視察レポート - 秋田県建設業協会

第 8 回東日本大震災支援事業建設産業サポーター現地調査レポート
《被災地の震災廃棄物の進捗、復旧・復興工事の現状と課題》
復興支援建設産業サポーター
(社)由利建設業協会
工藤武義
1.はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した大震災は、早くも 1 年が経過してしまった。
福島の一部を除き(福島第 1 原発事故発生で規制されている区域)、震災がれきは、被
災地各地の“がれき仮置き場”に集積されている。3 月には、被災 3 県の沿岸 37 町村で
発生した震災がれきは推計 22,528 千 t で、このうち処理が済んだのは 6.4%程度と環境
省から発表があった。がれき処理の遅れは復旧復興の遅れでもあり、被災地での大型燃焼
炉建設や広域処理による最終処分の進捗の遅れが深刻化している。
私たち 6 名の建設産業サポーターは、被災地調査や一部の地区の「がれき調査」を進め
てきたが、今回釜石市から仙台市にかけて「復興計画」と「がれき処理」についてどうな
っているのか、関係機関の協力を得て、現地の調査を実施することとした。
2.調査行程
3 月 13 日
岩手県宮古駅~下閉伊郡山田町(市街地)~上閉伊郡大槌町(市街地)~大槌町役場仮
庁舎付近の城山~釜石市(浜町~魚河岸~只越町~港町)~宿舎(遠野市)
3 月 14 日
宿舎(遠野市)~釜石市(大町~唐丹海岸部)~大船渡市(太平洋セメント工場~盛川
河口付近)~陸前高田市市街地中心部~気仙川河口部~宮城県気仙沼市鹿折地区(JR
大船渡線鹿折唐桑駅周辺)~気仙沼市中心市街地(ふれあい公園周辺)~気仙沼魚市場
周辺~宿舎(一関市)
3 月 15 日
宿舎(一関市)~気仙沼市本吉町大谷(道の駅大谷海岸)~本吉郡南三陸町歌津地区(歌
津大橋周辺)~南三陸町志津川沼田(南三陸町仮役場周辺)~JR 気仙沼線志津川駅周
辺~防災対策庁舎~志津川廻舘(志津川高校高台)~新北上橋~釜谷地区(市立大川小
学校)~石巻市市役所付近市街地~JR 石巻駅~日和山公園~門脇町(門脇小学校周辺)
~東松島市(成瀬川河口部)~宿舎(松島町)
3 月 16 日
松島町~塩釜市(仙台塩釜港・塩釜港区)~多賀城市(イオン周辺)~仙台市(仙台塩
釜港・仙台港区)~夢メッセみやぎ~仙台駅
3.調査状況
【山田町・大槌町・釜石市】
山田町の役場を訪問する予定だったが、議会中のため、話を聞くことができず、被災箇
所を廻る。国道 45 号から見る山田湾には、以前は見られなかった養殖用筏が多く見られ
る。道路では交通規制をしながら復旧工事が本格化している。
市街地の中心部は津波と火災で“戦災後”のような状態で駅舎や鉄道には手も付けられ
ていない。壊れた家屋の解体や「がれき」は仮置き場に運ばれ更地状態になっている。
駅前には“仮設商店街”が建ち並び、近く
で町道の舗装工事が行われている。漁港付近
では「がれき」の分別作業が行われている。
町は動き出している。
大槌町の中心部は地震直後に火災が発生、
その後の津波により山裾の役場庁舎までもが
呑み込まれ、町長、職員の多くが犠牲になっ
た。
市街地の壊れたコンクリート建築物を除い
写真-1 陸中山田駅前の“仮設商店街”
て、家屋の撤去作業が進み更地化されている。
防潮堤や河川護岸の決壊跡も仮復旧の状態で
ある。吉里吉里地区も同じ状態。動いているのは「がれき」を分別している重機だけ。高
台移転等の本格復旧には時間がかかりそう。
釜石市は、減災まちづくりをテーマに復旧
作業が進められている。市街地は釜石湾から
の津波による浸水で市街地は壊滅的に被災し
た。また、鵜住居地区も大槌湾からの津波で
大きな被害を受ける。両地区ともライフライ
ンの電柱・電線や水道工事が行われている。
「がれき」も約 709 千 t と多く、家屋等の
津波による被災の多さが表れている。
釜石市役所発注の災害廃棄物処理事業を受
写真-2 大槌町中心市街地の現状
注している根岸地区にあるがれき処理場で、
災害対策室の浜崎専門員(北九州市派遣職員)
と担当の前川氏、受注者の JV(大成建設 他)の亀井氏から作業概要を伺い、現場にて説
明を受ける。釜石の市街地の被災家屋の特徴の一つに、1 階は全壊し、2 階が半壊など他
の地区と違った壊れ方で、解体等の処理決定に時間がかかったとのこと。市全体の処理率
は、2%とのこと。旧清掃工場の再稼働(109t/日)等で対応しているが、広域処理につ
いてもお願いしたいとも話されていた。
※資料-1、2 参照
なお、唐丹地区の海岸部の集落は漁港から高台の盛巌寺まで被災、明治三陸、チリ地震
の慰霊碑があり、今回の大震災にも遭う現場を目の当たりにする。
写真-3 根岸地区仮置き場で選別状況を聞く
写真-4 分別「がれき」を運ぶ運搬車
写真-5 釜石市唐丹の海岸部被災状況
写真-6 先代の教えが生かされた大船渡市吉浜
【大船渡市・陸前高田市】
吉浜湾の海水浴場付近に立ち寄る。ここは「明治三陸」で大きな被害を受けたため、
「高
台に集団移転」をした。このたびの津波では、防潮堤や船溜場は破壊されたが、犠牲者(農
作業中で逃げ遅れた)を最小限にすることができたとの話を散歩中の老人から聞くことが
できた。
大船渡市街地・陸前高田市の「がれき」撤去作業は仮置き場に集積され、更地化している。
山裾の大船渡町周辺には“大船渡屋台村”ができ、復旧作業員や地元の人々が利用してい
た。
今回は陸前高田市高田松原の約 7 万本のうち“生き残った一本松”に近づくことができた。
海岸部の破壊された野外活動センターなどの施設を目の当たりにする。津波の破壊力は凄
かったであろう。
【気仙沼市・南三陸町】
鹿折地区の大型船の撤去は未だ行われてい
ないが、県道を挟んで家屋の解体等が進み、
仮設の店舗を出している個所も見受けられる。
気仙沼漁港周辺では道路の嵩上げ作業も進み
沿道の家屋の解体が盛んにおこなわれている。
しかし、魚市場等の活気は見られない。
大谷地区も家屋の解体が進み、駅周辺には
仮設の店舗が増えている。しかし、本吉地区
写真-7 高田松原付近の被災状況
の海岸部の防潮堤や漁港施設、本吉川沿いの
護岸は応急対応のままである。
南三陸町の歌津大橋の直下にある漁港施設・街並みも以前と大きく変わっていない。中
心街の志津川は破壊された家屋等の解体が進み、更地化している。
防災対策庁舎前の“慰霊所”には多くの人が車を止め合掌していた。高台(仮設住宅有)
に近い山裾には“南三陸さんさん商店街”30 店舗ほど営業していた。
写真-8 歌津大橋と伊里前漁港
写真-9 志津川の市街地(右建物が防災対策庁舎)
【石巻市・東松島市】
市街地中心部は眺めただけでは被災の後が分からない状況にあるが、旧北上川沿いや海
岸部は、家屋の解体が進み更地化している。石巻新港のふ頭では「がれき」分別や処理の
基地として多くの重機が動いている。矢本を過ぎると広大な田園では田圃に水を張ってい
る。“除塩”作業の一環であろうか。
成瀬川河口に向かう。河口の施設は跡形もなく被災したため、復旧作業の最中で、異形
ブロックなど数か所で製作されていた。
写真-10 “南三陸さんさん商店街”
写真-11 石巻市日和山公園から魚町方面
【松島町・塩釜市・多賀城市・仙台市】
県道沿いの野蒜、東名、手樽地区の「がれ
き」は仮置き場に運ばれ、更地化している。
鉄道沿線も以前と変わっていない。
仙台塩釜港の塩釜港区の魚市場周辺の漁港
施設は漁港施設や関連施設は被災の規模は大
きくないが、復旧の遅れが目立つ。仙台港区
は被災の規模も大きかったが、仙台空港と共
に復旧が早 かった。
写真-12 成瀬川河口の被災状況視察
今後、係留施設やふ頭用地の沈下に伴う沈
下対策などが復興計画の中で行われることと
思われる。背後の多賀城市周辺も 3m 前後の
津波による浸水に見舞われたが、県道塩釜亘
理線を中心に復旧が進んでいる。
4. 終わりに
足早で山田町から仙台市まで 9 市 4 町の三
陸沿岸(約 250km)を駆け回った。道路は
国道 45 号の本格復旧が各地で始まっている
写真左-13 塩釜港区の魚市場ふ頭
が、県道・市道等は遅れている気がする。
防潮堤や河川護岸はまだ仮復旧や手をかけ
ていない箇所すらある。ライフラインも「復興計画」等との関連と思われるが、各地域の
遅れが目に付く。公園等は計画後半になるであろうが、
「がれき処理」は築堤や高盛土など
と広域処理とを平行して考えることも必要ではないだろうか?
大震災から 1 年が経った現在、地震・津波による凄まじい被災地の復旧はようやく「が
れき」の集積・最終処理が始まったばかりである。がれきの早期処理なくして復興はない。
「復興計画」での高台移転や大規模な嵩上げ計画など、一日も早い復旧・復興が必要と思
われる。遅くなれば集団移転の困難や、水産業をはじめ関連企業が三陸沿岸から他の地域
に移転するなどの問題が生ずる恐れもある。各自治体の『海と共に生きる』等を基本方針
にしている「復興計画」が生きてこない。
一日も早い復興のために、被災 3 県や関係自治体の「復興計画」にもある 3 年程度で復
旧して欲いし、被災された多くの方々のためにも『超特区的な国・県の措置、隣県等の応
援体制』で復興事業を進めることが急務であると思う。
地元での仕事と平行して、復興支援を考えている方々に、「『がんばろう東北』東北は一
つであり」応援よろしくお願いします。
今回多忙な中、現地で説明をしていただいた釜石市役所職員、請負会社(JV)の現場代理
人に御礼申し上げます。
5. 追伸
平成 23 年度復興支援建設産業サポート事業で、被災地の調査を実施し、レポートを作
成した建設業協会所属サポーター名簿を掲載します。
(社)雄勝建設業協会
千葉
順一
(社)北秋田建設業協会
春日
俊克
(社)秋田県建設業協会
佐藤
康彦
(社)由利建設業協会
工藤
武義
(社)秋田中央建設業協会
進藤
鋼
(社)平鹿建設業協会
近
潤行