砥粒加工学会誌 論 Vol.50, No.3 pp.124-129, 2006 文 耐食金属材料の高温酸化挙動に及ぼす表面改質加工の効果 片平和俊*1,水谷正義*2,齋藤智之*2,小茂鳥 潤*2,上原嘉宏*1,大森 整*1 Effects of a new surface modifying technique on high temperature oxidation characteristics in anticorrosive metallic materials Kazutoshi KATAHIRA, Masayoshi MIZUTANI, Tomoyuki SAITO, Jun KOMOTORI, Yoshihiro UEHARA and Hitoshi OHMORI ELID 研削と高温酸化処理の複合プロセスによる新しい表面改質法を開発する可能性について検討するため, ELID 研削を施した試験片と研磨仕上げを施した試験片に対して,大気中で高温酸化処理を行い,処理後の試料 表面がどのように 変化するかについて詳細な分析を行った.その結果,研磨材に比べて ELID 材は高品位な表面 粗さおよび優れた摩耗特性を示した.ELID 材におけるこのような 表面機能性の向上は,高温酸化処理により表面 に形成されたスピネル型複酸化物 FeCr2O4 および Cr2O3 が極めて緻密かつ均一な構造を有することが効果的に作 用したものと示唆された. Key words : ELID, surface modification, oxide layer 1.緒 言 近年,ガラスレンズなど光学素子の製造分野において,成形 金型の使用環境はますます厳しくなっている.一般に,ガラスモ 高温環境下においても ELID 研削の表面 600℃∼800℃という 改質効果を発現させることを試みた.すなわち,ELID 研削を 施した試験片に対して,大気炉を用いて高温酸化処理 を行 ールドを含む熱圧縮成形金型には耐熱・耐腐食金属材料 い,処理後の試料表面 がどのように変化するかについて,研 (主にステンレス鋼や超硬合金)が用いられる.光学製品とし てより高い屈折率を得るためには,硬度・粘性の高い成形材 磨仕上げした試験片の結果と比較しながら詳細な分析を行っ た.その結果に基づき,ELID 研削と高温酸化処理の複合プ 料が使用されることから,これらを圧縮成形 する際の温度は ロセスという 新しい表面改質法を開発する可能性について検 600℃以上が求められ,金型が受けるダメージは無視できな い.その結果,数十ショットごとに生産を中断して,金型表面 討・考察を加えた. の再研磨を施すなどメンテナンス頻度は増大する上,再研磨 2.実験方法 により金型自体 の形状も崩れるなど,金型の寿命,生産プロ セス全体に与える影響は甚大である.そこで,成形金型 の超 供試材としては φ15mm×5mm のステンレス鋼(SUS316) を 使用した.この試験片の一方の端面に対し,卓上型ラップ研 精密化と長寿命化を両立させるためには,高精度 の機械加 工(主として研削)のみならず ,耐摩耗性,耐食性等の表面機 能を付与する表面改質法の適用が必要不可欠である. 削盤を用いて ELID 研削加工を施した 10).表 1 に ELID 研削 条件を示す.比較材として,金型の表面仕上げとして一般的 に 用 い ら れ て い る手 法 ,す な わ ち 耐 水 エメリー 紙 著 者 らは ,成 形 金 型 の表 面 仕 上 げ 法 として ELID (Electrolytic In-Process Dressing)研削技術に注目してきた. 最近の研究より,ELID 研削を施すことで,精密加工を達成す (#320-#1200)とアルミナ粉末(0.3μm) を用いて鏡面状に研磨 した試験片を準備した.それらの 試験片に対して,小型の大 気炉を用いて 600℃の温度で 10 分保持した後,常温まで自 るとともに,被加工物の表面組織 が改質され,耐食性,耐摩 然冷却する高温酸化処理を施して供試状態とした.以下それ 耗性等が向上するという知見が得られており,金型材料と同 様に腐食環境に晒されるバイオマテリアルなどへの適用が進 ぞれ,ELID 材,研磨材と呼ぶ.前述のようにして準備した 2 種類の試験片に対して,表 2 に示すような分析機器を用いて められている 1)∼10) . 表面性状の評価を行った. 本研究では,ELID 研削プロセスに基づく表面改質加工技 術の応用として,成形金型の基材であるステンレス鋼に対し, * 1 独立行政法人理化学研究所中央研究所:〒351-0198 埼玉県 和光市広沢 2-1 *2 慶應義塾大学理工学部:〒233-8522 横浜市港北区日吉 3-14-1 〈学会受付日: 2005年 8月 2日〉 3.実験結果および考察 3.1 ステンレス鋼の ELID 研削特性 SUS316 鋼に対して,光学素子用金型として十分な高品位 加工面を付与することを目的として,仕上げ加工にメタルレジ ンボンド#8000砥石を用いてELID ラップ研削を行った.図 1 砥粒加工学会誌 Vol.50, No.3 pp.124-129, 2006 に加工圧力32kPa条件下における加工時間と累積加工量 の ELIDラップ研削を適用することにより,耐食金型材料 である 関係を示す.同図より,加工時間の経過とともに加工量 が線 SUS316 鋼に対して研磨加工と比較して遜色なく鏡面加工 で 形的に増加し,安定した加工が実現されていることがわかる. きることが明らかとなった.次節以降 ,ELID研削および 研磨 さらに図 2には,加工圧力の条件を変化させ加工時間60 分後 によって前加工を行った試験片に対し,高温酸化処理を施し の加工面粗さRy を測定した結果を示す.加工圧力が高くなる た後,種々の装置を用いて詳細な表面分析を行った. ほど,加工面粗さが若干悪化する傾向があるが,すべての条 および#2000の粗加工から#8000の仕上げ加工に至るまで の平均粗さRa の値を整理して図 3に,加工後のワークを図 4に 示す.いずれの結果からも,メタルレジンボンド砥石を用いた 被加工物 加工装置 前加工用 砥石 表 1 実験条件 ステンレス鋼(SUS316) 卓上型ラップ研削盤 [新世代加工システム ㈱製] 鋳鉄ボンドダイヤモンド砥石(#325, #2000) 仕上げ加 工用砥石 メタルレジンボンド砥 石 :ダイヤ 砥 粒 # 8000,[冨士ダイス㈱] 電源 クーラント 加工条件 ED-920 [冨士ダイス㈱] 水溶性研削液 (CG7, 5% 希釈) 砥石回転数 100rpm,ワーク回転数 100rpm 表面粗さ Ra nm 件において30nm以下の良好な鏡面が得られている.#325 80 70 60 50 40 30 20 10 0 #325 #2000 #8000 図4 加工後のワーク 3.2 表面のマクロ観察および表面粗さ測定 600℃,10 分保持の高温酸 化処理を施したELID材および 研磨材に対して,まず簡便にマクロ観察を行った結果を図 5 に示す.ELID材は表面全体が光沢性を有し,青紫色に発色 していた.一方,研磨材は光沢性を有せず,全体的に錆びた ような茶褐色 であり,局部的に表面が剥離している箇所も観 温酸化処理前では,ELID材と研磨材の平均粗さRaはほぼ同 程度の値を示したが,処理後はELID材に比べて研磨材は非 2.5 2 1.5 常に高い値を示している. 1 0.5 0 #2000 察された.この様子を表面粗さで表した結果を図 6に示す.高 3 0 10 20 30 40 50 60 加工時間 min 70 本研究では,ガラスモールド金型への適用を想定している ため,高温酸化処理の条件設定は600 ℃,10 分としたが,一 般に酸化現象は温度と保持時間の影響を大きく受けることが 知られている11).そこで,温度と保持時間条件を幾つか変化 させ,処理後の表面性状へ与える影響を調べた.なお,ステ 図1 加工時間と累積加工量の関係 ンレス鋼の高温酸化処理法の詳細に関しては,すでに数多く 30 の論文が報告されているので,本節では,あくまで提案する ELID研削と高温酸化処理の複合プロセスが,種々の温度条 28 26 Ry nm 累積加工量 μm 3.5 研磨材 図3 表面粗さ測定結果 #325 表2 表面分析装置 粗さ測定 触針式表面粗さ測定器サーフテスト701 [㈱ミツトヨ] 表面組成・ エネルギー分散型元素分析装置 EDX 元素分析 [㈱島津製作所製]; X線回折装置 XRD[ Mac science社製] 光電子分光装置 XPS [日本電子㈱製]; 摩耗評価 ボールオンフラット往復摺動方式摩擦・摩耗 試験 試験装置[HEIDEN ㈱製] #8000 24 件でも適用可能という傾向を確認するに留めた.よって,温度 22 条件は600,800,1000℃とし,保持時間は10 分,1 時間,3時 間のそれぞれ3通りのみの条件下で高温酸化処理を行った. 20 18 16 30 35 40 45 50 55 60 加工圧力 kPa 図2 加工圧力と加工面粗さRy の関係 65 代表的な結果をマクロ観察写真 とともに図7に示す(図中 ? 印 処理条件).同図より,処理温度が高いほど,また処理時間が 長いほど研磨材では表面損傷が激しいという傾向が認められ 砥粒加工学会誌 Vol.50, No.3 pp.124-129, 2006 た.一方,ELID材は600および 800℃の条件下 では,長時間 保持してもほぼ光沢を保っていることが確認された.1000℃ 品位な表面粗 さを有すること,また形成された酸化皮膜と基 材との密着性が良いことが優れた摺動特性を示した要因の一 では両材ともに表面損傷は激しく,この温度条件で使用する つであると考えられる. 金型としての適用は困難であると考えられる. 研磨材 ELID材 図5 高温酸化処理後のマクロ観察結果 摩擦係数 μ 局部的に酸化皮膜 が剥がれ落ちている 1.2 ステンレス ボール 1 5mm/s 0.1N 試験片 研磨材 0.8 0.6 ELID材 0.4 0.2 表面粗さ Ra nm 60 0 研磨仕上げ ELID仕上げ 50 40 0 20 40 60 80 100 120 往復摺動回数 図8 摩耗試験結果 30 20 3.4 表面改質層の結晶構造解析 10 成形金型の仕上げ加工法として,従来の研磨加工 に代わ 0 処理前 高温酸化処理後 (600℃,10分保持) 図6 表面粗さ測定結果 って ELID 研削を適用することにより,高温酸化処理後の表 面は光沢性および 耐摩耗性 を有することが確認された.この 要因を解明し,ELID 研削から高温酸化処理へ至る行程を新 しい複合改質加工プロセスとして確立するため,本節では高 1000℃ 時間条件 実験温度・ 800℃ ELID材は光沢保つ, 研磨材は損傷あり 600℃ 温酸化処理後の ELID 材の表面組織構造を研磨材のそれと 比較しつつ詳細な分析検討を行った. まず,ELID 材および研磨材の表面結晶構造を調べるた 両材とも損傷激しい 700 損傷あり Cr3O 4 を示すピーク箇所 3h 光沢を保つ 研磨材 ELID材 600℃,10分保持 両者とも損傷激しい 研磨材 600 ピーク強度 10 30 1h 500 400 ELID材 300 23 1000℃,3時間保持 26 29 32 35 38 35 38 2θ deg 図7 処理温度と保持時間の影響 (a) 研磨材 3.3 摩耗特性評価 700 前節までの結果より,仕上げ加工としてELID研削を適用し た場合,研磨した場合に比べて高温酸化処理後も光沢を有 型の耐久性 を左右する摩耗特性の改善に寄与するものと期 待できる.そこで,高温酸化処理によりELID材および 研磨材 の表面に形成された酸化皮膜層の摩耗特性 を調べるため, 往復摺動型摩耗試験を行った.なお,試験条件は,摺動速 度5mm/s ,試験荷重0.1N とした.試験結果を摩擦係数μとす べり摺動回数の関係に整理し図 8 に示す.同図より,ELID材 の摩擦係数μは,研磨材のそれに比べ低い値を保っている ことがわかる.前述したように,ELID 材は研磨材に比べて高 ピーク強度 する高品位な表面が得られることが分かった.この結果は,金 Cr2O 3 を示すピーク箇所 600 500 400 300 23 26 29 32 2θ deg (b) ELID材 図 9 XRD による高温酸化処理後の結晶構造分析 砥粒加工学会誌 め,600℃,10 分で高温酸化処理を施した両材に対しXRD を 用いて X 線回折分析を行った.その結果を図 9 に示すが,こ Vol.50, No.3 pp.124-129, 2006 3.6 XPSによる元素分析および酸化皮膜形成挙動解析 こでは分析から得られたプロファイルをデータベースに照らし 図 12(a),(b)に,XPSを用いてそれぞれELID材,研磨材に 対して表面から内部深さ方向に,F e,Cr ,O の元素を測定対 合わせ結晶構造の同定を行っている.同図(a) より,研磨材の 酸化皮膜は Cr3O4 の結晶構造を有していることが確認できた. 象として分析した結果を示す.なお,エッチングレートは約 5nm/s である.同図より,ELID研削を施すことにより,研磨材と 一方,ELID 材の酸化皮膜は研磨材のそれとは 異なり,Cr2O3 の結晶構造を有していた.研磨材表面に検出された Cr3O4 は, その化学組成 から,安定な三価クロム(Cr3+)と不安定な二価 比較して表面付近の酸素の拡散濃度が高いことがわかる. クロム(Cr2+)が混在しているため, ELID 材表面に検出され いて水の電気分解が生じ,水酸化物イオンおよび 溶存酸素 た Cr2O3 よりも酸化物としては不安定な状態にあるといわれて いる 11).両材に認められたこのような 結晶構造の違いが,高 濃度が著しく高くなるものと考えられる.この水酸化物イオン および溶存酸素が,加工によって活性化されたワーク表面へ 温酸化処理後の表面粗さや摩耗特性の差異に現れたものと 浸透拡散したものと推察される3)10).この酸素を多く含む拡散 示唆される. 3.5 EDXによる表面元素分析 層が高温酸化処理中の酸化皮膜形成に大きな影響を及ぼ すものと考えられる. ELID研削プロセスでは,導電性砥石 と電極の間に発生する 高い電位差により,その隙間に供給されている研削液中にお 図 10および図 11はEDX を用いて高温酸化処理前後の表 面元素分析を行った結果である.図10中,特に注目すべき箇 所を矢印で示すが,ELID研削を施した加工表面からは酸素 100 元素の著しいピークが検出されている.これに対し,研磨材か 80 らは同元素は微量しか検出されていない.次に図11 に着目 すると,高温酸化 の影響で研磨材においても酸素元素が確 70 なわち,両材に施した高温酸化処理条件は全く同じであるに もかかわらず,処理後の酸素含有率は大幅に異なっている. 原子比率 at.% 認されるが,そのピークはELID材に比べて非常に小さい.す 90 Fe 60 50 40 O 30 ここで,EDXはその測定原理の制約上,サンプル表面から数 20 十ミクロン程度の深さまで検出した元素濃度の平均値を表示 するものであるため,皮膜の状態をより詳細に把握するため 10 0 には,さらに検出分解能に優れるXPSを使用する必要がある. Cr O Fe Cr 0 5 10 エッチング時間 s 次節では,XPSを用いて表面分析を行った結果に基づいて, 酸化皮膜の形成挙動について詳細に考察することとする. 15 (75nm) (a) ELID材 90 50 40 30 ELID材 80 研磨材 70 原子比率 at.% 原子比率 at% 100 70 60 20 10 0 O Ni Cr Fe Fe 60 50 40 O 30 Cr 20 10 図 10 EDX による高温酸化処理前の元素分析 0 70 原子比率 at% Cr O Fe 0 5 10 エッチング時間 s 60 50 ELID材 (b) 研磨材 図12 XPSによる高温酸化処理前の表面元素分析結果 研磨材 40 30 15 (75nm) 図 13(a),(b) に同じくXPSを用いて,600 ℃,10分の高温酸 化処理を施したELID材,研磨材 に対して表面から内部深さ 20 10 0 O Ni Cr 図 11 EDX による高温酸化処理後の元素分析 Fe 方向に,F e,Cr,O の元素を測定対象 として分析した結果を 示す.これらの図より,とくにエッチング時間25s付近,すなわ ち表面から深さ100nm程度までの領域内において,両材のFe, 砥粒加工学会誌 Vol.50, No.3 pp.124-129, 2006 Crの拡散プロファイルはまったく異なった様相を呈すことが わ かる.すなわち,図13(a) において,ELID材の表面の領域Ⅰ これらの分析結果を整理し,図 14 に模式的 に示す.ELID 材における特徴的な酸化皮膜形成挙動は,高温酸化処理前 ではCr よりもFe が多いことから,FeCr2O4 のスピネル型複酸化 物であると考えられる .この酸化物は極めて緻密で均一 な構造であるため,外層酸化物として高い保護性を有する. のELID 研削プロセスにおいて,被加工物表面 に酸素を多く 含む拡散層 を形成させていたことが要因と考えられる.すな わち,ELID研削によりワーク表面に酸素を多く拡散させてお この外層酸化物に覆われた領域内部では,粒界からCr2O3 が くことにより,高 温 酸 化 処 理 後 は スピネル 型 複 酸 化 物 内部酸化物として発生し,合金中を横方向,内部方向へと拡 散し連続的なCr2O3層として安定して形成される.領域Ⅱは (FeCr2O4)を保護層として瞬時に形成させ,優先的に内部酸 化を促進することができたものと考えられる. 12)∼14) FeCr2O4および Cr2O3が混在しており,領域Ⅲに至っては,ほぼ Cr2O3であると考えられる. 一方,図13(b) より,研磨材の表面層のFe,Cr の拡散プロフ 酸化物/酸素界面で進行する場合には,皮膜と金属素地との 接触が失われる可能性が大きく,一方酸素イオンの内方拡散 ァイルにはELID材にみられたような 大きな変動はない.XRD により,金属 /酸化物界面 での皮膜の成長が行われる場合に の結果を踏まえると,この領域は,Cr3O4を主成分として,一部 Cr2O3が混在していると考えられる.ELID 材とは異なり,保護 は,皮膜の密着性は比較的良好であると報告されている12). このことからも,ELID材の場合,後者の金属 /酸化物界面での 性のある外層酸化物が形成されないため,酸化層 の成長挙 皮膜の成長が支配的であるため,酸化皮膜は良好な密着性 動は不安定となる.さらに,前述したように,Cr3O4は,その化 学組成から,安定な三価クロム(Cr3+)と不安定な二価クロム を有する.一方,研磨材の場合,前者のように 皮膜の成長が 酸化物/酸素界面で進行するため,酸化皮膜の密着性が悪く (Cr2+)が混在している状態にあるため,酸化挙動はより一層 不安定となる. 剥がれやすくなり,その表面の損傷は激しくなる. 一方,スピネル型複酸化物は,コバルト(Co)やチタン(Ti) とも形成させることが可能であるため,ステンレス鋼以外 の合 100 90 70 金においても,ELID 研削を施すことにより上述したような効果 FeCr2O 4 FeCr2O 4+Cr2O 3 Cr2O 3 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Fe は期待できる.すなわち,ELID 研削と高温酸化処理の複合 プロセスによる表面改質加工法は,耐食金型材料のみならず , 耐食性,耐摩耗性を必要とする様々な素材へ適用できる可 能性を有していると考えられる. 60 Cr O Fe 50 40 O 30 酸素がより 多く深く拡散 している Cr 20 原子比率 at.% Fe 70 60 50 40 30 Cr O Cr O Fe Cr3O4 表 面 損 傷し激 い Cr 3O4+ Cr2O 3 酸素イオンの内方 拡散による酸化 基 材 80 研 磨 材 90 FeCr2 O4 +Cr2O3 鏡 面 性つ 保 酸素の拡散 は少ない 100 表 面 (a) ELID材 FeCr2O4 Cr2O3 基 材 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (500nm) エッチング時間 s E L I材D 10 0 0 高温酸化処理時間 表 面 原子比率 at.% 80 一般的に,酸化物の成長が金属イオンの外方拡散により, 金属イオンの外方 拡散による酸化 図14 酸化皮膜形成挙動の模式図 20 4.結 言 ELID研削と高温酸化処理の複合プロセスによる新しい表 10 0 0 (b) 研磨材 面改質法を開発する可能性について検討するため,ELID研 削を施した試験片と研磨仕上げを施した試験片に対して,大 気中で高温酸化処理 を行い,処理後の試料表面 がどのよう 図13 XPSによる高温酸化処理後の表面元素分析結果 に変化するかについて詳細な分析を行った.その結果,研磨 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (500nm) エッチング時間 s 砥粒加工学会誌 材に比べてELID材は高品位な表面粗 さおよび優れた摩耗 特性を示した.ELID材におけるこのような 表面機能性の向上 5) は,高温酸化処理により表面に形成されたスピネル型複酸化 6) 物FeCr2O4および Cr2O3が極めて緻密かつ均一な構造を有す ることが効果的に作用したものと示唆された. 7) 5.参考文献 1) 2) 3) 4) Ohmori H., Katahira K., Komotori J., Mizutani M., Maehama F., Iwaki M.: “Investigation of Substrate Finishing Conditions to Improve A dhesive Strength of DLC Films”, Annals of the CIRP, 54, 1(2005) 511. 片平和俊, 前濱文人 , 小茂鳥潤 , 水谷正義, 大森整 , 西口晃 , 岩木正 哉, 進藤久宜, 島崎景正: “ DLC皮膜と超精密金型の 密着性向上に果 た す表面改質加工面の効果”, 砥粒加工学会誌, 49, 3 (2005 )152. 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