Title Author(s) Citation Issue Date URL 外海島嶼における溺死診断のためのプランクトン検査の 問題点と検査法の検討-与論島をモデルとして- 吾郷, 一利; 吾郷, 美保子; 小片, 守 南太平洋海域調査研究報告=Occasional papers, 42: 50-55 2005-03 http://hdl.handle.net/10232/10128 http://ir.kagoshima-u.ac.jp 50 外 海島嶼 に お け る 溺 死 診 断 の た め の プ ラ ン ク トン 検 査 の 問 題 点 と 検 査 法 の 検 討-与 論 島 を モ デ ル と し て- 吾 郷 一 利 ・吾 郷 美 保 子 ・小 片 守 鹿 児 島大 学大学 院 医歯 学総合 研究 科法 医学分野 要 旨 水 中死体 の溺 死診断のた めに行 われ るプラ ンク トン検査の外海島嶼 にお ける有用性 を評 価す るために与論島 にお ける珪藻 の分布 調査 を行 った.試 料 となる海水 は島内10箇 所 の 地点 よ り採集 した.珪 藻数 は,採 取場所,海 面 と海 底,海 岸 か らの距離,潮 の干満 な どに よ り変化 がみ られた.し たが って,与 論 島の よ うな外海島喧 にお ける水 中死体 に対 して行 な うプ ランク トン検査で は,入 水が推 定 される地 点の海 水の検査 は不 可欠 であ ることが示 唆 され た. キー ワー ド:法 医学,溺 死,プ ラ ンク トン検査,珪 藻,外 海島嶼,与 論 島 The distribution of diatoms in Yoronjima and application of the diatom test for the diagnosis of death by drowning in open sea islands AGOKazutoshi, AGOMihokoandOGATA Mamoru Department ofLegal Medicine, Graduate School ofMedical andDental Sciences, Kagoshima University Abstract Thedistribution ofdiatoms in Yoronjima wasinvestigated asa modelstudyto evaluate the application ofdiatom testing forthediagnosis ofdeath bydrowning offislands located intheopensea. Seawatersamples werecollected at 10sitesofYoronjima. Thenumbers ofdiatom varied owing to thedifference oflocation, thedistance fromshore, thedepth ofseaandthetide.These results suggest thatanalysis oftheputative drowning medium isessential foranaccurate diatom testfordrowning in 51 islandslikeYoronjimalocatedin the open sea. Key words: Legalmedicine,Drowning,Diatomtest, Open sea, Island,Yoronjima は じめに プ ラ ンク トン検 査 は 溺 死 の 確 定 診 断 と して最 も信 頼 の お け る方 法 と され て い る.溺 死 の 経 過 中 に溺 水 に含 ま れ るプ ラ ン ク トン が肺 胞 を 介 して 大 循 環 へ と移 行 し,血 液 と と もに 腎, 肝,脾 な どの 実 質臓 器へ と運 ばれ る.因 っ て,こ れ ら臓 器 か らプ ラ ン ク トンが検 出 され れ ば溺 死 が 証 明 され る とい うもの で あ る(Lunetta et al.,1998).プ ラ ン ク トンの 中 で も珪 藻 類 は珪 素化 合 物 よ りな る殻 を もつ た め 強酸 や強 ア ル カ リに よ る有 機 物 の分 解 後 も殻 の 形 態 が保 た れ る こ とか ら,臓 器 を強 酸 で加 熱 溶解 した の ちそ の 残 渣 か ら珪 藻 の殻 を顕微鏡 下 で 検 出 す る こ とに よ っ て 検 査 が行 わ れ る.こ の 検 査 法 は壊 機 法 と も 呼 ば れ る. 珪 藻 は,河 川,湖 水,海 る.と な どい ず れ に も季節 変 動 は あ る もの の 一年 中 多 量 に分 布 して い ころ が 外 海 に お い て はそ の数 が激 減 す る とい わ れ,こ の よ うな 箇 所 に お け る溺 死 で は プ ラ ン ク トン検 査 が 陰 性 とな る可 能 性 が あ る こ とが 指 摘 され て い る(Funayama 2001).そ et al., こで,外 海島嶼 にお け る溺 死 診 断 の た めの プ ラ ン ク トン検 査 の 有 用 性 を検 討 す る た め与 論 島 に お け る珪 藻 の 分 布 調 査 を行 っ た. 材 料 と方 法 図1に 示 す よ うに 与 論 島 は 鹿 児 島 県 の 最 南 端 に 位 置 す る.周 20.49Km2か らな り,人 口は 約6,000人 図示 の 与論 島 の10箇 所(1-10)お よび 対 照 試 料 と した 県 本 土 の5箇 所(11-15)よ ー トル の海 面 か らも 同量 の海 水 を採 取 した.皆 海 水 を容 量10mlの で遠心 濃 縮 を行 っ た(3,200rpm,10分).濃 加 え,沸 騰 水 浴 中 に30分 2回,遠 ス ピ ッツ型 の遠 沈 管 を 縮 試 料 に2mlの 放 置 した.そ の酸 処理 物 を蒸 留 水 で2回,エ 心洗浄(3,200rpm,10分)を 発煙 硝酸 を タ ノ ール で さ ら に 行 っ た.洗 浄 した 沈 渣 を ホ ッ トプ レー トで加 温 し た カバ ー ガ ラス 上 に 取 り,完 全 に 乾 燥 させ た の ち,封 入 剤(商 品名:Mount 純 薬 製)に 下 旬, 上 旬 に 試 料 採 取 を 行 っ た. 含 ま れ る珪 藻 数 に 応 じて1ml,3ml,30mlの 用 い て0.2mlま 利(10) 田(4)と船 倉(5)に つ い て は 大潮 の 満潮 時 な らび に干 潮 時 に採 取 を行 っ た.な お,与 論 島 は2003年12月 県 本 土 が 翌 年1月 り試 ー トル 沖 合 海 面 か らそ れ 海 水 を採 取 した.ま た,茶 花(1),大 金 久(6),ハ キ ビナ(9),与 論/供 につ い て は 沖 合 数100メ 面積 で あ る. 料 採 取 を行 っ た.海 岸 の 海 面 な らび に海 底,海 岸 線 よ り数10メ ぞれ 約200mlの 囲23.65Km,総 よ りス ライ ドガ ラ ス 上 に 固 定 した.光 学 顕 微 鏡 に よ り400倍 Media,和 光 の倍 率 で 珪藻 の観 52 鹿児島県本土 奄美大島 与論島 沖縄 図1.海 1:茶 花港,2:宇 勝海岸,3:黒 7:赤 崎漁港,8:前浜 水試 料の採 取地 花海岸,4:皆 毎岸,9:ハ 田海岸,5:船 倉海 岸,6:大 金久海岸, キビナ海岸,10:与 論(供 利)港,11:谷 山港 12:生 見海岸,13:山 川新港,14:頴 娃漁港,15:枕崎 港 察 を行 っ た.珪 藻 の 総 数 は 全 視 野 で観察 され る珪 藻 を 全 て 合 算 し,1ml当 求 め,珪 藻 密 度(個/ml)と は,100個 た りの珪 藻数 を した.珪 藻 の 断 片 も1個 の珪 藻 と して扱 っ た.珪 藻 の種 別 分布 の珪 藻 を観 察分 類 し,そ の数 を 百 分 率 と して 表 した.珪 藻 の 断片 や 殻 が 小 さい あ る い は殻 の 紋 様 が観察 で き ない な どた め種 の 同 定 が 困 難 な もの は全 て そ の他 に 分類 した. 結 果 と考 察 1.珪 藻 数 表1な らび に表2に 示 した よ うに 与 論 島 にお け る珪藻 密 度 は0.5∼2395個/mlの 範囲 で分 布 した.海 岸 の 海 面 お よび 海 底 に お け る珪 藻 密 度 は,宇 勝(2)と 与論(10)で や や低い値 を示 した ほ か は,県 本 土 の 最 低 値(>16.2個/ml)よ 沖 合 に お い て も,宇 勝,与 論 に加 え皆 田(満 潮 時)や り も高値 で あ っ た.数10メ ー トル 赤崎 漁 港 な どや や低 い値 を 示 す 地 点 もみ られ た が,概 ね 県 本 土 の 最 低 値(>20.5個/ml)よ り高 値 を示 した.数100メ ル 沖 合 で の珪 藻 密 度 は,4箇 極 端 に低 い 値 を示 した.皆 田(4) 所 全 て が,0.5∼2.9個/mlと ー ト で はす べ て の採 取 部 で 満 潮 時 よ りも干 潮 時 に お い て 珪 藻 密 度 が 高 か っ た が,船 倉(5)で は 数 10メ ー トル 沖 合 で の み こ の傾 向 が み られ た.こ の よ うに珪 藻 の密 度 は,場 所,海 岸 か らの 距 離,海 面 と海 底,潮 の 干 満 な どに よ り大 き く変 動 した.こ の こ とは 与論 島 の よ うな 外 海 島喧 に お け る溺 死 に 際 して の プ ラ ン ク トン検 査 に は 推 定 され る入 水地 点 の対 照試 料 の 検 査 が 不 可 欠 で あ る こ とを 示 唆 す る. 11 53 表1.与 論 島にお ける珪藻 の密度 と種 類 試 採取地* 料 珪 藻 密 度**(%) 採取部 (個/ml)Amp 茶 花 港(1) 海面 海底 数10M沖 海面 数100M沖海 面 35,6 43.2 28.0 1.5 宇 勝 海 岸(2)海 海面 底 数10M沖海 り面 10.2 黒花海岸(3)海 海面 底 数10M沖海面 皆 田海 岸(4) (満潮時)数10M沖 皆 田海 岸(4) (干潮時)数10M沖 船 倉海 岸(5) (満潮時)数10M沖 船 倉海 岸(5) 海面 海底 海面 海面 海底 海面 海面 海底 海面 海面 海底 (干潮時)数10M言 大金久海 岸(6) 海面 海面 海底 数10M沖 数100M沖 赤 崎 漁 港(7)海 海面 底 数 10M沖海 前浜海岸(8)海 海面 底 数10M沖 海面 ハ キ ビナ海 岸(9) 与 諭 港(10) *括 海面 海底 数10M沖 海面 100M沖 海 数面 海面 海底 数10M沖 海面 数100M沖海 面 弧 内 の 数 値 は 図1の **Amp:Amphora 面 6.4 3。5 107.6 19.2 80.3 38.0 21.1 12.8 62.7 45.9 52.0 193.9 836.0 175.4 151.6 106.0 237.9 54.0 46.8 37.5 0.8 14.9 2395.0 7.7 38,6 213.0 62.5 68.7 119つ 58.7 0.5 14,7 3.3 4.1 2.9 Ast 6 2 5 4 5 1 Bac Bid Cam Cha Coc 2 1 2 3 フ 3 2 3 4 6 5 6 5 10 8 8 6 5 2 3 1 1 6 2 4 1 2 1 1 Cos Cym 1 5 6 2 23 17 12 4 12 15 8 5 9 14 1311 1 2 2 Cor 6 5 5 1 1 5 2 13 17 7 7 7 7 1 6 6 3 3 3 1 4 2 2 2 5 3 3 3 2 3 1 3 4 2 1 9 5 6 8 10 5 3 5 11 3 1 1 10 6 7 8 Dic Dlp Gra 2 1 1 3 2 3 4 1 2 2 2 4 4 2 2 2 2 7 3 2 3 5 1 2 4 2 11 2 2 2 4 5 1 3 2 1 1 1 1 2 3 2 4 3 1 3 7 12 2 3 1 2 1 2 1 21 2 1 1 1 3 3 1 2 1 1 12 藻 に あ らず),Dip:Diptoneis,Fra:Fragilaria,Gom:Gomphonema,Gra:Grammatophora,Mel:Melosira,Mes:Mestogioriα,Nav:Navi 1 5 2 1 2 2 5 6 3 1 Nit 4 2 3 1 4 3 3 1 1 1 9 1 4 2 Nav 72 1 65 15 12 9 2 6 5 16 3 24 1 1 1 2 1 2 3 1 Mes 4 4 1 2 2 4 3 2 Mel 7 1 も の と 同 じ も の を 指 す. Nit:Nitzschia,Ple:Pleurosigma,Ske:Skeletonema,Sur:Surirella・ ***そ の他 は 珪 藻 断 片 と分 類 が で きなか った もの を含 む Gom 1 3 3 ,Ast:Asterionella,Bac:Bacteriastrum,Bid:Bidduiphia,Cam:Campylodiscus,Cha:Chaetoceros,Coc:Cocconeis,Cor:Corethron,Cos:Coscinodiscus, Cym:Cymbella,Dic:Dictyocha(珪 Fra 3 2 4 1 Pleu Ske Surそ 73 62 73 55 59 65 74 57 58 68 66 72 12 1 2 8 4 6 4 3 1 1 11 ! 8 3 7 2 2 6 6 2 1 2 1 1 6 4 4 11 3 4 3 4 1 8 8 6 2 6 7 2 2 2 6 5 の 他*** 63 74 73 7 6 5 62 60 フ0 62 56 74 60 63 66 1 1 69 83 74 78 69 73 79 79 72 75 77 66 54 11珪藻 表2.鹿 児 島県 本 土にお ける珪 藻 の密度 と種 類 試 採取地* 料 谷山港(11)海 生見海岸(12)海 山 川 新 港(13) 海面 海底 頴娃漁港(14)海 *∼***:表1の 面 海面 海面 底 数10M沖 海 面 海面 底 10M沖海 脚 注 に 同 じ. 度 種類**(%) (個/ml)Amp 海面 底 数 10M沖 海 面 海面 底 数10M浦 面 (堤防 外 側)数10M沖海 山川 新 港(13) 海面 海底 (堤防 内側)数10M沖 枕 崎 港(15)海 密 採取部 面 412.0 239.0 753.0 203.6 185.7 100.6 30.2 16.5 35.4 31.8 47.1 36,4 27.5 365.0 20.5 17.2 23.8 59,8 Ast Bac Bid Gam Cha Coc Cor 1 4 1 2 4 4 24 6 20 26 34 36 2 1 3 2 2 17 18 30 1 2 1 14 12 23 3 2 2 2 Cos Cym 2 4 4 3 1 1 1 5 6 1 Dic Dip Fra 1 1 1 1 Gom Gra Mel 1 2 6 1 2 1 12 Nav Nit 1 3 1 5 4 5 1 1 2 5 Mes 1 3 Pleu 1 4 2 3 1 1 2 1 Ske Sur 75 81 84 5 8 4 15 5 21 14 7 12 2 2 2 1 1 1 1 5 4 10 9 5 1 その 他*** 19 15 13 75 75 71 85 50 58 55 51 85 75 82 62 63 60 55 2.珪 藻 種 各 試 料 に お け る珪 藻 種の 分 布 を表1と 表2に た分 布 を して い た.与 論 島で はAmphora, 示 した.与 論 島 の10箇 Cocconeis, Cymbella, Diploneis, Navicula, が よ く観 察 され た.県 本 土 で はChaetoceros、 Navicula, が よ く観 察 され,な か で もChaetocerosな 所 は互 い に よ く似 Nitzchia Nitzchia Skeletonema らび にSkeletonemaは と くに よ く観 察 され た が 与 論 島 で は ほ とん ど観 察 され な か っ た.そ の他 に は 珪 藻 の 断 片 や そ の形 状 が小 さい た め 種 の分 類 が 出 来 な い もの が 含 まれ る が,そ の他 が谷 山港 を 除 い た 全 て の 箇 所で50%を っ た.珪藻は小 上回 さい もの ほ ど肺 胞 を介 して 大 循 環 に 侵 入 しや す い とい われ て い る こ とか ら (Pollanen et al.,1997a; Polanen, 1997b; Hurlimann et al.,2000),そ の他 の値 が 高 い こ と は溺 死 診 断 の た め の プ ラ ン ク トン検 査 に は 有 利 で あ る. 珪 藻 数(量 的)お よび珪藻 種(質 的)の 季 節 変化 が 報 告 され て い る(Ludes Pollanen et al.,1997a; Polanen,1997b).与 et al.,1996; 論 島 は 亜 熱 帯 域 に あ る こ とか ら一年 は 大 ま か に 夏 季 と冬 季 に わ け られ る.今 回 のデ ー タ は 冬 季 に つ い て の もの で あ る こ とか ら,夏 季 に お け る調 査 は 今 後 の 検 討 課 題 の 一 つ で あ る. 文 献 Funayama, M, numbers Mimasaka, around S., Nata the M, continental Hashiyada self M. break. & Yajima,Y. Am. J. K. 2000. 2001. Forensic Med. Diatom Pathol. 22: 236-238. Hurlimann, J., Feer,P., diagnosis Ludes, of death B., Coste, diatoms in the Lunetta,P., barrier test M.S., for analysis 286-290. Tracqui,A. of diatoms Hallfors, Int. C. & drowning, I. 1997b. Mangin, of the Cheung, A J. Forensic in marrow Sci. of diatoms Med. detection in the river monitoring of the 41:425-428. and transmission to penetrate the electron alveolo-capillary 111:229-237. D.A. Sci. Continuous Scanning 1997a. retrospective diagnostic bone 1998. Diatom 114:6-14. J. Forensic capacity Chiasson, Med. P. 1996. G. J. Legal Utility: The J. Legal of drowning. & evidence M.S. Niederberger, Int. & diagnosis Canada. & drowning. in drowning. Ontario, Polanen, by Penttila,A. microscopical Polanen, M., Elber,F. The analysis diagnostic of 771 value cases of the diatom of drowning in 42:281-285. value of the and diatom drowning test medium. for drowning, J. Forensic II. Validity: Sci. 42:
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