腹腔鏡胃切除における3D-CT 有用性

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Kitakanto Med J
2011;61:31∼35
腹腔鏡補助下胃切除術における
3D-CT による術前評価の有用性
要
【目
竹
吉
泉, 吉
成
大
介, 戸
塚
統
戸
谷
裕
之, 小
川
博
臣, 平
井
圭太郎
高
橋
憲
, 田
中
和
美, 清
水
尚
荒
川
和
豊, 川
手
進
久, 須納瀬
旨
的】 腹腔鏡補助下胃切除では, 術中に病変の局在を診断し, 適切な術式を決定することが困難である.
そこで術前 3D-CT の有用性について検討した. 【方
法】 内視鏡を用い病変にクリップで印を付けた後,
動脈相と門脈相の CT を 0.5mm 間隔で撮影し, 3D-CT を作成した. 【結
果】 術前の 3D-CT で胃周囲血
管との位置関係まで含めた胃癌の局在が描出できた. 5 mm 程度以上のリンパ節が描出可能であった. また,
術式の決定 (幽門側胃切除か幽門保存胃切除か) に有用で, 症例によっては胃切除の際の切離線決定
に有用であった. 【結
語】 3D-CT を用いれば至適な胃切除範囲・リンパ節郭清範囲を決定できるので,よ
り安全かつ過不足のない適切な手術が行える可能性がある.(Kitakanto Med J 2011;61:31∼35)
キーワード: 3D-CT, 胃癌, 腹腔鏡
は
じ
め
あった. 症例 2 は 58 歳の男性であり, 内視鏡検査 (図 2)
に
では胃体下部大弯の 0-IIc で, 深達度は M で臨床病期は
腹腔鏡補助下胃切除 (LAG) では, 術野を手で触れる
ことができないため, 術中に病変の局在を診断し, 適切
T1, N0, Stage IA と診断されていた. 生検での組織は中
化管状腺癌 (tub2) であった.
CT 撮影方法: 1 ) 前もって上部消化管内視鏡検査で病
な術式を決定することが困難である.
術前に 3D-CT を施行し, 胃周囲血管との位置関係ま
変の口側および肛門側縁にクリップを付ける. その後
で含めた胃癌の局在を描出し, 至適な胃切除範囲・リン
2 ) 動脈相および門脈相の CT を 0.5mm のスライス厚
パ節郭清範囲を決定すれば, より安全かつ過不足のない
で撮影を行った. 撮影された 3D volume data は専用の
手術が行えるのではないかと
work station に転送された.
えられる. そこで 3D-
ワーク ス テーション で の 3D-CT 作 成:動 脈, 病 変 の
CT の有用性について検討した.
マーキングクリップ, 胃, リンパ節の 3D-CT を個別に作
対 象 と 方 法
成し, その後これらの 3D-CT を適宜重ね合わせた (図
今回対象としたのは 2 症例である. 症例 1 は 41 歳の
女性であり, 上部消化管内視鏡 (図 1) では胃前
部, 大
弯の 0-IIc で SM または MP 程度の深達度で胃癌取扱い
規約第 13 版での臨床病期は T1 or 2,N0,Stage IA or IB
と
えられていた.尚生検での組織は印環細胞癌 (sig) で
3).
結
果
症例 1 の 3D-CT 画像 (図 4) であるが, 病変は右胃大
網領域にあり, そこ (4d) に比較的大きなリンパ節が認め
1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学
平成22年11月19日 受付
論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学
竹吉
泉
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腹腔鏡胃切除における 3D-CT 有用性
図1
症例 1: 内視鏡検査
図3
3D-CT の作成
られたが扁平なため N0 と診断した. ただ N1 も否定で
図2
症例 2: 内視鏡検査
図4 症例 1: 3D-CT
うになった. また, 泌尿器科領域において, Kawamoto
きず, 幽門からの距離もなく, 右胃動脈領域の病変のた
ら は腹腔鏡下生体腎摘術における MDCT による血管
め, 腹腔鏡補助下幽門側胃切除 (LADG) D2 郭清を行っ
解剖と手術所見は 93%の症例で一致していたと報告し
た. 病理組織学的には低
化腺癌 (por)>sig, 深達度 SS
ている. MDCT を用いた 3 次元画像構築は, 機械の改
で 3D-CT で比較的大きく見えたリンパ節に転移が認め
良と画像処理ソフトの開発により, 以前より鮮明な画像
られ sig, SS, pN1 (4d), pStage II であった.
が得られるようになった. 消化器外科領域においても
症例 2 の 3D-CT 画像 (図 5) では, 病変は右胃大網動
3D-CT の画像が実質臓器である肝胆膵領域で術式の決
脈の末梢にあり, リンパ節は認められるものの転移を疑
定に利用されるようになり, 消化管領域においても3D-
われるようなものはなかった. また病変は左胃動脈の領
CT 画像が応用されはじめている.
あったため, 腹腔鏡補
胃の形は症例によって多様で小弯が短い場合や長い場
助下幽門保存胃切除 (LAPPG) をし, 右胃動脈を温存
合があり, 胃角部が幽門に近い場合もあるが, 3D-CT を
(3D-CT でリンパ節がみえなかった No.5 は非郭清) し
作成することにより, 形状が確実に判明する (図 7). 術前
た D1+β郭清を行った (図 6). 病理組織学的には tub2,
内視鏡での病変の局在診断は不正確である可能性があ
M, pN0, pStage I であった.
り, 胃透視では早期の病変を描出できないことがある.
域にあり, 幽門からの距離も十
察
また, たとえ病変が描出できた場合であっても, 胃全体
の形を描出した写真で同時に病変を描出できないことが
近年, CT 装置の撮影速度や解像度の進歩は著しい.
ある. 鏡視下手術中の術中内視鏡診断でも胃全体が見え
Multi-detector row CT (MDCT) の出現により撮影 XY
ないため病変の局在診断は困難なことがある. それに対
平面と Z 軸方向のスライス厚がほぼ等しくなることで 1
し術前 3D-CT ではあらゆる方向から胃を描出でき, 病
ボクセルが立方体に近いボリュームデータが得られるよ
変の局在を容易に描出できる (図 4,5).
33
図5
図7
症例 2: 3D-CT
図6 症例 2: 切除標本
3D-CT による病変の局在の描出
図8 3D-CT によるリンパ節の描出
LAPPG か LADG かの術式決定の際, われわれは 1 )
5mm 程度以上のリンパ節は同定可能である (図 8). 転移
幽門からの距離 2 ) 右胃動脈優位の病変か左胃動脈優位
かどうかの診断は現在のところ困難であるが, 開腹手術
の病変か 3 ) 右胃動脈領域のリンパ節腫大が重要と
で触診できるリンパ節は描出可能となる.
え
ている. 症例 1 の場合幽門からの距離がなく, N1 も否定
直径 5 mm 程度のリンパ節の描出が可能になれば,No.
できず, 右胃動脈領域の病変のため LADG を選択した.
5 や No.12a にリンパ節が描出されれば幽門保存胃切除
一方症例 2 の場合, 幽門からの距離は十
をしないといった判断も可能と思われる.
で, 左胃動脈
領域の病変で, 右胃動脈領域のリンパ節腫大がなかった
ため, 右胃動脈領域への転移は稀と
は十
結
え, 右胃動脈領域
に温存した LAPPG を行った.
語
LAG の術前に 3D-CT を施行することにより, 胃周囲
LAPPG での肛門側胃切離線の決定において病変の
血管との位置関係まで含めた胃癌の局在が描出でき, 至
distal margin から 4 cm 離して胃肛門側を切離したい場
適な胃切除範囲・リンパ節郭清範囲を決定できるので,
合, 以前は術中内視鏡検査により病変の distal margin を
より安全かつ過不足のない適切な手術が行える可能性が
確認し, 胃切離線を決定していた. しかし, その場合準備
ある.
および術中操作が煩雑であり, 3D-CT を用いれば血管
文
を指標に, 症例によっては病変の distal margin を求める
ことが可能である. 実際症例 2 においても術中内視鏡検
査は行わず, 3D-CT の血管を指標に distal margin を求
めた (図 5,6).
リンパ節描出において CT の原画は, 通常の 5 mm 間
隔の 10 倍の精度である 0.5mm 間隔で再構成すると直径
献
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腹腔鏡胃切除における 3D-CT 有用性
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Efficacy of Preoperative Evaluation with 3-Dimensional
Computed Tomography in Laparoscopic Gastrectomy
Izumi Takeyoshi,
Daisuke Yoshinari,
Hiroyuki Toya,
Hiroomi Ogawa,
Norifumi Takahashi,
Kazuhisa Arakawa,
1
Kazumi Tanaka,
Yutaka Sunose
Osamu Totsuka,
Keitaro Hirai,
Hisashi Shimizu,
and Susumu Kawate
Department of Thoracic and Visceral Organ Surgery, Gunma University Graduate School
of Medicine, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
Purpose: Diagnosis of the presence of local gastric carcinoma and determination of the appropriate
method of gastric resection during laparoscopic surgery is difficult. Thus, we examined the efficacy of
preoperative three-dimensional computed tomography(3D -CT)in laparoscopic gastrectomy. M ethod:
Using an endoscope, we marked the lesion with a clip, photographed the arterial and portal venous
aspects every 0.5 mm, and then created a 3D-CT image. Results: The 3D-CT image showed the
presence of local stomach cancer, including its position in relation to circumferential blood vessels. It
also revealed lymph nodes greater than 5 mm. Furthermore, it was possible to decide the surgical
procedure(distal gastrectomyorpylorus-preserving gastrectomy)based on the3D -CT imageinformation.
Conclusion : Preoperative planning, including determination of the appropriate surgical procedure
(stomach excision range and lymph node dissection range) on the basis of 3D -CT image information,
contributed greatly to successful surgery.(Kitakanto Med J 2011;61:31∼35)
Key words:
3D-CT, gastric cancer, laparoscopy