中国にある日本企業について はじめに 背景 日本経済が長く低迷する中、隣国中国は対照的に急速な経済発展を遂げつつ あります。 13 億の人口、豊富な資源を抱える中国は、今や日本企業にとっても地球上 に残された最後で最大のビジネス相手国になっています。多くの企業が中国と のビジネスに参入し、そして現実に収益を上げています。中国ビジネスを通じ て企業の再生・発展をはかる――それが現実のものとなっているのです。 1.中国経済の現状と将来 1990年代後半より、中国は「世界の工場」として大きな注目を受けてきま した。03年には年間4万社以上の外資企業の進出があり(実行投資金額約5 兆円)「SARS」や「電力不足問題」にもかかわらず、9%以上の経済成長 を果たしたことは「中国経済が揺ぎない成長軌道に乗っている証左であろう」 と思われます。 携帯電話の普及台数は2億5千万台を超え、インターネット人口約8千万人、 04年の自動車の生産予測台数5百万台と、現在の中国は「世界の工場」とし てより「世界の市場」としての視点で考察する必要があるのではないでしょう か。 2008年には「北京オリンピック」、2010年には「上海万国博覧会」の 実施が決定しおり、今後数年間の経済成長は疑いの余地はありません。10後 には日本を抜いて、アメリカに次ぐ「世界第2位の貿易国に発展する」との 予測もされております 中国に進出している日系企業は、駐在員事務所を含めると、現在 3 万社を突破 したといわれている。図 1 は 1990 年~2000 年の東アジアにおける日系企業 の現地法人数の推移であるが、10 年間という期間で見ると東アジア全体への 進出は 2.4 倍であるのに対して、中国への進出企業は実に 11.4 倍となってお り、文字どおり急増していることが分かるだろう。 図 1 日本企業の東アジアにおける海外現地法人数とその構成割合の推移 (経済産業省の「2003 年の通商白書」より)。なお、図中の NIEs とはア ジア NIEs(韓国、台湾、香港、シンガポール)のこと、ASEAN4 はタイ、 インドネシア、マレーシア、フィリピンを指す 同時に、中国に居住する日本人も急増している。外務省の発表によると昨年、 海外に長期滞在している日本人は 87 万人おり、対前年比 4.3%増で過去最高 を更新したという。日系人の多いブラジルを除くとアメリカ(31 万 6000 人) に次いで中国は 2 番目であり 6 万 4000 人もの日本人が長期滞在している。前 年が 5 万 3000 人であったのに対して、実に 20%増という急増ぶりである。 中国に進出している日本大手企業 事業分 記 企業名 進出地 詳 細 内 容 録 野 新日鉄、 世界の鉄鋼大手である宝山鋼鉄公司、新日鉄、アルセロール社は 自動車 ア ル セ 上海市 23 日午後、世界トップレベルの自動車用鋼板メーカーを合弁で上 鋼板 ロール 海に設立すると発表した。投資総額は 65 億元。 日本のオークマ株式会社と北京第一机床廠とが共同出資で、国内 最大の合弁工作機械メーカーである北一大隈(北京)机床有限公 オ ー ク 工 作 機 司が 8 日、北京市順義区林河開発区で本格的な生産を開始した。 北京市 マ 械 資本金は 1 億 880 万元。同社は NC(数値制御)旋盤など 3 機種 の工作機械を生産し、将来的には年産 1 千台、売上高 8 億元が見 込まれる。 富士通はこのほど、情報技術(IT)ビジネスを統括?推進する新会 情報シ 富士通 上海市 社―「富士通(中国)信息系統有限公司」を上海に設立した。北 ステム 京、西安、南京、香港につぎ 5 社目。富士通グループは過去 20 年 間で 5 億ドルを超える対中投資を行った。今回の新会社設立は、 富士通による投資拡大と積極的なビジネス展開を示すものとして 注目される。 東風と日産の合弁企業である東風汽車公司は資本金は 167 億元、 従業員数は 7 万 4 千人、製品は商用車から乗用車、自動車部品、 湖北省武 日産 自動車 自動車設備などにわたる。2007 年までに販売台数と売上を 2003 漢市 年より倍増させ、営業利益を 80 億元とする中期事業計画も発表し た。 小松製作所は山東省の建設機械メーカーである山推公司と合弁 小 松 製山東省済建 設 機 で、掘削機メーカーの生産を始めた。近い将来、年間生産額は 20 作所 寧市 械 億元を見込んでいる。 佐川急便は住友商事、京泰実業(集団)有限公司と共同出資で、 北京に合弁会社を設立した。新会社名は北京住商佐川急便物流有 限公司であり、小荷物の宅配を中心に北京地区の物流市場を開拓 佐 川 急 するとともに、市内と域外の普通貨物輸送、貨物エクスプレス、 北京市 物流 便 冷蔵?冷凍輸送、コンテナ輸送、国内貨物代理、貨物倉庫、物流コ ンサルティングなどのサービスも提供する。北京に 10 カ所の中継 拠点を設置し、全域で 24 時間内の宅配サービスを行なう。同社は 将来的に全国網羅を目指す。 日本の京セラ株式会社は天津一軽集団公司との合弁会社―「京セ ラ(天津)商貿公司」を設立した。同社は外資系企業として初め 製 品 販 て中国での商業貿易業務に関する商務部の認可を受けた。新会社 京セラ 天津市 売 は中国域内で生産された製品の販売権と、京セラ全製品の輸入販 売権を取得した。北京、天津、上海、広州、武漢、西安、成都、 瀋陽などに販売網を確立し、初年度売上高 8 億元を目指す。 ホンダは湖北省武漢市に東風ホンダ汽車を設立した。新会社では、 武漢万通が所有していた工場を改造し、ホンダブランドの自動車 湖北省武 を生産 する予 定。 2004 年上 半期 から多 機能型 オフロ ー ド 車 ホンダ 自動車 漢市 「CR-V」の生産を開始し、年間生産台数 3 万台を目指す。このほ か、ホンダの広州合弁自動車企業ー広州本田汽車公司では、今年 に 11 万台の乗用車生産販売を目指している。 無錫市にブリヂストンが投資するブリヂストンタイヤ有限公司 が、来年操業に入る。年間 274 万本の子午線タイヤを生産できる ブ リ ヂ江蘇省無 タイヤ ストン 錫市 という。これにより、無錫に進出している日系企業は 120 社を超 え、投資総額も 15 億ドルに達した。 三菱自動車(株)は中国マーケットへ、「在中販売拠点拡大戦略」 を打ち出したーー1、今後の四年間において、販売店を 300 社に拡 大すること。2、中国向けの自動車の 90%を中国で生産すること。 三菱 中国 自動車 3、瀋陽航空三菱エンジン製造工場、ハルビン東安エンジン製造工 場のエンジン生産量を、現在の 2 倍に増やし、30 万台に達するこ と。4、2007 年までに 30 万台の売り上げ(2002 年の 4 倍)に達 し、中国マーケットでのシェアを 5%まで引き上げること。 浙 江 省 杭 ノ ー ト 東芝はこのほど、東芝情報機器(杭州)有限公司が生産体制に入 東芝 州市市 パ ソ コ ったと発表した。同公司は今後、東芝グループの世界市場向けノ ン ートパソコンの生産拠点となる。初年に 75 万台を、将来的には 200 万台を生産する計画。 日本生命保険は中国の生命保険市場に進出することを目指してい る。このほど、上海広電(集団)有限公司と合弁で、 「広電日生人 日 本 生 生命保 上海市 寿保険有限公司」を設立した。新会社は上海広電のネットワーク 命保険 険 と日本生命保険の豊かなノウハウ及び技術を生かし、急成長を遂 げている中国の生命保険市場へ参入することを立てる。 日商岩井は中国大連で合弁企業―「大連翔祥食品有限公司」を設 日 商 岩 遼 寧 省 大 マ グ ロ 立し、マグロ超低温加工事業を展開する。新会社への投資総額は 井 連市 加工 860 万ドルで、出資比率は中国側 49%、日本側 51%、加工能力は 年間 1 千 500 トン。 東芝はこのほど、大手洗濯機メーカーの小天鵝と合弁で、江蘇省 無錫市に新会社「東芝洗衣機(無錫)有限公司」 (洗衣機は洗濯機 江蘇省無 東芝 洗濯機 の意)を設立した。新会社は洗濯機、衣類乾燥剤、その他部品の 錫市 生産と販売、アフターサービスを手掛ける。出資比率は日本側 75%、中国側 25%。 1995 年に済南市で設立され、日中双方がそれぞれ 50%を出資す る中国唯一のカラーテレビ合弁企業ー山東松下映像産業有限公司 山東省済 は、「Panasonic」ブランドのカラーテレビやその他映像製品を製 松下 テレビ 南市 造販売し、松下にとっては第 5 番目の海外カラーテレビ生産拠点 となる。これまでに、松下は中国で合弁企業?全額出資企業 45 社 を設立している。 日立はこのほど、海信グループと合弁で、海信?日立ビジネス用エ アコンシステム有限会社を発足させた。工場は青島経済技術開発 山東省青エ ア コ 日立 区の海信情報産業ゾーンにある。中国では、都市建設の急速な発 島市 ン 展と不動産業の繁栄に従い、ビジネス用エアコン市場のニーズも 急増している。 ソニーグループは中国事業をグループの 4 番目の柱に目指してい る。今年に入ってからは、江蘇省の無錫に「生産デザインセンタ ー」、上海に「ソフトデザイン開発部」、大連に「情報システムプ 総合業 ソニー 北京市 ラン研究開発部門」をそれぞれ設立。さらに深センには、中国に 務 おける部品仕入センター「索尼国際採購(深セン)有限公司」を 設立している。なお、同グループの中国?韓国地域業務管理部門を すでに北京に移した。 日本のライオン株式会社が出資する青島獅王日用化工有限公司 山東省青 (青島ライオン)はこのほど、現行の生産力を 3 倍に増大させる イオン 化工 島市 ため、新たに 5 億 5 千万円を投資することを決定した。10 月から 拡張工事を始め、2003 年 11 月に操業開始の予定。 中国の第一汽車とトヨタ自動車の提携内容は、中?高級乗用車、小 吉林省長 型車、SUV(スポーツ用多目的車)生産での協力で、2010 年ごろ トヨタ 自動車 春市 までに年産 30~40 万台を目指す。なお、トヨタ自動車は天津にも 合弁企業、天津トヨタ自動車製作工場がある。 NTT 中国 日立物 流 上海市 シャー プ 中国 NTT データは中国の郵便テレフォン?バンキング取引システム、 郵便金融仲介業務プラットフォームなどの開発にも参与してお り、中国市場向けの電子政府ソフト?システムを開発中といわれて 情報技 いる。現在、中国の中小企業の数は企業総数の 99%を占めている 術 が、企業内部の情報化管理システムを導入した企業の数は半分以 下で、ERP、CRW などの専門情報化システム?ソフトを応用した 企業はほんのわずかしかない。 日立物流が上海航空の子会社、大航国際貨運有限公司に資本参加 する。大航国際貨運有限公司は、1993 年に設立した貿易と航空運 物流 輸が主な業務を取り扱う合弁会社で、上海地区で短距離運送と国 際運送業務の代理業務を行っている。 シャープ社は 2004 年の中国での販売額が 2001 年の 3 倍相当の 3500 億円になるため、中国で生産する製品の地元発売率を現在の 電子機 40%から 60%に向上させることを計画している。液晶テレビと複写 器 機のほか、携帯電話と太陽エネルギー電池の販売を拡大する。目 下、シャープ社は中国でカラーテレビなどの 17 種類の製品を生産 している。その他、液晶と電子部品の生産も始めた。 2.日本企業の対中直接投資 2001 年度の中国への直接投資は 95 年以来の最高記録に達した。特に前(2000 年)との比較において日本の対中直接投資は、世界のどの地域よりも顕著な増 加ぶりを示しており、大幅増だった香港・台湾などをも大きく上回り 49%増 (中国政府の統計値)となった。2001 年度における先進諸国の対外直接投資 (すべての地域を対象)が一概に大幅な減少(約 51%と半減)している中、 日本からの対外直接投資だけは 22.1%の増加を示している(『ジェトロセンサ ー』2002.10)ことも、同年の中国への投資増と一致している。2001 年におけ る日本からの対中直接投資額は 2000 億円規模に近づいており、同年の日系企 業のアジアへの直接投資額の約四分の一(23.3%)を占めることになった。日 本企業の対中直接投資の主な特徴としては以下の 3 つが挙げられるだろう。 1製造業への投資が一貫して高く、近年は安定的に 70%(業種別で占める 割合)以上の水準で推移している。これは香港や欧米などの業種比と異なり、 労賃コストなどが安価な中国を"製造工場として活用する"性格が強く現れて いる。 2. 製造業向けの投資が高い比率を維持しながら業種的には従来の川下の 製品製造よりも"知識や資本集約度の高い製品製造"にシフトしつつあり、電機 向けの投資額が飛びぬけて高くなっている。 3. 近年における中国の投資環境の変化に応じ、2001 年の後半あたりから 世界全体の対中投資の流れに沿うように製造業以外の貿易・流通業、金融・保 険業、建設業、IT・ソフト開発関連や本社機能を果たせるような傘型企業など 進出が増え、"業種・企業規模を問わない対中投資の全面化・本格化"が開始さ れた。 さらに詳細に見てみると、①日系企業の対中投資規模の拡大により"一件ごと の投資額が大きい"こと ①投資と貿易の結びつきが強く"製品輸出が主流を占 めている"こと ①新規投資も多い上に"事業拡大型の増資や投資方式転換型の 投資"が多いこと ①日系企業の投資実行額が一般より高いこと ①最近では トヨタや日産の中国メーカーとの提携や合弁に見られるような、"進出の遅れ を取り戻すような多国籍企業の対中投資の急展開"も見られる。 総じて一般製造業を中心とした日本企業の対中投資は最近ハイテク産業や サービス産業分野などにも広がり対中投資の多元化と本格化が加速されてい る。 しかしながら、一方では必ずしもはっきりした目的を持たずに、ただ他社ある いは取引先が出たからということでいわゆる他社追随型の進出、あるいは単に 世の中の流行を追うようなケースも存在している。 3.中国東北部の開発と日本企業の役割 日本企業が中国に本格進出し始めてからほぼ 10 年、すでに約 17,000 件のプロ ジェクトが推進されている。上海、大連といった沿海の大都市ばかりではなく、ハル ピン、重慶等の内陸の各地域にも足跡が見られる。そして日本国内ではアジア経 済危機、あるいは中国の国有企業改革に伴う難しい問題等が過剰に意識され、進 出の成功、失敗が盛んに取り沙汰されている。ここでは、中国への本格進出 10 年 を経験した日本企業が、次の世紀に向けて「中国に進出するということは何か」を考 えていく場合の基本的な点を指摘していく。特に中国東北部は日本と至近の距離 にあることに加え、「基幹的」な産業群が集積している。さらに、歴史的、地勢学的 にも深い関係にあり、今後、いっそう相互の重大性を増すことはいうまでもない。日 本(企業)と中国東北部の 10 年を振り返ることにより、次の世紀のあり方を考えてい くことにしたい。 4.「輸出生産拠点の形成」の時代 日本企業のアジア進出の活発化は、70 年代初頭のドルショックとオイルショック を契機とする円高によるとされる。特に単純労働集約的で低コスト量産を基礎とす る繊維・衣服等、電気・電子等の組立部門等がアジア諸国地域の「安くて豊富な労 働力」を求めて進出していった。当初は近間の外国である韓国、台湾に展開したの だが、経済発展に伴う人件費の上昇等に直面すると、さらに ASEAN に移っていっ た。 この間、進出各社を追跡していくと、いずれの企業も将来の本命は中国だが、 中国は難しいとして後回しにしていた。だが、90 年代に入り、鄧小平の「南巡講話」 のあった 92 年からの数年間、爆発的に中国への進出を深めていく。92 年はわずか 1 年間で、79 年から 91 年までの累計の進出件数に匹敵するほどの進出となり、93 年にはさらに前年までの累計に匹敵するなど、90 年代前半から中盤の頃は「中国 投資ブーム」の時代を経験した。 5.ミニ日本の形成 この時代に日本企業の多くは、大連をはじめとする沿海の港湾条件の優れる 都市に進出した。そして広大な土地に工場を手当てし、安価な労働力を大量に調 達、そして、日本から投入する原材料を加工組立し、日本ないし第国に輸出した。 そのため、製品の品質は日本並みを求め、日本とほぼ同様のスタイルで生産・品 質管理を行おうとした。現地工場に日本の生産管理、品質管理のスタッフを常駐さ せ、厳しい管理体制をとっていた。それは、あたかも「ミニ日本」を作ろうとしていた かのようであった。 他方、中国は沿海地域の特定の場所に外資企業を誘導していく。この場合、外 資企業は完全に管理され、また誘導された地域も中国側の管理しやすい地域であ った。つまり、沿岸地域に輸出型外資企業を導入し、雇用と外貨の獲得を目指した のである。それは中国の国内産業の本流に重大な影響を与えることもなく、中国に とって十分にメリットのあるものであった。こうした外資導入政策の結果、97 年末に おける外資企業の中国進出プロジェクトは 305,873 件にも及び、また、外資企業に よる工業生産額は1兆 4 千億円に達している。これは中国の工業生産額の約 12.7%を占めている。日本企業の集中した東北の大連では、市長の口から「大連が ここまでこれたのは、日本企業のおかげ」とまで言われたのであった。 6.「基幹産業、国際化」の時代 だが、90 年代の中頃から中国の焦点が大きく変わる。従来の軽工業部門の「輸 出生産拠点」形成から、自動車、重電、産業用機械等の「基幹産業」というべき領域 にシフトする。そして「基幹産業」をめぐる交渉で、日本企業は意外な思いを深めて いるのである。 相手の国際化の枠組みの中で これまでの日本企業の中国進出の焦点は軽工業 品の「輸出生産拠点」形成にあり、決して「基幹産業」ではなく、また「国内市場」もな かった。もちろん、約 17,000 件とされた中国投資の中には、「基幹産業」「国内市場」 で実績を上げているケースもある。だが、圧倒的大多数は依然として軽工業の「輸 出生産拠点」形成なのである。そして、90 年代中盤以降、自動車、重電などの領域 で、思いもよらない結果に直面する。 例えば、乗用車部門においては、ようやくホンダが中国側の枠組みである「三大、 三小、三微」という 8 社のなかにもぐり込んだようだが、トヨタをはじめとする有力企 業は参入の糸口さえつかめていない。さらに、重電産業に関しては、21 世紀にまた がる世界最大級のプロジェクトとされる「三峡ダムプロジェクト」に関連して、日本の 重電産業はオールスターで対応したにもかかわらず、ABB、シーメンス等のヨーロッ パ勢に完敗した。 こうした事情を眺めていると、日本企業は「中国に進出することは何か」について、 十分な理解をしていないのではないかと思わざるをえない。 振り返るまでもなく、これまでも日本の基幹産業の企業が ASEAN などに進出し、 それなりの成果を上げている。その場合、どこの国でも「基幹産業」で「国内市場」と いう場合、必ず合弁を求めてくる。事実、日本側もそれに応じるわけだが、その場合 の合弁相手とは、大半が地元の不動産業、銀行であろう。もともと大半のアジアの 国々では自動車、重電、産業用機械等の機械産業は成立していない。いわば合弁 の相手は「素人」ということになる。そのため、経営戦略から具体的な経営管理の一 切を日本側が取り仕切ることになる。もちろん、現地生産のための困難は各所に横 たわっていよう。それでも、かなりの部分を日本側の意思で踏み越えていくことはで きる。 だが中国だけは違う。中国には全ての「基幹産業」に属する企業が存在している。 巨大な社会主義国、軍事教育を貫いてきた中国は、国家建設に関わる基本的な 「基幹産業」というべき部門を全て抱えているのである。 7.技術のベースを共有する そして、中国側が「基幹産業」「国内市場」部門で外資企業を呼び込む場合は、必 ず当該部門の中国企業との合弁を要求する。それは技術的に問題がある中国企 業のレベルを上げ、国産化の充実を狙っているからである。中国側企業の技術レ ベルの上昇に外資企業の側がどれだけが貢献できるのかが問われている。これま で ASEAN 等で自在に切り回してきた経験しかない日本企業は、レベルの低い中国 企業と合弁し、相手の技術レベルを引き上げていくことに協力するなどのイメージを 十分に描けないのであろう。こうしたことが、近年の「基幹産業」「国内市場」という 課題に応えられない背景となっている。 むしろ、中国進出の焦点が「基幹産業」「国内市場」に移ってきている現在、日本 企業の取るべき道は、相手の「国際化」の枠組みの中に入り、技術のベースとなる 部分を共有することである。日本企業は技術をを提供していくことに慎重だが、むし ろ、技術のベースとなる部分を積極的に提供し、中国企業の技術レベルの上昇に 貢献し、次の新しい可能性を求めるところに最大の価値を見出していくべきであろう。 技術は普遍的にみえるが、実際は歴史や文化に重大な影響を受けている。日本が 出し惜しみをしている間に欧米企業が果敢に進出し、技術のベースを共有化しつつ ある。そして、こうした事態が進行していくならば、日本が関われる余地はますます 小さくなっていく。 むしろ、一歩踏み込み、新たな可能性を追求して欲しい。近年、アジア・中国の現 場では「日本の技術はひ弱だ」と指摘されることが多い。アジア・中国の過酷な条件 の中で。新たな可能性を追求していくことが不可欠であろう。こうした開けた態度が、 将来、中国は大きく立ち上がっていく際に、日本の可能性をさらに高めていこう。ア ジア危機以降、日本企業のアジア、中国進出は停滞しているが、こうした企業にこ そ、一歩踏み込み、次の時代に向けての取り組みを進めていくべきだろう。 8.成功例として TOTO 日本なら誰でも知っているブランドですが、現在中国で大成功を収めている 日本企業の一つです。 中国沿岸部でのマンションブームにより、ものすごい勢いで現地での生活環境が変 わる中、水周りの設備関連にあたる浴槽、便器の市場も激烈な価格競争に入って います。この市場では早くからヨーロッパ、アメリカのメーカーが参入しており、また 中国で陶器の歴史的生産地でもある景徳鎮など安く質の高い現地メーカーなど競 争相手も 100 社以上存在し、後発で参入するのは非常に厳しい状況であったと思 われます。 そういった中、サンデープロジェクト「財部中国ルポ」でも紹介されていましたが、 TOTO は価格で勝負するのではなく、技術競争力の高い最高級製品「ウォシュレッ ト」で市場を開拓。当然、価格的にどの家庭でも購入することのできるものではなく、 購買力が高いといわれる上海でも一般家庭の共働き夫婦の月給を合わせた額以 上に相当するくらい高価な商品です。 この戦略に徹した事により、中国では TOTO=最高級ブランドの地位を確立し現在 中国でシェア No.1 となっています。実際、価格競争に巻き込まれた過去 NO.1 であ ったアメリカ企業は低価格商品に徹した為、ブランドイメージが低下しシェアを落とし てしまったようです。 また建設ブームとなっている高級マンションでも入居者の集客のために全室ウォシ ュレット付のマンションも登場。TOTO のウォシュレットが自宅にあるという事はひと つのステータスにまでなっています。 価格競争をせずに市場を拡大することができるのかが気になるところではあります が、中国の人口 13 億人のうち 1%でもシェアを取れば 1300 万人の顧客となり、日 本市場での 11%シェアに相当します。中国で 10%シェアをとるという事は日本での 100%シェアに等しいと考えることができるということです。日本とは比較にならない 規模を考えるとよくわかり、改めて非常に大きな市場であると感じさせられます。 WTO 加盟後さらに飛躍を続ける中国市場では若手経営者、ホワイトカラー層の高 収入取得者が右肩上がりに増え、高級な商品を求めるニーズはさらに高まっており、 そういった層が最も良い商品を購入する市場牽引力となっていることは間違いあり ません。本田技研工業の現地生産アコードが関税価格を含めた輸入車クラスの価 格(約 450 万円)でも高級車として売れている事実もそれを証明しています。 最高級のものを市場に投入し、話題性を持って知名度を上げ、ブランド力を高める。 値段が高くても最高級のものを求めている消費層がいる。数年前と比べても市場は 大きく変化している。という事を考えると日本企業にとって TOTO の成功は大きなヒ ントになるのではないでしょうか。 9.日本企業の中国プラントビジネスにおける課題 不透明化する中国市場 1997 年の三峡ダム発電、翌 98 年の同・送変電設備での日本企業の逸注が続い た。また 1997 年のアジア通貨危機後、一部でプラント案件が立ち上がる気配をみ せつつも、案件の凍結・延期が続いている。一方、国内では民間設備の縮小による 市場縮小などもあり、プラント企業は厳しい経営環境にある。 こうしたなか、上述のビッグプロジェクトでの敗退や、度重なる制度面での変更な どのため、中国におけるプラントビジネスについては見直し機運にある日本企業も 多い。 健闘する日本企業 中国が輸入した技術やプラントにおける、日本企業はおおむね 16~29%程度の シェアで推移している。日本と並ぶのは欧米であり、欧州は 28%程度、米国は 16%程 度であることをみると、日本企業は健闘しているともいえよう。 一方、中国ビジネスにおいて、各社とも実際には大きな苦労を強いられている。 受注段階では黒字であったものが、工事を経るにしたがって赤字かするといわれ、 中国ビジネスの特殊が指摘される。たとえば、工事段階では日本企業の役割は監 理のみであるにもかかわらず、ターンキー・リスクはとる契約のために追加コストが かさみ、赤字化したというものである(ターンキーとは、鍵を回せばすべての設備・ 機械が稼働する状態で引き渡すことをいう) このように、入り口のところでの健闘はあっても、出口のところで日本企業の思う ようなビジネスをなかなか展開しにくいのが中国市場である。 また、2001 年に開始される大 10 次五ヵ年計画でも、国家財政主導による大型プ ラントの整備案件は限定されたものとなろう。 国産化政策と大規模海外発注の減少 これだけではない。中国の進める技術市場政策や国有企業改革のなかで、プラ ントなど資本財は、国産化あるいは中国製の利用という方針がある こうしたなか、かつてのようにプラント一括で海外に発注するというケースが年 年減少している。一例を挙げると、発電設備などでは 1970 年代には 100 億円規模 でのターンキーでの発注が行われたが、90 年代に入ると 10 億円程度の海外調達 しか行わなくなっているとの報告もある。 このように中国ビジネスでは、近年、日本企業が得意とするターンキー一括請負 が展開しにくくなっている。 輸出市場という視点からの転換 中国でのプラントビジネスは、国産化政策などもあり、中国側の発注形態がた えず変化している。日欧米からの技術移転を受けて、国有企業のなかにも先進国 企業と互角に戦える企業も少数であるが出始めている。 こうした中国企業とまともに入札でぶつかると、外国企業は価格面でほぼ勝ち 目はない。したがって、日本から製品をすべて持ち出すような形態でのプラントビジ ネスは成立しにくくなってきている。 欧米企業は、早くから技術移転による現地生産などに取り組み、中国を生産拠 点化している。現地法人のスタッフなども、日本企業に比べて充実しているとされる。 何よりも、優秀な中国人技術者の囲い込み、日本企業と比べて格段に進んでいる。 現地の日本企業関係者によれば、日本はこの点で 10 年の遅れがあるとの指摘も あるという。 もちろん、日本企業も中国との合作・合弁事業を展開している。しかし、それはま だ端緒についたばかりであり、実際のマネジメントは日本人に依存するなど、コスト 上昇因も抱えている。 とはいえ、欧米企業による中国の拠点化、およびこれによる中国の商戦での有 利なポジシュンの獲得といった状況のなかで、日本企業も中国の拠点活用を位置 づけたうえで、中国商戦を考えることが必要となっている。 力をつけつつある中国企業のなかには、輸出者としての体制を整えているとこ ろもある。すでに、第三国市場でメーンコントラクターとして受注している企業もある。 このため日本企業は、第三国市場で競合することも十分ありうるなかで、現地のパ ートナーや有力中国企業の早い段階での囲い込むによって、競争優位を構築築す る必要がある。 こうしたなか、合弁先の経営を現地スタッフに委ねていき、中国市場でのビジネ スは彼らを中心に回そうという日本企業も、一部では出現しつつある。 中国ビジネスにおける利益創出の鍵 中国におけるプラントビジネスでは、日本からの設備輸出だけをもくろんでいたの では、十分な利益が確保できない可能性がある。むしろ、今後有利国企業との提携 や、現地合弁企業の自立化を積極的に働きかけ、利益は中国企業によって稼ぎ出 されるというビジネスモデルの構築も視野にいれることが重要となろう。 もちろん、制度面での未整備もあり、配当の海外送金やロイヤルティの支払い 遵守など課題も多い。したがって、中国政府との政府間交渉を通じて、日本企業が 不利な環境に置かれないよう、日本政府には主導的な役割が望まれる。 また、日本企業も個別プロジェクトで政府からの支援を期待するだけでなく、中 国が望む先端技術などの共同研究・開発なども含め、中国が魅力に感じる提案を 行い、実際のプロジェクト受注を図るといった工夫が求められる。 たとえば、ドイツは北京・上海新幹線の受注商戦のなかで、朱鎔基首相が関心 を持っているとされるリニア型車両の共同研究を中国側に提案した。そのための実 験線の建設に対する資金供与も考慮中ともいわれる。 このように、実用化段階に至っておらず、一見すると中国には時期早な技術で あっても、トップの関心に合わせて積極的な提案を行う点について、日本としても見 習うべき点があろう。仮にリニア型車両が北京・上海新幹線において中核技術とな らなくても、ドイツの技術やシステムが中国側に浸透することで、新幹線商談でも有 利な立場を築くことが可能となるからだ。 すでに述べたように、という中国の方針がある以上、日本からの輸出による売 り上げだけでなく、合弁事業からの配当といった複合的な利益創出が求められる。 13 億人という市場の大きさだけを見るのではなく、そこでどのように利益を出すの かについて、明確にすることが今求められている。 10.中国大連の紹介 東京から飛行機でわずか 3 時間、中国東北部の玄関口である大連市には日系 企業が 3000 社以上進出しており、長期在留の日本人は 2300 人以上、中国におけ る「日本人集住 5 大都市」の 1 つに数えられる。 1998 年には IT 企業の工業団地ともいうべきソフトウェアパークも設立され、欧米 系、日系などの IT 企業が集中している。同市には日本向けのオフショア開発を受託 する中国企業は 200 社程度あり、そこで日本向けの業務を行う IT エンジニアは 1 万人を超すといわれている。大連市最大のシステムインテグレータ(SI)、ソフトウェ ア事業者である大連華信計算機技術有限公司だけでも従業員は 1200 名にもなる という。 日本からの IT アウトソーシング受託に取り組む同市の注目すべき点は、同市の トップである市長の行動力だろう。現在の市長は 2004 年 2 月に市長就任直後、中 国の旧正月を返上してまずは日本を訪問し、トップセールスを行っている。 大連市の特筆すべき点はほかにもある。東京に日中間の IT サービスの橋渡しと なる「ブリッジ機構」を独自に設置していることだろう。2003 年 8 月、東京に設立され た大連市ソフトウェア産業日本事務所がそれだ。 日本企業との提携でソフト産業の拠点に 『新華網』大連10日付報道によると、アジア最大のソフト開発会社であるジャス トシステムが、大連理工大学との共同出資により大連佳思騰軟件有限公司を設立 した これはアメリカ、上海に次ぐジャストシステムの3番目の海外進出であり、新会 社は自然言語の研究開発とジャストシステムからの委託開発業務を行う予定。 ジャストシステムをはじめとし、最近は日本のソフト関連企業が大連企業との提 携を強めている。昨年から現在までで70社以上の日本企業が視察に訪れ、松下 通信、三菱情報、アルパインなどの大企業が大連にソフト開発基地を置いている。 また大連では50社以上のソフト関連企業が日本企業と協力関係にある。最近の 大連ではソフト産業の発展が目覚しく、特にソフトの対日輸出が優勢である。 大連が日本のソフト企業に好まれる理由は、大連には日本語のできる人材が多 いことや、近年、一部の大学でソフト関連学部の新設が相次ぎ、人材が豊富である こと。また、大連の街の美しさ、整ったインフラ、日本からの交通の便利さなどが挙 げられる。
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