidな
ことも“CAM だけの CAM”の利
ど各種のデータ形式に対応した
CAM もある。
(図 11 ∼ 14 も参照)
点である。複数の製品を導入し,
ワークの大きさや材質に応じて使
い分けるいる金型メーカもある。
【図 3】 デュアルディスプレイ
(2 画面表示)の例
テムには,サーフェスモデリング,金型の図面が描け
(2)社内体制を見直しつつ最適システムを検討
る2D機能,穴あけ・ポケット・曲面の加工に対応した
一方,業務全体が CAD/CAM のデータの流れに沿っ
CAM機能をパッケージした金型製作の全体をカバーで
て動くようになってきたことに対応して,金型の3D設
きる“オールインワン”の CAD/CAM が多かった。
計と製図を担う設計部門とそれらを引き継ぐ加工部門
具体的には,GRADE や CAM-TOOL,Unigraphics,
の間に線を引き,それぞれの部門の役割分担にあわせ
CADCEUS などの UNIX 版のシステムや,φ STATION
て最適なシステムを導入する方向性もある。
やMasterCAM,SurfCAM,EdgeCAM,alphaCAMといっ
この場合,用意された設計データに対して加工に必
たPC版のシステムからCAD/CAMをスタートした企業
要な延長面を付けたり穴をふさいだりできるよう,加
が多い。これらのシステムは,ひとつのシステムの一
工部門においても最低限のモデリング機能が必要に
連の操作を覚えれば,モデリング・製図・CAMのそれ
なってくる。
ぞれの作業をデータ変換せずに進行できるメリットが
近年は(1)で述べた“CAM だけの CAM”の中にも
ある。
実用的な CAD 機能をラインナップした製品がでてき
た。たとえば,WorkNC には形状編集機能として
(1)モデリングと CAM を別システムで分担
「WorkNC-CAD」が,PowerMILLのモデリングモジュー
現在もこれらのオールインワンのシステムを使って
ルとして「PowerShape」がある。
いる場合,別のハードウェアを用意して“CAMだけの
また,
「VisualMILL」や「CraftMILL」は単体で使用で
CAM”を追加し,曲面加工のツールパス作成をモデリ
きると同時に,サーフェス機能に優れた 3D-CAD とプ
ングと切り離すシステム強化の方法が合理的である。
ラグインを使ってデータ変換不要で連携させて低価
実際の業務において CAM は,演算を始めてしまえ
格・高機能な CAD/CAM ソフトとして使うこともでき
ば人手が掛からない一方,ツールパスを演算中のWin-
る。具体的には,VisualMILL は「Rhinoceros」と,
dows-PCはCADソフトの反応が緩慢になるため,モデ
CraftMILLは「thinkdesign」と組み合わせて使用できる。
リング作業の能率が極端に悪くなる。演算量の多い曲
(図 11 ∼ 14,
【3】も参照)
面加工のツールパスを分離することでモデリング作業
また,価格的に高いが,TOOLSなどもモデリング∼
も快適に継続でき,
ツールパスも短時間で作成できる。
加工データ作成の一連の作業を行う加工部門には適し
このような方向性で検討した場合に候補にあがる市
たモジュール構成をもつシステムである。
販のシステムとしては,WorkNC や msg,FFCAM,
CraftMILL,VisualMILL などがある。
【図 4・図 5】
CATIA V5 によるモールド金型設計の例
【図6・図7】
受け取りデータの不具合箇所を検証・修
取引先と同一システムを導入し,加工法や成形性など
正できるツールの例(図 6:CAD-DOCTOR,図 7:
金型製作の立場から新製品の開発に参画する。
CADfix)
(3)ハードウェアのみアップグレード
現状のCAD/CAMにとりたてた不満がないとしても,
UnigraphicsなどのハイエンドCAD)の生データのまま
円滑に受け取れるようにすることで,その企業の負担
《何か新しい製品を導入して毎日の仕事に新しい風を入
を減らしつつ,自社においては変換に伴って生じた不
れてみたい》と思うことは,ままあるものである。あ
具合データの手直し時間を減らすなど,顧客へのサー
るいは,幸いにも《予算が余った》とか《注文が多く
ビスと対応力のアップを図るという路線である。
て仕事が追いつかないが,新しいシステムに割り当て
る人材の余裕も,機能を覚える時間の余裕もない》
」と
(1)ダイレクトインタフェース
いうこともありうる。
すでに広く認知されているデータインタフェースと
このような場合,ハードウェア(パソコン)を最新
して,顧客が使用しているCADの生データを受け取っ
のものに変えるだけでも生産性があがる。CPUの処理
て自社の CADへ 1対 1で変換できる“ダイレクトイン
速度が高まるだけでもモデリングの快適さの向上や加
タフェース”がある。多くのCAD/CAM製品にオプショ
工データ作成の時間短縮には効果があるし,グラ
ンとして用意され,とりわけIGES経由では不具合が起
フィックボードを追加して 1 台のパソコン本体に 2 台
きやすいCATIAからのデータ受け取りについては大き
の画面を接続する「デュアルディスプレイ」
(2画面表
な成果が得られている。サーフェスデータの受け取り
示)にすれば,メインの画面でモデリング作業をしな
のほか,IGES経由では困難なソリッドデータの受け取
がら,サブ画面には作業に必要な参考図面や仕様書,
りに効果がある。
Excelの数値表を表示しておけるなど,能率的な作業が
相手のCADシステムが限定されている場合,特にそ
できる。
(図 3)
れがCATIAである場合には,既存のCAD/CAMを活か
今日,もっとも高性能なパソコンでも本体価格は20
したシステムの発展形として,生データの支給につい
万円以内であるし,2 画面表示のできるグラフィック
て取引先の意向も確認しつつ,
検討する価値は大きい。
ボードも手頃になり,1 ∼ 3 万円程度で購入できる。
(2)同じ CAD を用いる
【2】取引先との連携強化
ダイレクトインタフェースを使って顧客のCADの生
自社のCAD/CAM環境への最新システムの追加を検
データを直接受け取れるシステム環境からさらに踏み
討する動機として,データの受け取りを強化して取引
込んで,顧客が使用している CAD と同じ CAD を自社
先との連携強化を図る方向性もある。
に設備する方法もある。
いままで IGES 形式で受け取っていた 3D データを,
CATIA や UNIGRAPICS,Pro/ENGINEER といったい
取引先が使用している CAD(多くの場合,CATIA や
わゆる「ハイエンド CAD」は,多数の部品を組み付け
【図10】社内の各PCからインターネット
【図8・図9】
複数のCADデータに対応するデータ変ソフトの例(図
8:アルモニコス社「spGate」
,図 9:エリジオン社「ASFARIS」
)
への接続する機器設置例
(向かって左側:データを暗号化する
VPN 機能に加え IP 電話機能を標準装備
したルータ(ヤマハ製)
,中央:ADSL モ
デム,右側:LAN 用スイッチングハブ)
たアセンブリモデルに対応した種々の機能をもってい
これらのソフトとしては「CAD-DOCTOR」や「CAD-
たため,製品開発に好適なシステムとして大手メーカ
fix」
,
「spGate」
,
「ASFAIS」などが市販されている。
に好んで導入されてきた。
コストの高さや“機能が多すぎて使いこなせない”
(4)インターネットをブロードバンドに
などの理由から,金型メーカの主力システムとするに
【1】の(3)において,無理に新しい CAD/CAM シス
は適さない面もあるが,製品メーカと共同開発を行う
テムを導入せずに生産性を上げる便法としてハード
ようになると自社のCADで作成した設計データを顧客
ウェアの強化に触れたが,取引先との連携強化にも似
へ渡す場面もでてくる。顧客と同じCADを用意してお
たことがいえる。
くと,このような場面で《話が早い》という好印象に
現在,ISDNなどのダイヤルアップを使ってEメール
つながりやすい。図形情報が渡らない不具合を削減す
で相手企業とデータの受け渡しをしている場合,イン
るだけでなく,発注元のメーカに自社の担当者をCAD
ターネットへの接続環境を ADSL や FHHP(光ケーブ
オペレータとして派遣し,受注体制を強化している企
ル)などのブロードバンドに変更することで大きなサ
業もある。
(図 4,図 5)
イズのデータを素早く送受信できるようになる。料金
も接続時間に関わらず定額になるので,ホームページ
(3)補修ソフト or プロセスコネクタ
での情報収集やCAD/CAMなど体験版ソフトのダウン
生データを使って設計情報の確実性の高い受け取り
ロードなど,なにかとメリットが多い。
を行おうとする(1)
,
(2)の方法は,発注側の CADシ
ブロードバンドの拡大にあわせてIP電話も急速に広
ステムが 1 ∼ 2 種類であれば現実性が高い。
まっている。納期の打ち合わせや仕様の確認など,市
しかし,何らかの理由で生データの供給が受けられ
外局番が異なる取引先へ電話をする頻度が多い場合に
ない場合や,顧客のCADに対応したダイレクトインタ
は,大きな金額ではないとしても確実に電話料金を安
フェースが市販されていない場合,あるいは,取引先
くできる。
の CAD システムの種類が多い場合や顧客と同じ CAD
を自社に設備するとムダが増えてしまうような場合も
【3】これから初めての CAD/CAM を導入する
ある。
いままで取引先から NC データの供給を受けて加工
このような場合は,IGESデータを前提に,データの
メーカとしての経営を続けてきた比較的規模の小さな
不具合を検出して補修するソフトや“プロセスコネク
企業が,自社でも NC データを作成できるよう新規に
タ”と呼ばれる補修動作を行いながら複数のCADデー
CAD/CAM を導入しようとするケースも多い。
タを相互に変換できるようなソフトが有効である。
近年,このような企業にお奨めしたいコストパ
【図 11・図 12・図 13・図 14】
低価格でコストパフォーマンスに優れた CAD/CAM 製品の例
「Rhinoceros → VisualMILL」
,
「thinkdesign → CraftMILL」の CAD・CAM の連携は,プラグインソフトに
よりデータ変換なしでスムーズに行える。
図 11:3D-CAD「Rhinoceros」税別標準価格 21 万 8 千円,
図 12:3D-CAM「VisualMILL」
(2D・2.5D・多軸加工にも対応)同 48 万円
図 13:3D-CAD「thinkdesign」
(3D と連携した製図機能あり)税別ライセンス使用料 36 万円 / 年
図 14:3D-CAM「CraftMILL」税別標準価格 85 万円
フォーマンスに優れた実用的な製品が増えてきた。
新機能の追加などにも対応しやすい。また,最新のソ
低価格ゆえに電話での問い合わせサポートなどが貧
フトウェア技術を導入して高度なプログラムを効率よ
弱な傾向もあるが,CADを使う仕事が継続的にない場
く開発できるという背景もある。
合や,ひとりでいろいろやらなければならない(CAD
以前は教育用という向きもあった低価格のCAD製品
専任者を配置できない)など,CADだけのために大き
だが,これらの相乗効果によってかつてのミッドレン
な投資をしたくない状況には有効である。
ジを旧い世代に追いやるような機能を備えた低価格
初めての導入では,そのシステムがどのくらい自社
CAD/CAM の新製品が近年登場している。
の業務に適合しているか見極めが難しいこともある。
たとえば,以前は数百万円の価格帯のソフトウェア
導入した後で《ちょっと失敗だったか?》と感じたと
が採用していた加工データのシミュレーションをリア
きでも,このような低価格なシステムであれば,いわ
ルに描画する“ソリッド描画”の機能などは,現在は
ゆる「つぶしが効く」状態として別システムで補強が
10∼20万円のCAD/CAMソフトウェアにも用意されて
図れる自由度は高い。
いる。
(1)実力の増した低価格 CAD/CAM の活用
【4】CAD/CAMの曲がり角
ソフトウェアとしてのCAD/CAMの技術革新は過去
新規に販売されるソフトウェアがWindowsに移行し
に何度かあった。たとえば,CAD/CAM の動作環境が
てから数年が経過し,金型製作の現場では,UNIX機で
UNIXからWindowsに移行した時期などがそうである。
動作するCAD/CAMとして販売された末期のシステム
各社から Windows 用の新しい製品が数多く登場し,
のリース期間が満了しつつある。
UNIX 用の製品と並行して販売された。
ミッドレンジ CAD がかつてのハイエンド CAD なみ
あるいは,多機能ゆえに操作の習得が大変で,その
の機能を持つようになったこともあり,実際の業務に
わりに金型製作には使わない(使えない)機能が多
使われる CAD/CAM の大部分が Windows-PC で動作す
かったり,高性能なハードウェアが必要で高価なシス
るシステムに置き換わりつつある。ひきつづき価格の
テムになっていたそれまでのCADに対して,Windows-
低下も進んでおり,多くのミッドレンジCADは100万
PCに特化し,操作の習得を容易にする意味でも機能を
円以内で導入できる状況となった。
絞り込んで開発されたミッドレンジCADの登場などが
CAD/CAM を使う現場では,自社にもっとも相応し
ある。
いシステムの使いこなしについて,さまざまな選択肢
一般に,後発の新製品ほど,既存製品の市場での評
が用意される状況となっている。
価の分析を盛り込めるため優れた商品を作りやすく,
//
【図 15・図 16】
低価格な 3D-CAD 製品によるモデリング例
図 15:
「IronCAD」
(日立造船情報システム)
,図 16:
「ナスカシリーズ」
(浜松合同)