誰でも分かる!小説の書き方入門 - タテ書き小説ネット

誰でも分かる!小説の書き方入門
青い鴉
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
誰でも分かる!小説の書き方入門
︻Nコード︼
N4623BK
︻作者名︼
青い鴉
︻あらすじ︼
﹁これだけ読めば小説が書ける﹂そんなエッセイを目指します。
自分が学んだことを整理するために。何処かの誰かの役に立つため
に。それは、本当に分かりやすく、あっさり読み終えられる、非常
にやさしい小説の書き方入門。ぜひこれを踏み台にして、筆力を向
上させていってください。作中作﹁マグタイトサーガ﹂もよろしく
!
1
誰にでも小説は書ける。
誰にでも小説は書ける。そう思っていた時期が、俺にもありまし
た。
そう、実のところ、誰にでも小説は書けるのです。義務教育を受
けていれば、漢字の読み書きもできるし、二字熟語も四字熟語も知
っています。学生時代に文芸部に所属していた経験が無くても、文
系大学に進まなくても、単にテキストエディタに向かってキーボー
ドを叩けば小説は書けます。しかし悲しいかな、作品を読んでもら
えない。読者がつかない。それが現実です。
今回このエッセイを書くにあたって考えたことは、これまでに私
自身が学んだことを再整理しようということです。誰かにお偉い口
調で説教するのではなく、自分自身の中にあるものをいったん全て
曝け出そうと思ったのです。そうすることで、自分では及びもつか
ないと思っていた、もう少し上のレベルに到達できるのでは?
誰にでも小説は書けます。そして書けば書くほど上達します。た
だ、問題は、文章を書く能力︵筆力︶と、人気作家との間には、﹁
文芸﹂と言う名の深い溝が横たわっていることです。
筆力が上がり、いかにレトリックを駆使して文芸を極めても、ア
イデアがつまらなければ読まれません。反対に、アイデアが優れて
いれば、拙い文章でも読んでもらえることがあります。
作者というものは、ただ漫然と筆先ばかり上達するだけではなく、
﹁文芸﹂という暗くて深い溝にきちんと橋渡しをし、薀蓄をやさし
く語り、難しい言の葉を開き、アイデアを提示し、読者がつくよう
な面白い作品を作り出さねばなりません。
そういう小説を書けるとしたら、どれほど嬉しいことでしょうか。
2
このエッセイでは、極めて基本的なことしか取り上げません。高
尚な作品を書く手助けにはならないと思います。しかしこの世界の
何処かの誰かの役に立つと信じて、このエッセイをつづります。も
青い鴉 毎日更新 12/09完結予定
し最後までお読みいただければ、それに勝る幸福はありません。
2012/11/04
3
文字数の壁。
はい。小説を書き始めた人がまずぶちあたるのが、文字数の壁で
す。夏休みの読書感想文の原稿用紙三枚を書き上げられなかった覚
えのある人もいるでしょう。反省文を書けといわれても、筆がまっ
たく進まなかった方もいるでしょう。小説というのは、とにかく文
字で構成されています。従って、文字数がなければ、小説として認
められないという由々しき事態に陥ります。
文字数の壁は、どうすれば突破できるのでしょうか。正直に申し
ますと、私も未だに文字数の壁を突破できておりません。一話五千
字? 一万字? 読みごたえが無い? 冗談じゃありません。二千
字、いや千字も書ければ調子のいいほうです。それもこれも、描写
が足りないからです。
描写。それはそれ一つとってみても、一冊の本が書けるくらいに、
難しい問題です。そもそも小説というのは、文字を使って、イメー
ジを相手に伝える方法の一つなわけで、いかに自分の脳内でリアル
にイメージしていても、それを描写にまで落とし込めなければ、ま
ったく伝わりません。
勇者がいて、魔王がいる。なるほど分かりやすい構図です。小説
家になろうでも、よく見かけられる構成です。しかしそれだけでは
小説にはなりません。小説はわざと回りくどく書く必要があるので
す。ぶっちゃけて言うと、小説というのは、回りくどい描写のかた
まりなのです。あのクリスマスキャロルを要約してみましょう。﹁
拝金主義のスクルージが幽霊に会っていい人になる﹂どうです。こ
れ以上の要約がありましょうか。
4
しかしそれでは作品にならないのです。小説はともかく、回りく
どく書く必要があるのです。とにもかくにも、石︵描写︶を積み上
げて城︵作品︶を作るように、くどくどと、退屈な描写が続きます。
時には眠くなり、時には読むのを止めたくなります。しかし最後ま
で読むと、読者はそれが壮大な城や教会であったことに気付くので
す。
もし最後まで読ませる力量が無かったら? ああ、それは悲劇と
いうものです。あらすじバックや、一話目のブラウザ即バックのた
めに、何人の作者が筆を折ったことでしょうか。数百? 数千? あるいは数万でしょうか。
というわけで、私の経験上、文字数の壁を乗り越えるためには、
ここまで述べたようなくだらない話を積み重ねるしかありません。
くだらない話を延々と書けること。それは一つの才能かもしれませ
ん。もしあなたが、あふれんばかりの言葉を持っていて、それをキ
ーボードに叩き付け、二千字、いや千字書けたのなら、あなたには
立派な小説の才能があることになります。
﹁誰でも分かる!小説の書き方入門﹂では、そのような小説の才能
を、実際に形にすることに焦点を当てていこうと思います。
5
描写力の壁。
描写力。これほど作者が切実に欲しがるものはありません。小説
とは描写のかたまりです。描写がなければ小説ではありません。
すると描写力というものを訓練する必要がありそうなものですが、
多くの小説入門書では、描写力というものを、まるで天から降って
くるマナのように教えています。あるいは、才能だとか、センスの
問題だとでも言わんばかりです。これは間違っています。描写力は
筋肉同様、鍛えられるものです。
話は変わって絵画の話になりますが、絵を描くには実はコツがあ
ります。ある程度分かっている絵描きは、スケッチが終わったら、
まず背景を黒か、それに近い色で塗りつぶすのです。こうすると影
を描く必要がなくなります。光の当たっている部分だけ描き足せば
よくなります。非常に簡単なコツです。ですが、このやりかたを知
っていると知っていないのでは、仕上がった絵画の出来は大違いに
なります。
小説の描写でも、これに似た、大雑把な割り切りが必要になりま
す。
まず底が四角い500mlのペットボトルがあり、白いキャップ
午後○紅茶と印刷されている。さらに言えば、
とは対照的に、赤いラベルと飲み残しの赤茶色の紅茶がある。ラベ
ルにはKIR○N
小さな字で、甘さすっきり低カロリー、ストレートティーと印字さ
れている。ラベルの上のほうには、誰だか知らないが、中世風の帽
子を被った上品な女性も印刷されている。それでどうやら、女性向
けの飲料を目指しているのだな、ということがわかる。隣には、商
品の細かい情報が記載されていて、名称は紅茶飲料、原材料名には
6
砂糖類と紅茶、香料、ビタミンCと書かれている。しかしこのビタ
ミンCは保存料として入っているのであって、ここでは特段に強調
されてはいない。これはあくまで紅茶なのである。
まあ、ここまでくどく描く必要はありませんが、描写というのは
こういうものです。まず目に付くところを大雑把に描いて、次にさ
らに詳しいことまで書いていく。そうすると一本の紅茶のペットボ
トルであっても、千字とまではいかずとも、数百字を稼げるわけで
す。
そして重要なことですが、これは絵画のスケッチと同様、練習す
ることで上達します。何もどこかに出かけていく必要はありません。
とにかく身近なものを書き続ければいいのです。文字でスケッチを
するのです。これを繰り返すうちに、見たもの、思ったものを文字
による描写に置き換える能力が、多少なりとも身に付きます。これ
が描写力です。
あなたが書きたいのはファンタジーかもしれません。恋愛モノか
もしれません。でも、やっぱり描写のかたまりであることは間違い
ありません。ほんのちょっとしたリアリティが、その作品をぴりっ
と引き立てるスパイスになって、読後に素晴らしい余韻を与えるこ
ともあります。
そのためにも、まず描写力を身に付けることです。
7
想像力の壁。
さて、描写力が身に付いたとします。次に問題になるのは、想像
力の壁です。
たとえば中世ヨーロッパあたりを舞台にした、オーソドックスな
ファンタジー小説を書こうと考えていたとします。さっそく冒険者
ギルドとそれに登録している冒険者たちを登場させたいところです
が、ちょっと、ちょっと待ってください。それは本当にリアリティ
がある物語なのでしょうか。
冒険者ギルドに関する悪評は、小説家になろうの内外でよく聞か
れます。なぜなら、その存在に正当な根拠が無いからです。現実の
中世ヨーロッパには、商売上のギルド︵たとえばパン焼きギルド!︶
はありましたが、冒険者のギルドというものはありませんでした。
商売上、傭兵はいましたが、ドラゴンの守る金銀財宝を奪おうと夢
見る冒険者はいませんでした。
仮に財宝を守るドラゴンや悪いゴブリンたちがいたとしても、本
当に冒険者という職業が成り立つものでしょうか。そもそも、モン
スターを倒すとお金がもらえるという仕組みはどこから来たのでし
ょうか。ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー、ソード・ワ
ールドRPG、そして最近だとスカイリムなど、モンスター討伐の
ついでにお金が手に入る話はとてもたくさんあります。
ですが、それは本当に正しいのでしょうか。惰性でそうなってい
るだけで、実際は違うのではないでしょうか。ドラゴンはあるいは
ハリケーンのような単なる超自然的な災厄で、お金をもたらしては
くれないかもしれません。野良ゴブリンなど討伐しても、誰も賞金
8
を支払わないかもしれません。微々たる報酬で、薬草を取りにいこ
うとしただけで、崖から落ちて死ぬかもしれません。そこには実は
狼の群れが生息していて、誰も近付かない場所なのかもしれません。
何もファンタジー小説を否定しているわけではありません。ただ、
想像力を膨らませれば、そこには自ずとリアリティがつきまとって
くるものです。
そして中世の資料を漁っているうちに、ある日突然、ファンタジ
ーが書けなくなる日がやってきます。膨大な歴史は、小説より奇な
り。自分の想像力が、単なる三千年ぽっちの歴史に、とうてい敵わ
ないのだと悟る日が来ます。夢で見たリアルなネタでさえも色あせ、
筆を折ろうかと思う日がいつか必ず来ます。
しかしその段階を踏破し、突き抜けることができたならば、もう
こっちのものです。
確かなリアリティを伴った想像力。それは描写力とあわせて、全
ての作者が夢見る、魔法の力なのです。
9
話数と総文字数の壁。
最低十万字無いと読む気がしない。という人たちがいます。
十万字というのは、単行本一冊分です。
作品に完成度を求める読者が、単行本一冊分の話を、明白な起承
転結のある話を求めるのはしかたのないことだと思います。
ですが、ここはあえて言います。十万字だらだら書くより、二万
字∼四万字の作品を完結させたほうが実力がつきます。完結させる
こと。これが何より重要です。
一話三千字以下だと切り捨てる。という人たちがいます。
切り捨てさせておけばいいのです。一話三千字以下で、二万字で
完結して何が悪いというのでしょうか。人気があっても一作も作品
を完結させられない作者と比べて、どちらがマシでしょうか。
これは作者のプライドの問題でもあります。そしてひいては、読
者の問題でもあります。
そもそも十万字をハイクオリティで書ききれるのであれば、どこ
かの賞に持ち込んで出版を狙えるはずです。ここ、小説家になろう
においても、人気作の出版はある種のブームとなっています。そこ
まで書けるのであれば、そもそもこの﹁誰でも分かる!小説の書き
方入門﹂など見ていないはずです。
十万字に届かなくても、とにかく完結させましょう。
作品を産み落とし、へその緒を切って、世に送り出しましょう。
レベル
誕生した作品を読み直し、拙い部分を見つけましょう。何度も連載
し、何作も完結させましょう。そのつど、自分のリアルの筆力が上
がって行くのを確認しましょう。
10
素晴らしい文章を書くには、ある種の鍛錬が必要です。それは、
物語を完結させることでしか身につきません。短編と長編を書くに
はそれぞれ別の才能が必要だと言う人もいます。なるほど、それは
真実です。しかしやはり、描写力と想像力は、がむしゃらに書くこ
とでしか伸びません。書き切ることでしか成長しません。
もしあなたが今なら十万字書けるという確信を持ったとしても、
十万字書くのは賞のために、あとでやればいいことです。人気を気
にしながら、だらだら連載を続けて作者気取りをする前に、これが
自分の作品だ、短いけれども完結しているんだ、とお勧めできるよ
うになりましょう。
それはとても素晴らしいことです。その作品は、あなたが死んだ
後も残るのですから。
11
段落の頭に全角空白。
ここからは小説の作法の話になります。退屈で眠い授業の始まり
です。まず必要なのは、段落の頭の全角空白です。
→これです。これが必要なんです。
全角空白を入れることで、そこが段落だということが分かります。
段落というのは、小説の基本的なパーツです。段落に次ぐ段落。そ
して章の切り替わり。また段落に次ぐ段落。この繰り返し。おしま
い。というのが、小説の成り立ちです。どうです? 簡単でしょう。
最近はケータイ小説などと銘打って、段落をないがしろにする風
潮もありますが、とにかく小説らしい小説を書きたいと思ったら、
段落を作ることを恐れてはなりません。この作法を受け入れ、自分
の作品に段落を、起承転結を付け加えることができたら、たとえ千
字だって立派な作品になるのです。
え! そういうお前は話の中に起承転結が入ってないって? い
やはや耳が痛い話です。
あ、ついでになりますが、このように﹁!﹂や﹁?﹂の後ろにも
全角空白を入れましょう。これも小説のマナーというか、作法にな
ります。ぱっと見た感じにも、文章全体が引き締まって見えるので、
お勧めです。そもそも地の文で﹁!﹂や﹁?﹂を多用するのはいか
がなものか? という意見もありましょうが、そこはお見逃しくだ
さい。
さて、段落については語ることが山ほどあります。そもそもどこ
からどこまでを段落とするべきなのでしょうか?
一段落に、文を何十個も詰め込むタイプの作者もいます。反対に、
原稿用紙の一行に満たない文章でも、段落分けすることを躊躇わな
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いタイプの作者もいます。最近のラノベでは、地の文が少なく、下
半分を隠しても読める、などという残念な風潮さえはびこっている
そうです。そういうのを聞くと、反対に、ついつい段落わけをした
くなくなる。そういうあまのじゃくな性格をした作者がここにいま
す。
段落を分けるにあたって、声を出して読んでみるというのが、一
つの指標になると言われています。息継ぎに当たる部分に句読点を
打ち、声を出して読んでみます。すると、ここで段落を分けよう!
というポイントがくっきりと見つかることがあります。
あるいは、このように特別に引き立てたい言葉を頭に持ってくる
という方法もあります。﹁しかし﹂﹁だが﹂﹁あるいは﹂﹁そうし
て﹂など、段落の頭にもってくると引き締まる言葉というのがあり
ます。しかしあまりやりすぎてしまうと、小説というより四行詩や
神話になってしまうので、注意が必要です。
さて、あまり長く語ってもアレですので、次に行きましょう。
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⋮⋮や︱︱は二文字セットで使う。
⋮⋮︵三点リーダー︶や︱︱︵ダッシュ︶は二文字セットで使う。
このルールを守っていない作者は大勢居ます。
ひどいときには・・・︵全角の点三個︶や・・・︵半角の点三個︶
を使っている作者も居ます。
ーー︵伸ばし棒︶や−−︵全角マイナス︶使いの作者もいます。
かくいう私も、−−−−︵半角マイナス︶を場面の切り替えに使
ってしまったりしています。
が、この際、そういう作者は無視しましょう。紙に印字されたま
ともな小説を読んでいれば、⋮⋮や︱︱が一般的であることはやが
て分かるはずです。とりわけ、﹁タテ書き小説ネット﹂でも読める
ように、あるいはガラケーやスマフォでも読めるように、と考える
のであれば、ちょっとした見た目は気にせずに上記の表現に統一す
べきです。
インプット・メソッド・エディタ
IMEというのは聞きなれないかもしれません。要するに文字入
力バーのことなのですが、MS−IMEやATOKなどが有名です。
これの辞書に、﹁;﹂で﹁⋮⋮﹂が、﹁:﹂で﹁︱︱﹂が出るよう
に登録してしまうというのが、しがない物書きである私が伝えられ
る唯一のコツです。
こうすると打ち間違えなどで悩まされることが無くなります。
今すっごい秘密の魔法を暴露したような気がしていますが、たぶ
ん気のせいです。
章の区切りにどの記号を使うべきか。あるいは何も使わずに四行
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くらい空けたほうがいいのか。これも議論になる点です。縦書きの
紙媒体であれば改ページすることができますが、小説家になろうで
は横書きな上に、改ページが使えません。
章の切り替わりを小説の各話に当てはめる作者もいますが、各話
の長さを統一するために、やはり工夫が要ります。これは非常に難
しい問題で、様々な作者が頭を悩ませています。
重要な点として、︱︱は縦書きにしても読めますが、−−︵全角
マイナス︶や−−−−︵半角マイナス︶は縦書きにすると読めませ
ん。繰り返し書きますが、様々な方法で読まれることを意識するの
であれば、表現の統一がとても重要な問題になってきます。
さて、次に行きましょう。
15
鉤括弧﹁﹂は会話に使う。
﹁どうもA子です。近年の小説の大部分を占めるのが、会話文です﹂
﹁どうもB子です。しかし会話だけで丁々発止のやりとりを行うの
は至難の技です﹂
﹁再びA子です。そもそも会話文だけでは、誰が何を話しているの
かわかりません﹂
﹁そのために、後ろに﹂B子が言った。
﹁などとつけるのがほとんどお約束になっています﹂A子が言った。
言った。言った。言った。この繰り返しを嫌う人がいますが、会
話文だけでわけもわからず進む話より億倍マシです。億ですよ億。
わかりやすさの桁が違います。
それでも﹁言った。﹂の連発が嫌いな人は、拙作﹃オチもなけり
B氏が引き止め
A氏は絶望して
ゃ希望もねえ﹄︵※︶からですが、以下のような表現があります。
﹁もうだめだ。もうおしまいだ。死ぬしかない﹂
いた。
﹁ちょっと待って! 早まらないでください!﹂
た。
D氏が
﹁でも﹃物語の初めに死体を転がせ﹄って偉い人も言ってますし﹂
C氏が煽った。
﹁そんなセオリーがこの作者に通じると思ってんのか?﹂
不満を述べた。
E氏が見解を語った。
﹁そう。重要なのはこのSSのタイトルからして、オチも希望も無
いことなんだ﹂
﹁だけどよう。俺達の努力で未来を変えられるんじゃねえのかよう﹂
F氏は勇敢だった。
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G氏は仮説を立てた。
﹁そうかもしれない。物語の登場人物が独り歩きするという説もあ
る﹂
H氏は希望を語った。
﹁俺達が独り歩きすれば、作者もオチを考える気になるかもしれな
い﹂
Uというキーワードはタイトルで禁止されている﹂
ターン。発砲音が聞こえ、H氏は倒れた。額を撃ち抜かれている。
BO
即死だった。
﹁KI
I氏は冷静だった。
L氏は推
J氏は冷淡とも言える態度
K氏は絶望した。
﹁つまり言ったら死ぬというわけか﹂
で言った。
﹁俺達はみんな死ぬんだ⋮⋮﹂
M氏は訊ねた。
N氏は答えた。
O氏は動揺
﹁いや、そんなオチらしいオチがあるとは思えないな﹂
理した。
﹁じゃあどうなるんだ?﹂
﹁何も起こらないかもしれないね﹂
﹁それこそ我々が最も恐れていることじゃないか?﹂
した。
P氏は大胆にも発言した。
R氏
Q氏は
﹁もしかして、このままアルファベットを使いきるというオチなの
では?﹂
﹁作者がそんなオチらしいオチを考えているわけがない﹂
失望した。
S氏は嘆息した。
T氏がパ
﹁だとするとそろそろ終わりが見えてきたかもしれないな﹂
は予想した。
﹁ああ、もうそろそろだろうな﹂
﹁突然ですが、皆さんには殺し合いをしてもらいます﹂
クった。
U氏は
W氏は現実主義者だ
V氏は無駄な提案をした。
﹁著作権に訴えても無駄だよ。我々には武器も何もない﹂
落ち着き払っていた。
﹁作者を殺そうじゃないか﹂
﹁作中人物がどうやって作者を殺すんだよ﹂
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った。
﹁もうすぐZ氏が登場するぞ﹂
回す。
Y氏
X氏が期待を込めた目で辺りを見
﹁Z氏ならいませんよ。さっき僕が殺しておきましたから﹂
は血走った眼でフヒヒと笑った。
全員がオチを求めて天を仰いだ。ツバメが一羽、青空を横切って
行った。
どうでしょうか。いたずらに末尾の表現を増やしただけでは面白
くならないということが分かっていただけたかと思います。
かぎかっこ
鉤括弧は、縦書きにしても読める記号です。従って、傍点や“”
などの代わりに使うこともあります。たとえば﹁キーワード﹂みた
かぎかっこ
いに使うわけです。何らかの事情でもっと強調したいときや引用で
は、﹃吾輩は猫である﹄などのように、最初から二重鉤括弧を使う
こともあります。
かぎかっこ
﹁ちなみに、会話文の中で﹃キーワード﹄を使うときは、普通、二
重鉤括弧を使います﹂とA子が言った。
﹁今回はこれで終了です。以上、A子とB子でした﹂B子が締めた。
※pixivより引用
18
心の中の言葉を︵︶で囲まない。︵前書き︶
この段落は、初心者によくあるゲーム的な文脈での︵︶の乱用を避
け、ひとまず人称の固定や地の文での描写を覚えることを優先する
目的で書かれています。
国民的な大作家の方の作品で、括弧が効果的に使われていることも
あります。また、昨今のラノベでは︵︶で囲むほうがメジャーな書
き方なのかしれません。
作者の独断と偏見に満ちた段落であることはご承知ください。
19
心の中の言葉を︵︶で囲まない。
描写の中でも、心理描写。これは小説の見せ場です。しかし往々
にして、心理描写で手を抜きたがる傾向が作者にはあります。心理
描写は、登場人物に感情移入して書かないといけないので、疲れて
しまうのです。この連載を読んでいる方も、身に覚えがあるかと思
います。
︵まあしょうがないでしょ。実力ないんだし︶
︵唐突に心理描写が重要だとか言われてもねえ︶
このような表現を使う作品がありますが、基本的に反則です。よ
っぽどコメディやギャグ寄りでないかぎり、このような表現は﹁手
を抜いている﹂と思われかねません。
何も特別に工夫を凝らすことなく、地の文で書いてしまうという
のが簡単です。
まあしょうがないでしょ。実力ないんだし。と私は思った。
唐突に心理描写が重要だとか言われてもねえ。B子はそんな顔を
している。
人称にもよりますが、上記のように地の文に紛れ込ませると、話
がぐっと引き立ちます。
とはいえ、一人称では上のように書けばよいですが、三人称では、
主人公の心理描写がずっと難しくなります。三人称では基本的に第
三者視点で物語が進むので、﹁主人公が何々と思った﹂と断定しづ
らいのです。せいぜい﹁主人公の顔が曇った﹂﹁主人公は何かを閃
いたようだった﹂くらいしか書けません。
20
この部分を混同した三人称単視点︵背後霊型︶、三人称多視点︵
ザッピング型︶、三人称神視点︵歴史モノ、神話など︶の良し悪し
については、後ほどまた取り上げます。
比喩や風景描写を通じて、心理描写するという手法もあります。
﹁今日は雨。﹂という文で、憂鬱な気分を表したりするのはありき
たりですが、﹁雨の日の登校では、似合いもしないレインコートを
着なければならない。﹂などと登場人物に愚痴らせることでオリジ
ナリティのある憂鬱さを演出できるかもしれません。
大抵の場合、物事を明るい方向に描写すると気分の快活さを、暗
い方向に描写すると気分の憂鬱さを、表現できます。﹁バケツをひ
っくりかえしたような雨﹂とすれば豪雨でも前向きな、﹁どこまで
もしつこく染み通ってくる雨﹂とすれば霧雨でも後ろ向きな気分に
なります。
こういう描写が上手い人は、往々にして普段から筆力が高いもの
です。描写民族サ○ヤ人です。普段からフルパワーで、実力を隠す
ということを知りません。しかしここ、小説家になろうにおいては、
あまり抽象的に書き連ねるのも考えものです。﹁主人公の気持ちが
分からない﹂﹁もっと主人公の気持ちをストレートに書いたほうが
いいと思います﹂などとマジレス感想をつけられて、リアルに凹み
かねません。
ともかく、心理描写は心理描写で、非常に重要なポイントです。
ここで手抜きをせずに、きっちりと地の文を膨らませられるかが、
作者の力量であると言えます。
21
算用数字を避ける。︵前書き︶
︻警告︼以下の内容は﹁小説家になろう﹂や﹁タテ書き小説ネット﹂
に特化しています。小説作法の一般的なルールではありません。
22
算用数字を避ける。
0123456789
これらが一般に算用数字、アラビア数字と呼ばれるものです。
非常に馴染み深く、使いやすいので、さっそく1000や2000
などのように作品に登場させてしまいたくなりますが、ちょっと待
ってください。
算用数字は、縦書きにすると非常に読みづらいか、あるいは読めな
くなるのです。たとえば10000円は、
1
0
0
0
0
円
となってしまいます。分かりやすく書こうとしたのに、むしろ何桁
の数字か、分かり難くなってしまっています。これは非常にまずい
ことです。
ここはちょっと頭を冷やして、百や千や万、億や兆など、昔ながら
の漢数字を使いましょう。これならば縦書きにしても、
一
万
円
23
となるだけで、しっかりと読めますし、位取りで混乱することもあ
りません。
たてちゅうよこ
では、時刻など、二桁の数字はどうでしょうか? 11時27分。
これは原稿用紙に縦中横という方式で
11
時
27
分
と書くことができるので、算用数字を使ってもよさそうに思えます。
しかし、﹁タテ書き小説ネット﹂やその他のリーダーがこの形式に
対応しているかというと、対応していません。
1
1
時
2
7
分
となってしまいます。これが作者の意図通りならば良いのですが、
﹁俺はこんなつもりじゃなかった﹂という作者も多いことでしょう。
十一時二十七分。このほうがマシな結果になるかもしれません。
十
一
時
24
二
十
七
分
ちなみにアルファベットだと、たとえばVRMMO等の表記は、﹁
タテ書き小説ネット﹂では
V
R
M
M
O
となります。これはしょうがないです。英文は素直に諦めましょう。
横書きの文章が多いネット小説ですが、縦書きで読んだ場合のこと
もイメージし、丁寧に書いていくことが必要になります。
25
台詞だけの文章は小説ではない。
ショートストーリー
A子﹁SSというジャンルがあります﹂
B子﹁ここから小説にハマったという方もいるようです﹂
A子﹁しかしながらこのような作品は︱︱﹂
B子﹁小説の体を成しているとは言い難いのです﹂
これを単純に変換して
ショートストーリー
﹁SSというジャンルがあります﹂とA子が言った。
﹁ここから小説にハマったという方もいるようです﹂B子が受ける。
﹁しかしながらこのような作品は︱︱﹂A子が疑問を呈した。
﹁小説の体を成しているとは言い難いのです﹂B子が断言した。
こうすると小説﹁らしく﹂なります。
ですがこれを小説と呼ぶには、まだ何か足りません。地の文が無
いからです。何処とも知れぬ虚空の中にA子とB子が立って禅問答
している︱︱読者にそんな風に取られてしまってもしかたがありま
せん。
ショートストーリー
﹁SSというジャンルがあります﹂とA子が言った。
ここは超常現象が頻発する薙刀高校。場所は教室。時は放課後。
A子は小説書きを目指して文芸部に所属する、黒髪長髪の高校生で
ある。連載の関係上、季節が冬なので、紺の冬服に着替えている。
そして読者に媚びようと、今は細い楕円のフレームの伊達眼鏡をか
けている。眼鏡っ子Aに萌えてしまった読者はまんまとしてやられ
26
たというわけだ。
﹁ここから小説にハマったという方もいるようです﹂B子が受ける。
VIP板などでは、SS職人が今日も萌え豚を狂喜乱舞させるた
めに﹁小説モドキ﹂を量産している。そこでは誰が何を言ったかが
重要で、地の文などというものは存在しない。その多くはテンプレ
ートに沿っていて、会話の応酬を楽しむというのがほとんどだ。
茶髪のショートカットで銀のピアスを装着したB子は、そういう
入り口があることは否定しない。多くの人間が文字媒体を通じて、
何かを感じ取ってくれるのなら、それが小説である必要はないとさ
え思う。だが。
﹁しかしながらこのような作品は︱︱﹂A子が疑問を呈した。
A子は見た目どおりに、いやそれ以上に堅物である。青空文庫に
ありそうな古典を読んでは、ほうとため息をついたりしている。﹃
吾輩は猫である﹄が、元祖猫萌え小説だと公言してはばからないほ
どに、古典にどっぷりと漬かっている。芥川全集も読破した。太宰
治の生い立ちも知っている。そのA子が疑問を呈し、言葉を切った。
﹁小説の体を成しているとは言い難いのです﹂B子が断言した。
そう、小説というのは主に地の文から成り立つのだ。台詞はどち
らかというとオマケである。名作﹃吾輩は猫である﹄を読んでみて
もらいたい。そこには主人公たる猫の人間的思考と情景描写が、延
々と続いていることに気付くであろう。
そのところどころに、アクセントとして人間の台詞が挿入されて
いる。僅かな台詞が、とんとん拍子のやりとりとして、面白おかし
く存在している。猫はこれを聞くには聞くが、理解はしない。理解
27
するのは読者である。面白みを感じて笑うのは読者である。ここに
台詞の妙味がある。
﹁そんなわけで、次は地の文についてです﹂A子が言った。
﹁地の文をどうやって書くか。要チェックです﹂B子が言った。
28
地の文を書こう。
地の文。これが嫌いな作者がいます。これが嫌いな読者もいます。
しかし地の文が無い小説は、形を持たない、空虚なものになりがち
です。
地の文を書くに当たって必要なのは、5W1Hです。
何を
誰が
What
いつ
Who
When
なぜ︵どんな目的で︶
どこで
Why
どうやって
Where
How
これらが分からないと状況が把握できません。登場人物に感情移
入できなくなります。
誰が、これはまだ分かります。﹁私﹂あるいは﹁主人公﹂という
存在が言外にあるからです。しかし語らなければ容姿は分かりませ
ん。男なのか女なのか、歳はいくつなのか、どんな髪型服装をして
いるのか。実際には、数名のメイン・キャラクターが登場する場合
がほとんどですから、一人ひとりの容姿を描写していくだけでこれ
はかなりの量になります。
何を、これは説明しないと分からないです。大抵、敵や問題や状
況と主人公が戦うのですから、最低限﹁敵を﹂とか﹁締め切りを﹂
とか言ってくれないと分かりません。ここが分からないと小説とし
て読むことが出来ません。まあここを省略する人はあまりいないで
29
しょう。
いつ、これも重要な点ですが抜け落ちがちです。今が春夏秋冬ど
の季節なのか。朝なのか昼なのか夕なのか夜なのか。授業中なのか
放課後なのか。言われないと分かりません。
どこで、これもうっかりと省略されてしまうことがあります。教
室なのか、下校中なのか、コンビニの中なのか、あるいは異世界な
のか。書き忘れることがあります。
なぜ、これも重要です。動機付けが存在しない話ほど空虚なもの
はありません。何かの行動を起こす前に、彼ら彼女らの行動原理を
はっきりさせておかないといけません。
そして最後に、どうやって、です。たとえ便利な魔法が存在して
いるにしても、その原理がまったく不明では読者は困ります。困っ
た末に、この作品は駄作であると認定するようになります。そうな
らないためにも、何らかの理屈をつけて、話を畳まなければいけま
せん。
そんなわけで、これらを地の文でしっかりと描写することが必要
です。
以下は、全てを満たした例です。どれがどれに当てはまるか、分
かるでしょうか。
放課後の教室で、部が発行する同人誌に載せるために、黒髪長髪
のA子は悪戦苦闘しながら恋愛小説を原稿用紙に書いていた。パソ
コン上のワープロソフトではなく原稿用紙を使うというのは、A子
のこだわりである。茶髪ショートカットのB子はその隣の椅子にま
30
たがるように座って、メル友に向かってメールを打っている。
A子は段落を書くたびに推敲したくなってしまう性質で、なかな
か原稿が進まない。それに対し、B子は天啓があったときに、がー
っと書くタイプで、普段は遊んでいる。A子は時々B子のその才能
を羨んだり、妬んだりするが、B子は自分がそんなふうに思われて
いるとは知らないらしかった。
そこにふらりと先輩のC男が現れた。A子は上目遣いでC男に意
見を求めた。﹁うーん、ここ人称おかしくない?﹂C男の文芸の才
能は確かなものである。一瞬で見抜かれた拙い部分を、A子は涙目
になって改稿する。B子が立って、後ろからA子を抱きしめて﹁よ
しよし、一緒に手直ししようねー﹂と百合っている。
ちょうりょうばっこ
うつしよ
ふくまでん
いずれにしろ締め切りまであと三日である。しかしここは薙刀高
校。超常現象が跳梁跋扈する現世の魔界である。伏魔殿である。そ
う簡単に、無事に原稿が仕上がるとは、この場の誰も思ってはいな
かった。
31
描写、形容、比喩、表現、言い回し。
以下、﹃デジタル大辞泉﹄﹃goo国語辞書﹄より引用
描写⋮⋮物の形や状態、心に感じたことなどを、言葉・絵画・音
楽などによって写しあらわすこと。﹁情景を︱する﹂﹁心理︱﹂
形容⋮⋮物事の姿・性質・ありさまなどを言い表すこと。また、
他のものにたとえて表現すること。﹁言葉では︱できない美しさ﹂
比喩⋮⋮ある物事を、類似または関係する他の物事を借りて表現
すること。たとえ。
表現⋮⋮心理的、感情的、精神的などの内面的なものを、外面的、
感性的形象として客観化すること。また、その客観的形象としての、
表情・身振り・言語・記号・造形物など。﹁情感を︱する﹂﹁全身
で︱する﹂
言い回し⋮⋮うまく言い表す。巧みに表現する。慣用句。
引用終わり
﹁それで私に何の用だ、卑しく薄汚い、異教徒の雌豚どもめ﹂黒衣
薙高に召喚された大司教サヴァンは、拙
の大司教サヴァンが言った。
作者の手によって突如
作﹁中世ヨーロッパは大変です!﹂に登場するオールバックの生粋
のキリスト教徒である。中世ヨーロッパ、フランク王国の大司教と
32
いうだけあって、ちょっと、いやだいぶ、かなりキリスト教に毒さ
れている。
﹁うわーそういう形容、言い回しはどんびきですよ﹂黒髪長髪のA
子が言った。
﹁日本人はちゃんとクリスマス祝いますからー﹂茶髪ショートカッ
トのB子が言った。
﹁ふむ⋮⋮年に一度くらいは我々の真似事をするというわけか。三
百六十五分の一に薄められたワインを酒だと言い張るのに似ている
な﹂サヴァンが吐き捨てた。
﹁あ、今の比喩ですよね﹂A子が言った。﹁比喩だ比喩ー﹂B子が
はやしたてる。
﹁やかましい雌豚ども。ここがフランク王国なら串刺しにして焼い
てやってもいいんだぞ。そのしたたる肉汁をもう一度かけて風味を
つけてやる﹂
﹁焼肉文化なら日本だって負けてないですよ!﹂A子はふふんと勝
ち誇る。
﹁現代では、肉汁を閉じ込めるのがおいしさの秘訣と言われてるん
ですよ!﹂B子がそれに追撃を重ねる。
その減らず口に、サヴァンは閉口したようだった。
﹁あー、呼ばれたついでにお前ら現代人に聞いておくが、キリスト
教はちゃんと1300年先まで残っているんだろうな﹂
﹁もちろんです﹂A子が言った。﹁ヨーロッパでキリスト教徒じゃ
ないのはもぐりですよー﹂B子が言った。
33
﹁そうか。私の聖書編纂事業は、国を挙げての布教活動は無駄では
なかったのだな⋮⋮﹂
﹁なんですか、まるでもう天国に行ったような優しい目をして⋮⋮﹂
A子はサヴァンの活動を知らない。
﹁まだお若いんですから、人生これからですよ、これから!﹂B子
もサヴァンの活躍を知らない。
とわ
﹁永遠に、神の御心が伝えられんことを。Amen!﹂大司教サヴ
ァンはほころぶ顔を抑え、最後にそう言い残して消えた。
﹁なんだったんでしょうか⋮⋮﹂﹁キリスト教が残ってたのが嬉し
いんじゃないの?﹂そう言って、A子とB子は、とりあえず、描写
と形容、比喩と表現、言い回しの検討会を始めた。
34
地の文からにじみ出てくる作風。
地の文は、ですます調や、だ、だった、である調、体言止め、だ
ったろうか?などの問いかけ口調など、様々なものがあります。
学生の時には、ですます調で書くことを強制された人も、今では
だ、だった、である調になっている、などということは頻繁に起こ
りえるでしょう。
心情描写を抜きに、単に風景描写にしても、そういったことが起
きます。
今日は雨です。
今日は雨か。
今日は雨だ。
今日は雨だった。
今日は雨である。
今日は雨であった。
今日は雨。︵体言止め︶
おお、今日という日が雨以外に見えようか?
などなど、表現手法は非常に多岐に渡ります。もしこれらの中か
ら、その都度にベストなものを選択できるというのなら、おめでと
う、あなたは今日から小説家です。
でも、実際はどの表現にするか迷うことがしばしばあります。そ
ういう選択の繰り返しが、そして句読点のリズム感が、いわゆる作
風と呼ばれるものとなってゆくわけです。
再読してみれば、上の文では﹁小説家です﹂と、ですます調を採
用していることが分かります。しかし、本人が気付かないうちにこ
れらが決定されているとすれば、それは少々危険なことでもありま
35
す。なぜなら、小説の中で作風が一貫していないと、読者はひどく
面食らい、それきり読むのをやめてしまうからです。
小説を書くにあたっては、自分がどの文体を選択しているのか注
意深く振り返り、音読してつかえるようなことが無いようにリズミ
カルな句読点を心がける必要があるでしょう。自分の作風を客観的
にとらえられるようになれば、作風をその一歩先に進めることもで
きます。
かのベートーヴェン最後の弦楽四重奏曲の楽譜には﹁かくあるべ
きか?﹂﹁かくあるべし!﹂︵※︶との意味深な言葉が書かれてい
たそうです。疑問と肯定。文字にしてみればささいなやりとりでは
ありますが、ベートーヴェンの晩年の悟りの境地を示している言葉
とも言われています。
へへえ。自分はどのような作風でも書けますよって、どうぞお好
きなようにお申し付けください。というのは小説家として別段褒め
られるべき姿勢ではありません。自分が得意とする作風で、﹁かく
あるべし!﹂と強く断言できる作品を作り出すことが、小説家には
求められているのではないでしょうか。
ごくたまにですが、作品ではなく、作風を好きになってくれる読
者がいます。このような読者は、作者にとって本当にありがたいも
のです。自分のどんな作品でも読んでくれて、どれどれが一番好き
だ、などと語り合ったりできる読者は、とても貴重な存在です。作
sein?﹂﹁Es
muss
sein!﹂
者としては、作品を磨くのと並行して、作風というものも磨いてい
es
きたいものです。
※﹁Muss
36
人称を決めよう。
今回は人称です。人称は一般に、一人称と三人称が使われます。
二人称はほとんど使われないので覚えなくてもいいです。リストア
ップするとこうなります。
・一人称
・厳密な三人称︵感情が読めない︶
・三人称単視点︵背後霊型︶
・三人称多視点︵ザッピング型︶
・三人称神視点︵なんでもあり︶
・三人称神視点︵ナレーター型︶
リアル
一人称は﹁僕﹂﹁俺﹂﹁私﹂のどれかが主人公になります。あと
は﹁余﹂とか﹁儂﹂くらいでしょうか。現実では使い分けたりもし
ますが、小説上では、自分の呼び方は一通りに決めてしまうのが簡
単です。
一人称は﹁僕は走った。A子も一緒に走った﹂のように、主役で
ある﹁僕﹂と、僕の周囲の人物の描写から成ります。主人公が超能
力者でもないかぎり、他人の感情は読めません。あるのは﹁僕﹂の
観察と推論、心の中の動きだけになります。
﹁僕は走った。A子も一緒に走った。僕が思うに、A子は嬉しそう
に見えた﹂という形です。もちろん﹁僕が思うに﹂の部分は省略し
てもかまいません。
三人称は﹁C男は走った。A子も一緒に走った﹂あるいは﹁C男
とA子は一緒に走った﹂というふうな、主役のいない書き方です。
37
この場合は、全員の感情が読めません。ただ、見た目で感情を表現
することはできます。
﹁C男とA子は一緒に走った。A子の表情は嬉しそうだった﹂とい
う形です。
﹁C男とA子は一緒に走った。A子は喜んだ﹂
これは⋮⋮難しいところですが、厳密にはNGです。知らず知ら
ずのうちに、A子の感情を描写してしまっています。これは三人称
単視点︵背後霊型︶といって、厳密な三人称ではありません。
ですが、このような背後霊型の形式で書かれている小説は非常に
多いです。三人称小説の大部分がこれに属します。A子の背後霊の
ようなポジションから描写しているので、厳しいようですがA子が
見ていない世界は書けません。このへんを間違えると、以下のよう
になってしまいます。
﹁C男とA子は一緒に走った。A子は喜んだ。というのも、A子は
一度くらいは、憧れのC男を追いかけてみたかったからである。C
男のほうも追われるのはまんざらでもなかった。やはり、C男も一
度くらいは、後輩のA子に追いかけられてみたかったからである﹂
これが三人称多視点︵ザッピング型︶、あるいは三人称神視点︵
なんでもあり︶と言われるものです。視点がころころ変わり、それ
ぞれの心情を描写してしまっています。これはこれで歴史モノや神
話などで使われる味のある文章になりますが、一般にはNGなので、
気をつけましょう。
また﹁その日その時、誰にも見つからずにステルス戦闘機が飛ん
でいた。﹂﹁後世の歴史家によれば、それはまさに奇跡的な偶然で
あった。﹂などのような完全な三人称神視点︵ナレーター型︶もあ
ります。これは戦記物などでおなじみですね。
38
一般小説やラノベでは、一人称で語られる話と、三人称で語られ
る話が、章ごとに切り替わるタイプも多いです。最初は三人称で書
いておいて、一人称の独白が間に割り込む、とか。最初は一人称で
書いてあって、戦闘シーンなど広い視野が必要な場面で三人称に変
わる、とかです。
しかし、最初からそのような高度な話を書こうとすると、大抵失
敗します。
一人称の短編。三人称の短編。一人称の長編。三人称の長編。な
どと、次第に慣れていくのが上達の近道であると考えます。そのう
ち両者を混同することがなくなり、自分で意識的に書き分けられる
ようになります。
次回は一人称についてです。
39
一人称の﹁僕﹂とはどんな人物か?
﹁僕は⋮⋮誰だ?﹂鏡に映った顔を見て、僕は一言呟いた。
そこに映っていたのは美青年とまではいかずとも、整った顔だっ
た。眉毛は不恰好ではなく、鼻もそこそこ高かった。そして不精髭
が生えていた。それで僕は、しばらくの間、自分が髭を剃っていな
いということに、この場所に閉じこもっていたのだということに気
付いた。僕はおぼろげな記憶の糸を辿ろうとしたが、その糸は非情
にもぷつりと途切れていた。
さて、僕とは、俺とは、私とは、一体どんな人物なのでしょう?
いきなり自己紹介させるのもアリといえばアリですが、﹁僕はC
男。いたって普通の高校生だ﹂という書き出しに、即ブラウザバッ
クを決める読者は多いでしょう。
一人称の制約︵主人公の見ていないもの、感じていないものは書
けない︶によって、主人公が既に知っている﹁常識﹂や﹁外見﹂を
読者に説明するのは困難になります。一人称では、いわゆる﹁自分
語り﹂が難しいのです。
はっきり言うと、自分自身を、話の主役を描写するには、創意工
夫が、何らかのアイデアが必要です。たとえば、別の無知な人物の
一人称を経由して描写するとか、異世界に飛ばされて案内役の誰か
に出会うとか、冒頭に死体を転がして内省させるとか。
拙作﹁白の魔王ウォレスの憂鬱﹂では、ロビンという冒険者の一
対天使9mm純銀爆裂弾﹂では、三
人称を経由して、ウォレス・ザ・ウィルレスという魔法使いを描い
ています。
同じく拙作﹁ヘルファイア
人称で、天使との遭遇戦というイベントや、クラスへの転校の様子
40
を描くことで、主人公を主人公らしくしています。
小説家になろうで多いと言われているのは、トラックに轢かれて
死んだ主人公が、神様に転生させられるという異世界トリップモノ
ですが、この﹁転生とトリップ﹂の途中で自分の体格や能力を確認
し、自然な形で読者に﹁僕﹂を説明している作品が多いという印象
を受けます。
ここで重要なのは﹁自然に読者に︵主人公への︶興味を持っても
らう方法﹂であって、転生やトリップ自体にはあまり意味がないと
いう場合もありえます。
二歳児に転生したとか、不遇職に転生したとか、そういう背景自
体は、作者からしてみると読者の食いつきが違ってくるだけだとい
うわけです。
その最初の﹁釣り針﹂が大量の魚を釣り上げれば、読者はある程
度までは読んでくれます。その釣り針としての
﹁僕とはどういう人物か?﹂
せっさたくま
という部分の描写の仕方で、たくさんの作者が切磋琢磨し、アイ
デア勝負を繰り広げているわけです。
なので、一人称での描写は、これが正解というものは特にはあり
ません。ブラウザバック覚悟で﹁僕はC男。いたって普通の高校生
だ﹂という書き出しにするのもいいでしょうし、カミュの﹃異邦人﹄
のように﹁きょう、ママンが死んだ﹂という風に冒頭から飛ばして
いくのもいいでしょう。
この話の最初のように、自分が一体誰だか分からなくなって、恐
る恐る鏡を覗き込むというのも典型的な例です。
41
﹁僕﹂あるいは﹁俺﹂や﹁私﹂をどのようにプロデュースするか
で、あなたの発想力が問われます。
42
三人称の﹁主人公﹂とはどんな人物か?
まずリストアップしてみます。
・厳密な三人称︵感情が読めない︶
・三人称単視点︵背後霊型︶
・三人称多視点︵ザッピング型︶
・三人称神視点︵なんでもあり、強いて言うなら戦記型︶
・三人称神視点︵ナレーター型︶
一人称の﹁僕﹂の次は、三人称の﹁主人公﹂です。
これは、一見すると分かりやすく見えます。なぜなら最初に描写
された男︵あるいは女︶が主人公だと分かるからです。第三者視点
で語るので、主人公の描写も、ヒロインの描写も、非常に簡単です。
作者が書きたいだけ詳しく書けばいいのです。赤毛であろうと、タ
ーバンを巻いていようと、マントを羽織っていようと、青い髪であ
ろうと、暗視ゴーグルを頭の上に被っていようと、まったく問題は
ありません。
しかし、問題は心理描写です。厳密な三人称では、基本的に主人
公の心理も、ヒロインの心理も、外見からしか語れません。たとえ
ば﹁頭痛を抱えていた。﹂と断定するのは、本来NGです。﹁頭痛
を抱えているようだった。﹂ならOKです。なお本当に厳密な三人
称を目指すのであれば、﹁彼は∼と思った。﹂のような表現は使え
ません。心の中が読み取れないのが三人称なのです。﹁彼は∼と思
ったように見えた。﹂はかろうじてセーフ。
とはいえ、﹁思った。﹂等の表現が使えないのはかなり辛いので、
43
特定の人物にだけ許す、という方針もあります。これは背後霊とし
て憑依したような書き方で、一人称モドキです。﹁三人称単視点﹂
などと呼ばれたりします。これは比較的使うのが簡単で、三人称小
説の大部分はこれに含まれます。
一人称での﹁私﹂を﹁主人公﹂に置き換えると、だいたいこのよ
うな形になります。ということは、これもまた難しい問題ですが、
一人称の制約︵主人公の見ていないもの、感じていないものは書け
ない︶もそのまま引き継いでいるといえます。
次話﹁アルシャマとカリュカ︵三人称単視点︶﹂も参考にしてく
ださい。
もっとゆるく、全員の心が読めるような、ザッピングのような書
き方はどうでしょうか? これを、﹁三人称多視点﹂といったりし
ますが、これはかなりの確率でNGです。なぜなら、視点が統一さ
れていない、まるきりずぶの素人が書いた文章と判断されることが
多いためです。
とはいえ、主人公がいないシーンの描写には三人称を使わざるを
得ません。この問題を解決するにはどうすればよいでしょうか? 小説を書く者としては、もっともな疑問です。
小説家になろうでは、この問題を避けるために﹁side使い﹂
が現れています。なるほど、文章と文章の間に明白な章分けがあれ
ば、﹁三人称多視点﹂もある程度許容されることがあります。その
話だけ主人公︵背後霊としての憑依先︶が変わる、という形です。
しかし同じシーンを何度も繰り返すところまでいくと、さすがに
やりすぎで、読者は混乱してしまいます。重要なのは、いかに読者
に混乱を与えずに視点を切り替えるかです。﹁三人称多視点﹂で、
視点がうまく繋がった時には、まるで映画を見たかのような良い読
後感を与えることがあります。
44
﹁その日その時、誰にも見つからずにステルス戦闘機が飛んでいた。
﹂﹁後世の歴史家によれば、それはまさに奇跡的な偶然であった。﹂
みたいなのは﹁三人称神視点︵なんでもあり︶﹂などと呼ばれます。
視点や時空を超越した記述で、ジャンルとしては戦記物などでおな
じみです。
神視点というだけあって、非常に広い範囲を精密に描写できるた
め、軍事的事実などを淡々と語る際に活躍します。また、その際に
彼はついに自分の飛行機の前に立った。その心臓は早鐘を打ち、
全身の毛穴は開き、心は歓喜に打ち震えていた。これは僕の飛行機
だ。これは僕だけの飛行機なのだ。僕だけの! 彼の思考は明らか
に独占の愉悦を味わっていた。
などと登場人物の心境をも完全に見透かして語れるのが、この形
式の強みです。
ですが、感情移入という点では、一人称>>>三人称単視点>>
>厳密な三人称>>>三人称神視点です。兵器などの描写がしやす
いというだけで、三人称神視点が別段に優れているわけではありま
せん。
あるいは、話の終わりに、ドラマで言うナレーターを登場させる
ような使い方もできます。拙作﹃白の魔王ウォレスの憂鬱﹄からで
すが、﹁ウォレスのこの予言は、後にある意味で当たり、ある意味
で外れることになる。﹂これも﹁三人称神視点︵ナレーター型︶﹂
の一つです。
45
厳密な三人称。これは難しいです。
もし、厳密な三人称を目指すのであれば、主人公は、何らかの事
件に巻き込まれる必要があります。ハードボイルドモノだと、無言
でも無愛想でも何でもいいから、無茶な依頼を引き受けるところか
ら始まります。ミステリだと、死体の第一発見者だったり、探偵の
助手だったりします。
そういう風にして事件に巻き込まれて初めて、主人公が積極的に
行動を起こせます。そしてその行動の描写を通じて、読者は主人公
の人格を推測し、それに共感していくというのが厳密な三人称の構
図です。
以下がその例文ですが、作者もいまいち自信がありません。
彼はトレンチコートを着て、薄暗い酒場のカウンターで一人バー
ボン・ウイスキーを飲んでいた。季節は冬であったので、コートを
脱がない彼を不審に思う客はいなかった。いかつい顔に無精髭。彼
は電子タバコを取り出してまずそうに吸った。それで彼が禁煙をし
ていることが、決して本物のハードボイルドなタフガイではないと
いうことが見て取れた。彼は氷と水で限りなく薄めたバーボンをほ
んの少しだけ飲んだ。まるで依頼の前に酔うわけにはいかない、と
でもいうふうに。あるいは探偵屋として、彼がこれまでに得た教訓
はたったそれだけであったのかもしれない。
人生の真理に匹敵するだろう教訓をもう一度繰り返そう。依頼の
前に酔うわけにはいかない。だから彼は酒場に来ておきながら、い
つもいつも酔いはぐれていた。彼はおそらく一度も本当に酔ったこ
とがなかったし、それでもいいと諦めてもいたようだった。私が知
る限り、彼は格好をつけるための酒と煙草よりも、なによりビジネ
スを優先した。彼はそういう律儀な男であったから、探偵屋などと
いう胡散臭い看板を掲げていても、なんとか食っていけるだけの依
頼が舞いこんできているようだった。
﹁あなたが、ミステリーボイルド社の、探偵の方ですかな﹂彼に声
46
を掛ける初老の男がいた。
﹁そうだ﹂彼は短く低く答えた。
彼は名乗るということをしなかった。ただ一言で、全ての身分証
明が済んだのだから、あとは煮るなり焼くなり好きにしろ、とでも
いわんばかりの横柄な態度だった。初老の男は何か言いかけて、そ
れを止めた。自己紹介は不要だった。初老の男は、彼がもう、依頼
の話しか、ただそれだけしか受け付けないのだということを悟った
ようだった。初老の男はゆっくりと、言葉を選ぶように、依頼の内
容を話し始めた。
無口な彼のかわりに、私が読者に彼の名を明かそう。彼の名はヴ
ァン・ハード。その名から、彼が祖先にオランダの血を持つことが、
あのベートーヴェンやゴッホと同じvanの姓を持っていることが
分かる。彼にはきっと、芸術家になるという手もあったはずだ。十
分にその才能があったはずだ。だが彼は栄光でも勝利でもなく、た
だ純粋に小さな人助けを好んだ。神殿の一番上の石になるのではな
く、一番下の石になることを選んだ。探偵というまるきり儲かる見
込みの無い仕事を、彼はたった一人で黙々とこなしていた。ただ黙
々と。そう、それが、それこそがヴァン・ハードという男の全てだ
った。
そういう意味では、一人称と厳密な三人称は完全に別モノです。
しか
昨日まで一人称を書いていた人が、明日から三人称を書けるように
なる方法は存在しません。その逆も然り。
自分がいまどちらを書いていて、どちらのほうが書きやすいか⋮
⋮そこから、一人称使いと三人称使いの道が見えてきます。
47
アルシャマとカリュカ︵三人称単視点︶
以下はおまけです。読まなくてもいいです。
カリュカに視点を移して書いてあるので、普通の﹁三人称単視点﹂
ですが、参考になれば幸いです。
課題1として、﹁カリュカ﹂を﹁私﹂に置き換えてもだいたい話
が成り立つこと︵一人称と三人称単視点の互換性︶を確認しましょ
う。課題2として、最後の﹁カリュカが眠りに落ちるまでの間、﹂
が必要な理由を考えて見ましょう。
<i61185|7275>
アルシャマは冒険者であり、カリュカは女暗殺者であった。
アルシャマは赤毛の上にターバンを巻いて、マントを羽織ってお
り、カリュカは青い髪をゴムで縛り、暗視ゴーグルを頭の上に被っ
ていた。アルシャマの服は白く、カリュカの服は黒かった。
そしてカリュカはいつもの通り、頭痛を抱えていた。というのも、
暗殺のターゲットであるはずのアルシャマと、今日も今日とて冒険
の旅を繰り広げていたからである。
巨木の生い茂る森の中で、根の上をタタタと走りながら、カリュ
カは思った。一体いつからこういうことになったのだろうか。カリ
ュカは、いつも必死でアルシャマを追いかけている。放っておくと
アルシャマはどこまででも行ってしまうのである。根本からして、
そういう男なのだ。だから暗殺者であるカリュカがアルシャマを追
いかけるというのは、仕方が無い、自然のなりゆきであった。
仲間とか恋愛とか、男だとか女だとか、そういう話ではない。追
いかけねば見失ってしまう。見失ってしまえば己の立場が無くなる
︱︱それでは、自分は己の立場が無くなるのが怖くて追いかけてい
るのか。自分が用済みになることを恐れているのか︱︱カリュカは
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思案するが、答えは出ない。
赤毛のアルシャマは青髪のカリュカのことなどお構い無しに、ず
んずん進む。ひどい男である。歩幅の小さい女に追われていても、
足を止めるということを知らない。繰り返すがひどい男である。
アルシャマの脳内マップは広く、およそ迷うということが無いよ
うだった。一方カリュカは、元の拠点に戻れるのか、日が暮れるま
でに新しい拠点を作れるのか、戦々恐々とついていく。そしていつ
も、アルシャマの寝首をかこうと決めるのだが、くたくたに疲れて
先に眠ってしまうのである。
カリュカは数日前、まどろむ意識の中で、アルシャマに自分の頭
をなでられていたことを思い出す。﹁アルシャマ殺す﹂なぜだか殺
意が充填されて、カリュカはアルシャマに追いつくべく大地を駆け
た。牛乳を飲めば、もう少し歳をとって背丈が伸びれば、いつかア
ルシャマと肩を並べて歩ける日が来るのだろうか。アルシャマと同
じものを見て、アルシャマのように考えられる日が来るのだろうか。
いや、別にそうなりたいわけではないのだが。
カリュカがようやくアルシャマに追いついたとき、泉の脇には既
にテントが設営され、火が灯され、アルシャマが背負っていた二人
分の寝袋が敷かれていた。﹁早く寝ろよ。そしたらまた髪の毛なで
てやるから﹂カリュカは顔を真っ赤にして﹁絶対そんなことするな
よ!﹂と言い放って、泥のように寝た。
カリュカが眠りに落ちるまでの間、アルシャマは樹木の間に垣間
見える星空をずっと見ていた。ふてぶてしくも、いつか自分とカリ
ュカが神話に、星になった暁には、だいたいあそこらへんに輝きた
いものだ、とでもいう風に。
49
人間の描写。
たいていの小説には人間が出てきます。
以下は青空文庫から、ディケンズ著﹃クリスマス・キャロル﹄の
中のスクルージの紹介文です。
がりがり
>ああ、しかし彼は強欲非道の男であった。このスクルージは! じじい
絞り取る、捩じ取る、掴む、引っ掻く、かじりつく、貪欲な我利々
ひうちいし
々爺であった! どんな鋼でもそれからしてとんと豊富な火を打ち
カキ
出したことのない火燧石のように硬く、鋭くて、秘密を好む、人づ
き合いの嫌いな、牡蠣のように孤独な男であった。彼の心の中の冷
気は彼の老いたる顔つきを凍らせ、その尖った鼻を痺れさせ、その
しわが
頬を皺くちゃにして、歩きつきをぎごちなくした。また目を血走ら
せ、薄い唇をどす蒼くした。その上彼の耳触りの悪い嗄れ声にも冷
酷にあらわれていた。凍った白霜は頭の上にも、眉毛にも、また針
クリ
金のような顎にも降りつもっていた。彼は始終自分の低い温度を身
スマス
に附けて持ち廻っていた。土用中にも彼の事務所を冷くした、聖降
誕祭にも一度といえどもそれを打ち解けさせなかった。
これだけでも長いのですが、実際はこの三倍以上に渡って、スク
ルージの描写が続きます。ちょっと吐き気がしそうな文量ですが、
これが基本だと思ってもらえれば、人物描写の難しさが分かっても
らえるかと思います。もっとも、ディケンズは上手く書きすぎまし
た。その結果として、スクルージは守銭奴の代名詞になったわけで
す。
我々は凡人を頭に描きがちです。﹁私はA子。いたって普通の女
子高生です﹂という書き出しを想像してしまいがちです。ですが、
実際は﹁雑草という名前の草は無い﹂の言葉通り、﹁凡人という名
50
前の人物は存在しない﹂のです。おそらく、A子はこのように書き
出されるべきでしょう。︵書き出しの例にするつもりでしたが、本
文が伴わないと説得力が無いとの判断で、長文になりました︶
今日、芥川全集を読み終えた。それでも私は夏目漱石のほうが好
きだ。﹃吾輩は猫である﹄の第一節は丸暗記している。吾輩は猫で
ある。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何で
も薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶し
どうあく
ている。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで
聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
朝。食事を終えた私は薙高の制服、紺の冬服に着替えて、長い黒
髪をとかし、姿見で最終チェックをしたあと、家を出た。B子はあ
えて冬服でなくセーターを着るのが萌えるとかなんとか言っている
けれど、服装のセンスが無い私にはよくわからない。昨日までの雨
は上がり、今日は晴天。私は自転車に跨って、薙高までの道のりを
駆けた。途中の十字路で茶髪ショートカットのB子と合流する。
薙刀高校は一言で表すなら﹁とても危険な場所﹂だったから、私
は文芸部員でありながら部から貸し出されたグロック26を腰に差
している。グロック26というのは、主に西欧の警察機構で採用さ
れている拳銃の小型版で、日本人にも扱いやすい。別に使わないに
越したことは無いし、私のゴム弾射撃の腕は下手くそだけれど、銃
を持たないことを選択した生徒はまさしくカモであり、すぐに﹁悲
しい事故によって﹂不登校に追いやられた。通学距離が短いから、
というだけで薙高を選んだのは間違いだったかもしれない。
入学後すぐに、B子にそのことを言ったら、思いっきり笑われた。
B子は言った。薙高は米帝も恐れて手を出せない悪の秘密結社だよ、
と。当時はそんなバカなと思ったが、私はそれが真実であるという
ことを、日々、身をもって理解していった。私は文芸部に所属し、
シークレット︱︱秘密に満ちた地下組織だ。そんなものが薙高には
51
ある︱︱のチーム﹁クローゼット﹂に入ることで、一応の薙高での
立場を手に入れた。
先輩のC男と出会ったのはそんなめまぐるしい春も終わろうかと
第一号﹂の製作計画と六月
いうときだった。C男は現れるや否やいきなり文芸部永世名誉部長
を名乗り、一方的に同人誌﹁キップル
一日という締め切りを決めた。私ことA子は、ぜひもなくその企画
に乗った。
私は一週間、放課後の教室に残って原稿用紙に恋愛小説を書いた。
ところが書きあがったそれを一読すると、C男は楽しそうに原稿用
紙を縦に引き裂いた。どうしてそんな酷いことするんですか! と
泣いて叩いて抗議してもC男は知らん顔だった。C男は言った。没。
リジェクト。やり直し。
放課後、私の悪戦苦闘の日々が始まった。B子はそんな私の苦難
を横目に、ノートパソコンに向かって、がーっと小説を書いた。こ
こ
れはC男の基準ではあっさりとOKになった。えこひいきだと思っ
た。
私は毎日、教室に残って、懲りることなく原稿用紙に恋愛小説を
書いた。新しく書き上げる度に、C男の態度は少しずつ変わり、つ
いに原稿用紙を破らずに赤ペンで改稿を指示するようになった。真
っ赤になった原稿用紙を見て、いままで自分がどれだけ変な文章を
書いていたのかを、私は急に自覚した。
私はC男の才能が羨ましかった。B子の才能が妬ましかった。そ
れはいつのまにかC男への憧れに変わり、B子への対抗心となった。
恋愛小説は徐々に完成度を増していき、ようやく締め切りの二日前
にC男のOKをもらった。かくして同人誌﹁キップル 第一号﹂は
無事刊行された。薙高新聞の一面に広告が掲載され、多くの読者が
私とB子とC男の書いた作品を読んでくれた。そして熱心な読者た
ちから、いくつかの感想メールをもらった。飛び上がるほど嬉しか
った。
夏になり、秋になった。文芸部に入部する生徒の数が増え、﹁キ
52
ップル 第二号﹂﹁キップル 第三号﹂は順調に厚みを増して刊行
された。
そんなある日のことだった。私ことA子とB子とC男は唐突に、
エッセイ﹁誰でも分かる!小説の書き方入門﹂への出演が決まった。
話を聞くと、十一月から十二月にかけて連載される作品らしい。初
の主演である。私の胸は高鳴った。親友だが、小説書きとしてライ
バルでもあるB子にも負けてはいられない。
私は本番の前に、唇に新品のリップクリームを塗った。舞台の幕
が上がる。私は満身の力を込めて喋った。
こんな書き出しのほうが、A子を何倍魅力的にするでしょうか。
人間には特長があります。それを最初にもってこないといけませ
ん。そして、ディケンズほどではなくても、延々とその特徴を描写
することです。そうすることで、読者はリアリティを感じ、絶対に
抜け出せない感情移入を起こします。
そうすればしめたものです。
53
ジャンルを決める。
まず書くにあたって、ジャンルを決める。これは難しいことです。
特に、自分でもどれに向いているか分からない最初の作品となれば、
なおさらです。
ですが需要と供給に従って決めるとすれば、断然﹁ファンタジー﹂
になります。
日間ランキングに入ってくるのは、決まってファンタジーです。
人々はパンとファンタジーを求めています。作者であるあなたはそ
の供給者になることができます。おめでとう!
とはいえ、自分なりに書いた、自分では面白いと思うファンタジ
ーにポイントが入るか? と言われれば微妙です。日間ランキング
は瞬間風速とも呼ばれ、なかなか安定して面白い作品が上がってく
るわけではありません。週間ランキング、月間ランキング、累計ラ
ンキングに入るような作品であっても、自分が面白いと思えなけれ
ば何の意味もありません。
恋愛が書きたいなら、恋愛でもかまいません。SFが書きたいな
ら、SFでもかまいません。なんならホラーでもいいでしょう。た
だ、過疎ジャンルに移るにつれて、だんだんとメジャーの潮流から
離れていっていることは自覚しないといけません。
重要なのは自分を信じることです。某大統領も言っています。ビ
リーブ・ユア・ジャスティス!!
さて、話を現実に戻しましょう。まず間違いなく、あなたの書い
54
チリ
た短編作品は埋もれます。長編連載も見向きもされないでしょう。
あなたは無名なのです。ごみ芥なのです。ひとえに風の前の塵に同
じなのです︵誤用︶。
とりあえずファンタジーの基礎であるドラクエあたりをプレイし
ましょう。
ソードワールドRPGと、ソードワールド2.0もお勧めです。
モンスター図鑑もAmazonで安く売っています。
スカイリムをプレイして現代風の冒険者というのに慣れるのもア
リでしょう。
Wikipediaとにらめっこしながら、本格的に中世史を勉
強するというのもアリでしょう。
でもそういう努力とランキングは関係ないんです!! ここを間
違えないでください!!
どんなにファンタジーに詳しくなっても、ヒット作を書けるよう
になれるわけではありません。
予言しましょう。
冬の時代が続きます。
あなたの魂の全てを込めたファンタジー作品が、0ptのまま放
置されます。
宣伝の方法は後述します。ですが、宣伝しても0ptのままであ
ったときの悲しさは異常です。
耐えねばなりません。耐えて、次回作を書きましょう。
そのうち評価ptが、二桁、三桁の作品も出てくるでしょう。運
があれば四桁まで届くかもしれません。
しかし感想欄には悪罵が飛び交い、精神は削られ、あなたは倒れ
そうになると思います。
55
さつばつ
耐えねばなりません。小説家になろうとは、そういうわりと殺伐
とした場なのです。
56
舞台設定。
仮にあなたがファンタジーを書くと決めたとしましょう。
Q.
異世界からの召喚はわりとよくあるのでしょうか?
その世界に冒険者ギルドはあるでしょうか?
魔法を研究する大学があるでしょうか?
どんなモンスターが実在するのでしょうか?
身分制度はどうなっているのでしょうか?
商人たちは略奪をどうやって防いでいるのでしょうか?
通貨はどれほど流通しているのでしょうか?
オリジナリティのある設定は何?
はっきり言います。糞マジメに考えると死にます。アバウトに直
感で決めましょう。
しょせん書くのはファンタジーなのです。理屈のほうはあとから
ついてきます。
A.
異世界召喚は、神か精霊の仕業であり、非常に稀である。
その世界には冒険者ギルドは無いが、傭兵制度がある。
魔法を研究する大学はあるが、その入学には血統を要する。
様々なモンスターがいるが、それらとの遭遇は稀である。
貴族がいるが、農民が疫病で死ぬので、農民にも立場がある。
商人は傭兵によって略奪を防いでいる。
マグタイト
通貨は銀が主流だが、流通量は少なく、物々交換も多い。
魔鉱石。極めてエネルギー効率が良い鉱石。
57
こんなふうにアバウトに決めましょう。この場合、異世界召喚さ
れても、とりあえず傭兵になれば生きていけそうですね。
それぞれの設定について詳しく考えて見ましょう。
異世界召喚。これは非常に簡単にファンタジー世界に感情移入で
きる方法です。気がついたら異世界。ありきたりですが、強力な導
入部です。異世界の様子を延々描写しておけば、主人公に自分語り
させてもあまり気になりません。なろうでは、神様と直に話せるケ
ースもままあります。リアリティを重視するなら、そういう﹁現象﹂
としてとらえるのもアリです。
ここでは﹁アール﹂という大陸の、﹁アーランド王国﹂︵古語で
はアールランド王国、﹁アール大陸の国﹂程度の意味︶を舞台にし
ます。
冒険者ギルド。これも非常に強力な設定ですが、ここではあえて
使いません。中世に実在していないため、ツッコミどころが多すぎ
るのと、手垢がつきすぎているのと、身分証明システムがむしろ邪
魔になるケースがあるからです。お約束の魔法のクリスタルによる
適性診断や魔力測定も無いことにしましょう。主人公は割とシビア
な、シリアスな世界に落とされます。
魔法を研究する大学はあるか。あるけど、一般人には入れない。
これは非常に簡単な割り切りです。かの有名な﹃ハリー・ポッター﹄
シリーズでも、魔力の無い子供は魔法学校に入学さえできません。
主人公が魔法を使えない理由を説明するのに、これほど簡単な設定
は無いでしょう。主人公は魔法に頼らずに自分の道を切り開いてい
く必要があります。
モンスターの有無。ラグナロクオンラインやポケットモンスター
などのゲームでは、モンスターの種類が数百種類というのがざらで
58
す。しかし現実に冒険を書くとなると、モンスターごとの特性まで
考え始めると死ねます。ここではボスとして登場するだけにとどめ
て、一般人はモンスターに遭遇しないという設定にしましょう。こ
うすることで移動中にモンスターに襲われて死ぬというありがちな
展開を阻止できます。
身分制度。これも重要です。中世ヨーロッパにも奴隷はいました。
ヴァイキングによるスラヴ人奴隷の中東への輸出です。しかしこの
へんは中世経済を知らないと書きにくいですし、人権的にもアレな
ので、奴隷はいないことにしましょう。百姓一揆が起きないように、
農民にもある程度の力を与えましょう。各地域ごとに貴族がいるこ
とにしましょう。しかし、物語をより面白くするために、没落貴族
も多いという設定にしましょう。
商人が略奪を防ぐ方法。その都度、傭兵を雇うのが簡単です。冒
険者ギルドが無いので、主人公のために傭兵という逃げ道を用意し
ておきましょう。はぐれ者は傭兵になって、商人の商隊を護衛する
ことにしましょう。山賊や狼などが多くて、傭兵になる人が少ない
という設定にすれば、身元不明の主人公でも温かく歓迎されるかも
しれません。護衛期間中は、最低限の食事も保障されます。
通貨。中世ではローマの影響で銀貨が主流でした。それに倣って、
銀貨が主流であると決めましょう。通貨単位は何でもいいですが、
作者は﹁デナリウス﹂が好きです。しかし、諸事情で通貨がそれほ
ど流通していないという設定にしましょう。こうすることで物々交
換の描写にも説得力が出ると思います。クエストのお礼として一週
間分のパンとワインを提供してくれる人がいてもいいでしょう。反
対に、銀貨での報酬を提示してくる金持ち貴族のありがたみが増す
というものです。
59
マグタイト
さらにオリジナリティを加えるために、﹁魔鉱石﹂というガジェ
ットを用意しましょう。これは石炭よりはるかにエネルギー効率が
いい鉱石で、精錬済みのマグタイト・バーは、いまでいう乾電池の
ように繰り返し使えるものとします。マグタイト駆動の武具が作ら
れ、マグタイト駆動の馬車が作られ、マグタイト駆動の船が作られ、
マグタイト駆動の羽ばたき飛行機械が作られた。そんな世界を舞台
にしましょう。虐げられた鉱夫たちの組織﹁ラッダイト﹂があるこ
とにしましょう。また、この採掘権のために戦争が起こったという
設定にしましょう。
さあ、舞台設定は決まりました。次はキャラクター設定です。
下の地図はおまけです。Fracasというストラテジーゲーム
を元に自動生成されたものを編集しました。﹁アール﹂という大陸
の、﹁アーランド王国﹂をイメージするのに、地図も有効かもしれ
ません。
<i61580|7275>
60
キャラクター設定。
舞台が大雑把に決まったので、次にキャラクターを作ります。
︵※作者のサイトではないです︶
http://trpggasuki.com/trpg/na
me.php
このへんを参考にして名前を適当に決めます。サイコロ︵六面ダ
イス︶くらいは持っていますね? え? 無い? いますぐ買って
来なさい。ダイスを振ったら、あとは実在の人物じゃないことを確
認しましょう。歴史上の人物の名前から取ることもできますが、あ
まりお勧めしません。パクリ扱いされかねないのと、そもそもどう
考えても存在しないヘンテコリンな苗字と名前の組み合わせだった
りするからです。
種族として、人間以外も許容するのであれば、それも決めます。
仮に、森に住むエルフと鉱山に住むドワーフが人知れず存在してい
るということにしましょう。
次に重要になるのは所属と性別、外見、年齢です。
傭兵ヴォルフガング、男性、外見は黒髪の褐色人種、年齢は十六
歳、など適当に決めていきます。このへんでキャラクター作成のセ
ンスが出てくるので、自分なりのお気に入りの設定をいくつか作り
ましょう。たとえば祖父がドワーフで、黒髪は強く波打っている。
森のエルフとは犬猿の仲だが、ハーフエルフには同情的。情にもろ
く、お金の計算が下手で、いつも割を食っている。しかし意外と器
用で、道具の修繕での副収入がある。過去に人間の女性に恋をした
が、自分の血の由来を言えずに後悔している、などです。
61
貴族フラーウム、女性、外見は金髪の白色人種で身長が低い、年
齢は十二歳だが十四と偽っている。貴族として没落し、実家への仕
送りのために汚れ仕事に手を出す。四年の剣術指南を受け、剣が非
常に上手い。自分にはエルフの血が流れていると固く信じているが、
そんな事実は無く、純粋なエルフやドワーフには穢れた血にあこが
れる馬鹿として軽蔑されている。自分が凡人だと思われることに我
慢ならない。まだ一度も恋をしたことがなく、主人公との出会いを
運命と感じている、などなど。
鉱夫ゴーシュ、男性、外見は黒髪の黄色人種、年齢は十八歳。マ
グタイトの採掘、精錬を行う。反体制組織ラッダイトに所属してい
て、今ではその若き指導者という立場を得ている。十五歳の時、先
の戦争を終結させたナターシャ王女に自分の子供︵現国王︶を産ま
せたとの噂があり、アーランド王国から指名手配されている。両親
は王族の命じたラッダイト狩りで死亡しており、白髪親方のアルフ
レッドが親代わり。
なお、ゴーシュは拙作の短編﹁魔鉱石︵マグタイト︶クロニクル﹂
の設定の流用です。
元魔法使いアーサー、男性、外見は青髪の白色人種で背が高い、
年齢は二十歳。オールエーという特権階級に属していたが、高熱に
より魔力の一切を失い、院から追放される。マグタイト駆動の物品
に深い知識があり、中古品を買い取ってヴォルフガングに修理を依
頼して、のちにそれを売るなど、金策に長ける。剣の腕も確かなも
のがある。しかし魔力を失ったことにまだ慣れておらず、時にそれ
が失敗に繋がる。エフトという相棒の女盗賊、ハザードという金髪
のライバルがいる。時が経つにつれて、徐々に元来の魔力を取り戻
していく。
女盗賊エフト、女性、外見は茶髪の黄色人種で背が低い、年齢は
62
十四歳。ナイフの扱いに長ける。孤児。失意のアーサーをペテンに
かけるも、あまりにも素直に騙されたアーサーに呆れ、種明かしを
し、仲間に引き入れる。自らの名を落第者Fに由来すると思い込ん
でいたが、エフトとはイモリのことだとアーサーに教えられ、自信
をつける。他の登場人物から色々物を盗もうと試みるが、伝説の剣
だけは﹁重すぎて﹂奪えなかった。実はけっこうな貯蓄があるが、
本人は他人に与えるくらいなら死んだほうがマシだと思っている。
商人ドプレクス、女性、外見は黒髪の黒色人種で長髪が縮れてい
る、年齢は二十四歳︵この世界ではけっこう年寄りで、肌が黒いの
も珍しい︶。主人公に助けられた商隊の持ち主で、自治区に倉を十
個も建てている。いつも数個の美しいネックレスを身に着けている。
自らの黒い肌を美しいと思っているし、周囲からもそう思われてい
る。基本的に誠実でいい人だが、金が絡むことには厳しい。しかし
﹁タダより高いものは無い﹂が座右の銘で、無償の奉仕というもの
は信じていない。納税の義務もきちんと果たしており、アーランド
王国の商人代表としての発言権がある。
せきぐち
現代人関口コータ、男性、外見は黒髪の黄色人種で少し髪の毛が
長い、年齢は十六歳。中学生時代から剣道部に所属する高校一年生
で、小説も読む。精霊によってこの世界に召喚され、伝説の剣をな
にげなく引き抜いてしまう。その後、フラーウムの紹介によってヴ
ォルフガングと出会い、食事をおごってもらいながら剣技を磨く。
剣の他には、チートも与えてもらえず、魔法も使えず、テンプレ通
りでないシリアスな異世界、アーランド王国に不満を持ちつつも、
なんとか傭兵として生きていく。ファイアドレイク討伐に参加し、
これを打ち倒したことで、勇者の称号を得る。
こういう設定はぶっちゃけ、小説家になろうでランキングに入る
という目標からすると、どうでもいいものです。J・R・R・トー
63
ルキンの﹃指輪物語﹄の設定を流用して、エルフはエルフ、ドワー
フはドワーフ、ホビットはホビット、人間は人間、という風にした
ほうがよほど簡単かもしれません。
しかし、設定の細部を作りこんでいくと、ときたまそこに神が宿
ることがあります。
作者としては、そういう点を大切にしたいものです。
64
細かな背景設定。
その世界では、パンはどういう扱いを受けているのでしょうか?
ローマ帝国時代。小麦が奨励され、今と変わらないほどの品質の
パンが生産されていたそうですが、ローマ帝国の崩壊により中世の
パン事情は暗黒時代に突入します。
中世では、長い間、ライ麦が食用にされてきました。パンと言え
ば黒パンでした。ワインがキリストの血であるように、黒パンはキ
リストの肉という宗教的な意味も持っていました。︵のちに黒パン
を認めないという決定が下され、キリスト教は東西に分裂するので
すが、ここでは多くは語りません︶
小麦の収穫倍率は三倍程度で、決して高くはありませんでした。
西ヨーロッパでは小麦が栽培されましたが、小麦が育たない寒くや
せた土地では、それに耐えるライ麦は救世主でした。そのため、東
ヨーロッパ︵ドイツやロシアなど︶の寒い地方では、ライ麦が栽培
されました。今でもドイツやロシアではライ麦が栽培されています。
中世には、そもそもいまでいう脱穀機というものが無かったし、
麦粒を石うすでひくための水車小屋、パンを焼くかまどには高い税
がかけられました。パン酵母も廃れてしまい、パンを焼くのは一苦
労でした。
農民がそれぞれ自宅でパンをこね、焼くという風習は続きました
が、都市部では専門のパン職人の需要が高まりました。それで、パ
ン焼きギルドというものが公に認可されました。パンを焼く職人は
徒弟制で、二年から四年の見習い期間がありました。小麦粉やライ
麦粉をちょろまかすことは大罪とされました。罪を逃れるために、
65
パン屋は一ダースのパンを頼まれたら、十三個のパンを納品してい
ました。これは﹁パン屋の1ダース﹂と呼ばれます。
都市部はともかく、田舎の家庭では、パンを焼くのは数週間に一
度。パン酵母が無いため発酵は自然任せ。黒パンはかちかちに固く
焼かれ、日持ちしました。あまりおいしくはありませんでしたが、
栄養価的な側面から言えば、小麦粉をふるいにかけて作られる白パ
ンに勝ります。つまり興味深いことに、貴族より市民のほうが、味
は不味くてもいいものを食ってたことになります。
黒パンさえ買えない貧しい人々が食べたのは、豆や野菜でした。
ドイツの名物料理ザワークラウトが主食の農民もいました。ジャガ
イモは、やせた土地でも育つので、輸入されると飢饉から逃れる為
に即座に広まりました。サツマイモのインパクトはそれほどでもな
かったようですが、植民地政策の際に南方で栽培されました。
日本のイネは明らかに収穫倍率がおかしい︵小麦が三倍に対して、
イネは十五倍以上︶チート作物でしたが、その栽培には大量の水が
必要だったので、ヨーロッパには広まりませんでした。
パン一つとってみても、そこには重みのある歴史が、ドラマがあ
りました。
あなたの書く物語には、こんな背景設定は不要かもしれません。
その世界では、誰もが白パンを食い、誰もが決して飢えず、誰も
が糞便を出さず、誰もが子供に恵まれ、誰もが信仰心を持ち、疫病
の害は無いのかもしれません。
それでも、時に背景設定が必要とされる場合があります。無慈悲
66
な設定でもって、喜劇や悲劇を演出する必要が出てくる場合があり
ます。
ハーフエルフは長命だが、精神的に孤独で、誰とも子供を作れな
いかもしれません。ドワーフの血を引くものは、手先は器用だが、
森には一生入れないかもしれません。リッチーは、その膨大な魔力
と引き換えに、永遠の絶望を抱えているかもしれません。
細かな背景設定が、歴史という名の薀蓄が、彼らの、キャラクタ
ーの運命を変えることがあります。願わくば、たとえ彼らに苦難の
道があろうとも、その先に偉大なる意味と幸福があらんことを。
67
タイトルを決める。
小説といったら、まずはタイトルが勝負です。
タイトルが悪いと誰も読みません。実際、この連載も、タイトル
が悪いということで読まれない可能性があります。その時は運が悪
かったと思って、別の作品を書きましょう。人生諦めが肝心です。
ネーミングセンスが無い人は、知り合いに相談しましょう。真面
目な話、リアルの友人やネットの友人が、助けになってくれる場合
があります。
○○○○○は笑わない
○○○と○○○と○○○○○
○○○○の憂鬱
○○○○!!
○○○○○○の休日
○○○○に○○○○は○○○しない
○○の○○○
○○○・○○○・○○○○○
などなど、タイトルのテンプレには事欠きませんが、正直、これ
ばかりは運の要素が強いです。キャッチーなタイトルであれば、瞬
間風速的に日間に乗る可能性もありますが、ぶっちゃけタイトルに
引っ張られて書きたくもない変な作品を書くのだったら、よく考え
て自分の正義を貫いたほうがいい場合もあります。
繰り返しますが、知り合いに相談しましょう。自分が考えた最高
のタイトルが﹁ダサイ﹂﹁時代遅れ﹂などと斬り捨てられる場合も
あります。それにもめげずに頑張ってタイトルを決めましょう。そ
68
して一度タイトルを決めたからには、それ相応の作品を書きましょ
う。
ここでは仮に﹁マグタイトサーガ なんか異世界に召喚されたけ
どシリアス路線だった﹂とでもしておきましょう。
次はタイトルの決定と前後しての、あらすじの作成です。
69
あらすじを最後まで書き、起承転結を考える。
﹁マグタイトサーガ なんか異世界に召喚されたけどシリアス路線
だった﹂
タイトルが決まったら、それと前後してあらすじも決めていきま
す。
たとえば
﹁精霊によって異世界に召喚された少年コータが、そのへんの傭兵
の死体を漁って武装し︵このとき伝説の剣を引き抜く︶、没落貴族
の娘フラーウムを助ける。
するとなぜか懐かれて、傭兵ヴォルフガングと共に迷宮探索にいく。
その冒険でファイアドレイクを倒し、勇者の名を得る。
しかしファイアドレイクは魔王軍の尖兵に過ぎなかった。デーモン
やヴァンパイア、人狼など、闇の勢力が台頭する。勇者の名を得た
少年は、それを力と知恵でねじ伏せる。
英雄となったコータは精霊の力によって元の世界に戻るが、そのと
き一緒にフラーウムが付いてきてしまい、開かれた門は閉じるどこ
ろかコータの部屋の壁に定着してしまうのであった︵オチ︶﹂とか。
ここで重要なのは、あらすじの最後、エンディングまで書くこと
です。エンディングまで書くことで、全体の見通しが立ちます。全
体の見通しが立って初めて、小説の完結が見えてきます。重要なの
は作品を完結させることです。そのために、まず必ず、あらすじを
完結させる必要があります。
起承転結。序破急。いろいろ言われていますが、要するにあらす
じのことです。あらすじを分解すると、起承転結になっているとい
うだけで、起承転結を先に考える必要はありません。例を挙げまし
70
ょう。
﹁ワシントンが桜の樹を切ったことを正直に認めたとき、父親はそ
れをすぐ許した。なぜならまだワシントンがチェーンソーを持って
いたからだ。エンジンは躍動していた。金槌を持つと全てが釘に見
えるように、若きワシントンには全てが樹に見えていた。かくして
惨劇は幕を開けた。﹂
これを分解すると、
起 ワシントンが桜の樹を切ったことを正直に認めたとき、父親
はそれをすぐ許した。
承 なぜならまだワシントンがチェーンソーを持っていたからだ。
転 エンジンは躍動していた。金槌を持つと全てが釘に見えるよ
うに、若きワシントンには全てが樹に見えていた。
結 かくして惨劇は幕を開けた。
となります。残念ながら私にはこの作品︵殺人鬼ジョージ・ワシ
ントン︶を書き上げられる自信がありませんが、書こうと思えば書
けるはずです。要するにきちんとしたあらすじがあれば、作品は書
けるのです。もし、これでは作品にならないと思うのであれば、そ
れはあらすじが悪いということに他なりません。あらすじを何度で
も書き直しましょう。そして、これならば書けるという段階にまで
落とし込みましょう。
最初に挙げたあらすじの場合、分解するとこんな感じでしょうか。
承の後半から転にかけて物語が転がり始めるので、うまく書ききる
にはもう少し詳しいあらすじが、プロットが必要でしょう。
起 精霊によって異世界に召喚された少年コータが、そのへんの
71
傭兵の死体を漁って武装し︵このとき伝説の剣を引き抜く︶、没落
貴族の娘フラーウムを助ける。
承 するとなぜか懐かれて、傭兵ヴォルフガングと共に迷宮探索
にいく。その冒険でファイアドレイクを倒し、勇者の名を得る。
転 しかしファイアドレイクは魔王軍の尖兵に過ぎなかった。デ
ーモンやヴァンパイア、人狼など、闇の勢力が台頭する。勇者の名
を得た少年は、それを力と知恵でねじ伏せる。
結 英雄となったコータは精霊の力によって元の世界に戻るが、
そのとき一緒にフラーウムが付いてきてしまい、開かれた門は閉じ
るどころかコータの部屋の壁に定着してしまうのであった︵オチ︶
次はプロットの作成です。
72
プロットを練り、シーンに分ける。
小説の執筆ノウハウで、非常に重要視されるのが、プロットを練
る作業です。多くの有名な作家が、メモ用紙にああでもないこうで
もないと書きなぐり、徹夜をし昼寝をし、悩みに悩んで、プロット
を練ります。でも、本当にそんな作業が必要でしょうか?
既にあらすじはできており、背景設定とキャラクターはできてお
り、敵の登場の順番も決まっており、エンディングまで想定してい
るというのに?
ここはあえて言い切りますが、ファンタジー作品に一般文芸作品
にあるような、そんな高尚なプロットは要りません。どんどん強く
なる敵を倒していくくらいで十分です。
たとえばソードワールドRPGやソードワールド2.0のプレイ
テーブルトークアールピージー
風景は、それだけで立派な作品となるようなものばかりです。しか
し一体、TRPGのリプレイが、何千個、何万個作成されたか考え
てください。ファンタジー作品とは量産されるものなのです︵※︶。
主人公がどんどん強くなって敵を倒す。以上。おわり。それでい
いのです。それが王道というものです。
それでもどうしてもプロットを練りたいのであれば、あらすじを
噛み砕き、起承転結にします。次に起承転結をさらに噛み砕き、プ
ロットにします。この段階で、裏切りや陰謀、嘘の情報や劇的な勝
利などのエピソードを盛り込むのもいいでしょう。
書きたいシーンや、言わせたい台詞を妄想できるのもこの時だけ
です。実際に書き下していくと、書きたいシーンを飛ばしたり、言
わせたい台詞が空振りしてしまったりします。徹底的に妄想しまし
ょう。そして、プロットの下にアイデアをどんどんぶら下げていき
ましょう。書き留めたアイデアのうち、全部を使う必要はありませ
73
ん。書いた中の、半分も採用できれば十分です。
アイデアの例︶
起 精霊によって異世界に召喚された少年コータが、そのへんの
傭兵の死体を漁って武装し︵このとき伝説の剣を引き抜く︶、没落
貴族の娘フラーウムを助ける。
・主人公コータは謎の遺跡に召喚される。周囲は死体だらけで
ある。
・盾や鎧を死体から剥ぎ取る
・岩に剣が刺さっている。引き抜くと、銘が刻まれた立派な剣
である。
・コータはいつのまにかアーランド語を喋れるようになってい
る。
・コータが遺跡から出ると、すぐに悲鳴が聞こえてくる。
・フラーウムたちの商隊は狼の群れに襲われている。
・コータは無我夢中で剣を振るう。その剣は驚くほどの切れ味
を持つ。
・﹁汝の名は!﹂そう問われ﹁コータ!﹂と返す。
承 するとなぜか懐かれて、傭兵ヴォルフガングと共に迷宮探索
にいく。その冒険でファイアドレイクを倒し、勇者の名を得る。
・フラーウムは剣技ひとすじで、恋というものをしたことがな
かった。
・だが、コータを見て、運命というものを信じるようになる。
・コータはフラーウムの仲間、ヴォルフガングに会い、さすら
い人であることを明かす。
・とりあえず飯をおごってもらう。
・剣には古い言葉で﹁我こそ伝説﹂と刻まれている↓﹁祝福と
呪いの剣﹂では?
74
・伝説の剣を持つさすらい人、すなわちコータこそが勇者では
ないかという仮説を聞かされる。
・フラーウムに剣技を習う。驚くほど早く上達する。
・第二次ファイアドレイク討伐に参加する。
○ファイアドレイク編
・空を飛び、雷光を操るファイアドレイク。
・しかし身を低くしたコータらは全滅を免れる。
・地に降り立ったファイアドレイクは、無数の矢によって射抜
かれる。
・それでも歩みを止めないファイアドレイク。
・コータの剣が、首を切り落とし、それがとどめとなる。
・勇者と呼ばれるコータ。
転 しかしファイアドレイクは魔王軍の尖兵に過ぎなかった。デ
ーモンやヴァンパイア、人狼など、闇の勢力が台頭する。勇者の名
を得た少年は、それを力と知恵でねじ伏せる。
○デーモン編
・デーモンは夢の中に現れ、コータの願いを叶えることでコー
タの魂を奪おうとする。
・だが、﹁今のところは願いが無い﹂﹁必要なら自力で叶える﹂
という力強い断言のせいで近付くことさえできない。
・ヴォルフガングやフラーウムも、事前にコータからデーモン
の来襲を聞かされていたため、願いを口にすることはない。
・再びコータの前に現れるデーモンだが、﹁全てのデーモンを
消し去れ。それができないなら、お前は役立たずだ﹂と断言され、
デーモンは消えうせる。
○ヴァンパイア編
・ヴァンパイアは夜闇の中を蝙蝠の群れとなって現れる。
・一度はコータたちは敗れそうになるが、﹁もう朝が来るぞ!﹂
﹁コケコッコー!﹂との台詞によって撃退に成功する。
75
・ヴァンパイアは屈辱を味わう。
・フラーウムの家に伝わる﹁希望﹂と呼ばれる小さなランプが
盗賊エフトによって盗まれる。
・銀貨計二枚を払うという口約束で、それを取り戻すコータ。
・ヴァンパイアは星の光さえかき消す黒い霧になって襲い掛か
る。
・闇が最も深くなったときに輝き出す﹁希望﹂の光。
・ヴァンパイアはその光によって滅ぼされる。
・﹁命を助けた俺たちに金を請求するのか? お前の命はそん
なに安いのか?﹂
と、エフトからの請求を退けるコータ。
○人狼編
・人狼は人間に化けて傭兵たちを騙し、次々と殺してゆく。
・人狼はヴォルフガングがあらかじめゴーシュに頼んで作成し
てもらった銀の弾丸を喰らい、いったんは敗退する。
・翌日、腕に怪我をした人間を探し出そうとするも、多くの傭
兵が腕に怪我をしている。
・人狼をペテンにかけ、正体を見破るコータ。人狼はコータに
飛び掛る。
・最後の一撃は不発に終わり、ヴォルフガングの銀弾が頭を吹
き飛ばす。
○魔王編
・アーサーとエフトが仲間に加わり、かつて魔王を打ち破った
勇者の伝説を聞かされる。
・かつて勇者はその剣を投げて、魔王の目を射抜いたという。
・魔王は黒いドラゴンの姿になって現れる。
・暴風と雷雨によって多くの家々が崩される。
・マグタイト・バリスタによって祝福された矢を射ち出すも、
傷一つつけられない。
・コータは伝説の剣そのものをバリスタで撃ち出すことを提案
76
する。
・剣の魔力によって、黒いドラゴンはあとかたもなく消し飛ぶ。
・雲にぽっかりと穴が開き、太陽が顔を覗かせる。
・コータは英雄となり、罪人一人を釈放する権利を与えられる。
・銀弾を作成したゴーシュが指名手配されていることを知り、
その撤回を要求するコータ。
・貴族たちはしぶしぶその案を飲む。
結 英雄となったコータは精霊の力によって元の世界に戻るが、
そのとき一緒にフラーウムが付いてきてしまい、開かれた門は閉じ
るどころかコータの部屋の壁に定着してしまうのであった︵オチ︶
・アーサーの知り合い﹁オールエー﹂の全面協力で精霊門を開
くことに成功するコータ。
・フラーウムがついてこないように内緒にしていたが、酔った
ヴォルフガングがばらしてしまう。
・フラーウムはその場に飛び込み、コータの後を追うように門
をくぐる。
・お茶菓子でごまかそうとするコータ。これが裏目に出る。
・フラーウムは現代もなかなか悪くないと評し、気に入ってし
まう。
・開かれた門は閉じるどころかコータの部屋の壁に定着してし
まう。
・責任を取らされて、門の管理者に指名されるコータ。一生実
家暮らし確定。
プロットが決まったら、今度は視点を決めて、シーンを作ってい
きます。ここは一人称で、僕視点で、召喚されたところを描写する。
ここは三人称で、フラーウムが盗賊に襲われているところを書く。
などと決めていきます。
もし、かっこいいシーンの連続でお話になるようなレベルにまで
77
書き下せれば、素晴らしいことです。あとは設定に矛盾しないよう
に、細やかな描写を加えていくだけです。
あるいは、それは圧縮されすぎた物語で、本来三十話かけるとこ
ろを、駆け足で十五話にしてしまっているかもしれません。それと
も、逆に間延びした物語で、十五話で済ませるところを三十話に延
ばしてしまったのかもしれません。
でも、とりあえず完結の見込みが立ちました。何度でも言います
が、完結させること。これが重要です。
もちろんGMは毎回﹁普通とはちょっと違う﹂クエストを苦労
ゲームマスター
次は文章に書き起こす段階です。
※
して準備しているわけですので、その偉大さはいうまでもありませ
んが⋮⋮
2012/11/28追記
このプロットは、実際に拙作﹁マグタイトサーガ﹂を書いている途
中で、いろいろ改変され、洗練されました。しかしここでは勉強の
ために、あえて改変前のプロットを載せています。もしプロットの
変遷に興味があるようでしたら、年内公開の﹁マグタイトサーガ﹂
と突き比べて、どこがどう変わったのか、確認してみてください。
78
文章に書き起こす。
執筆。清書。なんとでも言えますが、結局これが小説の全てです。
頭の中にあるシーンを、かっこいい言葉使いでどんどん書いてい
きます。がーっと書ける日もあるし、全く筆の乗らない日もありま
す。でも、あらすじとプロットとシーンは決まっています。だから、
あとは機械的に書き下すだけです。
オリジナルの描写を紡ぎ、オリジナルの台詞を組み、オリジナル
の戦闘を描き、オリジナルの大団円を書きましょう。時には、言葉
遣いや漢字を間違えることもあります。でも、そんなことは些細な
ことです。分からない単語があれば辞書を引きましょう。効果的な
表現を見つけるためにGoogleで検索しましょう。物語は動き
出し、ひとりでに紡がれ、いまやもう伝説となるのです。
言の葉がこぼれ落ちることがあります。自分の筆力を呪いたくな
ることもあります。もっと上手く書きたいと願うことがあります。
もう一度書き直したくなる時もあります。でも、手を止めずに、で
きるだけ早く書き上げてしまってください。もうその小説は、ひと
つの生物です。産み落とし、へその緒を切り、公開しましょう。
その点、予約投稿は便利な機能です。ぜひとも連日更新して、ビ
ギナー作家として、せいいっぱい露出しましょう。
もちろん推敲は必要です。何度も何度も読み直す作業は必要です
が、幸いなことに、WEB小説はあとから表現を見直すことさえで
きます。実際、私もたまに、句読点がおかしいとか、漢字が間違っ
ているとか、表現がそぐわないとか、そういう些細な理由で再編集
ボタンに手をかけることがあります。でもそれは話の本筋とは無関
係で、やむをえないことです。
79
これは私の信条ですが、書き上げたものは公開しなくてはなりま
せん。いつまでも手元に置いておいても、腐ってしまうだけです。
新鮮なうちに公開し、しかるべき処遇を受ける必要があります。あ
なたの文章はおかしいといわれるかもしれません。人称が狂ってい
る、読むに耐えない、ギャグが滑っている、内容がスカスカ、描写
が圧倒的に足りない、この人たちはどこに居るのか、いまは何時何
分何秒なのか、設定が矛盾している。様々な酷評を受けるでしょう。
それを貪欲に喰らう必要があります。指摘はいちいちごもっとも。
次の作品に生かします。そういう姿勢で批判を受け入れる必要があ
ります。せっかく作品を完結させたのに、この段階で心が折れてし
うそぶ
まう方もいます。そうならないように、図太い精神で生きましょう。
﹁なに、この次はうまくやるさ﹂と嘯き、新しいアイデアを書き貯
めましょう。
他の誰もが何も言わなくても、あなたは小説家になったのです。
おめでとう!!
80
あおり文句は短く、そしてどのタグをつけるべきか。
執筆中に使ったあらすじとは別に、あおり文句を考える必要があ
ります。
ここで重要なのは、なるべく省略して、要点だけを書くことです。
本当に必要な部分だけ取り出して、あとは本文に任せることです。
ここでも、リアルの友人やネットの友人が頼りになります。無駄な
ものは無駄と指摘してもらって、血の涙を流しながらあらすじから
削りましょう。
やってはいけないのは、﹁○○○は何を考え、何を成すのか!?﹂
とかいう頭の悪い、ありきたりなあおり文句を使ってしまうことで
す。そんなのだったら、執筆中に使ったあらすじをそのまま流用し
たほうがマシです。ファンタジーの結末なんてどうせ見えています。
全てはめでたしめでたしで終わるのです。だったら、結末をぼかす
ことに何の意味があるでしょうか。
それにつけても、とにかく、あらすじは短くする必要があります。
いかに多くの作品が、あらすじが長いという理由でブラウザバック
を食らったことか! そしてそのために、いかに多くの作者が、筆
対天使9mm純銀爆裂弾﹂は、長い長いあ
を折ることになったことか!
拙作﹁ヘルファイア
らすじを削って削って、結果的に以下のようになりました。
﹁南極から天使が攻めてくる。その事実は動かしがたいものであっ
た。
日本もまた、天使たちの戦略により東京が陥落してしまう。
81
飛び級し、栃木の軍学校に在籍する七歳の少年
稲城イナバと、そ
の同級生たちは、自分たちが最前線に立たされていることを知る。﹂
四行です。元が十行くらいあったことを考えれば、奇跡的な短さ
です。
最後に削ったのは以下のくだりです。
ぶそん
﹁栃木に運び込まれるヘルファイア、武尊、アベンジャーなどの軍
事物資。﹂
﹁僅かな物資と技量に劣る少年兵たちは、反攻作戦を現実のものに
できるのか?﹂
まさに断腸の思いで削りました。
しかし、この四行のあらすじでさえ長いかもしれません。もしか
すると、さらに削るべきなのかもしれません。
マグタイト
また、拙作短編﹁魔鉱石クロニクル﹂もあらすじを削りました。
マグタイト
﹁魔鉱石を巡る大国同士の闘争の中、主人公ゴーシュは魔鉱夫たち
を代表する反体制組織ラッダイトに所属し、テロ活動のため潜伏し
ていた。だが仲間の裏切りのためにテロ計画は失敗し、主人公は当
初の計画では殺すはずだった少女を助ける。その少女こそ、王位継
承権を持つアーランド王国のナターシャ姫であった︱︱シリアス路
線のファンタジー短編。﹂
これも以下のようになりました。
﹁主人公ゴーシュは魔鉱夫たちを代表する反体制組織ラッダイトに
所属していた。だが仲間の裏切りのためにテロ計画は失敗し、主人
公は殺すはずだった少女を助ける。その少女こそ、アーランド王国
82
ナターシャ姫であった︱︱﹂
ここはどうしても⋮⋮という一文であっても、削れるだけ削りま
しょう。削りすぎて尖るくらいがちょうどいいと思います。
以下は、﹁マグタイトサーガ なんか異世界に召喚されたけどシ
リアス路線だった﹂のあおり文句です。
チートも魔法もほとんど無い世界﹁アール﹂。剣道一筋の関口コー
タ十六歳はマグタイト文明花咲く﹁アーランド王国﹂に唐突に召喚
された。コータは一本の剣を得て、商隊を助け、傭兵となる。しか
しその剣こそは伝説の武具﹁祝福と呪いの剣﹂であった。勇者コー
タの冒険が始まる。
五行です。ちょっと長すぎるかもしれませんが、これで行きまし
ょう。
次に重要なのは、タグです。
タグは該当するもの全てを付ける方法と、主要なものだけ付ける
方法があります。全く付けないと検索に引っかからないので、潜在
的な読者を取り逃すことになります。できるだけ慎重に、付けるか、
付けないかを決めましょう。
似たような作品のタグを見て、それを参考にするのも悪くはあり
ません。ですが、最終的な決定権があなたにあることだけは覚えて
おいてください。
83
あおり文句とタグが完成したら、いよいよ公開です。あなたの作
者としての長く辛い試練は、そこから始まるのです。
84
ユニアクの見方と即バック対策。
執筆して公開したからには、やはり一人でも多くの人に読んでも
らいたいものです。
さつばつ
まっぽう
ですが現実としては、短編や完結済みの長編は、一日か二日で他
の作品に埋もれます。まさに殺伐。何の救いもない末法の世です。
しかし捨てる神あればひろう神あり。しっかりと読んで行ってく
れる人たちがいます。﹁アクセス解析﹂というリンクをクリックし
ましょう。二時間遅れの青い棒グラフとして表示される、彼らがい
わゆる﹁ユニアク﹂です。PVも一緒に伸びればうれしいものです
が、やはり﹁ユニアク﹂のインパクトに比べると劣ります。
かて
作者はこの﹁ユニアク﹂を糧に、食料にして小説を書いていると
いっても過言ではありません。
いかにユニアクを伸ばすか? 無名の作者は悪戦苦闘します。予
約投稿を使って、人の少ない時間帯に投稿して目立とうとしたり、
小説家になろうの助言に従いブログを始めてみたり、あるいは、某
ちゃんねるのマイナースレに晒したり。でもユニアクが伸びない!
作品を読んでもらえない! そういう時は諦めて次回作を書きま
しょう。
連載作品を書いている場合、﹁話別ユニアク﹂も重要な指標にな
ってきます。二日遅れの指標ですが﹁作品を最後まで読んでもらっ
ているか﹂が、ここで明らかになります。
第一話が七人。第二話が一人。第三話以降はなにもなし。
これが﹁一話目即バック﹂と呼ばれる現象です。
85
﹁とりあえずあらすじは普通だし、一話目だけでも読んでみるか⋮
⋮﹂
と読み始めてくれた読者が、
﹁一話読んだけど、面白くないな﹂
と言って去っていったとき、上記のようなグラフが描かれます。
﹁面白いな。全部読もう﹂となったときは、﹁話別ユニアク﹂の各
話にユニークアクセスが一つずつ増えます。こうなるとガッツポー
ズが出ます。目からビームも出ます。
一話目即バックを無くすには、まずかっこいいタイトルと期待さ
せるあらすじ、そして第一話冒頭のインパクト勝負になります。
テンプレ展開でもいいし、かっこいいシーンを最初に持ってきて
もいいです。でも﹁僕はC男、いたってふつうの高校生だ﹂的な、
いきなりの凡人の自分語りは引かれます。最低でも、
﹁今日、芥川全集を読み終えた。それでも私は夏目漱石のほうが好
きだ。﹃吾輩は猫である﹄の第一節は丸暗記している﹂
くらいのインパクトは必要だと考えてください。最近ではこれで
も足りないかもしれませんね。
一話目で読者をつかめば、あとはそんなに難しくありません。同
じクオリティで第二話、第三話と作品を書き続ければいいのです。
え? それが難しい? そんなことありません。完結までのあらす
じとプロットが決まっていれば、あとは想像力と描写力の問題です。
86
さて、即バック対策ができて、ユニアクが増えた人に、いちマイ
ナー作家である私から伝えられることはあまりありません。
次に行きましょう。
87
お気に入りが増えた!ポイントが入った!
お気に入りに登録されると、自動的に+2ptされます。
また、お気に入り以外でも、評価ポイントを入れると、+2∼+
10ptされます。
自分で自己評価をつけることはできません。副アカは規約違反で
す。つまり、読者にお気に入り登録してもらい、評価してもらうこ
とでしか、自分の作品のポイントを増やすことはできません。
上を見ないでください。世の中には4桁のポイントを引っさげて
日間ランキングを駆け上がる英雄たちがいます。自分がそうなれれ
ばもちろん嬉しいですが、彼らは例外的な存在です。大多数の作品
は、お気に入り登録されず、評価ポイントも付きません。
総合評価 0pt
文章評価 まだ評価されていません
ストーリー評価 まだ評価されていません
そうです。あなたは無名なのです。
それでも、時にはお気に入り登録される場合があります。今後に
期待、あとで読む、などの理由です。
そして評価ポイントが入ることもあります。最後まで読んだから、
面白かったから、感動したから、などの理由です。+5pt/+5
ptで、計+10ptされるのも嬉しいことですが、+4pt/+
3ptなど、まじめに評価してくれていそうな配分にも心が躍りま
す。評価ポイントに、マイナスという概念はありません。
露出が多ければそれだけユニアクが増え、お気に入りと評価ポイ
88
ントも増える⋮⋮とは、残念ながら行きません。
総合評価ポイントにはいくつもの壁があります。
1桁から2桁への壁。まだお気に入り登録だけで、ポイントが入
っていない状態です。
50ptの壁。徐々に評価ポイントが入りだしましたが、順調と
はいかない状態です。
100ptの壁。評価ポイントが入りだし、あなたの作品の知名
度が多少上昇した状態です。人によってはマイナー卒業と考えるこ
ともあるし、逆にここからが勝負だという人もいます。
200ptの壁、300ptの壁。評価ポイントが入り、順調に
伸びてきています。しかし、妖怪お気に入り外しが現れ、評価ポイ
ントは壁を超えるか超えないかのところで止まってしまいます。
500ptの壁。お気に入り登録も評価ポイントも普通に入るよ
うになりました。ぽつぽつ感想が付き始めます。もうマイナー卒業
を宣言してもいいでしょう。
1000pt、2000ptの壁。人々があなたの作品に興味を
持ち始めます。レビューも書かれるかもしれません。人気作家への
道のりです。
だいたいこんな感じだと思います︵後半は想像図︶。
悲しいことに、いくら宣伝してもポイントが伸びない作品という
ものがあります。何が悪いのかは分かりませんが、とにかくポイン
トが打ち止めを喰らう瞬間が来ることがあります。それに加えて、
妖怪お気に入り外しが現れて、ポイントが減ったときは本当に凹み
ます。
マイナー作者は悩みます。一体、日間ランカーになれる条件とは
何なのでしょうか。ファンタジー、異世界トリップ、転生、VRM
MO⋮⋮日間ランカーが備えている人気の特徴を見て真似をしても、
89
読者にスルーされることもあります。しょせん二番煎じでは、本家
様には勝て⋮⋮ああ、そういえばこの小説の書き方入門も何番煎じ
だか分からないですね。いやはや面目ない。
今回は読みづらいのを承知で、算用数字を使って書かせて頂きま
した。次は感想返し、活動報告についてです。
90
感想への返信、活動報告を使う。
感想がついた!
それは飛び上がるほど嬉しい瞬間です。自分の作品をじっくり読
み、感想を書くかどうか悩み、そして実際に感想を書いてくれた人
がいる︱︱そうです。あなたの作品は一定の知名度を得たのです。
どんなふうに感想に返信を返せばいいのでしょうか。いろいろな
ケースが考えられます。
誤字脱字の指摘。これは﹁感想ありがとうございます。直します﹂
と返すといいでしょう。作者としては、なるべく誤字脱字の類いは
事前にチェックしておきたいですが、まあ人によっては残ってしま
うこともあります。次に生かしましょう。
読んで面白かった等の、純粋な応援。これは﹁感想ありがとうご
ざいます。今後の励みにしたいと思います﹂などと返すといいでし
ょう。ここが面白い、あそこが興味深い。単純ではありますが、作
者としては非常に嬉しいやりとりの一つです。
読んだけどつまらなかった等の、否定の声。これは﹁感想ありが
とうございます。ご一読していただいたことを感謝し、次の作品に
生かしたいと思います﹂などと返すといいでしょう。読んだ後、あ
えて否定の声を上げてくれたということは、ひそかに作者の成長を
願っているのかもしれません。
設定の矛盾の指摘。これは﹁感想ありがとうございます。これこ
れはこういう理由でこうなっています。御了承ください﹂などと返
すといいでしょう。
91
こういう読者は、非常に深く設定を読み込んでくれている方です。
その情熱に敬意を払い、きちんと返信することで、固定読者になっ
てくれる可能性があります。
具体例を挙げての質問。これは自分が分かる範囲で調べてから﹁
感想ありがとうございます。不勉強ではありますが、これこれはこ
ういうことではないでしょうか。この作品の設定ではこの説を採用
しています﹂などと返すといいでしょう。
具体例を挙げて質問してくるということは、感想を書いた読者の
ほうがそのことについて千倍詳しい、ということも十分ありえます。
作者としては、知ったかぶりをせず、わからないことはわからない
と素直に認める姿勢も必要です。
キャラクターやストーリーに対するリクエスト。このへんからち
ょっとおかしくなってきます。﹁感想ありがとうございます。もう
プロットは固まっているので、書くとしたら後日談になるかと思い
ます﹂などとはぐらかしましょう。
人によっては、この種のリクエストを受けて、筆が硬くなり、続
きを書けなくなってしまうことがあります。しかし、それは作者に
とっても読者にとっても悲しいことです。都合が悪い時には、うま
く受け流す姿勢も必要です。
○○○○を殺すような作者はいらない。氏ね!! このへんから
感想というよりクレームになってきます。あなたが十分に努力した
にも関わらず、登場人物の死が衝撃的すぎて読者に混乱を与えてい
る状態です。律儀に返信する必要が無くなるのがこのあたりです。
スルーしましょう。作中人物の生殺与奪の権利はあなたが握って
いるのです。読者にどんなに望まれようと望まれまいと︱︱殺すと
きは完全にぶち殺しましょう。
92
次に活動報告ですが、これは更新通知や、エタり気味の作品の進
捗報告などとして使います。あるいは、今後の方針などを読者全体
に通知したり、短編として投稿するまでもない内容を語ったりなど
です。基本的に削除できない︵削除すると運営に怒られる︶ものな
ので、慎重に書きましょう。
予想に反して、新着活動報告を見ている人は、けっこう多いです。
新着活動報告から、はじめて作者や作品を知るという人もいます。
そのため、活動報告の使い方を間違えないことが重要です。
風邪を引いたとかの日記や、過度の馴れ合い談義は、本来の使い
方ではありません。あくまで、小説本文の更新通知に伴う、さりげ
ない記述にとどめましょう。などと言っておきながら、お気に入り
ユーザの活動報告でのやりとりを楽しく見させていただいているあ
たり、作者は激しく自己矛盾しておりますが。
いずれにせよ、小説家になろうで活動していくかぎり、活動報告
とは長く付き合うことになるかと思います。あとで見返して死にた
くなったりしないように、用法、用量を守り、正しく使っていきま
しょう。
93
Twitter
#narou
タグでの宣伝。
ユニアクを伸ばす手っ取り早い方法として、Twitter︵ツ
イッター︶でのツイートがあります。
あなたが公開した最新話には﹁ついったーで読了宣言!﹂という
ボタンがついているはずです。
これを押すと、
http://ncode.syosetu.com/n0161
−俺の彼女はNPC−﹂読ん
#narouN0161BK
﹁ゴーストインプリメント
#narou
bk/
だ!
みたいに出てきます。
ちなみに、これをそのまま呟くと自演乙されるので、それは絶対
にやめましょう。
上記を参考に、たとえば以下のようなツイート文面を作りましょ
う。
﹁ゴーストインプリメント
−俺の彼女はNPC−﹂
こ
﹁
更新しました!
#narou
http://ncode.syosetu.com/n0161
bk/
第九話 願いが叶った後で﹂
れにて完結となります。次回作にご期待ください。
#narou
タグ上に流れることになります。
重要なのは﹁#narou﹂の部分です。これを含めて呟けば、
その呟きが
まあ、だいたい十人から二十人程度のユニアクが見込めると思い
ます。
94
しかし何事につけても、やりすぎは逆効果だと私は思っています。
あくまで私の場合ですが、﹁更新した日だけ、一日一回限りの、手
動での呟き﹂に抑えています︵※︶。
それというのも、この連載を見て﹁それなら俺もツイッターのア
カウントを試しに二十個ほど作ってみるか﹂﹁一日に三回、いや十
回、いやランダムに四十八回くらい呟くように設定したボットを作
#n
タグ自体が機能しなくなってしまうからです。それでは
ろう﹂などという露出好きな作者が増えすぎると、そもそも
arou
皆が困ります。これを専門用語でDoSアタック︵サービス飽和攻
撃︶といいます。
﹁更新した日だけ、一日一回限りの、手動での呟き﹂を個人的に薦
めます︵※︶。強制はしません。一日何回呟いてもあなたの自由で
す。
ですがツイッターはリアルタイムの情報媒体です。リアルタイム
#narou
タグは、とて
の更新を呟くからこそ、そこに意味があるのではないでしょうか。
Twitter︵ツイッター︶の
も簡単で、魅力的な宣伝方法です。使いこなすことで貴重なユニア
クをたくさん稼げるでしょう。
ただし全ては自己責任です。宣伝しすぎて読者にブロックされて
これでも多すぎるという声があるので、この話﹁Twitte
しまっても、この連載のせいにはしないでくださいね。
※
#narou
タグでの宣伝。﹂の反響によっては削除も検討
r
します。感想受付中です。
95
小説家になろう
﹁小説家になろう
勝手にランキング、某chでの晒し行為。
勝手にランキング﹂というサイトがあります。
︻注意︼このサイトが嫌いな人はこの段落を読み飛ばしてください。
私はこのサイトの関係者でも、ステマしようとしているわけでもな
いので、嫌いな人はスルーしてください。
地味に、そして確実にユニアクを稼ぎたい人は、これに登録する
と良いでしょう。登録の仕方は各自で調べてください。そんなに難
しくはありません。
ただ一般的に言って、一ページ目に載るか? といえば載りませ
ん。せいぜい良くて二ページ目、悪ければ三ページ目か四ページ目
でしょう。ファンタジーだと圏外になるかもしれません。ですが、
ここから飛んで来てくれるアクセスが、多少なりともあるのは事実
です。その数個のユニアクがどうしても欲しいのであれば、登録し
ない手はありません。
サイトの性質上、あらすじの反映は遅れます。覆水盆に返らず。
登録する時には、ちゃんとしたあらすじを書いてから登録するよう
にしましょう。
さて、それでも全くユニアクが伸びず、ポイントが入らなかった
とします。往々にして、自分でも何が悪いのかよくわからなかった
りします。そんなときの﹃最後の手段﹄が、某chでの晒し行為で
す。これは本当に一度きりしか使えない切り札です。お気に入りや
96
ポイントを増やす効果はありません。
インターネットのアンダーグラウンドである某ch、その某板に
ひっそりと存在するマイナースレ。まず、必ず>>1を最後までよ
く読みましょう。﹁※自作品を晒す際の注意事項﹂を確認しましょ
う。他の人の晒しに割り込まないようにしましょう。そして、タグ
に﹁晒し中﹂と書き加え、作者であることを証明しましょう。
で、URLを張ります。
晒します。飴鞭半々程度希望です。
http://ncode.syosetu.com/n01
61bk/
これがもう、何と言えばいいか、ものすごい勢いでダメ出しされ
ます。
全部匿名の、歯に布着せぬ率直な意見です。真摯な姿勢で受け止
めましょう。ボロクソに叩かれたからといって、作品を削除して逃
亡したりしてはいけません。プロでさえ叩かれるのです。メジャー
でさえ叩かれるのです。マイナーが叩かれないわけがどうしてある
でしょうか? 褒められて伸びるタイプ? ああ、ゆとり教育の弊
害ですね。お帰りください。
叩かれると、作者は成長します。自分の欠点を見つめなおし、次
の作品を、より良い作品を書こうと決めます。
ですが、連載中の作品を放置してエタる︵エターナル、永遠に終
わらないこと︶ことだけはしないでください。作品をエタらせてい
るうちは成長できません。ユニアクが伸びなくてもポイントが増え
なくても、とにかく連載中の作品は完結させましょう。
97
オチが綺麗、オチが弱い、など、完結させて始めて得られる評価
もあります。
とにかく最後まで書きたかったものを書き切りましょう。二万字
や四万字で終わってもかまいません。五話や十話で終わってもかま
いません。きちんと完結してから晒す。これはポイントが高いです。
スレの住人にも、一目置いてもらえます。二目は置いてもらえませ
んが。
ただ、何本も連続して晒すのは﹁晒しすぎ﹂として敬遠されます。
節度を守って、どうしてもという時にだけ、﹃最後の手段﹄として
利用しましょう。
もっとも、晒された作品をじっくり読んで、ボロクソに言うのを
楽しんでいる人もいます。かく言う私も⋮⋮いや、冗談ですって。
冗談、冗談。
98
完結させる。
始まった物語には、必ず終わりがあります。
代表的なのは、行きて帰りし物語です。辛い現実から逃れた主人
公が、ファンタジー世界で成長して現実に戻ってくる。﹃はてしな
い物語﹄や﹃ホビットの冒険﹄、﹃ハリー・ポッター﹄シリーズ、
等々。枚挙にいとまがありません。あるいは最近の﹁小説家になろ
う﹂では、行きて定着する物語というのも多いですね。
これを言い換えると、作者には、始めてしまった物語を終わらせ
るという責任が付きまとうということです。
うっかりすると、作者はそれを忘れがちです。自分の思い描く世
界を、永遠に物語を続けたくなります。ですが、最初にあらすじを
最後まで決めたのを覚えているでしょうか。エンディングを想定し
たことを覚えているでしょうか。ちりばめた伏線を回収することは
できたでしょうか。長い長い物語に幕を引くことができるでしょう
か。
いつものような毎日の更新とは違います。この最後の更新をもっ
て、物語は完結するのです。これは非常に辛い瞬間です。もう﹁更
新しました!﹂と勢いよく呟くこともできません。そして物語を読
み終えた読者は、去っていってしまいます。おそらく、永久に、戻
ってくることはないでしょう。というのは言いすぎですが。
作品は、完結します。それは、作品が作者の手を離れる瞬間でも
あります。あなたの平均余命より、作品の公開される期間の方が長
い、という事態もありえます。作品はあなたの子供です。産み落と
し、へその緒を切り、完結させねばなりません。
99
何度も言いますが、身を切るような辛さが襲ってきます。思わず
他愛もない後日談を書きたくなります。けれど、後日談を書くため
には非常に難しいスキルが要求されます。まずは、ぐっとこらえて
ください。作品は完結したのです。それ以上は、もはや蛇足という
ものです。
自分のブログやホームページからリンクを張るのもいいでしょう。
小説家になろうに関する掲示板︵あの恐ろしい某chのことではな
いですよ!︶に完結報告をするのもいいでしょう。
あなたは自分の作品を自慢することができます。なんといっても、
あなたは一つの物語を完結させたのですから。
100
昨日のことは忘れ、次のネタを考える。
物語が、小説が完結したら、次はどうすればいいでしょうか。
もちろん、次のネタを探すのです。新しいアイデアを見つけまし
ょう。
おっくう
私の場合、予約投稿のストックがあるうちは、新しいネタを探す
のが億劫になってしまうことが多いです。なので、本を読んだり、
辞書を引いたり、Wikipediaを眺めたり、某chを見たり
します。夢で見たシーンを元に着想を得ることも多いです。散歩中
に、ふとしたタイミングで言葉が降ってくることもあります。調べ
物をしているうちに、その題材で書いてみたくなることもあります。
昨日のことは忘れましょう。完結した作品のポイントがときどき、
偉大なる読者様の恩寵を賜って増えていることがありますが、まあ
どう頑張っても倍にはなりません。ある程度は諦めが肝心です。
次のネタが浮かばないというのは、これは高望みしすぎているだ
けというのがほとんどです。一作、上手く書き上げたことで鼻高々
になってしまって、自分の身の丈にあったネタを見つけることがで
きないのです。しばらくだらだらしましょう。そのうち、書いてみ
たいネタが見つかるものです。
別のジャンルに挑戦してみるというのも一つの手です。
私の場合、ファンタジー、童話、恋愛、SFと書いてきて、今回
はエッセイに注力してみました。このエッセイを書き上げたら、ま
たファンタジーに戻るかもしれません。あるいは次に書くのは、ハ
ードSFかもしれません。
101
筆先が上手くなったことを喜んでいるだけではよくありません。
重厚なテーマ、奥行きのあるストーリー、リアリティのあるネタ
が伴っていなければ、筆の持ち腐れです。実際、非常に筆がうまい
のだけれど、おそらく決してなろう受けはしないであろうという作
者がいます。
彼らは、ある意味で羨ましいけれど、ある意味では可哀想な人た
ちです。つまり、小説家になろうに、小説投稿サイトに、インター
ネットに、彼らにとって適切な発表の場が無いのです。
彼らはおそらく、賞にも応募しているでしょう。ですが、いくら
筆が上手くても、需要と供給の関係で一次選考を、二次選考を突破
できないということはあるものです。彼らは悲劇の人たちです。読
者に媚びることもできず、筆を偽って下手に見せることもできない。
進化の袋小路に入ってしまったのです。
非常に失礼な言い方になりますが、彼らのようになってはいけま
せん。
筆力よりもアイデアが重要なことが多々あります。出来のよくな
いアイデアに拘って、何度も何度も改稿するよりは、新しいアイデ
アを用いた作品を書きましょう。アイデアが出ないからといって、
旧作をリメイクするのもやめましょう。たぶん十中八九エタります。
常日頃から、ネタを考える努力というものをしましょう。
そしてさっとメモ帳に書き留めて、それをどんどん膨らませてい
きましょう。
いまこそ、新作を書くべき時です。
102
目標を持つ。
一話五千字書けるようになりたいな。
三十話くらい連載したいな。
いつか十万字超の作品を書いて、完結させて、賞に応募したいな。
ベクトル
大事なのはこういう目標を持つことです。目標があることで、努
力の方向性が決まります。目標も無く、だらだらと十万字以上書い
て、いつのまにかランカーになっている。確かにそういう人はいま
す。ですが、そういう人は稀だと思ってください。
みんな多かれ少なかれ、目標を持っています。
よく、こんな愚痴が聞かれます。
﹁小説家になろうとする奴らって、他の道に全部挫折して、俺には
もう小説しか無いんだ! なんて言いながら、実際は何の努力もせ
ず、ただ与えられるものを貪り、漫然と筆を走らせる奴ばっかりで、
なんつーかダメダメだよね﹂
はい。私もその中の一人です。社会からドロップアウトし、絶賛
ひきこもりライフを満喫しております。ゴミです。クズです。いて
もいなくても同じ存在です。
小説家は、アーティストと同一視されることが多いです。それも
うそぶ
これも、社会からドロップアウトした連中の吹き溜まりだからです。
﹁締め切りは破るためにある﹂そんな台詞を嘯く小説家もいます。
﹁この業界の体質に唖然とした﹂という小説家もいます。小説家の
世界は、まさに玉石混交、まさにアウトローそのものです。
103
それでも、みんな多かれ少なかれ、目標を持っています。
けんさん
あざむ
ある人は、自分が考える理想の美少女との恋愛を描く為に、日々
研鑽しているかもしれません。
ある人は、画期的なトリックで、読者の推測を華麗に欺こうと思
っているかもしれません。
ある人は、逆ハーやBLを世界に供給したいと思っているかもし
れません。
ある人は、伝説の英雄の伝説を語り継ごうという義務感に駆られ
ているのかもしれません。
目標を立て、そっちの方角を見つめる時、自然と道が浮かんでき
ます。一歩一歩前進し、障害物を取り除き、努力を続けていると、
ついに道の先にたどり着くことができます。そこにはまったく新し
い風景が広がり、あなたは次の目標を立てることができます。
努力には、長い時間がかかります。私の場合、初期の連載作品か
ら数えると、ここまで来るのに一年半ほどかかりました。
しかし小説を書くというのは一生の趣味です。少しばかり、努力
するだけの価値があると思います。
104
筆力の向上、小説とは何か。
漫画の作者が、連載中に画風をがらりと変えて、主人公やヒロイ
ンがまったく別人になってしまう。
よくあることですね。
これと同じことが、小説にも言えます。拙い筆力でつづった物語
のほうが、むしろ読者に好印象を与えていた。そんなケースがあり
ます。
最初に、小説とは回りくどい描写のかたまりであると言いました。
筆力の向上は、言い換えれば無駄な、回りくどい文章を書く能力の
向上です。
ある一定の筆力を超えると、もうそれは蛇足を付け加えるが如く
です。本当はラフスケッチをしたいのに、うっかり精密画を描いて
しまう。もてあました筆力が邪魔になってくることがあります。
そして、文体が綺麗すぎるのです。上品すぎて、粗野で乱暴な感
情が抜け落ちてしまっているのです。
小説とは何でしょうか。文字、文章によるイメージの伝達、と考
えて見ましょう。
最初のうちは、描写が足りないと言われます。もっと情報を詰め
込め、と言われます。その通りに練習すると、なるほど小説らしく
なっていきます。
ですが、筆力が向上してくるにつれて、ある時点から、それは小
説ではなくなっていきます。言葉のサラダ。表現の大盤振る舞い。
そういうものになっていってしまいます。
105
今度は無駄で回りくどい言い回しを、ふるいにかけ、振り落とす
必要が出てきます。かっこいいと思っていたその言い回しは、本当
に必要でしょうか。
オーバーキル
太陽を浴びて死に掛けのヴァンパイアに、とっておきの銀の弾丸
を撃ち放つような、殺しすぎをしていないでしょうか?
冒頭の比喩のように、小説家の筆力とは、漫画家で言えば画力で
す。あるに越したことはありません。しかし本当に上手い漫画家と
いうのは、必要な情報を取捨選択し、時に、手を抜いた風な絵を描
くこともめずらしくありません。これは何を意味するのでしょうか
? 小説家も、わざと手を抜いた描写をする必要があるという意味
なのでしょうか?
それは違います。彼らは手を抜いた﹁風な﹂絵を描いているので
あって、その基本には完璧なデッサン、描写があります。単に情報
が取捨選択されているだけです。あなたはディケンズが﹃クリスマ
ス・キャロル﹄でそうしたように、執拗に徹底的にスクルージを描
写することもできます。
ですが、その描写を前にして、本当に必要な情報はどれだろうと
考え、悩み、一言で説明することもできます。
霧の町、ロンドン。そこにスクルージという拝金主義者がいた。
それは作者が最初に通った、描写不足の道ではありません。むし
ろその逆に、限界まで描写を引き絞った状態です。文を削ることを
恐れないで下さい。一度ぱんぱんに膨らませた描写を、必要なだけ
削っていってください。
小説とは、無駄な、回りくどい文章のことです。ですが時には、
106
一切の無駄が無い、ストレートな文章が好まれることもあります。
筆力の向上に伴って、作者にはそういう選択の幅が広がります。ど
うとでも書ける物を、人物を、一体どこから光で照らし、どのよう
に描き出すか?
真の小説とは、どうしても必要な、回りくどい文章のことです。
107
最後に。
さて。﹁誰でも分かる!小説の書き方入門﹂。いかがだったでし
ょうか。
ここまで読んでくれた奇特な方々に、まずお礼を言わねばなりま
せん。ご一読ありがとうございます。
あなたの小説を書くのに、何か参考になったでしょうか。
それとも、当たり前のことばかりで、何の参考にもならなかった
でしょうか。
正直、こんな基本的な内容のために三万字︵※連載中に追記して
五万字︶もエッセイをつづることになろうとは、自分でも考えても
みませんでした。しかもこの内容、実はたった二日でがーっと書き
上げたのです。
二日、たった二日です!
一言で述べるなら、非常にエキサイティングな体験でした。
もちろん文章の大幅な加筆修正など、後から行ったことも多々あ
りますが、骨子は自ずと決まっていました。なにしろ題材は自分自
身の経験談だったわけですから。
学園サクセスストーリー﹂が十万字超えたあたり
一年半。その間に、色々なことがありました。
﹁ザ・トリガー
でエタったり、いくつか短編小説を書いたけど全くポイントが入ら
なかったり、たまたま仕事が忙しくて小説書いていられなかったり、
某リレー小説企画に参加してリアルタイムで小説を投稿する経験を
したり。
﹁ザ・トリガー﹂を無理矢理完結させたり、﹁中世ヨーロッパは大
変です!﹂が意外とウケたり、読者に媚を売って﹁最強作家のマイ
108
対天使9mm純銀爆裂弾﹂
ナ﹂を書いたり、短編﹁タイムリミットはあと2年﹂にポイントが
入ったり、趣味に走って﹁ヘルファイア
−俺の彼女はNPC−﹂が爆死したり。
を書いたり、VRMMOなら大丈夫だろうと思って書いた﹁ゴース
トインプリメント
﹁白の魔王ウォレスの憂鬱﹂でシリアスなファンタジーが﹁小説家
になろう﹂ではあまりウケないことを悟ったり、短編﹁魔鉱石︵マ
グタイト︶クロニクル﹂を書いたり、このエッセイ﹁誰でも分かる
!小説の書き方入門﹂を書いたり。次回作﹁マグタイトサーガ﹂の
準備をしたり。色々ありました。
もしこのエッセイが評価されなくても、私としては一向に構いま
せん。自分のノウハウを文章化し、体系化できたというだけで十分
な成果だからです。
その上で、もしこのエッセイが世界の何処かの誰かの役に立った
というのなら、お気に入りされたり、評価ポイントが入ったりする
のなら、これ以上の喜びはありません。
このエッセイの冒頭で述べたとおり、誰にでも小説は書けます。
けれど、読者に真剣に読んでもらえる小説は、多くはありません。
読者の期待を裏切り、エタることもあります。
毎日更新でも読者がつかず、完結したらしたで、露出が減って読
者は先細りです。
どうすれば、もっと多くの人に読んでもらえるのでしょうか? 自分で問いを発しておきながら、満足のいく答えは未だに出ません。
とわ
ただ願わくば、あなたの書く作品が、あのディケンズ著﹃クリス
マス・キャロル﹄のように、永遠に読み継がれる名作になりますよ
うに!
追記
109
2012/12/10から始まる、作中作﹁マグタイトサーガ な
んか異世界に召喚されたけどシリアス路線だった﹂もお気に入りし
て頂ければ幸いです。
110
マグタイトサーガについて。
マグタイトサーガを予約投稿していたら、2012年が終わって
いました。この年に書いた総文字数は、連載作品だけに絞っても二
十三万字を超えます。合計すれば単行本二冊分くらいは書いている
のですから、十万字超の長編小説が書けないマイナー作者とはいえ、
まだまだ捨てたものではありませんね。
しかし﹁マグタイトサーガ なんか異世界に召喚されたけどシリ
アス路線だった﹂を書いていてまず頂いた感想は、﹁主人公が少年
とは思えない﹂﹁異世界なのにわくわく感が無い﹂という、幸先の
悪いものでした。
これは確かに一つの反省点です。
読者は異世界トリップの結果が﹁いかに異世界的であるか﹂を求
めているのであって、感情移入すべき主人公にわくわく感が無いと
いうのは致命的。加えて描写が型にはまっていて、面白くない。コ
ータの一人称のはずなのに、なぜか三人称っぽく、説明的すぎる。
そんな指摘がありました。
事実、マグタイトサーガには、冒険者ギルドも、最強スキルも、
分かりやすいステータスやレベルという概念も出てきません。それ
どころか、やられ役のザコも、守らなければならないか弱いヒロイ
ンも、打ち負かすべきライバルも、もふもふの耳を持つ獣人も、意
地悪なとんちを仕掛けてくる王族も出てこない。
せいぜい貴族や魔法使いが申し訳なさそうに出てくる程度です。
加えて、話の分量自体が短い。二十二話もあるくせに五万字ぽっ
ちしかない。一話二千字強です。作者にしてみればこれが精一杯な
111
のですが、読者にしてみれば物足りないにもほどがあるといったと
ころでしょう。仮にも長編を名乗るなら、もっとたくさん書け、続
きを書けと催促されたこともあります。
とどのつまり、マグタイトサーガはなろう的ファンタジーの王道
を期待させるようでいて、全く王道ではない。ものの見事に空振り
しているというのが現状であるといえます。そこにマグタイトサー
ガの、なろう小説としての構造的欠陥があるということです。
しかし、言い訳をさせてもらうとすれば、まず第一の定義として、
コータの身分は異邦人︵のちに傭兵︶であり、剣道を振りかざして
世界を敵に回すような器ではないです。第二の定義として、コータ
はその誕生と共に母を亡くしており、男手だけによって育てられま
した。第三の定義として、コータは兄が勉学の道に進んだことによ
って、必然的に道場を継ぐ定めです。第四の定義として︱︱これは
最も重要なことですが︱︱コータは物語の結末として家に帰らねば
なりません。
そのために彼は自然と、大人ぶることを要求されました。﹁故郷
に一生帰れない﹂という可能性を認めることは論外です。彼は﹁絶
もののふ
対にいつか帰れる﹂と信じることで、自らの立ち位置を求め、運命
を切り開いていきます。
関口コータは、男はすべからく武士であるべきだと、剣に生きね
ばならぬと信じています。むやみに泣くことは男の恥であると信じ
ています。まだ若いのにそんな古臭いステレオタイプな思想に沿っ
て生きるコータは、ファンタジー小説を多少読み込んでいるとはい
っても、やはりなろう主人公としては年を重ねすぎた風に見えたこ
112
とでしょう。
ですが、作者はそういう主人公が書きたかった。
ただ目の前の敵しか見ていないが故の強さ。かざりけがなく、口
数が少ない、少し達観しすぎている少年。神様や魔法にひどく憧れ、
しかし異世界の現実に裏切られる少年。ただ己の戦いでの手柄のみ
によって勇者に、神話になる少年。
この物語は、そういう意味では、ファンタジーとは呼べないかも
しれません。コータが居てもいなくても、アーランド王国、マグタ
イト文明は回っていく。貴族たちの計画には、勇者コータは存在し
なかった。白い魔法使いもまた、勇者コータの出現を予想できなか
った。この物語におけるコータは、徹底して異物です。
そもそも異世界召喚など絵空事、前代未聞のことなのです。信じ
るというほうがどうかしています。コータはかろうじて、その手に
掴んだ伝説の剣と、持ち前の剣道の業によって生き延びたにすぎま
せん。神無き国アーランド王国は、本来、お約束やフラグなどとい
うものとは完全に無縁のシリアスな世界なのです。
その中にあっては、神の加護を受けたコータという存在それ自体
が、奇妙奇天烈で、おかしすぎるわけです。作者はここにシリアス
な笑いを求めていますが、読者の目にどう映ったのかは分かりませ
ん。単なるご都合主義に堕していると言われればそれまででしょう。
このエッセイを読んでくれている読者がもう御存知の通り、マグ
タイトサーガは完結を前提に書かれました。
いくつかの物語が直線で表されるとすれば、この物語は最初から
113
閉じた円でした。登場する魔物はことごとく主人公に倒される定め
であったし、貴族や白い魔法使いの存在を勘定に入れても、事前に
決めたプロットを大きく逸脱することはありませんでした。全ては
作中作として入念に準備されていました。
だから、それが物語としてつまらないという意見は、甘んじて受
け入れましょう。円は閉じました。しかし事によっては、そこに新
たな線が付け足されることも、またあるかもしれません。
2013/01/05
114
はいこちら旧冒険者ギルドについて。
2013/02/13に、拙作﹁はいこちら旧冒険者ギルド﹂第
一章が完結しました。
完結祝いのポイントが大量に入ってジャンル別ランキングの末尾
のほうに載りました︵※1※2︶。あと久しぶりに某ちゃんねるの
マイナースレに晒しました。その支援効果もあって、ついに念願の
500ポイントを突破しました︵※3︶。ご愛読ありがとうござい
ます。
かなりタイトルとあらすじがキャッチーだったためか、毎日のユ
ニアクは300超え。話別ユニアクを見ると最初から最後まで丁寧
追記
2/14早朝時点で日間ランキング40位⋮⋮
ジャンル別ランキングの90位↓60位↓27位まで
に読んでくださる方が多いようで、本当に感謝しております。
※1
追記の追記
上がりました。
※2
2/16早朝時点で1000ポイント突破を確認。
応援ありがとうございます。
※3
ちょっと描写の手を抜きすぎていて、ハーフリングのヒューレッ
トはどんな外見なの? とか、エルフのナルシアは美人なの? と
か、宙ぶらりんのミゼットはどう宙ぶらりんなの? とか、ドラゴ
ンや魔王ってどのへんがすごいの? とか、いろいろと突っ込みど
ころのある作品になってしまった感があります。が、完結は完結で
す。
おまけにイメージイラストを載せておいたので、各自脳内で補完
をお願いします。本文中で描写せずにイラストに任せるとか、物書
きとしてはやってはいけない行為ですが、こまけえことはいいんだ
115
よ!
さて今回は数多くのなろう小説に登場する﹁冒険者ギルド﹂に焦
点を当ててみました。もっとも﹁冒険者の時代﹂は終わり、一度潰
ハーフリング
れたという設定です。話の主役は旧冒険者ギルド唯一の担当者、苦
情係の小妖精、ヒューレット。
ヒューレットは魔女シズネリの予言を受けて、立ってしまった王
都滅亡フラグについての根回しのため、エルフのナルシアと共に様
々なギルドへと走り回ります。
どれもこれも、ファンタジー世界のどこかに存在していてもおか
しくないメジャーなギルドです。様々なギルドとの橋渡し役を演じ
ることで、ヒューレットは、自身が所属する冒険者ギルドというも
のについて思いをめぐらし、一つの決断をすることになります。
第一章︵∼二十話︶では、他のギルドの様子を描くことで、外堀
から埋めていく感じで冒険者ギルドを描こうと思っていたため、冒
険者ギルドが何のために存在するのか、どのような業務を遂行する
のかは、まだあまり書かれていません。お約束のギルドカード発行
機、魔力測定、その他のもろもろのアイテムはまだ出てきていませ
ん。
この冒険者ギルドは、のちにイーグランドへの遠征を行うことに
なるでしょう。第二章では基本的に、冒険者ギルド自体と、イーグ
ランド遠征に関することを書いて、なんとか十万字クラスの作品に
したいと思っています。でもまだ構想段階なのでもう少しお待ちく
ださい。
116
何が﹁やはり﹂なのかは分かりませんが、やはり冒険者ギルドが
維持管理されるためには、何らかの強烈な動機付けが必要だと思い
ます。遺跡に潜る冒険者。ドラゴンと戦う冒険者。仲間を募る冒険
者。傭兵業を行う冒険者。その背景には、戦争とか、情勢不安とか、
政治不信とかがあります。
思えば中世ヨーロッパの十字軍におけるテンプル騎士団は、なろ
う小説における冒険者ギルドに勝るとも劣らない規模にまで発達し
ていました。十字軍遠征中の資金を預かり、銀行業にも手を広げ、
国王相手に大量の貸し付けを行っていました。しかしその騎士団︵
多くは貴族階級出身︶という性質上、国王の謀略によって冤罪を着
せられ、テンプル騎士団は潰れてしまいます。なろう小説における
冒険者ギルドもまた、王権に対抗できないならず者たちの集団です
から、いずれは潰れる定めなのかもしれません。
しかし正業に就くことができない。あるいは、就いていても上手
く儲けられない、そんな生き辛い世の中だからこそ、冒険者たちは
ギルドを作り、互いに助け合うのです! などという、そんな綺麗
事を掲げて、ヒューレットは今日も苦情処理を頑張ります。
昔は良かったと言うのは簡単です。ですが、現時点でベストを尽
くすということ、それこそが最も難しいことであると考えます。
﹁たとえ国が滅びようと、たとえ文明が滅びようと、我らは一つ﹂
そんな盟約があれば、この世界はずいぶんと生きやすいものになっ
ていたのかもしれません。この現代社会にも、冒険者ギルドみたい
な互助組織があったらいいなあと思いつつ、あとがきに代えさえて
117
いただきます。
2013/02/14
青い鴉
118
マグタイトクロニクル2について。
どうも青い鴉です。マグタイトサーガの続編︵コードネーム:フ
ライハイ︶か、はいこちら旧冒険者ギルドの続編︵イーグランド遠
征︶を書こうと思っていたのですが、3月ごろ少し仕事が入ったの
で放置していたら、見事に書けなくなっていました。
領空侵犯にせよ領海侵犯にせよ、国境を超えた進入という点でこ
の二つのテーマは似ています。では、国境を越えたときに何が起こ
るのかな? と考え始めると、出不精な私には想像もできないよう
なトラブルの連続があるのだろうな、と。リアリティについて考え
始めると全く筆が進まなくなるのはお約束です。
しょうがないので気分転換に映画などを何度か見に行った結果、
マグタイトクロニクルに続編があってもいいのではないか、いいか
げんフェリス国王陛下を主人公にしてもいいのではないかと思い立
ち、今回の﹁マグタイトクロニクル2﹂となりました。
で、そもそも前作であるマグタイトクロニクルを知らない方もい
るだろう。ぜひ知ってもらいたい。ということで、マグタイトサー
ガの末尾のほうに転載・追記する形になりました。
今回苦労したのは、まず続編であること、次に文字数の壁です。
順に見ていきましょう。
まず、続編ですから、過去の設定を踏襲する必要があります。マ
グタイトクロニクルとマグタイトサーガに共通する背景設定および
キャラクターを一度全部洗い出し、矛盾しないように書かないとい
けません。王女ナターシャと鉱夫ゴーシュ。マグタイト戦争とナタ
ーシャ条約。勇者コータの登場と活躍。黒の魔王の撃破。それから
119
約10年後、世界はどう変わったのでしょうか。あるいは、どう変
わっていないのでしょうか。
あまり登場人物が増えすぎるのも考え物です。国王フェリスを主
人公とすると、絶対に外せないのが鉱夫ゴーシュと王女ナターシャ
です。過去のキャラで流用できそうな奴、たとえば勇者コータ、貴
族フラーウム、貴族フレイズマル卿なんかはそのまま使えます。
その一方で、使えないキャラもいます。ファフニール卿、オッテ
ル卿、レギン卿は高齢のため十年後には死ぬか引退してしまってい
るでしょう。傭兵のヴォルフガングは芸術家としての道を歩み始め
ました。元魔法使いアーサーと盗賊のエフトは色々あって結婚して
しまっています。
マグタイトクロニクル2の話の軸は、十歳を迎え、不老不死の白
い魔法使いから真実︵マグタイトクロニクルを参照︶を聞かされた
国王フェリスの暗殺計画が持ち上がることから始まります。すると
登場人物として暗殺者が必要そうです。次に、鉱夫ゴーシュの行動
を妨害するキャラクターも要るでしょう。
さて、この暗殺劇の黒幕は必要でしょうか? 探し出して天誅を
与えるべきでしょうか? これはキャラクターの名前と設定も決め
たのですが、考えた末、要らないという結論になりました。
プロットを練る際には、この﹁誰でも分かる!小説の書き方入門﹂
を何度か自分で読み返しました。案の定タイトルと内容が決まって
いるのに書き出せない、という症状に見舞われたので、あらすじか
ら作っていきました。
一行コンセプトはこんな感じです。
120
﹁若き国王は父と出会い、今は亡き母の情報を得る﹂
これだけだと、ちょっとよく分からないですね。
若き国王フェリスはお忍びで出かけたところを、女暗殺者ラ
ネタバレになりますが起承転結に分割すると、こんな風になりま
す。
起
転
承
若き国王は父と出会い、今は亡き母の情報を得る。
フェリスを連れて逃げるライカ。鉱夫たちとの合流と銃撃戦。
だが、ライカはフェリスに一目惚れしてしまう。
イカに狙われる。
結
やや結が弱い感じですが、まあいいでしょう。
で、これをベースにどんどんアイデアを書いていき、プロットを
作りました。一見不要と思えるアイデアや台詞、シーンも書き留め
ていったので、一万字の作品に対して、キャラ設定等を含めると五
千字のプロットがあるという、なんとも本末転倒な話になりました。
数えてみれば分かりますが、前作マグタイトクロニクルと、続編
のマグタイトクロニクル2は、それぞれたった一万字です。そうで
す。上で述べた通り、文字数の壁にぶつかったのです。短編として
独立して投下するのを躊躇ったのは、この微妙な文字数のせいでも
あります。
が、続編を書くというのはそういうことです。
一万字の作品に五千字のプロットがある。
ということは、五万字の作品には二万五千字のプロットが必要な
121
のでしょうか?
踏襲すべきものは踏襲し、新しい設定は新しく書き起こす。これ
らの作業をサクサク進められる方は、素直に尊敬に値します。その
能力を少しでいいから分けてもらいたいくらいです。
では、続編を書くだけでこんなに大変なら、続編の続編を書くに
は、どのくらいの設定とキャラクターとプロットを用意すればいい
のでしょうか。これは、ちょっと自分の手が届かない高みにある目
標のような感じがして、考えるだけでため息が出ます。書き続けて
いれば、いつかその高みに到達できるのでしょうか。
最後に、人称についてです。今回はシーンの切り替えが多い都合
上、三人称単視点をいくつか組み合わせ、三人称多視点になってし
まっています。本当は読者の混乱を避けるために三人称多視点を回
避するべきですが、なんとなく映画的な効果を狙ってあえてそのま
まにしました。もし読んでいて誰の視点なのか分かり辛かったらす
みません。
青い鴉
前作よりも上手く書けていることを祈りつつ、いったん筆を置か
せていただきます。
2013/05/10
122
プロットとは何か。︵前書き︶
1000pt到達記念、プロットの作り方特集
123
プロットとは何か。
このエッセイには一つ反省点があります。プロットです。書き始
める編﹁プロットを練り、シーンに分ける。﹂のことです。
あの項目では、読者がファンタジー小説を書くという前提で、プ
ロットの作り方についてさらっと軽く流してしまった感があります。
なので、ここであらためてプロットについて語りたいと思います。
作者に分かっている範囲で、プロットについて噛み砕いて説明を試
みます。
まず、プロットというのは小説の﹁設計図﹂です。
ここで、設計図と聞いて身を固くする必要はありません。
もっというと、プロットは小説の計画であり、下準備です。登山
における登山計画であり、料理における下ごしらえに相当するもの
です。
登山計画はガイドブックや登山地図を買ってその通りに準備すれ
ばいいですし、料理の下ごしらえも料理本が言うままにしばらくソ
ースに突っ込んでおくだけです。どちらもそんなに難しいことでは
ないです。
プロットが無くても、書ける人は書けます。
何の準備もしないで、登山道を辿って山に登れる人がいるのは事
実です。しかし、途中で疲れてしまったら? 天気が悪くなってき
たら? そういうときに、プロットが必要になります。道に迷って
しまい、途中で物語の終着点が分からなくなってしまうことも多々
あります。もし準備できるのなら、プロットがあるに越したことは
124
ありません。
ではプロットを作りましょう。
しかし、そもそもプロットとは何なのか? どうやってプロット
を作ればいいのか? プロットというものには何か具体的な形があ
るのか?
もっとはっきり言いましょう。﹁プロットを作れるようになる﹂
ためには何の﹁練習﹂が必要なのでしょうか。
私自身、このコツが分からずにかなり試行錯誤を繰り返しました。
読書。これは一見有効そうに見えます。
しかし私の経験上、残念ながら読書は有効な練習方法ではありま
せん。当たり前のことですが、巷で売っている小説には、プロット
が付属していません。現代の国語の授業では、作者が何を考えて書
いたかを読者に考えさせる問題がありますが、小説を書くという目
的から考えると完全に時間の無駄です。︵※1︶
写経。つまり作品を一作、丸々書き移す作業。これはどうでしょ
うか。
これは小説を書く上で、筆運びを覚えるための良い経験にはなり
ますが、プロットを作るという意味ではダメでした。大事なことな
ので二度言いますが、巷で売っている小説には、プロットが付属し
ていません。結局、ここで誰それが出会う、ここで誰それが仲間に
なる、ここで誰それが裏切る、という内容をいちいちノートにメモ
していく必要があり、読解に非常に時間がかかります。それが楽し
いという人もいますが、人生は有限です。
125
では何を参考にして練習すれば、効率よくプロットを作れるよう
になるのでしょうか。
そもそも﹁作者が何を考えて書いたか﹂なんて、当の本人が
次から具体的な話に移っていきます。
※1
解説しない限り、分かるわけがないのです。名作と言われた作品に
ついてコメントを求められた作者が﹁締め切りに追われ、ヒィヒィ
言いながら書いた﹂とか言っていたりするのを見ると、当の本人で
さえ自分が何を考えていたのか分からないというケースもあります。
126
そうだ、映画を観よう。
前もって、読書も写経も役に立たないと言いました。ですが、簡
単にプロットの勉強ができる方法があります。
映画を観て参考にする。これです。
参考にするといっても、いわゆる著作権侵害のように、全部を全
部パクるわけではありません。原作から抽出された120分前後の、
エッセンスというか、あらすじを参考にするのです。このとき、原
作小説があって、一作でいちおう完結しているものがよいです。ハ
リー・ポッターの一作目なんかもいいですね。原作がいくら長くて
も、いくら蛇足が含まれていても、映画は120分前後の尺に収ま
っています。その﹁対応関係﹂を参考にします。
映画を見た後でもいいので、ネタバレサイトを覗いて、あらすじ
の全文を確認しましょう。自分の頭にまだ記憶が残っているうちに、
あらすじを読むことが大切です。
例えば、あらすじを起承転結に分割してみましょう。あらすじを
もっと短く要約することはできるでしょうか。起承転結の四行に、
あるいは一行のコンセプトに変換できるでしょうか。
その逆に、あらすじから映画のワンシーンを思い出すことはでき
るでしょうか。もっと詳しく内容を書き下すことはできるでしょう
か。実際に原作小説を開いて、ここがその記述だと範囲指定するこ
とはできるでしょうか。
この対応関係を学習すれば、名作と呼ばれる映画を十∼二十数本
127
観ただけで、こういうあらすじはこういう映画になるんだ、という
ある程度の﹁察し﹂がつくようになります。こういう﹁感覚﹂や﹁
センス﹂を磨くための手法はあまり体系化されておらず、学ぶこと
が難しいのですが、たぶん映画が最短ルートだと思います。次点は
ラノベ原作のアニメでしょうか。
映画は、映像と音声です。イコール小説ではありません。ですが、
あらすじを片手に何度も繰り返し見られること、ビジュアルがある
ので色彩豊かな、情緒たっぷりな文章化が容易なことなど、﹁練習﹂
する上で利点が非常に多いです。
あらすじ︱︱映画︱︱原作小説。この対応関係を知ることで、プ
ロットを作る上で重要な能力、物語を短く簡単に表現する﹁あらす
じ化能力﹂と、長く詳細に表現する﹁小説化能力﹂を、両方とも獲
得できます。
﹁あらすじ化能力﹂⋮⋮物語をあらすじにまとめる能力。あらすじ
や起承転結、一行コンセプトを作るために必要。
﹁小説化能力﹂⋮⋮あらすじやプロットから物語の全体像、各シー
ンをイメージし、小説を書き上げる能力。
図書館の視聴覚コーナーやDVDレンタル店などを利用し、もし
可能ならば、ノートにメモを取りながら映画を観るといいでしょう。
一度ノベライズ作家になりきって、映像と音声の全てを文章に落
とし込むことをイメージして観る。そういう姿勢で映画に取り組む
と、学ぶべきことが本当に多いことに気付かされます。
128
プロットを作る︵前︶ プロットを見てみる。︵前書き︶
マグタイトクロニクル1,2のネタバレを含みます。
129
プロットを作る︵前︶ プロットを見てみる。
さて、プロットとは何でしょうか。これを簡単に言うと、以下の
ものに相当します。
・タイトル
・あらすじ
・ジャンル
・テーマ
・アイデア
・シーン
・台詞
・キャラクター設定⋮⋮見た目、所属、各種能力、動機
・背景設定
・トリック、推理⋮⋮これはミステリの場合に必要です
ちょっと待て! 多すぎるだろ! なんか違うものも混じってる
ぞ! と読者にツッコミを入れられる前に、それぞれに作品の内容
を割り当てていきましょう。拙作﹁マグタイトクロニクル1,2﹂
のネタバレになりますがご容赦ください。
ケース1︶
・タイトル⋮⋮マグタイトクロニクル
・あらすじ⋮⋮鉱夫ゴーシュは王女ナターシャをそうとは知らずに
誘拐する
・ジャンル⋮⋮ファンタジー
・テーマ⋮⋮身分を越えた愛
・アイデア
130
・鉱夫たちはテロを計画したが失敗する
・秘匿名﹁ブロークン・アーランド﹂
・王女ナターシャと知らぬまま、ゴーシュは少女を誘拐する
・ゴーシュはナターシャと夫婦になる
・ナターシャはよく働く
・マグタイト戦争と王子たちの戦死
・ペンダントのせいで身分がばれ、王女として戦争を止めに戻る
ナターシャ
・薔薇園での話
・若き国王への真実の伝達
・シーン
・マグタイトに関する解説
・テロの失敗
・ゴーシュとナターシャ、鉱夫たちとのやりとり
・マグタイト戦争
・薔薇園での白い魔法使いの話
・台詞
・ゴーシュ﹁いつもそうだ! 貴族どもは僕たちから、いつだっ
てまず﹃大きいほう﹄を奪い取ろうとする!﹂
・ゴーシュ﹁彼女は女子供だ。それにいずれ僕の子を産むんだ。
少しくらい優しくして何が悪い﹂
・フェリス﹁何度も訊くが、この話は本当にあったことなのか?﹂
・キャラクター設定
・鉱夫ゴーシュ
・王女ナターシャ
・白髪親方アルフレッド
・鉱夫ククルス
・国王陛下
・アレク王子とサンドリア王子
・白い魔法使いウォレス
131
・少年王フェリス
・その他
・貴族の雇った銃兵
・貴族の買い付け人たち
・背景設定
・アーランド王国
・マグタイトと鉱夫
・貴族とラッダイトの敵対
ケース2︶
・タイトル⋮⋮マグタイトクロニクル2
・あらすじ⋮⋮若き国王が父と出会い、今は亡き母の情報を得る
・ジャンル⋮⋮ファンタジー
・テーマ⋮⋮父と子の再会
・アイデア
・前提:国王フェリスが真実を知る︵マグタイトクロニクル1参
照︶
・フェリスは世間知らずである
・王宮を出て暗殺者に狙われるが、ライカの一目惚れと﹁透明化﹂
で生き延びる
・ラッダイトのカダスは王族を殺すべきと考えるが、ゴーシュは
反対する
・フェリスは銃をよく学んでいる
・銃撃戦とカダスの裏切りと失敗
・フェリスは父である鉱夫ゴーシュと再会する
・シーン
・薔薇園での密会
・広場で子供たちにあしらわれる
・酒場での戦闘
132
・ラッダイト支部
・市場でのやりとり
・銃撃戦とカダスの裏切りと失敗
・国王フェリスから鉱夫ゴーシュへの質問
・冒頭と結末のシーンの十年越しの対応関係
・台詞
・フェリス﹁ところで、母上はどんな人でしたか、父上﹂
・ゴーシュ﹁あいつは軽かったよ。軽すぎて殺すのを忘れた︵以
下略﹂
・ゴーシュ﹁母さんはお前に賭けてたぞ﹂
・キャラクター設定
・国王フェリス
・王女ナターシャ
・鉱夫ゴーシュ
・鉱夫カダス
・暗殺者ライカ
・その他
・勇者コータ
・新興貴族フラーウム
・名門貴族フレイズマル
・執事兼護衛隊︵四人︶
・兵士︵四人︶
・やられ役の敵兵士
・背景設定
・勇者コータの登場と活躍
・議会の導入
・お茶ブーム
・マグタイト共振管
どうでしょうか。簡単にあてはめてみましたが、しっくり来たで
133
しょうか。
だいたいこのへんがプロットと言われるものになります。次の項
目に譲りますが、実際には、プロット作成の初期段階では、ジャン
ルとテーマが決まっていないこともあります。アイデア、台詞、シ
ーンはもっとガシガシ追記する必要があるでしょう。キャラクター
設定や背景設定もかなり膨大な量になると思います。
134
プロットを作る︵後︶ アイデアを書き出す。︵前書き︶
マグタイトクロニクル2のネタバレを含みます。
135
プロットを作る︵後︶ アイデアを書き出す。
練習のために、お気に入りのドラマ、アニメ、映画のワンシーン
を思い出してください。
それはいくつかの台詞かもしれません。風景かもしれません。シ
チュエーションかもしれません。何を思い浮かべるかは、人によっ
て千差万別だと思います。
私の場合は、某映画の﹁色々あって憧れの人に再会する﹂という
ストーリーの構図が印象に残っています。関連して、鉱夫ゴーシュ
が国王フェリスに再会し、王女ナターシャのことを思い出して﹁あ
いつは軽かったよ﹂﹁母さんはお前に賭けてたぞ﹂等の台詞を言う
シーンが思い浮かびます。共通するテーマは﹁再会﹂ですね。
・シーン
・国王フェリスから鉱夫ゴーシュへの質問
・台詞
・フェリス﹁ところで、母上はどんな人でしたか、父上﹂
・ゴーシュ﹁あいつは軽かったよ。軽すぎて殺すのを忘れた。そ
して柔らかかった。か弱かった。優しかった。馬鹿だった。しかし
心は誰よりも強かった﹂
・ゴーシュ﹁死ぬなよ、フェリス。母さんはお前に賭けてたぞ﹂
これらをテキストエディタに箇条書きで書きなぐります。これが
プロットの種、小説のコアとなるシーンです。
最近はテキストエディタが優秀なので、紙を使わないでプロット
を練ることも可能かもしれませんが、必要ならノートや付箋紙も活
用しましょう。
136
■アイデア
コアとなるシーンが決まったら、それに関連しそうなアイデアを
延々書き出していく作業になります。ここでは要不要は考えず、ア
イデアの数を出すことが求められます。ブレインストーミングとか
マインドマップとか、そういう感じの作業になります。
以下は﹁マグタイトクロニクル2﹂のアイデアの途中経過ですが、
参考にしてください。
・﹁王族が窮地に陥ったとき、貴族は何に変えてもその命を守る﹂
・﹁くだらん法だ﹂﹁いざとなったら貴族の合議制にでもすれば
いい﹂マクシムムが吐き捨てる。
・﹁だが他国に付け入る隙を与えることになる﹂フレイズマル卿
が異を唱える
・﹁口を慎めフレイズマル。わしが誰だか忘れたのか?﹂
・﹁義父であるあなたに⋮⋮感謝はしている。だが国益は守らね
ば﹂
・合議制↓多数決↓議会の導入
・﹁フェリスを殺すべきかどうかは、俺が決める﹂
﹁ゴーシュ。いつか後悔する時が来るぞ﹂
﹁カダス。なに、その時はその時だ。なるようになるさ﹂
・アレク王子とサンドリア王子の独白
・黒髪のアレク王子。髪の毛はくせっ毛。
自ら謀殺に加担するも﹁もしナターシャが生きていれば⋮⋮﹂
と悔やむ
・銀髪のサンドリア王子。髪の毛は整っている。
﹁王権を継ぐべきは兄上だ。兄上に死なれるわけにはいかない﹂
・二人の想いは重なることなく、二つの赤い華となって散る
・国王フェリス
・ナターシャゆずりの金の髪。
137
・勇者コータ、白い魔法使いという二人の後ろ盾を得る
↓勇者コータ、女商人ドプレクス、魔術院オールエーの三者の
ほうが自然か
・しかし発言権は皆無。貴族の傀儡となっている。
・剣と銃をひととおり学ぶ↓特に銃をよく学ぶ。
・白い魔法使いから、自らの父が鉱夫ゴーシュであることを知ら
される。
・母ナターシャが生きているという情報に踊らされ、一人街に出た
国王フェリス。
・白い魔法使いからの警告﹁賢明な判断とは言えませんな﹂
・﹁それでも、余は行かねばならん。行って確かめなければ、一
生後悔するだろう﹂
・﹁おそらく、お主は別のものを確かめることになるじゃろう﹂
・国王フェリスがマクシムム卿が差し向けた暗殺者ライカに殺され
そうになるが、ライカはフェリスに一目惚れしてしまう。
・﹁透明化﹂の呪文でピンチを凌ぐライカ
・そこに謎の鉱夫たちが現れ国王を窮地から助ける
・裏道を駆け抜ける鉱夫たち
・なぜ長年虐げられた鉱夫が国王を助けるのか? 疑問に思いつつ
も退避を続けるフェリスと鉱夫
・﹁国王を殺そうと考える鉱夫︵カダス︶もいる﹂
・﹁誰も信用できない。だから俺が来た﹂と言う遮光ゴーグルを
掛けた鉱夫︵ゴーシュ︶
・裏切ったカダスはゴーシュの情報を貴族に売る。
・カダス﹁先陣を切ったライカは始末されたと見るべきです﹂
・敵には相当の﹁使い手﹂がいる。
・戦闘銃兵の投入。
・銃撃戦の末に建物の影に逃げ込んだフェリスは、鉱夫が自らの父
ゴーシュであることに気付く。言葉を交わすフェリス
・命を賭けた最後の戦い
138
・カダスも戦闘に参加し、ゴーシュに傷を負わせる。
・ヴォルフガングら傭兵集団が増援に駆けつける↓ヴォルフガング
は既に芸術家の道を歩んでいるので没
・フレイズマル卿らが馬車で現れ、形骸化していた貴族の金箇条﹁
王族が窮地に陥ったとき、貴族は何に変えてもその命を守る﹂を発
動する↓お約束すぎてつまらない
これらのアイデアの大部分は没になりましたが、いくつかは﹁マ
グタイトクロニクル2﹂に採用されています。
ある程度アイデアがたまったら、今度はジャンルやテーマを確定
させます。ジャンルやテーマが不明なままだと、意味不明な作品に
なりがちです。なるべく早めにジャンルやテーマを決め、作品の方
向性をしっかりさせましょう。
・ジャンル⋮⋮ファンタジー
・テーマ⋮⋮父と子の再会
■ストーリー
ストーリーが全く思い浮かばない時にはどうすればいいでしょう
か。
1.テンプレの活用
﹁∼は、∼のため、∼を決意する。立ち塞がるのは、∼。∼は∼と
共に困難を乗り越え、最後は∼として∼する﹂
みたいなライトノベルのテンプレを埋めていくのが簡単です。
139
﹁国王フェリスは、母の情報を得るため、王宮を出ることを決意す
る。立ち塞がるのは、女暗殺者ライカと兵士たち。フェリスは仲間
となったライカと共に困難を乗り越え、最後は父ゴーシュの息子と
して母がどんな人だったかと質問する﹂
比較的すっきり埋まりました。こういう感じにストーリーがしっ
かりしていると書きやすいです。
2.タロットカードを使う
他のストーリーの作り方としては、多少オカルトめいてきますが、
タロットカードを使う方法もあります。タロットカードには多くの
意味が含まれているので、多様な解釈が可能です。自分で何を書き
たいか全く分からない時や、ストーリーの作成の訓練をしたい時、
参考に何枚か引いてみるのもいいでしょう。
四枚引いた例︶
﹃剣のキング﹄の逆位置。意思を押し通す、厳しすぎる、苛烈、情
が不足している、感情に乏しい、無表情
﹃聖杯のキング﹄の正位置。年長の男性、芸術に造詣が深い、多芸
多才、手先が器用、コントロール、落ち着いた物腰、信頼感。
﹃剣の7﹄の正位置。気まぐれ、信用できない、思いつき、利用し
ようとする、自分の利益を優先する、悪知恵、打算。
﹃金貨の3﹄の正位置。伝統、組織、受け継ぐ、培った技、職人、
社会的地位、保存、保管、由緒正しい。
起:自分に厳しすぎる、感情に乏しい男が安アパートに住んでいた。
彼は絵画を独学する。
承:絵画に造詣が深くなるにつれて、彼は周囲の人々の信頼と尊敬
140
を勝ち得てゆく。
転:だがその信頼を利用し、彼の特殊な技法を秘匿して儲けようと
する絵画商が現れる。
結:しかし彼は技法を誰かに売り渡すことはせず、自分の技法を無
償で公開する。
それによって彼の名は廃れても、彼の培った技法は後世に受け
継がれるのだった。
こんな感じで、タロットカードを用いて、それっぽいストーリーを
でっちあげられます。
■キャラクター設定
キャラクター設定が思い浮かばない時にはどうすればいいでしょ
うか。キャラクター設定を決めるためにダイスを振るのをおすすめ
します。
ファンタジーRPG風なキャラクター設定を作ったーver2
http://shindanmaker.com/213831
︵※作者のサイトではないです︶
ナターシャは女で王女。波打つ金髪。ゴーシュの妻です。誘拐当時
16才。保護者タイプです。
貴族たちの謀略で殺害されかけましたが、ゴーシュによって誘拐さ
れます。
ゴーシュの子フェリスを妊娠します。マグタイト戦争終結のために
尽力します。
フェリス出産後、鉱夫の労働条件改善を訴えましたが、流行り病で
帰らぬ人となります。
︻体力9︼︻敏捷17︼︻魅力18︼︻幸運11︼︻精神10︼体
141
力が無いです。
ゴーシュは男でラッダイトのリーダー。黒い髪。今は鉱夫の20代
後半です。
ナターシャと離れて以来、彼は自分のことを僕から俺と言い換え、
ラッダイトの指導者に生まれ変わりました。遠くを見通すタイプで
す。
フェリスの成長と英断を信じていますが、ラッダイトには反対意見
も多くあります。
︻体力16︼︻敏捷14︼︻魅力11︼︻幸運10︼︻精神14︼
全体的に能力があります。
かいらい
フェリスは男で王女ナターシャと鉱夫ゴーシュの子。金髪。今は国
王の10代前半です。
世間知らずですが賢く責任感のあるタイプです。貴族の傀儡です。
銃をよく学んでおり、実戦でその腕を試されることになります。
︻体力13︼︻敏捷11︼︻魅力18︼︻幸運4︼︻精神4︼超絶
美形です。
ライカは女でアーサーの妹。緋色の髪。今は暗殺者の20代前半で
す。
兄アーサーの影響で﹁透明化﹂などの初歩の魔法が使えます。
叶わぬ恋と知りつつも、フェリスに一目惚れします。
︻体力12︼︻敏捷9︼︻魅力6︼︻幸運15︼︻精神10︼幸運
です。
カダスは男でラッダイトのサブリーダー。黒長髪。今は鉱夫の20
代中頃です。
国王フェリス擁護派であるゴーシュを軟弱者と断じ、容赦なく裏切
ります。
142
ナルシストな面を持ち、自らが救国の英雄となることを信じて疑い
ません。
︻体力12︼︻敏捷15︼︻魅力16︼︻幸運3︼︻精神11︼不
幸にも裏切りは失敗します。
みたいな感じでキャラを量産します。気に入らないステータスは
一個くらいなら交換したり、再度ダイスを振り直してもいいでしょ
う。ちなみに3D6というのは、六面ダイス三個という意味です。
職業を変更すれば、ファンタジーだけでなく、現代物にも流用可能
です。
長くなったので今回はここまで。
143
プロットの使い方。
さて小説において死ぬほど重要なのが、タイトルです。タイトル
については以前の項目、書き始める編﹁タイトルを決める。﹂を参
考にしてください。まず友人に相談しましょう。よっぽどセンスの
あるタイトルでないと、誰も読んでくれません。
また、これまでに出したアイデアを組み合わせて、あらすじを作
つちか
成していきます。
映画観賞で培った、物語を短く簡単に表現する﹁あらすじ化能力﹂
を駆使して、数千字程度の長いあらすじを、起承転結へと、一行コ
ンセプトと呼ばれる極力短い文章へと変換しましょう。小説公開に
あたって必要なのが、あおり文句の作成です。
例︶国王フェリスは、母の情報を得るため、王宮を出ることを決意
する。立ち塞がるのは、女暗殺者ライカと兵士たち。フェリスは仲
間となったライカと共に困難を乗り越え︱︱
また、物語を長く詳細に表現する﹁小説化能力﹂を駆使して、プ
ロットを具体的なシーンに区切り、文章に書き起こしていきましょ
う。気に入らないシーンだからといって削除したりせずに、書き起
こした内容はなるべく保存しておきましょう。部分的に、あとで使
い回せるかもしれません。
再度、プロットの雛型の確認です。テキストエディタにコピペして
使ってください。
・タイトル
・あらすじ
・ジャンル
144
・テーマ
・アイデア
・シーン
・台詞
・キャラクター設定⋮⋮見た目、所属、各種能力、動機
・背景設定
・トリック、推理⋮⋮これはミステリの場合に必要です
プロットは、小説を書く際に、たびたび見返すようにして使いま
す。特に何らかのシーンが上手く書けない時などに、プロットはか
なり大きな指針になります。
しかし﹁綺麗な﹂プロットというものに拘ってはいけません。多
くのプロットは、おおむね泥臭く、ぐちゃぐちゃしています。考え
られる限りのアイデアを出し尽くした結果なのですから、それは当
然です。完璧なプロットなどといったものは存在しない。完璧な小
説が存在しないようにね。と、無意味に村上春樹っぽく言ってみま
す。
作品の本文を書いているうちに新しいネタを思いつき、どうして
も採用したくなって、矛盾が出ない範囲でプロットを修正したくな
ることもあります。筆が止まってしまい、プロットに従ってシーン
を淡々と書き進めざるを得ないこともあります。プロットはあくま
で計画です。計画がうまくいかないときは、再計画︵プロットの変
更︶を恐れずに行いましょう。
書くにあたっては、できれば起承転結の中にさらに起承転結を入
れ子にしたり、山あり谷ありの緩急を付けた描写、戦闘シーンと日
常シーンの書き分けなどを心がけたいですね。
一人称や三人称単視点に満足できず、登場人物の視点をコロコロ
145
変えて同じ内容を書く⋮⋮いわゆる﹁side使い﹂になりたいと
いう欲望も出てくるかもしれません。
ですが、あまり技巧をこらして﹁上手く書こう﹂とは思わないほ
うが良いです。読者が見たいのは小手先の技巧ではなく文章の内容
だからです。
﹁自分では上手く書けた﹂﹁これは最高傑作だ﹂という自信を持つ
のは、多くの場合錯覚です。もっと上手く書ける人は大勢います。
数週間おいて、頭を冷やして読み直してみると、まだだいぶ向上の
余地があることが分かってきます。自信満々の技巧が滑っていると
指摘されるかもしれません。
自信を持つのはかまいませんが、そこで思考停止してしまっては
いけません。逆にすっかり自信を無くしてしまい、作品を捨ててし
まうのもよくありません。ひとまず書き上げましょう。
書き続けていれば、筆力は自然と向上していきます。
驚くようなアイデア、魅力的なシーン、かっこいい台詞︱︱プロ
ットを作って使うことは、きっと創作の助けになるはずです。
あなたの次回作のために、または執筆中の作品のために、このエ
ッセイのプロットの作り方編が僅かでも参考になれば幸いです。
146
2013年を終えて。︵前書き︶
1800pt到達記念。作者の近況とスランプ脱出法
147
2013年を終えて。
12月になってふと見ると、半年以上更新していないのにポイン
トが増え続け、1800ptを達成していた。また、感想も何件か
ついている。ありがたいことだ。
エッセイというジャンルの特性で、一度ランキングに載ると読者
が途切れなく来てくれるというのがある。そういうのを割り引いて
も、ユニアクとポイントは作者にとって非常にうれしいものだ。読
者様様である。これは記念に何か書くべきなんじゃないか。書こう。
書くしかない。でも何を書こう? そんな気持ちで今テキストエデ
ィタに向かっている。誰かお題をくれ。割と切実にそう思っている
作者である。
作者の近況
2013年という年が終わろうとしているので、ひとまず作者の
近況を書こう。思えば、仕事に趣味に、いろいろあった年であった。
名は伏すが某アプリの開発にちょっとだけ携わったり、NEET
有志でタロットゲー﹁アーガーデュエル﹂を作って11/04のゲ
ームマーケット2013秋で頒布したり、NEET株式会社に参加
して全員取締役になったり、いろいろと忙しい状態が続いた。ニー
トでひきこもりな作者にしてはよくやったほうだろう。
無論反省点もある。
一つ目は、忙しくて小説が書けなかったことだ。6月のNEET
株式会社の説明会以降、NEET株式会社のメンバーとなるべく精
力的に活動してきたが、これが想像を絶するブラック企業っぷりで、
昼夜を問わずSkype会議が開かれ、全く休む暇がなかった。
二つ目は、忙しくて小説が読めなかったことだ。まず辞書を毎日
148
4ページずつ読んでいくという計画が5月ごろ破綻し、次に設定し
たニンジャスレイヤー4巻までを年内に読破するという計画もまた、
3巻目半ばで読む気力が無くなって失敗した。WEB小説の、テキ
スト読み上げソフトによる音読にいたっては、全くできていないと
いうのが現状である。
つまりインプットが全く無い期間が半年ほど続いた。そのため、
書けるものも書けなくなってしまった。これは非常に痛い。普通の
小説家ならここで絶望して筆を折るところかもしれない。しかし、
作者には執筆ノウハウのバックアップがある。このエッセイ﹁誰で
も分かる!小説の書き方入門﹂は、将来訪れるこのようなスランプ
時期の克服のために書かれたのである︵ドヤ顔︶。
スランプ脱出法
小説が書けない。これは大体の場合において﹁お題﹂が思いつか
ないか、あるいは逆に﹁お題﹂がでかすぎるのが理由である。
作者が拙作の続編を書こうとして書けないのも、おそらく似たよ
うな理由であろう。大きすぎる﹁お題﹂は、作者を駄目にしてしま
うのである。
では、一度陥ったスランプを脱するためには何をすればいいのか。
たった一行でいいので、話を書くことである。これが意外と難し
い。しかし﹁死ぬ﹂というキーワードを使うと、割と簡単に話が作
れる。
まだ名前の無い猫が死ぬ。
私の敬愛する先生が自殺する。
寒い中マッチを売りに出かけた少女が死ぬ。
聖堂のルーベンスの絵の前で貧乏少年と犬が死ぬ。
149
期待されて神学校に行った少年が退学して挫折して死ぬ。
有名作家がヴェネツィアで美少年に恋をしてコレラで死ぬ。
意外と多くの小説が﹁死ぬ﹂で終わっている。これは比較的作り
やすい。
王女の謀殺に関わった王子がそのことを後悔しつつ戦死する。
なんかは話として簡単そうである。以下にサンプルを書く。
サンプル
僕こと、黒髪にぼさぼさ頭のアレク王子は妹のナターシャ王女を
殺した。太陽に尋ねるまでもなく、それは事実である。魔鉱夫たち
の進めるテロ計画、秘匿名﹁ブロークン・アーランド﹂。その邪悪
な計画の詳細は事前に全て把握していた。貴族の館への同時多発襲
撃。確かによく練られたテロだった。だが魔鉱夫といえども人間で
ある。金のため命のためには仲間を売る。一度漏れた計画が成功す
ることはない。
それでも妹のナターシャを安全のためと言いくるめてわざと危険
な館へと移したのは、兄であり王子である僕アレクの鬼畜な所業に
他ならない。
その結果として、ナターシャは死んだ。死体は無かったが、鉱夫
たちがあのペンダントを見てナターシャが王女だと気付かぬはずが
ない。ただ死ぬよりも残酷な仕打ちが待っていただろう。世間知ら
ずのナターシャ。僕のかわいい妹。愛する妹。ナターシャ。
死体が無かったからだろうか。僕の中には一つの恐怖が芽生えた。
ナターシャが生きているのではないかという恐怖が。いつの日か、
空から天使の如く舞い降りて、僕の行いを裁くのではないかという
恐怖が。そんなことは決して起こらないと知りつつも、夢の中に現
150
れるナターシャは生前そのままの姿でそこに佇み、いつもと変わら
ず優しく笑っていた。それが僕の心を責めた。
無知。それはこの神無き大陸アールのアーランド王国において、
全てを破滅へと導く劇薬である。僕は知っている。この国の王族は
実質的な権利を何も持っていないということを。有力貴族たちは独
裁を敷いていて、ザッフランド王国との戦争が始まったときでさえ、
兵力を国のために捧げようとするつもりは無かった。国境において、
愚かしい戦力の逐次投入が行われ、陣地は荒廃した。ザッフランド
とのマグタイト採掘権をめぐる戦争は凄惨を極めていた。
一つ確かなことがあった。この戦争を終結させた者が﹁次の王﹂
になるのだ。老いた王は跡継ぎを探しており、その正統性は生まれ
ではなく武勲によって証明されねばならなかった。弟のサンドリア
では、権謀術数の貴族と渡り合うには不足である。この国のために
は、僕が、他でもないこの僕、アレクが戦争を終わらせねばならな
かった。
﹁二手に分かれて進軍していた補給部隊が奇襲を受け全滅しました。
伝令によれば、我が軍の主力部隊は敵陣地にて孤立。親衛隊による
救援を待っております﹂
だが、伝わってくる知らせは戦争の終結とは程遠いものだった。
デスマーチ
神無き大陸アールにおいては、神への祈りは通じないのだ。この戦
いに、死の行進に、打開策は無い。伝説の英雄などというものは決
して現れない。
﹁了解した。騎兵を始めとする親衛隊は僕を先頭に血路を切り開く。
主力部隊はその間に後方に退避。戦線は後退するが、やむを得まい﹂
﹁そんなことをすれば、アレク王子の身が危険です!﹂
﹁だが、やるしかないのだ。この戦争では、決して負けるわけには
いかない。マグタイトの採掘だけで食ってきたこの国から、マグタ
151
おもむ
イトを取ったら何が残る。王子自らが死地へ赴かずして、一体どこ
に勝利があるというのだ﹂
﹁しかし⋮⋮しかし、この戦争は負けです。戦線を国境から後退さ
せて、一体何の得があるのですか。魔鉱山の鉱夫たちが我が軍と共
闘して、抵抗するとでも言うのですか﹂
魔鉱夫か。僕は唇を噛む。さんざん虐げ、苛め抜き、搾取した挙
句、頼るのは貴族ではなく魔鉱夫なのか。これまで王族はマグタイ
トの産出を担う魔鉱夫に何もしてこなかった。現状維持のために貴
族とやりあうばかりで、一切の待遇の改善を認めなかった。そんな
魔鉱夫たちが、アーランド王国のために戦うことなどあるだろうか
? だが、魔鉱夫たちがもし白旗を上げるようなら、この戦争は、
この王国は終わる。なんとも分の悪い賭けだ。だが、賭けは賭けだ。
ただで負けてやるよりは、よほどいい。
﹁もし親衛隊が、この王子アレクが日没までに帰らなければ、指揮
チャージ
権は全て弟サンドリア王子に渡せ。貴族たちには口を出させるな﹂
僕は戦場を見渡す。きっと、この突撃で、僕は死ぬ。それはきっ
と、妹のナターシャを殺した報いなのだろう。腹違いの妹。僕が愛
した、無知で自由な、しかしそれゆえに殺さざるを得なかった妹。
突撃! 突撃! 突撃! 騎兵は敵陣を一時的に切り開き、主力
部隊の退路を作る。だが、そこまでだ。華々しい突撃の後には、殺
到する敵兵たちに取り囲まれる未来だけが、無慈悲な死だけがやっ
てくる。
嗚呼。もしも妹のナターシャが生きていて、子供を授かっていれ
ば︱︱僕の最期に浮かんだのは、不思議と痛みや恐怖ではなく。た
だ皆に祝福されて生まれてくる、一人の赤子王の姿だった。
152
マグタイトサーガ2
フライハイについて。
気づいたら2014年5月でした。何度もカレンダーを見返しま
したが、どうやらゴールデンウィーク入りしたことは間違いないよ
フライハイ、いかがだったでしょう
うで、この投稿までにかなり時間が開いてしまいました。
さて、マグタイトサーガ2
か。作者としてはもっと面白い出来になると思って書き出したので
すが、いかんせん技量が追いつかず、エタりそうになったところを
無理やり完結させる形の流れとなりました。
事前に構築したプロットはあったんですが、振り返ってみると、
各シーンをうまく描写する能力が足りませんでしたね。もっと小説
フライハイでは、前作マグタイトサー
を書くということについて勉強しなければいけないと、作品を通じ
て痛感した次第です。
本作マグタイトサーガ2
ガの勇者コータとは違い、特にチートの無い兄ソータが主人公にな
ります。テーマは飛行機です。なぜなら、作者が、なんとなく飛行
機の小説を書きたかったからです。飛行機ネタは﹁風立ちぬ﹂﹁永
遠の0︵ゼロ︶﹂﹁とある飛空士への恋歌﹂等でやりつくされた?
ブブー。ハズレ。飛行機ネタは﹁星の王子様﹂などから始まる有
名なジャンルで、後出しでもパクリにはならないという法則があり
ます。
この世界にニンジャはいない。そうだね? アッハイ。
で、作者が最近小説を書かずに何をやってるのかというと、カー
ドゲームを作っています。名前は
153
﹁ダイヤを掘ろう!﹂http://lm4d.com
といいます。2∼4人用で、慣れれば30分くらいで終わります。
最初に裏向きに敷き詰めた5×7=35枚のカードを、マイン○
○フトっぽい感じでサクサク掘っていき、最終的にダイヤの数が多
ブース番号
H36
かった︵同数の場合は数の合計が大きかった︶プレイヤーの勝ちで
す。
6月1日のゲームマーケット2014春
﹁NEET株式会社﹂で頒布します。もし興味があったらゲムマカ
タログ︵入場証︶を買って遊びに来てください。ゲームマーケット
でニートと握手!
他にはNEET株式会社の取締役︵この会社には取締役が大量に
います︶としての会議とか、プログラマとしてのバイトとか、そん
な感じの忙しい日々を送っています。いつのまにかニートではなく
キャラクターメイカー
なっている気がしますが、たぶん気のせいですね。
閑話休題。
創作の話に戻します。
以前戯れに作ったアルベルト数TRPG
が創作に便利かもしれないので、URLを晒しておきます。
http://www.arkhamsoft.jp/cgi−
bin/albertnumber/
個人的にはロストテクニカのソーサラーなんかがかっこいいと思
うのですが、生成はランダムなので、自分が欲しいキャラを自由自
在に作ることは難しいです。良いキャラができたときは、ブックマ
154
ーク用のURLを表示できるので、誰かと設定を共有することもで
きます。うっかりブックマークし忘れた時は、気が済むまで泣きま
しょう。
作者が病気のために、小説を積極的に読むことができなくなって、
だいぶ経ちます。中には、この連載﹁誰でも分かる!小説の書き方
入門﹂を元に小説を書き上げ、出版に至ったという方もいるとのこ
とで、心底すごいと思います。ある意味で、この連載が釈迦に説法
な話になっている点も否めません。
小説を書くことは、難しいです。
キャラクターを作るのも、世界観を考えるのも、プロットを考え
るのも大変です。
かっこいい台詞も、得意絶頂のシーンも、複雑な恋愛関係も出て
きます。
時には、全てを完璧にやりとげられないこともあります。原稿用
紙をまるめて、ゴミ箱に捨てたくなるときもあります。ファイルを
全削除して最初から無かったことにしたいときもあります。
でも、大切なのは書き続けることです。
作者もまた別のテーマを見つけて、別の作品を書くと思います。
そのときは、ああ、青い鴉︵ぶるくろ︶が何か書いているな、と、
暖かい目で見ていただければ幸いです。
155
心理描写を括弧で囲って良いか。
しばらく見ないうちに、感想欄にたくさんの感想が書かれていま
した。ありがとうございます。その中で、今回取り上げるのは、心
理描写を括弧︵︶で囲って良いか、悪いか、という話です。
なんだか壮絶な議論が繰り広げられそうな話題ですが、2つも指
摘の感想がついたからには、作者として書かないわけにはいかない
でしょう。というわけで以下に書きます。
一般に、古典的な小説は、地の文と台詞から成ります。そして、
台詞には﹁﹂を使うのがとても一般的です。ここまでは前提条件と
して問題ないと仮定します。
で、問題は︵︶のほうです。これは地の文でも台詞でもない、第
三の要素です。主人公やキャラクターが思ったこと、口に出さなか
った気持ちを書くために使われることが多いです。プロの作家の方
でも、この表現を使う方はたくさんおられます。
さて、この発祥をどこに求めることができるかというと、作者は
国語の専門家ではないため正確なルーツは分かりませんが、2つの
原点があると思います。それは、お気づきの方もいるかと思います
が、漫画とゲームです。
漫画には、吹き出しと呼ばれる、突起のついた台詞の書かれた箱
がたくさん浮かんでいます。これが小説でいうところの台詞﹁﹂で
す。
それとは別の吹き出しもあります。小さい丸から大きな丸へと大
きくなっていき、心の中で思ったこと、口に出さなかった気持ちを
書く箱となります。これが小説でいうところの括弧︵︶です。
156
またゲームでも、主人公は∼と思った。という表現はほとんど使
われません。それだと冗長すぎるため、ダイレクトに︵︶を使って
心理描写するほうが一般的です。
これを小説に当てはめると、なんだ小説にも︵︶を使って良いの
じゃないかという結論になりそうですが、ちょっとだけ思い出すべ
きことがあります。小説には、人称という問題があるということで
す。
漫画では、吹き出しの位置等で、誰が思ったことなのかはっきり
分かります。ゲームでも、名前や顔などが表示され、誰が思ったこ
となのかはっきり分かります。しかし小説ではそこのところが非常
に特定しづらいという人称の問題が、︵︶の使い方の難しさに直結
します。
︵別に括弧を使ってもいいじゃないか︶
と書くこと自体に問題は無いですし、主人公が一人きりで考えて
いるような時には誰が思ったのかはほとんど自明なのですが。複数
人が混在するような場面でこの書き方をすると、誰が何を思ったの
かが不明になります。つまり漫画で言えば、突起の無い吹き出しの
ようになってしまいます。
ナレーション
漫画で言う、突起の無い吹き出し。一般的には、これは説明書き
です。小説の書き方風に言うならば、これはナレーター型の三人称
神視点になりますので、確かに理屈の上では何でも書けるのですが、
あまりにそれが多すぎると、漫画や小説として成立させることが難
しくなります。
157
︵そうさ。ここには何でも書ける。でも誰が思っているのか分から
ないんじゃあ読み手が困るだろう。主人公をはっきりさせ、前後を
地の文で挟み、語尾を特徴的にするなどして、誰が思考しているの
かを明確にする。そうでなくては︱︱小説として成り立たない︶
などというのは良くない例の一つです。前後に地の文が無いので、
誰の思っていることなのか分からず、何のことだかさっぱりという
状態になっています。これを例えば、
時は早朝。茶色のカーテンの端から漏れる光が、部屋を少し明る
く照らし出している。この作者は︱︱それは小説書きとしての禁忌
なのだが︱︱文章を使いまわして文字数を稼ぐことを覚えた。コピ
ーアンドペースト。再び繰り返される思考。
︵そうさ。ここには何でも書ける。でも誰が思っているのか分から
ないんじゃあ読み手が困るだろう。主人公をはっきりさせ、前後を
地の文で挟み、語尾を特徴的にするなどして、誰が思考しているの
かを明確にする。そうでなくては︱︱小説として成り立たない︶
作者はこうやって文字数を稼ぐ。しかしまだ1500文字台だ。
できれば一話2000字は欲しい。一体どうすれば?
︵もう一度同じ文章をコピペするか? いや、しかし三度はさすが
にやりすぎなんじゃないか? コピペ厨乙とか言われたくないし⋮
⋮︶
158
というような書き方なら、特に問題は無いのではないでしょうか。
その他に、︵︶使いの方には、物語を語り部口調で紡ぐ方もいま
す。物事のなりゆきを全部知っている弁士が、あらゆる物事を語っ
て語って語りつくす。このタイプの小説は、一人称とか三人称とか
にとらわれず、誰が思ったことなのか明確にしてあれば、︵︶を連
打しても問題ありません。
しかし、小説を書く基礎ができてないうちから、︵︶を連打して
使って小説を書くことに慣れてしまうと、一人称では決して知りえ
ない情報をうっかり書いてしまったりするミスが起こるでしょう。
なのでまず、一人称に慣れてから、︵︶に手を出したほうが良いと
思います。
なお、括弧の多用が始まったのは、漫画やゲームよりずっと前だ
よ、という指摘もあるかもしれません。ただ、分かりやすく説明す
るために、ここでは例として漫画やゲームを取り上げさせてもらい
ました。
では、また後日。
159
ダッシュ﹃︱︱﹄の使い方。
ごきげんよう。ネタを思いつかないため、感想欄からネタを拾う
ことにした作者です。
﹃︱︱﹄ダッシュは、主に以下のような場面で使います。
1︶文章の挿入、説明をするダッシュ
僕は︱︱別に僕で無くてもいいと思うのだが︱︱世界でただ一人
の勇者だ。
これは説明を間に挟む使い方で、言葉の意味を補足するなど、い
ろいろ応用が効きます。最近のライトノベルだと当たり前に使われ
てるテクニックですね。
2︶文章を切るダッシュ
﹁その紋章は! 貴様まさか︱︱﹂
﹁そのまさかだ。魔王﹂
そして、言の葉が紡ぎ終わらぬうちに、激しい戦闘が始まった︱
︱。
これは言い切る前に誰かが別の台詞を言ったり、行動を起こした
り。
またはシーンの切り変わりで余韻を持たせたりします。
3︶時間経過が無いことを示すダッシュ
だが戦士の繰り出した全ての攻撃は無効化される。
﹁︱︱物理耐性!?﹂
160
これは﹃⋮⋮﹄でも代替可能ですが、時間経過が無い場合には﹃
︱︱﹄のほうがしっくりきます。
4︶心情吐露のダッシュ
全力で戦ってみてから、分かる事もある。
︱︱僕は、本当はもっと魔王と話したかったのだ。
これは﹃︵︶﹄でも代用可脳ですが、括弧書きには無い、独特の
余韻を残す書き方です。
5︶引用のダッシュ
﹁我は滅びぬ﹂ ︱︱魔王
これもまた有名ですね。誰かの名言などを引用する際に、この書
き方を使います。
今回は短いですが、以上です。参考になれば幸いです。
161
日本文学嫌いと、戦闘描写について。
おはようございます。最近、自分でネタを考えるのが億劫になっ
て、感想欄からネタを拾うことを思いついた作者です。
まず、作者の日本文学嫌いについて。
小説を書く上で、DV︵家庭内暴力︶をテーマにして作品を作る
からといって、体中に傷がある女子供と粗暴な夫を出せばいいとい
う安易な考えに反対です。恋愛をテーマに作品を作るからといって
恋人を記憶喪失にするとか、消息不明で後に再会するというのも安
易な展開だと思います。思いつめた挙句の自殺もよくありません。
タブーをちりばめれば名作になると思っている連中も大嫌いです。
確かにこれらは鉄板ではあるのですが、筆力が追い付いていない
と、オチの読めるギャグに見えてしまいます。日本文学はとにかく
こういうのが多く、名作だと言われて改めて読むと、単なるテンプ
レキャラによるテンプレ話だったりします。さらに映画化されたり
すると日本文学特有の﹁臭み﹂に拍車がかかり、もう見ていられま
せん。
村上春樹の﹃ノルウェイの森﹄は、文学としては楽しめるのです
けな
が、映画化した作品は多くの人に絶賛される傍らで、同時に多くの
人に貶されています。いかにレトリックを駆使して書かれた文学的
︵?︶作品であっても、いざ映画化となれば心情描写は映像美の前
に消え失せてしまいます。根本となる中身の薄さは隠せません。
閑話休題。以下もまた感想欄からの拾い上げです。
162
>リアルで本当に痛そうな暴力シーンと、非現実的な、実際にはあ
り得ないであろう暴力シーンとでは、どちらがストレスが無く読め
るのでしょうか?
作者ごときには何とも言えませんが、どうも後者のほうが最近の
流行りのような気がします。極端な例ですが、ニンジャスレイヤー
がこの手法を使っています。具体的に一巻から抜粋すると、
>再戦である。ニンジャスレイヤーが恐るべき手練れであることは
身に染みてわかっている。この間合いで最も注意を要するのは、ス
リケンをガードさせておいての飛び蹴りだ。それさえやりすごせば
勝機が見える。スリケンを撃ち落し、飛び蹴りをブリッジで避ける
べし!
>﹁イヤーッ!﹂ニンジャスレイヤーが叫んだ⋮⋮来る! ミニッ
トマンは迎撃のスリケンを構えようとした。そこで勝負は終わった。
ミニットマンの目の前、息がかかるほどの近さに、すでにニンジャ
スレイヤーがいた。ミニットマンの胸の中心やや左寄りに、異物感
があった。そんな。そんなばかな。
のような感じです。
ここでの重要なポイントは短いながらも﹁予想:スリケンをガー
ドさせておいての飛び蹴り﹂﹁対策:スリケンを撃ち落とし、飛び
蹴りをブリッジで避ける﹂﹁決着:予想外の心臓への一撃﹂が満た
されている点で、一種の格闘ゲーム的な技の読み合いが読者の想像
力を刺激しています。またニンジャ同士の戦闘なので﹁それは無理
だろ﹂と突っ込めない、異様な説得力があります。
関係ないですが、最近躁気味だったので読書にチャレンジしたと
ころ、ニンジャスレイヤー三巻︵後半の途中まで読んでいた︶を読
破しました。体調がいいと本が読めるときがあるようで、いつか四
163
巻にチャレンジしたいです。
164
この連載は本当に、誰でも分かる!のか。
こんにちは。再び作者です。今回もまたしても感想欄からの拾い
上げです。いいかげんにしろ作者。そろそろ読者に見切りをつけら
れるぞ。
>このエッセイ、誰でも分かるように書かれていませんよ
このエッセイを書くにあたり、どのレベルに焦点を絞るべきかを
考えました。
﹁小説を書くことを楽しむ﹂﹁評価に振り回されるな﹂という基本
的なことに関しては、既に素晴らしいエッセイが短編長編問わずい
くつも書かれていました。従って、同じことを書くのは完全な無駄
であると考えました。
いきなり技巧を解説されても、といいますが、このエッセイは﹁
小説の書き方﹂のメモであって、﹁小説を書く上での心構え﹂を書
いたものではありません。小説家を目指そうとするその筋のど素人
は、もっと有名な先生の書いた立派な﹁小説を書く上での心構え﹂
本を、図書館で借りるか何かして読むべきでしょう。
>また、これを読んでいる層をお考えになったことはあるでしょう
か。
>もしかしたら、まだ年端もいかないような子供が見ている事も、
あって然るべきです。
それは知っています。私も幼いころ、小説を書こうとしてワード
プロセッサーを叩き、印刷した原稿を大人に笑われたことがありま
す。句読点が打たれていない。段落ができていない。起承転結が無
165
い。ぼろくそに言われました。
その度に、なんで学校は国語の授業で、小説の書き方をきちんと
教えてくれないのだろうと首をひねりました。
私に必要なのは﹁小説というのはこれを守ればいい﹂というルー
ルでした。そしてそれは私が大人になっても、ついぞお目にかかる
機会がありませんでした。だからこのエッセイを書いたのです。そ
れは心構えや精神論ではなく、﹁小説の書き方﹂です。倒置法は使
わず、ドラマチックでも無く、単に上から下に読んでいけば分かる
ように書いたつもりです。
>もう少し﹁誰でも分かる﹂の部分を噛み砕いて説明したらどうで
しょうか。
>そうすれば、多少ながら小説を書いてみたいと思う方を増やせる
のでは?
小説を書いてみたいと思うのは大前提です。その灯火は消さずに、
燃え上がらなければなりません。
このエッセイは湿気っていて、火が燃え移らないというなら、そ
れは事実かもしれません。
もしこのエッセイが使えないと分かったら、別のエッセイを読ん
でください。幸い、小説化になろうには、もっと良い﹁小説の書き
方﹂のエッセイがいくつもあります。そちらには小説を書く上での
心構えや、初心者でも楽しく読めるユーモアがあるかと思います。
それでも駄目だというのなら、図書館をあたってください。
ただ私の経験上、読者にぴったりの本は、20冊読んで1冊あれ
ばいいほうだと思います。
ということは、つまり統計上95%以上の読者は、このエッセイ
166
をゴミだと判断するということです。分かりにくいと言って投げ捨
てるということです。それはしかたがないことです。
そういう現実があるので、﹁誰でも分かる﹂というタイトルは、
100%の読者に受ける万能薬という意味で書いたのではありませ
ん。1話、1文でもいいから、何処かの誰かの役に立てるようにと
書いたものです。
人によっては、おそらく5%以下だと思いますが、このエッセイ
を最後まで読んで自分の作品の参考にするかもしれません。私はそ
れでいいと思っています。小説の書き方に答えはありません。単に、
合う合わないがあるだけです。
今回は以上です。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n4623bk/
誰でも分かる!小説の書き方入門
2014年6月25日07時42分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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