建築空間の立体的なつながりを 作り出す架構 鉄骨造建築の 柱材 柱 ・ 形式 特集 1.はじめに 「建築空間の立体的なつながりを作り 出す架構」として東京湾岸の大通り沿 いに建つオフィスビルのプロジェクト を事例に述べることとする。 2.計画概要 本建物は14m角の正方形平面を有す る高さ30m、地上 5 階建のオフィスビル である。印刷製版や広告デザインを行 う会社の拠点となる建物であり、自社 のオフィスに加え、シェアオフィス、 多目的スペース、カフェ及びテラスと いった様々な用途を有している。 ガラス・メッシュで覆われ、スレン 写真1 南面全景 (写真撮影:鈴木研一) ダーな架構で構成された透明性の高い 本建物の外形はシンプルな箱型状のボ リュームであるが、内部空間は各階ご とに異なる吹き抜けまたはスキップフ ロアを有した不整形な床(最大スパン 13.5m)が場所に応じて4.5~9mの階高 で構成されており、さまざまな空間が 連続しながら複雑に変化している。こ の内部の空間構成が一般的な同一平面 形状の積層によるオフィスビルと大き く異なる特徴である。 南面の全景を写真1に、 M2階及び 2 階の内観を写真2に、各階平面図を図1 に示す。 写真2 M2階、2階内観 (写真撮影:鈴木研一) 木村 俊明 佐々木睦朗構造計画研究所 図1 各階平面図(図版:妹島和世建築設計事務所) 2012.8 鉄構技術 57 3.上部構造 スレンダーな構造部材、透明性の高 いデザインそして開放的で連続した建 築空間と合理性のある構造計画を両立 段差梁 させることを目的として、本建物の主 水平材:H-350x250,350 垂直材:□-250x250 体構造は鉄骨造で、床梁として格子梁 ・段差梁を、外周四面のフレームに主 要な耐震要素となる座屈拘束ブレース 鉄骨柱 □-250x250 を組み込んだ架構で構成されている。 不規則に配置された各階の床の構成に 座屈拘束ブレース 座屈拘束鋼管: □-200x200,□-250x250 中心鋼材:SN400,SN490 対し、スパンに応じて鉄骨梁を 2 方向 に架け渡し、外周四面にある耐震要素 への地震力の伝達経路を明確にすると 共に、エネルギー吸収に優れた座屈拘 束ブレースを効果的に配置し、鋼管の 鉄骨梁 H-350x175~350 外形を一定としたまま、十分な耐力及 びバランスのとれた剛性を確保しつつ、 最大9mの階高を有する鉄骨柱に生じ る変動軸力を適切に制御している。図 2に構造システム、図3に軸組図を示し、 図2 構造システム 詳細について以下に述べる。 3-1 床梁 複雑な形状を有する床は原則的に格 子梁(H-350×175~350)を配置し、ス キップフロア状の5階 ・M5階(テラス) の床はH形鋼及び角形鋼管(□-250× 250)から成る段差梁で支持している。 この段差梁の架構には効果的にブレー スを組み込み、地震時に 2 つの床が一 体的に挙動し、地震力が建物外周の耐 震要素へ適切に伝わるように計画して いる。 一方、建物北部に位置するM5階(事 図3 軸組図(左から南面、北面、西面、東面) 務所)の床を支持する架構は、床の偏 在に伴う構造体全体のバランスの不具 合や地震力の局部的な応力集中を回避 するため、隣接する外周フレームとの 間にローラー支承を設け、外周フレー ムと縁を切り、地震力をコアに直接伝 えるように計画している。(写真3, 図4) 3-2 座屈拘束ブレース・柱 透明性の高い建築空間と対応するよ う柱として角形鋼管を想定し、床組の 58 鉄構技術 2012.8 写真3 ローラー支承 施工状況 図4 ローラー支承 平面詳細図 特集 鉄骨造建築の 柱材・柱形式 2 適切な地震力の伝達経路を確保した上 3-3 接合部 本設地盤アンカーの反力を受ける外周 で、外周フレームの主要な耐震要素に 本建物の柱梁接合部は標準的な通し 部の基礎梁は強度確保のためにSRC造 座屈拘束ブレース(座屈拘束鋼管:□- ダイアフラム形式とし、取り付く柱及 とし、合理的に対処している。 200×200, □-250×250、中心鋼材:SN び梁に応じた接合部の計画をしている。 400, SN490)を採用し、十分な耐力及 座屈拘束ブレースのガセットプレート 5.おわりに びバランスのとれた剛性を適切に確保 と柱の接合部は、鋼管の面外変形を拘 「建築空間の立体的なつながりを作り すると共に、エネルギー吸収に富んだ 束する鋼板を鋼管内に設け、鋼管の局 出す架構」として東京湾岸の大通り沿 架構となるように計画している。 部的な面外変形を防ぐと同時に、外観 いに建つオフィスビルを事例に開放的 座屈長さが最大 9 mである鉄骨柱に 上リブを出さないように考慮している。 で連続した建築空間の実現と、複雑な 関しては、地震時の転倒モーメントに 空間構成に合理性のある構造的な対応 (図5, 写真4) の両立を目的とした構造計画の概要に 起因する変動軸力の処理がポイントと なる。本建物では四面ともブレース構 4.下部構造 ついて述べた。 面のスタンスを最大限に広げ、鉄骨柱 基礎構造の計画についてもあわせて 最後に、誌面を借りて建築主をはじ に圧縮力が集中しないよう、ブレース 述べておきたい。 め多大なるご協力をいただいた施工関 の配置・向きの入れ替えを適宜行い、変 本建物の敷地が軟弱地盤であること 係者の方々に改めて謝意を表したい。 動軸力の処理に対して効果的なブレー から、基礎構造は GL-17m以深の砂礫 スの配置となるようにしている。このよ 層を支持層とする杭基礎(上杭:SC杭 うにして建築空間への対応と地震時に +中杭:PHC杭+下杭:PHC節杭)を採 おける変動軸力の伝達経路の適切な確 用している。さらに、上部構造の地震 保を勘案してブレース配置の整理を行 時の転倒モーメントにより生じる引き い、最終的に柱材は熱間成形継目無角 抜き力に抵抗するため、杭とは別に本 形鋼管(□-250×250)を採用している。 設地盤アンカーを設けている。また、 写真 4 接合部 施工状況 (柱、梁及びガセットプ レート) 図5 鉄骨詳細図 写真5 建方状況(南面2階) 2012.8 鉄構技術 59
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