事例 中学校 数学科 第1学年 「1次方程式」 テーマ 「数学的な見方や考え方を育てるための授業展開の工夫改善」 ・根拠を明確にして考察することについての児童生徒の実態把握 授業改善の ポイント ・根拠を明確にして表現する場の位置付け ・聞き手に分かりやすい発言の仕方 ・単位時間における練り上げの視点の明確化 1 学習状況の把握と分析 学習状況の把握 「平成16年度 岐阜県における児童生徒の学習状況調査」の小学校第6学年算数を用いて、 「数 と計算」領域の1 2から学習状況を把握した。 問 題 領 大 番号 域 問 小 通 問 番 1 1 1 数 と 式 2 2 3 3 4 4 2 1 5 評価の観点 出題の意図 問 題 考 え 約分が必要な分数 のかけ算の計算を することができ る。 分数のわり算の計 算をすることがで きる。 分母の違う分数の たし算の計算をす ることができる。 約分が必要な分母 の違う分数のひき 算の計算をするこ とができる。 約数の意味がわか る。 2 6 文章題の解き方を 公倍数を用いて考 えることができ る。 7 公倍数を求めて文 章題を解くことが できる。 (1) 表 処 ○ 知 理 正答 率 90.7 5 4 × 6 7 次の計算を して、答えを の中に 書きましょ う。 (2) (3) (4) 2 3 ÷ 5 4 2 1 + 3 4 4 5 − 3 6 ○ 92.1 ○ 89.2 ○ 72.8 (1)14の約数をすべて求め、 の中に書きましょう。 次の (1) (2) の問題 に答え ましょ う。 (2)公園に、小さいふん水と 大きいふん水があります。 小さいふん水は3分ごと、大 きいふん水は4分ごとにそれぞ れ水をふき上げます。2つのふ ん水が午前9時に同時にふき上 げました。このあと、午前9時 30分までに、同時にふき上げ る時こくを全部書きましょう。 求め方と答えをそれぞれ の中に書きましょう。 -1- ○ ○ 83.6 64.2 ○ 64.2 学習状況の結果と分析 観点別に正答率を比較すると、数学的な見方や考え方は64.2%、表現・処理は1の4問の平 均が86.2%、知識・理解は83.6%となっている。また、通番7の表現・処理が64.2% と1の平均の86.2%を大きく下回っている。この正答率が低いのは、通番6で求め方を正しく 考えることができないためであると考えられる。これらのことから、数学的な見方や考え方が他の 2観点と比べて低くなっていることが分かる。 1の4問についてもう少し詳しく見てみると 、(1)では約分が必要であるが 、(2)では約分 が必要ない。この分だけ(1)の方が正答率が低くなっているようである。また 、(3 )(4)の 分数の加減についても 、(3)は約分の必要がないが 、(4)では約分が必要である。特に、(4) では通分をして、計算をして答えを出してからしか約分をすることができないため、約分忘れの誤 答が目立った。このことから、基本的な計算力は身に付いているが、答えとして正しいかを思考す る力が弱いと考えられる。 2の(1)は約数を求める問題で 、(2)は倍数を利用して答えを求める問題である 。(2)で は、求め方の解答欄に何も書いてないが、同時にふき上げる時こくの解答欄には正しい答えを書い ていたり、公倍数を利用して求めていても、午前9時36分を答えとしているような答えもあった。 この原因としては、問題を正しく読み取り、どの知識を使って考えを進めればよいのかなど、根拠 を明確にしながら筋道立てて考えていく力や自分が出した答えが問題に適するかを吟味する力が十 分に身に付いていないと考えられる。 授業改善へ 2 分析に基づく授業改善 (1)授業改善の方針 生徒の実態から明らかになったことは、問題を正しく読み取り、根拠を明確にしながら筋道立てて 考えていく力や問題に適する答えを吟味する力が生徒一人一人に十分に育っていないということであ る。そこで、必要な情報を正しく読み取る力、根拠を明確にして筋道立てて考えていく力、見出した 答えが正しいことを吟味する力を付けていく必要がある。つまり、事象を論理的に考察していく力を 付けていく必要があると考えた。事象を論理的に考察していくためには 、「帰納的な考え 」「類推的 な考え 」「演繹的な考え」などの数学的な見方や考え方を活用し、根拠を明確にしながら考えを進め ていく必要がある。また、自分の考えを他人に分かりやすく説明する時にも論理的に考える力は必要 である。 そこで、本実践では、論理的に考察する力を育てるために、次の2点を研究内容に設定した。 研究内容1:根拠を明確にして、考察する力を育てるための学習活動の工夫 研究内容2:互いの考えを練り上げるための授業展開の工夫 また、論理的に考察する力を育てるために、以下の2つの場面で学習活動や指導法の工夫改善が必 要であると考えた。 ・一人一人の生徒が考えをつくる段階 ・仲間に考えを説明したり、仲間とともに考えを練り上げたりする段階 (2)改善の具体的方途と実践 ①根拠を明確にして、考察する力を育てるための学習活動の工夫 根拠を明確にして考察するには、帰納的な考え方や類推的な考え方など数学的な見方や考え方を問 題に応じて使い分けながら、考えを進めていかなければならない。このような力を身に付けるために は、まず基本的な知識や技能を身に付ける必要がある。その上で、じっくりと考えて自分なりの判断 をしたり、仲間とお互いの意見を言い合って話し合ったりするときに、教師が意図をもって継続的に 働きかけることや生徒が自らの学習を振り返りながら自己評価や相互評価を行っていく過程で育って いくものであると考える。 そこで、本実践では根拠を明確にして考察する力を身に付けるために、 「個人追究での考えづくり」 -2- →「ペア・グループ交流、全体追究」→「自己評価」の流れを単位時間の学習過程に取り入れること にした。 具体的には、 ・課題提示後に、既習事項の中から本時の課題を解決するために手がかりとなる事項を確認し、意 識する。 ・個人追究では、既習事項を利用しながら考 えづくりを行う。 ○表に表す。 自分の考えをもつことができない生徒には、 クッキーの代金 ジュースの代金 合計の代金 本時では、右のようなヒントカードを与える ことで自分の考えをもつための指導・支援と した。 ・ペア交流では、自分の考えを相手に分かりやすく説明し合う。 ・授業の最後に、ペア交流や全体追究で明らかになった自分の考え方や説明の仕方のよさや課題点 について自己評価し、記述する。 ②互いの考えを練り上げるための学習活動の工夫 全体追究の練り上げの場面では、生徒が考えた様々な考えを比較・検討する中で、もっとも効率的 な方法を選び出したり、それぞれの考えの共通性を見付け出したりする。よりよい考えや考えの共通 性を見付け出すためには論理的な思考力や判断力が必要となる。また、仲間の説明を聞くなど、自分 とは異なる考え方に触れることで、根拠を明確にした論の進め方などにも触れることができる。この ように考えてくると全体追究は、数学的な見方や考え方を育てる上で重要な場であるといえる。 これまでの自分の実践を振り返ってみると、生徒が自分の考えを発表したときに、説明が不十分で あれば教師が質問をしてより詳しく説明するように促したり、教師が補足説明をしたりすることで聞 いている生徒の理解を深めようとした。しかし、これでは、聞き手に分かりやすい発表の仕方がいつ までたっても身に付かない。 また、教師が本時授業で大切な考え方をしている生徒を意図的に指名して、その発言内容を他の生 徒が理解できることを重視しすぎることで、教師の意図に合わない生徒の考えは扱いが軽くなってい たり、生徒から出された様々な考えをよりよいものへと練り上げたりしていくことが十分できていな かった。これは、教師が練り上げる視点をはっきりさせないまま授業を行っていたり、 「練り上げる」 過程をよく吟味しないまま話し合わせていたりして、生徒から出される意見を意図的に組織できてい ない結果であると捉えた。 そこで 、「聞き手に分かりやすい発言の仕方 」「単位時間における練り上げの視点の明確化」の2 点について改善することで練り上げの場の充実を図りたいと考えた。 ア 聞き手に分かりやすい発言の仕方 発言の仕方としては、「僕は、∼だと思います。理由は∼」「∼さんに付け足しで∼」「∼君とは違 っていて∼」のように、発言の内容をはっきりすることや「まず∼ 」「次に∼ 」「最後に∼」のよう に、順序をはっきりして話すことを指導してきた。しかし、これだけでは、聞き手に分かりやすい発 言の仕方がなかなか身に付かない。聞き手が十分理解できないようでは、考えを練り上げる学習活動 を行うことはできない。 そこで、発言する際には 、「細かく区切って発言すること」と「聞き手に確認をしながら発言をす ること」に留意するように指導した。本時で言うと 、「クッキーは1枚60円です。そのクッキーを 12枚買いました。クッキー代を求めるには、 (1枚の値段)に(買った枚数)をかければいいので、 60(円)×12(個)で720円になります。ここまでは、いいですか。次に、・・・」のように 発言をするように指導した。 イ 単位時間における練り上げの視点の明確化 単位時間において、生徒につかませたい数学的な見方や考え方があると、その見方や考え方をして いる生徒に全体追究の場で意図的に指名し、その見方や考え方をすべての生徒が理解することを中心 に考えてしまうことがある。しかし、それでは他の考え方で追究した生徒の意見を軽視することにつ ながったり、生徒の意見からよりよいものへと練り上げていくことができない。 -3- そこで、練り上げの視点を明確にもって実践することにした。本時では、互いの考え方の共通性を 明確にすることに着目した 。「クッキーの枚数はどこに表されていますか。」「クッキーの代金を別の 表現で表せますか 。」「それぞれの考え方で共通しているのはどんなことですか。」の発問をすること で、それぞれの考え方にある共通性に着目させ、理解を深めさせようとした。(同様なことを、ジュ ース代、合計の代金についても行った 。)自分と違う考え方をした仲間の考えと自分の考えとの共通 点を見出すことが理解を一層深めると考えた。 【視点を明確にした練り上げの組織化】 改 善 前 生徒が自分の考えを板書に書き、説明する。(同じ考え方をした人数を板書する。) ○表で考える クッキーの代金 ジュースの代金 合計の代金 60円×12枚 80円×(ジュースの本数) 1440円 ○線分図で考える 60円×12本 80円×(ジュースの本数) ※説明を聞き、質問があれば、説明した生徒に答えさ せる。 ※分かりにくい点があれば、教師が質問したり、補足 の説明をしたりする。 ※言葉の式に重点を置いて説明する。 1440円 ○言葉の式で考える。 (クッキー代)+(ジュース代)=(合計の代金) 60円×(クッキーの枚数)+80円×(ジュースの本数) =1440 「この中で、一番わかりやすい考え方はどれですか。」 「では、一番多かった言葉の式で考えて、方程式を作りましょう。」 共通性を見いだす発問 改 善 後 (ジュース代の場合) ○線分図で考える 60円×12本 80円×(ジュースの本数) ○表で考える クッキーの代金 ジュースの代金 合計の代金 60円×12枚 80円×(ジュースの本数) 1440円 1440円 ○言葉の式で考える。 (クッキー代)+(ジュース代)=(合計の代金) 60円×(クッキーの枚数)+80円×(ジュースの本数) =1440 「クッキーの枚数はどこに表されていますか。」 「クッキーの代金を別の表現がで表せますか。」 言葉の式では、クッキーの枚数が言葉で 示されているが、線分図では、線分を区切 って表している。 (1枚60円のクッキーを12枚買った時 の代金) (1枚の値段)×(買った枚数) 「それぞれの考え方で共通しているのはどんなことですか。」 結局、どの考え方でもクッキーの代金とジュースの代金を合わせると合計の代金になって いる。だから、クッキー代の720円とジュース代の80x円とを合わせると、合計の代金 の1440円と等しくなっているといえる。つまり、花子さんの考えの720+80x=1 440は正しいといえる。 -4- 3 授業改善後の成果 ○仲間に分かりやすく発言することを前提として、短く区切って発言したり、内容が理解できてい るかを確認したりしながら発言を進めることができる生徒が増えてきた。その結果、自分の発言 内容を仲間に分かり易く発言できることで発言に自信をもち、根拠を明確にしながら話し合うこ とができるようになってきた。 ○全体交流の場で、お互いの考え方の共通点や相違点に着目して意見を出し合うことで、話し合い が焦点化され、深まるようになってきた。また、自分の考えとの共通点や相違点がはっきりした ことで、仲間の考えのよさを認める発言もでてくるようになった。 △練り上げをより効率よく行うために、発言の仕方の指導や生徒の考えを構造的に板書に位置付け る工夫をすること。 △生徒の実態把握の仕方と発言の組織化をさらに工夫する必要がある。特に発言を組織化するため の視点については、教師の独りよがりにならないように十分検討する必要がある。 -5-
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