建築系環境・情報マネージメントシステムに関する研究 (第3報) - 山下設計

I-1
建築系環境・情報マネージメントシステムに関する研究
(第3報)施設概要とエネルギー消費構成
Architectural Environment Design and Information System
(Part 3. Outline of facility and energy consumption)
正 会 員 ○市川 卓也(山下設計)
正 会 員
田辺 新一(早稲田大学)
正 会 員
島津 路郎(東洋熱工業)
正 会 員
渡辺 聡 (東洋熱工業)
学生会員
富樫 英介(早稲田大学)
学生会員
山本 佳嗣(早稲田大学)
Takuya ICHIKAWA*
Satoshi WATANABE*3
1
Shin-ichi TANABE*
Eisuke TOGASHI*2
2
Michiro SHIMAZU*3
Yoshihide YAMAMOTO*2
*1 Yamashita Sekkei Inc. *2 Waseda University *3 TONETS CORPORATION.
Many buildings with various energy saving technologies are currently introduced due to global
environmental concerns. The new Waseda Research Park Communication Center is equipped with building
control system with a Life Cycle Management (LCM) unit. This LCM unit monitors the actual effect of
energy saving technologies of the building, enabling rational and optimal operation and maintenance. This
report provides an outline of the facility and its energy consumption configuration.
1.はじめに
近年の地球環境問題を受け、
「環境配慮型建築」
、
「省エ
ネルギー建築」として様々な技術を導入した建物が増え
てきている。
早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンター
(以下 WRPC)では、
「周辺の自然環境と応答し、自然
の原理を尊重した持続性のある空間システムの構築」を
課題とし、空間構成・外皮・構造体・設備システムとい
った建物の構成要素全てを「環境共生」を行うための道
具と位置付け、統合化することを試みた。また、それら
の効果の検証・最適運用の模索・維持管理の合理化を目
指すため、ライフサイクルマネジメント(Life Cycle
Management、以下 LCM)システムを中央監視設備に
付加している。
本報では、他報で解析・評価を行っている施設の概要
紹介および施設全体のエネルギー消費構成等について報
告する。
2.建築概要
WRPC の建築概要を表-1 に、基準階平面図を図-1 に
示す。自然環境に恵まれた立地条件において建物内から
外部の自然が見える「ガラス質の建物」であることを必
要条件とし、熱負荷を低減するために建築計画としても
様々な配慮を行った(表-3 参照)
。
また、多角的なコミュニケーションと共用部の自然換
気を誘発するために、吹抜や階段室を連続させた空間構
成となっている。
表-1 建築概要
建物名称
建築主
所在地
敷地面積
建築面積
延床面積
構
造
階
数
最高高さ
階
高
施工期間
用
早稲田大学 93 号館
早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンター
(学) 早稲田大学
埼玉県本庄市
5,107.36 ㎡
2,094.07 ㎡
6,646.59 ㎡
鉄筋コンクリート造
地上 4 階,塔屋 1 階
南側外観
18,425mm
4,500mm
2002 年 11 月
~2004 年 2 月
大学
途
PAL 値
講義室・図書室
事務室・食堂
296MJ/㎡・年
(学校基準 320)
北西側外観
専用部
講義室・ゼミ室
講義室・ゼミ室
共用部
コア部
開発支援室
コア
開発支援室
N
コ
ア
オープン
ラウンジ
レクチャールーム
技術交流コーナー
開発支援室
0
10
20
30m
図-1 基準平面図(4 階)
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2005.8.9 〜 11(札幌)}
-633-
I-1
表-2 空調設備概要
3.設備概要
空調熱源の冷媒は自然冷媒であるアンモニアを採用し
た。一次側はブライン循環による蓄熱/追掛け運転の切
替えを行っており、冷房期は氷蓄熱、暖房期は温水蓄熱
を行っている。ブライン系統の熱交換器に小流量ポンプ
を設置し、蓄熱時における空調負荷対応を行っている。
表-2 に概略の空調設備概要、
図-2 に熱源廻りのフローを
示す。
アンモニア冷媒空冷ヒートポンプチラー×3 基
(1 基の定格能力:
製氷 122.1kW,冷却 196.2kW,加熱 199.9kW)
夜間電力利用による氷・温水蓄熱の切替え
FRP 複合板パネル 外融ブライン方式
(容量:78.87ton 蓄熱量:12,804MJ IPF:0.46)
AHU による単一ダクト方式(シングルコイル)
一部ファンコイルユニット(2 方向カセット型)
共用部:自然換気と第2種換気のハイブリッド
(地下ピットより導入、屋上トップライトにて排気)
ローカルを BACnet 及び LONWORKS、上位を TCP/IP
にて通信。
熱量・電力量・給水量・外乱条件の 1 分・10 分・1 時間
データを蓄積し、任意にグラフ化が可能。
機器の累積運転時間管理、取扱説明の PDF データ等。
熱源設備
蓄熱槽
空調設備
換気設備
自動制御
中央監視
氷蓄熱槽
アンモニア冷凍機
LCM
システム
ブライン系統
表-3 環境配慮項目
小流量ポンプ
熱交換器
外表面積を減らすために正方形の平面形状を採用
北面:ペアガラス
南・東面:縦型外ルーバー
西面:断熱壁
屋根面 :屋上緑化
外周面に共用部を配置して熱的緩衝帯を構築
建物全体で自然換気が行える動線・吹抜を設定
自然冷媒の採用
・アンモニア冷媒ヒートポンプチラー(空調主熱源)
・CO2冷媒ヒートポンプ給湯機(厨房給湯系統)
自然採光、調光制御、人感センサー
クールピットからの外気導入、外気導入量制御
余剰外気のカスケード利用
大温度差搬送、冷温水変流量制御(VWV)
HP給湯機の冷排熱利用
氷蓄熱システム
NAS電池(出力100kW,6kVにて系統連係)
HP給湯機の夜間貯湯(3000L×2基,厨房のみに使用)
雨水の中水利用、雨水浸透管、節水器具
スケルトン・インフィルの明確化(梁貫通ゼロ)
生ゴミのコンポスト化
熱交換器
熱負荷抑制
共用部系統
専用部系統
オゾン層保護
温暖化防止
図-2 熱源廻りフロー
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2005.8.9 〜 11(札幌)}
-634-
省エネルギー
電力負荷平準
水資源の保護
廃棄物の削減
売店 0.7%
エコキュート 1.6%
衛生 0.7%
NAS
照明
電池
9.0%
厨房
7.8%
コンセント
6.6%
9.0%
換気
ファン 5.4%
空調
[空気搬送]
14.0%
空調
[水搬送]
14.2%
※ NAS 電池は補
機電力及び蓄電
ロスを示す
熱源 30.9%
年間 1,173MWh(176.5kWh/㎡・年)
一次エネルギー換算:1,735MJ/㎡・年
図-3 年間エネルギー比率(電力量)
(2004年度)
140
専用部負荷
共用部負荷
120
空調負荷[MJ/㎡・月]
4.環境配慮項目
WRPC において採用した環境配慮項目を表-3 に示す。
設計では、
「周辺の自然環境と応答し、自然の原理を尊重
した持続性のある空間システムを構築すること」を基本
的な課題とした。そのため、自然エネルギーの転換利用
である太陽光発電や風力発電は採用していない。また、
空調主熱源の冷媒をアンモニア、給湯用ヒートポンプの
冷媒を CO2 とし、自然冷媒の採用を行っている。
5.年間のエネルギー構成比
2004 年度の使用エネルギー(電力量)の構成を図-3
に示す。
当施設は厨房機器用にのみ都市ガスを引き込んでいる
が、そのエネルギーに関しては除外しているため、それ
以外は全て電力量にて使用エネルギー量を把握できる。
また、売店は 12 月より入居しているため、使用エネル
ギー量は少ない。一般的な施設と比較して照明エネルギ
ーが小さいことが分かる。逆に空調の熱源および搬送で
約 60%を占めており、全体のエネルギー使用量を押し上
げている傾向にある。
6.専用部と共用部の空調単位負荷
2004 年度の月別専用部・共用部の空調単位負荷を図-4
に示す。
当施設の空調面積は、専用部 3,047 ㎡、共用部 1,270
㎡となっており、特に冷房時に共用部の負荷が大きくな
っている。また、学校の運用特性上、8 月の負荷は比較
的小さい。しかし、7 月~9 月の共用部負荷が突出して
いるため、今後は共用部の設定温度を調整し、施設全体
のエネルギー使用量削減を図る必要がある。
100
80
60
40
20
0
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
図-4 月別空調単位負荷(2004年度)
2月
3月
I-1
2,500
熱源機
貯湯槽
20
15
蓄熱量
10
500
5
0
0
蓄熱量(GJ)
熱量(MJ/h)
共用部負荷
専用部負荷
500
製
造 1,000
熱
量 1,500
HP-1-1熱量
HP-1-2熱量
HP-1-3熱量
製造熱量 18,502MJ
2,000
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 0
時刻
図-5 夏期ピーク負荷日の蓄放熱状態(2004年7月20日)
25
2,500
負荷側熱量 11,000MJ
負 2,000
荷
熱 1,500
量
1,000
共用部負荷
専用部負荷
5
0
0
HP-1-1熱量
HP-1-3熱量
HP-1-2熱量
製造熱量 12,540MJ
2,000
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 0
時刻
図-6 冬期代表日の蓄放熱状態(2004年12月27日)
1.25
(a)製造熱量
0.91 0.92
400
0.77
0.88
300
1.07
(b)負荷側熱量
0.87
0.78 (b)/(a)
0.92 0.94
0.93
0.75
0.59
200
1.00
0.50
0.42
100
0.25
0
0.00
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
図-7 月別製造・負荷側熱量の比較(2004年度)
ファン
電気室
冷風
機械室
温風
熱源機
貯湯槽
図-8 給湯機冷排熱利用のイメージ
4.0
電気室排熱
利用時のCOP
成績係数:COP
3.5
3.0
メーカー値
によるCOP
2.5
同時刻の外気温度で
運転した場合のCOP
0
10
20
給気温度(℃)
30
40
図-9 給湯機の給気温度による COP の変化
(メーカー技術資料と 2005 年 1 月 14 日実測値による)
比率[(b)/(a)]
500
1.5
-10
-635-
蓄熱量(GJ)
10
2.0
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2005.8.9 〜 11(札幌)}
15
蓄熱量
熱量(MJ/h)
空冷ヒートポンプ式電気給湯器
電
源:3φ200V 7.8kW
加 熱 能 力:24.1kW(外気温 15℃、COP=3.1)
ファン風量:12,000m3/h(6,000m3/h×2 基)
使 用 冷 媒:二酸化炭素(CO2)
貯 湯 量:3000L(500L×6 本)
貯 湯 温 度:90℃
20
500
製 500
造
熱 1,000
量
1,500
表-4 WRPC に導入した HP 給湯器の仕様
型 式
25
負荷側熱量 20,264MJ
負 2,000
荷
熱 1,500
量
1,000
熱量[GJ]
7.夏期及び冬期の蓄放熱状態
夏期のピーク日においては、空調立ち上り時に 2 台の
ヒートポンプチラーにより追掛け運転を一時的に行い、
日中は 1 台のみの追掛け運転を行っている。追掛け運転
の熱源機を定格運転とし、蓄熱槽放熱分にて総負荷に対
する追従を行い、効率的な運転を行っている。18 時に蓄
熱分を使い切り、以降 3 台のチラーにより対応を行って
いる。また、建物西面に壁を多く配置しているため、16
時以降の共用部負荷は比較的小さくなっていることが分
かる(図-5 参照)
。
冬期は立ち上り 2 時間で温蓄分を使い切り、以降チラ
ーにより追掛け運転を行っている。温水蓄熱は 3 時間程
度で満蓄となっている(図-6 参照)
。
8.月別製造熱量および負荷側熱量
月別の製造熱量、負荷側熱量およびその比率を図-7 に
示す。
負荷側熱量は製造熱量に比べて小さくなっているが、
原因として搬送ポンプの熱の拾いと蓄熱ロス・配管ロス
が考えられる。10・11 月に比率が小さいのは全体負荷に
対するこれらのロスの比率が高いためと推測される。ま
た、2004 年度の熱源の冷房への切り替えは 4 月 26 日、
暖房への切り替えは 11 月 12 日であり、冷房時での差の
方が大きい傾向にある。
9.給湯機の冷排熱利用
表-4 に WRPC に導入したヒートポンプ給湯器(2 台)
の仕様を示す。
厨房給湯用に設置した空冷式の CO2 冷媒ヒートポン
プ給湯器は熱源機と貯湯槽で構成され、熱源機により大
気から熱を奪い、その熱で水を昇温させて貯湯するシス
テムである。温熱を製造する熱源機の排気温度は給気温
度より低くなる。ここではこの冷風を常時発熱している
電気室の冷却用として利用し、電気室冷却用パッケージ
エアコンの運転時間削減を行っている。同時に電気室の
温排熱は給湯器の COP を向上させるのために熱源機に
供給するシステムを組み、排熱の有効利用を図っている
(図-8 参照)
。更に、熱源機への給気は電気室内の温度
と外気温度とを比較し、温度の高い空気を熱源機に供給
するシステムも組まれている。
特に冬期において効力を発揮し外気温よりも高い温度
の空気を熱源機に供給できるため、給湯器の COP が向
上している(図-9 参照)
。
I-1
10.LCMシステム
中央監視設備はオープンネットワークで構築されたマ
ルチベンダー対応BAシステムである。熱源空調設備、
衛生設備(各種ポンプ、給湯器等)
、電気設備(電力量、
電源電圧等)のローカル通信では LONWORKS を、照明
制御では BACnet を採用し、ユーザーが各ベンダーから
自由に最適接続機器を選択することが可能である。上位
ネットワークは標準のLANプロトコル TCP/IP で通信
を行っている(図-10 参照)
。
中央監視設備の付加要素として「LCMシステム」を
導入した。このシステムは各設備機器の仕様書や取扱説
明等の PDF データ、各機器の運転状況、累積運転時間
はもとより、建物で使用している熱量(温度×流量)
・
電力量・給水量、室内環境および外乱条件(内外温湿度・
日射量・外部風速等)について 1 分・10 分・1 時間毎の
アナログ値・デジタル値・発停状態をサーバーに記録、
蓄積するものである。また、LCM システムには蓄積さ
れたデータを解析し、的確な評価を行うためのデータ推
移の可視化、集計機能などのサポートツールが含まれて
おり、各導入システムの検証、最適運用の模索、維持管
理の合理化を目指している(図-11 参照)
。
環境・情報分野の大学施設ということもあり、蓄積さ
れたデータにより建物そのものが研究材料となる。LCM
システムが存在することにより「解析→評価→修正→検
証」の運用を見直すサイクルを実際に検討していくこと
のできる施設になると思われる。
11.WEBサイト
早稲田大学田辺研究室では、WRPC の LCM データを
逐次吸い上げられるシステムが構成されている。その
LCM データから得た建物の基本的な運転状況と外乱デ
ータ(外気温湿度・日射量・外部風速・降雨量)等を
WRPC の環境情報として研究室のホームページにて公
開している(図-12 参照)
。当サイトはリアルタイムデー
タを表示するのみではなく、学生の研究成果である自然
換気の実測結果や BEMS データの解析結果を環境情報
として共有できるようにしている。
12.まとめ
早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンター
の施設概要とエネルギー消費実態について報告した。ま
た、ヒートポンプ給湯機の冷排熱と電気室の発熱を交換
してヒートポンプ給湯機の COP 向上を確認することが
できた。今後はこれらのデータを実運用にフィードバッ
クし、運用改善を行ってその効果の把握を行っていく予
定である。
大学研究室
上位ネットワーク
中央監視設備
LCM システム
データ
収集
サーバ
監視装置(MCU)
監視/管理/設定
LCM
システム
FTP サーバ
ルータ
プリンタ
TCP/IP
LonTalk
BACnet
熱源空調設備
電気設備
照明設備
ローカルネットワーク
防犯設備
遠隔監視
移報装置
本庄キャンパス
防災センター
公衆回線
設備警報受信
携帯電話
緊急通報
凡 例
上位通信
TCP/IP
ローカル
通信
LonTalk
ローカル
直配線
図-10 中央監視・LCM システム系統
図-11 任意トレンド画面
【謝辞】本研究は早稲田大学環境総研のプロジェクトの一環と
して行われました。本研究にあたり、早稲田大学総合企画部を
はじめ関係各位に多大なるご協力を頂きました。ここに記して
http://www.tanabe.arch.waseda.ac.jp/honjo/honjo_web.html
図-12 環境情報WEBサイト
感謝の意を表します。
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2005.8.9 〜 11(札幌)}
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