鎌田勝雄先生の逝去を悼む 日本平滑筋学会評議委員で第 53 回日本

鎌田勝雄先生の逝去を悼む
日本平滑筋学会評議委員で第 53 回日本平滑筋学会総会会長 星薬科大学医薬品化学研
究所機能形態研究室教授鎌田勝雄先生は、病気療養中のところ平成 23 年 4 月 30 日逝去さ
れました。63 歳でした。ここに謹んで哀悼の意を表します。
鎌田勝雄先生は、昭和 22 年 11 月 10 日に鹿児島県種子島で出生されました。昭和 46 年
熊本大学薬学部を卒業後、
昭和 48 年同大学大学院薬学系研究科修士課程を修了されました。
その後、東京大学大学院薬学系研究科博士課程に進学され、粕谷 豊先生が設立された薬
学部附属薬害研究施設薬害作用部門にて研鑽を積まれ、昭和 52 年 3 月に、
「ラット胃の慢
性的自律神経切断による薬物感受性および胃条片運動の変化」で薬学博士の学位を授与さ
れました。
薬学博士の学位取得後は、
昭和 53 年 2 月から 7 年以上に亘り名城大学薬学部で助手を勤
められ、この間、米国インディアナ大学に 2 年間留学されています。帰国の翌年昭和 60
年 7 月には、東京大学薬学部薬品作用学教室の助手になられ、昭和 61 年 4 月、講師として
粕谷先生と共に星薬科大学に移られました。平成 5 年 10 月には、助教授として同大学医薬
品化学研究所機能形態研究室を立ち上げられ、平成 13 年 4 月同教室教授に就任されました。
鎌田先生の研究では、星薬科大学で展開された『糖尿病に伴う血管障害機構に関する研
究』があまりにも有名で、数多くの優れた業績は国内外の研究者に広く知られているとこ
ろです。しかし、研究室のホームページでも紹介されているように、自律神経・中枢神経
系・生理活性物質の薬理研究でも非常に優れた業績を残されています。そのひとつが、非
ア ド レ ナ リ ン 非 コ リ ン 作 動 性 神 経 (NANC nerves) に お け る vasoactive intestinal
polypeptide (VIP)の役割の解明であり、鎌田先生はこの業績により第 2 回日本薬理学会学
術奨励賞を受賞されています。また、鎌田先生の恩師である粕谷先生のライフワークのひ
とつであった血小板活性化因子(PAF)の研究でも画期的な論文を発表されており、詳細が不
明であった PAF の降圧作用に関わる一機序を見事に解明されています。
鎌田先生の代名詞とも言える糖尿病関連の研究は、星薬科大学に移動されたのを契機に
開始されたように記憶しています。当時は、Furchgott 博士が発見した血管内皮の新しい
役割と血管内皮由来弛緩因子(EDRF)が一体如何なる物質であるかという疑問に世界中の生
理学者・薬理学者が興味を抱いていた時期でもあります。鎌田先生は、既にこの時期に、
糖尿病性の血管障害(動脈硬化)と内皮由来弛緩因子の活性低下との関連性に思いを巡ら
されていたものと想像されますが、
「糖尿病モデル動物での内皮依存性弛緩反応の低下」の
発見を皮切りに、血管内皮の機能障害が起点となって進展する糖尿病性血管病変の仕組み
を次々と解明されました。これらの研究成果は、The Journal of Pharmacology and
Experimental Therapeutics、British Journal of Pharmacology、Atherosclerosis、American
Journal of Physiology、The Journal of Clinical Investigation、Circulation など、
一流国際誌に掲載されており、鎌田先生の研究の独創性ならびに質の高さを示すものであ
りましょう。また、PubMed で検索したところ、鎌田先生が執筆された論文は星薬科大学で
の 24 年間(1987~2010 年)で 140 報以上、単純計算でも年 6 報となり、こちらも驚くべ
き数といえます。
鎌田先生は研究者としても超一流でありましたが、若手研究者の育成においても卓越し
た指導力を発揮されました。私の知るだけでも、宮田則之博士(現大正製薬)、牧野綾子博
士(現イリノイ大学)
、小林恒雄博士(現星薬科大学)、松本貴之博士(現星薬科大学)
、田
口久美子博士(現星薬科大学)らが鎌田先生の研究室から輩出しています。小林博士、松
本博士、牧野博士の 3 名もの先生が栗山熙賞(第 1 回、3 回、7 回)を受賞されていること
は称賛に値します。
鎌田先生に最初にお会いしたのは、私が大学院修士課程の 2 年生で、先生が名城大学か
ら東京大学に移られたときでした。それ以来、既に 25 年が経過し、これまでに様々な局面
で鎌田先生には大変お世話になりました。鎌田先生の研究室にも何度か伺わせていただく
機会がありましたが、兎に角、実験を開始してから論文として仕立てあげてしまうまでが
極めて速かったという印象を持っています。物事の本質を鋭く見抜く力に秀でた先生であ
ったからこそ成し得たペースであり、この驚嘆すべき鎌田先生のペースは、私には決して
真似できないものでした。こうしていると、
「芳夫、もっともっと論文を書きなさい」とい
う先生の叱咤激励が、聞こえているような気がします。
昨年静岡で開催された薬理学会関東部会が、鎌田先生とお会いした最後の機会になって
しまいました。その時は、
「検査値もほとんど正常値に戻ったよ」と笑顔でお話しされてい
ましたので、1 年足らずで先生の訃報に接するとは全く予想だにしないことでした。鎌田
先生の足跡を辿ってみますと、日本平滑筋学会が失ったものの大きさがひしひしと感じら
れます。ここに、平滑筋研究をこよなく愛し、日本平滑筋学会に多大な貢献をされました
鎌田勝雄先生に衷心より感謝の念を捧げますとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。
東邦大学薬学部薬理学教室
田
中 芳 夫
TEL&FAX:047-472-1419
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