5-142 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月) 鋼床版上 SFRC 舗装の接着品質確保に関する実験的検討 独立行政法人 土木研究所 1.はじめに 正会員 村越 潤 梁取 直樹 宇井 崇 NIPPO コーポレーション 正会員 ○石垣 勉 尾本 志展 根本 信行 筆者らはデッキプレートと鋼繊維補強コンクリート(SFRC)をエポキシ樹脂系接着剤(EP 系接 着剤)とスタッドを用いて接着接合させることにより,デッキ進展き裂の発生原因と考えられているデッキプレート の局部変形を低減させる鋼床版補強工法について検討を行ってきている SFRC舗装 SFRC 舗装 1)2) 。図-1 に本工法の構造概要を示す。本工法において期待される補強 補強材 補強材 デッキプレート デッキプレート 性能を発揮するためにはデッキプレートと SFRC の接着の確保が重要で SFRC あり, 接着作業工程においては SFRC と EP 系接着剤の双方の可使・硬 トラフリブ 化特性を十分に考慮した施工および品質管理手法を講ずる必要がある。 主桁 エポキシ樹脂系接着剤 デッキプレート 本報告では,過去に本工法で使用実績のある超速硬 SFRC と2液混合型 EP 系接着剤を用いて, 室内実験結果に基づくケーススタディを実施し た結果, スタッド スタッド SFRC 舗装による鋼床版補強 図-1 デッキプレートと SFRC の接着品質確保に関わる幾つかの知 工法の構造概要 見を得たので報告する。 2.EP 系接着剤による接着作業工程とその硬化過程に関する検討 デッキプレートと SFRC の接着においては SFRC と EP 系接着剤の可使・硬化特性を考慮した施工計画と品質管 理計画の立案が必要となる。図-2に EP 系接着剤を用いたデッキプレートと SFRC の接着作業工程と硬化過程の 時系列推移を示す。図-2(上)には SFRC の作業工程と SFRC の練混ぜから硬化に至るまでの状態変化について 示している。本図では超速硬 SFRC の使用を想定した。SFRC の可使時間経過後は水和熱の蓄積による温度上昇が 発生し,急速に凝結が進むことから,超速硬 SFRC の使用では可使時間内に練混ぜから仕上げまでの一連の施工を 終了させる必要がある。図-2(下)には2液混合型 EP 系接着剤による接着工程と,混合から完全硬化に至るま での状態変化について示している。主剤 養生 仕上げ 締固め 打込み 搬 で表面処理した清浄なデッキプレート面 運 <SFRC舗装工程> 練混ぜ と硬化剤の混合後,ショットブラスト等 供用開始 に可使時間内に所定の接着剤量を均一に 始発 <接着工程> 塗 着工程の管理が重要である。EP 系接着剤 開始 完全硬化に至る。双方の材料とも温度の 計量 DF 完全硬化 ST 供用可能 強度発現 〒140-0002 半硬化 連絡先 SFRC (C) ゲル化 補強工法 硬化 終了 硬化時間 最高発熱 鋼床版 最低粘度 キーワード (E) DT ゲル化時間(ST: Set-to-touch) (B) 使・硬化特性を把握しておくとともに, て重要であると考えられる。 硬化 開始 強度増加 完了 最高発熱時間 の材料の「時間」と「温度」に関わる可 工計画の立案が,接着の品質確保におい 最適塗布時間 開始 凝結 終結 (A) <接着剤の状態> とから,施工・品質管理においては双方 時間・温度の変化に柔軟に対応できる施 攪拌 時間 可使時間 液 状 影響により可使・硬化特性が変化するこ 硬化剤 計量 終了(D) 開放堆積時間 使用不能 態は最高発熱を経て,ゲル化・半硬化・ 主剤 混 合 は時間経過とともに反応硬化し,その状 接 着 (SFRC打設) 布 設計基準 強度発現 (F) 凝結 可使時間 を打込むまでの接着剤の開放堆積時間 (アッセンブリータイム)を考慮した接 水和熱蓄積 <SFRCの状態> 塗布する。接着剤を塗布してから SFRC 半硬化時間(DF: Dust free.) 完全硬化時間(DT: Dry through) 図-2 EP 系接着剤を用いたデッキプレートと SFRC の接着作業工程と硬 化過程の時系列推移(文献 3)に筆者らが加筆・修正) エポキシ樹脂系接着剤 東京都品川区東品川 3-32-34(株)NIPPO コーポレーション技術研究所 -283- TEL 03-3471-8542 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月) 3.室内実験結果に基づくケーススタディ 2液混合型 EP 系接着剤の一般性状 表-1 混合比 主成分 SFRC と EP 系接着剤の可使・硬化特性の把握を目的に室内実験結 主剤:変性エポキシ樹脂 硬化剤:変性ポリチオール 混合剤(白色) 適用基準 果に基づくケーススタディを実施した。検討に用いた EP 系接着剤 の性状を表-1,SFRC の配合条件と標準配合を表-2に示す。本 表-2 検討では可使・硬化特性の把握項目として重要と考えられる図-2 結果を概説すると以下の通りである。 (A)EP 系接着剤は環境温度の上昇とともに可使・増粘時間が短縮 する。可使時間・増粘時間(急激に粘度上昇 SFRC の配合条件と標準配合 100 増粘時間(JIS K7117) 60 40 20 0 10 20 ようなデータは供用開始時間の判断をする重 要なデータとなる(図-7)。 (F)環境温度 20℃において,鋼製型枠内 (SFRC 寸法 10cm×10cm×7.5cm)の鋼板に 60 70 半硬化(DF) 完全硬化(DT ) 0 10 20 完全硬化( DT ) : 13.2MPa 10 8 半硬化( DF) : 7.27MPa 6 4 ゲル化( ST ) : 0.72MPa 2 40 3 4 5 6 7 8 3 2 30min: 1.95MPa SFRC材料破壊 1 9 10 11 12 0 JHERI1410-12 基 準温 度 ( 20 ℃ ) 接 着剤 量 : 1kg/m2 開 放堆 積 時 間: 60min 4 3 60min: 2.28MPa SFRC材料破壊 90min: 1.80MPa 鋼板/接着剤 界面破壊 1 3hr: 0.11MPa 1 10 水 和 熱 蓄 積に よ る SFRC内 部の 温 度 上 昇 30 90 接着 面 温 度 SFRC温 度 環境 温 度 25 +7 ℃ 20 72hr: 1.83MPa SFRC材 料破 壊 接 着剤 凝 集 破壊 0 60 35 168hr: 2.47MPa SFRC材料 破壊 24hr: 2.28MPa SFRC材料 破 壊 30 図-6 SFRC と鋼板の接着に おける開放堆積時間の影響(D) 672hr: 2.73MPa SFRC材 料破 壊 6hr: 1.55MPa SFRC材 料 破 壊 2 70 開放堆積時間(min) 温度(℃) 5 60 JHERI1410-12 基準温度( 20℃) 接着剤量: 1kg/m2 養生時間: 24hr 4 0 1 2 50 図-4 接着剤の状態変化時 間の推移と環境温度の関係(B) 5 基準温度( 20 ℃) 30 環境温度(℃) 図-5 接着剤の各状態にお ける引張せん断強度の変化(C) せん断接着強度(Mpa) 24hr 経過後よりほぼ一定値に収束する。この 基準温度 (20 ℃) ST :3.5hr DF:5.5hr DT :8.5hr ゲル化(ST) 時間(hr) は破断面の形態が界面破壊となっていること 間の関係は時間経過とともに強度が増加し, 50 JIS A6024 12 0 に影響を与えないが,60 分以上の実験結果で (E)SFRC と鋼板のせん断接着強度と養生時 40 0 違いはせん断接着強度(せん断面積 100cm2) から,接着耐久性が懸念される(図-6)。 30 せん断接着強度( MPa) 14 引張せん断強度(MPa) 以下,鋼板)の接着における開放堆積時間の 10 RCI塗膜乾燥時間測定機 塗膜(接着剤量): 1kg/m2 5 図-3 接着剤の可使・増粘時 間と環境温度の関係(A) 用可能強度(1~2MPa 程度)は十分に確保さ ョットブラスト鋼板(寸法 10cm×10cm×5cm 15 Ad (C×%) 2 SF 100 環境温度(℃) 増大し,半硬化状態(指触乾燥状態)で,供 (D)SFRC(寸法 10cm×10cm×7.5cm)とシ S/a 50.1 0 強度より,接着剤の硬化は時間経過とともに れている(図-5)。 基 準 温度 (20 ℃ ) 可 使 時間 : 60min 増 粘 時間 : 55min 0 (C)接着剤単体の各状態における引張せん断 24.0N/mm2 15mm 超速硬セメント φ0.6×30mm 60分 接着剤設定 開放堆積時間 :60min 以内 ともに短縮する(図-4) 。 20 時間(hr) 80 基準温度( 20℃) 化・半硬化・完全硬化)は環境温度の上昇と 25 可使時間(JIS K6833 ) 時間(min) (B)塗布後の接着剤の状態変化時間(ゲル 23℃比重 不揮発分 21℃粘度 2 (%) (×102mPa・S) 1.38 97.9 - 1.17 73.6 - 1.34 58 - JIS K6833 JIS K6833 JIS K7117 設計基準圧縮強度 粗骨材の最大寸法 セメントの種類 鋼繊維の形状寸法 可使時間 スランプ(cm) 空気量(%) W/C 5.0±1.5 3.0±1.5 40 3 単位量(kg/m ) G W C S 892 168 420 840 の(A)~(F)に対応する室内実験結果を図-3~8に示す。その する時間)はほぼ一致している(図-3)。 4 1 - 基準温度( 20℃) 5-142 SFRC内 部の 温 度 上昇に 伴 う 接着 面 温 度の 上 昇 15 100 1000 0 200 400 600 時間(hr) 図-7 SFRC と鋼板のせん断 接着強度と養生時間の関係(E) 800 1000 1200 1400 時間(min) 図-8 SFRC と接着面温度と 養生時間の関係(F) 接着剤塗布後,SFRC を打ち込んだ。熱伝対を用いて SFRC 内部中央と接着面の温度変化を測定した。水和熱蓄積 による SFRC 内の温度上昇により接着面の温度も上昇し,SFRC の凝結終結につれて SFRC 内と接着面の温度はほ ぼ同じ温度で低下している。この温度上昇は EP 系接着剤の硬化促進に寄与するものと考えられる(図-8)。 3.まとめ デッキプレートとSFRCの接着品質の確保に関して室内実験結果に基づき検討した。SFRCとEP系接着 剤の可使・硬化特性を「時間」と「温度」の観点から把握し,施工・品質管理計画を立案することは重要である。 本研究は(独)土木研究所と(株)NIPPOコーポレーションとの共同研究「鋼床版橋梁の疲労耐久性向上技術に関 する共同研究(その3)」の一環として行なわれたものである。また室内実験の実施において,グリーンコンサルタ ント(株)馬場良輔氏,飯田隆紀氏の多大な協力を得たことを付記したい。 (参考文献)1)宇井他:鋼床版上SFRC 舗装の負曲げモーメント発生部を対象とした実験(その1),土木学会第62 回年次学術講演会概要集,pp45-46,2)石井 負曲げモーメント発生部を対象とした実験(その2),土木学会第62 回年次学術講演会 講演概要集,pp47-48,3)接着応用技術,日経技術図書,pp103,1991.4 -284- 他:鋼床版上SFRC 舗装の
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