特別レポート 公私協力方式の私大の公立化

特
別
レ
ポ
ー
ト
公私協力方式の私大の公立化
❶全学的な取り組みとしての位置づけ 左記の❶~❺にプラスして
❻自治体の教育振興基本計画や申請内
を明確化
❷大学の教育研究と一体となった取り 容にかかわる自治体の基本計画などへ
の申請大学の役割の記載
組み
申請要件
❸大学と自治体が組織的・実質的に協 ❼地域の複数大学、中小企業やベン
チャー企業、NPO などとの連携
力
❹ こ れ ま で の 地 域 と の 連 携 の 実 績
❺自治体からの支援の評価
というように、より具体的にな
り、地元の企業などへの就職率
や雇用創出数など、成果目標や
施策もより具体的になっている。
また一つの大学だけではなく、
複数の地方大と地域の自治体や
企業、NPO、民間団体などが
協働し、自らが地域産業を生み
出し、人材育成を推進する目的
も持っている。地方の雇用創出
などは、とても一つの大学だけ
でできるものではない。いくつ
かの大学や地域の自治体、企業
と連携することで現実化してく
るものである。
しかし、地方私大をめぐる状
況は厳しい。ここ数年定員割れ
が続き、財政も厳しい大学がほ
とんどだ。そのような大学では、
COC+に取り組む余裕もない
た め、 再 活 性 化 が 必 要 に な る。
その動きの一つが公私協力方式
の地方私大の公立化で、山口東
京理科大(山口県山陽小野田市)
と成美大(京都府福知山市)が
2016年に公立大となる予定
である。この事例から、公私協
力方式の公立化の現状と課題を
探ってみる。
よると、公立化された場合は、
割れで累積赤字を続けている私
大を子会社化するということで、 ・教育研究については東京理科
大との連携を持続。
住民の中には反対する人も出て
・授業料に関しては他の公立大
くる。実際に成美大の公立化で
の水準に下げる(他の学費納入
は、市民の一部から疑問の声が
金については未定)。
上がった。
・公立大法人となった年度以降
このようにハードルの高い公
私協力方式の私大の公立化だが、 に卒業する在校生は新公立大の
学士となる。
2014年 月に山口東京理科
公立大になるのは2016年
大が山口県山陽小野田市の公立
からだが、今年の志願者も昨年
大として再スタートする基本協
よりやや増加している。
定を結んだ。公私協力方式であ
る私大の公立化としては全国初
山口東京理科大では、
の試みである。
「 最 終 的 に は 志 願 者 が 1 3 0 0人以上になると思われますが、
同大は東京理科大山口短大が
国立大へ流れる可能性も高いと
前身で、工学部のみの単科大学
考えています」と分析している。
である。同大は、地方自治体が
2014年度入試の志願者が
全額出資して設立したことから
347人だったから約4倍増に
公設民営方式に近い。近年は定
なる計算だ。
員割れが続き、存続するために
地元の山陽小野田市に市立大へ
地元の下関南高の松村成通先
の 移 行 を 打 診。 地 元 と し て は、 生は、
「この春に入学する学生も卒
現在の工学部単科ではなく、県
業したときに公立大出身になれ
内にない薬学部新設を条件に基
本 協 定 書 を 交 わ し た の で あ る。 るという資料が大学から送られ
てきました。本校も生徒の7~
2016年4月に公立大として
スタートし、薬学部新設は20 8割が国公立大志望なので、選
17年の予定だ。
択肢が増えることはプラスにな
ります。2014年度本校から
ちあうサスティナブル・コミュ
ニティ倉敷』
︵仮称︶を立ち上
げた。このように地方大と地方
自治体とが連携して事業を行う
動きが活発化している。
そ ん な 中、 昨 年 末 に 立 ち 上
がったCOC+(プラス)は、資
料 1 の よ う に、 C O C に 比 べ、
大学卒業後の若者の雇用創出な
ど、地方における若者の定着を
進めようというねらいがはっき
りしている。これまでの「地域
活性化」という抽象的な目標か
ら、「東京への一極集中を阻止」
地方創生の流れに乗って、地方私大に志願者が流れるように大学政策が方向転換し
ている。単なる地域活性化ではなく、若者の雇用創出など、地域再生における地方私
大への期待は、より具体的で多様化している。山口東京理科大と成美大の例から、そ
の現状と課題を探る。
方自治体が全額出資し、職員の
ほとんどが自治体から派遣され
る。いわば大学を子会社化︵公
立 大 学 法 人 ︶ に す る の に 近 く、
住 民 の 心 理 的 抵 抗 感 は 少 な い。
この公設民営
方式の公立化
の動きは依然
として続いて
おり、201 4年4月にも
長岡造形大が
公立化した。
と こ ろ が、
地方自治体が
補助金を出し
たり、校地や
校舎を提供し
て設立した公
私協力方式の
私大にも公立
化の動きが出
てきた。こち
らは自治体丸
抱えの公設民
営とは違って、
独立した私学
法 人 で あ る。
しかも、定員
同大の佐々木有朋事務部長に
12
と連携し、この2月に関連地方
注目される C O C +
事業
自治体を集めたCOC結成の会
合を開いた。テーマは「地学一
地方の大学が地域に貢献する
プ ロ ジ ェ ク ト に、
「 地( 知 ) の
体化加速プロジェクト、持続的
拠点整備」
(COC)事業がある。 『地(知)の拠点』創成へ」で、
大学が自治体や地域社会と連携
連絡先が前橋市になっているこ
し、地域に根差した研究や教育、 とから、地方自治体が積極的に
社会貢献を行い、そのような大
関わっている印象を受ける。
学に対して、文部科学省が支援
また、四国大は「とくしまで
する補助事業だ。2014年度
学び育てる地域貢献型人材育
に採択されたCOCには私大も
成」というテーマで徳島県・徳
多く含まれている。
島市・美馬市と連携し、くらし
き作陽大と倉敷芸術科学大も倉
たとえば、共愛学園前橋国際
大は群馬県、前橋市、伊勢崎市
敷市と、「『くらしき若衆』と育
地域再生・活性化の核となる大学の形
若年層人口の東京一極中の解消
成
最終目標
地域のニーズと大学のシーズ(教育・ 地方の大学群と、地域の自治体・企業
研究・社会貢献)のマッチングによる や NPO、民間団体などが協働し、地
域産業を自ら生み出す人材を育成
地域課題の解決
目的
連携自治体にある企業などへの就職率
プレ雇用創出数
取り組みに対する連携自治体及び中小
企業などの評価
成果目標 取り組みに対する連携自治体の評価
公立化に成 功 し た
山口東京理 科 大
地(知)の拠点整備事業大学
COC
地(知)の拠点大学による地方
創生推進事業 COC+
これまでの公立化は、公設民
営方式がほとんどであった。地
資料1 coc+(地方創生推進事業にプラス)の位置づけ
2015 / 5 学研・進学情報 -10-
-11- 2015 / 5 学研・進学情報
高まる
地方私大の存在意義
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入学した生徒が1名います。理
系の女子ですが、入学してから
もしっかり勉強ができているよ
うです。企業で実績を上げた教
員もいて、教育の質は悪くない
と思います。理科の先生に聞い
ても評判は良いですね。新設予
定の薬学部については、県内で
薬剤師を必要としている企業も
あるようで人材は不足している
応じて指導できることが強みで
す。また 分授業のうち 分は
講義、残りの 分を小テストに
あ て、 自 主 学 修 へ の イ ン セ ン
ティブを与えています」と話し
ている。
京都工繊大 と の コ ラ ボ に
よる文理融 合
前述したように、成美大の公
立化とともに、国立の京都工繊
大が
「地域創生工学コース」
北京
都分校を設置することを決めた。
資料2のように、互いに連携
することで、北近畿地区に文理
融合の工学系の大学が生まれる
ことになる。京都工繊大の学生
は、 1・2 年 は 京 都 市 内 の 松 ヶ
崎(本校)で学び、3年次から、
福知山の北京都分校で学ぶ。国
立大との連携による文理融合の
人材育成に取り組むことができ
れば、地域振興の目的に向かっ
て大きく前進できる。
また同地域には京都府立大を
交えた産官学の大規模連携プロ
ジェクトも進んでいる。前述し
たCOC+に最適なモデルにな
る可能性が高い。
ッ タ ー 商 店 街 の「 回 復 」、 災 害
に 強 い「 街 づ く り 」 の あ り 方、
小 学 校・ 中 学 校 へ の 学 習 支 援、
部活動の一層の活性化などが高
まっていくだろう。
このように新しい公立大の誕
生によって、大きな風が起こり、
他地域から人材が入ることによ
る利点は、地方にとって極めて
大きい。これは京都や兵庫の北
部、福知山市に限ったことでは
なく、全国の地方に言えること
である。
昨年は地方消滅都市が大きな
話題になったが、その対策の大
きな柱として、旧来からの地域
活性化だけでなく、地方私大の
公立化も含めた大学の知的能力
や人材育成の教育力を高めるこ
とが欠かせない。
地方私大に多い公私協力方式
では、このような公立化の道も
一つの活性化の選択肢になるし、
地元にもメリットが大きい。ま
た地元への進学を希望する高校
生にとって、学費が安い公立大
はありがたいし、進学指導の上
でも歓迎すべきことであろう。 (取材・文/木村誠)
情報公開などでの改善が望まれ
と聞いています。薬剤師養成に
成美大の内山昭学長は、次の
よ う に 述 べ る。「 現 在 進 行 中 で
る、と指摘されていた。いわば
おいてどれだけ実績を積み上げ
すが、志願状況は好転し、志願
るかが課題だと思います。また、 存続の危機に陥りつつあったわ
者はすでに七〇名を超え、前年
けだ。
公立化1年目の合格偏差値など
の倍近くになりそうです。特に
も注目されます。ただ本校でも
成 美 大 の 公 立 化 に つ い て は、
3月入試は公立化の方向がはっ
結果的に赤字法人を税金で救済
保護者を含めて資格志向が強い
きりしましたので、さらなる志
することになるので、一部の市
ので、学費の安い公立大は間違
願者増と入学手続き率が上がる
民からは反対論が生まれた。
いなく歓迎されるでしょう。公
ことが期待されます。それに公
立化した鳥取環境大などを希望
しかし、成美大が消滅すると
北近畿︵京都や兵庫の日本海側) 立化で学費が安くなりますので、
する生徒も出てきており、県内
近くの進学者が多い高校からの
から4年制大がなくなってしま
の理系公立大の新設は生徒
応募も目立ち始めました」
うが、公立化すれば大学教育は
にとっても喜ばしいことで
存続し、拡充も可能だ。
はないでしょうか」と語っ
重い学費の負担から大学進学
に二の足を踏む受験生が増加す
ている。
このような状況の中、資料2
る中、近くに学費の安い公立大
のように京都工繊大が、北京都
今年の志願状況を見ても、
が 生 ま れ る こ と は 歓 迎 さ れ る。
分校を成美大に隣接する女子高
この公立化は好調なスター
その結果、志願者のレベルも高
トを切ったと言えるようだ。 跡地に建設するプランを打ち出
くなっているのだ。
した。この動きが後押しとなっ
成美大の継承として
て福知山市立大(仮称)の設置
成美大もその期待に応えよう
福知山市立大が誕生
と、「 こ の 4 月 か ら 公 立 大 で 想
が2月 日に福知山市から表明
定している公共経営コースを設
された。正式には3月下旬の市
けます。またここ数年斬新な教
議会で決定する。
育を展開しています。演習など
当面は成美大の経営情報学部
を継承し、3~4年後に学部・ いくつかの授業で2人教員担当
制を導入し、すべての学生に教
学科の名称変更と学科コースの
養、専門の学力を身につけさせ
増設を目ざす。地元の新聞など
では、今回の経緯はビッグニュ ています。教員の負担は増えま
ースになり、地元の高校や受験
すが、2人の教員が相談して授
生も当然知ることになった。
業を行うので、学生のレベルに
京都府福知山市の成美大
は、ここ数年定員割れが続
き、収支を示す帰属収支差
額も赤字が続いており、地
方私大の中でも厳しい状況
に置かれていた。大学基準
協会の大学評価でも、設備
や施設はよいが、財政収支
や 教 員 態 勢、 中 退 の 状 況、
23
を取得できる教員養成コースを
これまでの京都府北部地域の
印象について、地元の府立A高
設 置 す れ ば、「 北 近 畿 」 地 域 唯
の進路指導担当教諭は、
一の中学校・高等学校等の教員
「京都府北部地域から進学は、 免許取得が可能となる。さらに、
成美大への進学のわずかの場合 「 免 許 更 新 講 習 」 な ど の 開 講 を
を除き、事実上は保護者から離
通して、地元の現職教員の資質
れて生活することを意味し、経
向上にも寄与できる。
済的負担はかなり大きかったで
・ 京 都 工 繊 大 と の 連 携 に よ り、
すね。また、大学卒業後に地元
文理にまたがる幅広い学びの場
に就職したいと思っても、ニー
が生まれることによって、学び
ズに合致した適切な就職先が不
の「らせん構造」ができ、
足しており、結果的に人材流出
教育の質が一層「保障」される
に歯止めがかからない状況でし
こととなる。
た。さらに、京都府北部地域と
・ 地 元 企 業 か ら は「( 高 校 生 よ
南 部 地 域 の 経 済 格 差 も 著 し く、 りも)Uターンによって、優秀
超高齢化によるいわゆる『限界
な大学生が欲しい」という声も
集落』や『子どもの貧困』問題
あり、人材流出に歯止めをかけ
なども見られ、地域が抱える課
ることにつながる。
題は大きいですね」と指摘する。 ・公立大になると、出願先とし
このように、厳しい声もある
て全国区となり、他府県から学
なか、今回の成美大の公立化の
生が流入することが見込まれる。
メリットとしては、
価値観が多様である、さまざま
・京都府北部地域に大学生が居
な地域の出身者である若者の存
住する利点は大きい。地元高校
在こそが、地元にとって刺激に
生の進学先も確保できる。
なる。
・学科としては、福祉施設の管
・大学での「学修」の質が向上
理職員たる「社会福祉士」など
すれば、地域住民からのニーズ
の養成が期待できる。
も高まり、多様化する。単純な
・地域経営学部の中に教職免許
アルバイトだけではなく、シャ ・産業基盤と地域社会のグロー
バル化を支えるリーダーシップを
備えた国際的高度技術者の養成。
・地域の人材の U ターンによっ
て地域活性化を進め、地域活性化
の核とする。
・
「人間みらい工学︵総合工学)
」
分野の新設。
・地域社会人教育を行い、履修
証明を発行。
2015 / 5 学研・進学情報 -12-
-13- 2015 / 5 学研・進学情報
・北近畿唯一の4年制大学とし
て、行政・企業・市民と連携して
地域の課題に解決に向けて行動す
る。
・課題の解決への意志と行動力
を持った地域の将来を担う国際的
視野と教養を身につけた人材の育
成。
・
「教育のまち福知山」として市
民の生涯教育の拡大・推進。
70
京都工繊大北京都分校(仮称)
20
福知山市立大(仮称)
90
資料2 福知山市立大(仮称)と京都工繊大北京都分校(仮
(編集部作成) 称)による文理融合連携教育体制