分担研究報告書 - 日本子ども家庭総合研究所

H16厚科子ども家庭周産期ネット藤村班
厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
分担研究報告書
ハイリスク児のフォローアップ体制構築に関する研究
「総合周産期母子医療センターにおけるハイリスク児フォローアップに関する調査研究」
分担研究者 三科 潤 東京女子医科大学母子総合医療センター 助教授
研究協力者 河野由美 東京女子医科大学母子総合医療センター 講師
研究要旨:総合周産期母子医療センターにおけるフォローアップ外来の実態に関するアンケート調査を
行い,ハイリスク児フォローアップの問題点を検討した.統一フォローアッププロトコールの普及率が
低いこと,フォローアップ外来の担当医が不足していること,心理士が不在のため知能発達検査ができ
ないこと,フォローアップの地域化はほとんど進んでいないこと,育児支援として活用できる資源につ
いての情報が少ないことが明らかとなった.アウトカム指標となる予後評価とハイリスク児の育児支援
のために総合周産期母子医療センターにおけるフォローアップ体制の整備が早急に必要である.
A.研究目的
施設名,フォロ…アップの担当者名を記入しても
全国の周産期医療システムの整備に伴い総合
らい,郵送法により回収を行った.回答の得られ
周産期母子医療センターからは多くのハイリス
た37施設(1施設のみ返答なし)の結果につき解
ク新生児が退院するようになってきたが,これら
析した.
の児の受ける医療支援,社会的支援の整備は新た
な課題となってきている.フォローアップされた
C.研究結果
結果の予後についての情報を周産期の医療現場
1.総合周産期母子医療センタ…におけるフォロ
へのフィードバックはより良い医療を行う上で
ーアップ体制に関するアンケート調査
必須である.
アンケート調査の内容と調査結果の詳細は資料
これまでに極低出生体重児を対象として,ハイ
1のとおりであった.
リスク児フォローアップ研究会のプロトコ…ル
2.アンケート調査結果のまとめ
による統一された健診とそのデータベース化の
アンケート調査結果から総合周産期母子センタ
推進を行ってきたが,実施は十分ではなく,施設
ーのフォローアップ体制の問題点は以下のよう
問,地域間での情報交換に制限が生じている.本
にまとめられる.
研究では総合周産期母子医療センターにおける
1)約50%の施設では統一したプロトコールを用
ハイリスク児のフォローアップの実態調査を行
いていない.1歳半,3歳の低年齢の時期ではプ
い,その問題点を検討した.
ロトコールを用いているが,高年齢では行ってい
ない施設もある.(表1)
B。研究方法
2)フォローアップ率は超低出生体重児の3歳で
ハイリスク児のフォローアップに関するアン
約80%,6歳で70%,1000∼1500gの極低出生体
ケート調査を全ての総合周産期母子医療センタ
重児では3歳で60%,6歳で45%であり,6歳で
ー38施設を対象に行った.アンケート調査票には
低下する。
一39一
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3)ほとんどの施設でフォローアップは新生児病
実施してくことが必要と考えられた.
棟勤務の医師が兼務しており,小児神経科医など
現在半数の施設で使用しているハイリスク児
の専門医師の不足を感じている.
フォローアップ研究会健診プロトコールは,共通
4)心理士がフォローアップに関わっている施設
のプロトコールとして最も望ましいプロトコー
は約30%であり,40%の施設ではフォローアップ
ルと考えられるが,全施設で全てのKe”geを対
に関わる心理士は全くいない状況であった。これ
象に実施することは実際的には困難な状況であ
らの心理士のいない施設ではプロトコールで定
る.一・部の年齢のみ行っている施設(8施設),プ
められた発達・知能検査が施行されていない.
ロトコールによるフォローアップを開始する予
定の施設(5施設)が相当数あることからも,ハイ
(表1)
5)フォローアップの結果をデータベースに入力
リスク児フォローアップ研究会健診プロトコー
する人的・時間的余裕がない
ルを活用し,一部変更するなどして共通したプロ
トコールとすることが現実的であると考えられ
6)半数以上の施設で育児支援のための地域ネッ
トワークの必要性を認識しているが実際にはで
た。
以上のアンケート結果から周産期医療のアウ
きていない。
トカム指標として活用でき,全総合周産期母子医
7)育児支援として活用できる資源についての情
報が不足している.
療センターで実施可能なフォローアップの具体
D.考察
的な実施案として,以下のような案を提案した.
総合周産期医療施設におけるフォローアップ
アウトカム指標のためのフォローアップ健診(案)
外来の現状を調査した結果,外来の担当は新生児
対象: 総合周産期母子医療センターを退院し
病棟担当の医師がほとんどで人数も十分でなく,
た出生体重1500g未満のすべての児
医師にとって負担となっていること,臨床心理士,
方法: ハイリスク児フォローアップ研究会健
PTなどのコメディカルの関わる割合も低く,統
診用紙(3歳用)に従う.新版K式発達検査法を
一したプロトコールでの評価,障害をもった児へ
行う.3歳・一3歳半頃に実施する。
のより適切な対応などが十分に行えない状況に
この案では’[、・理士の不足のために発達検査がで
あることが明らかとなった.
きない施設において検査が実施できれ.ば38施設
より質の高い医療を提供するためには,高度な
中大多数の施設で実施できる可能性がある.ただ
周産期医療の現場となる総合周産期母子医療セ
し発達検査のために,検査のみ他施設へ依頼する,
ンターは,その医療の結果である児の予後を正し
心理士を派遣するなどの対応が必要となり,各施
く評価する必要があることは明らかである.まず
設に応じた最適な方法を検討する必要がある.
すべての総合周産期母子医療センターの医療者
一方,フォローアップは各々の児の発達・育児
(特にフォローアップに関わる新生児医師)は医
支援を提供するものでなければならない.これら
療のアウトカム指標となる予後評価と施設を退
の支援を行うための資源活用にっいての情報を
院するハイリスク児の発達・育児支援のために共
共有することが,フォロ…アップの向上につなが
通したフォローアップシステムの構築が不可欠
り,予後評価も可能となる.フォローアップをう
であることを認識しなければならない。アンケー
ける児,保護者が得られる支援の具体的内容(各
トの中で一部の施設では独自のフォローアップ
施設で可能なもの,保健所などの社会的資源を活
を行っているとの回答がみられたことからも,各
用したもの)をいくっかの二一ズに分けてマニュ
施設の独自のフォローアップと平行して行える
アル化することを次年度以降ひきつづき本研究
よう,共通の手法を用いて評価する項目を選択,
班で検討していく予定である.
一40…
H16厚科子ども家庭周産期ネット藤村班
E.結論
重別検討 第107回日本小児科学会総会,岡
総合周産期母子医療センターにおけるハイリ
山,日児誌 108(2),163,2004
スク児のフォローアップの実態に関するアンケ
2)Kono Y Mishilla J,Hara H,丁誠am皿a Tl
ート調査を行い,問題点を検討した.アウトカム
Sakuma I,εLn(l Nishi(la H:Survival an(l
指標となる予後評価と施設を退院するハイリス
long term ne皿odevelopmelltal outcome of
ク児の発達・育児支援のために統一したフォロー
extremely prem段ture infants less than28
アップシステムの構築が早急に必要である.
weeks gestational age;Is SGA a.risk
f技ctor?The21st Intematioml symPosium
F.研究発表
oll Neonatal hltensive Care.Milan,2004
1.論文発表
1)河野由美,三科潤:フォローアップ,予後(研
修医のための周産期医療ABC一新生児編)
周産期医学 34(8),1293−1297,2004
2.学会発表
1)河野由美,三科潤,渡部とよ子,本間洋子,
佐藤紀子:極低出生体重児の1歳6カ月健診
における発育と発達一4施設574名の出生体
表1 ハイリスク児フォローアップ研究会健診プロトコールの運用とKey ageの発達・知能検査
施設名 健診プロトコール
1歳6カ月 3歳
6歳
9歳
検査施行者
WPPSI、
田中ビネー、
医師、(5歳以
知らない
遠城寺式
遠城寺式 津守・稲毛式 WISCIII
上)心理士
全てのKey ageを実施
K式
K式 WISCIII WISCm
臨床心理士
3
全てのKey ageを実施
K式
K式
WISCIII
WISCR
心理士
4
全てのKey ageを実施
K式
K式
WISCIII
WISCIII
心理士、PT
K式,
K式, K式、
全てのKeyageを実施
津守・稲毛式
津守・稲毛式津守・稲毛式 WISK−R
臨床心理士
全てのKeyageを実施
K式
K式 WISCm WISCIII
臨床心理士
7
全てのKey ageを実施
K式
K式
8
全てのKeyageを実施
K式
K式 WISCIII
K式または
K式または
WPPSI
WISCIII
臨床心理士
WISCIII
心理士
9
全てのKey ageを実施
遠城寺式
遠城寺式 WPPSI
WISCR
臨床心理士
10
全てのKeyageを実施
K式
K式
WISCm
WISCIII
心理士
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WISCIIIシ
WISCH,
WPPSI,
田中ビネー,
11
全てのKey ageを実施
遠城寺式
遠城寺式 K−ABC
K−ABC 医師
12
一部のkey ageのみ実施
K式
K式 K−ABC
K−ABC 臨床心理士
13
…部のkey&geのみ実施
K式
K式 K式
WISClll 臨床心理士
K式または
K式または
遠城寺式
遠城寺式
医師
KIDS
K式 WISCm
WISCIII(予定)臨床心理士
K式 WISCIll
W.ISCIlI
発達心理士
14
』二音堕鰹鮒餓塾.
15
…部のkeyageのみ実施
16
一部のkey ageのみ実施
K式,
K式,
17
一部のkey ageの迩実施
津守・稲毛式
津守・稲毛式WISCllI
WISClll
心理士
18
一部のkey ageのみ実施
稲毛式
K式
WPPSI
WISCm
臨床心理土
WISCIII
WISCIII
臨床心理士
WISCIII
心理士
K式、
19
20
一部のkeyageのみ実施
K式
田中ビネー
フォローアップ健診はしてい津守・稲毛式、遠城寺式、
WISCIII、
るが発達検査はしていない 遠城寺式 田中ビネー
田中ビネー
21
実施予定である
22
実施予定である
遠城寺式、
遠城寺式、
その他
その他 WISCR
臨床心理士
発達心理士、
23
実施予定である
遠城寺式
遠城寺式 WISCm
24
実施予定である
K式
K式
WISCllI
WISCllI
医師
WISCm
臨床心理士
臨床心理士、
25
実施予定である
津守・稲毛式 津守・稲毛式WISCIII
医師
26
実施したいが開始時期は未定
遠城寺式 遠城寺式
医師
27
実施したいが開始時期は未定
津守・稲毛式 津守・稲毛式
医師
28
実施したいが開始時期は未定
津守・稲毛式 津守・稲毛式津守・稲毛式
医師
29
実施したいが開始時期は未定
遠城寺式 遠城寺式 田中ビネ…
K式,
津守・稲毛式、K式、
30
実施したいが開始時期は未定
遠城寺式 遠城寺式
臨床心理士
K式、
31
実施したいが開始時期は未定
遠城寺式 遠城寺式
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臨床心理士
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医師、
言語療法士
WISCm
32
実施したいが開始時期は未定
津守・稲毛式
津守・稲毛式WISCIII
33
実施したいが開始時期は未定
津守・稲毛式
津守・稲毛式
心理士、医師
34
実施したいが開始時期は未定
遠城寺式
K式
心理士
35
実施したいが開始時期は未定 津守・稲毛式 津守・稲毛式津守・稲毛式
(WISCm)
医師
独自のフォローアップを行っK式, K式,
ているので研究会プロトコー津守・稲毛式、津守・稲毛式、
36
ルの実施予定はない 遠城寺式 遠城寺式 津守・稲毛式
医師
独自のフォローアップを行っ
ているので研究会プロトコー
37
ルの実施予定はない 津守・稲毛式 田中ビネー WISCIII
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臨床心理士
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資料1: 総合周産期センターにおけるフォローアップ体制に関する実態調査
診療科名 ( )
新生児科責任者名 ( )
フォローアップ担当責任者名 ( )
フォロ…アップ担当心理士名( )
L貴院では、どのような児をフォローアップの対象にしていますか?
(1〉NICU退院児すべて i!lilii
.一ノ
(5〉先天異常児
(6)その他
(7)フォローアップは自院で行っていない( i装iiiii垂i へ委嘱している)
2.フォローアップが必要なハイリスク児は年間何例くらいですか?
1000g−14999
3.低出生体重児のフォローアップのプログラム(受診時期、内容、期間など)を決めていますか?
(L決めている 2.決まっていない)
4.フォローアップの期間は 超低出生体重児 、妻.i.簸胃i…、蒙liii歳まで)
10009−15009 『i.繕難lii購iii……1歳まで)
極低出生体重児の学齢期健診を実施していますか? (はい、いいえ)
学齢期健診はどのような時期に実施していますか 黍 講i
(通常の診察で、学校の休暇時、土曜目、目曜目、その他〉
5.フォローアップの頻度は: 退院後1歳まで 蒙難.1難i…i』)か月毎
1歳から3歳まで 1糞灘糞1鱗 )か月毎
3歳以降
6.極低出生体重児のフォローアップ率(大体の)についてお答え下さい。
超低出生体重児 3歳 鐸、1二:’1i.ノ、.1、嚢 6歳
10009−15009 3歳 ”ii』『”一’、1.1、『. 6歳 ’㌔.『ド『’”iili難戴)%
一44一
Hl6厚科子ども家庭周産期ネット藤村班
7。フォローアップ率を上げるための工夫をしていますか? (はい、いいえ) 1
内容= 1 ξ ,〉
1集 塞i 〈 ∫、l l、
1 縁 壷, 斐 l
l ≧ 一1 ま 疹
8.key−ageの健診対象者を呼びだしていますか? (はい、いいえ〉
幾 撚
「はい」の場合、呼びだし作業をする人は (医師、事務、その他) . 1
優 l l l
9.貴院のNICU退院児のフォローアップ外来について
固(1)フォローアップ専門の外来を設けている 週(1 〉回 又は 月( )回
総計で1枠半目を1単位とすると 週(菱 } D単位
週(縫 ◇ )名受診
(2)一般小児科診療の中で行っている 週(1 ㈲名受診
フォローアップ外来担当の医師は ヌ
新生児科医 (病棟兼務) ( 騰 名、週延べ 奪 時間)
新生児科医 (外来専任) ( 名、週延ベ ズ 1誕 時間)
外来担当小児科医 ( 名、週延べ 1 時問)
搬少児(発達)神経科医 ( 名、週延べ 奏 妻灘 ま時問)
上記以外の場合 (蟹麟 灘醐ll )
10.医師以外のフォローアップチームの職種、人数を記入して下さい。
(例 臨床(or発達)心理士、PTなど)
建聾 ま 欝 玉 1 麟醸 麟主 1至 l l 窩叢
燕 簾 簸 淫鎌 欝 鱒 戴 1 ま _讃
1 1 蚕
∈ 鰺
1Lフォローアップ担当の臨床(or発達)心理士1よ
繊 (1)常勤 ( 名、週当たり延べ 時間フォローアップに従事)
》 (2)非常勤( 名、週当たり延べ 時間)
輩 (3)いない
1 無回答
(4)フォローアップ担当の臨床(or発達)心理士は、
(L現在の人員で充分 2.現在の人員では不十分 3.必要だが得られない 4,不要である)無回答
1 拶 き
一45一一
田6厚科子ども家庭周産期ネット藤村班
12.貴院で次の年齢の児に対し、精神発達検査・知能検査に主として用いている検査は何ですか
1歳6か月 (新版K式、津守・稲毛式、遠城寺式、その他
3歳 (新版K式、津守・稲毛式、遠城寺式、田中ビネー、その他
)
)
6歳 (WISCIll、WPPSI、田中ビネー、J−MAP、K−ABC、津守・稲毛式、その他
9歳 (WISCIII、田中ビネー、」一MAP、K−ABC、その他
)
精神発達検査・知能検査を施行しているのは(臨床(or発達)心理士、医師、その他
)
13.「ハイリスク児フォローアップ研究会」作製のフォローアップの健診プロトコールについて蕪霧欝謙
(1)知らない
(2)全てのkey ageを実施している.
(3)一部のkey ageのみ実施している.
(4)フォローアップ健診は行っているが、発達検査は実施していない.
(5)実施予定である. 開始予定(
(6)実施したいが、開始時期は未定
実施出来ない理由
ii嚢iili妻 (7)独自のフォローアップを行っているので、研究会作成プロトコールの健診実施予定はない
14.貴院のフォローアップ体制は
灘i (1)大体整っている
(2)整っていない(何が不足ですか
15。貴院のフォロ…アップ体制の問題点、今後整備すべき点があれば、挙げて下さい.
16.フォローアップのデータは
lll (1)フォローアップ研究会・中村班作成のファイル(Filemaker Pro)に入力している
鍵奏 (2〉フォローアップ研究会の健診はしているが、健診用紙に記入しており、データはコンピュータ
ー入力していない
(3〉独自のデータベースを作っている
その他 カルテヘの記載のみ,これから作る予定
無回答
一一46一一
H16厚科子ども家庭周産期ネット藤村班
デ…タベース作成に関して、ご意見がありましたらご記入下さい
17.退院後の支援のための地域のネットワーク(二次医療機関、保健センター、療育機関等との)について
難 (1〉地域の支援ネットワークを作っており、稼働している
支援マニュアルを作っていますか? (あり、なし)
ii、葦 (2)ネットワークは必要だが、現在出来ていない
ll (3〉ネットワークは必要だが、作成は困難な見通しである
美 (4)不要
18.総合周産期センターのフォローアップ機能として、どような機能が望ましいと考えますか
毒 (1〉総合周産期センターにフォローアップ部門を設け、地域周産期センター退院児のフォローアップも
行う
嚢 (2)発達検査、視力・聴力検査など地域周産期センターで行えない検査は、総合周産期センターに依
頼できるようにする
欝 (3)自院のフォローアップだけで、手一杯である
(4〉地域の保健所・保健センターがフォローアップを行うほうがよい
19.貴院で退院児対象の早期支援として実施しておられる事業をご記入下さい。
一47一