『鉄鋼技術』(8月号) にアンボンドブレースの施工事例

建築空間の立体的なつながりを
作り出す架構
鉄骨造建築の
柱材 柱
・ 形式
特集
1.はじめに
「建築空間の立体的なつながりを作り
出す架構」として東京湾岸の大通り沿
いに建つオフィスビルのプロジェクト
を事例に述べることとする。
2.計画概要
本建物は14m角の正方形平面を有す
る高さ30m、地上 5 階建のオフィスビル
である。印刷製版や広告デザインを行
う会社の拠点となる建物であり、自社
のオフィスに加え、シェアオフィス、
多目的スペース、カフェ及びテラスと
いった様々な用途を有している。
ガラス・メッシュで覆われ、スレン
写真1 南面全景
(写真撮影:鈴木研一)
ダーな架構で構成された透明性の高い
本建物の外形はシンプルな箱型状のボ
リュームであるが、内部空間は各階ご
とに異なる吹き抜けまたはスキップフ
ロアを有した不整形な床(最大スパン
13.5m)が場所に応じて4.5~9mの階高
で構成されており、さまざまな空間が
連続しながら複雑に変化している。こ
の内部の空間構成が一般的な同一平面
形状の積層によるオフィスビルと大き
く異なる特徴である。
南面の全景を写真1に、 M2階及び 2
階の内観を写真2に、各階平面図を図1
に示す。
写真2 M2階、2階内観
(写真撮影:鈴木研一)
木村 俊明
佐々木睦朗構造計画研究所
図1 各階平面図(図版:妹島和世建築設計事務所)
2012.8 鉄構技術
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3.上部構造
スレンダーな構造部材、透明性の高
いデザインそして開放的で連続した建
築空間と合理性のある構造計画を両立
段差梁
させることを目的として、本建物の主
水平材:H-350x250,350
垂直材:□-250x250
体構造は鉄骨造で、床梁として格子梁
・段差梁を、外周四面のフレームに主
要な耐震要素となる座屈拘束ブレース
鉄骨柱 □-250x250
を組み込んだ架構で構成されている。
不規則に配置された各階の床の構成に
座屈拘束ブレース
座屈拘束鋼管:
□-200x200,□-250x250
中心鋼材:SN400,SN490
対し、スパンに応じて鉄骨梁を 2 方向
に架け渡し、外周四面にある耐震要素
への地震力の伝達経路を明確にすると
共に、エネルギー吸収に優れた座屈拘
束ブレースを効果的に配置し、鋼管の
鉄骨梁 H-350x175~350
外形を一定としたまま、十分な耐力及
びバランスのとれた剛性を確保しつつ、
最大9mの階高を有する鉄骨柱に生じ
る変動軸力を適切に制御している。図
2に構造システム、図3に軸組図を示し、
図2 構造システム
詳細について以下に述べる。
3-1 床梁
複雑な形状を有する床は原則的に格
子梁(H-350×175~350)を配置し、ス
キップフロア状の5階 ・M5階(テラス)
の床はH形鋼及び角形鋼管(□-250×
250)から成る段差梁で支持している。
この段差梁の架構には効果的にブレー
スを組み込み、地震時に 2 つの床が一
体的に挙動し、地震力が建物外周の耐
震要素へ適切に伝わるように計画して
いる。
一方、建物北部に位置するM5階(事
図3 軸組図(左から南面、北面、西面、東面)
務所)の床を支持する架構は、床の偏
在に伴う構造体全体のバランスの不具
合や地震力の局部的な応力集中を回避
するため、隣接する外周フレームとの
間にローラー支承を設け、外周フレー
ムと縁を切り、地震力をコアに直接伝
えるように計画している。(写真3, 図4)
3-2 座屈拘束ブレース・柱
透明性の高い建築空間と対応するよ
う柱として角形鋼管を想定し、床組の
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鉄構技術 2012.8
写真3 ローラー支承 施工状況
図4 ローラー支承 平面詳細図
特集
鉄骨造建築の
柱材・柱形式
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適切な地震力の伝達経路を確保した上
3-3 接合部
本設地盤アンカーの反力を受ける外周
で、外周フレームの主要な耐震要素に
本建物の柱梁接合部は標準的な通し
部の基礎梁は強度確保のためにSRC造
座屈拘束ブレース(座屈拘束鋼管:□-
ダイアフラム形式とし、取り付く柱及
とし、合理的に対処している。
200×200, □-250×250、中心鋼材:SN
び梁に応じた接合部の計画をしている。
400, SN490)を採用し、十分な耐力及
座屈拘束ブレースのガセットプレート
5.おわりに
びバランスのとれた剛性を適切に確保
と柱の接合部は、鋼管の面外変形を拘
「建築空間の立体的なつながりを作り
すると共に、エネルギー吸収に富んだ
束する鋼板を鋼管内に設け、鋼管の局
出す架構」として東京湾岸の大通り沿
架構となるように計画している。
部的な面外変形を防ぐと同時に、外観
いに建つオフィスビルを事例に開放的
座屈長さが最大 9 mである鉄骨柱に
上リブを出さないように考慮している。
で連続した建築空間の実現と、複雑な
関しては、地震時の転倒モーメントに
空間構成に合理性のある構造的な対応
(図5, 写真4)
の両立を目的とした構造計画の概要に
起因する変動軸力の処理がポイントと
なる。本建物では四面ともブレース構
4.下部構造
ついて述べた。
面のスタンスを最大限に広げ、鉄骨柱
基礎構造の計画についてもあわせて
最後に、誌面を借りて建築主をはじ
に圧縮力が集中しないよう、ブレース
述べておきたい。
め多大なるご協力をいただいた施工関
の配置・向きの入れ替えを適宜行い、変
本建物の敷地が軟弱地盤であること
係者の方々に改めて謝意を表したい。
動軸力の処理に対して効果的なブレー
から、基礎構造は GL-17m以深の砂礫
スの配置となるようにしている。このよ
層を支持層とする杭基礎(上杭:SC杭
うにして建築空間への対応と地震時に
+中杭:PHC杭+下杭:PHC節杭)を採
おける変動軸力の伝達経路の適切な確
用している。さらに、上部構造の地震
保を勘案してブレース配置の整理を行
時の転倒モーメントにより生じる引き
い、最終的に柱材は熱間成形継目無角
抜き力に抵抗するため、杭とは別に本
形鋼管(□-250×250)を採用している。
設地盤アンカーを設けている。また、
写真 4 接合部 施工状況
(柱、梁及びガセットプ
レート)
図5 鉄骨詳細図
写真5 建方状況(南面2階)
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