土木学会第55回年次学術講演会(平成12年9月) Ⅵ-84 低土被り地山における近接トンネルの施工(その2) − 無拡幅長尺鋼管先受け工の試験施工について − ハザマ 土木本部 正会員 稲葉秀雄 名古屋高速道路公社 鈴木教義 ハザマ・西松建設・住友建設共同企業体 前原弘光 ハザマ・西松建設・住友建設共同企業体 尾沢孝三 ハザマ・西松建設・住友建設共同企業体 正会員 今村新吾 1.はじめに 東山トンネルは、名古屋市東部の東山丘陵地域を通過する延長 2.6km の2本のトンネルである。そのうち 藤巻工区(上り線:490.9m、下り線:496.2m)は最も東側に位置し、地山は固結度の低い粘性土層(N 値= 12∼37)および砂質土層(N 値=6∼49)で構成されている。全線にわたり土被りが 5∼15m 程度と非常に小 さく、民家が近接している区間があるため、様々な補助工法を駆使してトンネル掘削を行っている。ここで は、地表面沈下対策および切羽天端安定対策としての無拡幅長尺鋼管先受け工の試験施工について報告する。 2.試験施工の目的 試験施工は、以下の2点について無拡幅長尺鋼管先受け工の効果を確認することを目的として実施した。 ①地表面沈下対策 注入式フォアポーリングを採用した区間の 前方探査削孔にて 砂質土を確認 計測結果から、トンネル掘削時の地表面沈下 による近接家屋の不同沈下が許容値である №811+4.901 切羽にて崩落発生 注入量=45㎏/本に変更 №810+12.1 №811+9.901 切羽にて崩落発生 注入材をシリカレジ ンに変更 注入量=30㎏/本 砂質土 シルト質砂 Pc7 地表面沈下抑制効果の高い補助工法を採用す 粘性土 Ps7 1/1,000rad を越えることが予想されたため、 Pc8 上半盤 № 813 № 811 № 810 ②砂質土区間における切羽天端安定対策 № 812 試験施工区間 る必要があった。 測 点 図− 1 上り線地質縦断図および試験施工区間 砂質土層において、超微粒子セメント注入式フォアポーリングでは鏡面でのリークの問題等で十分な改良 効果が得られない状況であった。シリカレジン注入フォアポーリングは経済的に不利であるため、確実な口 元コーキングなどにより超微粒子セメントを浸透させることができる長尺鋼管の採用を検討した。 3.試験施工の概要 試験施工の仕様を表−1、図−2、3に示す。 表− 1 試験施工概要 シフト 項 目 鋼管 φ114. 3 ㎜ 改良体径 φ600㎜ l=14, 690 n=15. 5本 2,3,4シフト 15@900=13, 500 = 鋼管長 本数 シフト長 打設角度 打設ピッチ 注入材、注入量 改良径 改良長 9.59m(鋼管)+5.10m(撤去部) =14.69m 15.5 本/シフト 6.0m 6度 900mm 超微粒子セメント 838 l/本 600mm 12.7m 撤去部 吹付け面 120° 上半盤 S.L 図− 2 無拡幅長尺鋼管先受け工断面図 (2,3,4シフト) キーワード:低土被り、砂質土、地表面沈下、長尺鋼管先受け、無拡幅 連 絡 先:〒107-8658 東京都港区北青山 2-5-8 TEL 03-3423-1801 FAX 03-3405-1854 Ⅵ-84 土木学会第55回年次学術講演会(平成12年9月) 1 4, 69 0 9, 59 0( 鋼 管) B 11, 640 5, 10 0( 撤 去 部) AGF-P 1シフト l=14. 69m 15本 l=11. 64m 16本 AGF-P 2シフト l=14. 69m 16本 AGF-P 3シフト l=14. 69m 15本 AGF-P 4シフト l=14. 69m 16本 50基目 55基目 60基目 65基目 70基目 75基目 A 6, 54 0( 鋼 管) 注 入 式フ ォ アホ ゚ ーリ ン グ l=3. 00m 5, 100( 撤 去 部) 鏡吹付けコンクリート 上半盤 2% 6, 000 6, 000 6, 000 6, 000 図− 3 無拡幅長尺鋼管先受け工縦断図 近接家屋位置 No.806 +14 横 断 ㊦R3 ㊦CL ㊦R6 ㊤L3 ㊤CL ㊤R3 ㊤R6 5 0 -10 5 0 ㊦L26 -10 -30 -30 -20 -30 -20 -40 -30 D. L=40. 0m 下 り線 5 6゚ -50 凡 ㊦L21 -20 -20 ㊤R26 -10 ㊦L16 D. L=50. 0m -10 0 ㊤R16 ㊦L3 ㊦L11 5 0 CL 10 ㊤R11 ㊤R21 ㊤L6 ㊦L6 上り 線 例 上半 盤 S.L 上半盤 S.L サ イ ド パ イ ル L =3 . 49 m φ114.3mm鋼管 ctc.1.0m 99/11/17 下半 切羽 通過 直後 99/10/21 上 半切 羽通 過前5m 99/11/19 下半 切羽 通過 後12m 99/10/26 上 半切 羽通 過直 後 99/11/20 下半 切羽 通過 後12m(サイドパイル打設 中) 99/11/15 上 半切 羽通 過後28m(下半 掘削 開始前) 99/11/22 下半 切羽 通過 後12m(サイドパイル打設 後) D. L=30. 0m 図− 4 地表面沈下分布図(No.810+0.0) 無拡幅長尺鋼管先受け工は、長尺鋼管の末端部(5.1m)を塩ビ管にすることにより鋼管を支保工の上端部 打設することができるため、先行断面の拡幅を行わない。使用した鋼管はφ114.3mm であり、鋼管口元処理 としてはSTパッカーを使用した。また、注入材が鋼管全体にわたって均等に注入されるように、インサー ト管に袋パッカーを設け注入を行った。試験施工は4シフトで行い、1シフト目は注入材の配合、注入圧力 を決定するために実施した。なお、脚部沈下対策としてウイングリブを採用している。 4.試験施工の結果 図−4に試験施工区間における地表面沈下の分布を示す。上半通過後にトンネル直上で 23mm の地表面沈 下が計測されているが、近接民家の位置における変位角は 0.4/1,000rad であり、民家近接区間において無拡 幅鋼管先受け工は有効であると判断された。 掘削時の切羽天端の安定状況は、注入式フォアポーリング施工時に比べ、鋼管の間からの抜け落ちは見ら れなくなったが、鋼管下端までの崩落が発生した。しかしながら、このような鋼管下端までの抜け落ちは、 前シフト打設の鋼管まで達することはなく、切羽天端は比較的安定していた。 5.まとめ 試験施工により良好な結果が得られたため、同様の仕様の無拡幅長尺鋼管先受け工を継続して採用するこ ととした。試験施工区間付近では、下半掘削時に天端および上半脚部の沈下が大きくなる傾向が見られたた め、対策として上半脚部補強ボルトを打設することとした(試験施工区間では応急的に下半サイドパイルを 打設した) 。その結果、近接家屋基礎部の沈下量を 0∼1mm、傾斜角を 0.1/1,000rad 程度に抑えることができ、 低土被りの砂質土地山における無拡幅長尺鋼管先受け工の有効性が確認できた。
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