E-Business の現状と課題

E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
広島市立大学国際学研究科博士前期課程
E-Business の現状と課題
~アナログの必要性~
村上
学籍番号
満大
:
9951014
主指導教官:
大東和
武司
教授
副指導教官:
坂 井
秀 吉
教授
福 村
満
教授
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
目
次
序章 ...................................................................................................................................... 1
第1章
e-business とは...................................................................................................... 3
1.1
EDI(Electronic Data Interchange)................................................................. 4
1.2
CALS .................................................................................................................... 6
1.3 e-commerce(electronic commerce)................................................................ 10
1.4
第2章
2.1
e-business(electronic business) .................................................................... 13
e-business の現状 ................................................................................................ 17
ハードインフラの整備 ........................................................................................ 17
2.1.1 端末インフラ ................................................................................................ 17
2.1.2 通信インフラの整備 ..................................................................................... 23
2.2
ネットワーク・インフラ..................................................................................... 29
2.2.1 インターネット ............................................................................................ 29
2.2.2 イントラネット ............................................................................................ 38
2.2.3 エクストラネット......................................................................................... 39
2.3
ソフトインフラの整備 ........................................................................................ 40
2.4 e-business の市場規模・成長性.......................................................................... 41
2.4.1 B to C 市場 ................................................................................................... 43
2.4.2 B to B 市場 ................................................................................................... 46
2.4.3 その他の e-business 市場 ............................................................................. 48
2.5
第3章
3.1
時期を区切る(創成期、成長期、成熟期) ........................................................ 48
成功するための経営戦略...................................................................................... 51
情報の定義 .......................................................................................................... 51
3.1.1 知識の特徴 ................................................................................................... 51
3.1.2 情報の定義 ................................................................................................... 52
3.1.3 情報の特徴 ................................................................................................... 53
3.1.4 財としての情報の特徴.................................................................................. 54
デジタル化・情報化が与えたインパクト............................................................ 55
3.3
情報の特質を活かしたビジネス.......................................................................... 56
3.4
成功するための経営戦略..................................................................................... 57
終章
3.2
ビジネスのデジタル化による諸問題........................................................................ 60
参考文献 ............................................................................................................................. 63
i
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
序章
2000 年に沖縄・九州で行なわれたサミット(主要国首脳会議)において、「沖縄 IT 憲章」、
正式名称「グローバルな情報社会のための沖縄憲章」が採択された。この憲章の本文では、
「IT は、21 世紀を形作る最も有効な推進力の一つ。世界経済の成長にも不可欠なエンジン
だ。情報社会の健全な発展には民間が主導的な役割を担い、政府の関与は透明、最小限、
非差別かつ予測可能とする。主要 8 カ国は、競争や技術革新を刺激する政策をとり不正に
対抗、デジタルデバイドを是正する」と書かれている。この様に、IT(情報技術)に関し
て、世界的な取り組みが行なわれている。理由は、IT が今後さらに大きな役割を演じるよ
うになるということで共通認識があるからである。
この事からも、近年、大きなムーブメントである情報・IT 革命によって社会全体が変容
していることが分かる。空間的・時間的な制約から解き放たれ、多くの情報が氾濫し、且
つ適切な取捨選択が求められている状況である。この社会の流れは、ビジネスの世界にも
存在し、大きな潮流となり、ビジネス全体の変革を迫っている。このような現状の中で注
目されている分野として、インターネットを使ったビジネスが挙げられている。この
e-business といわれる分野は、今後も大きくなっていくと考えられる。その中でビジネス
として成功するチャンスも生れる。しかし、予想が困難な部分も多く不確実性が存在し、
その状況で企業を上手く経営するためには、既存の考え方では限界があるはずである。逆
に、変化しない部分も存在し、既存の考え方が適用できる場合もあるはずである。そこで、
情報・IT 革命によって変化する要素と変化しない要素の峻別を認識した上で、e-business
で成功するための企業の経営戦略を策定する時に、必要不可欠な条件について検証する。
第 1 章では、最近の情報技術を活かした経済活動、e-business や電子商取引などに関す
る用語の定義付けを行なう。何故なら、この分野に関する用語は、曖昧に使用され、中途
半端に理解されている事が多いからである。この定義を確実に押さえておくことは、現在
の社会変化を理解する上で、大変重要なことである。次に、第 2 章では、e-business を支
えるインフラや e-business の市場規模などの現状把握を行ない、現在がどの様な状態にあ
るかということを検証する。現在、e-business の市場規模は急激に拡大しているといわれ
ているが、どの様な要因によって急拡大が支えられているのかということと、その結果
e-business はどの程度発展していて、そして今はどの様な段階にあるのかということを把
握する。それによって、デジタル化・情報化時代において重要なファクターが何であるか
を考察する。以上の章を踏まえた上で、第 3 章ではまず、e-business において企業が成功
するときに、重要な位置を占める情報・情報財の特徴を検証する。次に、その情報・情報
財の特徴が顕在化するデジタル化・情報化によるインパクトを考察する。その上で、デジ
タル・情報化社会において、企業戦略を策定する際に重要なことが何であるかを考察する。
そして最後に、ビジネスがデジタル化されることによって生じるいくつかの問題点を挙げ、
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今後の課題を明確にする。
本論文では、e-business の重要性が上昇している現実を把握し、そのうえでこうした時
代を乗り切るために重要なポイントを導出することが目的である。
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第1章
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e-business とは
昨今、様々なメディアにおいて、多くの情報技術(IT)及びそれらの技術を活用したビ
ジネス等を扱うことが多くなっている。それにあわせて、新しい用語が使用される傾向が
強まっている。それは、矛盾しているように感じるが、雑誌・文献など、所謂アナログな
メディア媒体において、この動きは顕著である。その結果、現在では、多数の人が IT とい
う言葉を耳にしている。IT やそれらに関連している事象を多くのメディアが扱うことによ
って、世間の人々は日常生活や経済活動に多大な影響を与える可能性が高い新しい波に気
付き始めている。しかし、この様な波を、メディアは流行(モード、ファッション)とし
て扱う傾向が強く、この分野の用語は、意味においても数においても百花繚乱の様相を呈
している。そのため、情報を受け取る側の人は、混乱してしまい、それらについて深く考
えることを放棄したり、それらの用語を意味の分からないままに覚えたり、ファッション
として何となく使用したりしている。そして、IT 関連(名前に IT が付いていたり、IT を
用いているもの)であれば、手放しに、全てが有益であり、大変良いものであると考える
傾向も生れている。
図 1.1 電子化されたビジネス用語の相関関係
e-business
e-commerce
CALS
EDI
B to B
B to C
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
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そこで、この章では、情報技術の向上により、電子化(electronic)されたビジネスやそ
の過程を示す新しい用語の定義付けを行なう。これらの用語の相互関係を俯瞰すると図 1.1
の様になる。e-business が最も広義な概念で、その中に e-commerce、CALS 、EDI や、
その他の SCM・CRM1等が含まれる。そこで、以下では順に、個々に主要な用語の定義を
確認する。
1.1
EDI(Electronic Data Interchange)
EDI(電子データ交換)は、企業間取引を行なう際に発生するデータを電子化することで
ある。定義としては、「コンピューター・ネットワークを介して電子的に、受発注・輸送・
決済などのビジネス文書をやりとりすること」2である。JEDIC(Japan Electronic Data
Interchange Council3 :EDI 推進協議会)の EDI の定義は、
「異なる企業間で、商取引の
ためのデータを、通信回線を介して標準的な規約(可能な限り広く合意された各種規約)
を用いて、コンピュータ(端末を含む)間で交換すること」4であるとしている。この様な
EDI を実現するためには、企業間にネットワークを構築し、データ作成方法やプロトコル5
等の標準化を行なわなければならない。一般的に、標準には、デジュレ・スタンダード(公
式標準)とデファクト・スタンダード(事実上の標準)の 2 種類ある。デファクト・スタ
ンダードは、デジュレ・スタンダードが無い場合やインフォーマルな要素が強い業界で、
大きな影響力を示しているが、データ化や成文化が難しいので、それらを完全に把握する
ことは困難であるため、本論文では言及しない。
ネットワーク構築に関連するプロトコルにおいて、一つの成文化された EDI におけるデ
ジュレ・スタンダードの標準は EDI 規約と呼ばれている。図 1.2 は、その構成である。第
1 から第 4 レベルまで規約があることから、EDI 規約は段階的に策定されていることが分
かる。第 2 レベルの EDI 規約からみた日本企業の EDI 進展の現状は、十分に標準化が進ん
でいるとはいえないが、状況は漸進している。具体的には、日本企業が国内取引において
EDI を使用する時、取引先独自のフォーマットを使用する企業が多く(販売業務:28.6%、
購買業務:25.5%)、次いで CII 標準(販売業務:25.9%、購買業務:25.2%)、UN/EDIFACT
(販売業務:4.1%、購買業務:3.4%)と続いているが、CII (Center for the Informatization
of Industry6:産業情報化推進センター)標準や UN/EDIFACT7を採用する企業が増えつつ
1本論文
1.4 で説明する。
BP 社編(1997)『情報・通信新語辞典 98 年版』より引用。
3http://www.ecom.or.jp/jedic/index.htm
4http://www.ecom.or.jp/jedic/what_edi/what.htm
5protocol 通信規約。コンピューターによる通信のための標準通信方式のこと。データ通信システムに異
機種のコンピューターを結合するためには、一定の約束事が必要であるが、これらを共通の言語として標
準化したもの。(参考文献 井上・沖著(1989)『ネットワーク・情報用語辞典』参照)
6平成 12 年 3 月末をもって解散。従来 CII が行なっていた業務は、電子商取引推進センター・EDI 推進協
議会・電子商取引推進協議会が引き継いでいる。更に、標準企業コードの登録・管理、OSI オブジェクト
登録管理、EDI 推進協議会事務局等については、(財)日本情報処理開発協会に新たに設置された「電子商
2日経
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ある8。他方、国際取引においては、固定長自社方式(35.6%)が最も多いが、UN/EDIFACT
(25.0%)や CII 標準(10.6%)や ANSI X129(6.9%)のオープンな標準を提供している
EDI 規約(合計 42.5%)が大きな地位を占め始めている10。この国際的な取引における規約
の決定要因の一つに、取引先地域がある。取引先の企業の所在地が、アメリカの場合は ANSI
X12、ヨーロッパとアジアの場合は UN/EDIFACT を使用する傾向がある。そして、第 1 レ
ベルでは、自社方式(27.5%)、TCP/IP11(16.4%)、SDLC/HDLC12(14.8%)の順番にな
っており、特に自社方式が前年(15.9%)より大幅に伸びていることが特徴である13。要約
すると、日本では第 2 レベルの情報表現規約においては国際・国内取引ともに標準化へ進
んでいるが、第 1 レベルでは逆に個別化が進んでいるという矛盾した動きがみられる。EDI
規約は、レベルによって異なった動きをする可能性がある。
図 1.2 EDI 規約の構成
レベル
第 4 レベル
第 3 レベル
第 2 レベル
第 1 レベル
規約名
取引基本規約
取引に関する基本取り決め
具体例
一般的に個別取り決め
EDI 取引契約書の形で決めるのが一般
的
一般的に個別取り決め
業務運用規約
業務運用、システム運用の取 EIAJ 運用ガイドなどの簡単なガイドラ
インもある
り決め
情報表現規約。ビジネス・プ チェーンストア協会フォーマット、CII
基準、ANSI X12、UN/EDIFACT
ロトコルのこと。
メッセージ・フォーマットの
取り決め(シンタックス・ル
ール:文書構成のルール)
J 手順、全銀手順、F 手順、
H 手順、TCP/IP
情報伝達規約。
通信プロトコル(システム)
の取り決め
出典:日経 BP 社編(1997)『情報・通信新語辞典 98 年版』。
日本において、この EDI 規約の標準化は、(財)日本情報処理開発協会(JIPDEC : Japan
取引推進センター」で引き続き行なう。
7United Nations Rules for Electronic Data Interchange For Administration, Commerce and Transport、
電子データ交換のための規則。
8電子商取引推進センター(2000.5)
「国内企業における EDI 実態調査−2000−」参照。
9American National Standards Institute(米国国家規格協会)の EDI における代表的なシンタックスル
ールである。
10電子商取引推進センター(2000.5)
「国内企業における EDI 実態調査−2000−」参照。
11Transmission Control Protocol/Internet Protocol;Vinton G. Cerf が 1975 年に開発し、世界標準のプ
ロトコルとしてへと発展し、現在も改良が加えられている。
12Synchronous Data Link Control(同期データ接続制御。IBM が提唱。
)/Higher Data Link Control(高
水準なデータリンク制御手順の一つ。ISO が勧告。)
13電子商取引推進センター(2000.5)
「国内企業における EDI 実態調査−2000−」参照。
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Information Processing Development Corporation14)の産業情報化推進センター(CII)
が早い時期から取り組んでいる。しかし、全産業的に EDI を推進しているのではなく、現
実には、業界ごとに EDI を推進しているような状態であった。この状態を調整するために、
1992 年 10 月に 39 の業界団体と 4 つの省(通商産業省、大蔵省、運輸省、建設省)が集合
して、EDI 推進協議会(JEDIC)が設立された。2000 年 8 月の段階で、63 の業界団体が
参加している。この協議会が、日本における EDI の普及と啓蒙を行なうために、業種横断
的な共通課題を検討し、情報交換を行なっている。
EDI は、80 年代中盤以降、欧米を中心に情報ネットワークのインフラストラクチャーの
1 つとして大きく注目されるようになったため、普及が進んだ。日本においても、90 年代
初めから広く行なわれるようになった。例えば、花王とジャスコが取引を EDI へ移行(93
年秋)させたり、ワコールなどが取引先との EDI の導入を進めたり、鉄鋼メーカーが商社
や船会社との取引を EDI で交換する動きなどと広がりをみせている。何故なら、日本型経
営の一つの特長である“系列”という制度や世界的に進んでいる“戦略的提携(strategic
alliance)”や“M&A(Merger & Acquisition)
”という経営戦略に上手く適合させた結果、
企業間取引において、EDI が普及し始めている。この事は、多くの企業が、EDI のメリッ
トを重要な顧客との関係の強化である15と認識していることから推測することができる。
日本の国内企業における EDI の導入状況は、進んでいるといえる。電子商取引推進セン
ターの「国内企業における EDI 実態調査-2000-」(2000)によると、対象企業 665 社の内
の 75.2%にあたる 500 社が国内 EDI を実施していると回答している。高い実施率を示して
いる。業種別では、電気機器(75 社)、卸売業(73 社)、小売業(45 社)、商社(41 社)が
多く、業務別では、商流 EDI(421 社、全体の 84.2%の企業)、金融(金流)EDI(303 社、
60.6%)、物流 EDI(228 社、45.6%)が多い。EDI が使用される業種、業務共に多様化し
ている。一方、国際 EDI に関しては、
「導入している」のが 11.1%、「導入作業中」が 0.2%、
「導入予定である」が 4.9%である。国内 EDI より低い数値に留まったが、これは企業が国
際 EDI に関しては、まだ高い必要性を感じていないことを示している。
最初、この EDI は囲い込まれている企業間、例えば系列企業内(垂直的関係)で進展し、
既存のクローズド・ネットワークを維持し、効率的にするために導入が促進されていた。
しかし、EDI 規約の標準化が進み、規約が同業界内の企業間(水平的関係)や産業界全体
を網羅し、EDI の利便性が確認されることによって、EDI はオープン・ネットワークを構
築するインセンティブになった。この EDI を発展させたものが、次節で説明する CALS で
ある。
1.2
CALS
CALS は、1985 年にアメリカ合衆国(以下、アメリカと表記する)の国防総省(DOD :
14http://www.jipdec.or.jp
15電子商取引推進センター(2000.5)
「国内企業における
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EDI 実態調査−2000−」参照。
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へいたん
Defense Of Department)が兵站支援のために行なったプロジェクトの名称であった。つま
り、コンピューター・ネットワークを活用し、調達から設計・開発・生産・運用管理・保
守に至る製品のライフサイクルに関する全ての情報を統合データベースで一元管理し、各
工程を支援することによって、軍需物資の調達を高度化することであった。この時の CALS
は、Computer-Aided Acquisition and Logistics Support(コンピュータによる調達と後方
支援と訳される)の略であり、軍事色の濃い用語であった。
しかし、その後このコンセプトを民間に導入することの有益性に気付き、CALS を商業用
に転換するために何度も呼称が変化していった。最初の Computer-Aided Acquisition and
Logistics Support(1985)から Computer-Aided Acquisition and Support(コンピュータ
による調達と兵站業務の支援、1988)、Continuous Acquisition and Life Cycle Support(継
続的な調達とライフサイクルの支援、1993)、Commerce At Light Speed(光速の商取引、
1995)へという変遷の道を辿った。1992 年に、商務省が CALS で米国の製造業を再生する
と発表したことを契機に、軍用ではなく商用として CALS を捉えるようになり、呼称も変
化した。日本では、通産省が CALS を”生産・調達・運用支援統合情報システム(1995)”
と定義している。
この CALS をどのように捉えるかは、多種多様である。アメリカの CALS のガイド
(MIL-HDBK-59B, CALS Implementation Guide, 1994.6.10a)では、「紙による調達と運
用の情報をデジタル化して、自動化し、統合化し、併せて業務の改善を達成する米国国防
総省と米国産業界の戦略である」16と定義している。その他の考え方としては、CALS が
「個々のバーチャル・コーポレーション(VC)を結びつけて開放的で機動的な企業連合を
形成するための、技術と標準の体系である」17というのもある。
以上のことを踏まえ、CALS と EDI との違いを考察してみる。取引において発生するビ
ジネス文章を単に電子化する EDI と違い、CALS は製品に関するすべての情報を電子化し、
それらをプールした統合データベースを構築し、関係企業間で情報の共有化を進め、その
結果効率的な開発、生産などの実行を可能にする。このことは、大きな意味を持つと考え
られる。何故なら、CALS を導入し、電子化を進めることによって、企業のサプライ・チェ
ーンを再構築し、情報を共有することで、根本的に経営を改善する可能性が現実的になっ
たからである。
呼称が変化し、概念が変った結果、CALS は民間で経営改善のために広く行なわれるよう
になった。つまり、共通のデータベースを使用して、製品の全行程をリアルタイムで行な
うことを実現した結果、品質の向上や時間・コストの大幅削減を達成することができたの
である。より具体的に述べると、CALS の導入による効用は、開発リードタイムや仕様変更
処理時間や教育時間の短縮、取引時のデータエラーや在庫の減少や作業効率の向上などで
ある。そして、CALS が進展すると、組織を超えたビジネスのやり方や顧客サービスが成り
16水田編著(1995)
『CALS
17築地著(1995)
『CALS
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の可能性』、p.8 より引用。
から EC へ』、p.25 より引用。
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立ち、オープンな企業関係を築くことができ、新しい市場価値を創造することが可能にな
る。
そして、その様な CALS を広めるためには、EDI と同様に、設計や契約等の作成方法や
作業の標準化を行なわなければならない。デジュレ・スタンダードの流れとしては、最初
(80 年代後半)、CALS で必要な情報交換のルールが MIL 規格(MILitary Standards)18に
よって開発され、制定された。その後は、商用に使用されるようになるとともに、ISO や
業界別に標準化が進められている。特に、ISO によってビジネス全般に渡る国際的な標準
化が進み、SGML(Standard Generalized Markup Language)19や STEP(Standard for
The Exchange of Product model data)20が制定された。その他の標準としては、アメリカ
の ANSI(American National Standards Institute)の IGES(Initial Graphics Exchange
Specification)21や MIL の CGM(Computer Graphic Metafile)22や ITU(International
Telecommunication Union)-G423がある。
アメリカの CALS を推進する組織は、1986 年に設立された CALS/CE(Concurrent
Engineering : コンカレント・エンジニアリング) 24 と CALS/ISG(Industry Steering
Group : インダストリー・ステアリング・グループ)25であった。これらの組織において、
CALS の普及や情報交換などが行なわれている。日本における CALS の普及と国際的な窓
口として、1995 年 5 月に CALS 推進協議会(CIF : CALS Industry Forum26)が設立され
た。この組織は、標準の選択や提言を行ない、さらに日本的な商習慣や文化に根差した情
報技術を国際標準の中に反映させることによって、国際的な協調と貢献を図ることを目的
としている。それと同時に、鉱工業技術研究組合法に基づいて、生産・調達・運用支援統
合情報システム技術研究組合(NCALS : Nippon CALS Research Partnership27)も発足さ
れた。この組織の設立の目的は、CALS を適用して製品のライフサイクルを通した情報の共
有化・統合化の実現可能性を検討し、産業界全体の経営効率が向上することを実証するこ
とである。具体的には、電力、自動車、鉄鋼、電子機器・部品、ソフトウェア、船舶、宇
宙、航空機、建設、プラントなどの産業で実証実験が行なわれている。これらの大規模な
18米国軍用(Military)規格であって, 米国の防衛機関(陸軍, 空軍, 海軍)を統合した調達規格の一つ。これと
併設して, MIL 仕様, MIL ハンドブックなどがある。
19国際的な文章の標準規格として、1986 年に ISO8879 として承認された。
20ISO10303 のこと。製品の設計や製造に関する製品データを記述・交換を行なうための規格。
21MIL‐PRF‐28000A のこと。CAD(Computer Aided Design : コンピューター援用設計)/CAM
(Computer Aided Manufacturing : コンピューター援用生産)データの交換規格。
22MIL - PRF - 28003A のこと。グラフィック(図やイラストなど)の情報の記述や交換の規格。
23MIL – PRF – 28002B のこと。ラスターデータ(描点で表されたデータ)の圧縮技術の規格。
24http://arri.uta.edu/ccc/
25http://www.ornl.gov/cals/cals_isg.html
26http://www.ecom.or.jp/cif/index.html
27http://www.ncals.cif.or.jp/ 活動期間は 1995∼97 年まで。以後、JECALS(Japan EC/CALS
Organization ; 企業間電子商取引推進機構。1998 年 7 月設立。JSTEP : Japan STEP Promotion Center
の業務も継承している。http://www.jecals.jipdec.or.jp)が業務を継承している。そして、JECALS は 2000
年 4 月 1 日より電子商取引推進協議会(ECOM)に名称変更になった。
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実証実験は、通商産業省が平成 7 年度の 2 次補正予算で確保した 217 億 5,000 億円を基に
進められている。この中の 9 つの CALS 実行プロジェクト28と 1 つの高度商品データベー
ス構築・検索技術プロジェクト29と、そして別財源の電力 CALS の実証実験が NCALS の
もとで行なわれている。具体的な例として、自動車産業のトヨタをあげる。この実証実験
を示しているのが図 1.3 である。この例は国際的な部品取引の効率化を目的としていると考
えられる。
図 1.3 アジアと連携する自動車設計(トヨタ自動車の構想)
ディーラー
顧客
最終製品
地域分散型の最終組立工場
トヨタ本社
(東京‐豊田)
デザイン
企画
資材
設計
標準化された
調達データベース
受発注と
商品提案
アジア各地の
部品メーカー
ユニット化部品
出所:築地達郎著(1995)『CALS から EC へ』、p.57 より引用。
28自動車産業、宇宙産業、鉄鋼設備、建設、航空機、電子機器・部品、プロセスプラント、ソフトウェア、
造船の 9 つの分野。
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アメリカでは、ボーイングやロッキードなどの航空・宇宙産業、ゼネラル・モーターや
クライスラーなどの自動車産業が CALS の導入に積極的に取り組んでいる。その中で、
CALS が商用に変化していく過程で、CALS 商用移行の最初のプロジェクトは、B777(ボ
ーイング社、アメリカ)である30。実際に、このプロジェクトでは、CALS を使用すること
で、大幅な時間短縮、修正作業の削減、エラーの削減など大きな改善がもたらされた。CALS
を活用し、開発企業をネットワークで連結することによって、市場価値の高い製品を生み
出すことができた。
CALS が浸透することによって、よりオープンなネットワークを構築するインセンティブ
が発生し、業界横断的に企業が結びつきを強める下地を生み出した。この下地を基に、よ
り開放的なネットワークを構築し、効率的な経営を行なおうとする機運が高まった。
1.3
e-commerce(electronic commerce)
e-commerce を日本語に直訳すると電子商取引になる。この e-commerce は、現在最も使
用されることの多い用語である。そして、認知率も非常に高い31。そのため、定義が最も曖
昧になる可能性が高い。実際、e-commerce と EDI は同義に考えられることが多かった。
そこで最初に、e-commerce の定義をいくつか挙げてみる。
日本の通商産業省では、e-commerce(郵政省、『通信白書』では、インターネットコマー
スと表記している)を「(行政、個人も含む)経済主体間でのあらゆる経済活動(設計・開
発、広告、商取引、決済等)を様々なネットワークを用いて行なえるシステムであり、EDI
や CALS も含む広い範囲の情報システム、または、それによって実現される社会」32と定義
付けしている。また、欧州委員会では、"doing business electronically"と定義されている。
さらに、補足として、ビジネス・ツー・ビジネス(business to business : 企業間,以後 B to
B と表記する)、ビジネス・ツー・コンシューマ(business to consumer : 企業・消費者間,
以後 B to C と表記する)、ビジネス・ツー・アドミニストレーション(business to
administration : 企業・行政間,以後 B to A と表記する)をサポートする広範な技術、サ
ービス、アプリケーションおよびビジネスプロセスをカバーするものであるとも定義して
いる33。そして、電子商取引推進協議会(ECOM : Electronic Commerce Promotion Council
of Japan
34)では、
「ネットワーク上で、商取引の一部または全部を行なうこと」35と定義
している。これらの定義は、e-commerce を広義に捉えている。つまり、e-commerce は、
29鉄鋼分野のプロジェクトである。
30佐原著(1998)
『国際流通の電子化革新』
、p.108
参照。
31ECOM(2000)
「電子商取引に関する意識調査」で、97.7%と報告されている。
32通産省監修(1997)
『マルチメディア白書
1997』、p.110 より引用。
33同上
34http://www.ecom.or.jp
広義のルール作り(各種標準約款、ガイドライン、運用手順の作成など)を主たる業務として、標準化の
提案、普及促進、国際活動等を行なう。
35佐原著(1998)
『国際流通の電子化革新』
、p.108 参照
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10
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
ある経済主体が商取引の一部あるいは全部をネットワーク上で電子的に行なうこととして
いる。
これらの定義を検討するためには、commerce の日本語訳である商取引という用語の定義
を確認しなければならない。普通、商取引とは商業上の取引のことで、商業とは商品の売
買によって生産者と消費者との財貨の転換の媒介を行ない、そうすることによって利益を
得ることを目的とする事業のことである。そこで、商品を流通させることについて考える
と、ある商品を生産者から顧客・消費者まで商品を流通させる場合には、商流と物流と情
報流という 3 つの流れが存在し、そのうち商流の部分だけが商取引についての流れである。
つまり、既存の考え方からすると、その他の 2 つの流れは商取引では無いので、物流と情
報流を生み出す、商品それ自体の物理的な移動や商品を流通させる間の情報交換について
は、商取引とは関係がないのである。
しかし、e-commerce は、単に商取引(commerce)を電子化したものを意味する訳では
ない。この捉え方は、狭義の e-commerce であると考えるべきである。だが、上記で示した
ように広くビジネス全般に渡るものとして定義付けを行なうのであれば、既存の商取引と
い う 概 念 で は 、 e-commerce を 理 解 す る 上 で 不 適 切 で あ る と 考 え ら れ る 。 つ ま り 、
e-commerce における commerce は、商品流通における全ての流れを含んだ流通システム全
体(サプライ・チェーン)を意味し、e-commerce はその流通システムの電子化を意味する
と考えるべきである。その様に考えれば、実際に商品を配送する物流や取引時に発生する
決済におけるカネの流れを扱う金融や企業が中間投入財を購入することも e-commerce の
中に含まれ ることにな る。これが 広義の e-commerce であり、現在 ではこの定 義 で
e-commerce を捉えていることが多い。
この広義の e-commerce は、大きく分けて 2 つに分類することができる。それは、B to B
と B to C の 2 つである。現在良く報道される e-commerce は、B to C である。郵政省は、
この B to C をインターネットコマース最終消費財市場と呼んでいる。更に、この B to C は
2 つに分類することができる。1 つは、ネット上で購買のプロセスが完結する「ネット完結
型」B to C である。そして、もう 1 つがネットを顧客紹介の場として活用する「ネット活用
型」B to C である。B to C は、ビジネスの中で直接消費者と接する小売り(retail)を、ネ
ットワーク上で行なうことである。そして、既存の小売業(retailer)と区別するために、
ネットの小売業を e テイラー(e-tailer)と呼び、既存の店頭による販売を行なっているリ
アル・ショップと区別するために、B to C を行なう店舗をバーチャル・ショップと呼んで
いる。B to C を行なうメリットは、空間的概念の制約から解放されたり、時間の概念が変
化することによる、便利であったり、カスタマイズされていたりするモノやサービスを、
企業・店が提供したり、消費者が購入したりすることができる。更に、企業にとっては出
店費用や維持費用などのコスト削減やマーケットの拡大による顧客の増大を実現できたり、
消費者にとっては高品質なモノやサービスをより安い価格で手に入れることができたり、
今まで手に入れることが困難であった商品の入手が容易になったりする。
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11
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
だが、B to C に適合するかどうかは、扱っている商品(モノ・サービス)の特徴に依る。
書籍など実際に商品を直接見ずに購入しても問題が無かったり、家電製品などの様にブラ
ンドが確立されていたり、ソフトウェアの様にネット上で複製(コピー)する費用が限り
なく低い商品などが適合する。つまり、商品をデジタルデータ化することが容易で、そし
て、それらのデータのみで消費者が購買判断できる商品が、B to C に向いている。その上
で、ターゲット市場の消費者の情報量や目的によってネットで販売する方が良いのか悪い
のかが決定する。つまり、情報量が多い消費者の場合は、バーチャルな世界で購入するニ
ーズが高く、逆の場合は低い。また、消費者がウィンドーショッピングをしたいのか、商
品を早く手に入れたいのか、あるいは安価に手に入れたいのかというように、消費者の目
的は様々であるので、消費者の傾向を把握し、ネット販売を行なわなければならない。確
かに、この B to C は影響力があり、小売業に対して強いインパクトを与えるが、小売市場
全体からみると大きなシェアを持っているわけではない。あくまでもリアルな商品販売を
補完するものでしかないのではないだろうか。それよりは、個々が確立し、導入による効
用が大きい企業間の取引である B to B の方が今後進展し、重要性を増す可能性が高い。
図 1.4 e-commerce の類型
事前に特定さ
れていない相
EC
電子市場
手との取引
事前に特定され
ている相手との
EDI・CALS
イントラネット
エクストラネット
囲い込み
システム
戦略提携
取引
オープン・ネットワーク
クローズド・ネットワーク
出典:國領二郎著(2000)『オープン・アーキテクチャ戦略』、p.201 より引用。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
B to B36は EDI や CALS を発展させたもので、ほぼ同義である。異なる点は、企業が中
間投入財などを購入する取引企業を電子市場(electronic market place : e マーケットプレ
イス)で選択する点である。つまり、EDI や CALS では、既に取引が存在しいていた特定
の企業との関係を効率化したりすることによって、当事者である企業自体の経営改善を行
なっていたが、電子市場における企業間取引は不特定多数の企業との取引を行なうことに
よって効率化や経営改善を行なっている。B to B、特に不特定多数企業との B to B は、グ
ローバルに需要と供給のマッチングを行ない、高品質な中間財を安価に購入することを可
能にし、企業がコストを削減することができる。この様な考え方から、e-commerce の類型
を行なうと図 1.4 の様になり、e-commerce(図中では、EC)は、オープン・ネットワーク
を使用し、取引相手が特定されていない取引も含めることになる。
昨今では、これら 2 つの大きな分類以外のビジネスを、e-commerce の一つの形態である
として、e-commerce の中に含める動きがある。例えば、オークションをインターネットで
行なうネット・オークションが挙げられる。このビジネスは、消費者と消費者が直接取引
を行なうことから、C to C(consumer to consumer : 消費者間取引)と呼んでいる。その
他には、企業が業務の一部をアウトソーシング(外部委託)することも含まれる。これは、
B to B to C(business to business to consumer)と呼ばれていて、アウトソーシングをネ
ット上で受注し、サービスを提供するビジネスである。これらの様なビジネスが、新しく
生れたり、発展したり、消滅したりしているので e-commerce は収縮を繰り返していて、固
定された業界を指すものではない。
1.4
e-business(electronic business)
e-business は、e-commerce と同様に、あまりに一般化しすぎたために、定義が曖昧なま
まで使用されることが多い。先ず最初に確認すると、e-business という用語37は、IBM に
よって提唱された。1997 年からこの考え方を、メディアを使い、広く世間に広めていった。
IBM は、e-business を「インターネットをはじめとした新しい情報技術をベースにして、
ビジネスモデルをネットワーク型に変革していく作業」38であると定義している。つまり、
e-business はいくつかのソリューション(solution:経営問題の解決方法)の固まりも含め
たビジネス全体の電子化であると捉えることができる。ソリューションには、4 種類のサー
ビスがある。それは、①コンサルティング39、②システムインテグレーション40、③アウト
36郵政省では、インターネットコマース中間財市場と呼び、一般的な B to B では含める最終消費財である
事務用品や仕事上利用する航空券等を含めない。
37郵政省では、インターネットビジネスと呼んでいる。
38木村著(2000)
「データフォーカスへの流れと最適ソリューション導入のマッチング」DHB2000 年 4・
5 月号、pp.82-85 より引用。
39高次の経営、IT 両面の戦略立案と実施を行なうサービス。
40ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーキング機器などを、数に関係無く統合化するサービス。
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13
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
ソーシング41、④サポートサービス42である。これらそれぞれの分野は、戦略性や技術性が
占める割合と顧客との関係持続期間によって、比較することができる。戦略性の割合は①
が最も高く、技術性の割合は④が最も高くなる。関係持続期間については、①が比較的短
く、③、④は比較的長い。これらのソリューションが有機的に関係しあって、顧客にソリ
ューションサービスを提供している。このソリューションビジネスだけで、大きな市場を
創りだしている。1997 年の全世界での市場規模についてみてみると、①は 146 億ドル、②
は 394 億ドル、③は 440 億ドルになっている43。
以上の様に e-business を捉えると、適用範囲が大変広くなり、e-business は単なるイン
ターネットを利用したビジネスのみを示すわけではないことが分かる。単純にいえば、
e-business は、広義の e-commerce に企業の経営改善を実現する管理手法を足したもので
あるといえる。この管理手法は、企業間あるいは企業・消費者間の関係や企業内の関係の
マネジメントを、IT を基礎にして変革を実行することである。具体的に挙げると、企業間
あるいは企業・消費者間(pubic relations : 公的な関係)では、SCM(Supply Chain
Management)44や、CRM(Customer Relationship Management)45、DCM(Demand Chain
Management)46等が考えられ、企業内では、企業内部のナレッジ・マネージメント47、SFA
(Sales Force Automation)48等が考えられる。IT を利用することにより、これらのソリ
ューションのコンセプトの導入効果が高まることも e-business に含めることができる。こ
の点が e-commerce との違いである。
この大きな e-business 全体の中には、様々な事業形態が存在する。それを示したのが、
図 1.5 である。この図では、サプライ・チェーンの流れを横軸に、カテゴリーを縦軸にし、
41ネットワーク管理やデスクトップコンピューティング管理、データセンター管理などの外部委託を引き
受けるサービス。
42保守、技術アップグレード、ヘルプデスク顧客サポート、トレーニングなどを含む保守・支援を行なう
サービス。
43調査会社 IDC 社の調査による。
44サプライチェーン・マネジメント。あらゆるモノや情報、カネなどの流れがよどみなく流れるようにす
る手法である。中間投入財の取引企業を見直したりすることによって、コスト削減を実現する。具体的に
は、デルコンピューター、アサヒビール、キッコーマン、松下電器産業、東芝が行なっている。日経ビジ
ネス編(2000)『2000 年版最新経営イノベーション手法 50』、pp.130-137 を参照。
45カスタマー・リレイションシップ・マネジメント。顧客関係性の管理と和訳され、顧客を洞察し識別す
る顧客戦略、マーケティング、営業、サービスといった個々の業務を通して、顧客との接点を強化するこ
とによって、中長期的な収益機会を取り込むことを目的とした手法である。
46デマンド・チェーン・マネジメント。需要連鎖の管理と和訳され、一般消費者のいる流通の川下側から、
メーカーのいる川上側にさかのぼる情報の流れを管理する手法である。この手法の具体例としては、米ア
マゾン・ドット・コムが顧客の購買に関するデータを蓄積し、顧客に対して効果的な販売提案を行なうこ
と等が挙げられる。
47企業内で、個人やプロジェクトチームが持っている経験やノウハウを共有することによって、業務効率
を高めたり、新しいアイデアを生み出す手法である。例として、富士通やあさひ銀行が挙げられる。この
ケースについては、日経ビジネス編(2000)『2000 年版最新経営イノベーション手法 50』、pp.72-75 を参
照。
48セールス・フォース・オートメーション。IT を用い、営業活動を統合的に支援し、顧客満足度の向上や
売上げ拡大を実現する手法である。
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14
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
最小単位の事業形態を円で囲み、それぞれの特徴を表わしている。円が重なっている事業
は、取引や提供するサービス・商品の相関関係が強いことを示している。一つの企業がこ
れらいくつかの事業を同時に行なっている場合も多いが、最も小さい単位で区別すると 14
の事業形態に分けられる。これら特化された 14 の事業が相互に関係しあうことによって、
開発やサービスの提供のスピードが上がったり、補完性の高い外部資源を活用することに
よって、商品の製造やサービスの提供の際に相乗効果(シナジー効果)が生まれ、顧客に
満足度のより高い商品を提供することが可能になる。その結果、消費者の利得の上昇や生
産者の効率性の向上により、社会全体の効用が上昇することが、e-business のメリットで
ある。
図 1.5 e-business の形態
原材料
調達
コンテクスト/
コミュニティ
処理
製品
セールス
サービス
オンライン小売業
オンライン購買
サービス・アグリゲーター
コンテンツ
レバレッジ
ド・セリン
グ・イネブ
ラー
レバレッジド・
バイイング・
イネブラー
顧客エージェント
オンライン
取引
商取引
接続・統合
トランザクショ
ン・
プロセッサー
デジタル・
プ ロ ダ ク
ト・クリエ
ーター
ソリューションズ・
インテグレーター
ソフトウェア・プロバイダー
フィジカル・ロジスティックス・
イネブラー
IT インフラ・プロバイダー
出典:半田純一著(2000)「e 時代の IT マネジメント」
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス 2000 年 6・7 月号(pp.28-40)、p.39
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15
カ ス タ マ
ー・キャリア
ー
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
実際に、e-business を行なっている企業を示す呼称は、色々ある。最も大きな概念を内
包している呼称は、IT 関連企業である。これは、インフラ提供企業や通信会社、パソコン
メーカー、ソフトウェア会社などを含めた、IT に少しでも関係している企業を全て含めて
いる。その他には、ネットの中だけで存在するピュアネット・カンパニーやドットコム・
カンパニーがある。これらは、現在流行の分野であるが、この分野の企業は若手起業家に
よるベンチャー企業が多いことや本業の利益はあげられないで株式からの資金だけで経営
を行なっている企業が多い。このことから、不確定な要素が多く、最近では株価が乱高下
し、ネットバブルを引き起こしているといわれている。
最後に、e カンパニー(e-company)という概念について検討する。この e カンパニーは、
既存の企業が e-business を行なうようになったということを示している。つまり、リアル
な業務とバーチャルな業務を行なっている企業のことである。この e カンパニーの増加が、
e-business に大きな影響を与えた。何故なら、ピュアネット・カンパニーやドットコム・
カンパニーと比較して、より充実した資本を持った大手企業が e-business に参入すること
によって、競争がより激しくなり、企業の統廃合が進むようになるからである。
以上のように e-business を定義し、その定義を踏まえた上で、次章から、e-business の
成長性やその分野における企業経営についての考察を行なう。
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16
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
第2章
村上満大
e-business の現状
この章では、アメリカと日本を中心に e-business の現状把握を行なう。昨今、この分野
のビジネスは急成長しているといわれているが、その特長は変化している。つまり、時間
的な流れや技術的な革新が起こることによって、e-business の性質は変化している。この
性質を把握しなければならない。
そこで、先ず e-business を支えているインフラストラクチャー(社会的基盤)の変遷を
確認する。インフラには、ハードとソフトがあり、その両方のインフラについて検討を行
なう。何故なら、e-business の普及を促進するためには、ハードとソフトの両面からイン
フラを整備することが必要不可欠である。例えば、パーソナル・コンピューター(PC:
Personal
Computer)の機能や利便性や容易性が発達・発展しない限り、PC が企業や家
庭に広く普及することもなく、更に個々の PC をつなぐネットワーク技術が向上しない限り、
日常的に使用されることはなく、ソフトウェアの互換性が無ければ使い勝手が悪く、ビジ
ネス等で使われることは少なくなるであろう。そうなると、e-business を行なう必要性・
インセンティブが薄れ、企業や消費者が様々なビジネスをネット上で行なうことに興味を
示さなくなる可能性もある。
次に、e-business の市場規模や成長性等の現状を把握し、その後、それら歴史的なイン
フラ整備の流れや e-business の現状を踏まえた上で、e-business の発展過程をある一定の
期間で区切り、それぞれの期間の特長をみる。
2.1 ハードインフラの整備
ハードインフラには、実際に人間が使用するコンピュータ等の端末インフラとそれらの
インフラをつなぐ通信インフラがある。これらの要素は、社会の情報化を進める上で、大
変重要な要素である。そこで、それぞれの歴史的変遷と現状を検証する。
2.1.1
端末インフラ
日本において、一般ユーザーがインターネットに接続する際、使用する機器は図 2.1 で明
白なように、圧倒的にパソコンである。現在では、通常パソコンがインターネットにアク
セスする道具として使用されているといえる。
2001/12/14
17
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
そこで、代表的な端末インフラであるコンピュータ、特にパソコンについて検証する。
1940 年代後半から 1950 年代の始めにかけて、アメリカとイギリスからコンピュータ製造
ビジネスが発達し、企業はそのコンピュータをオフィス業務に使うようになった。普及当
初から、業務全般を扱うようなコンピュータの使用方法だったため、コンピュータは、企
業内の全ての情報を一括統治できる大規模なメインフレーム(main frame)49が主流とな
り、ビジネスの中で使用されるようになっていた。しかし、この時点では、コンピュータ
は研究用と業務用としてしか運用できず、一般消費者は使用できなかったため、コンピュ
ータの使用は制限されていた。その結果、コンピュータの出現は企業や研究機関などには
影響があったが、社会全般に与える影響はあまり大きくなかった。
その後、1975 年から、パーソナル・コンピューター(personal computer ; 以後、パソ
コンと表記する)が造られ始めた。そして、1977 年までには、一般消費者向けの製品とし
て市場を確立した。この動きは、パソコン革命と呼ばれ、社会に対するインパクトは大き
かった。最初、パソコンの顧客ターゲットは、一般消費者であり、企業はあまり考慮され
ていなかった。企業の側からも同様に考えられていた傾向がある。しかし、1980 年代に入
って、パソコンはビジネス・マシンとして考えられるようになった。つまり、パソコン導
入によって、企業が経営の効率化や改善を行なうようになったということである。企業、
49汎用コンピューター。つまり、用途を特定しない大型コンピューターのことである。具体的には、運用
保守要員が必要な規模のコンピューターを指す。現在は、サーバーとして使用されている。1996 年の生産
額は約 5.5 兆円で、生産額ではパソコン(1996 年、約 2 兆円)を上回っているが、これはメインフレーム
の単価が高いためであると考えられる。
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18
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
消費者ともに使用するようになって初めて、パソコンが大きな社会的変化を起こすように
なった。
その後のさらなる技術の上昇に伴い、最近ではパソコンをハイテクな製品として扱うよ
りは、家電製品の一つとして考えられるようになり、パソコンの機能を持ったデジタル家
電と呼ばれるものが試験的に製造されている。デジタル家電とは、インターネット接続機
能を備えた家電製品である。例えば、液晶ディスプレイ型パソコンが埋めこまれている冷
蔵庫やインターネットで取り込んだメニューを自動調理する電子レンジなどがある。その
他には、携帯電話がインターネットにアクセスする端末と考えられるようになった。日本
では、この携帯電話が広く社会に普及しており、契約数をみると図 2.2 のようになり、1999
年末には 5,685 万契約に達していて、加入電話の契約数を追い抜いた。そして、2005 年度
には、7,903 万契約に達すると予測されている50。更に、人口に対する普及率を他の国と比
較すると図 2.3 のようになり、世界的にみても高い数値を示していることが分かる。
図2.2 携帯電話と加入電話の契約数
7,000
6,000
︵
5,000
携帯電話・自動車電話及
びPHS
加入電話
︶
万 4,000
契
約 3,000
2,000
1,000
19
末
19
99
99
年
9月
年
年
度
末
末
度
末
98
19
19
97
年
度
末
度
年
96
19
19
95
年
度
末
0
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.9。
50郵政省(2000)
『通信白書
2001/12/14
平成 12 年版』参照。
19
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.3 モバイル通信の普及率
64.9
フィンランド
59.5
ノルウェー
57.8
アイスランド
スウェーデン
54.9
香港
54.9
デンマーク
46.1
イタリア
45.5
韓国
45.1
オーストリア
44.1
ルクセンブルク
43.9
シンガポール
41.4
ポルトガル
41.3
イスラエル
41.2
日本
41.0
36.3
スイス
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
(%)
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.15。
実際のデータを検証してみても、パソコンは社会に広まっていることが分かる。例えば、
パソコンの出荷台数(図 2.4)をみてみると、1999 年には 1,083.2 万台に達し、増加傾向に
ある。1996 年から 1998 年までは、日本経済全体の不況を反映し、伸び悩んでいたが、1999
年には大幅に増え、1,083.2 万台に達している。さらに、1999 年のパソコンの出荷台数が、
家電の代表として考えられているカラーテレビの出荷台数とほぼ同程度になっている(図
2.5)。これは、パソコンが一般的な製品として認識され、更に需要の高い製品であることを
示している。当然、パソコンの世帯普及率(図 2.6)も高い割合を示していて、全国平均で
26.4%である。
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20
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.4 PCの国内出荷台数
1200
1,083.20
1000
809.9 792.4 792.6
800
(万台)
600
400
200
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
0
223.6 217.3 250.3
出所:日本インターネット協会
582.2
編
『インタ
ネット白書』
350
出所:IDC Japan(2000 年 2 月の資料)。
図2.5 パソコンとカラーテレビの国内出荷台数
1,200.0
1,000.0
︵
パソコン
カラーテレビ
600.0
︶
万
台
800.0
400.0
200.0
0.0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
出所:郵政省『通信白書』p.9。
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21
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.6 地域別パソコン世帯普及率(2000年)
九州
中 国 ・四 国
近畿
中部
関東
東北
北海道
全国
28
27
26
(%) 25
24
23
22
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.34。
アメリカのパソコンの世帯普及率は、1999 年には、47.9%に達している(図 2.7)。しか
し、今後、大幅な普及率の上昇は考えられず、5 割前後で動きが鈍化すると予測されている。
日本、アメリカ、そしてその他の主要国とのコンピュータ普及状況比較を行なうと図 2.8 の
ようになり、アメリカが飛び抜けて普及率が高いことが分かる。しかし、ほとんどの主要
国では、パソコンの普及率が 20%を超えていて、世界中でパソコンが一般的に使われ始め
ているといえるのではないだろうか。つまり、ハードインフラは整いつつあるといえるだ
ろう。
図2.7 アメリカにおけるパソコンの世帯普及率推移と予測
51.7
52
50.4
49.3
50
47.9
48
(%) 46
44.2
44
42
40
1998
1999
2000
2001
2002
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.226。
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22
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.8 主要国のパソコン普及率
57
39
31
30
23
24
14
イタ リ ア
フラ ン ス
ドイ ツ
日本
英国
カ ナダ
ア メリ カ
60
50
40
(%) 30
20
10
0
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.243。
2.1.2
通信インフラの整備
直接、ハードインフラをつなげるものは、通信インフラである。通信インフラとは、実
際に通信を行なう際に、情報が通る道のことである。これは、狭義のインフラであると考
えることもできる。通信インフラには、たくさんの種類がある。もっともよく知られてい
るものは、銅線である電話ケーブルによる接続である。このケーブルによって情報を行き
来させる場合、回線容量が低いため、音声や動画をリアルタイムに転送することは難しい。
さらに、煩雑な接続手順が必要なので接続時間が長くなったり、ダイヤルアップ接続を行
なう ISP(Internet Service Provider)に大きな負担が掛かってサービス提供が滞ったり(実
際、1996 年秋、アメリカで AOL がサービスを提供できない状態に陥った)等、インター
ネット接続における問題(インターネットの飽和など)が生じたり、電話線の本来の役目
である電話サービスに支障を来たす危険性があったりするなど、問題が多々発生する。
そこで、新しい通信技術が開発されるようになった。この新しい技術には、主な流れが 3
つある。1 つ目は、既存の電話ケーブルを活かした技術である。例えば、ISDN(Integrated
Services Digital Network)や xDSL(x Digital Subscriber Line)が挙げられる。ISDN は、
電話、ファクシミリ等のサービスを総合的にデジタル網で取り扱う統合デジタルサービス
網のことである。これの特徴は、共通の ISDN プロトコルを使うことによってアナログ網
より高速な回線交換やパケット交換サービスが利用でき、複数の端末が同一のインターフ
ェースに接続することができるので利用者番号を示せば任意の端末と通信ができ、通信端
末にインターフェース・ソケットを差し込むだけで通信ができるということなどである。
このサービスは、日本では NTT が 1988 年より商用ネットワークとして提供し始めた。こ
の NTT が提供した ISDN のネットワークを INS ネットと呼び、契約回線数の推移は、図
2.9 のようになっている。契約回線数は年々増加しているものの、インターネットを接続す
2001/12/14
23
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
る主要な方法における ISDN の割合は、減少している(図 2.10)。そこで、NTT は 1999
年の 11 月から東京、大阪の一部地域で定額制(月額 8000 円)を採用し、2000 年の 5 月か
ら月額料金の引下げ(月額 4500 円)と対象地域の拡大(東京 23 区と大阪府のほとんどの
市が対象)を行ない、ユーザーの獲得を強化している。もう 1 つの技術である xDSL は、
電話用の銅線を利用した高速通信技術の総称である。特徴は、高速でデータ通信ができ、
常に接続ができ、低コストで料金が定額制であることである。
図2.9 INSネットの契約回線数の推移
600
500
︵
400
万
回
線
INSネット64
INSネット1500
合計
300
︶
200
100
0
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
INSネット64
0.7
2.7
8.4
15.7
23.5
33.7
51
103.7
228.6
395.5
507.7
INSネット1500
0.01
0.06
0.18
0.31
0.46
0.65
1.02
2.16
3.36
4.77
6.24
合計
0.71
2.76
8.58
16.01
23.96
34.35
52.02
105.86 231.96 400.27 513.94
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.190。
2001/12/14
24
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.10 インターネットの主な接続方法の割合
モデムによるダイヤルアッ
プ
ISDNによるダイヤルアップ
4%0%
7%
0%
4%
1%4%1%
0%
1%
15%
3%
その他の専用線接続
50%
54%
30%
OCN、ODN等の専用線接
続
無線(FWA)
その他
26%
わからない
無回答
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.190。
*外円が 1999 年、内円が 2000 年のデータである。
2 つ目の流れは、電話ケーブルではない新しいケーブルを使用した通信技術である。代表
的なものには、光ファイバーと同軸ケーブルがある。この同軸ケーブルのみ、又は光ファ
イバーと同軸ケーブルを用いてインターネットにアクセスするネットワークとして、ケー
ブルテレビ(以後 CATV と表記する)がある。CATV のメリットは、同時に使用している
ユーザーの数によるが(回線を多くのユーザーで共有しているため、混んでいる場合は通
信速度が遅くなる)、基本的には通信速度が速く、常時接続ができ、自社回線使用によって
接続料金を安くできる可能性が高いこと等である。問題点は、サービス地域が限定されて
いたり、CATV 内のネットワークとそれ以外のネットワークの通信速度に差があり高速な
通信を実感できなかったり、CATV は多数の人に情報発信を行なうことに向いているため
に、インターネットの双方向からの情報発信という特質を十分に活かせなかったりすると
ころである。日本の CATV 加入契約数の推移は図 2.11 の様になっていて、契約数とサービ
ス提供施設は共に増加傾向にある。そして、CATV ネットワークが発達しているアメリカ
では、ユーザー数は約 11 万人にのぼり、インターネットにアクセスする主要な方法になっ
ている。アメリカでは、TCI などの MSO(Multi Service Operator)が CATV-ISP を設立
し、インターネット接続サービスを提供している。
2001/12/14
25
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.11 ケーブルテレビの加入契約数の推移
1,800
1,581.7
1,600
1,448.2
1,400
1,262.9
︵
1,200
1,025.5
793.6
672.0
︶
万 1,000
契
約 800
600
1,100.5
400
ケーブルテレビの総契約数
自主放送を行う施設の契約数
500.1
314.3
363.7
200
0
1994
1995
1996
1997
1998
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.151。
3 つ目の流れは、無線によるインターネット・アクセスである。その中で、現在、よく耳
にするものは、モバイル(mobile)通信である。具体的には、携帯電話や PHS(Personal
Handyphone System:簡易型携帯電話)がある。日本では、このモバイル通信が広く社会
に普及している。携帯電話の契約者の中でインターネットを利用している人は 14.5%にの
ぼり 51 、携帯電話によるインターネット接続サービス(NTT の i モードと KDDI の
Ezweb/Ezaccess と J フォンの J-スカイの合計)
の契約数と i モード向けの一般サイト数も、
年々増加している(図 2.12)。携帯電話によるインターネット・アクセスは、世界規模でも
大きくなっていて、2000 年末には 1 億 8,200 万人に達し、2005 年には約 12 億人に達する
と予測されている52。他には、無線インターネットや衛星によるデータ通信などがある。無
線インターネットは、2 つにわけられ、FWA(Fixed Wireless Access)と無線 LAN がある。
FWA(日本では、2000 年 7 月からソニーがサービス開始)は、主にビジネスユーザー向け
に提供される、無線でインターネットに直接接続するサービスである。無線 LAN(日本で
は、2000 年 2 月から NTT-ME がサービスを開始)はインターネットに接続されている LAN
の中のハードを無線でつなぐサービスである。NTT の回線に依存していないので、料金が
安価になったり、割り当てられた帯域を独占できること等がメリットである反面、既に使
用されている帯域との干渉の可能性があるという問題点がある。無線インターネットが
徐々に広まりつつあることは、前出の図 2.10 からも分かる。
51日本インターネット協会編(2000)
『インターネット白書』参照。
52英
ARC 社(http://www.the-arc-group.com/ )(2000)’Wireless Internet’を参照。
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26
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.12 モバイルインターネットアクセスサービスの契約者数とiモード一般サイトの推移
700.0
6000
600.0
5000
︵
7000
︵
800.0
200.0
サ
4000 イ
3000 ト
数
2000
100.0
1000
万 500.0
契約数
iモード一般サイト数
︶
︶
契 400.0
約 300.0
3
2
.1
00
20
12
11
9
8
7
6
5
4
10
99
19
3
0
.2
0.0
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.32。
しかし、公共財である通信インフラは、国家が整備の推進を行なわなければ、整備され
にくいという一面がある。そこで、これらの情報の道路を整え、充実させようと各国政府
が各種の情報政策を打ち出している。つまり、政府は国内の高速通信網を整備し、情報の
やり取りを早く、そして質の高いものにして、インターネットの使用環境を改善すること
によって、経済の活性化を図っている。例えば、アメリカでは、NII(National Information
Infrastructure:全米通信基盤)と、GII(Global Information Infrastructure:世界情報
基盤)という二本の柱を基に、情報基盤をつくり、整備を行なっている。NII は、アメリカ
のゴア副大統領が提唱したスーパー・ハイウェイ構想を、正式なアメリカの情報通信政策
として位置づけ、その構築に必要な様々な政策を取りまとめた政府のアジェンダ(行動予
定表)である。スーパー・ハイウェイ構想は、全米に高速・高帯域のデジタル網を構築し、
政府・企業・研究機関・学校・図書館・病院などを結ぶ新しい情報基盤を整備することで
ある。この構想は、「NII 構築 5 原則」53(1993 年末から 1994 年初頭にかけて発表された)
に基づいて、民間主導で進められている。この NII の構想が、1994 年の国際電気通信連合
会の世界会議で GII に発展し、各国に広まった。アメリカの NII や GII に対する考え方に
ついては、1997 年の電子商取引特別調査団による最終報告書である「グローバルな商取引
の枠組み(A Framework for Electronic Commerce)」で示されている。この報告書では、
政府が市場の促進を促す触媒として役割を果たすべきであるという考え方を基にしたイン
53①民間主導②競争体制③柔軟な規制枠組み④オープン・アクセス⑤ユニバーサル・サービス(1996 年改
正通信法では、単に過疎地区でサービスを提供することを指すのではなく、サービスの質も都市部と同等
にすること、更に小中学校・図書館などの公共の施設に対しては、安い料金でサービスを行なうことも含
んだサービスであると定義している)の保障。
2001/12/14
27
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
ターネットとエレクトロニック・コマースに関する政策決定の基本原則54と、国際協力の必
要な分野55について書かれている。アメリカ政府は、この考え方を基本として情報政策を打
ち出している。
日本では、1994 年 8 月に設置された高度通信社会推進本部が中心になり、「日本版情報
スーパー・ハイウェイ構想」を早期に実現することを目標にしている。この構想は、政府、
企業、家庭などを光ファイバー網などの高度情報通信基盤によって結ぼうとするものであ
った。さらに、これを 2010 年までに実現、GII 構想の実現に積極的に取り組むように提言
した意見書(政府の高度情報通信社会推進本部の有識者会議において)が 1994 年 12 月に
発表された。それらを民間主導で実現するために、政府は無利子融資や重点投資などの様々
な優遇政策を行なった。そして、1995 年に基本方針を決定し、1998 年には改定を行ない、
4 つの目標(①電子商取引の本格的な普及、②電子的な政府の実現、③情報リテラシの向上、
④情報通信インフラ整備)と 3 つの原則(①民間主導、②政府による環境整備、③国際的
な合意形成に向けたイニシアティブの発揮)を掲げた。その流れから、例えば、郵政省か
ら「高速デジタルアクセス技術に関する研究会中間報告(案)」(1999 年 10 月)が出され、
それを受けて NTT 東日本と NTT 西日本が xDSL 回線を提供する事を決定した。そして、
NTT のグループ会社、NCC 業者(新電電:New Common Carrier)、xDSL サービス専門
の競争的通信事業者が 1999 年の末から試験的にサービスを開始した。NTT が行なってい
る xDSL サービスは、 ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)と呼ばれ、1999 年
12 月から開始された。ADSL の(試験提供の)加入者数は、2000 年 3 月には 211 人にま
で達した56。今後、更に利用者は増加すると予想される。このように、日本でも通信インフ
ラは民間主導で整備が進み、政府は補助的な政策を打ち出すだけである。
現在、日本の家庭において、インターネットを接続する方法は前出の図 2.10 のようにな
る。この図から、現在最も使用されている接続方法は、モデムによるダイヤルアップ(48.1%)
であり、普通の電話用の銅線ケーブルを使用して、インターネットを行なっている人が多
いことが分かる。以下、ISDN によるダイヤルアップ(25.3%)、OCN・ODN 等の専用接
続(14.9%)、CATV(3.2%)と続いている。さらに、今後 1 年以内の予測をみてみると、
モデムによるダイヤルアップが大きく減少し、代わりに CATV に対する期待が上昇してい
る。近未来的には、CATV によるインターネット接続が重要性を増すと考えられている。
今後はまた、
ADSL 等の新しい高速で低価格な通信インフラに注目が集まると考えられる。
以上のことから考えると、通信インフラは現在整備の途中段階であるが、徐々に整備が進
54①民間セクター主導であること②過度の規制を行なわないこと③政府の介入は予測可能で必要最小限か
つ一貫した簡素な法的環境の支援であること④政府がインターネットの独特な性質を認識するべきである
こと⑤インターネットで行なわれる商取引は国際ベースで行なわれるべきであること。
55金融分野(租税関税・電子支払システム)
、法律分野(e-commerce における統一商業法典・知的所有権・
プライバシー・セキュリティー)、市場アクセス(電気通信規制・コンテンツ・技術標準)の 9 つの分野で
ある。
56日本インターネット協会編(2000)
『インターネット白書』参照。
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28
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
んでいる状態であるといえる。
2.2 ネットワーク・インフラ
ネットワーク・インフラは、3 つに分類することができる。1 つ目は、最も一般的なイン
ターネットである。2 つ目は、企業間取引で良く使用されるイントラネットである。そして、
3 つ目は、イントラネットを発展させた新しい考え方であるエクストラネットである。
これら 3 つのネットワーク・インフラが相互に補完しあいながら、e-business を支える
ネットワークを構築している。
2.2.1
インターネット
まず、インターネットの歴史的な流れをみていく。インターネットは、アメリカで研究
が行なわれ、利用がはじまった。現在のインターネットの前身は、ARPA NET(Advanced
Research Project Agency NETwork)である。これは、軍事通信ネットワークの構築を目
的として、アメリカの国防総省が外部委託して、1969 年から開発が進められていたもので
ある。これは、将来的にインターネットが発展する大きな要因の一つとなったパケット57交
換という技術を用いた世界最初のネットワークであった。その後、ARPA NET は、軍事用
のネットワークと学術用のネットワークに分かれ、学術用のネットワークである NSF NET
(The National Science Foundation NETwork58)が The Internet として現在社会に広く
普及している。インターネットとは、プロトコル(protocol : 基本的通信規約)が TCP/IP
であるネットワークのことである。このインターネットが飛躍的に普及する要因になった
のは、1994 年に始まった WWW(World Wide Web)59である。これは、インターネット
で行われていた各種機能(FTP、WAIS、Net News、Gopher 等)を統合し、利用可能にす
ることによって、インターネットを分散型データベースシステムに構築することを意図し
ていた。この技術革新のポイントは、テキスト情報だけでなく、音声、静止画、動画のデ
ータを取り扱えること、チャットやビデオ会議などの同時双方向的な使用方法を実現でき
るということである。さらに、WWW は規定している部分が少ない(マルチメディアの識
別子60とマルチメディア・ドキュメントをサーバーとクライアントで転送するメカニズム61
のみ規定)ために、普及速度が高まり、その結果インターネットの普及も加速している。
現在では、インターネットの捉え方は変化しつつある。アメリカでは、電子商取引特別
57packet
; 情報を小包のようにまとめて伝送するデータ伝送の 1 方式。(井上・沖著(1989)、『ネットワ
ーク・情報用語辞典』、p.150 より引用)
58大学の研究者が強力なスーパー・コンピューター資源を利用できることを目的とした、アメリカの代表
的な広域向けネットワーク。
(井上・沖著(1989)、『ネットワーク・情報用語辞典』参照)
59ジュネーブにある CERN 高エネルギー物理学研究所で 1989 年に考え出された。文書にマルチメディア
要素を組み込んだハイパーテキスト・システムで、ユーザーがインターネット文書から別に文書に飛び移
るネットサーフィンを可能にした。ページ記述言語は、HTML(Hyper Text Markup Language)である。
60ドキュメントがテキストか、イメージか、あるいはムービーであるかということを示すもの。html、gif、
mov、pdf、zip 等がある。
61具体的には、http、ftp、gopher 等がある。
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29
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
調査団の最終報告(1997 年 7 月 1 日)62から分かるように、GII をインターネットと事実
上同一視していて、インターネットは情報社会の基盤をなす高度情報通信システムとして
捉えるようになっている。インターネットは、単なる特定のネットワークのあり方を指す
だけでなく、もっと大きな通信システム全体を指す用語として考えられるようになってい
る。
次に、現在のインターネットの普及率について検証する。インターネットは、世界中で
普及し始めている。全世界のインターネットユーザー数63は、1999 年で約 1 億 9,600 万人
に達し、2003 年には 5 億人以上になると予測されている64。別の資料では、図 2.13 のよう
になり、2000 年 2 月時点で、2 億 7,600 万人になっている。1998 年時点で、世界の人口が
約 60 億人であるので65、全世界の約 3%の人がインターネットユーザーであるといえる。地
域別にインターネットユーザー数をみてみると図 2.14 のようになり、アメリカが突出して
いることが分かる。しかし、インターネットのユーザー数の伸び率は表 2.15 のようになり、
アジア太平洋地域と南米などの地域の伸び率は高く、今後アメリカとの格差は小さくなる
と予測される。国別にインターネット普及率をみると図 2.16 のようになり、北欧の国々が
高い数値を示している。このことから、アメリカだけでインターネットの普及が進んでい
ると考えるのは、疑問である。そこで、以下では、国や地域ごとにインターネットの現状
をみていく。
図2.13 世界のインターネット人口
300
250
︵
200
百
万 150
人
100
276
︶
201
147
50
26
55
74
1995
1996.12
1997.9
0
1998.9
1999.9
2000.2
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.13。
62"A Framework
for Global Electronic Commerce" http://www.whitehouse.gov/WH/New/Commerce
63ユーザー数は、プロバイダー契約者や学校・企業等で使用しているユーザーを含めているので、重複の
可能性がある。
64『NEWS WEEK 日本版』1999.11.10 号、p.47 参照。
65国連(1997)
『国連中位推計』参照。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.14 地域別インターネット利用者数の推移とシェア
350.0
300.0
250.0
その他の地域
南アメリカ
アジア太平洋地域(日本を除く)
日本
ヨーロッパ
カナダ
アメリカ
200.0
(百万人)
150.0
100.0
50.0
2 0 0 2年 末
2 0 0 1年 末
2 0 0 0年 末
1 9 9 9年 末
1 9 9 8年 末
1 9 9 7年 末
0.0
出所:日本インターネット協会(2000)『インターネット白書』
表2.15 地域別インターネット利用者の伸び率
1998年 1999年
アメリカ
157.0% 131.4%
カナダ
179.2% 223.3%
ヨーロッパ
153.7% 150.5%
日本
162.5% 128.0%
アジア太平洋地域(日本を除く)
207.1% 186.2%
南アメリカ
250.0% 153.3%
その他の地域
216.7% 123.1%
全世界
162.8% 144.8%
2000年
114.1%
131.3%
130.3%
123.5%
151.9%
152.2%
150.0%
126.0%
2001年
111.3%
117.5%
116.0%
116.4%
139.0%
140.0%
145.8%
118.8%
2002年
107.4%
108.1%
111.0%
110.3%
128.1%
142.9%
142.9%
113.7%
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.220。
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31
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図 2.16 世 界 の 国 ・地 域 の イ ン タ ー ネ ッ ト 普 及 率
45.0
アイ スラ ン ド
44.3
スウ ェ ー デ ン
42.3
カ ナダ
41.3
ノルウ ェ ー
39.4
アメリカ
36.4
オー ス トラ リ ア
34.0
デ ン マー ク
32.0
フィン ラ ン ド
24.0
オラ ン ダ
23.7
イ ギ リス
23.0
スロ ベ ニ ア
21.7
台湾
21.4
日本
21.3
韓国
19.6
ベルギー
17.0
アイ ル ラ ン ド
16.2
スイ ス
15.9
イ タリア
15.5
ニ ュ ー ジー ラ ン ド
15.0
ドイ ツ
14.7
シン ガポ ー ル
13.4
香港
12.9
フラ ン ス
10.8
イ スラ エル
10.0
エ ス トニ ア
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
(% )
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.10。
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32
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.17 日本のインターネット普及率と利用人口
9000
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0 %
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
8000
7000
︵
︵
6000
︶
︶
万 5000
人 4000
3000
2000
1000
0
1995 1996 1997 1998 1999
利用者数
企業普及率
事業所普及率
世帯普及率
2005
出所:郵政省(1999)『通信白書』p.2。
まず、日本におけるインターネットの普及率と利用人口をみてみると図 2.17 のようにな
り、2005 年には利用者は 7,670 万人になると予測されている。普及率についてみてみると、
企業普及率は大変高く、ほぼ全企業がインターネットを使用していることになる。この普
及率は、他の情報通信メディアと比較して、すごいスピードで伸びていている。インター
ネットは今後もっと広く普及すると予想される(図 2.18)。さらに、別の調査(図 2.19)で
は使用場所や使用機器によって分類したインターネットユーザー数は、2000 年 2 月の時点
で全ユーザー数が 1937.72 万人にのぼり、家庭、勤務先・学校両方からインターネットを
利用している人が増加傾向にあることを示している。このことから、インターネットがイ
ンフラとして、家庭や企業などに広く普及していることが分かる。そして、インターネッ
ト利用者を性別と年齢別に分類してみると図 2.20 のようになる。男性の方が少し多く、利
用者の大半は、20 代・30 代の人である。こうした傾向はあるが、社会の一部の人だけがイ
ンターネットを利用しているというほどでもなく、インターネットが一般的になっている
といえるのではないだろうか。
2001/12/14
33
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.19 日本国内のインターネット利用者推移
2500
︵
2000
366.4
1500
589.8
︶
万
人
3
1000
500
350.2
99.5
122.1
6
410
11
390
勤務先・学校からの利用者
746.8
830
975
821.5
844
884
287.5
548.9
209.9
251
631.2
モバイルのみの利用者(2000年∼)
家庭、勤務先・学校両方からの利用
者
家庭からの利用者
20
00
年
6月
(推
20
計
00
)
年
12
月
(推
計
)
年
2月
調
査
20
00
年
2月
調
査
19
99
年
2月
調
査
98
19
19
97
年
2月
調
査
0
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.32。
2001/12/14
34
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.20 性別・年齢別にみたインターネット利用者
42.2%
男性
女性
57.8%
60.0
50.7
50.0
40.0
︵
39.9
35.5
30.0
男性
女性
28.9
︶
%
21.4
20.0
10.0
0.0
7.6
3.5
1.9
10代
20代
30代
40代
6.7
2.0
50代以上
1.1
0.6
無回答
出所:郵政省(2000)『通信白書』(「インターネットユーザー調査」により作成)p.21。
次に、日本人がインターネットに対して評価している点は、情報誌のような情報検索機
能や手紙のような通信機能であり、インターネットをパーソナル・メディアとして位置づ
けている66。そして、インターネットの接触率(今までに使用したことがある人の割合)は
あまり高くないが、利用者は日常的に使用する傾向にあり67、利用者が増加するとインター
ネットは爆発的に広まり、一般的なメディアになると考えられる。つまり、日本では、イ
ンターネットは日常性が高いパーソナル・メディアとして考えられていて、現在普及率が
高まりつつあり、より一般化してきたといえる。
66NHK
放送文化研究所(1999)「新メディアの利用と情報への支出」『放送文化と調査』1999 年 5 月号、
pp.32-51 参照。
67同上
2001/12/14
35
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.21 アメリカのインターネット利用者推移予測と男女比
120.0
100.0
80.0
(百万人)
40.0
20.0
0.0
44.6
35.7
60.0
52.9
58.0
女性
男性
22.6
10.3
42.1
30.9
1997年末
1998年末
55.1
52.4
49.3
1999年末
2000年末
2001年末
58.0
2002年末
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.224。
表 2.22 性別と年齢層別のアメリカのインターネットユーザー
年齢
5-19歳
20代
30代
40代
50代
60代
70代
80歳以上
男性
27.8%
22.6%
20.5%
15.4%
11.4%
1.8%
0.3%
0.2%
女性
25.1%
21.7%
28.6%
14.1%
8.7%
1.4%
0.3%
0.1%
全体
26.6%
22.2%
23.9%
14.9%
10.2%
1.6%
0.3%
0.2%
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.224。
次に、インターネット先進国といわれるアメリカの現状を検証してみる。インターネッ
ト利用者と男女比の推移は図 2.21 のようになり、2002 年末に 1 億 1600 万人になると予測
されているが、年々伸び率は鈍化し、安定期に入ったといえる。普及率は、1999 年時点で、
39.4%である68。同時に、2002 年には男女比も同じになると予測されており、社会に広く普
及していこうとしている。年齢比は、表 2.22 のようになり、若年化の傾向がある。さらに、
インターネットは、他のメディア(テレビ等)を視聴することの代替方法として考えられ
ており、夜 10 時の CNN や CNBC の視聴者よりも多い、約 100 万人が AOL に接続し、ネ
ット・サーフィンを行なっている69。アメリカでは、日常的なメディアとして広く使用され
68郵政省(2000)
『通信白書
平成 12 年版』参照。
69日本経済新聞社主催の「米国コンシューマー向け電子商取引の最新事情」
(http://nikkei.hi-ho.ne.jp/ec )というセミナーのトム・ハーダート氏による「AOL の考える E コマー
2001/12/14
36
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
ている。
ヨーロッパの国々のインターネット普及率は、図 2.23 のように、普及率、特に企業の接
続率はアメリカや日本と比べると低い状態である。アジア各国のインターネット利用者の
推移と普及率は、図 2.24 であるが、日本以外の国で利用者が加速度的に増加し、普及率も
高くなりつつある。
図2.23 主要国のインターネットの普及状況
90
80
70
60
50
%
40
30
20
10
0
78
75
68
65
62
︵
︶
37
36
34
26
7
タ
リ
ア
4
イ
フ
ラ
ン
ス
ツ
10
ドイ
本
11
日
ス
リ
ギ
イ
カ
ナ
カ
ダ
16
リ
メ
ア
企業のインターネット接続
率
国民のインターネット普及
率
出所:通産省(各種資料を元に通産省が作成)。
スの現状と将来」の基調講演の資料を参照。
2001/12/14
37
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.24 アジア太平洋地域のインターネット利用者数推移と予測
120.0
100.0
80.0
73.0
(百万人)
60.0
41.0
40.0
27.0
14.5
20.0
0.0
アジア太平洋地域(日本を除く)
日本
57.0
7.0
8.8
18.3
14.3
1997年末
1998年末
1999年末
26.3
22.6
2000年末
2001年末
29.0
2002年末
アジアのインターネット普及率
31.7%
オーストラリア
28.7%
シンガポール
26.7%
26.4%
香港
ニュージーランド
18.1%
台湾
14.1%
日本
8.0%
韓国
3.8%
マレーシア
タイ
1.6%
中国 0.6%
フィリピン 0.6%
インド0.2%
インドネシア0.1%
ベトナム0.1%
0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
35.0%
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』pp.234-235。
以上のように、現在、世界的にインターネットの普及が進んでいる。今後、アジアや南
米を中心に急激に普及すると予測され、インフラとして更に充実していくと考えられる。
2.2.2
イントラネット
次に、イントラネットの普及について、考察する。イントラネットとは、インターネ
ットの技術を応用したネットワークである。イントラは、‘内部’という意味で、LAN(Local
2001/12/14
38
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
Area Network)70をファイアー・ウォール(ネットワーク防護壁)によって閉じたネット
ワークにしながら、インターネット技術に依存したアプリケーションを利用し、インター
ネットに接続するネットワークである。具体的な条件としては、通信プロトコルに TCP/IP
を利用していること、情報伝達の方法に少なくとも 1 種類のインターネット標準を採用し
ていること、企業や特定の組織内で使用するために構築され外部から部外者がアクセスで
きない情報やサービスがあること、という 3 つがある。つまり、標準化された共通のプラ
ットフォームを使用し、情報を共有することによって、企業の業務・経営改善を達成する
ことができる。例えば、自社が持っていない資源に関しては、アウトソーシングしたりす
ることによって、重要な事業に集中的に投資でき、経営資源を有効に活用できたりする。
さらに、インターネットのオープン性によって、イントラネットの導入は、ソフトウェア
等を安価で購入できることによるコスト削減の実現を可能とし、また他方で共通したアプ
リケーションを使用しているために管理しやすいというメリットを持っている。
このイントラネットの導入はアメリカが進んでいる。1994 年頃からイントラネットの構
築に傾斜し始めた。フォーチュン 1,000 社の内の 50 社に対するアンケートを行なった結果、
対象企業の 42%が既にイントラネットを構築済みか構築中で、導入検討中の企業を含めた
ら 70%に達していることが分かった71。日本では、1995 年から広く導入されるようになっ
た。日経産業新聞(1996 年 11 月 29 日付け)によれば、1997 年中に日本の大企業の 4 割
がイントラネットを導入しようとしていると報告されている。別の調査では、2000 年の時
点で、イントラネットを既に構築している企業は、54.6%にのぼり、LAN に関しては、構
築済みの企業が 88.4%に達していると報告している72。この様に、イントラネットは企業の
情報システムとして、広く普及している。
2.2.3
エクストラネット
エクストラネットは、インターネットを活用して、イントラネットを結合したもので
ある。専用線による企業間の WAN(Wide Area Network)を、インターネットによって結
ぶ、VPN(Virtual Private Network:仮想専用ネット)の一つの形態であると考える場合
もある。エクストラネットは、本社と支社間や、グループ企業間、資材調達や営業等の情
報を提供する企業とそれにアクセスする企業間において、情報を共有し、業務革新を進展
させる。例えば、個々の社員が携帯端末や自宅からアクセスできるシステムを構築し、業
務支援を行なえば、業務のあり方や効率が変化したり、限定された企業に限定された社内
情報を提供できたりするので、ネット上での公開入札による企業間連携や、気密性の高い
データのやり取りができ、CAD やオンライン発注によるコストが削減され、時間・資源の
節約になると考えられている。このネットワークを構築するためには、情報の分類は必要
70公衆回線とは別に自社のために構築されるネットワーク。
71フォレスターリサーチ社による調査。
72日本インターネット協会編(2000)
『インターネット白書』参照。
2001/12/14
39
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
不可欠な条件で、イントラネットでみられる情報とエクストラネットでみられる情報との
間にもう一つのファイアー・ウォールを構築しなければならない。つまり、イントラネッ
トの整備がしっかり行なわれていなければ、エクストラネットの構築が上手くいかない。
その点をしっかりと踏まえた上で、エクストラネットの導入を行なわなければならない。
具体的な例としては、
「トヨタデジタルクルーズ」という子会社を設立し、トヨタグルー
プ 900 社のイントラネット・エクストラネット構築を始めたトヨタや、販売ディーラーを
含めたエクストラネットの構築を進めている日産や、取引先のコスメティックハウス(化
粧品販売店)200 店を対象にしたイントラネット・エクストラネットを活用した経営支援シ
ステムを構築した資生堂や、大学図書館向けにエクストラネットを構築した紀伊国屋書店
や、日本総合研究所が石川島播磨重工業、横河電気等 10 社と進めている仮想企業体(バー
チャル・コーポレーション)である省エネルギーサービス会社 FESCO(First Energy
Service Company)等がある。
2.3 ソフトインフラの整備
ソフトインフラには、様々なものがある。単純にパソコン等を動かすソフトウェアや
企業を規制したりする法律・制度や、国際的な流れ等が考えられる。
ソフトウェアの面では、パソコンを動かす基本的な OS(Operation Software)である米
マイクロソフト社(以下、マイクロソフトと表記する)の Windows95 の発売(1995 年 8
月 24 日)が大きな影響を与えた。この OS は、デファクト・スタンダードになり、市場を
席巻した。その結果、ユーザーが共通した OS を使用することによって互換性が高まり、利
便性が向上した。さらに、個人でインターネットを行なう際のブラウザー(browser)に関
しては、マイクロソフトの Internet Explore が 60.2%を占めていて、一人勝ちの状態であ
る73。このようにソフトウェアの世界では、標準化が一面で進んでいるが、法(独禁法)規
制にもとづくマイクロソフトの分割や、マイクロソフトに対抗するグループ(Linux 等)の
台頭などにより、今後競争が激しくなると予測される。
次に、法律・制度の面を検証してみる。アメリカでは、NII を実現することを目的にした
電気通信法の改正が 1996 年に行なわれた。この改正により、地域電話会社の競争促進、ベ
ル系地域電話会社の長距離市場への参入の認可、ユニバーサルサービスの定義、放送事業
に対する規制緩和、CATV に関する改革、ポルノおよび暴力に対する規制が行なわれてい
る。この通信法改正は、市場に競争原理を導入し、市場を活性化させることを目的として
いる。日本では、有害なコンテンツ規制、セキュリティ、知的財産権等についての法律が
公布されている。当然アメリカでも、これらに対する法律は制定されている。
世界的な流れとして、WTO では、WTO 加盟国の間では e-commerce に対して無関税に
する暫定合意がある。そして、WTO は同時に消費者保護などの国際的なルールを作ろうと
73インターネット協会編(2000)『インターネット白書』参照。
2001/12/14
40
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
しており、知的所有権についても扱っている。
法律・制度の面からみてみると、競争の促進と個人の保護など人や企業を守るための法
律や制度が同時に整備されている事が分かる。同時に、世界規模でも同様なことが起こっ
ている。
2.4
e-business の市場規模・成長性
世界の e-business 全体の市場規模は 1998 年時点で 3,014 億ドルに達していて、1999 年
には 5,070 億ドルになると予測されている74。B to B と B to C を足した市場規模は、図 2.25
のようになり、世界市場は更に大きくなると予測されている。地域別にみると、依然とし
て北米地域の市場が大きいが、各地域は市場が大きく拡大し、格差は縮小する傾向にある。
他の調査では、B to B と B to C を足した市場規模は、図 2.26 のようになる。1999 年時点
で 983 億ドルに達し、2002 年には 9,370 億ドルに達すると予測されている。3 年間で約 10
倍になり、今後も大きく伸びると考えられている。そして、B to C 市場より、B to B 市場
が急激に発展していくと考えられる。
74米シスコシステムがテキサス大学電子コマース研究センターに依頼した調査、
’Internet
Indicators’(http://www.InternetIndicators.com)を参照。
2001/12/14
41
Economy
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図 2.25 Worldwide e-commerce (including B to B and B to C) Growth
2001/12/14
42
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図2.26 世界のB to CとB to Bの市場規模
1999
102.8
834.2
B to C
B to B
2002
22.276.1
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
(10億ドル)
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.227。
2.4.1
B to C 市場
世界の B to C の市場規模は、アメリカの証券会社であるモルガンスタンレーのレポート
(1997 年 5 月発表)によると、2000 年の電子商取引は低くとも 210 億ドル、高ければ 570
億ドル、中間の場合でも 350 億ドルに達すると予測している75。そして、より急激に伸びる
分野は、①保険、②金融サービス、③コンピュータ(ハードウェア・ソフトウェア)、④旅
行、⑤書籍、⑥音楽・ビデオ、⑦花・贈り物、⑧乗用車の順になっていて、逆にあまり伸び
ない分野としては、①玩具、②家庭大工用品、③アパレル、④スポーツ用品、⑤趣味の収
集品、⑥食品、⑦家庭電気製品の順になっている。つまり、バーチャルで取引することに
適合する分野と適合しない分野が明確になると予測している。米データクエスト社の調査
(1999 年 10 月)によると、1999 年時点で 312 億ドルに達し、2003 年には 3800 億ドルに
なると予測していて、モルガンスタンレーの中間予測とほぼ同じ予測をしている。
日本の B to C 市場の規模は、電子商取引実証推進協議会(ECOM:通産省の外郭団体)
とアンダーセンコンサルティングによる共同調査によると図 2.27 の様になっている。1998
年から 1999 年の間に 5 倍以上の伸びを示している。購入商品では、1998 年には、PC が最
も多かったが、1999 年には自動車、不動産が最も大きな市場になっている。しかし、1999
年においては、購入商品が分散化していて、1998 年のように一部の商品に偏った市場では
なくなってきていることが分かる。そして、時系列に市場規模の推移をみると図 2.28 のよ
うになる。2004 年には、6 兆 6,620 億円に達し、購入商品の分散化が進むと予測されてい
る。全購入商品の中に占める各商品の割合の推移をみると図 2.29 のようになり、コンピュ
ータの割合は減少し、書籍や食品等の割合が増加している。
75フォレスターリサーチ社と異なり、金融や保険を含めている。
2001/12/14
43
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図 2.29 全購入商品の中に占める各商品の割合の推移
1998
PC
書籍・C D
衣類
食料品
趣味
ギフト
その他物品
旅行
エンタテイメント
自動車
不動産
金融
サービス
02%
% 3%
2%3%
13%
40%
合計 645 億円
9%
1%
5%
6%
11%
5%
1999
5% 3%
PC
書籍・C D
衣類
食料品
趣味
ギフト
その他物品
旅行
エンタテイメント
自動車
不動産
金融
サービス
15%
2%
4%
26%
合計 3,360 億円
5%
3%
0%
3%
7%
1%
26%
出所:ECOM・アンダーセンコンサルティング(2000 年 1 月)
「日本の消費者向け(B to C)電子商取引市場」。
通産省の「インターネットコマース調査」(2000 年 1 月)によれば、1999 年時点では、
市場規模が 3,500 億円に達し、2005 年には 7 兆 1,289 億円になると予測されている。
更に、
ネット完結型 B to C と非ネット完結(活用)型 B to C とを分類して、市場規模をみてみる
と、ネット完結型 B to C の市場規模は約 1,400 億円で、非ネット完結型の市場(約 2,000
億円)の方が、市場規模が大きい状態である76。
次に、消費者の行動について考察する。ネットで商品を購入したことのある消費者は、
76ECOM・アンダーセン・コンサルティング(2000)
『日本の消費者向け(B
2001/12/14
44
to C)電子商取引市場』参照。
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
1995 年の 10%から 1999 年の 55.8%へと急激に経験者が増え77、1999 年時点では 1 年間に
B to C 市場を利用する回数も 1 回が最も多く(20.4%)、次に 2 回(19.4%)、3 回(15.8%)
と続いていて、更に 4 回以上利用する消費者(合計で 38.5%。1997 年では、13%であった。)
が増加していて78、利用頻度も上がってきている。さらに、リアル・ショップで商品を購入
する際にも、ウェブサイトを参考にしている人も増えていて79、リアルとバーチャルの連動
が行なわれている。
アメリカの B to C 市場は、1996 年には 5.18 億ドルに、そして 1997 年の時点での取引
高は 24.44 億ドルに達し、2000 年には、120.90 億ドルになると予測されている80。他の資
料によると、1999 年時点で 340 億ドルに達し、2003 年には 1,774 億ドルになると予測さ
れている81。また、AMI(Access Media International)の発表では、市場規模が 1999 年
時点で 178 億ドルに達していて、2002 年には 628 億ドルに達すると予測されている。この
様に、資料により数値は異なるが、大きな流れとしては、今後大幅に B to C の市場規模が
大きくなると予測されている。
次に、分野別にアメリカの購入商品をみてみる。アメリカの消費者がウェブ上で購入し
ている商品の内訳は、表 2.30 のようになり、1997 年から 2000 年の予測の間に順位変化が
起きている。アパレルの順位が落ち、書籍・CD の順位があがっていて、前出したモルガン
スタンレーの世界 B to C 市場の分野別予測とほぼ同様に考えていることが分かる。
表2.30 アメリカのオンラインショッピングの伸び 単位(億ドル)
ハードウェア・ソフトウェア
旅行斡旋
娯楽
書籍・CD
贈り物
アパレル
食品
宝飾品
スポーツ用品
家電
その他
総計
1997
8.63
6.54
2.98
1.56
1.49
0.92
0.90
0.38
0.20
0.19
0.65
24.44
2000
29.01
47.41
19.21
7.61
5.91
3.61
3.54
1.07
0.63
0.93
1.97
120.90
出所: Forrester Research,(October 1997), "Retail Revs Up".
77MIN 第 9 回アンケート「買い物行動とインターネット・ショッピングに関するアンケートⅢ」
(情報通
信総合研究所、 http://www.commerce.or.jp 、1999 年 11 月)参照。
78同上
79「第 9 回インターネット・アクティブ・ユーザー調査」
(『日経ネットビジネス』日経 BP 社、2000 年 2
月号)参照。
80Forrester Research(October 1997), ‘Retail Revs up’参照。
81IDC 社による調査。
2001/12/14
45
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
ヨーロッパ(EU:Europe Union)の B to C 市場の規模は、2000 年に 0.9 兆円になり、
2004 年には 23.2 兆円に達すると予測されている82。つまり、EU でも市場が今後大幅に拡
大すると考えられている。
確かに、B to C 市場は今後急激に拡大すると考えられるが、小売業全体の売上げからみ
ると、あまり大きなシェアを占めていない。例えば、アメリカの小売業全体の売上高は、
1996 年が約 2.5 兆ドルで、2000 年は 2.7 兆ドルと予測されている83。しかし、フォレスタ
ー・リサーチ社の資料の数値から計算すると、1997 年の B to C 市場の小売業全体に占める
割合は 0.02%であり、2000 年でも 0.4%である。しかし、年々全体に占める割合も高まり、
単純に数字から B to C が、小売業に与える影響が低いと捉えるのは、短絡的であるといえ
るのではないだろうか。
2.4.2
B to B 市場
図2.31 世界のB to B市場
834.2
2002
1999
0
76.1
200
400
600
800
1000
(10億ドル)
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』。p.227
世界の B to B 市場は、図 2.31 のようになり、2002 年には 8,342 億ドルに達すると予測
され、1999 年と比較すると約 10 倍に拡大し、2002 年の世界 B to C 市場の約 8 倍にのぼ
ると考えられている。1998 年時点では、米データクエスト社は 120 億ドル(金融市場 1,000
億ドル以上を除く)、IDC 社は 800 億ドルと報告している。2003 年の予測としては、IDC
社は 1 兆 1,000 億ドル、投資銀行 Bank Boston Robertson Stephens は 1 兆 7000 億ドルと
発表している。この様に、世界的な B to B 市場は大幅に拡大し、B to C 市場よりも急激に
大きくなると予想される。
82通産省の資料を参照。
831996
年の数値は、WEFA が連邦統計局のデータから試算し、2000 年の数値は大統領経済報告によるア
2001/12/14
46
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
表2.32 主要業種別にみた1999年のインターネットコマース中間財市上市場規模
業種
製造業
(内)自動車
(内)電機
卸売・小売業
運輸・通信
建設業
その他
合計
市場規模
14兆2,509億円
(11兆4,413億円)
(2兆5,483億円)
393億円
379億円
289億円
728億円
14兆4,298億円
出所:郵政省(2000)『通信白書』p.37。
日本の B to B 市場をみてみる。郵政省の『通信白書』では、インターネットコマース中
間財市場(B to B 市場から最終消費財である事務用品や仕事で使用する航空券等を引いた
もの)の規模が 1998 年に 2 兆 4,314 億円になり、1999 年には 14 兆 4,298 億円になったと
報告している84。その市場を、主要な業種別の内訳を示すと表 2.32 のようになる。成熟産
業である自動車産業の取引高が非常に高い数値を示している。更に、郵政省はインターネ
ットコマース中間財市場が 2005 年に 103.4 兆円に達する、つまり、6 年間で市場規模が、
約 7 倍になると予測している。今後、既存の企業の e 化が進むに従い、更に企業間取引の e
化の動きが加速すると考えられる。
アメリカの B to B 市場は、1998 年時点で約 430 億ドルになり、2002 年には 3,270 億ド
ルに、そして 2003 年には 1 兆ドルに達すると予測されている85。AMI の調査では、1999
年時点で 529 億ドルに達し、2002 年時点で 3,873 億ドルに達すると予測している。どちら
にしても、5 年で 10 倍以上、3 年で 7 倍以上 B to B 市場が拡大すると考えられていて、非
常に有望な市場である。
EU の B to B 市場は、2000 年時点で 7.4 兆円に達し、2004 年に 132 兆円になると予測
されている。日本、アメリカ、そして EU を比較すると表 2.33 のようになる。1998 年時点
では(EU は 2000 年時点)アメリカの市場規模が大変大きく、EU の出遅れがみられるが、
2003 年(EU は 2004 年)には、市場規模の格差が縮小している。
メリカの経済成長率(年率約 2%)をもとに計算された値である。
84郵政省(2000)
『通信白書 平成 11・12 年版』参照。
85調査会社フォレスターリサーチによる調査参照。
2001/12/14
47
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
表2.33 日欧米の電子商取引の市場規模予測
(2003/EUは2004年)
日本
年
B to C市場
B to B市場
1998
2003
0.065兆円 3.16兆円
8.6兆円
68.4兆円
アメリカ
1998
2003
2.25兆円 21.3兆円
19.5兆円 165.3兆円
EU
2000
2004
0.9兆円 23.2兆円
7.4兆円 132兆円
出所:日本インターネット協会編(2000)『インターネット白書』p.244。
以上のような主要な国のみではなく、アジア、南米諸国などが今後市場を拡大すること
が予測されるので、B to B 市場の重要性が急激に高まると考えられる。
2.4.3
その他の e-business 市場
その他の e-business 市場の現状を、検証する。最近、特に日本で注目されているのが、
携帯電話を使用したモバイル・ビジネスである。モバイル・ビジネスには、モバイル・コ
マース市場86とモバイル・コマース関連ビジネス市場87の 2 つがある。このモバイル・ビジ
ネスの市場規模は、1999 年が 6 兆 3,958 億円で、2005 年には 31 兆 2,500 億円に達すると
予測されている88。1999 年から 2005 年の間に約 26 倍も拡大すると予測しているというこ
とになる。日本は、携帯電話の契約数や、携帯電話によるインターネット接続が多いので、
この市場は、更に発展する可能性が高く、この分野の競争が激しくなると考えられる。
他には、インターネット関連ビジネス89がある。これは、簡単にいうと、インターネット・
ビジネスのうち、最終消費財市場と中間財市場を除いたものである。この市場は、1999 年
の 14 兆 4,000 億円から 2005 年の 103 兆 4,000 億円になり90、1999 年から 2005 年の間に
約 5 倍になると予測している。特に、インターネット構築関連市場が、約 10 倍(1999 年、
17,558 億円→2005 年、174,687 億円)も拡大している。
2.5 時期を区切る(創成期、成長期、成熟期)
以上のように、e-business の現状を踏まえた上で、一定の期間で区切り、時期ごとの特
86NTT
ドコモグループの「i モード」等、マイクロブラウザ内蔵の携帯電話・PHS 又は携帯情報端末(単体)か
ら、C-HTML 等の言語で記述されたインターネット上のコンテンツにアクセスして有料情報の提供を受け
たり、商取引を行なう市場。
87モバイル・コマースに関連して発生する端末、通信料金、移動通信事業者が提供するインターネット接
続サービスの利用料等の市場。
88郵政省(2000)
『通信白書』参照。
891)インターネット・サービス・プロバイダ(ISP: Internet Service Provider)等のインターネットへのゲー
トウェイを提供するビジネスに係る「インターネット接続ビジネス市場」、2)インターネットに接続される
コンピュータ等の端末機器市場である「インターネット接続端末市場」、3)ネットワーク構築に必要なサー
バー、ルーター等のハードウェア、管理運用サービス、ソフトウェア市場である「インターネット構築関連
市場」、4)その他インターネットの普及により拡大した、通信料金、広告等の「インターネット周辺ビジネ
ス市場」、の 4 つに分類される。
90郵政省(2000)
『通信白書』参照。
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48
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
徴を考察していく。
そのための一つの物差しとして、ロジャース(ベレット・M・ロジャース)の普及論を取
り上げる91。この考えは、普及率が 16%を超えると普及の度合いが急激に上昇するという仮
説にもとづいている。ロジャースは、先ず消費者を 5 つに分類した。それは、①革新者(イ
ノベーター:2.5%)、②初期少数採用者(オピニオンリーダー: 13.5%)、③初期多数採用
者(アーリーマジョリティー: 34%)
、④後期多数採用者(レイトマジョリティー:34%)、
⑤伝統主義者(ラガード:16%)の 5 つである。ロジャースは、②の人が使い始めると普
及率が急激に上がると考えている。つまり、累積度数でグラフを描くと S 字状になるので、
「S 字状カーブ」の普及と呼んだ。そこで、16%より前を創成期、それ以後を成長期、そし
て勾配が緩やかになる所を成熟期と呼ぶことにする。
この物差しを使って、e-business の最も重要なインフラであるインターネットをみてみ
る。日本は、1999 年時点で図 2.17 のようになり、企業に関しては成熟期、事業所、一般世
帯は成長期にある。このことから、今後急激に普及が進む可能性が高いと予測される。ア
メリカでは、1999 年時点で 39.4%であり、成長後期と考えられ、普及率の増加は今後鈍化
する。
他の見方では、新しいインターネットとそれに伴う新標準などの出現が、第 2 世代に突
入した証であるとする意見もある92。この動きは、アメリカで始まった。1997 年のアメリ
カのクリントン大統領による演説が発端となって、国家プロジェクトへと発展した。そし
て、組織化された次世代インターネット・イニシアティブ(Next Generation Internet
Initiative)を公表した。これは、インターネットを中心とした情報通信技術の主導権を握
ることによって、新たな雇用機会とビジネスチャンスを作り出すことを目的としている。
具体的には、第 2 世代のインターネットとは、アメリカで行なわれている 2 つのプロジェ
クトのことを指す。一つは、政府主導の NGI(Next Generation Internet)93で、もう一つ
は大学主導の Internet294である。この 2 つのプロジェクトは互いに協調関係を持って進め
られている。これらのネットワークは、高速高帯域デジタルネットワークを構築し、音声、
データ、画像、動画などを統合的に扱う技術である。
日本における第 2 世代インターネットに対する動きとしては、郵政省95や NTT96によって
91「カバーストーリー
Take Off!ネットビジネス」『Forbes 日本版』1999 年 10 月号、pp.38-68 参照。
92木村著(1997)
『第二世代インターネットの情報戦略』参照。
93統括する機関は、ホワイトハウス内の
LSN(Large Scale Networking)ワーキンググループである。活
動内容は、国立研究所や政府機関を拠点とした、インターネットの 100 倍∼1,000 倍の大容量化とその上
での応用技術的な色彩が強いプロジェクトである。
94統括する機関は、UCAID(University Corporation for Advanced Internet Development)である。Giga
POP(Gigabit per second Point of Presence)と呼ばれるアクセスポイントを通じて各大学のネットワー
クと NGI やその他の政府機関のネットワークとを相互接続するという意味では、インターネット技術その
ものを目的としているプロジェクトである。
95第 2 世代インターネットに関する研究(①超高速・大容量化技術、②電子透かし技術、③ホームページ
の真正性証明技術、④通信の信頼性・安全向上技術、⑤高信頼化対応技術)と全国縦断型ギガビットネッ
トワークの構築を行なっている。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
プロジェクトが進められている。そして、それらに関連して開発された次世代プロトコル
である IPv6 は、日本にとって大きな意味がある。何故なら、このプロトコルを必要として
いる製品分野は、家電モバイルなどの非コンピュータ分野のため、需要が高いのはアジア
地域であり、日本が開発拠点になる可能性が高いからである。
以上のように、所与であるインフラが変化することによって、e-business のやり方も変
化させなければならない。つまり、企業には、環境に合わせ、事業のデコンストラクショ
ン(deconstruction:従来の事業構造を分解し、再構築すること)を行なう能力を持ってい
なければならないことになる。
更に、e-business の展開から期間を区分すると、WWW(World Wide Web)が普及した
後の 1994 年から 1996 年までを第一期(創成期)
、1997 年から 1999 年までを第二期(成
長期)、2000 年から第三期(成熟期)とする考え方がある97。第三期には、他の期間を踏み
台にして、企業間取引が本命になると赤木(1999)は述べているが、この点に関して、疑
問がある。
筆者も、現在は第 3 期であると考える。第 1 期では、技術的参入障壁が高く、閉じられ
たビジネス分野であった。その後、技術の向上とともに参入障壁が低くなり、多くの企業
特にベンチャー企業が参入し始めた。この時期が第 2 期で、ネットバブルといわれるもの
も発生した。そして、現在は第 3 期である。何故なら、市場に既存のビジネスを行なって
いた大企業が参入し、e カンパニー化することによってメガ・コンペティションの時代にな
り、経営資源による参入障壁が高まった。その結果、インターネットでビジネスを行なう
際には、経営資源をどのように組み合わせるかが問題になる。この様な e-business の第 3
期で成功するためには、どのような情報を活用し、どのように経営に結びつけていくかが
最も重要な事ではないだろうか。
96高速の全国バックボーンネットワークである
GMN(Global Megamedia Networks)の運用実験プロジ
ェクトを 10 月に開始している。このネットワークは非常に高品質で高信頼なネットワークである。
97赤木著(1999)
『インターネットビジネス論』参照。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
第3章
村上満大
成功するための経営戦略
本章では、e-business や、既存のビジネスにおいて、企業が持っている経営資源の中で
最も重要な役割を演じると考えられる「情報」について論じる。情報の特徴を理解し、情
報化によって変化することと変化しないことを検証してみると、e-business で成功するた
めに、押さえておかなければならないことが分かるようになるのではないだろうか。
そこで先ず、情報の特徴を述べ、情報化や IT の進展がビジネスに与えた影響を、考察す
る。その後、情報の特徴が際立つことによって発生したマーケットを形成しているビジネ
スについて検証し、その上で e-business を行なっている企業が長期的な目的を達成するた
めの経営戦略を決定する場合に、考慮すべき点について検証する。
3.1 情報の定義
3.1.1
知識の特徴
情報は、知識98の一つの形である。そこで、知識について考察を行なう。知識は、形式知
(explicit knowledge)と暗黙知(tacit knowledge)99とに分けられる。形式知は、明示的
な知識であり、形式的・理論的言語によって伝達できる知識である。しかし、形式知は知
識全体のほんの一部である。形式知と対比的に、暗黙知は非言語的な知識のことを指し、
ある特定の状況に関する個人的な知識であり、形式化すること・他人に伝達することが困
難である。この暗黙知には、2 つの側面がある。1 つ目は、技術的な側面(ノウハウ、技能、
技巧などを含む)であり、2 つ目は、認知的な側面(スキーマ、メンタル・モデル、思い、
視点等が含め、どの様に世界を感知し定義するかに、多大な影響を与える)である。現在
では、これら 2 つの知識の変換、つまり、暗黙知を形式知に、暗黙知を暗黙知に、形式知
を形式知に、形式知を暗黙知に交換することが大きな関心事となっている。これを「知の
サイクル」とよび、図 3.1 のようになる。この図は、知識が移動や交流を行なうことによっ
て、なんらかの新しい知識を創造する過程を示している。つまり、知識は新しい知識を創
造し続け、増殖的に増えるという特徴を持っている。当然、情報もこの特徴を持っている。
98知識は、①ある事項について知っていること、また、その内容、②知られている内容、つまり、認識に
よって得られた成果で、厳密な意味では、原理的・統一的に組織づけられ、客観的妥当性を要求し得る判
断の体系である。
(岩波書店(1998)、『広辞苑 第 5 版』参照)
99ポランニー(Polanyi, M.)によって提唱された知識(justified true brief:正当化された真なる信念)に
関する概念である。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
図 3.1
3.1.2
情報の定義
次に、情報の定義について考える。情報は、
「①あることがらについてのしらせ、②判断
を下したり行動を起こしたりするために必要な、種々の媒体を介しての知識」100であると
されている。つまり、情報は、判断や行動を行なうという目的を持った特定の事象に関す
る知識である。しかし、この定義では適用範囲が大き過ぎ、焦点がぼやけてしまうので、
リスクや情報の経済学からの見方で絞り込みを行なうと、情報は「リスクや不確実性を減
少させ、経済的に意味を持つもの」101ということになる。つまり、情報は、経済活動に影
響を与え、獲得するためにはコストがかかるものである。市場理論では、市場で情報を取
り引きすることによって、価格原理に基づき、リスクや不確実性を減らす事が可能である
と考えられていた。しかし、この考え方を現実に当てはめると、多くの問題点が存在し、
実情を説明することはできない。何故なら、次の 3.1.3 で示す情報の特徴が起因しているた
め、価格によって情報の交換をスムースに行なうということが困難になるからである。
100岩波書店(1998)
『広辞苑
第 5 版』より引用。
101神戸大学院経営学研究室編(1999)
『経営学大辞典(第
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52
2 版)』より引用。
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
3.1.3
村上満大
情報の特徴
一般的に、経済モデルは、内生変数と外生与件の 2 つから構成されている。その内、内
生変数に関する情報を「市場情報」と呼び、これは財・サービスの価格、品質、需要量な
どに関する情報などを示す。外生与件に関わる情報は「技術的情報」といい、景気見通し、
発見・発明・ノウハウに関する情報などである。この他には、競争相手や協調相手の戦略
や動きに関わる情報である「戦略情報」と呼ばれるものもある。この様に、情報には様々
な種類があり、それぞれの情報が異なった特徴を持っている。
情報は、企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の一つであるといえる。この場合、
情報は、技術や様々なノウハウ、ブランド、企業のイメージ・信頼などのことである。こ
の経営資源は、その特徴から、見えざる資産といわれる。つまり、数値で表したり、目で
見える状態にすることが困難な資産であり、個々人で認識に違いがあるものである。さら
に、情報は、固定的資源102であり、外部(市場など)から調達し難く、獲得のためには自
社で育成・蓄積を行なわなければならない。固定的資源の特徴は、①市場等で購入するこ
とが困難、あるいは不可能であること、②企業特異性(企業ごとに違う)があること、③
無形であること、④多重利用可能性103が高いということなどである。この特徴の中で、①
は特に大きな意味がある。このことは、情報を取引する市場を形成することは困難であっ
たり、不可能であったりするということを示している。
他の特徴としては、情報は結合による経済性が高いということがある。情報を結合させ
るためには、コミュニケーションを成立させる共通の「ことば」、そして、当事者間の信頼
関係、さらに結合する誘因(イニシアティブ)と貢献が必要である104。これらの条件が成
り立ち、情報がいったんある傾向に向かいだすと、一定の量を超えるとますますその勢い
が強まる特徴がある。これを、ポジティブ・フィードバック(positive feedback)と呼ぶ。
そして、その急激に増加し始める一定水準・変換点をクリティカル・マス(閾値)と呼び、
その水準に達すると爆発的な効果が表われる。この特徴は、情報のシナジー(synergy:相
乗)効果が高いということに起因している。シナジー効果とは、経営資源の間の相互関連
効果のことであり、現在持っている技術、ノウハウ、知識などを活用することによって、
関連性のあるモノを開発したり、新しい事業に進出したりする場合、時間・投資の無駄を
省くことができる。
しかし同時に、情報は陳腐化のスピードが速いという特徴を持っている。何故なら、「情
報は、取った瞬間から腐敗がはじまる」105といわれるほど、価値の減少が速い。例えば、
ある情報を知っているということを知られただけで、その情報の価値は下がり始める。そ
のため、情報を扱うには、スピードと秘匿性が要求される。
102経営資源は、外部からの調達の難易度によって、可変的資源と固定的資源の
2 つにわけられる。可変的
資源は、マーケット等から、カネさえあれば簡単に手に入る中間投入財や市販機械などである。
103同時に複数の用途に使用できる性質。
104この誘因と貢献のメカニズムについては、経営組織論(組織論)が追求している。
105唐津著(1993)
『販売の科学』、p.207 より引用。
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53
E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
最後の特徴としては、情報には偏在性があるということである。情報は、より多くの情
報を持っている人や企業に集まり、持っていない人や企業から離れていく傾向がある。つ
まり、持たざるものと持つものとの格差が拡大し易く、先行者利得(先手の利)が大きい
のである。この情報の格差を、情報の非対称性と呼ぶ。情報の非対称性は、様々な関係で
起こる。代表的な関係としては、企業と消費者間の情報の非対称性である。製品を生産す
る企業が持っている情報が、顧客である消費者には知られていなかったり、知ることが困
難であつたりする状態になっている。その結果、生産者側が、価格・品質の情報を持った
大変有利な状態になり、生産者の利益が優先される可能性が高い。この他にも、企業間、
企業内の雇用者間でも同様なことが発生している。この非対称性がモラル・ハザード(moral
hazard)や逆選択(adverse selection)という現象を引き起こす。
3.1.4
財としての情報の特徴
昨今の IT の向上に伴い、製品やサービスに関する情報が製品やサービスそのものから切
り離され、情報自体が財として取引を行なわれるようになった。この情報財をネットワー
ク上で、電子的に流し、経済価値を持つデジタル符号の集合をデジタル財と呼ぶ106。そし
て、情報を一つの経済財としてみた場合、情報は限界費用が少なく、固定費の固まりであ
るという特徴を持っている。例えば、取引が行なわれた時でも、情報財は、無くならない
どころか、品質が落ちたり、減ったりすることさえない。つまり、情報財は、コピーを行
なう際のコストが限りなくゼロに近く、コピー元の情報財の状態は変化しないので、初期
投資は大きいが、限界費用は非常に低い財である。そして、経済学では、情報財が公共財
としての性格を持っていると認識されている。公共財は、共同消費性107と排除不可能性108の
性格を持っている。この様な性質を持っている財は、この様な財を取引する市場の働きが
不完全になり、最適な資源配分が不可能になる市場の失敗が起きる。この現象が起きると、
価格による調整機能が働かない。市場の失敗が起きる要因は、情報の不完全性、自然独占、
外部性などがある。従って、情報のみで成立している財は、価格がゼロになる可能性が高
い。
情報財の中で、ネットワーク上で無償提供される財を無償デジタル財と呼ぶ。この無償
で財の提供を行なう理由は、課金コストが高いためであるという説もある109。しかし、最
も大きな理由は、参入障壁を構築するという目的を達成するためであると考えられる。例
えば、マイクロソフトのソフト(Internet Explore 等)は、無償で提供されているが、それ
は、デファクト・スタンダードを確立し、自社のコアの商品である Windows や Office 等の
市場価値を高めようとしているように考えられるからである。
106國領著(2000)
『オープンアーキテクチャー戦略』参照。
107一人の消費者のある財の消費が、他の消費者のその財の同時の消費を妨げない性質。
108ある財の消費に関して、その財の利用者と非利用者とを区別して非利用者を排除することが不可能であ
るか著しく困難である性質。
109國領著(2000)
『オープンアーキテクチャー戦略』参照。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
3.2 デジタル化・情報化が与えたインパクト
情報化が進展すると大きなインパクトを社会に与える。経済活動に与えるインパクトは 2
つあり、組織内部に与えるインパクトと組織間あるいは組織と個人間の関係(公的関係:
public relation)に与えるインパクトである。
組織内部へのインパクトしては、企業組織がヴァーティカルな組織からホリゾンタルな
組織へ移行してきたということが挙げられる。つまり、個々が確立され、更に情報の共有
化を進めることによって、ピラミッド型の組織と異なり、機能的で柔軟な組織を構築する
ことができるようになった。このような組織変革を可能にする条件が、情報の共有である。
情報が共有されていなければ、有機的な組織は機能し得ない。その他の条件は、責任所在
を明確にすることである。IT の向上によりこれらの条件は整いやすくなり、その結果、企
業の業務のアンバンドリング(unbundling:業務の分離分割)110が進み、アウトソーシン
グするために他企業への出資や提携が進んだ。
公的関係においてのインパクトとしては、企業と消費者が互いに情報を受発信でき、イ
ンタラクティブ(双方向)なコミュニケーションができるようになったことがあげられる。
そして、消費者がよりたくさんの情報を持つことが可能になった。その結果、消費者の満
足(顧客満足:customer satisfaction)を重視するようになり、企業は顧客に合わせた(カ
スタマイズされた)モノ・サービスを提供しなけれればならなくなった。そして、その顧
客満足を達成するために、マーケティングの重要性が増した。
他のインパクトとしては、一般的によく言われるのが、時間・空間概念を超越するとい
う考え方である。例えば、立地は競争優位を築くための一つのファクターであったが、IT
の向上により重要なものではなくなるというのである。しかし、地理的制約条件は、依然
として残っている。例えば、関連している企業が集積しているアメリカのシリコンバレー
やハリウッドなどをみても分かるように、地理的条件の重要性が低下したとはいえない。
この様なある特定の分野の競争における突出した成功が、一つの場所に集まっている状態
をクラスターと呼ぶ111。更に、時間も絶対量は変化せず、時間の使い方が変化しただけで
ある。つまり、情報化によって時間・空間の概念が以前と比べ変化しただけで、競争優位
を生むために重要な要素であるということには、変化はないのではないだろうか。
他のインパクトとしては、情報の流れの変化がある。既存の経済活動においては、情報
の非対称性が存在し、企業が価格、仕様などの多くの情報を保持し、消費者が情報を獲得
することが不可能であったり、困難であったりする。しかし、IT が向上することによって、
110あらゆる業務は、①カスタマー・リレーション業務(顧客の特定、獲得、リレーションシップの維持)
、
②イノベーション業務(魅力的な新製品や新サービスの考案・商品化)、③インフラ管理業務(多量あるい
は多頻度の作業を処理する設備の構築と管理)の 3 つに集約され、企業内のこれらのコア・プロセスを分
離することである。
111マイケル・E・ポーター著、沢崎冬日訳「クラスターが生むグローバル時代の競争優位」
『DHB』ダイ
ヤモンド社。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
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消費者が情報を獲得し易くなるに従い、売り手主導から買い手主導へ変化してきた。そし
て、プロシューマー112の出現もみられようになった。しかし、一概に全ての情報が簡単に
獲得ができ、費用も低くなる訳ではない。情報によっては獲得費用が高くなる。例えば、
プライバシーを保護した結果、顧客情報は得にくくなり、その情報を持っていれば、より
顧客が増えることが予想される。獲得することが難しい顧客情報を豊富に蓄積することに
よ っ て 、 e-business の コ ン ト ロ ー ル さ え 可 能 に な る 企 業 を イ ン フ ォ メ デ ィ ア リ ー
(informediary)113と呼び、この様な企業が出現すると情報の独占が行なわれる。この例
のように、獲得が困難な情報に関しては、独占状態が発生する可能性が高い。つまり、今
までと異なった関係の間で、情報の非対称性が発生する可能性が出てきた。確かに、情報
の伝達スピードは上がったが、全ての情報を無料で知ることはできないので、経済学でい
うところの完全情報の状態ではない。
最後に、情報化が進展することによって、可能になったものとしてモジュール化が挙げ
られる。モジュール化とは、複雑で大きなシステムを幾つかの機能的なかたまり(モジュ
ール)に分けて、日常は部分の中身を心配せずに、かたまりの間の連携だけを操作する方
式である。明確に定義すると、大きな全体システムを明示的に定義されたインターフェー
スによって、相互依存性が明確に定義された下位システム(モジュール)に分解し、下位
システムを独立的に設計することを可能にする手法であり、サイモンの階層構造化114の一
形態である。モジュール化によって、広い範囲の情報を結合させる分散的な協働システム
を構築することができるようになった。
3.3 情報の特質を活かしたビジネス
次に、e-business によって、コストが低くなる部分と高くなる部分を把握する必要があ
る。顔が見えないネットの世界では、今までとは逆の情報の非対称性が発生し、モラル・
ハザードや逆選択の可能性が出てくる。この非対称性を是正するためのコスト(取引コス
ト115、インタラクション・コスト116等)は上昇すると考えられる。この非対称性是正の働
きをするのが、中間・仲介業者である。最近では、e-business の進展により、中間業者が
不要になるとして、ディスインターメディエイション(disintermediation : 中間業者の排
除)という言葉が良く使われるが、これはあまりに短絡的な考え方であるといえる。逆に
情報化が進み、IT が向上するのに伴い、機械の情報処理能力・伝達能力と人間の認知能力
112アルビン・トフラーが提唱した、価値の生産活動に主体的に参加する消費者のことである。
113John
Hegel Ⅲ, Jeffry F Rapport (1997), "Coming Battle for Customer Information", Harvard
Business Review Jan-Feb 1997.
114人間の認知能力の限界が「人工物」の構造の決定要因となっていて、外界を認識したり製品や組織を構
築する際に、全体を認識可能な単位に分解し階層構造にすること。
115transaction cost 経済学の定義によると、企業間、あるいは企業と顧客の間で正式に交換される財やサ
ービスに関わる探索コストや情報コストや実行コストなどを含めたコストである。
116取引コストに、アイデアや情報を交換する際のコストも加え、経済取引上のインタラクションに関わる
全てのコストを包括するもの。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
との格差が発生したり、情報とモノが分離することによって情報の特徴が顕著に現われた
り、価値が大きく下がる情報と大きく上がる情報に分かれることによって情報の価値が大
きく変化したりすることによって、情報の取捨選択が非常に重要な問題になっている。そ
こで、消費者に代わって、情報の整理・順位付け等を行なうビジネスの市場規模が大変大
きいと考えられる。例としては、ナビゲーター117やポータル・サイト118や購買代理業119な
どがある。いずれにしても顧客の利益を代弁するビジネスである。
他には、連結の場を提供するビジネスがある。それは、プラットフォーム・ビジネスで
ある。先ず、プラットフォーム(platform)という用語は、階層的に捉えることの出来る
産業や商品において、上位構造を規定する下位構造(基盤)という意味でつかわれている。
そして、プラットフォーム・ビジネスとは、だれもが明確な条件で提供を受けられる商品
やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす
基盤を提供する役割を私的ビジネスとしておこなっている存在のことを指す120。
電子市場において、取引仲介型のプラットフォーム・ビジネスが提供する機能は次の 5
つがある。第 1 に、必要な製品・価格・取引条件を提供する取引相手を探索する機能。第 2
に、信用を担保する機能。第 3 に、取引される財の価格を評価する機能。第 4 に、標準取
引手順を提供する機能。そして第 5 に、物流などの諸機能を統合する機能である。また、
絶対不可欠な機能ではないが、重要なそのほかの機能として、取引参加者の相互作用によ
る場の創造性を促進するという機能がある。このビジネスでは、ソフト面の規模の経済性、
あるいは、取引参加者が増えるほど便益があがるネットワークの外部性が大きな影響力を
もっている。
最後に、顧客参加型のビジネスが挙げられる。現在のような買い手優位の社会では、顧
客間での情報を扱うことによってビジネスが成立する。顧客間で情報のやり取りを行ない、
それが商品の売上げや顧客満足に影響を与える現象のことを、顧客間インタラクションと
いう。この顧客間インタラクションには、①クチコミ、②相互扶助、③開発参加などがあ
る。この顧客からの情報を活かしたビジネスには、ネット・オークションやメーカーの新
製品開発などがある。
3.4 成功するための経営戦略
経営戦略とは、企業環境を考慮して、長期的な視点から将来への道筋を示すものである。
経営戦略は、様々なレベルの戦略から構成されている。それは、①全社戦略、②事業戦略
117水先案内。多くの情報を顧客に提供し、見比べることを可能にし、顧客の欲しいモノを発見し易くする
ビジネス。
118ポータルとは、入口という意味で、インターネットユーザーが初めに訪れるサイトである。ヤフーなど
の検索エンジン系統のサイトや各新聞社のオンライン版などが代表的である。
119顧客の代わりに、情報を集めたり、膨大な情報の中から重要なものを選択したり、情報を解釈し、顧客
のニーズに合わせて編集作業を行ない、顧客に届けるビジネス。
120プラットフォーム・ビジネスの具体例をあげると、問屋・卸・商社などの中間流通業者や銀行、クレジ
ットカード会社、運送会社、電気通信事業者、不動産流通業者、広告代理店、旅行代理店などがある。
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E-Business の現状と課題 アナログの必要性
村上満大
(あるいは、競争戦略)、③職能別戦略である。これら 3 つのレベルから、企業の中で行な
われる様々な意思決定の整合化を図ることによって、企業の長期的な目的を達成すること
が可能になる。しかし、このとき長期的な展望を行なうことは、多くの不確実性
(uncertainly)やリスク(risk)が存在するために、困難がつきまとう。この様な不確実
性やリスクの存在する世界で、情報のあり方が人間の経済行動や社会組織の働きに、どの
ような影響を及ぼすかについては、情報の経済学(economics of information)が多角的に
分析を行なっている。特に、経営者(トップ・マネージメント)が決定を行なわなければ
ならないことの一つである内部システム設計、つまり組織内部で情報を取り扱うシステム
を策定することに関しては、経済学では、情報の経済学の中に情報コーディネーション理
論121等があり、経営学ではコアコンピタンス戦略122等があるが、本論文では言及しない。
不 確 実性の あ る 状況下 で 意 思決定 す る ことに つ い て、Simon ( 1957 ) は 「満足 化
(satisfying)」仮説の中で限定合理性(bounded rationality)を踏まえた意思決定という
概念を提起した。限定合理性とは、周囲の利害状況も不完全にしか把握できず、最適な選
択を計算する完全な能力を持たない性質のことである。この限定合理性を基にした最近の
新しい学問分野として、
「複雑性の経済学」(economics of complexity)があり、これによ
ると本来的に社会は複雑であり、その結果、人間は限定合理性のもとで選択を行なわなけ
ればならないということがいわれている。そして、この限定合理性のもとで行なう選択を
より良い方向に持っていくためには、情報の集積を行ない、一定の独立した部分に分け、
解決された部分を統合することが最善の方法であるとしている。この事から、情報をデジ
タル化し、それらをある設計思想(アーキテクチャ:architecture)を基に独立性の高い部
分に分解し、更に部分の間を社会的に共有されたオープンなインターフェースでつなぐこ
とによって汎用性を持たせ、多様な主体が発信する情報を結合させる企業戦略が必要とさ
れる。オープン・アーキテクチャ戦略123である。この戦略が、現在のデジタル化社会で成
功するために確実に行なわなければならない戦略であると考えられる。
しかし、この戦略の基本概念は現在の企業経営において大変有意義なことであるが、注
意しなければならない点がある。それは、デジタル情報とアナログ情報という異なった特
徴を持った 2 つの情報をどの様にバランス良く配置するかということである。情報のデジ
タル化がどこまで可能であるのか、どのような情報がデジタル化に適しているのか、そし
てアナログ情報をどのように扱ってデジタル情報にリンクさせていくのか、ということな
どを十分に理解しておく必要がある。この事を考慮した上で、どの程度までオープンなネ
ットワークを構築するかということを考えなければならないであろう。つまり、変化・加
121各個人が意思決定の調和を意図し望ましい資源配分を達成するには、どのように情報を共有するか、あ
るいは分有するかということを情報コーディネーションと定義している。(青木・奥野編著(1996)『経済
システムの比較制度分析』、p.41 参照)
122顧客に対して、他社には真似できない自社固有の価値を提供する企業の中核的な力をコアコンピタンス
と呼ぶ。(一條訳(1995)『コアコンピタンス経営』
、p.11 参照)
123國領著(2000)
『オープンアーキテクチャー戦略』参照。
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工することが困難な人間のアナログ情報を如何に扱うかが、デジタルな情報を扱う
e-business において、大きな影響を与える成功要因の一つであるといえるのではないだろ
うか。
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終章
村上満大
ビジネスのデジタル化による諸問題
IT の向上により、今後も e-business は、大きく成長すると予想される。何故なら、世界
中に未発達で成長率の高い市場が存在しているからである。特に成長が期待される業種は、
デジタル情報のみで取り引きを完了させることができる金融分野や情報産業等のサービス
業である。昨今大きく報道されている小売業では、取引高に関して市場全体に占める割合
があまり高くなるとは考えられない。しかし、モノと情報が分離することが可能であると
いうことは、小売業に大きな影響を与える。そのことによって、業務の分割が行なわれ、
より効率的なシステムを構築する誘因になるであろう。
この様に、ビジネスに大きな影響を与え、市場が拡大すると考えられている e-business
の発展を阻害する要因には、2 つある。1 つは技術的な問題で、もう 1 つは感情的な問題で
ある。技術的な問題としては、セキュリティや安全な決済手段やプライバシーの保護や信
用を保証する電子認証・電子署名などが考えられる。この問題に関しては、現在も研究が
続けられ、技術は発展しているので、状況は変化しつつある。しかし、感情的な問題は変
化が遅い。感情的な問題としては、ネットで購買を行なうことに対するアレルギーや個人
的なモラルなどが挙げられる。これらの問題を解決するためには、長期的な取り組みが必
要である。以上に挙げた問題が改善されることによって、更に e-business は発展していく
と考えられる。
e-business とは、ビジネスをデジタル化することであると捉えることができる。そこで、
デジタルとアナログの比較をしてみる。元々、連続的である情報を扱う際に、連続的な信
号値のまま取り扱うことをアナログといい、非連続な信号値に変換し取り扱うことをデジ
タルという。つまり、この 2 つの違いは、情報の取り扱い方の違いである。情報の一部を
デジタル化することによって、情報が加工したり処理したりすることが簡単になり、更に
成文化されることによって第 3 者が理解し易くなる。
IT の向上により、デジタル情報の流通は促進される。それに伴い、デジタル情報を獲得
するためのコストは低減され、一つずつのデジタル情報の価値は減少している。逆に、ア
ナログ情報は、その特徴(成文化できにくいことや価格で調整が困難であるため市場が成
立しにくいことなど)により、流通することは困難である。従って、アナログ情報には希
少性が生まれ、獲得費用が増加した結果、価値が高まっている。アナログ情報には、慣習、
コネクション、ブランド、信頼、バックグラウンド等があり、これらの獲得費用はデジタ
ル化が進展するにつれ、上昇する傾向にある。しかし、情報のデジタル化は進んでいる。
つまり、ビジネスのデジタル化は、現在でも進行形であるといえる。
ビジネスのデジタル化のポイントとしては、代表的なものが情報共有のためのデータベ
ースが考えられる。そして、このデータベースにアクセスする時に、見えないハードルの
役割を担うのがアナログ情報である。データベースには、3 つのレベルがある。それは、社
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会的なデータベースを提供するインターネットと企業間のデータベースを提供するエクス
トラネットと企業内のデータベースを提供するイントラネットである。インターネットで
は、デジタル情報が膨大に存在し、これらを読み解くためのアナログ情報はほとんど必要
ない。しかし、エクストラネットからイントラネットになるに従い、提供されているデー
タベースを理解するために必要なアナログ情報が増加し、ネットワークに参加する障壁が
高くなる。つまり、段階によってアナログ情報の重要性は変化するので、それぞれの段階
で情報共有をどの程度行ない、ビジネスに活かしていくかということを考えなければなら
ない。
このデータベースの実現を可能にしているのがデジタル技術で、デジタルの特徴である
検索の容易さと迅速さを活用している。そして、情報のデジタル化によってデータベース
を構築できれば、広範囲な情報共有は可能になるが、それぞれの情報の特徴によりデジタ
ル化が不可能であったり、困難であったりする場合がある。例えば、情報をデジタルに変
換しても、それぞれの最小情報単位が指し示していることが変らない情報はデジタル化が
容易である。しかし、情報そのものではなく、何とつながっているか、何を導き出してい
るかがより重要なファクターである情報はアナログでないと意味が無いので、デジタル化
には適合しない。つまり、情報のネットワークや論理的整合性が必要な情報は、アナログ
情報としてしか存在し得ない。デジタル化することによって、価値の無くなる情報もある。
更に、情報の共有化という目的を持っていれば、情報がデジタル化し易くても、情報を共
有すべきか否かということと共有が可能か不可能かということも、考慮しなければならな
い。秘匿性の必要な情報は、デジタル化に適さない。例えば、顧客データは、プライバシ
ーの保護を考えて、あまり広範囲で共有すべきではないし、発表前の新製品に関する情報
なども同様のことがいえる。
この様なことを考慮して、情報の共有化の程度を決定しなければならない。他にも、ビ
ジネスのデジタル化が進展することに伴い、たくさんの矛盾(パラドックス:paradox)が
表われてきた。例えば、経済活動のグローバル化とローカル要因の重要性の上昇や、リア
ルなビジネスとバーチャルなビジネスの不整合等がある。
以上のことから、現在の様なデジタル化時代では、経営者が果たす調整の役割は、モノ
の供給や産出の効率化の追求から情報のデジタル化率を決定するということに変ってきて
いる。
そのことを決定するためには、アナログ情報とデジタル情報の特徴を認識しなければな
らない。アナログ情報は、原理原則を示していて、確固としたことを表わしている。しか
し、その様な特徴があるため、急激な環境の変化に対応できないという側面もある。次に、
デジタル情報は、情報を分割して流通させるので組み替えが容易である。しかし、社会的
な流れに影響され、付和雷同になる傾向がある。ある一時点では正当でも、次の瞬間には
正当性を失うこともある。そして、情報を全てデジタル化することはできない。同時に、
アナログのみでは、情報の価値が無い。つまり、デジタル情報のバックグラウンドにはア
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ナログ情報があり、アナログ情報を表現するためのツールとしてデジタル化がある。
デジタル化が進展しても、企業目的は、顧客が満足するモノやサービスを提供し、利益
を上げるということには変化が無い。しかし、デジタル化によって、提供する過程が変化
している。そして、現在、経営者が絶対に果たさなければならない調整機能が情報のデジ
タル化比率の決定である場合には、バランス感覚と柔軟性が必要である。デジタルとアナ
ログを同時に認識し、その上で様々な企業を経営する上での選択を行なっていかなければ
ならない。アナログ情報を軸に、そしてデジタル情報がそれらを補完する役割を果たすと
考えると、アナログ情報とデジタル情報のバランスをとり、環境の変化に対応して、アナ
ログ情報とデジタル情報の割合を柔軟に変化させなければならない。つまり、企業のコア
(中心)を認識し、バランス感覚と柔軟性をもって、企業を経営しなければならないとい
う点については、変化はないのではないだろうか。あくまでも、デジタル化は、単なるツ
ールであるということを忘れてはならない。例えば、企業のデジタル化だけを重視し、物
事に対して偏った認識をした上で選択を行なえば、大きな間違いを引き起こす可能性が高
くなると考えられる。その様な失敗を引き起こさないために、アナログ情報を軽視すると
か、必要性の低いものであると見做すのではなく、デジタルとアナログを複眼的にみる様
にしなければならない。このことが、デジタル化が進行している現在に重要なことではな
いだろうか。つまり、経営者が複眼的視点を持てなければ、産業横断的なメガ・コンペテ
ィションの時代、資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の流動性が高い時代を乗り切ることは
困難であろう。
この事を踏まえた上で、実際の経営戦略を策定する際に、具体的にどのようなことを考
慮し、どのように情報を扱い、創造性のあるビジネスを実現し、競争優位を築くというこ
と、さらに、具体的なデジタル化率の決定、アナログ情報の扱い方を検証し、提言するこ
とは今後の課題である
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