企業に求められる不正調査時の対応ポイント(PDF:504KB)

FIDS
Fraud Investigation & Dispute Services
企業に求められる不正調査時の
対応ポイント 最終回
公認不正検査士 宮岡泰治
3. 不正調査の一般的な作業概要
Ⅰ 不正調査における留意事項
<図1>における「事前準備」のフェーズで
1. 適切な初期対応の必要性
は、発覚した不正もしくは、その兆候から疑惑
公認不正検査士協会(ACFE)では、職業上の
を整理し、各疑惑に関する仮説を構築すること
不正を、資産横領、不正な会計報告、汚職に大
が主な目的となります。その後、初期調査の対
別しています。しかし、実際には、これらの不
象範囲・期間、調査スケジュールなど方向性に
正以外にも、コンプライアンス違反、情報漏洩、
ついて関係者間で協議・合意し、調査開始後も
知的財産の侵害、偽造、ハラスメントなど、さま
適宜、対象範囲の見直しを行う必要があります。
ざまな不正が存在します。不幸にも企業で不正が
また、調査チームは、対象範囲に応じて、関
発覚した場合、適切な初期対応が事件・事故対応
連書類(例:財務・非財務関連の証憑)や、電
全体の成否を決すると言っても過言ではありま
子データ(電子メールやマイクロソフト・オ
せん。事態の深刻化を避けるためにも、正確な現
フィス関連のファイル、財務データなど)を特
状把握を関係者間で迅速に行う必要があります。
定し、担当者に提出依頼をしておく必要があり
ろうえい
しょうひょう
ます。次に「不正調査」のフェーズでは、関連
2. 不正調査の一般的な手順
第三者委員会による調査手順については、
ける証拠を収集し、仮説の検証と、不正の全容
2010年7月に「企業等不祥事における第三者
解明を行うことが主な目的となります。特に、
委員会ガイドライン」が日本弁護士連合会から
不正行為の背後にある犯罪者心理(動機・プ
公表されています。しかし、それ以外の内部・
レッシャー、機会、正当化など)を考慮し、次
外部による不正調査の手順について、標準・定
のような検証作業を実施します。
型化された万能な指南書は残念ながら存在しま
せん。従って、調査対象となる不正の規模や特
徴に応じて、最善のアプローチ方法を個別に検
討し、調査開始後も状況の変化に応じて適宜、
調査手法を修正し、柔軟かつ臨機応変なアプ
ローチを取ることが求められます。
また、不正調査では、「不正は存在する」と
いう性悪説を前提に調査を行います。事態の本
質を見極める妨げとなるため、固定観念、先入
観、思い込み、偏見や、不正確な伝聞情報は排
除し、不正および不正関与者の容疑を物的証拠
によって裏付けることで、事態の全容を解明す
ることになります。不正調査の一般的な手順
(例)は<図1>の通りです。
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書類や電子データの精査によって、疑惑を裏付
情報センサー Vol.65 November 2011
(1)調査対象組織やビジネス、業務プロセス、
社内規定の理解
(2)関連書類の検証
(3)削除されていない電子データの分析
(4)削除済み電子データの復旧・認証・分析
(5)発生事象の時系列一覧を作成し、発生日
時、発生場所、関与者(組織)、事象の概
要などを記載して整理
(6)入手した重要情報を、直接証拠、状況証拠、
伝聞情報(推測)、参考情報などに分類・
分析
(7)入手した証拠を基に、不正関与者を①首謀
者、②共謀者、③参考人に分類・分析
•図1
不正・ 不祥事発覚
情報収集・
事実確認 関連書類・電
子データの収
集、関係者へ
のヒアリング
など 会社側で今後の対応を決定
民事・刑事訴訟、関与者へ
の罰則、広報対策など 関連書類
(財務・非財務)
の
評価・分析 電子データの分析
コンピューターフォレンジッ
ク調査(削除済み電子データ
の復旧・認証・分析)、入退
室記録、アクセスログなどの
各種証跡の分析 デューデリジェンス
企業を対象とした経営状況、
風評などの信用調査 参考人に対
する情報収
集目的のヒ
アリング 調査対象者
に対する摘
発型インタ
ビュー フォロー
アップ 作業 報告書作成
証拠の整理・
評 価 ・ 分 析、
疑惑と関与者
の特定、再発
防止策の提案
情報の証拠化
当局への提出資料の準備
など 係争準備
損失算定、裁判での専門家
としての証言など バックグラウンドチェック
個人を対象とした職歴、風評
などの信用調査 行動監視
電子メール、インターネット
などのPC使用状況、監視カメ
ラ映像、目視、尾行など 事前準備
再発防止策の導入
事後作業
不正調査
(8)入手した証拠を基に、不正実行期間を特定
(9)③参考人→②共謀者→①首謀者の順でイン
タビュー(ヒアリング)を実施
(補足:インタビュー証言は故意や過失によ
る誤情報提供もあり得るため、重要証言があ
る場合は、その裏付け証拠を必ず確認する)
(10)インタビューで得られた証言に基づいて仮
説を再構築。必要に応じて仮説検証のため
のフォローアップ作業を実施
(11)一連の検証作業で発見・収集・保全した証
拠や証言に基づいて、事実関係のみに言及
した調査報告書を作成
を見ると、多くの場合、今後の再発防止策とし
て、リスク管理意識およびコンプライアンス意
けんせい
識の再徹底、統制環境の改善(相互牽制機能の
強化)、経営管理体制の強化などが提起されて
います。しかし、昨今の事例を見ると、不正関
与者は、企業側がどのような万全な事前策を講
ぜいじゃく
じていても、その脆弱性を突いて不正行為をし
ています。
このような状況から、不正リスクは避けられ
ないという前提の下、迅速かつ適切な初期対応
が取れるように社内体制を日頃から整備してお
くことが、甚大な二次・三次被害の回避に役立
ちます。さらに、それが不正関与者やその予備
「事後作業」のフェーズでは、企業の対応方
軍、またステークホルダーへの不正防止に向けた
針(民事・刑事訴訟、関与者への罰則、広報対
企業の真摯な取り組みに関する強いメッセージ
策など)により作業内容は大きく異なります。
になり、不正リスク低減に向けた事前策同様に、
訴訟になった場合、調査チームが入手した証拠
有効な抑止力になるといえるかもしれません。
しん し
を当局へ開示する必要性もあるため、その準備
を行う必要があります。また、株主や投資家向
けに情報を開示する場合は、企業の社会的責任
<お問い合わせ先>
の観点からも、企業のウェブサイト上で現況を
FIDS(不正対策・係争サポート)部 速やかに開示することが重要となります。
Tel:03 3503 1191(担当:宮岡・伊藤)
E-mail:[email protected]
Ⅱ おわりに
上場会社における不正発生時の適時開示情報
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