講演要旨 - 日本放射線腫瘍学会

第 41 回 放射線による制癌シンポジウム
–基礎と臨床の対話第 50 回 日本放射線腫瘍学会
生物部会学術大会
開催にあたって
第 41 回放射線による制癌シンポジウム・第 50 回日本放射線腫瘍学会生物部会学術大会を平成 24 年 6 月 29
日(金)
、30 日(土)の 2 日間にかけて、沖縄宜野湾市のカルチャーリゾートフェストーネに於いて開催致し
ます。生物部会は一昨年、日本医学放射線学会から日本放射線腫瘍学会に移りました。昨年度の同シンポジ
ウム・生物部会は細井義夫先生のお世話で開催される予定で御座いましたが、3 月の未曾有の震災とそれに伴
う原発事故のため開催が見送られました。この経緯で今回のシンポジウム・生物部会が日本放射線腫瘍学会
に移って第一回目となります。当初、東京近郊での開催を予定しておりましたが、第一回目にちなんで、初
開催となる沖縄を選ばせていただきました。陸路ではアクセス出来ない遠方ではありますが、早く梅雨が明
け、台風のシーズンにはまだ早い沖縄の地での開催に、多くの先生方のご参加をおまちしております。
放射線治療と放射線生物の緊密な関係を模索する-基礎と臨床の対話-が日本放射線腫瘍学会の生物部会で
ますます深められてゆくことを期待し、若手の医師と生物学者の学術交流を目指してこの「領域を支える若
手研究」の主題の基に、患者さんの余命を大きく左右する転移に関連した研究と、放射線治療の基礎である
物理・化学・生物から治療に向けたトピックを議論し、シンポジウムから生物部会一般演題につなげてゆき
たいと考えております。特別講演には、放射線に関連が深くかつ領域外の教養として、また開催地沖縄にち
なんで、琉球大学の古川雅英先生に「放射線で見る沖縄の古環境と海底遺跡」についてのお話をご紹介いた
だきます。
金土曜の開催ですので会議終了後は、世界遺産として登録された「琉球王国のグスク(城)および関連遺産
群」(首里城、中城城跡、座喜味城跡、勝連城跡、今帰仁城跡、園比屋武御獄石門、王陵、識名園、斎場御獄)
や、沖縄の美しい自然(断崖絶壁や美しいビーチ群)をお訪ねになってリフレッシュしていただければ幸い
と存じます。
平成 23 年 6 月吉日
第 50 回 日本放射線腫瘍学会生物部会学術大会 大会長
第 41 回 放射線による制癌シンポジウム 世話人
独立行政法人 放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター
古澤 佳也
1
大会実行委員会
古澤佳也(大会長・世話人)
(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター)
鵜澤玲子(事務局長)
尾崎匡邦
亀山則子
幸田華奈
(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター)
(同上)
(同上)
(同上)
崔
陳
(同上)
(同上)
星
剣
仲田一美
平山亮一(プログラム委員長)
(同上)
(同上)
松本孔貴(実行委員長)
山下 慶
(同上)
(同上)
李 惠子
Walter Tinganelli
(同上)
(放射線医学総合研究所国際オープンラボラトリー)
事務局(五十音順)
2
当日のご案内
参加者の皆様へ
1. 6 月 29 日(金)に制癌シンポジウム、6 月 30 日(土)に生物部会が開催されます。会場は健康文化村 カ
ルチャーリゾート フェストーネ 1 階の研修室です。受付は研修室前(玄関正面)にて、初日は 8:45 よ
り開始いたします。2 日目は 8:30 より開始いたします。
フェストーネ
沖縄県宜野湾市真志喜 3-28-1
TEL:098-898-1212
FAX:098-898-1733
http://festone.jp/
2. 参加費は 7,000 円(講演要旨集代を含む)です。
(1 日参加でも同額です。当日、受付にて現金でお支払
いください。JASTRO 非会員の方の参加費は 10,000 円です。
)
3. 昼食は会場ホテルに用意してあります。
(6/29 ランチバイキング、6/30 ランチョン弁当)
4.
5.
6.
7.
懇親会費は 5,000 円です。
(当日、受付にて現金でお支払いください。
)
抄録集は受付時にお渡しいたします。ネームカードは常時着用ください。
出席証明書が必要な方は、受付時にお申し出ください。
制癌シンポジウム、生物部会の開催に合わせて、生物部会幹事会、生物部会総会、会員懇親会を以下の
要領で予定しています。
生物部会幹事会
:6 月 29 日(金) 12:30-13:30 (会議室B)
生物部会総会
:6 月 29 日(金) 17:30-18:00 (研修室)
懇親会
:6 月 29 日(金) 18:30
(多目的ホール 雲海・琉海)
8. 制癌シンポジウム、生物部会に関するお問い合わせ先;
第 41 回放射線による制癌シンポジウム第 50 回生物部会学術大会 事務局
〒263-8555 千葉市稲毛区穴川 4-9-1
放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター 次世代重粒子治療研究プログラム
事務局長:鵜澤 玲子(うざわ あきこ)
TEL:043-206-3235、FAX:043-206-4149
E-mail:[email protected]
*会議を快適に過ごすため、クールビズもしくスーパークールビズでお越しください。
9. 新規入会登録は下記アドレスからお願い致します。
http://www.jastro.or.jp/solicitation/#first
3
講演発表について
1. 発表時間
制癌シンポジウム
オーバービュー
講演
30 分
40 分
(発表 25 分、質疑応答 5 分)
(発表 35 分、質疑応答 5 分)
生物部会
一般演題 12 分
(発表 9 分、質疑応答 3 分)
生物部会
特別講演 60 分
(発表 45 分、質疑応答 15 分)
2. 発表形式
1)PC のみでの発表となります。スライド・ビデオは使用できませんのでご注意ください。
2)発表は Power point で作成されたデータのみとします。
3)演台にセットされているモニター、キーボード、マウスを使用して、ご自身で操作して発表して下さい。
4
制癌シンポジウムおよび生物部会開催スケジュール(1)
時刻
18:00~19:00
時刻
6 月 28 日(木)
備考
生物部会常任幹事会(沖縄ハーバービューホテルクラウンプラザ2 階千鳥)
部会長、常任幹事
6 月 29 日(金)カルチャーリゾート フェストーネ1 階の研修室
備考
第 41 回 放射線による制癌シンポジウム
9:20~ 9:30
挨拶
古澤佳也(放医研)
9:30~12:30
シンポジウムⅠ 放射線治療に資する転移研究
座長:松本孔貴(放医研)
9:30~10:00
オーバービュー
松本孔貴(放医研)
通常放射線照射および中性子捕捉療法後の局所腫瘍効果と肺転移抑制効果における腫瘍内酸素
増永慎一郎(京大)
10:00~10:40
状況修飾処置併用の意義
10:40~11:20
がん細胞の転移能に及ぼす重粒子線の影響
皆巳和賢(阪大)
11:20~12:00
α線放出核種による放射線免疫療法の可能性
鷲山幸信(金大)
12:00~12:30
総合討論&総括
松浦成昭(阪大)
12:30~14:10
ランチ(1 階レストラン)
バイキング形式
12:30~13:30
生物部会幹事会(会議室B)
幹事
書記:鵜澤玲子(放医研)
14:10~17:30
シンポジウムⅡ 粒子線治療のための物理学、化学、生物学
座長:平山亮一(放医研)
14:10~14:40
オーバービュー
鎌田正(放医研)
14:40~15:20
陽子線がん治療における体内「線量分布」を考える—粒子線治療における医学物理の必要性—
河野良介(がんセンター東)
15:20~15:40
コーヒーブレイク
15:40~16:20
粒子線治療における化学の役割:高エネルギー重粒子線のトラック構造と生成物収率
山下真一(原子力機構)
16:20~17:00
粒子線治療における生物学の役割
高橋昭久(群大)
17:00~17:30
総合討論&総括
中野隆史(群大)
17:30~18:00
生物部会定期総会
近藤隆(富大)
書記:平山亮一(放医研)
18:00~18:30
懇親会会場へ移動
18:30~20:30
懇親会(1 階多目的ホール 雲海・琉海)
司会:鵜澤玲子(放医研)
5
制癌シンポジウムおよび生物部会開催スケジュール(2)
時刻
6 月 30 日(土)カルチャーリゾート フェストーネ1 階の研修室
備考
第 50 回 日本放射線腫瘍学会生物部会学術大会
9:00~ 9:10
挨拶
近藤隆(富大)
9:10~10:10
セッション1 診断・低酸素・組織障害・適応応答
座長:稲波修(北大)
播磨洋子(関医大)
、鍵谷豪(北里大)
、牛島弘毅(群大)
、今枝真澄(群大)
、
5 演題
芝本雄太(名市大)
10:10~10:58
10:58~11:58
セッション2 転移・RI
座長:小野公二(京大)
前澤博(徳大)
、安藤謙(群大)
、松本孔貴(放医研)
、花岡宏史(群大)
4 演題
セッション3 HSP90・薬剤
座長:長谷川正俊(奈良医大)
若佐谷拓也(弘大)
、瀬川達矢(茨城医大)
、榎本敦(東大)
、陳剣(放医研)
、森田明典(広大) 5 演題
11:58~12:10
休憩(お弁当準備)
12:10~13:10
ランチョンセミナー
座長:古澤佳也(放医研)
放射線で見る沖縄の古環境と海底遺跡
古川雅英(流大)
13:10~13:25
休憩
13:25~14:13
セッション4 脳・幹細胞・免疫
座長:三浦雅彦(医科歯科大)
小此木範之(群大)
、門前暁(弘大)
、吉野浩教(弘大)
、吉本由哉(群大)
4 演題
セッション5 細胞周期・モデル
座長:細井義夫(広大)
戒田篤志(医科歯科大)
、古澤之裕(富大)
、関根広(慈恵大病院)
、和田麻美(放医研)
、
5 演題
14:13~15:13
平山亮一(放医研)
15:13~15:32
コーヒーブレイク
15:32~16:20
セッション6 修復・炭素線分割照射
座長:芝本雄太(名市大)
中島菜花子(放医研)
、川田哲也(慶大)
、吉田由香里(群大)
、吉川正信(東海大)
4 演題
挨拶
松本孔貴(放医研)
16:20~16:30
6
会場のご案内
レストラン
会議室 B
多目的ホール
受付
会場
7
交通のご案内
【那覇空港から健康文化村 カルチャーリゾート フェストーネへのアクセス】
那覇空港からは、那覇空港 1 階出口付近の国内線旅客ターミナル前バス停から路線バス、
①99 番 天久新都心線(琉球バス)
(コンベンションセンター前、所要時間:約 70 分、550 円)
②26 番 宜野湾空港線
(コンベンションセンター前、所要時間:約 50 分、550 円)
または、空港 1 階でリムジンバス乗車券購入後、道路を渡ったリムジンバス乗り場から、
③花号 (ラグナガーデンホテル、所要時間:約 35 分、600 円)
那覇空港発(13:00、14:30、16:00)
【那覇市内から健康文化村 カルチャーリゾート フェストーネへのアクセス】
那覇市内からは、ゆいレール(モノレール)旭橋駅下車、首里駅に向かって線路右側に那覇バスターミナル
がありますので、そこからコンベンションセンターに行くバスにお乗り下さい
④琉球バス:26 番 宜野湾空港線、55 番 牧港線、88 番 宜野湾線、
99 番 天久新都心線、112 番 国体道路線
注)55 番、88 番、99 番は乗車時間が長くなります
⑤沖縄バス:28 番 読谷楚辺線=経由地要注意、32 番コンベンションセンター線=推奨路線乗車時間 40 分
程度
いずれも、コンベンションセンター前バス停下車となります。
注)前乗り/前降り・整理券方式バスなので、不安な場合は運転手さんに確認してからご乗車下
さい。バス内の両替は 1000 円札までしか対応していませんので、小銭をご用意下さい。
バスから降りましたら、少し戻り、コンベンションセンター前の信号(押しボタン式)で反対側に渡り、更
に那覇方向へ少し戻ります。
(会場まで徒歩 5 分程度)
(ラグナガーデンはコンベンションセンター前バス停より更に北谷方向に徒歩 5 分ほど進んだところにあり
ます。
)
バス停からは会場ホテルは、手前の高い建物に遮られて見えませんが、ラウンド 1 の大きな建物が見えたら、
その手前になります。
8
9
特別講演
演題:放射線で見る沖縄の古環境と海底遺跡
演者:古川雅英 先生
琉球大学理学部物質地球科学科(地学系)
10
放射線で見る沖縄の古環境と海底遺跡
古川雅英
マージに起因することが明確になった。
次なる問題は、島尻マージの母材供給源である。サン
琉球大学 理学部物質地球科学科(地学系)
ゴ礁起源の石灰岩に含まれる土壌成分(鉱物粒子)は一
般に 1%以下であり、琉球石灰岩の風化・溶食だけでは量
的に島尻マージを生成できない。つまり、厚さ 1mの島尻
マージを生成するのに、最低でも層厚 100mの琉球石灰
1.はじめに
自然放射線計測、放射年代測定、同位体分析などによ
岩を必要とする。これは地質学的にあり得ない。ならば、
って見えてきた沖縄の古環境等に関する研究成果の一端
孤島である宮古島などに分布する大量の島尻マージの母
を紹介する。いずれも仮説・考察中の段階だが、黄砂の
材はどのようにしてもたらされたのか?
影響、過去の気候、海底遺跡の真偽などについて、私論・
そこで考えついたのが、風成塵(いわゆる黄砂)の堆
試論を披露したい。沖縄の環境・歴史にさらに興味を持
積である。琉球列島の地史・古地理の観点[5]から、島尻
っていただく契機となれば幸いである。
マージの主要母材が大気輸送以外の方法でもたらされた
と考えるのは困難である。予備的段階ながら行っていた
2.沖縄の空間 γ 線レベルは黄砂によって高められた
タクラマカン砂漠と黄土高原(いずれも現在の主要な黄
空間 γ 線レベル(線量率)の地理的分布は、巨視的に
砂起源地)における調査結果からも、島尻マージの主要
は地質に規定されている。つまり、線量率の高低分布は、
母材が風成塵であるとして大きな間違いはないと判断さ
それぞれ花崗岩と安山岩・玄武岩の分布域に概ね重なる
れた。
[1]。安山岩・玄武岩に較べて、花崗岩が比較的多くの γ
ところが、である。これを実証すべく調査・試料分析
線源(天然放射性核種:U-238 系列、Th-232 系列、K-40)
を進めたところ、島尻マージの主要母材が風成塵である
を含んでいるためである。しかし、このような単純な対
のは是としても、タクラマカン砂漠や黄土高原の砂・レ
比では説明できない地域も存在する。沖縄県に限ってい
スに含まれる天然放射性核種濃度に較べて島尻マージの
えば、この典型的な例が宮古島である。
それは有意に高いことなど、放射線・放射能の観点から
宮古島は、第四紀更新世の隆起サンゴ礁(琉球石灰岩)
はこれらの砂漠砂・レスを主要母材とするのは困難であ
でほぼ全域が覆われている(ちなみに、
『首里城』の城壁
ることが明らかになった[6]。起源地は何処なのか?
は琉球石灰岩を利用して造られており、周辺には琉球石
現時点の結論から述べると、島尻マージの主要母材は
灰岩の露頭がある)
。線量率を高めると考えられる花崗岩
風成塵であり、その起源地は中国南東部の高自然放射線
は島内にも周辺にも存在していない。また、一般にサン
レベル域であると考えられる。しかも、風成塵がこの地
ゴ礁起源の石灰岩に含まれる天然放射性核種は極めて少
域から琉球列島に大量に飛来したのは、最終氷期(約 7
ない。つまり、琉球石灰岩の分布域では低い線量率にな
万年前 〜1 万年前)であったと推測される。
ると推定できる。にもかかわらず、過去の全国調査[2]に
その理由として、島尻マージに含まれる比較的高い天
よる宮古島の線量率は、全国平均値と較べて有意に高い
然放射性核種濃度に匹敵する土壌・岩石が中国南東部に
ものであった。線量率を高めている要因は何か?
広く分布していること、琉球列島と地理的に近いこと、
これを明らかにするため、宮古島で詳細調査を行った
最終氷期における海退(最大 120mの海面低下)で東シ
ところ、いとも簡単に謎が解けた。琉球石灰岩の上には、
ナ海の大陸棚が陸化していたこと、などが挙げられる。
沖縄では『島尻マージ』と呼ばれている赤土が広く分布
島尻マージの Sr・Nd 同位体組成の分析結果からも、概
しており、そこで線量率が高くなることが判明した[3]。
ね上記が支持された。
また、琉球石灰岩露出域では、予想通り線量率が低いこ
以上から、沖縄の空間 γ 線レベルの高低を決める大き
とも併せて確認した。この後、隆起環礁である北大東島
な要因の一つとして、風成塵の影響は無視できないと考
と南大東島などでも同様の結果を得た[4]。つまり、沖縄
えられる。
の隆起サンゴ礁域の比較的高い空間 γ 線レベルは、島尻
11
年に久米島で 2.9℃、1978 年に名護市で 3.6℃といった記
3.沖縄に雪が降った
録がある(ちなみに那覇市は 6.6℃が最低)。
沖縄の島々は現在、熱帯起源の黒潮の影響下にあるた
め、気候区分では亜熱帯に属するが、熱帯の海で囲まれ
したがって、気象条件が整えば、雪が降ってもおかし
ているといえる。つまり、黒潮によって運ばれる水温・
くない地域が沖縄にも存在する。実際に 1977 年には、久
透明度の高い海水が、沖縄の美しいサンゴ礁を育んでい
米島で霙(みぞれ)が観測されている。霙は、気象庁が
る。一方で、最終氷期には、全地球的な寒冷化で大陸氷
定める観測分類上「雪」なので、沖縄で雪が降った、と
河が拡大し、加えて乾燥化が進んだ。この乾燥化が、前
いえる。これらから、平均気温が数℃低かった最終氷期
述のように沖縄に大量の風成塵をもたらしたと考えられ
には本格的な雪が降ったに違いないと推定されるが、残
る。ではこの時期、沖縄の気温はどの程度であったか?
念ながら、降雪や積雪の痕跡はない。ならば、文献等が
これを解く鍵として注目されるのが、琉球石灰岩の岩
残っている歴史時代以降ではどうか?
体中に形成されている鍾乳洞の石筍である。石筍は、鍾
図 2 は、葛飾北斎『琉球八景』(1832 年頃制作)の一
乳洞内に形成される二次炭酸塩生成物の一種である。鍾
葉『龍洞松濤(りゅうどうしょうとう)』で、現在の那
乳石の形成が洞窟の天井から下に向かうのに対して、石
覇市奥武山付近の雪景色であるが、結論から言うと、こ
筍は洞窟の地面から上に向かって成長する。この石筍に
れは北斎の空想・創作に過ぎない。そもそも『琉球八景』
含まれる酸素や炭素の同位体比を調べることによって、
は、18 世紀中頃の中国書『琉球国志略』の挿絵を下敷き
石筍形成時の気温など、古環境を推定することができる。
にしているのだが、このオリジナルの挿絵には、雪景色
岩石カッターを使って石筍を半割にすると、成長線(縞
は無い。
状構造)を見ることができる(図 1)
。この縞ごとにサン
ただし、北斎が活躍した 1800 年前後の数十年間は、第
プルを採取し、同位体組成分析と炭素 14 放射年代測定を
二小氷期の影響が残っており、しかもダルトン極小期(太
行ったところ、1 万年前(最終氷期の終わり)頃の沖縄本
陽活動が通常よりも不活発な時期)に相当している。こ
島南部(
『玉泉洞』付近)の平均気温が現在よりも数℃低
のため、当時の江戸は今よりも寒冷で、しばしば大雪に
かった、という結果を得た。つまり当時の沖縄は、現在
見舞われたようだ。こんな気候の影響もあって、北斎は
よりも涼しかった(ただし、高緯度ほどの寒冷化は無か
沖縄(琉球)の雪景色を夢想したのかも知れない。
なお、琉球王国の正史『球陽』には、1815 年に久米島・
ったと推定される)
。ところで、平均気温が数度低かった
頃の沖縄では、雪が降っただろうか?
伊平屋島に雪が降ったとある。北斎の創作は、琉球から
もたらされた情報に基づくものであった可能性もある。
図1 石筍の断面
図 2 葛飾北斎『琉球八景』に描かれた雪景色 [7]
一般に、地上気温が 4℃以上になると、雪は溶けて雨に
なる。過去 100 年間の沖縄の最低気温は、平均 10℃程度
4.海底遺跡の真偽
である(1 月が最寒)
。つまり、常識的には雪は降らない
沖縄県では、湊川人をはじめ、2 万年前頃の人類化石が
と考えられるが、過去の最低気温を詳細に見ると、1963
多数発掘されている。2 万年前は最終氷期の最中であり、
12
前述のように 100m 以上の海面低下があった。このため、
が自然である。つまり、いま海底にあるのは、自然によ
沖縄の島々は今よりも面積が大きく、陸続きになった部
る地形である。
分もあった。このような地理的環境下で、当時の琉球列
図 3 は、与那国島の遺跡ポイントに近い陸上(サンニ
島に大陸・台湾・フィリピンなどから人類が渡来したと
ヌ台)の風景である。砂岩を主体とした堆積岩層が浸食・
考えられている。したがって、今は海底となっている島々
風化されてできた地形だが、見る角度によっては、あた
の沿岸や大陸棚に、最終氷期に相当する時代の遺跡が存
かも人間が明確なプランをもって組み上げた(あるいは
在している可能性は高い。ただし、考古学者や自治体が
岩盤を削った)遺構に見える。これと同様に、現場を見
研究・調査の必要有りとする遺構は、沖縄近海では未だ
れば一目瞭然だが、海底遺跡だとして雑誌・TVに登場
発見されていない。ならば、テレビ・雑誌などでしばし
する水中写真・映像の多くは、カメラアングルによるバ
ば話題になっている与那国島や沖縄本島北谷(ちゃたん)
イアスがかかっており、トリックだとしか思えないもの
の沖合にあるとされる海底遺跡とは何なのか?
が多い。
与那国島の海底遺跡とされる海底地形は、以前からダ
イバーに遺跡ポイントと呼ばれていた。また、北谷につ
いても、城壁のようなサンゴ礁地形がダイバーの間で話
題になっていた。人工の石造建造物だといわれれば、確
かにそのようにも見える。マスコミによる喧伝もあって、
いつの間にか本物の「遺跡」だと信じてこれらを訪れる
観光客も多い。いずれも岸から近く、遺跡のような海底
地形が見られるのは水深 10 〜 30 m であり、地殻変動
を考慮しなければ、
数万年前 1 万年前頃までは陸上であ
〜
ったと考えられる。したがって、遺跡と呼べるような人
為の痕跡が残っていてもおかしくはない。しかし、与那
国島の場合は、黒潮にさらされて波浪浸食が激しく、仮
に遺跡があったとしても残っている可能性は極めて低い。
図3 与那国島サンニヌ台(古川撮影)
北谷の場合は、造礁サンゴの成長によって、仮に遺跡が
あったとしてもサンゴ礁の中に埋もれていると考えられ
5.おわりに
る。
以上、夢もロマンもない話しになってしまったが、い
与那国島遺跡ポイントの海底表面から採取したサンゴ
うまでもなく、幻想や空想によってヒトの歴史・環境史
等の試料(海中でしか成育できない生物のみ)について
が歪められてはならない。百聞は一見に如かず。学会も
炭素 14 年代測定を行ったところ、概ね 6000 年前 〜現世
大事でしょうが、ここで紹介した首里城、玉泉洞、宮古
のほぼ連続した幅広い年代値が得られた[8]。これは、少
島、与那国島、等々にも足を運んでいただきたい。
なくとも過去 6000 年間、遺跡ポイントが海中にあったこ
とを示している。北谷沖についても同様に、約 5000 年前
文献:
〜 1000 年前のデータが得られている[9]。ここも過去
[1] 古川雅英(1993)地学雑誌, 102, 868-877.
5000 年間、海中にあったと考えるのが自然である。つま
[2] 阿部史朗(1982)保健物理, 17, 169-193.
り、少なくとも過去 5000 〜 6000 年間は、遺跡を残す
[3] 古川雅英・床次眞司(2001)保健物理, 36, 195-206.
ようなヒトの活動がこれらの場所で(水中で)あったと
[4] 古川雅英ほか(2005)Radioisotopes, 54, 213-224.
は考えにくい。
[5] 例えば、古川雅英(1991)地学雑誌, 100, 552-564.
逆に、これらが遺跡であったとすれば、5000〜6000 年
[6] 古川雅英ほか(2005)エアロゾル研究, 20, 306-312.
よりも前のものとなる。しかし、前述のように、その後
[7] 浦添市美術館(2007)北斎の描いた琉球 琉球八景.
の潮流・波浪浸食やサンゴ礁の成長によって、遺跡があ
[8] 木村政昭ほか(2006)名古屋大学加速器質量分析計
ったとしても失われた(あるいは埋没した)と考えるの
業績報告書, XVII, 102-110.
13
[9] 木村政昭・古川雅英ほか(2007)名古屋大学加速器
質量分析計業績報告書, XVIII, 219-235.
<メモ欄>
14
シンポジウムⅠ
放射線治療に資する転移研究
9:10~12:30
座長
松本孔貴 (放医研)
演者
松本孔貴 (放医研)
増永慎一郎(京大)
皆巳和賢 (阪大)
鷲山幸信 (金大)
松浦成昭 (阪大)
15
放射線治療に資する転移研究〜オーバービュー〜
松本孔貴 1、増永慎一郎 2、皆巳和賢 3、尾方俊至 3、
んの治療が可能となり、また粒子線を用いて優れた
手島昭樹 3、松浦成昭 2、古澤佳也 1
線量分布を有する治療が行われるに至った。その間
に、酸素効果の概念(1953, Gray)[1]やコロニー形
1 放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター
成法の発表(1956, Puck and Marcus)[2]、照射後
2 京大原子炉実験所 放射線生命科学研究部門
の回復(1959, Elkind)[3]、細胞周期による感受性
3 大阪大学大学院 医学系研究科
の差異(1963, 寺島)[4]、急性/晩発障害に対する分
割照射の効果(1982, Thames and Withers)[5]など、
放射線生物学における重要な知見が放射線治療の向
上に貢献してきた。
はじめに:
一方で、転移の分野も Recamier による
現在、日本人の 2 人に 1 人ががんになると推定さ
れ、がん全体の 5 年生存率は 50%を上回っているも
「metastasis」の提唱から約 200 年の歴史を有し[6]、
のの転移や再発など治療後も患者を悩ませる難病で
この間がん研究に関わる種々の分野から多くの知見
あることに変わりはない。がん治療の第一選択は外
が得られた。がん転移の臓器特異性を述べた Seed
科手術であるが、超高齢社会に突入した日本では侵
and Soil Theory(1889, Paget)[7]やがん細胞の浸
襲性の低い放射線治療への期待とニーズが高まって
潤が接着・分解・運動と言う 3 ステップにより遂行
いる。
されると述べた Three Steps Theory
(1983, Liotta)
[8]など、がん生物学的にも重要な仮説が提唱された。
テクノロジーの急速な進歩により画像診断、放射
線治療技術は目覚ましい発展を遂げ、早期診断が可
中でも大きな足跡として、Fidler らによる高転移性
能となり局所制御率が向上した。しかし、遠隔転移
細胞の選択的な樹立(1973 年)[9]とそれを用いた動
などを有する進行がんへの治療成績は未だ不十分で
物転移実験モデルの確立が挙げられるだろう。これ
あり、ある臨床医は「がん患者の死亡の 90%は転移
らの成果を発端として転移メカニズムを解明する研
によるものだ」と述べている。
究が展開され、がん細胞は転移能の点で不均一であ
線量集中性に優れた高精度放射線治療が可能とな
り、転移は極めて少数の転移能を有した細胞により
った今、予後因子である遠隔転移の制御こそが生存
引き起こされ、その成立はがん細胞と正常細胞の複
率の向上のために克服すべき課題であるが、転移に
雑な相互作用の上に成り立つことが明らかとされた。
対する放射線影響に関わる知見は乏しく、放射線治
療の現場において転移抑制を目的とした治療が十分
に行われているとは言い難いのが現状である。
放射線治療と転移研究の歴史:
レントゲンによる X 線の発見から約 120 年、放射
線の生物影響が様々な観点から調べられてきた。放
射線治療の観点では、X 線発見の翌年には除痛を目
的とした治療が行われ、1899 年には皮膚がんに対す
る最初の放射線がん治療が行われた。その後種々の
加速器の開発により高エネルギーX 線による深部が
16
挙動が低 LET 放射線と高 LET 放射線照射後で大き
光子線治療の転移に対する影響:
原発腫瘍への放射線治療が転移を亢進するか否か
く異なることなど、着実に知見が蓄積され始めてい
は、開始当初より癌治療医の関心事としてあった。
る。本シンポジウムでは、大阪大の皆巳先生に放医
1949 年、X 線により転移が亢進した実験結果が
研の炭素線を用いて得られた知見に加え、陽子線よ
Kaplan らにより最初に報告され[10]、その後亢進と
るデータも合わせて、転移に対する放射線影響研究
抑制双方の結果が次々と報告された。Essen は 1991
について多面的にご講演いただく。
年に報告した転移に対する放射線影響をまとめた
Review において、放射線が転移に影響を及ぼす際の
転移抑制を目指した併用療法:
数ある修飾因子の中で特に関与するのは線量である
転移という全身疾患に対しては、従来化学療法に
としており、原発巣を充分に制御できない不十分な
よる処置しか行えなかった。現在も外科手術や放射
線量を照射した場合に遠隔転移が亢進する例が多い
線などの局所療法に加え、再発・転移を考慮した化
とまとめている[11]。従来の照射と異なり線量分布に
学併用療法が行われる場合が多い。
優れた高精度放射線治療が可能となった今、
従来の 1
近年、様々ながんの増殖や進展などに関わる
回 2Gy の分割方式にこだわる意義は薄れているのか
micro-RNA(miRNA)の存在が次々と報告されてお
も知れない。また、低 LET 放射線である光子線の場
り、このような RNA を制御することで、癌の転移な
合、低酸素領域の存在が転移を含めた照射後の予後
ども制御できる可能性が示唆されている[16]。一方で、
に大きく関与するため、この点を考慮した治療法も
これまで放射線診断の分野でメジャーであった放射
検討の余地が残る。本シンポジウムでは、京大原子
性元素(RI)をがん治療に用いる Radio Immuno
炉実験所の増永先生に従来の X 線と腫瘍内酸素分圧
Therapy(RIT)に関わる研究、臨床施行が世界的に
を変化させる処置の併用が遠隔転移へ及ぼす影響と
広がりを見せている。がん細胞特異的に発現する遺
共に中性子捕捉療法が転移に与える影響についてご
伝子をマーカとする抗体に RI を標識して、がんに集
講演いただく。
積させることで RI からの放射線でがん治療を行う
概念である[17]。この概念を用いることで局所を従来
の外部照射により治療し、微小転移や血管内に飛散
粒子線の転移に対する影響:
した癌細胞を RIT で治療するような併用療法の可能
粒子線照射が遠隔転移に与える影響を調べた研究
の数は少ないが、古くは 1982 年に古瀬と春日が報告
性が示唆される。本シンポジウムでは、日本におけ
しており[12]、X 線照射群で観察された転移亢進傾向
るα線 RIT 研究者として著名な鷲山先生に RIT の概
が速中性子線照射群では抑制傾向だったとしている。
要と転移抑制を目的とした場合の可能性についてご
2000 年代に入り放医研での共同利用研究の普及に
講演頂く。
より炭素線を用いた研究成果が増加し、転移に対す
まとめ:
る影響研究成果も徐々に報告されるようになった。
放射線影響研究、転移研究ともに長い年月を経て
特筆すべきは炭素線照射群では転移抑制の報告が圧
倒的に多い事である[13-15]。特に、低 LET 放射線で
様々な知見を積み重ねてきた。にもかかわらず、遠
は転移能の亢進傾向が見られた低線量域においても、
隔転移の制御は克服されない難題として依然存在す
炭素線照射群では明らかな抑制が観察されている。
る。局所制御に優れた治療が行えるようになった今
「高 LET 放射線は転移を抑制する」結果を説明でき
だからこそ、これまで蓄積してきた知見と様々な技
るメカニズム解析は充分ではないものの、マトリッ
術を結集して、転移の制御を目指した治療法の確立
クスメテロプロテアーゼ(MMP)やインテグリンの
に取り組む必要があると考える。本シンポジウムに
17
おいて、古きを学びながら新しきを推敲し、今後の
[9]L.J. Fidler, Nat New Biol, 242 (1973) 148-9.
放射線がん治療において有意義な議論が行えること
[10]H.S. Kaplan et al., J Natl Cancer Inst, 9 (1949)
407-13.
を期待する。
[11]C.F. Essen, Clin Exp Metastaisis, 9 (1991)
77-104.
文献:
[12]T. Furuse and T. Kasuga, Gann, 73 (1982)
[1]L.H.Gray et al., Br J Radiol, 26 (1953) 638-48.
35-41.
[2]T.T. Puck et al., J Exp Med, 103 (1956) 653-66.
[13]Y. Takahashi, et al., Cancer Res, 63(2003)
[3]M.M. Elkind et al., Nature, 184 (1959) 1293-5.
4253-7.
[4]T. Terashima et al., Biophys J, 3 (1963) 11-33.
[14]T. Ogata et al., Cancer Res, 65 (2005) 113-20.
[5]H.D. Thames and H.R. Withers, Int J Radiat
[15]T. Ogata et al., J Radiat Res, 52 (2011) 374-9.
Oncol Biol Phys, 8 (1982) 219-26.
[6]J.C. Recamier, Gen Med Par, 1829.
[16]Ma L et al., Nature Cell Biol, 12 (2010) 247-56.
[7]S. Paget, Lancet, 1 (1889) 571-3.
[17]Song H et al., Cancer Res, 69 (2009) 8941-8.
[8]L.A. Liotta et al., Cancer Res, 46 (1983) 1-7.
<メモ欄>
18
通常放射線照射および中性子捕捉療法後の局所腫瘍効果と
肺転移抑制効果における腫瘍内酸素状況修飾処置併用の意義
増永慎一郎 1、松本孔貴 2、平山亮一 2、櫻井良憲 1、
再分布現象 (Recruitment)が起こること、などが明
田中浩基 1、鵜澤玲子 2、鈴木実 1、近藤夏子 1、丸橋
らかになっている[1]。したがって、局所腫瘍全体の
晃 1、小野公二 1
制御のためには、低酸素領域の大きい治療抵抗性の
Q 腫瘍細胞の制御が重要となる。これまでの解析成
1 京都大学原子炉実験所 放射線生命科学研究部門
果は、Tirapazamine (TPZ)などの選択的低酸素細胞
2 放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター
毒が、腫瘍細胞の p53 status に無関係に(むしろ変異
型に顕著に)殺細胞効果を示し[2]、さらに低温度温熱
処置 (Mild temperature hyperthermia, MTH)との
はじめに:腫瘍を制御(≒治癒)するためには、局所腫
併用が、
やはり腫瘍細胞の p53 status とは無関係に、
瘍の制御と同時に遠隔転移の抑制が必須である。一
腫瘍細胞特に Q 腫瘍細胞の感受性をさらに増強する
方、放射線治療の効果に影響する因子として、1) 病
ことが明らかになり[2]、MTH 併用 TPZ 処置の局所
巣側においては、腫瘍細胞レベルでは、内的放射線
腫瘍制御における有用性が明らかになっている。そ
感受性、増殖能細胞(癌幹細胞)、細胞周期などの細胞
こで、我々は局所腫瘍制御の向上のために施行され
動態、修復能などが、組織レベルでは、酸素分圧(腫
る腫瘍内酸素分圧を変化させる併用処置が遠隔転移
瘍血管分布)、間質反応などの微小環境が、2) 治療装
に及ぼす影響を調べることとした。
置側においては、放射線の線質、照射の分割様式(線
量率、時間線量分布)、空間線量分布などが、3) 臨床
材料・方法:易転移性マウス黒色腫 B16-BL6 細胞を
側のものとしては、前治療の有無( 1)の諸因子へも影
C57BL/6J マウスの下肢に移植( 1.2- 1.5 x 10 5
響する)、併用治療(抗癌剤、増感剤)の有無が考えら
cells/site)する。12 日後から BrdU (5-bromo-2’
れてきた。これまで、我々は細胞周期、特に休止期
-deoxyuridine )溶液を注入させたミニ浸透圧ポンプ
(Q)腫瘍細胞の挙動に着目し、腫瘍内微小環境、特に
を皮下移植し、移植部に形成される固形腫瘍内の P
酸素化状態を変化させる処置を併用し、局所腫瘍制
腫瘍細胞の標識のために、腫瘍細胞移植 18 日後の照
御の向上を目指して解析を進めてきた[1]。
射日まで 6 日間連続的に投与する。腫瘍細胞移植 18
すでに、Q 腫瘍細胞に関しては、1) 低 LET 放射
日後の作成された固形腫瘍への照射は、1) 腫瘍内の
線照射時には、増殖期(P)腫瘍細胞より 2.5~3.0 倍感
急性低酸素領域を解消するとされる Nicotinamide
受性が低いが、高 LET 放射線照射が感受性の差をほ
(NA, 1 g/kg, i.p.)投与、または腫瘍内の慢性低酸素領
とんどなくすこと、2) 低 LET 放射線照射後の Q 腫
域を主として解消するとされる MTH (40 度, 60 分間、
瘍細胞の回復能が P 腫瘍細胞より有意に大きいが、
恒温槽)処置を併用し、高線量率 (High dose rate ,
高 LET 放射線照射が回復能の差をほとんどなくす
HDR, 2.5 Gy/min)でγ線照射[3]、2) 1)と同じ前処置
こと、3) Q 腫瘍細胞の低酸素領域が P 腫瘍細胞より
後に減弱線量率 (Reduced dose rate, RDR, 0.039
有意に大きいこと、4) さらに Q 腫瘍細胞の低酸素領
Gy/min)でγ線照射[4]、3) 腫瘍細胞移植 15 日後に
域が主に慢性低酸素領域から成ること、5) Q 腫瘍細
血管新生阻害剤の Bevacizumab (BV, 10 mg/kg, i.v.)
胞のコロニー形成能が P 腫瘍細胞より小さいこと、
を投与後、さらに 3 日後に 1)と同様の前処置直後に
6) 低 LET 放射線照射後に、腫瘍内では Q->P への
HDR でγ線照射[5]、4) 1)と同じ前処置を、中性子
19
捕捉療法 (Boron neutron capture therapy, BNCT)
4) 初期効果に関しては、BPA-BNCT が(P+Q)腫瘍細
物
胞の感受性を、BSH-BNCT が Q 腫瘍細胞の感受性
( Mercaptoundecahydrododecaborate - 10 B, BSH
を効率よく向上させ、MTH 併用はいずれの BNCT
(125 mg/kg, i.p. )または L-para-boronophenyl-
においても治療抵抗性 Q 腫瘍細胞の感受性を効率よ
alanine-10B, BPA (250 mg/kg, i.p.))の投与に併用後、
く向上させることも判明した。肺転移能に関しては、
原子炉中性子線ビームを照射[6]、のいずれかの手法
BSH-BNCT よりも BPA-BNCT で、特に NA を併用
を用いて行われた。
した場合に、効率よく抑えられる傾向が認められた。
用
の
硼
素
-
1
0
化
合
照射終了直後に腫瘍の切離、細切、トリプシン処
なおこれら 1)~ 4)のいずれの照射条件においても、
理で単腫瘍細胞浮遊液を得、コロニー形成法で細胞
腫瘍への照射時点から肺転移結節数検出時点までの
生存率を、我々がかつて独自に開発した BrdU に対
期間の腫瘍体積の変化は、(P+Q)腫瘍細胞の初期効果
する免疫蛍光染色法と小核分析法を組み合わせた手
と平行していた。
法を用いて照射腫瘍内の Q 腫瘍細胞と(P+Q)腫瘍細
胞の小核出現率を求めた。その後、腫瘍細胞移植 35
まとめ:マウス扁平上皮癌 SCC VII の固形腫瘍を用
日目に実体顕微鏡を用いて肺転移結節数を調べた。
いて、すでに我々は、γ線照射前の NA 処置が腫瘍
なお、腫瘍への照射時点から肺転移結節数検出時点
内の急性低酸素領域を解除し、MTH 処置が腫瘍内の
までの期間(腫瘍細胞移植 18 日~35 日後)の腫瘍体積
主として慢性低酸素領域を解除することを示したが
の変化も計測された。
[7,8]、今回使用の B16-BL6 腫瘍も同様の特性を示し
た[3]。照射線量率を低下させると線量率効果によっ
結果:
て HDR 照射時より初期効果が低下するだけでなく、
1) 初期効果では、NA 併用が(P+Q)腫瘍細胞の感受
これらの併用処置、特に NA の効果もほぼ消失した
性を増強し、MTH 併用が Q 腫瘍細胞の感受性を増
[4]。照射 3 日前の BV 投与が、NA 処置と同様に急
強した。HDR 照射しない場合には NA 併用が、照射
性低酸素領域を解除することが判明し、いわゆる BV
した場合には NA 併用で著しいが、MTH 併用でも肺
処置による血管正常化期間[9]に生ずる一つの現象と
転移数が抑えられた。
考えられた[5]。BNCT 時の NA 処置や MTH 処置の
2) RDR 照射の場合には、初期効果においては、NA
併用は、使用される硼素-10 化合物にかかわらず、治
併用の効果が消失し、MTH 併用の効果が特に Q 腫
療抵抗性の Q 腫瘍細胞をよく増感できる MTH 処置
瘍細胞で前面に出るものの、全体としては HDR 照
に有用性が認められた[6]。
射に比べて初期効果が低下するので、肺転移数抑制
通常放射線照射でも BNCT においても、照射され
効果も低下し、これら併用処置の有無による肺転移
た局所腫瘍からの肺転移能が、腫瘍内の急性低酸素
能の差はほぼ消失した。
領域を解除する NA 処置や BV 併用でやや抑えられ
3) BV 投与 3 日後のγ線照射は、急性低酸素領域の
る傾向が認められた[3-6]。
局所腫瘍の制御に大きく影響する治療抵抗性の Q
大きな(P+Q)腫瘍細胞の感受性を顕著に増強し、
(P+Q)及び Q 腫瘍細胞集団の低酸素細胞分画の大き
腫瘍細胞の制御には、慢性低酸素領域を解除する
さの解析結果より、急性低酸素領域が解消された事
MTH 処置の併用が、局所腫瘍からの遠隔肺転移の抑
が判明した。さらに、照射の有無にかかわらず、BV
制には、急性低酸素領域を解除する NA 処置や BV
併用は、NA 併用と同様に肺転移能を抑える可能性が
併用が有用であると考えられ、今回の解析は急性及
ある事も判明した。
び慢性の双方の低酸素領域の制御の重要性を示すこ
ととなった。
20
[1]S. Masunaga and K. Ono, J Radiat Res, 43
細胞レベルでは、低酸素というストレスは、DNA
修復を留まらせるが、その後の再酸素化は DNA を
(2002) 11-25.
[2]S. Masunaga et al., Cancer Sci, 94 (2003)
過剰複製させる。また、腫瘍内で繰り返される低酸
素と再酸素化の現象は、活性酸素種(reactive oxygen
125-133.
[3]S. Masunaga et al., Clin Exp Metastasis, 26
spieces, ROS)を発生させ、これが DNA 損傷の原因
になるとも言われる。この2つの現象が忠実な DNA
(2009) 693-700.
[4]S. Masunaga et al,. Br J Radiol, 83 (2010)
複製を阻害する原因となり、遺伝的不安定性をもた
776-784.
らし、やがては突然変異から浸潤性獲得、転移能上
[5]S. Masunaga et al., Br J Radiol, 84 (2011)
昇にも繋がると考えられる。ちなみにこれらの現象
には HIF-1 はそれほど関与しないとされている[10]。
1131-1138.
[6]S. Masunaga et al., Br J Radiol, 85 (2012)
今回の解析では、腫瘍内の様々な部位に一時的に生
249-258.
じる急性低酸素領域では、遺伝的不安定性が高く、
[7]S. Masunaga et al., Int J Hyperthermia, 13
よって転移能も高いと考えられ、したがって急性低
酸素領域を解除する NA 処置や BV 併用に転移能を
(1997) 401-411.
[8]S. Masunaga et al., Br J Caner, 76 (1997)
抑制する可能性を認めたという事実は、非常に合理
588-593.
的な結果であったと考えている。
[9]R. K. Jain., Science, 307 (2005) 58-62.
[10]T. J. Klein and P. M. Glazer., Semin Radiat
文献:
Oncol, 20 (2010) 282-287.
<メモ欄>
21
がん細胞の転移能に及ぼす重粒子線の影響
皆巳和賢 1、手島昭樹 1、古澤佳也 2、松浦成昭 1
(ECV304)における転移能、血管新生能が亢進し、
integrin αVβ3 及び MMP-2 の活性の亢進が認められた。
1 大阪大学大学院医学系研究科
一方で、炭素イオン線では、線量依存的に integrin αVβ3、
2 放射線医学総合研究所
MMP-2 の発現減少がみられ、転移能、血管新生能が抑制
された(Fig. 1)
。
はじめに:近年の放射線治療は、コンピュータや物理技
術の進歩により、強度変調放射線治療(IMRT)
、定位放
射線治療など、腫瘍に限局した照射野設定と高線量化が
可能となり、良好な局所制御が得られる様になった。更
に、炭素イオン線や陽子線といった粒子線を用いた放射
線治療により、今まで治療成績が不良であった腫瘍に対
しても、良好な治療成績が得られている。しかし、局所
療法である為、治療後におけるがんの浸潤や遠隔転移に
関しては未だ明確な指標がない。また、亜致死線量の X
線照射により転移を促進する結果[1-3]も報告されており、
照射野辺縁のような低線量放射線が曝露される環境にお
いては、放射線照射自体が転移の一因となっている可能
性も考えられる。以上より、放射線治療後に生じるがん
Fig.1 細胞接着能および integrinαvβ3、MMP-2 の発現
の浸潤・転移のメカニズムを解明し、がんの転移を抑制
することは必須の課題である。
照射したマウス骨肉腫肺転移巣細胞(LM8)の同種移
われわれは、放射線治療に伴うがんの浸潤、転移メカ
植片で肺転移結節数を評価した。亜致死線量の X 線照射
ニズムを解明するため、照射野辺縁での細胞動態やその
により肺転移が亢進し、高線量(10Gy)では抑制された。
機能を司る遺伝子に対する放射線の影響に着目し、X 線、
炭素イオン線照射では線量依存的に肺転移を抑制した
炭素イオン線・陽子線照射後の増殖能、接着能、遊走能、
(Fig. 2)
。
浸潤能、遺伝子・タンパク発現、さらには、がんの進展
と転移に必須な血管新生能の変化について研究してきた。
今回は、その研究成果について報告したい。
材料・方法:<細胞株>
HT1080(ヒト線維肉腫細胞株)
LM8(マウス骨肉腫細胞株)
A549(ヒト肺腺癌細胞株)
A172(ヒト神経膠芽腫細胞株)
AsPC-1(ヒト膵癌細胞株)
Panc-1(ヒト膵癌細胞株)
Fig.2 in vivo 肺転移結節数の評価
ECV304(ヒト内皮細胞様細胞株)
HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)
一方、ヒト肺腺癌細胞(A549)を用いて cDNA
結果:亜致死線量のX線照射によって、血管内皮細胞
22
microarray を行い、X線、炭素イオン線を照射した時の
遺伝子発現の変化を網羅的に解析した。A549 では、浸
まとめ:現在の放射線治療分野においては、internal
潤・転移への関連が報告されている ANLN の遺伝子発現
target volume(ITV)
を縮小し,
臨床的腫瘍体積
(CTV)
が炭素イオン線で抑制され、転移能抑制機序の一つを解
に近接した照射野設定を目指す物理研究が先行し、
治療成績も向上している。ただし、腫瘍型、腫瘍径、
明した。
A549 において炭素イオン線照射により発現低下が見
られた遺伝子 ANLN について、
定量 PCR による mRNA
時間因子を含む転移に関連する生物学的指標への
配慮はあまりなされていない現状がある。
低下、タンパク量の発現低下を X 線、炭素イオン線の比
われわれの研究成果は、重粒子線が優れた細胞致死効
較により明らかにした(Fig. 3)
。細胞内局在分布の違い
果を持つばかりでなく、細胞の運動、遊走、接着能など
を明らかにした[4]。炭素イオン線照射により RhoA 活性
にも影響する可能性を示唆するものである。今後、生物
化型タンパクの減少がみられた(Fig. 4)
。さらに RhoA
学的影響を考慮した放射線治療を検討する際には、これ
特異的阻害剤 C3 を添加して培養した細胞では、遊走能、
らの生物学的指標を明確にすることは、必須であり、今
浸潤能が抑制された。転移能抑制が RhoA シグナルの不
後も引き続き検討を行っていくべきであると考える。
活性化によることが示唆された。
文献:
[1] Takahashi, Matsuura et al., Cancer Res.; 63:
4253-7 (2003)
[2] Ogata, Matsuura et al., Cancer Res.; 65(1): 113-20
(2005)
[3] Akino, Matsuura et al., Int. J. Radiation Oncology
Fig. 3 ANLN の mRNA 発現量
Biol. Phys.; 75(2): 475-81 (2009)
[4] Ogata, Minami, Matsuura et al., J Radiat Res.;
52(3): 374-9 (2011)
Fig. 4 GTP-RhoA のタンパク発現量
<メモ欄>
23
α 線放出核種による放射免疫療法の可能性
にわたる。α 線と β-線による治療効果を比較した例とし
鷲山幸信
て、John Hopkins Univ. の G. Sgouros らのグループは
乳ガン転移マウスモデルを用いて 225Ac と 213Bi, 90Y によ
金沢大学 医薬保健研究域 保健学系
る治療効果の研究を行った。14.8 kBq (400 nCi )の 225Ac
標識抗ラット HER-2/neu モノクローナル抗体(7.16.4)
アイソトープ(RI)の医学利用といえば、99mTc 標識薬
の単回投与では、HER-2/neu 遺伝子を導入したマウスの
125I
うち約 67%が乳ガン性肺転移の完全消失を認め、1 年以
剤等を用いた核医学診断や
の密封小線源等を用いた
放射線治療が挙げられる。近年、β 線(電子)を放出す
上生存した。これは 213Bi 標識 7.16.4 抗体(120 µCi; 平均
る Na131I を利用した甲状腺機能亢進症や甲状腺癌の治療、
生存期間 61 日)での結果よりも有意であった。対して 90Y
131I
標識 7.16.4 抗体 (120 µCi; 平均生存期間 50 日) は非治
-
標識 MIBG を使用した小児の神経芽細胞腫治療、
89SrCl2 を利用した転移性骨腫瘍の疼痛緩和、90Y
標識抗
療群(平均生存期間 41 日)と同様の結果を示した。225Ac
体を用いた B 細胞リンパ腫の治療が国内で進められ、非
213Bi での2.0 Gy
の転移巣における線量は9.6 Gy であり、
密封の RI を利用した核医学治療(アイソトープ治療、内
および 90Y での 2.4 Gy に対して優位に高い値を示した。
用療法)ががん治療の手段の一つとして認知されつつあ
また腫瘍移植後 3 日で RI を投与した場合、肺への転移数
る。
は 90Y, 213Bi, 225Ac それぞれ 36.7±8.1, 8.5±1.8, 2.9±6.1 で
アイソトープ治療では体内で放射線を標的腫瘍に直接
あった。
移植後18 日でのRI 投与の場合は 90Y, 213Bi, 225Ac
照射し、放射線と物質の相互作用に基づく生物学的効果
それぞれ 32.8±13.2, 34.0±13.5, 11.5±3.5 であった。これ
を利用する。生物学的効果は線質により異なるためどの
らの結果から、彼らは 225Ac 標識抗ラット HER-2/neu モ
ような放射線(それを放出させる RI)を利用するのかが
ノクローナル抗体は HER-2/neu 陽性の乳ガンの転移患
重要である。放射線の一つである α 線はヘリウムの原子
者に対して有意に延命効果を示す可能性を示した。
核(He2+)であり、組織中で 30-100µm(細胞数にして 5-10
α 線放出核種をがん治療に用いた薬剤は、
本邦および欧
個)の短い飛程を持つ(β-線は 0.05~12mm である)。線エ
米諸国ともに認可されているものまだ存在しない。しか
ネルギー付与(LET)は当初 60-80 keV/µm であるがブラ
し 2000 年以降、ヒト臨床試験に関した報告が文献や学会
ッグピークでは240 keV/µmに達する(β 線は距離に依存
等で見られるようになった(表 1)
。これまでに α 線放出
せず常に約 0.2 keV/µm である)。このように α 線は短い
核種として 5 核種、転移性がんや白血病・リンパ腫等が
距離の中で直進しながら周囲の原子と相互作用し、高い
対象がんとして報告されている。その中でも Algeta 社お
エネルギーを与えることにより多数の電離や励起を誘導
よび Bayer 社のグループによる
するため、DNA 二重鎖を切断しやすく細胞毒性が高い。
を用いた転移性骨腫瘍の治療はもっとも臨床例が多く、
しかも X 線や γ 線に比して酸素効果を受けにくい。以上
また第Ⅲ相臨床試験では有意な延命効果も示されている。
の特徴から、
α 線の飛程より大きな腫瘍は治療の対象とし
一方、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center のグ
-
213Bi
223RaCl2
(Alpharadin)
を用いた急性骨髄性白血病の第Ⅰ/Ⅱ
て適当ではない。微小転移や白血病などの血液の癌、外
ループによる
科処置後の残存腫瘍または骨転移等が治療の対象と考え
相試験では、31 人に対してシタラビン(200 mg/m2/日×5
られている。
日)の前投与により全身腫瘍組織量を減少させた後に
これらの特徴に着目して、
α 線を放出する核種を用いた
213Bi 標識 Lintuzumab を 18.5, 27.75, 37, 46.25 MBq/kg
基礎研究は 1980 年代から進められてきた。α 線放出核種
投与した。その結果、全ての投与量で骨髄芽球の減少が
、ビスマス-213(213Bi)
、
には、アスタチン-211(211At)
見られ、37 MBq/kg 以下の線量を投与した 25 人中 6 人
、アクチニウム-225(225Ac)
、トリ
ラジウム-223(223Ra)
には臨床効果(2 CR, 2 CRp, 2 PR)が見られた。
ウム-227(227Th)等がある。いずれも半減期やエネルギ
本講演では骨転移の治療に対する 223RaCl2 の臨床第Ⅲ
ー、抗体への標識等を考慮した結果の対象 RI である。
動物を用いた α 線放出核種の臨床前試験の報告は多岐
相試験の結果や今後の動向、非ホジキンリンパ腫に対す
24
る 213Bi や 225Ac 標識Lintuzumab を用いた免疫療法での
表 1. α 線 放 出 核 種 の 臨 床 報 告 例 (2012年 3月 現 在 )
核種
抗体 etc
対象癌
患者数
治験
18
9
第I相
第I相
211
At
抗テネイシン抗体
MX35 F(ab') 2
多型性神経膠芽腫
卵巣癌
212
Pb
トラスツヅマブ
乳癌、卵巣癌、膵臓癌 etc.
213
Bi
Lintuzumab
急性骨髄性白血病
同上
Substance-P
同上
リツキシマブ
9.2.27 IgG
同上
223
Ra
同上
同上
同上
同上
同上
同上
Lintuzumab
急性骨髄性白血病
1
2
第I相
IV
toxicity & efficacy study
3
IV
IV
IV
IV
IV
IL*
IV
IA*
feasibility & safety study
シタラビンの併用
90
Y, 177 Luとの比較試験
feasibility & safety study
dose escalation study
feasibility & safety study
dose escalation study
toxicity & efficacy study
4
5
6
7
8
9
10,11
12
第I相A
第I相B
第I相
第II相
第II相
第II相
第I/II相
第III相
第II相A
-
IV
IV
IV
IV
IV
IV
IV
IV
IV
IV
dose escalation study (ATI-BC-1)
feasibility study (BC1-05)
dosimetry study (BC1-08)
二重盲検試験 (BC1-02)
5,25,50,100 kBq/kg (BC1-03)
PSAとALPの線量依存性 (BC1-04)
docetaxelの併用 (BC1-10)
ALSYMPCA (BC1-06)
(BC1-09)
Expanded Access Program*
13
14
15
16
17
15
18
19
20
21
第I相
IV
dose escalation study
22
前立腺癌骨転移 / 乳癌骨転移
15/10
advanced 前立腺癌骨転移
6
advanced 前立腺癌骨転移
9
ホルモン療法抵抗性前立腺癌骨転移
64
同上
100
同上
122
去勢抵抗性前立腺癌骨転移
(60)
同上
922
ホルモン療法抵抗性乳癌骨転移
23
去勢抵抗性前立腺癌骨転移
-
同上
SCRC*内 feasibility & safety study
IP
pharmacokinetics & toxicity study
第I相
第I/II相
第I相
第I相
第I相
第I相
第I相
第I相
RaCl 2
同上
文献
18
31
2
5
12
16
38
12
胃腸膵内分泌腫瘍肝転移
同上
Ac
同上
再発性非ホジキンリンパ腫
転移性黒色腫
備考
(36)
DOTATOC
同上
225
同上
神経膠芽腫
投与経路
15
*SCRC:surgically created resection cavity (外科的に生じた切除空洞), *IL:intralesional(病巣内)
*IA:intraarterial(動脈内), *Expanded Access Program (治験用新薬利用範囲拡大制度)
結果等を紹介し、α 線を用いることの意義や、α 線放出核
[10] C. Raja et al., Cancer Biol. Ther., 6 (2007) 846-52.
種を用いた放射線免疫療法をとりまく世界的な状況、日
[11]B. J. Allen et al., Immunotherapy, 3 (2011) 1041-50.
本での利用の可能性や問題点などを紹介する。
[12] C. Kratochwil et al., Abstract in 7th Symposium
on Targeted Alpha Therapy; July 17-19, 2011;
Berlin, Germany
文献:
[1] M. R. Zalutsky et al., J. Nucl. Med., 49 (2008) 30-8.
[13] S. Nilsson et al., Clin. Cancer Res., 11 (2005)
[2] H. Andersson et al., J. Nucl. Med., 50 (2009)
4451-9.
[14] ØS Bruland et al., Clin. Cancer Res., 12 (2006)
1153-60.
6250s-6257s.
[3] ClinicalTraials.gov, Identifier NCT01384253
[4] J. G. Jurcic et al., Blood, 100 (2002) 1233-9.
[15] K. Liepe, Curr. Opin. Investig. Drugs, 10 (2009)
[5] T. L. Rosenblat et al., Clin. Cancer Res., 16 (2010)
1346-58.
[16]S. Nilsson et al., Lancet Oncol., 8 (2007) 587-94.
5303-11.
[6] S. Kneifel et al., Clin. Cancer Res., 12 (2006)
[17] S. Nilsson et al., Eur. J. Cancer, 48 (2012)678-86.
[18]ClinicalTraials.gov, Identifier NCT01106352
3843-50.
[7] D. Cordier et al., Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging,
[19] C. Parker et al., Eur. J. Cancer, 47(S2) (2011) 3.
[20] R. Coleman et al. Cancer Res., 71 (2011) 497s.
37 (2010) 1335-44.
[8] D. Schmidt et al., Abstract in Workshop on
[21]ClinicalTraials.gov, Identifier NCT01516762
[22] J. G. Jurcic et al.., Blood, 118 (2011) No. 738 in
alpha-emitting radionuclides in therapy; April
Abstract of 53rd Annual Meeting.
28-29, 2007; Aachen, Germany
[9] B. J. Allen et al., Cancer Biol. Ther., 4 (2005)
1318-24.
<メモ欄>
25
シンポジウムⅡ
粒子線治療のための物理学、化学、生物学
14:10~17:30
座長
平山亮一 (放医研)
演者
鎌田 正 (放医研)
河野良介 (がんセンター東)
山下真一 (原子力機構)
高橋昭久 (群大)
中野隆史 (群大)
26
粒子線治療における基礎科学の役割(オーバービュー)- 臨床医の立場から
鎌田正
から消化管の耐容線量が分かり、すい臓がんや直腸がん
に対する治療を安全に行えるようになった。また、部位
放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター
によっては1回照射線量を増やして照射回数を減らすと、
正常細胞よりもがん細胞に影響が大きく現れることが確
認された。これは通常の放射線に見られない特長であり、
荷電粒子線は、体内に入るとエネルギーに対応した深
これによって、短期照射法の開発が進んだ。例えば、肝
さで停止する(飛程)が、その寸前に線量が急に増える。
がんについて、当初は 5 週間 15 回の照射であったが、現
その結果、他の放射線に比べ、急峻な線量ピーク(Bragg
在は 2 日 2 回の照射が実施されている。肺がんでは、早
peak)を形成する。このピークをがんの患部に合わせる
期であれば、
1 回照射だけで治療を終えることも可能とな
ことにより、周辺の正常組織への障害を抑えて、がん細
っている。
胞だけをより効率よく殺傷することが可能となる。放射
一方、荷電粒子線治療はこれまでにいろいろながんの
線が細胞を殺傷するのは遺伝子の DNA を傷つけるため
治療に全世界で 40 を超える加速器を用いて行われてい
であるが、X 線やガンマ線では DNA に与える傷の程度
る。これまでの治療患者数を年代別に見ると 1996 年まで
が弱く、腫瘍細胞が回復しやすい。重粒子線では DNA
の世界の治療患者の総数は、
約20000人であったが、
2002
を複雑に切断するため、回復しにくいために細胞致死効
年には 40000 人を超えている。すなわち 1996 年からの
果が高く、難治性のがんにも有効とされる。ちなみに、
わずか6年間に過去40年分の患者に治療が施行されたこ
炭素線のピーク部では、X線の約 2~4 倍の細胞致死効果
とになる。最近の年間治療数は国内では 2000 人を超え、
がある。また、酸素濃度が低い細胞でも高い致死効果を
世界では1万人を超えるようになっている。表1には
示す。このような特長を有する重粒子線による治療は、
2011年末における各粒子線治療施設における患者治療数
X線が効きにくい放射線抵抗性のがんや、消化管や脊髄
を示した。
等の重要臓器の近くにある、複雑な形状のがんにも有効
と考えられる。こうした知見を踏まえて、放医研では、
世界で初めて医療を目的とした重イオン治療装置(HI
MAC)を建設し、1994 年以来、安全性と有効性を調べ
る臨床試験を進めてきた。既に 6500 人を超す患者が重粒
子線治療を受けたが、その成果はがんの治療としては画
期的なものである。当該治療が有効ながんの部位として
は、頭頚部、肺、肝臓、前立腺、骨・軟部組織等がある。
この臨床試験の対象となった疾患は、これまでは従来の
放射線治療を含め他の治療では十分な効果が期待できな
いとされたもの等が多く、直接優劣を比較することは困
難であるが、他の治療法では治らないがんが治ること。
同じ治るにしても、より短期間で安全に治ること等が次
第に明らかになってきている。放医研では、臨床試験を
実施する中で、照射線量や照射回数など治療方法の改良
にも取り組んできた。初期の頃の線量増加の過程のなか
で、高線量を照射された消化管にせん孔を生じる(穴が
開く)などの強い副作用が見られたケースも少数経験さ
れたが、照射方法の改良により、こうした副作用は現在
ではほとんど認められなくなった。一方、そうした経験
27
表 1. 世界の粒子線治療施設と患者治療数
行われるようになったこと、1980 年代以降の最新の画像
(PTCOG home page/ http://ptcog.web.psi.ch/より)
診断(CT、MR、PET など)の普及、あるいはその治療
への応用を可能とする高精度照射技術(3 次元治療計画、
呼吸同期照射など)の開発とともに荷電粒子線における
放射線生物学的な基礎研究の進展などがあげられる。こ
れらにより粒子線の線量の集中性と生物効果を十分、生
かした治療が現実のものになり、その結果、Bragg peak
を用いたがん治療の適用範囲は、飛躍的に広がるととも
に優れた治療結果が多くのがんで得られるようになった
と言えよう。
更に荷電粒子線のすぐれた空間的な線量分布特性とそ
のより柔軟な制御を目指した研究開発(pencil beam
scanning, intensity modulation)が継続している。高
LET 粒子線におけるより効果的な生物効果とこのような
技術の組み合わせにより従来の放射線治療におけるいわ
ゆる”4R”を超える自由で大胆な治療も考えられるかも
知れない。一方、その局所療法としての限界も臨床試験
の結果から明らかになりつつある。他治療法との併用、
適応の選択などより効率的な粒子線治療の実施がより重
要となっている。いずれにしてもこれまでの荷電粒子線
(注:イタリア CNAO の治療は P の誤り)
の発展・普及には、物理、生物、化学などの基礎的な研
究の存在が欠かせないものであったし、これからも必要
このような急激な治療数増加の理由として、1990 年代以
不可欠なものでありつづけるものと考えられる。
降、それまで主流であった物理実験用加速器を用いた治
療から回転ガントリーを有するなど通常の X 線治療装置
なみの機能を持った治療専用の加速器が建設され治療が
<メモ欄>
28
陽子線がん治療における体内「線量分布」を考える
—粒子線治療における医学物理の必要性—
線治療における医学物理の必要性」について紹介し
河野良介、堀田健二、秋元哲夫
たい。
国立がん研究センター東病院 粒子線医学開発部
今回は、放射線による制癌シンポジウムというこ
ともあり、臨床成績(放射線生物効果)と密に関係
のある「線量」に焦点を絞ることにする。そもそも
はじめに:陽子線がん治療とは、図 1 に示すような
放射線治療は、物理結果のもとに、臨床結果や生物
ブラッグピークという物理的な特性を生かし、がん
効果が成立しているはずである。それゆえ、物理結
病巣にのみ放射線を集中し、周辺の正常組織への線
果、すなわち、患者さんに投与された体内における
量を抑制する治療である。これは、体表面付近で最
物理線量(分布)を正確に評価することが治療の正
大線量を付与し、指数関数的に減弱しながら体内を
否を決定する最重要要素であると理解する。
通過する X 線に比べ、がんを治癒できるだけの十分
体内の物理線量分布は、治療計画装置によって計
な線量の投与を可能とし、かつ周辺の正常組織の障
算されるが、最近の研究から、患者さんに実際に照
害を抑えることができるという特徴を持つ。現在、
射された「物理線量分布」は治療計画における線量
この陽子線がん治療の有用性が認められ、
日本では 7
計算結果と相違があることがわかって来ている[1,
施設で治療を受けることができるようになり、世界
2]。これは、現在の線量計算法であるペンシルビー
的にも急速に普及が進んでいる。
ム法[3]では、体内不均質の影響について高精度に線
量分布予測ができないからである。本講演では、体
内における線量分布の実際を紹介し、当院における
高精度線量計算法の開発状況も合わせて高精度陽子
線治療実現へ向けた取り組みを紹介する。
線量計算法:
ペンシルビーム法:陽子線治療計画装置に搭載され
ている現在主流の線量計算法はペンシルビーム法で
ある。ペンシルビーム法とは、陽子の粒子群を束ね
た細いペンシルビームが作る線量分布を、水中で測
図 1:各種放射線に対する深部線量分布
定されたブロードビーム照射による深部線量分布と
側方への拡がりを表す二次元ガウス分布の積により
ここで、既に治療技術が確立されているかのよう
計算する方法である。このようにして計算されるペ
な陽子線治療ではあるが、腫瘍のみをピンポイント
ンシルビームを多数発生させ、それぞれのペンシル
で照射するという高い照射技術が当然求められ、果
ビームからの線量付与を足し合わせることによって、
たして線量集中可能な陽子線のポテンシャルを十分
関心領域における線量分布を求めることができる[3]。
生かしきれていると言えるだろうか。より患者さん
に優しく高精度な陽子線治療を提供するためには、
簡易モンテカルロ法:粒子群として扱うペンシルビ
我々医学物理研究者が越えるべき高いハードルが存
ーム法に対して、モンテカルロ法は、陽子 1 個 1 個
在するので、本講演では、タイトルでもある「粒子
29
を追跡し、陽子と物質の相互作用を逐一計算するこ
とで、より正確に陽子の振る舞いを予測できる次世
代線量計算法である。ここで、GEANT のようなフ
ルモンテカルロ法は、治療ビームの再現性や計算時
間がかかるという問題があり、臨床応用が難しいの
が実状である。
一方、我々は臨床応用を目指し、簡易モンテカル
ロ法を開発した[1-2][4]。この簡易モンテカルロ法は、
画像ボクセルを水等価厚で置き換え、水中で測定さ
れた拡大ブラッグカーブを基にしてエネルギー付与
図 2:頭頸部ファントムにおける
を計算し、lateral 方向に多重クーロン散乱効果のみ
PTV 領域(赤)とアイソセンタ位置
を乱数を振って計算を行う簡略化されたモンテカル
結果と考察:図 3 は、頭頸部ファントムにおける側
ロ法である。
なお、我々は、従来の CPU による線量計算ではな
方 線 量 分 布 と 深 部 線 量 分 布 に 対 す る SMC と
く、安価で高並列演算可能な GPU(NVIDIA 社製
RMPBA による線量計算、2 次元検出器による線量
Tesla C2050)による SMC 法の開発にも取り組んで
測定(Meas)の比較を示す。ここで、アイソセンタ
いる[5]。実際の前立腺症例に対し、たったの 50 秒
における線量を 100%とした。
ボーラスや患者コリメータに加え、骨や腔、軟組
という計算時間を達成し、モンテカルロ法の臨床応
織など体内不均質媒質により、線量測定値に比べて、
用に成功している。
RMPBA による線量予測精度の大きな劣化が観察さ
頭頸部ファントムにおける線量比較:従来のペンシ
れ、位置によっては、数十%のオーダーで誤差を生
ルビーム法(RMPBA)と次世代線量計算法である簡
じている。一方、SMC による線量計算値は、実測値
易モンテカルロ法(SMC)による線量計算結果の比
を良く再現し、より正確に体内線量評価が可能であ
較を実施した。大きな体内不均質を有する頭部の人
ることがわかった。
体ファントム(図 2)に対して、模擬的に PTV 領域
各層における SMC と RMPBA、Meas から得られ
(赤線)を設定し、治療計画を行った。ビーム方向
た dose-surface histogram の結果を図 4 に示す。こ
を 0°として、陽子線エネルギーは 235 MeV、SOBP
の図からも、RPMPBA に比べて SMC による計算の
幅 80 mm のビームを使用し、ボーラス(RC)や患
者コリメータ(Collimator)を用いて、陽子線治療をデ
モンストレーションした[2]。ここで、人体ファント
ムは 25 mm 厚の層状のファントムからなっており、
各層のファントムを積んで、各 1〜7 のファントム下
に 2 次元検出器である PTW 2D Array Seven29(検
出器サイズ 5×5×5 mm3、検出器間隔=10 mm)を設
置し、線量測定も実施した。
図 3:頭頸部ファントムにおける
側方線量分布と深部線量分布比較
30
方が実測値を良く再現していることがわかる。この
い。将来、我々は物理現象(線量・LET 分布)を押
ように、本結果は、現在の DVH による臨床解析結
さえた上で、放射線生物学者や放射線腫瘍医と密に
果に強く影響を与えることを示唆する。
連携し、より正確な放射線生物効果・臨床結果を治
療計画に取り込み、高精度な治療につなげて行きた
い。
文献:
[1] R. Kohno et al., Phys. Med. Biol., 48 (2003)
1277–1288
[2] K. Hotta et al., Phys. Med. Biol. 55 (2010)
3545-3556
[3] L. Hong et al., Phys. Med. Biol., 41(1996)
図 4:各層における DSH 比較
1305-1330
[4] R. Kohno et al., Jpn. J. Appl. Phys., 41 (2002)
まとめ:従来法による線量計算結果は、実際の患者
L294–L297
に投与された線量分布とは、乖離がある可能性があ
[5] R. Kohno et al., Phys. Med. Biol., 56 (2011)
る。SMC 法を適用することで、より正確な治療計画
N287-N294
や線量処方、臨床解析を行うことが可能であり、こ
のように医学物理研究者が詰めるべき重要課題は多
<メモ欄>
31
粒子線治療における化学の役割:高エネルギー重粒子線のトラック構造と生成物収率
山下真一 1、勝村庸介 2
者はより中心部に局在している。ラジカルは反応性にも
富むため次のようなトラック内反応が起こる。
1 日本原子力研究開発機構
2 東京大学大学院
量子ビーム応用研究部門
工学系研究科 原子力国際専攻
•
OH + •OH
→ H2O2
OH + e−aq
→ OH
•
e−aq
+ e−aq (+ 2 H2O)
(1)
(2)
−
→ H2 (+ 2 OH )
−
(3)
はじめに:炭素線などの重粒子線(イオンビーム)の特
異な照射効果は、概念的には、放射線から物質へのエネ
ルギー付与密度の高さのためと言える。しかし、具体的
なメカニズムは十分に解明されているとは言い難い。放
射線のエネルギー付与の指標としては、線エネルギー付
図 2 重粒子通過直後のトラック構造
与(LET: linear energy transfer)という単位長さの飛程
(左:C 290 MeV/u (13 keV/µm)、右:Fe 500 MeV/u (185 keV/µm))
を通過する間に物質へ付与するエネルギーをよく用いる。
LET は放射線と物質の組み合わせで決まる量で、γ 線・
並行してラジカルは周辺部へ拡散し、100 ナノ秒経つ頃
電子線の水中での LET はおよそ 0.1-0.3 keV/µm なの
にはほぼ均一な空間分布に至る。この時点での収率をプ
に対し、重粒子線の LET は高く、例えば炭素線では
ライマリ収率と呼び、トラックの構造を反映した値とな
10-900 keV/µm と変化の幅も広い。しかし LET はある
る。
程度マクロな量で、細胞内や DNA 周辺といったミクロ
トラックのミクロな構造やその内部での放射線誘起活
な領域におけるエネルギー付与の情報は平均化されてい
性種のダイナミクスは直接観測できないが、放射線分解
る。線質の違いを適切に把握するためにはこのミクロな
生成物の収率はマクロな量として測定できる。そこで、
局所構造を理解するマイクロドシメトリが必要であり[1]、
放射線誘起活性種(初期生成ラジカル:•OH、e−aq)やト
放射線誘起活性種のミクロな分布とダイナミクスが重要
ラック内反応での生成物(主要な分子生成物:H2O2、H2)
とも言える。
の収率を測定し、シミュレーションも補完的に用いて研
水の放射線分解のフレームについては図 1 のような一
究を進めてきた[3-7]。この際、これまでの研究でほとん
般的解釈が得られている。水は 1 ピコ秒以内に酸化性の
ど調べられていない高エネルギーの重いイオン(核子あ
ヒドロキシルラジカル(•OH)と還元性の水和電子(e−aq)
たり10から数100 MeVのC 等)
を対象としてきている。
(一部は水素原子(H•)として存在)に分解される。各
なお放射線化学収率は G 値(放射線からのエネルギーを
生成物の収率(生成量)は、ここまでの過程ではほとん
100 eV 物質が吸収した際の生成または消費分子数(原子
ど線質に依存しない。
数)
、SI 単位への換算は 1 (100 eV)−1 ≈ 0.1 µmol/J)で表
記する。
材料・方法:初期生成ラジカル(•OH、e−aq)は反応性に
富むため、放っておくと反応し、消費されてしまう。そ
こでラジカルとの反応性が高い捕捉剤と呼ばれる化学種
を添加し、以下の反応により安定で検出し易い化学種に
転換した。
図 1 水の放射線分解の一般的描像
ラジカル + 捕捉剤  検出し易い安定生成物 .
これを捕捉反応と呼び、通常、擬一次反応と見なせる。
しかし、生成物の空間分布(トラック構造)は多様とな
反応の起こる時間スケールは捕捉剤濃度で制御でき、例
る(図 2)
。•OH や e−aq がイオンの飛跡周辺に密集し、前
32
えば 100 ナノ秒でこの反応を起こさせるためには mM
程度の捕捉剤濃度が必要となる。より早い時間での情報
定を行ってきている[6]。また、この蛍光プローブを用い
は、捕捉剤濃度を高くすることで抽出できる。ただし、γ
た手法だと数 Gy の照射でも測定が行えるほど感度が良
線・電子線では見られない反応が重粒子線では起こる可
いため、これ
能性があることは忘れてはいけない[4]。
を利用して核破砕粒子によって生成する•OH についても
検討を進めてきた[7]。これらの結果についても講演では
結果:プライマリ収率の測定結果[5]をシンボルで、対応
紹介する。なお、プライマリ収率は 100 ナノ秒での収率
するモンテカルロ計算結果[2]を線で図 3 に示す。
であり、細胞内での DNA への初期損傷が•OH により形
成される数ナノ秒での収率ではないことに注意が必要で
ある。
また、重粒子線に限らずだが、DNA などの生体分子を
含む高分子近傍の水の状態が液体の水と同じと見なせる
か、といったことも実はあまり検討されていないため、
現在研究を始めたところである。さらに、これまでの知
見を活かし、ポリマーゲル線量計の開発にも取り組んで
おり、これについても簡単に紹介する。
謝辞:本研究は放医研重粒子線がん治療装置の共同利用
の一環として行なっており(P141, 281)
、所内対応者の
図 3 高エネルギー重粒子線照射時のプライマリ収率
村上健博士やオペレータ諸兄に感謝申し上げる。また、
一部は科研費の補助を受けて実施した(21810038)
。
初期生成ラジカルのプライマリ収率は LET 増加に伴い
大幅に減少し、トラックの高密度化が反映されている。
文献:
測定結果はモンテカルロ計算ともよく対応している。ま
[1] T. Sato, et al., Radiat. Res. 171 (2009) 107-117.
た、同程度の LET であってもイオン種が異なれば収率も
[2] J. Meesungnoen and J.-P. Jay-Gerin, Chap. 14, pp.
in
Charged
Particle
and
Photon
異なり、軽いイオンの方が低い収率となっている。これ
355-400
は、LET が一次元的なエネルギー付与密度を表している
Interactions with Matter - Recent Advances,
に過ぎず、三次元的なラジカルの密集度には差異がある
Applications, and Interfaces -, edited by Y. Hatano,
ためである。さらに、ここで「プライマリ収率はあくま
et al. (CRC Press, Boca Raton, 2010).
で 100 ナノ秒の時点での収率」ということに留意された
[3] S. Yamashita et al., Chap. 13, pp. 325-354 in
い。細胞内では OH が数ナノ秒以内に生体分子に捕捉さ
Charged Particle and Photon Interactions with
れてDNA の初期損傷につながると考えられているため、
Matter - Recent Advances, Applications, and
プライマリ収率そのものが細胞中の DNA に損傷を与え
Interfaces -, edited by Y. Hatano, et al. (CRC Press,
る•OH の量とはならない。むしろ 100 ナノ秒までの間に
Boca Raton, 2010).
•
[4] S. Yamashita et al., Radiat. Res., 170 (2008)
どれだけの•OH が減少したか、すなわちトラック内での
•OH
の密集度やトラックの初期構造の方が DNA 損傷
521-533.
[5] S. Yamashita et al., Radiat. Phys. Chem., 77 (2008)
の密集度に関わる。
439-446, 1221-1229.
[6] G. Baldacchino et al., Chem. Phys. Lett. 468 (2009),
まとめ:高エネルギー重粒子線のトラックの構造とその
275-279.
内部での放射線誘起活性種のダイナミクスを、放射線分
[7] T. Maeyama, et al., Radiat. Phys. Chem. 80 (2011)
解生成物の収率を測定することで調べてきた。プライマ
535-539, 1352-1357
リ収率だけでなく、100 ナノ秒より早い時間における
•OH の収率についても蛍光プローブを利用することで測
33
粒子線治療における生物学の役割
いがんにも効くこと、副作用が少ないこと、短期間
高橋昭久
で治せることで患者の負担が少なく済むことが明ら
群馬大学・先端科学研究指導者育成ユニット
かにされてきた。最近では抗がん剤との併用や再発
腫瘍への照射なども試みられている。その実績と成
果は国内外においても注目され、重粒子線治療施設
はじめに:粒子線の生物学的効果は単位長さあたり
が世界にひろがりつつある。
に付与するエネルギーの大きさ(LET)と密接に関連
ここでは重粒子線治療における放射線生物学の役
している。がん治療に用いられる陽子線は X 線や γ
割と展望について論じる。
線と同程度の低 LET で、中性子線と炭素線などは高
損傷と修復:近年、放射線による亜致死障害(SLD)、
LET である。
潜在的致死障害(PLD)の実体が DNA の二重鎖切断
放射線生物学は 1950 年代後半から 1960 年代にか
であること、その感度の高い検出方法が確立された。
けて確立され、細胞培養技術の発展とともに、その
二重鎖切断の修復のみならず、一重鎖切断修復や塩
定量性の優れた実験方法(コロニー形成法)を利用し
基損傷修復にかかわる分子も解明され、それらの分
て、X 線などに対する線量・線量率効果、分割効果、
子を異なる色に発光させることでリアルタイムに挙
回復、酸素効果、細胞周期依存性などを明らかにし
動を追跡することも可能となった。これまで理論的
た。これらは臨床における低 LET 放射線に対する治
に考えられてきた、重粒子線が飛跡に沿って DNA
療抵抗性の現象を説明することに役立ってきた。
二重鎖を切断すること[2]、集中的に複数の損傷(クラ
1970 年代、粒子線に関する生物学的研究がすすめら
スター損傷)を引き起こし、その修復は困難で細胞内
れ、1980 年代までに陽子線は X 線などとほぼ同じ生
に残ることが可視化されるようになった[3]。それで
物学的効果比(RBE)1.1 であること(最近、陽子線の
は全てこれらの傷は治せないのであろうか? 我々
拡大ブラッグピーク遠位で 1.5 を超える可能性[1])が
は DNA 二重鎖切断修復のノックアウトマウス由来
明らかにされた。また、速中性子や重粒子線など高
胚線維芽細胞を用いて、X 線と炭素線の感受性を調
LET 放射線は①高い RBE;X 線に比べて 2~3 倍、
べ、NHEJ 修復が無いと正常細胞に比べて、(X 線の
②低い酸素増感比(OER);X 線に比べて 1/3~1/2、
約 1/2 になるが)炭素線で 5 倍以上感受性になること
③低い細胞周期依存性、④低い回復率であることが
を明らかにした(図 1)。このことは炭素線でも NHEJ
明らかにされ、低 LET 放射線に対する治療抵抗性を
修復でその大半は修復されており、これを標的にす
克服する可能性を与えた。
ることで、がん細胞の致死効果をさらに高めること
速中性子線は高い生物学的効果から難治性がんの
治療に用いられたが、その線量分布は X 線と同じで、
が で き る こ と を 示 唆 し て い る 。
晩期障害が多くなる課題が残った。速中性子線の高
い生物学的効果と、陽子線と同様のシャープな線量
集中性を併せ持った炭素線が注目され、1994 年に世
界で初めて放射線医学総合研究所で治療に用いられ、
2001 年から兵庫県立粒子線医療センター、2010 年
から群馬大学でも治療が始まり、国内だけでもこれ
図 1. DNA 二重鎖切断修復欠損細胞の X 線と炭素線感受性
までに 7,000 例程の実績がある。適応疾患、至適線
量、照射回数などが検討された。X 線にも効きにく
34
殺細胞効果:がん細胞はがん化にともなう遺伝子変
線や抗がん剤で、通常のがん細胞は減少させること
化などによって、生存シグナルの異常による細胞増
ができるが、がん幹細胞は残存し、これが術後再発
殖の亢進や、細胞死シグナルの異常によるアポトー
や転移などの治療抵抗性の原因と深くかかわってい
シス誘導の抑制が起こり、放射線抵抗性になること
ることが提唱されている(図 3)。がん幹細胞を制御す
が知られている。放射線誘発アポトーシスは固形腫
ることができれば、がんの根治が期待されるため、
瘍にも頻度は低いものの、臨床における治療成績と
大変興味深い結果である。
相関するという多くの報告がなされてきた。がん抑
制遺伝子の p53 はアポトーシスの誘導にはたらくが、
悪性腫瘍の約半数に機能異常が報告されており、
我々はその異常が X 線抵抗性の一つの要因となるこ
とを見出してきた[4]。一方、重粒子線はがん細胞の
p53 遺伝子型にかかわらずアポトーシスを高頻度に
誘導することで高感受性になることを明らかにし、
高い治療効果が期待できることを報告してきた[5,
6] (図 2)。
図 3. 重粒子線はがん幹細胞を殺し、根治が期待される
転移におよぼす効果:重粒子線による良好な局所制
御が可能となり、次の段階として、がんの転移を抑
制することは必須の課題である。最近、重粒子線が
局所制御のみならず、がんの転移も抑える結果が報
告されてきた。この話題の詳細については、シンポ
ジウム I で紹介されることと思うので割愛する。
図 2. 重粒子線は X 線抵抗性の p53 異常ながん細胞を殺す
今後の展望:重粒子線は高い生物学的効果があり、
線量を集中さえすれば高い局所制御が可能とも考え
また、アポトーシスを抑制するがん遺伝子 Bcl-2
られるが、
実際に使用されている LET 領域では OER
のはたらきによって従来の放射線治療が困難ながん
は 1.5 程有し、DNA 修復も起こり、最後の砦となっ
であっても、重粒子線治療が有効である可能性が報
ている修復能と細胞周期チェックポイントを制御す
告されている[7]。この研究においては炭素線の致死
ることで、さらなる殺細胞効果を高める可能性が残
効果はアポトーシス誘発だけでは説明できないこと
っている。国内でも高速 3 次元スキャニング照射装
を示唆していたが、最近、アポトーシス以外にも、
置が稼働し、重粒子線治療もより高精度化がすすん
オートファジーや老化が炭素線の致死効果に関与す
でいる。がんの不均一な微小環境が明らかになりつ
ることが明らかにされた[8]。
つあり、低酸素細胞やがん幹細胞などの分子イメー
さらに最近のトピックとして、重粒子線はがん幹
ジングによる可視化によって、がん組織内の RBE が
細胞をより強く殺傷し、X 線に比べて約 3 倍増殖を
診断できるようになれば、高精度化された治療計画
抑制することが明らかにされた[9]。腫瘍の中に、無
の最適化に貢献できるようになるであろう。また、
限に自己複製を行うがん幹細胞が存在し、不均等分
バイスタンダー効果を含めて、周囲の正常組織の重
裂により一部が自己複製のサイクルから逸脱して分
粒子線に対する耐用線量を明らかにするとともに、
化し、通常のがん細胞となるという考えがある。X
再生医学の応用などによって生物学的に正常組織を
35
保護することができるようになれば、さらに線量を
文献:
がん病巣部に集中して、治療期間の短縮にもつなが
[1] 古澤佳也, 放医研ニュース, 164 (2010) 7.
ることであろう。また、より治療効果を高めるため
[2] A. Takahashi et al., J. Radiat. Res., 49 (2008)
645-652.
には、再発、再燃、転移を制御するため、抗がん剤、
分子標的剤、免疫療法との集学治療の実現に向けて、
[3] A. Asaithamby et al., Proc. Natl. Acad. Sci.
U.S.A., 108 (2011) 8293-8298.
ゲノム解析による治療効果予測や有害反応予測など
[4] A. Takahashi, Int. J. Radiat. Biol., 77 (2001)
を含めて、生物学的基礎データが求められている。
我々は X 線分割照射を続けても生存・増殖し続けた
215-224.
[5] A. Takahashi et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol.
がん細胞に対して、重粒子線が有効な結果を見出し
Phys., 60 (2004) 591-597.
ている。重粒子線治療の需要が高まった場合には、
[6] A. Takahashi et al., Int. J. Radiat. Biol., 81
光子線治療の最後の仕上げとして重粒子線追加照射
(2005) 581-586.
も一つの選択肢と考えられるので、この生物学的基
[7] N. Hamada et al., Radiother. Oncol., 89 (2008)
礎研究も将来役に立つかもしれないと考えている。
231-236.
[8] A. Jinno-Oue et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol.
おわりに:物理学、化学、医学から得られた情報を
Phys., 76 (2010) 229-241.
共有し、さらなる粒子線治療の発展に生物学が貢献
[9] C. Cui et al., Cancer Res., 71 (2011) 3676-3687.
できるように、このシンポジウムで討論が深まるこ
とを期待している。
<メモ欄>
36
セッション 1
診断・低酸素・組織障害・適応応答
9:10~10:10
座長
稲波 修 (北大)
演者
播磨洋子 (関医大)
鍵谷 豪 (北里大)
牛島弘毅 (群大)
今枝真澄 (群大)
芝本雄太 (名市大)
37
miRNA を指標とした子宮頸癌 IIIB 期の抗癌剤併用放射線治療予後予測因子検索
播磨洋子、池田耕士、宇都宮啓太、米虫敦、菅野渉平、
田中聖道、志賀淑子、澤田敏
関西医科大学附属滝井病院放射線科
目的:microRNA (miRNA) は 18~25 塩基対からなる機
能性 non-coding RNA で、miRNA が多くの mRNA を制
御していることから、その異常は細胞増殖・アポトーシ
ス・発生と分化・代謝などの多岐にわたり、癌と密接に
関わっている。今回、我々は IIIB 期子宮頸部扁平上皮癌
の抗癌剤併用放射線治療後の予後予測因子としての
miRNA を検討した。
対象・方法:2006 年 2 月~2009 年 8 月までに抗癌剤併
用放射線治療を施行した IIIB 期子宮頸部扁平上皮癌 14
例を対象とし、無再発生存 (no evidence of disease;
結論:とくに、miR-200a は E-cadherin に関与し、子宮
NED) 群 8 例と原病死 (cancer-caused death; CD) 群 6
頸癌の転移を抑制すると報告されている[1]。我々の検討
例の 2 群に分けて検討した。平均年齢は NED 群が 56.3
でも miR-200a が NED 群に有意に高く発現したことか
歳、CD 群は 57.8 歳、腫瘍径は NED 群が 5.7cm、CD
ら、遠隔転移を抑制している可能性が考えられ、進行期
群は 5.8 cm で 2 群間に有意差はなかった。観察期間は
子宮頸癌の抗癌剤併用放射線治療後の予後予測因子とし
NED 群が 52.3 ヶ月、CD 群は 14.9 ヶ月であった。CD
て有用であると考えられた。miR-452 は腎癌に関与する
群は局所再発 1 例を除き、5 例は局所再発と遠隔転移を
との報告がある[2]。今後、miRNA を指標とした予後因
認めた。治療前の生検癌組織における miRNA の発現レ
子の検討が重要である。
ベルを TaqMan real-time PCR array を用いて比較した。
939 個の miRNAs のうち、クラスター解析で 255 個の
文献:
miRNAs を抽出し、Mann-Whitney U test で 2 群間の
[1] Xiaoxia Hu et al., A microRNA expression
有意差を検定した。
signature for cervical cancer prognosis. Cancer Res
70:1441-1448. 2010
結果:NED 群における発現が CD 群よりも有意に高かっ
[2] Jung M et al., MicroRNA profiling of clear cell renal
たのは miR-200a (p=0.013)、miR-200b* (p=0.018)、
cell cancer identifies a robust signature to define
miR-452 (p=0.024)であった。反対に CD 群が NED 群よ
renal malignancy. J Cell Mol Med; 13(9B):3918-28,
り も 有 意 に 高 か っ た の は miR-484 (p=0.038) 、
2009
hcmv-miR-UL70-3p (p=0.043) であった。
<メモ欄>
38
ニトロキシド化合物を用いた低酸素細胞に対する殺細胞効果の増強
-低細胞毒性ニトロキシド化合物の探索と殺細胞効果増強の評価鍵谷豪 1、小川良平 2、畑下昌範 3、田中良和 3、幸田
華奈 4、尾崎匡邦 4、山下慶 4、福田茂一 4、松本英樹
5
1 北里大学・医療衛生学部
2 富山大学大学院・放射線基礎医学講座
3 若狭湾エネルギー研究センター・生物資源グループ
4 放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター
で強力に増加させ,かつ細胞毒性の低いニトロキシド
5 福井大学・高エネルギー医学研究センター
化合物の探索を目的とし,オクタノール/水分配係数
の異なる 6 種類のニトロキシド化合物 Tempol,
はじめに:ニトロキシド化合物とは,ニトロキシラ
Carbamoyl-PLOXYL,Carboxy-PLOXYL,CAT-1,
ジカルを有する有機化合物である。官能基の違いに
Tempamine,MC-PLOXYL を用い、HIF-1α 発現誘
よりオクタノール/水分配係数が異なるため,細胞膜
導率の評価,およびコロニー形成法を用いた殺細胞
透過性が変化し体内での挙動は大きく異なる[1]。一
効果の増強の評価をおこなった。
般に,分配係数が大きいほど脂溶性が高く,細胞膜
材料・方法:細胞株にはヒト乳癌細胞 MCF7 を用い
透過性は高い。これまでに,我々はニトロキシド化
た。HIF-1α 発現誘導率は、4 つの HRE 下流にルシ
合物の 1 つ,Tempol に低酸素誘導因子 HIF-1α の発
フェラーゼ(Luc)遺伝子と酸素依存的分解ドメイン
現を低酸素環境下で強力に増加させる作用があるこ
配列を結合したプラスミドを MCF7 細胞へ遺伝子導
とを見いだした。つまり,HIF-1α 結合配列である低
入 後 , 各 ニ ト ロ キ シ ド 化 合 物 , Tempol ,
酸素応答因子(HRE)に自殺遺伝子を結合した遺伝
Carbamoyl-PLOXYL,Carboxy-PLOXYL,CAT-1,
子治療用ベクターは,その遺伝子発現を Tempol 添
Tempamine,MC-PLOXYL で,24 時間処理しデュ
加により低酸素細胞領域特異的に増強できると予測
アルルシフェラーゼ法により評価した。殺細胞効果
され,放射線抵抗性である低酸素癌細胞治療への新
の増強は,Luc 遺伝子を FcyFur 融合遺伝子に組換
たな戦略になると考えられる。これまでに HRE で自
え,MCF7 細胞に導入した安定発現株を用い,コロ
殺遺伝子,FcyFur 融合遺伝子(FcyFur 融合タンパ
ニー形成法により評価した。
クは,プロドラッグ 5-FC を抗がん剤である 5-FU へ
結果:我々は,Tempol による細胞毒性は細胞膜透過
代謝する)の発現を制御する遺伝子治療用ベクター
性に起因すると推測し,オクタノール/水分配係数の
を構築し,コロニーアッセイを用い Tempol による
異なる 6 種類のニトロキシド化合物を用い,細胞毒
殺細胞効果増強の評価を in vitro でおこなった。そ
性が低く,かつ高い HIF-1α 発現増強作用を有する
の結果,低酸素環境を擬似的に引き起こすことが知
ニトロキシド化合物の探索を行った。HIF-1α 発現誘
られている塩化コバルトを 5-FC、Tempol と共に添
導測定の結果,Carbamoyl-PROXYL と塩化コバル
加した場合,FcyFur 遺伝子発現誘導を介した殺細胞
ト添加試料の発現誘導率は,Tempol に次ぐ高い値を
効果は約 50 倍に増強されたが,Tempol 自身の細胞
示した。また大気酸素分圧下 Carbamoyl-PROXYL
毒性が高いことが判明した(図 1)。今回,我々は,治
添加による発現誘導率は Tempol による発現誘導率
療への応用を考慮し,HIF-1α の発現を低酸素環境下
39
と比較し約 1/10 以下と低い値を示した。コロニー形
であることが示唆された。これは,この化合物のオ
成法により Carbomoyl-PLOXYL の低酸素環境下で
クタノール/水分配係数は 0.63 と Tempol のオクタノ
の殺細胞効果の増強を評価した結果,増強効果が認
ール/水分配係数 4.2 と比較し小さく,細胞膜透過性
められた。また,Carbomoyl-PLOXYL 自身による細
が低いことが起因していると考えられる。
胞毒性は Tempol と比較し低いことが判明した。
文献:
[1] F. Hyodo et al., Cancer Res., 66(20) (2006)
考察・結論:Carbomoyl-PLOXYL は Tempol と比較
9921-26.
し、細胞毒性が低く、また、低酸素環境下のみで高
い HIF-1α 発現誘導率を有するニトロキシド化合物
<メモ欄>
40
通常酸素・低酸素条件下における mTOR 阻害剤(Temsirolimus)の放射線増感効果
細胞生存率は colony assay 法により解析した。また、細
牛島弘毅、鈴木義行、尾池貴洋、斎藤淳一、中野隆史
胞の生存が 10%の値となる線量(D10)から酸素増感比
群馬大学大学院医学系研究科 腫瘍放射線学
(OER)を求めた。
結果:通常酸素条件下、
低酸素条件下ともに、Temsirolims
はじめに:低酸素条件下の細胞は放射線抵抗性を示すこ
併用群において mTOR の発現は同様に抑制された。また、
とが知られており、臨床においても腫瘍内の低酸素細胞
Temsirolims 併用により、低酸素条件下で誘導される
分画の多少と局所制御率が相関することが報告されてい
HIF-1a の発現が減少していることが確認された。
る[1]。
X 線単独での、通常酸素条件、低酸素条件下の D10 は、
mammalian target of rapamycin(mTOR)は Akt-PI3
それぞれ 5.1Gy、14.2Gy で、OER は 2.8 であった。
kinase 経路の下流の蛋白であり、細胞の増殖・生存と深
Temsirolimus を併用した場合では、通常酸素条件・低酸
く関わっていることが知られ、すでに mTOR 阻害剤は本
素条件下の D10 は、それぞれ 4.8Gy、5.4Gy で、OER は
邦でも腎癌などに対する分子標的薬として臨床応用され
1.1 であった。
ている。近年、mTOR が低酸素条件下の細胞生存に関連
通常酸素条件下で Temsirolimus を併用した場合の殺
する蛋白として注目されており、mTOR は低酸素条件下
細胞効果は相加効果と考えられたが、低酸素条件下では
でのHIF-1発現の修飾に関係しているとの報告がある[2]。
Temsirolimus 併用により、細胞生存率は特に高線量域に
また、mTOR 阻害剤が放射線の効果を増感するという報
おいて著明に低下し、特に低酸素条件下で、放射線増感
告もある[3]。
作用を持つと考えられた。
今回我々は、低酸素条件下の放射線治療抵抗性に
mTOR が関連している可能性を考え、通常酸素状態・低
結語:mTOR 阻害薬(Temsirolimus)の併用により、低
酸素状態における mTOR 阻害剤(Temsirolimus)によ
酸素条件下で放射線増感効果が認められ、mTOR が低酸
る放射線感受性の修飾について比較・検討した。
素細胞の放射線治療抵抗性に関連する因子である可能性
が示唆された。その作用メカニズムには mTOR 阻害薬に
材料・方法:実験にはヒト肺腺癌由来細胞株 A549 を使
よる HIF-1a 発現低下が関連している可能性が考えられ
用した。mTOR 阻害剤は Temsirolims(Pfizer)を最終
た。
濃度 1nM に希釈し、X 線照射前 48 時間、A549 に暴露
させた。低酸素条件として、低酸素照射機(京都科学)
文献:
を使用し、酸素分圧<0.1mmHg の条件で 24 時間培養の
[1] Y. Suzuki et. aI., Int J Gynecol Cancer. 2006.
後に照射し、そのまま 1 時間<0.1mmHg で培養した後に
[2] BG. Wouters et al., Nat Rev Cancer. 2008
以下の検討を行った。
[3] JD. Murphy et al., Clin Cancer Res. 2009.
細胞のタンパク質発現に関してはウェスタンブロット、
<メモ欄>
41
ラット放射線誘発肝障害モデルの作成と肝障害メカニズムの組織学的検討
今枝真澄 1、石川 仁 2、吉田由香里 3、新 雅子 1、中野隆
②血清の変化として、15 Gy・30 Gy 照射後のラットでは
史 1,3
いずれも照射 1 日後からアルブミンの有意な低下を認め
た.15 Gy 照射ラットは 4 週後に未照射と同様のレベル
1 群馬大学大学院
大学院医学系研究科 腫瘍放射線学
まで回復したが、30 Gy 照射したラットは 40 週後も回復
2 筑波大学大学院
人間総合科学研究科 放射線腫瘍学
しなかった.また ALT, AST は 30 Gy 照射群では照射後
4 週目から有意な上昇を認めたが、15 Gy 照射群では 40
3 群馬大学重粒子線医学研究センター
週目で有意な上昇を認めた.
TGF-β, α-SMA の発現は 15 Gy 照射群で1週後から、
はじめに:肝内病変に対する治療として低侵襲である高
30 Gy 照射群では 1 日後から有意な増強を認め、40 週後
度放射線治療の重要性が高まっている.一方、広範囲に
でも未照射群と比較し有意に高値であった.
中等量以上照射した場合には、肝機能障害を引き起こす
可能性がある.これまでの研究から、肝の組織障害によ
り過剰産生された TGF-βは肝線維化の発生に大きな役
割を果たしていると考えられているが、照射肝での詳細
な報告は少ない[1].そこで、肝への放射線照射にあける
肝障害および肝線維化発生メカニズムを解明するために、
ラット肝障害モデルを作成し、線量別生存割合、血清の
変化および線量別の経時的組織学的変化について検討し
た.
MIB-1, Apoptosis は照射 1 日目から上昇し、30 Gy 照射
材料・方法:全肝への選択的照射法として術中照射法を
群は 40 週後も未照射ラットと比較し有意な高値を示し
採用した.ウイスターラット雄生後 6 週を用い、全身麻
た.一方 15 Gy 照射群では 40 週後は未照射ラットと同
酔下に開腹、肝を露出して直視下に照射した.消化管、
様のレベルまで低下した.
肺はタングステン遮蔽板 6 mm にて遮蔽した.未照射群、
15 Gy 照射群、30 Gy 照射群での生存および経時的な血
清の変化、肝の組織学的検討を行った.肝の組織学的検
討として TGF-β, α-SMA, MIB-1, Apoptosis の発現の
経時的変化について検討した.
結果:①未照射群、15 Gy 群は全例生存したのに対し、
30 Gy 群では照射 7 週後より徐々に死亡例が見られ、照
射後 40 週時点での生存率は 20%であった.
文献:
[1] J. Seong et al., Early alteration in TGF-beta
mRNA expression in irradiated rat liver. Int J
Radiat Oncol Biol Phys, 46 (2000) 639-643.
42
低線量放射線による適応応答とマウスの腫瘍可移植性の変化
10mGy 照射後軽度の上昇がみられたが、他の線量では有
芝本雄太 1、伊藤雅人 1、宮本顕彦 2
意差は認められなかった。
1 名古屋市立大学医学研究科
2 北斗病院
放射線医学分野
腫瘍細胞の可移植性(腫瘍の生着率)については、あ
らかじめ 1500mGy の全身照射を行ったマウスでは、有
放射線治療科
意に上昇した。200mGy の全身照射を行ってから 6 時間
後に 100 または 1000 個の EMT6 細胞を移植したマウス
はじめに:福島原発の事故以来、低線量放射線の影響に
においては、腫瘍が出現するまでの日数が有意に延長し
対する国民の関心(異常かつ妥当でない不安)が高まっ
た。しかし、腫瘍の生着率に有意差は認められなかった。
ている。我々は培養細胞とマウスを用いて低線量放射線
また SCCVII 細胞の可移植性については、1500mGy 未
照射による適応応答と腫瘍細胞の拒絶能に関する研究を
満の線量において有意差は認められなかった。
行ってきた。一部はすでに論文化しているが[1-3]、ここ
ではこれまでに得られた結果をまとめて報告する。
結論:低線量放射線に対する適応応答は実験条件や細
胞・マウスの種類等によって、認められたり認められな
材料・方法:培養細胞における適応応答の検討は、
HeLaS3,
かったりするものと思われる。米澤ら[4]によって報告さ
SCCVII, EMT6, V79 の4種類の細胞を用いて行った。
れている C57BL マウスにおける適応応答は確認しえた。
50-400mGy 照射後種々の時間をおいて2回目の照射を
低線量放射線の全身照射によって、マウスの腫瘍細胞拒
行い、コロニー法にて細胞生存率を検討した。マウスに
絶能が亢進する可能性はあると考えられた。
おける適応応答は、ICR と C57BL の2種類のマウスを
用いて検討した。10-400mGy の全身照射の後、種々の時
文献:
間をおいて半数致死線量の照射を行い、マウスの生存率
[1] A. Miyamoto et al., Absence of radioadaptive
を検討した。また ICR マウスにおいて 10-200mGy 全身
responses in four cell-lines in vitro as determined
照射後の血清グルタチオンの変動を測定した。全身照射
by colony formation assay. Kurume Med J 53:1-5,
による腫瘍の可移植性の検討には、EMT6 細胞と Balb/c
2006.
マウス、SCCVII 細胞と C3H/He マウスを用いた。マウ
[2] M. Ito et al., Low-dose whole-body irradiation
スに対して 50-1500mGy の全身照射後、種々の時間をお
induced radioadaptive response in C57BL/6 mice.
いて 100 個あるいは 1000 個の腫瘍細胞を皮下に移植し、
J Radiat Res 48: 455-460, 2007.
[3] M. Ito et.al., Effect of low-dose total-body
腫瘍の生着率を検討した。
irradiation on transplantability of tumor cells in
結果:4種類の培養細胞において、適応応答は観察され
syngeneic mice. J Radiat Res 49: 197-201, 2008.
なかった。ICR マウスにおいても適応応答を証明するこ
[4] M. Yonezawa et. al., Increase in endogenous spleen
とはできなかった。一方、C57BL マウスにおいては、
colonies without recovery of blood cell counts in
50mGy の照射後 24 時間 〜2 週間後に 5.9Gy の照射を行
radioadaptive survival response in C57BL/6 mice.
うと、マウスの生存率はコントロール群に対して有意に
Radiat Res 161: 161-167, 2004.
上昇した。ICR マウスにおけるグルタチオン値は、
<メモ欄>
43
セッション 2
転移・RI
10:10~10:58
座長
小野公二 (京大)
演者
前澤
博 (徳大)
安藤
謙(群大)
松本孔貴 (放医研)
花岡宏史 (群大)
44
ヒトグリオブラストーマ A172 細胞の遊走及び浸潤に対する p53 突然変異の効果
前澤博 1、大谷環樹 2,、片山美祐紀 3、藤井佐紀 3、坂
地で行った。細胞の遊走および浸潤能の測定には改
口良介 3、坂本奈緒子 3、沖田隆紀 3、高橋昭久 4、大
変 Boyden chamber 法を用いた。遊走実験ではトラ
西健 5、大西武雄,6
ンスウェルインサート膜(ポアサイズ 8 µm 径)を
フィブロネクチン(0.5 µg)でコートし,また浸潤実
1 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
験では膜上面をマトリゲル(30 µg)でコートし用い
2 徳島大学大学院保健科学教育部医用情報科学領域
た。細胞を膜上面に播種し,膜下面に移動した細胞
3 徳島大学医学部保健学科
を染色後顕微鏡下で計数し、遊走および浸潤した細
4 群馬大学先端科学研究指導者育成ユニット
胞数を求めた。細胞の X 線照射は 150 kV X 線で行
5 茨城県立医療大学保健医療学部人間科学センター
った。
6 奈良県立医科大学医学部放射線腫瘍医学講座
図 1. 未照射及び 2 Gy 照射 48 時間後の A172 細胞の
マトリゲル浸潤細胞数の比較。黒:neo, 斜線:mp53
はじめに:がん抑制遺伝子 p53 の変異はがんの約半
/143, 白:mp53/248.
数にみられ、がんの増殖能や薬剤・放射線に対する
結果:未照射の A172/neo および A172/mp53/248 細
抵抗性の亢進などがんの悪性度と関連するといわれ
胞では両者の遊走数に有意差は認められなかったが、
る。がんの転移にも p53 機能の関与が指摘されてい
A172/mp53/143 細胞では両細胞のおよそ 48 %に低
るが、細胞および動物腫瘍を用いた結果では p53 の
下していた。ま
欠失や変異が遊走,浸潤および転移の亢進と関連す
た,2 Gy 照射後
るという報告と、関連ないとする報告がある。報告
48 時 間培養し
の多くは異なる由来組織、あるいは同一組織由来で
も遺伝的背景が異なる細胞を用いて p53 ステータス
遊走アッセイを
の効果をみており、p53 以外の遺伝的背景を同一に
行った場合、
A172/mp53/14
した上で p53 の転移能への影響を調べる必要がある.
3 細胞では未照
本研究の目的は、同一のヒトグリオーマ細胞株に
射に比べ 2.4 倍
変異部位の異なる p53 遺伝子を導入された細胞株を
有意に増加した
用い、in vitro での遊走および浸潤能と p53 変異と
が、他の細胞で
の関連を明らかにすることである。
は有意な変化は認められなかった。
浸潤細胞数については,3 種類の未照射細胞間で
材料・方法:実験ではヒトグリオーマ由来 A172 細
有意な相違は認められなかった。2 Gy 照射後 48 時
胞(p53 野生型)に,異なる p53 変異部位をもつ遺
間培養された後の細胞では、A172/neo でのみ未照射
伝 子 を 導 入 し た 細 胞 を 用 い た (1,2) : p53 変 異 型
時の浸潤細胞数のおよそ 3 倍の増加が認められた
A172/mp53/143(コドン 143 の Val が Ala に置換し
(図 1)
。
た p53 遺伝子を導入)
、p53 変異型 A172/mp53/248
(コドン 248 の Arg が Trp に置換した p53 遺伝子を
細胞の基質への接着能が遊走および浸潤に影響する
導入)、および p53 野生型 A172/neo(ベクタープラ
と考えられるため、接着因子であるファイブロネク
スミドのみを導入)。細胞培養は Dulbecco’s modified
チンあるいはコラーゲンをコートしたプラスチック
Eagle’s medium に 10 %ウシ胎児血清を添加した培
プレートへの細胞の接着率を調べたが,未照射に比
45
べた 2 Gy 照射による 48 時間後の増減は認めなかっ
文献:
た。浸潤に重要なマトリックスメタロプロテアーゼ
[1] T. Ohnishi et al., J. Biol. Chem., 271 (1996)
14510-14513.
の細胞外分泌量の測定を現在進めている。
まとめ:ヒトグリオーマ A172 細胞の in vitro 遊走お
[2] K. Ohnishi et al., Exp. Cell Res., 238 (1998)
よび浸潤能は p53 の突然変異の有無だけでなく,変
399-406.
異部位によっても影響を受けることが示唆された。
<メモ欄>
46
炭素イオン線-樹状細胞併用療法におけるマウス転移抑制メカニズムの検討
CD86 の発現を FACS で解析した。
安藤謙 1,2、藤田英俊 2、中村悦子 2、中渡美也子 2、
森竹浩之 2、中野隆史 1, 今井高志 2、下川卓志 2
結果:
1 群馬大学大学院
1)炭素イオン線と DC 併用療法での投与経路の検討
腫瘍放射線学
2 放射線医学総合研究所
肺転移数は非処置群で 182.3±26.4、DC 単独投与
重粒子医科学センター
群では腫瘍内注射群で 144.8±34.5、尾静注群で 112
先端粒子線生物研究プログラム
±63.9、炭素イオン線照射単独群では 78.4±18.3、
炭素イオン線+DC 併用群では腫瘍内注射群で 72.8
目的
±7.7、尾静注群で 32±17.2 であった。炭素イオン
炭素イオン線はその優れた物理的線量分布と殺腫
瘍細胞効果から、手術が困難な頭頚部・体幹部の腫
瘍や、X 線に抵抗性の骨軟部腫瘍や悪性黒色腫の治
療に用いられている。しかしながら、治療後の遠隔
転移により死亡するケースがあり、遠隔転移の抑制
は臨床上大きな課題となっている。我々はこれまで、
マウス下肢移植腫瘍への炭素線イオン線照射と、樹
状細胞(DC)の腫瘍内注射との併用療法により肺転移
を相乗効果的に抑制することを報告してきた[1]。一
方で、実臨床では腫瘍が体の深部にあるため直接腫
瘍に注射することは困難なケースが多く、より最適
な臨床に即した投与経路の確立が必要である。また、
肺転移抑制における DC の作用機序も未だ明らかで
ない部分が多い。特に、腫瘍局所への炭素線照射と
DC の投与とがどのように相互作用して肺転移抑制
に寄与しているかについては不明である。そこで本
研究では、炭素イオン線・DC 併用療法での至適な
DC 投与法と、DC の活性化に対する腫瘍細胞への炭
素線照射の影響について検討した。
線+DC 静注群が最も肺転移を抑制した。
2)in vitro での炭素イオン線照射と DC 活性化の検
討
共培養後 DC における CD40 は下図のように線量
増加と共に発現が増加した。CD80, CD86 に関して
材料・方法:
は線量に伴う発現増加は認められなかった。
1)炭素イオン線と DC 併用療法での投与経路の検討
マウス(C3H/He)の下肢に扁平上皮癌細胞(NR-S1)
を移植し、1 週間後に炭素イオン線 2Gy を腫瘍局所
に照射した。照射 2 日後に DC を腫瘍内注、尾静注
と投与経路を変えて投与し、照射 2 週間後の肺転移
数をカウントした。
2)in vitro での炭素イオン線照射と DC 活性化の検
討
NR-S1 に炭素イオン線(1・3・6Gy)を照射し、照射 1
結論:DC 静脈注射においても腫瘍局注と同等以上の
日後から DC を同一シャーレ内で共培養し、照射 4
日後に DC の活性化マーカーである CD40, CD80,
転移抑制効果が得られる事が明らかになり、より実
47
臨床への応用の可能性が示された。また、in vitro に
文献:
おいて腫瘍への炭素線照射により DC が活性化する
[1] Y. Ohkubo et al., Int J Radiat Oncol Biol Phys.
ことが明らかとなり、炭素線照射と DC 投与とが相
(2010) Dec 1;78(5):1524-31.
互作用して肺転移抑制に寄与している可能性が考え
られた。
<メモ欄>
48
原発腫瘍への分割照射が遠隔転移に与える影響
松本孔貴 1、鵜澤玲子 1、平山亮一 1、幸田華奈 1、陳剣 1、
小池幸子 1、和田麻美 1、鶴岡千鶴 2、増永慎一郎 3、安藤
興一 4、古澤佳也 1
1 放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター
2 放射線医学総合研究所・医療被ばく研究プロジェクト
3 京都大学原子炉実験所・粒子線腫瘍学研究センター
4 群馬大学・重粒子線医学研究センター
はじめに:現在のがんに対する放射線治療では、分割照
射が標準的に用いられている。炭素線治療では従来の X
線治療に比べ少ない分割回数での治療を行っているが
(〜十数回)
、分割照射であることに変わりはない。単回
照射と分割照射では、照射間に起きる DNA 損傷の修復
転移能:細胞致死と同様に、分割回数の増加に依存して
や低酸素領域における再酸素化など照射後の反応が大き
遊走能および浸潤能抑制効果の低減が見られ,その程度
く異なる。我々は昨年までに、悪性黒色腫由来細胞に対
は X 線照射群でより顕著であった(図 2)
。1 回線量の大
する炭素線の優れた抗転移効果を報告してきたが、この
きさと分割回数に着目して解析を行った結果、X 線照射
報告も単回照射による結果のみであり臨床における効果
群では 0.25 Gy〜0.5 Gy 程度の低線量を 1 回線量とした
を知るには分割照射による実験が必須である。原発腫瘍
場合、総線量を増やしても有意な転移能の抑制は観察さ
に本研究では、高転移腫瘍に対して X 線および炭素線に
れず
(例:遊走能 0.25Gy/1 回:132.9%、
0.5Gy/2 回:138.3%、
よる分割照射を行い、転移能抑制効果の分割回数依存性
1.0Gy/4 回:141.8%)
、1 回線量が大きくなるに従って抑
と 1 回線量依存性の検討を行う。
制率が顕著に増加した(例:遊走能 4.0Gy/1 回:78.5%、
8Gy/2 回:53.8%、16Gy/4 回:25.8%)
。
材料と方法:細胞は高転移能を有する事が知られるマウ
ス骨肉腫由来 LM8 細胞を用いた
(RIKEN CELL BANK、
RCB1450)
。290 MeV/u で加速した炭素線の 6 cm 拡大
ブラッグピーク中心部で照射を行い,基準放射線として
X 線(TITAN-320 型、200 kVp, 20 mA)を用いた。分
割回数は1-5 回とし、分割間隔は 24 時間とした。細胞致
死はコロニー形成法で調べ、遊走能および浸潤能抑制効
果はそれぞれ Boyden chamber アッセイと Matrigel
invasion アッセイで調べた。
考察・結論:分割照射の効果を転移抑制の点から調べた
結果、他の生物学的エンドポイントと同様に高 LET を有
結果:細胞致死:分割回数の増加に依存して、細胞致死
する炭素線では低 LET の X 線に比べ分割することによ
率の減少が確認された(図 1)
。炭素線照射後では X 線照
る効果の低減が少ないことが細胞・動物実験両方で確認
射後に比べ致死率減少の程度が小さかった事から、分割
された。臨床で行われている分割照射でも、転移抑制の
回数の増加に依存した生物学的効果比(RBE:Relative
点で炭素線が優れている事が示唆された。
biological effectiveness)の増加が確認された(表 1)
。
49
新規放射性核種『ルテチウム-177』標識抗体によるがん治療
177Lu
花岡宏史 1,2、橋本和幸 3、渡辺智 3、石岡典子 3、大島康宏
ぞれを標的とする
3、渡辺茂樹 3、織内昇 1、樋口徹也 1、飯田靖彦 1、遠藤啓吾
集積性・滞留性を検討した。177Lu 標識抗体および 90Y で
1
標識した抗体による治療効果を検討では、177Lu 標識抗体
標識抗体の体内分布および腫瘍
の投与放射能としては 11.1 MBq(300 μCi) もしくは
1 群馬大学
大学院医学系研究科
14.8 MBq(400 μCi)
、90Y 標識抗体の投与放射能として
2 千葉大学
大学院薬学研究院
は 3.7 MBq(100 μCi)または 7.4 MBq(200 μCi)とし
3 日本原子力研究開発機構
た。評価としては投与後、腫瘍サイズおよび体重を週 2
量子ビーム応用研究部門
回計測した。腫瘍サイズはノギスにて 3 辺(長径、短径、
厚み)を測定し、3 辺の長さの積/2 という計算式により
はじめに:近年、細胞殺傷性の高い放射性核種(RI)を結
求めた。また比較対象として何も投与しないマウスを未
合させた抗体を体内に投与し、体の内部からの放射線によ
治療群とし、治療群と同様に腫瘍サイズおよび体重を測
りがんを殺傷する「放射免疫療法」と呼ばれる治療法が開
定した。
発され、様々な基礎研究および臨床研究が行われている。β
線放出核種であるイットリウム-90(90Y)で標識した抗
結果:RAMOS 細胞移植マウスまたは H2170 細胞移植マ
CD20抗体は、悪性リンパ腫の治療薬として日本でも認可
ウスに対して、
それぞれの 177Lu 標識抗体を投与したとこ
され、大きな治療効果をあげている。しかしその一方で、
ろ、腫瘍への高い集積および投与 7 日後までの放射活性
多くのRI標識抗体は期待通りの治療効果をあげられていな
の滞留を認めた。そこで、担癌マウスに対してそれぞれ
いのが現状であり、放射免疫療法の治療成績を高めるべく
の
種々の研究が行われている。治療効果増強の手段として新
RAMOS 細胞移植マウスでは腫瘍の増殖抑制効果、
規RIを用いた放射免疫療法も注目されており、その候補RI
H2170 細胞移植マウスでは腫瘍の縮小効果が認められた。
の一つがルテチウム-177(177Lu)である。177Luは半減期
90Y 標識抗体による治療効果と比較したところ、
増殖が遅
が6.7日と比較的長いことから、抗体のように血液クリアラ
い H2170 細胞移植マウスにおいては両核種で同様に腫
ンスが遅く腫瘍への集積に数日を要するような分子を用い
瘍の縮小効果が認められたものの、177Lu 標識抗体の方が
177Lu
標識抗体を投与し治療実験を行ったところ、
た治療に適していると考えられる。そこで本研究では、
治療効果の持続期間が長かった。一方で、増殖が早い
177Lu標識抗体の有用性を評価する目的で、177Lu標識抗体
RAMOS 細胞移植マウスでは 90Y 標識抗体の方がより高
による治療効果を90Y標識抗体と比較検討を行った。
い増殖抑制効果を示した。このことから、増殖の早い腫
瘍においては β 線のエネルギーが強い 90Y の方が高い治
材料・方法:177Lu はイッテルビウム-176(176Yb)をタ
療効果を示し、177Lu では増殖を十分に抑えることができ
ーゲットとして原子炉にて照射後、
生成した 177Yb が半減
ない。一方で増殖がそれほど早くない腫瘍においては
期 1.91 時間で 177Lu へと壊変することを利用して製造し
177Lu
た。
抗体としては抗 CD20 抗体、
抗 Her-2 抗体を選択し、
でも腫瘍の増殖を抑えさらには縮小させることが
十分に可能であることから、初期治療効果は 90Y と 177Lu
各抗体にキレート剤(DTPA)を導入した DTPA-抗体を
で大きな違いはなく、
半減期が長いことにより 177Lu の方
作製し、177Lu 標識を行った。CD20 陽性のバーキットリ
が治療効果の持続性が高いという可能性が示された。
ンパ腫細胞(RAMOS)および Her-2 陽性の肺癌細胞株
(H2170)を皮下に移植した担癌マウスを作製し、それ
<メモ欄>
50
セッション 3
HSP90・薬剤
10:58~11:58
座長
長谷川正俊(奈良医大)
演者
若佐谷拓也(弘大)
瀬川達矢 (茨城医大)
榎本 敦 (東大)
陳
剣 (放医研)
森田明典 (広大)
51
液晶関連化合物の抗腫瘍作用及び放射線増感作用の可能性
若佐谷拓也 1、吉野浩教 1、吉澤篤 2、柏倉幾郎 1
結果:数種類の化合物の増殖抑制作用を検討したところ、
図 1 に示す化合物に強い抑制作用が認められた。化合物
1 弘前大学
大学院保健学研究科
12 µM 添加により、添加 3 日後の生細胞数は非添加対照
2 弘前大学
大学院理工学研究科
群に比べて 10%以下であった。
目的:生体膜の主成分であるリン脂質は疎水基と親水基
を持つ両親媒性の構造を持っており、細胞の生存維持の
みならず、生体内でのシグナル伝達において重要な役割
図 1 最も強い抑制作用が認められた化合物
を果たしている。一方、液晶ディスプレイなどに利用さ
れている液晶化合物の多くは両親媒性であることから、
次に、この化合物の細胞周期に及ぼす影響を検討した。
その結果、化合物非添加対照群では G2/M 期の細胞集団
生体に対しての親和性が考えられる。
の割合が約 20%であったのに対し、化合物添加 12 時間
我々はこれまでに液晶化合物及び液晶関連化合物の生
物・薬理作用を検討し、ヒト巨核球・血小板造血促進作
後では約 50%と G2/M 期の細胞集団が顕著に増加した。
用や抗腫瘍作用を報告してきた[1-3]。本研究では、新規
また、化合物添加 24 時間以降から sub G1 期の集団が増
に合成された液晶関連化合物の非小細胞肺癌 A549 細胞
加した。さらに、化合物の細胞死誘導作用をアネキシン
に対する抗腫瘍作用を評価するとともに、放射線増感剤
V と PI 染色により評価したところ、非添加対照群ではア
としての可能性についても検討した。
ネキシン V 陽性細胞はほとんど観察されなかった一方で、
化合物添加 48、72 時間後ではアネキシン V 陽性 PI 陰性
材料・方法:本実験に使用した A549 細胞は理研バイオ
およびアネキシンV陽性PI陽性細胞の割合が顕著に増加
リソースセンターより購入した。
した。また、化合物添加 2、3 日後において、活性化型
1. 細胞増殖抑制作用の検証:A549 細胞をディッシュに
Casapase-3 が強く発現していたことから、この化合物が
播種し付着させた。液晶関連化合物を添加後、1~3 日
アポトーシスを誘導することが示された。続いて、化合
間液体培養し、トリパンブルー色素排除法により生細
物の放射線増感作用を検討したところ、化合物による増
胞数を計測した。
感作用は認められなかった。しかしながら、化合物 6 µM
2. 細胞周期の解析:化合物添加後、経時的に細胞を回収
と X 線 4 Gy の併用では、化合物単独および X 線照射単
した。70%エタノールで固定後、ヨウ化プロピディウ
独と比較して、コロニー形成能の低下が認められた。
ム(PI)で染色し、フローサイトメータにて解析した
(Cytomics FC500、ベックマンコールター)
。
結語:図 1 の液晶関連化合物は、A549 細胞に対して抗腫
3. アポトーシスの解析:アポトーシス細胞の検出は
瘍作用を示すことが明らかとなった。また、この化合物
FITC 標識アネキシン V(BioLegend)および PI 染
は放射線増感作用はないものの、放射線と相加的に作用
色により、付属のプロトコールに従い行った。また、
することが示唆された。
活性化型 Caspase-3 の発現解析は、FITC Active
Caspase-3 Apoptosis Kit(BD Biosciences)を用い、
文献:
付属のプロトコールに従い行った。
[1] R. Terasawa et al., Yakugaku Zasshi., 126 (2006)
4. 放射線増感作用の検証:化合物を添加後、1 ~ 8 Gy の
429-437.
[2] Y. Takahashi et al., Investigational New Drugs., 29
X 線照射(150 kV、20 mA、Al 0.5 mm + Cu 0.3 mm
フィルタ、線量率 1.0 Gy/分)を行った。1 週間培養
(2011) 659-665.
[3] Y. Fukushi et al., Investigational New Drugs., 29
し、メタノール固定後、ギムザ染色を行い、50 個以
上の細胞からなるコロニーを計測した。
52
(2011) 827-832.
新規 Hsp90 阻害剤 PU-H71 の DNA 二重鎖切断修復抑制による放射線増感
瀬川達矢 1、田中彩 1、坂東真一 2、松本孔貴 3、岡安隆一
focus を蛍光免疫法で計測した。タンパク量の測定はウエ
3、大西健 2、窪田宜夫 1
スタンブロッティングを用いて行った。
1 茨城県立医療大学放射線技術科学科
結果:PU-H71 のヒト肺癌細胞 SQ5、A549 と正常線維
2 茨城県立医療大学・生物
芽細胞 HFL-Ⅲに対する放射線併用の細胞生存率の結果
3 放射線医学総合研究所
は生存率 10%での線量における Enhancement Ratio で
粒子線生物
SQ5=2.64、A549=1.77、HFL-Ⅲ=1.15 であった。こ
の結果より PU-H71 は正常細胞より腫瘍細胞に対して放
背景と目的:放射線による細胞致死作用に関しては DNA
射線増感効果が高いということが示唆された。γ-H2AX
二重鎖切断の寄与が重要であると考えられているため、
focus 形成を調べた結果、SQ5、A549 細胞では放射線薬
二重鎖切断修復を狙った分子標的薬は効果的な放射線増
併用において長時間 focus が残存することが観察された。
感剤になると考えられる。Gyldanamycin(GA)やその誘
一方、
正常細胞 HFL-Ⅲでは併用によっても影響が見られ
導体である 17-AAG は、シャペロン機能を抑制する薬剤
ず focus 数は照射単独処理と同じように減少していき、
であり、ヒト腫瘍細胞に対してアポトーシスの増強およ
24 時間後ではほとんど観察されなくなった。Rad51
び DNA 二重鎖切断修復の阻害に関係していることが報
focus 形成の結果、SQ5、A549 細胞では照射単独では
告されている[1,2]。GA や 17-AAG は副作用が大きかっ
Rad51 focus がきちんと形成されている様子が観察され
たことから臨床応用へは至らなかったが、その誘導体で
たが, 放射線薬剤併用ではfocus形成が大きく抑制される
ある IPI-504 が第二相臨床試験が進められている。
という結果が得られた。ウエスタンブロッティングの結
PU-H71 は 17-AAG と異なり purine 骨格ベースの薬剤
果では薬剤処理したサンプルでRad51タンパクの発現量
であり“small molecule”という特徴を有し、Hsp90 の N
低下、Cleaved PARP の発現量増加が観察された。
末端ATP結合部位への特異的親和性も高くなるように設
計されているため、従来の 17-AAG や植物生理活性物質
考察:PU-H71 の放射線増感効果を示すメカニズムの一
由来のHsp90阻害剤よりもその効果が優れており副作用
つとして、放射線照射により生じた DNA 二重鎖切断の
も少ないことが報告されている[3]。17-AAG の研究知見
修復がRad51の発現量低下により効率的に行うことがで
より Hsp90 阻害剤には DNA 修復経路を阻害する効果が
きなくなったということが考えられる。そして、修復遅
期待され、従来の放射線治療と組み合わせることで治療
延状態が続くことで細胞にストレスがかかり、アポトー
効果向上につながると考えられる。そこで、本研究の目
シスが誘導される頻度が上昇したのではないかと考えら
的は新規Hsp90阻害剤PU-H71についてDNA修復経路
れる。
に主眼を置き、放射線との併用効果について検討を行う
こととした。
文献:
[1] M. Noguchi, et al., Bioche Biophys Res Commu,
351 (2006) 658-663
材料・方法:実験にはヒト非小細胞肺癌由来のSQ5細胞、
[2] H. Machida, et al., In J Radiat Biol,79 (2003)
A549 細胞、ヒト正常肺線維芽細胞 HFL-Ⅲを使用した。
973-980
放射線増感効果はコロニー形成法による生存率曲線より
[3] T. Taldone, et al., Current Topics in Medical
求めた。DNA 二重鎖切断部位は γ-H2AX focus を蛍光免
疫法を用いて計測した。
DNA 修復タンパクとしてRad51
Chemistry, 2009, 9, 1436-1446
<メモ欄>
53
HSP90 阻害剤 17-AAG による STK38 を介した放射線増感
榎本敦、深澤毅倫、宮川清,
ー形成法により評価した。プロモーター活性は、STK38
遺伝子上流のプロモーター領域を PCR にて増幅し、ルシ
東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター放射
フェラーゼ遺伝子に融合したベクターを用いて解析した。
線分子医学部門
結果:17-AAG は濃度・時間依存的に STK38 のタンパク
レベルを減少させた。17-AAG による STK38 タンパクの
はじめに:HSP90 は、タンパク質の機能的構造形成の促
減少は、プロテアソーム阻害剤 MG132 投与により部分
進や折りたたみが不十分なタンパク質の分解を促すなど
的に回復したが、その回復度合いは小さいものであった。
タンパク質の品質管理に重要な役割を果たしている。こ
そこで RT-PCR により、転写レベルでの影響を解析した
の HSP90 を標的とした阻害剤 17-AAG は、腫瘍細胞内
ところ、17-AAG は、stk38 遺伝子の転写を濃度・時間依
でシャペロン複合体を形成して活性化された HSP90 に
存的に抑制していることが判明した。次に 17-AAG によ
より親和性を示すことから、その抗腫瘍効果や放射線増
る stk38 遺伝子の転写抑制機構を解明するため、様々な
感効果が注目されている[1]。一方、我々は、これまでに
長さの stk38 プロモーター領域を単離し、プロモーター
活性酸素や X 線などの酸化ストレスによって活性化する
活性を測定した。その結果、上流-250bp 付近に存在する
タンパク質として STK38 (Serine Threonine Kinase 38)
Sp-1 クラスターに欠失・変異を導入すると活性がほぼ消
について解析を進めてきた[2,3]。STK38 は、酵母では、
失することが分かった。転写因子 Sp-1 は、Hsp90 のク
分裂制御に関わることが知られているが、哺乳類細胞に
ライアントタンパク質として知られており、17-AAG に
おける役割は、未解明な部分が多い[4]。今回、STK38 の
よってその発現レベルが低下することから、17-AAG に
相互作用分子として HSP90 を質量分析法により同定し
よるSp-1の分解により標的遺伝子stk38の転写が抑制さ
た。STK38 と HSP90 との関連および 17-AAG による放
れると考えられた。次に 17-AAG による STK38 のダウ
射線増感における STK38 の役割・位置づけについて解析
ンレギュレーションが、放射線感受性に及ぼす影響につ
を行った。17-AAG による STK38 活性・発現への影響を
いてコロニー形成法により解析した結果、
stk38 のノック
解析した。その結果、17-AAG は、タンパク質レベルだ
ダウンは放射線感受性を顕著に亢進させることが判明し
けではなく転写レベルにおいても STK38 の発現を顕著
た。これらのことから、17-AAG による放射線増感には、
に抑制し、その活性も低下させた。STK38 の発現抑制の
STK38のdown-regulationを介して起こる新しい経路が
意義を明らかにするため、STK38 のノックダウンによる
存在すると考えられた。
放射線感受性への影響を解析した結果、顕著に放射線増
感を起こすことが判明した。
文献:
[1] H. Machida et al., Cancer Sci 96 (2005) 911-917
材料・方法:実験に用いた細胞は、ヒト子宮頸癌 HeLa,
[2] A. Enomoto et.al. Oncogene 27 (2008) 1930-1938.
ヒト胎児腎由来 HEK293T, ヒト乳癌由来 MCF-7, ヒト
[3] A. Enomoto et al., Free Radic Biol Med 52(2012)
大腸癌由来 HCT116 細胞を用いた。STK38 の発現は、
507-515.
Western blotting および RT-PCR 法により解析した。放
[4] 深澤 毅倫、榎本 敦、宮川 清 放射線生物研究
射線感受性は、HeLa 細胞および HeLa 細胞に sh stk38
印刷中
RNA 発現ベクターを導入しノックダウン誘導後、コロニ
<メモ欄>
54
The effect of carbon beam combined with TMZ on different MGMT status glioma cells
CHEN Jian1,2、松本孔貴 2、平山亮一 2、鵜澤玲子 2、古
method.
澤佳也 2
Result:We found that the survival curve of T98G was
1
not significantly affected by 5uM and 20uM TMZ. For
2
A172, in 20uM group, TMZ plus radiation increased
上海市閔行区腫瘍病院
放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター
the killing of cells, but did not reach the extent of
additive effect. For carbon beam, we found T98G
Object:Glioblastomas (GBM) are the most common
survival curve was also not be affected by TMZ. RBE
and aggressive tumor of the brain and are associated
calculated through D10 for 0uM, 5uM and 20uM is 1.6,
with a high rate of mortality. Current treatment to
1.57 and 1.72, respectively. For A172, the carbon beam
GBM is combined with surgery, radiotherapy and
RBE is higher than T98G: 2.29, 1.85 and 2.08
chemotherapy. The most effective chemotherapy drug
is
temozolomide
(TMZ).
With
different
respectively. There is also no additive effect in all
O6-
groups. We also did some pilot experiment about
methylguanine DNA methyltransferase (MGMT) gene
migration ability of T98G after carbon beam radiation
status, the prognosis is different [1, 2]. High linear
and TMZ treatment. T98G's migration ability seemed
energy transfer (LET) charged particle such as carbon
to be inhibited by carbon beam and TMZ.
ions may be better in the treatment of malignant
gliomas because of better dose localization in the tumor
area and greater biologic effectiveness [3-5]. This
research is to study the biological effect of X-rays and
carbon beam with or without TMZ on GBM cells,
including survival rate, migration and invasion ability
and cell cycle change, in order to supply data for
further clinical research in the future. Because the
MGMT gene status of glioma cells will influent the
response of cells to TMZ, we choose two cell lines
(T98G and A172) with different MGMT status to
compare each other.
Materials and methods:Cell lines: human glioma cell
lines T98G (MGMT positive) and A172 (MGMT
negative) . TMZ treatment: 3 hours before radiation,
and washed twice by PBS before radiation. TMZ
Reference:
concentration: 0uM, 5uM and 20uM. X-ray radiation:
[1] A. J. Chalmers AJ et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol.
dose rate: 0.8Gy/min. Dose: 0, 2, 4, 6.25, 7.5, 9 and
Phys., 75 (2009) 1511-1519.
10.5Gy for T98G, 0, 1, 2.5, 4, 5.5, 6.5 and 7.5Gy for
[2] R. Stupp et al., N. Engl. J. Med., 352 (2005)
A172. Carbon beam radiation: 290MeV/u, 2.0×109pps,
987-996.
SOBP:6cm. size:10cm. Dose: 0, 0.5, 1, 2, 3.5, 5 and 7Gy
[3] S. Koike et al., J. Radiat. Res., 43 (2002) 247-255.
for T98G, 0, 0.5, 1, 2, 3.5 and 5Gy for A172.Survival
[4] S. Rieken et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., in
rate: clony assay. Migration ability test: transwell
55
press
[5] M. Suzuki et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys.,
48 (2000) 241-250.
<メモ欄>
56
p53 転写非依存性アポトーシス誘導経路に作用する 8-キノリノール誘導体 KH-13
の作用機構解析
森田明典 1,2,3、内田孝俊 2、大谷聡一郎 2、花屋賢悟 4、王
-2- methyl-8-quinolinol) に注目し、そのアポトーシス抑
冰 5、田中薫 5、細井義夫 1、青木伸 3,4、池北雅彦 2
制機構の解明を目指した。
1
材料・方法:p53 依存性の放射線誘発アポトーシスを引
広島大学 原爆放射線医科学研究所 放射線医療開発
研究分野
2 東京理科大学
3
き起こすヒトT 細胞性白血病細胞株MOLT-4 の放射線細
胞死をモデル細胞死として、候補化合物の p53 阻害剤と
理工学部 応用生物科学科
東京理科大学 総合研究機構 がん医療基盤科学技術
しての活性評価を以下の方法で行った。
(1) ア ポ ト ー シ ス 抑 制 効 果 は 、 色 素 排 除 試 験 と
研究センター
4 東京理科大学
5
MitoTracker 染色法によるミトコンドリア膜電位低下の
薬学部 生命創薬科学科
放射線医学総合研究所 リスク低減化研究プログラム
測定によって検討した。
(2)p53抑制効果は、
p53の標的遺伝子産物であるPUMA、
積極的防護研究チーム
p21 の転写活性化を RT-PCR 法、ウェスタンブロット法
で検討した。
はじめに:p53 依存性アポトーシス経路には、p53 の標
(3)転写非依存性経路に対する阻害効果は、この経路の起
的遺伝子の転写活性化を介した「転写依存性経路」だけ
点となるp53 とBcl-2 ファミリー分子との結合について、
でなく、ミトコンドリアの Bcl-2 ファミリー分子と p53
化合物処理後の両分子の結合抑制効果を免疫共沈降法で
が直接結合することでアポトーシスが誘導される「転写
検討した。
非依存性経路」と呼ばれる分岐経路があることが知られ
ている。これまでの研究で我々の研究グループは、薬理
結果と考察:KH-13 による p53 依存性アポトーシス抑制
的な p53 阻害による防護効果を最大限引き出すためには、
効果を検討したところ、優れた細胞死抑制効果とミトコ
転写依存性、非依存性経路の両方を阻害することが効果
ンドリア膜電位の喪失抑制効果が認められた。また、p53
的であることを明らかにしていた[1]。しかしながら、細
ノックダウン細胞株での比較から、KH-13 の p53 特異性
胞や組織ごとの両経路の寄与の割合はいまだ不明な点が
も明らかとなった。p53 転写依存性経路の解析では、
残されており、両経路の寄与の程度を明らかにするため
KH-13 は p53 標的遺伝子の発現誘導に影響を及ぼさず、
には、一方の経路を特異的に阻害する薬剤の開発が不可
転写非依存性経路を特異的に抑制することが示され、
欠である。このような p53 阻害剤は、これ迄のところ、
PFTµ と比較して低い細胞毒性、高いアポトーシス抑制
転写非依存性経路の特異的阻害剤とされるピフィスリン
効果を示すことも明らかとなった。
µ(PFTµ)だけであった[2]。また、PFTµ は、骨髄死相
転写依存性経路に干渉しないことを示すこれらの結果
当線量の放射線からマウスを防護することも報告されて
は、KH-13 が PFTµ よりも優れた転写非依存性経路阻害
いたが、我々が行った追試では、全身照射マウスの放射
剤となる可能性を示していると考えられ、この分岐経路
線防護効果は認められず、転写非依存性経路の抑制が放
の役割の解明に有用な阻害剤・防護剤となることが期待
射線防護上、重要であるか否かについて確定的な結論が
される。本発表では、マウスモデルでの放射線防護効果
得られていなかった。
の検証結果についても報告する。
一方、
我々の研究グループにおいて進められていたp53
分子内に存在する亜鉛イオン結合部位を標的とする新規
文献:
p53 阻害剤の探索化合物からは、いくつかの興味深い化
[1] A. Morita et al., Cancer Res., 70 (2010) 257-265.
合物が見出されていた。本研究では、探索過程で見出さ
[2] E. Strom,et al., Nat. Chem. Biol., 2 (2006) 474-479
れた転写非依存性経路を特異的に阻害する 8-キノリノー
ル誘導体、KH-13 (5,7-bis(N,N-dimethylaminosulfonyl)
57
セッション 4
脳・幹細胞・免疫
13:25~14:13
座長
三浦雅彦 (医科歯科大)
演者
小此木範之(群大)
Wenling YE(IMP)
門前 暁 (弘大)
吉野浩教 (弘大)
吉本由哉 (群大)
58
頭部への X 線照射による Bone Marrow Derived Microglia(BMDM)の誘導
小此木範之 1、中村和裕 2、鈴木義行 1、神沼拓也 1、須藤
の前処置として、全身に 3.9 Gy の照射(200kV X-ray, 1.3
奈々2、中野隆史 1、平井宏和 2
Gy/min)を行った後、GFP 標識された骨髄細胞を移植
した。骨髄移植から 4 週間後、頭部追加照射群(n=5)
1 群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学
には頭部に更に 13 Gy を照射し、対象群(n=5)は照射せず
2 群馬大学大学院医学系研究科神経生理学
に経過を観察し、頭部照射から 8 週間後、共焦点顕微鏡
を用いて、小脳の BMDM の有無を観察した。尚、ミク
ログリアの標識には Iba1 抗体を用いた。
はじめに:ミクログリアは脳内の免疫機構を担う細胞で
あり、神経変性疾患や脳腫瘍の予防・治療において重要
結果:全個体において移植片対宿主病を示唆する所見は
な役割を担っている可能性が示唆されている[1]。近年の
認めなかった。Iba1 陽性ミクログリアは、全個体の小脳
報告では、成熟脳に見られるミクログリアは、胎生 8 日
で広範に確認された。骨髄からの移行を示唆する GFP 陽
以前に卵黄嚢で生産されるマクロファージに由来してお
性細胞は、頭部追加照射群では小脳にびまん性に認めら
り、出生後は骨髄造血幹細胞はミクログリアの供給に関
れたが、対照群ではほとんど認められなかった。Iba1 陽
与していない、という事が示されている[2]。一方で、全
性ミクログリアに占める GFP 陽性細胞の割合(%)は、
身照射を受けたマウスの脳において、骨髄から脳内に移
頭部追加照射群 対 対照群で 33.0±3.8 % 対 2.0±2.3 %
行してミクログリア様の性質を示す細胞(=Bone
であり、統計学的有意差を示した(p < 0.001)
.
Marrow Derived Microglia; BMDM)の存在が確認され
ている[3]。さらにこの現象は,骨髄移植の前処置として
結語:BMDM は頭部への照射により、さらに誘導された
全身照射を受けたヒトの脳においても報告されている[4]
可能性が考えられた。
が、詳細は明らかとなっていない。
今回、我々は頭部(脳)への照射で BMDM が脳内に
文献:
誘導されるかについてマウスを用いて検討した。
[1] H. Wake et al., J. Neurosci., 29 (2009) 3974-3980.
[2] F. Ginhoux et al., Science, 330 (2010) 841-845.
材料・方法:成熟 C57BL/6 マウスと murine stem cell
[3] J. Priller et al., Nat. Med., 7 (2001) 1356-1361.
virus-based retroviral vector により green fluorescent
[4] JM. Weimann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A.
protein (GFP)標識を施した骨髄細胞を用いた。骨髄移植
100 (2003) 2088-2093.
<メモ欄>
59
Lethal effects of carbon ion irradiation on glioma stem cells
Wenling Ye1、Lei Song1、Jinpeng He1、Nan Ding1,2、
(Fig.1). However, they could be killed by carbon ion
Feng Dong3、
Shu Mei3、
Jufang Wang1、
Yanan Zhang1、
irradiation more effectively than by X-rays. RBE
Guangming Zhou1
(relative biological effectiveness) of CD133+ cells was
similar to CD133- cells and RBEs of both cell populations
1Department
of Space Radiobiology, Key Laboratory of
were larger than 1. The results showed less DNA
Heavy Ion Radiation Biology and Medicine, Institute of
damage but more efficient DNA repair in CD133+ than
Modern Physics, Chinese Academy of Sciences
in CD133- cells, however, more DNA damage and less
2Graduate School of Chinese Academy of Sciences
efficient DNA repair induced by carbon ion irradiation
3Department
than by X-rays. Radiation preferentially activated the
of Nuclear Medicine, Institute of Tumor,
Gansu Academy of Medical Sciences
DNA damage checkpoints in CD133+ tumor cells than
CD133- tumor cells.
Purpose:Radiotherapy is a promising option for brain
Conclusion:These findings suggest that carbon ion
cancer treatment due to its relatively low risk to cause
irradiation kills glioma CSCs as effectively as non-CSC
unexpected damage to neural system. Comparing with
cells, which might be the major contributors to the high
routine radiotherapy, tumor treatment with heavy ion
curability but low recurrence of heavy ion tumor therapy.
Fold change of CD133 cells
irradiation has achieved excellent outcome and bare
+
recurrence, but the underlying mechanisms remain
unclear.
Materials and Methods:CD133 is a well known surface
marker for glioma cancer stem cells (CSCs). We isolated
25
X-rays
20
0 Gy
2 Gy
4 Gy
6 Gy
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
Post-irradiation time (days)
Fold change of CD133 cells
CD133+ cells from in vitro cultured human glioma cell
+
lines M059K and M059J by MACS microbeads. CD133+
fractions were assayed by using flow cytometer after
ionizing radiation treatment. Routine colony-forming
assay and anchorage-independent growth assay were
used to investigate the radiosensitivity. DNA damage
repair and genomic instability were assessed by
25
Carbon
20
0 Gy
1 Gy
2 Gy
4 Gy
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
Post-irradiation time (days)
Fig.1 Proportion of CD133+ cells exposed to IR.
immunofluorescent focus forming and Cytochalasin-B
micronucleus assay, respectively. Western blot was used
Refernces:
to analysis the DNA damage checkpoint response.
[1] T. Okada et al. J. Radiat. Res., 51 (2010) 355-364.
Results:CD133+ cells represented the subpopulation
[2] S. K. Singh et al. Cancer Res., 63 (2003) 5821-5828.
that conferred glioma resistance to both carbon ion
[3] X. Cui et al. Cancer Res., 71 (2011) 3676-87.
irradiation and X-rays and were enriched after radiation
<メモ欄>
60
放射線分割曝露がヒト造血幹細胞からの骨髄系分化に与える影響
り 30 ~ 50 %と有意に減少したが、分割曝露間に有意な差
門前暁、木下智子、柏倉幾郎
はなかった(Figure 1)
。また,成熟総細胞数及び細胞表
弘前大学 大学院保健学研究科
面抗原にも、放射線による減少はみられるものの,同様
の結果となった。
2. 放射線曝露 HSPCs の DNA 断片化:2.0 Gy を 1 回曝
緒言:細胞が電離放射線に曝露されると、高い分裂能を
露した場合、DNA 断片化は非照射コントロールに比べ
有する細胞ほど細胞死に至ることが知られている[1]。生
有意に増加したが、数回に分けて総線量を 2.0 Gy 曝露し
涯にわたり血球細胞を枯渇することなく供給し続ける造
た場合に有意な変動はみられなかった。
血幹細胞は、電離放射線による急性障害を誘発する標的
細胞の 1 つである。これまでに我々はヒト造血幹・前駆
50
細胞 (hematopoietic stem/progenitor cells: HSPCs)であ
#
40
Tail %DNA
る CD34+細胞の放射線感受性とサイトカインの作用につ
いて報告してきたが[2-5]、HSPCs が放射線に曝された際
の細胞死、とりわけ、特に細胞核の変化の詳細について
は不明である。本研究ではヒト CD34+細胞を用いて、骨
30
20
10
0
髄系造血において放射線頻回曝露がどのような影響を及
0 Gy
ぼすのか DNA 損傷解析を中心に評価した。
2 Gy×1 1 Gy×2 0.5 Gy×4
Cytokine (+)
Fractionnated irradiation dose
0 Gy
Figure 1 塩基性コメットアッセイを用いた放射線照
実験方法:1. ヒト CD34+細胞の分離:インフォームドコ
射回数と Tail %DNA の関係。#P < 0.05。
ンセントが得られたヒト臍帯血から、比重遠心法で有核
細胞を分離し、
磁気ビーズ法
(Auto MACS)
によりCD34+
結語:放射線を分割曝露したヒト HSPCs は、曝露回数
細胞を精製し、HSPCs とした。これらの研究は弘前大学
に関係なく細胞生存率が低下したものの、DNA 損傷の程
大学院医学研究科倫理委員会の承認を得て行った。
度と骨髄系分化における表面抗原発現は必ずしも放射線
2. 放射線照射:X 線発生装置(MBR-1520R-3)を用いて、
曝露回数に依存しないことが明らかとなった。
管電圧 150 kVp、管電流 20 mA、線量率 1.0 Gy/min、総
線量を 2.0 Gy、分割照射の間隔を 2 時間として行った。
文献:
3. HSPCs 由来コロニー法及び液体培養:HSPCs 由来コ
[1] J. Bergonié et al., Yale J Biol Med 76 (2003)
ロニーはサイトカイン(EPO, G-CSF, GM-CSF, IL-3,
181-182.
SCF)を含むメチルセルロース培養法で評価した。また、
[2] I. Kashiwakura et al., Radiat Res, 153 (2000)
同様のサイトカインを含む無血清液体培養を用いて、生
144-152.
細胞数の計数及び細胞表面抗原発現も解析した。
[3] I. Kashiwakura et al., Radiat Res. 160 (2003)
4. DNA 断片化解析:細胞を封入したアガロースゲルを固
210-216.
化後、塩基性及び中性条件でコメットアッセイを行った。
[4] S. Monzen et al., Radiat Res. 172 (2009) 314-320.
[5] S. Monzen et al., Radiat Res. 176 (2011) 8-16.
実験結果:1. 放射線曝露 HSPCs からの骨髄系造血分
化:造血前駆細胞由来コロニー形成は総線量 2.0 Gy によ
<メモ欄>
61
病原体認識受容体に及ぼす放射線の影響
サイトメーターで解析した。
吉野浩教、柏倉幾郎
4. 培養上清中の TNF-α 濃度は、Quantikine Human
TNF-α ELISA Kit (R&D Systems)を用いて測定し
弘前大学 大学院保健学研究科
た。
目的:免疫システムは自然免疫と獲得免疫により構成さ
結果:細菌関連分子パターンを認識する TLR 2 および
れる。このうち自然免疫担当細胞は、細菌やウィルスに
TLR 4 の細胞表面発現に及ぼす X 線の影響を解析したと
おいて高度に保存された病原菌関連分子パターンを認識
ころ、それら受容体の発現は X 線 5 Gy 照射により増強
する病原体認識受容体(パターン認識受容体)を細胞表
した。X 線照射により TLR2 および TLR4 の発現が増強
面または細胞質内に発現しており、その受容体を介して
したため、TLR2/TLR6 のアゴニストである FSL-1、TLR
病原体関連分子に強力に応答し、病原体の排除に努める
4 のリガンドであるリポ多糖に対する応答性を TNF-α の
[1]。
産生により評価した。X 線 5 Gy 照射 24 時間後に FSL-1
放射線治療は外科的手術療法、化学療法とともにがん
又はリポ多糖で刺激したところ、照射群では非照射群と
治療における主要な治療法であるが、照射領域の正常な
比べて細胞数が約 50%低下しているにもかかわらず、培
細胞も傷つけてしまう。また、治療により寛解状態に至
養上清中の TNF-α 濃度は非照射細胞と同程度であった。
ったとしても、再発の可能性もある。そのため、がんの
また、TNF-α 発現細胞の割合は非照射対照群と比べて高
再発予防を含む良好な予後のためには、治療後の免疫力
かったことから、TLR の発現増強と共に病原菌関連分子
が重要になってくる。
に対する応答性の増強が示された。
獲得免疫を担う T リンパ球やB リンパ球は放射線に対
次に、THP1 細胞と比較して病原菌関連分子に対して
する感受性が非常に高い一方で、自然免疫担当細胞は放
強く応答するマクロファージ様細胞で同様の解析を行っ
射線に対して比較的抵抗性であることが知られている[2]。
た。マクロファージ様細胞に X 線照射し、照射 24 時間
しかしながら、放射線が自然免疫担当細胞に発現するパ
後の細胞表面のTLR2およびTLR 4発現を解析したとこ
ターン認識受容体に及ぼす影響についての詳細は不明で
ろ、THP1 細胞の結果とは異なり、それら受容体の発現
ある。このことは、放射線治後のみならず、緊急被ばく
量は X 線照射によって減少した。しかしながら、病原菌
後の免疫機能においても非常に重要となってくる。した
関連分子に対する応答性を検討したところ、培養上清中
がって、本研究では、代表的なパターン認識受容体であ
の TNF-α 濃度および TNF-α 発現細胞の割合ともに X 線
る Toll 様受容体(以下 TLR)を中心に[3]、パターン認識
照射による影響は観察されなかった。
受容体発現およびそのリガンドである病原関連分子への
本研究により、放射線がパターン認識受容体発現およ
応答性に対する放射線の影響を検討した。
びそのリガンドである病原菌関連分子に対する応答性に
影響することが明らかとなった。さらに、その応答性は
材料・方法:実験にはヒト急性単球性白血病細胞である
細胞の分化に依存し、放射線が免疫細胞に発現する病原
THP1 細胞(理研バイオリソースセンター)を使用した。
菌認識受容体を介して炎症反応の増強または免疫応答の
1. 細胞表面の TLR 発現解析はフローサイトメーター
低下を引き起こすことが示唆された。
(Cytomics FC500、ベックマンコールター)を用い
て行った。
文献:
2. THP1 細胞からマクロファージ様細胞への分化はホ
[1] A. Merrick et al., Br. J. Cancer., 92 (2005)
ルボールエステルで 2 日間刺激し、誘導した。
1450-1458.
3. 細胞内腫瘍壊死因子 α(TNF-α)発現は Fixation and
Permeabilization
Solution
Kit
with
[2] E. M.. Greaqh et al., Trends Immunol., 27 (2006)
BD
352-357.
GolgiPlugTM (BD バイオサイエンス)を用い、フロー
62
[3] T. Kawai et al., Arthritis Res. Ther., 7 (2005) 12-19
放射線による抗腫瘍免疫の活性化
吉本由哉 1、鈴木義行 1、三村耕作 2、河野浩二 2、中野隆
手術摘出群では早期に局所再発及び遠隔転移を来たし、
史1
生存期間は無治療群と差がなかった。一方の RT 群では
局所は制御され、長期生存が認められた。また、これら
1 群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学
のマウスは EL-4 の再移植に抵抗した。他の可移植腫瘍
2 国立シンガポール大学外科
(B16-jg)
のRT後にEL-4を移植した場合には生着した。
さらに、マウスより脾細胞を分離して、EL-4 と共培養す
ると、IFNγ や TNFα などの Th1 サイトカインの産生が
はじめに:抗腫瘍免疫のメカニズムの解明が進み、抗癌
認められ、放射線治療後に経時的に増加した。これらよ
剤や放射線など、免疫抑制的な作用を持つと考えられて
り、治療群のマウスは RT により EL-4 に対する特異的な
いた治療法が、むしろ免疫促進的に働く場合のあること
免疫を獲得したと考えられた。一方、ヌードマウスに
が明らかになりつつある[1-3]。放射線治療により特異的
EL-4 を移植して RT を行ったところ、早期に全身転移を
な抗腫瘍免疫が誘導されるかについて、動物の放射線治
来たして死亡した。さらに、C57BL/6 マウスに Lewis 肺
療モデルで検討した。
癌を移植して RT を行ったところ、その増殖遅延効果及
び生存期間延長効果は anti-CD8 抗体投与による CTL 除
材料・方法:C57BL/6 マウス(6 週齢、♂)
、EL-4 リン
去により抑制された。
パ腫、Lewis 肺癌、B16-jg メラノーマを用いた。大腿皮
下に移植した腫瘍が約 100 mm3 に成長したところで放
結語:これらの結果より RT により特異的な抗腫瘍免疫
射線治療を行い(200kV X-ray, 1.3 Gy/min)
、腫瘍の大き
が誘導されること、CTL による抗腫瘍免疫が放射線の治
さを一日おきに測定した([腫瘍体積 mm3]=[長径]x[短
療効果に寄与していることが考えられた。
径]2x1/2)。免疫不全モデルとして、ヌードマウス
(Balb/c-nu/nu)及び anti-mouse CD8 抗体を用いた。
文献:
マウス脾細胞のサイトカイン産生は、X 線照射により増
[1] L. Apetoh, et al., Cancer Res 2008; 68: 4026-4030.
殖能を失わせたEL-4と共培養した培養上清より、
ELISA
[2] Y. Yoshimoto, et al., Int Immunopharmcol 2005; 5:
281-288.
を用いて測定した。
[3] T. Takeshima, et al., Cancer Res 2010; 70:
結果:C57BL/6 マウスに EL-4 リンパ腫を移植して、手
2697-2706.
術摘出群と放射線治療群(RT; 30 Gy)を比較したところ、
<メモ欄>
63
セッション 5
細胞周期・モデル
14:13~15:13
座長
細井義夫 (広大)
演者
戒田篤志 (医科歯科大)
古澤之裕 (富大)
関根 広 (慈恵大病院)
和田麻美 (放医研)
平山亮一 (放医研)
64
放射線照射した固形癌における G2 アレスト遷延のメカニズム
戒田篤志、三浦雅彦
され、元の細胞周期分布へ回復することはすでに報告し
ている[2-4]。一方で、X 線 10 Gy 照射各時間後における
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔放射線腫
マウス皮下移植腫瘍の薄切切片を観察すると、照射 1 日
瘍学分野
後にはほとんどの細胞が緑色となり、緑色優位な状態が
照射後5日以上持続することが明らかになった。また、X
線 10 Gy 照射したマウス皮下移植腫瘍のリアルタイム蛍
はじめに:in vitro において腫瘍細胞に放射線照射すると、
光観察においても同様に緑色優位状態の長期持続が認め
G2 arrest が生じることはよく知られている。一方、固形
られた。そこで、放射線照射後の切片について Cyclin B1
癌における放射線照射後の腫瘍内細胞周期動態に関する
に対する免疫染色を行った結果、緑色優位な状態は G2
詳細については不明であった。そこで我々は、放射線照
arrest を反映していることが示され、すなわち in vivo に
射後の腫瘍内細胞周期動態を解析する手法として、理
おいては、放射線照射後、G2 arrest が遷延することを見
研・宮脇博士らによって開発された細胞周期をリアルタ
出した。さらに、腫瘍擬似モデルであるスフェロイドに
イ ム に 可 視 化 で き る Fucci
(Fluorescent
おける X 線 10 Gy 照射後の動態について解析したところ、
Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator) [1]を導入し、
in vivo と同様に、スフェロイドの場合も、照射 1 日後で
in vivo における放射線照射後の腫瘍内細胞周期動態につ
はほとんどの細胞が緑色となり、緑色優位な状態が長期
いて解析を行い、さらにその動態メカニズムについて検
持続していた。よって、放射線照射後における G2 arrest
討を行った。
の遷延には足場非依存的な増殖環境または腫瘍内微小環
境が影響している可能性が示唆された。本来、細胞周期
材料・方法:細胞株は、Fucci を導入した HeLa 細胞を用
チェックポイントは、DSB 修復の完了とともに解除され
いた。in vitro および in vivo における蛍光観察には、蛍
ることが知られている。そこで、我々は、単層培養細胞、
光顕微鏡 BZ-9000 (キーエンス)を用いた。さらに、放射
スフェロイド、または皮下移植腫瘍における放射線照射
線照射後のヌードマウス皮下移植腫瘍におけるリアルタ
後の DSB 修復動態について解析したところ、単層培養細
イム蛍光観察には、photon imager (Biospace lab)を用い、
胞では放射線照射後 18 時間以内に DSB が速やかに修復
定量的解析を行った。また、DNA 二重鎖切断 (DSB)の
されていったのに対し、スフェロイドおよび皮下移植腫
検出は、53BP1 (Abcam)に対する免疫染色にて行い、核
瘍における放射線照射後の修復動態は明らかに緩やかで
内に発現する foci 数をカウントすることで放射線照射後
あり、DSB 修復能の抑制が示唆された。すなわち、in vivo
の DSB 修復動態について解析した。その際、スフェロイ
におけるDSB 修復能の抑制がG2 arrest 遷延の一因であ
ドについては外側 100 μm 以内に存在する細胞を、皮下
ると考えられ、現在その詳細について検討を進めている。
移植腫瘍については血管に近接した領域に存在する細胞
をそれぞれカウントの対象とした。
文献:
[1] A. Sakaue-Sawano et al., Cell, 132 (2008) 487-498
結果:単層培養細胞に対し、X 線 10 Gy を照射すると、
[2] M. Ishikawa et al., Biochem. Biophys. Res.
照射 16 時間後にはほとんどの細胞が緑色となり、この動
Commun., 389 (2009) 426-430
態が G2 arrest を反映し、さらに、照射 24 時間後では、
[3] A. Kaida et al., Cell Biol. Int., 35 (2011) 359-363
再び赤色の発現が認められることから、G2 arrest が解除
[4] A. Kaida et al., Exp. Cell Res., 318 (2012) 288-297
<メモ欄>
65
TGF-beta activated kinase 1 (TAK1) は放射線照射下の HeLa 細胞において細胞周期停止と細胞生
存を促進する
古澤之裕 1、魏政立 1、櫻井宏明 2、田渕圭章 3、李鵬 1、
化の誘導に関しては,TAK1 ノックダウンによる抑制は
趙慶利 1、野村崇治 4、済木育夫 5、近藤隆 1
見られず,TAK1 ノックダウンによる放射線感受性の増
加は他の標的分子が役割を担っていると考えられた.
1
富山大学医学薬学研究部(医学) 放射線基礎医学講座
GeneChip による網羅的遺伝子解析手法により,TAK1
2
富山大学医学薬学研究部(薬学) 癌細胞生物学講座
ノックダウン細胞とコントロール細胞において,放射線
3
富山大学生命科学先端研究センター ゲノム機能解析分
照射による細胞周期関連遺伝子の発現変化に差が見られ
野
た.バイオインフォマティクスツールを用いてネットワ
4
電力中央研究所 低線量放射線研究センター
ーク解析を試みたところ,CDKN1A (p21)を中心とした
5
富山大学和漢医薬学総合研究所 病態生化学講座
遺伝子ネットワークがコントロール細胞で同定された一
方,TAK1 ノックダウン細胞ではネットワークが断片的
であった.実際にコントロール細胞において,p21 の発
はじめに:Transforming growth factor beta 1 activated
現を siRNA により抑制したところ,放射線による細胞周
kinase 1 (TAK1) は、NF-kappa B, p38 MAPK, JNK な
期の停止を抑制し,
SubG1期の細胞の割合を増加させた.
どのリン酸化に関与し,種々のストレスに対して細胞保
護的な役割をなすことが知られている.しかしながら,
結論:TAK1 は NF-kappa B, p 38 MAPK, ERK のリン
放射線照射下における TAK1 の役割については不明な点
酸化状態にかかわらず,p21 の転写を介して,放射線誘
が多い.そこで我々は,TAK1 を安定的に発現抑制した
発細胞死に対して防御的に働いているものと推測される
HeLa 細胞株[1]を用いて,放射線感受性および遺伝子発
[2].
現変化について検討を行った.
材料・方法:実験にはヒト子宮がん由来の HeLa 細胞を
用いて、細胞死はコロニー形成法により検討を行った.
アポトーシスをカスパーゼ3の切断とSubG1期の細胞の
割合を指標として定量した.細胞周期の変化はフローサ
イトメトリーにて検討した.また遺伝子発現変化を
GeneChip を用いたマイクロアレイにて解析した.
図 1 shTAK1 による放射線アポトーシスの亢進
結果・考察:TAK1 の安定的ノックダウンは,放射線に
よるコロニー形成能の低下とカスパーゼ 3 の切断を促進
し(図 1),SubG1 期の細胞の割合も増加させた.また
文献:
TAK1 ノックダウンにより,放射線により誘発される細
[1] M. Nishimura et al. Mol Cell Biol 29:5529-5539
(2009).
胞周期の停止が部分的に抑制されたことから,放射線感
[2] Y. Furusawa et al., Radiat Res (in press).
受性増加の一因として TAK1 ノックダウンによるチェッ
クポイント機構の抑制が考えられた.一方で TAK1 の下
流分子とされる NF-kappa B, p38 MAPK, ERK リン酸
<メモ欄>
66
乳房温存術後の放射線治療による皮膚紅斑 GLQ モデルによる時間効果関係のシミュレーション
関根広 1、兼平千裕 2、青木学 2、小林雅夫 2、高木佐矢子
と照射間隔から照射線量を治療期間に変換した。
測定された L*a*b*表色系の比をから患側の L*a*b*表
2
色系を求め、さらに HSB 表色系へ変換した。H(色相),S
1 東京慈恵会医科大学第三病院
放射線部
(彩度),B(明度)の時間線量効果関係から非線形回帰
2 東京慈恵会医科大学附属病院
放射線治療部
を行い GLQ モデルの α,β と半反応時間を求める。皮膚は
回復起点が働き、もとの定常状態まで回復すると仮定し
て回復の倍加時間を求める。
はじめに:ある系(システム)の特性を、式を使って表
解析は Mathematica ver 8 を用いて行った。
しそれを解いて理解することを「シミュレーション」と
いう。外部照射では、規則正しい間隔で照射を繰り返し、
結果:線量が増加するとともに、L*の値は低下し、a*の
その結果表れる腫瘍や正常組織の反応の時間的変化は自
値は増加した。一方、b*の値と線量は一定の傾向は認め
律的に現れるので、その背景には数理的に表せるメカニ
なかった。L*a*b*の値から HSB の表色系へ変換しそれ
ズムがあるはずである。近年、放射線照射後の細胞内動
ぞれに対して非線形回帰により 1 次と 2 次の係数を推定
態の解析は、分子生物学的手法の導入により詳細に分か
しその比を求めたところ、α/β として H,S-1,B はそれぞれ
ってきているが、非常に多様であり単純化することは困
2.63, 2.21, 2.42 であった(図)
。また、効果発現の半反応
難と考えられる。仮に放射線照射後の分子生物学的本体
時間は 12 日、回復の倍加時間は 15 日であった。これら
が分からなくても、シミュレーションできることが分か
の 3 次元表色系を GLQ モデルに当てはめ、立体モデル
れば、分割照射の本質の理解は深まるはずである。
上に再現すると放射線照射による皮膚紅斑の推移を再現
本研究の目的は、乳房温存術後の放射線治療に伴う皮
することができることがわかった。
膚紅斑の時間的推移を新しい生物学的モデル(GLQ モデ
ル)を用いて 3D 動的シミュレーションをすることである。
材料・方法:LQ モデルを発展させ、
分割照射の分割線量、
照射間隔、分割回数を引数として組み込み、時間を変数
とする。照射に伴って細胞死する様式を分裂死と間期死
とする。癌細胞や正常組織の反応はアルファ型損傷とベ
ーター型損傷と仮定した。分裂死の細胞数の減少の半減
期と、致死しない細胞の増殖倍加時間を引数とした。以
上の条件を包括したモデルを作成し、一般化直線 2 次モ
デル(GLQ model)とした。
乳房温存術後に放射線治療を受け IC を取得した 71 人
が対象である。放射線治療は温存乳房への 2Gy/fr, 5fr/w
の接線照射で 50Gy である。皮膚紅斑の程度は分光測色
計(CM2500D)を用いて毎週1回、照射終了まで測定した。
健側に対する照射側の比を求める。分割線量の治療回数
<メモ欄>
67
炭素線照射に対する修復を考慮した線量応答モデル
和田麻美 1、鈴木雅雄 2、劉翠華 2、金子由美子 2、
線量 0.3~7.2Gy の範囲で変えて照射し、1回及び 2
小池幸子 1、安藤興一 4、福田茂一 3、松藤成弘 1
~4 分割照射を行い細胞の生存率曲線を得た。結果よ
り、縦軸に全線量の逆数、横軸に 1 回線量をとったも
1 放医研重粒子医科学センター次世代
の(Fe プロット)で図示し、縦軸と横軸に線形関係が
2 放医研重粒子医科学センター国際
みられるか調べた。また、LQ モデル及び Fe プロット
3 放医研重粒子医科学センター物理工学
から算出された α/β 値を比較した。さらに LQ、モデ
4 群馬大学医学部
ルに亜致死損傷
(SLD)
および潜在的致死損傷
(PLD)
の効果を取り入れたモデルを開発し実験との比較を行
った。
はじめに:重粒子線によるがん治療のさらなる高度化
のためには、重粒子線独自の最適な分割照射法を確立
結果:X 線及び LET 13 および 75 keV/μm 炭素線
することが必要不可欠である。そのためには、がん細
(290MeV/u)の照射を 24 時間間隔で 1~4 分割照射
胞を最も効率よく殺傷すると同時に、正常細胞への損
した正常細胞の生存率を確認したところ、分割照射で
傷を最小限に抑える分割照射法についてその裏付けと
は LET に依らず LQ モデルの推定よりも高くなった
なる生物学的基礎データを集積し、生ずる生物効果の
(Fig.1)
。従来の LQ モデルによるフィッテングから
メカニズムに立脚したモデルの構築や治療スケジュー
得た線量(D10)の逆数を 1 回線量の関数としてプロ
ルの立案が要求される。例えば、重粒子線に対して亜
ットし SLD を評価した結果、低 LET では SLD の完
致死障害からの回復(SLDR)や潜在的致死障害から
全修復が示唆された。
一方、
高LET では約50%のSLD
の回復(PLDR)がどの程度なのかなど、明らかにし
は 24 時間後も修復されず、致死損傷化することで細
なければならない生物学的課題が存在している。しか
胞生存率を押し下げる傾向が確認された。照射後細胞
しながら、
重粒子線治療の施設数は未だ極めて少なく、
増殖を抑制することでみられる PLD 回復は本実験に
生物学的基礎実験データに立脚したスタンダードと成
おいても低LET および高LET でも作用していること
り得る分割照射法に関する知識は乏しいのが現状であ
が示唆された。低 LET では最大で 40%、高 LET でも
る。
最大 20%の致死損傷が修復され、細胞生存率を押し上
先行して行われた、X 線及び炭素線によるマウスの
げる傾向が判明した。LQ モデルに SLD および PLD
足掌部皮膚反応をエンドポイントとした感受性の実験
の効果を取り入れたモデル(式 1)により、一回照射
結果を解析したところ、X 線、及び炭素線 2~6 回分
で得られた αβ 値を用いて分割照射を再現することが
割では、現在幅広く用いられている LQ モデルで線量
出来た(Fig.2)
。
応答関係を再現出来た[1]。しかし、炭素線による 1 回
照射では、高 LET になるほど LQ モデルの予測より
・・・(1)
も効果が低下する傾向が明らかとなった。このことか
ら炭素線での 1 回照射と分割照射の間には LET の関
数として異なるメカニズムがあると考えられる。
以上のことから、本研究では in-vitro において、X
線及び炭素線を用いて正常細胞(NB1RGB:ヒト新生
児皮膚線維芽細胞)
の生存率をエンドポイントとして、
1~4 分割での分割/非分割効果を調べた。
Fig.1
Fig.2
材料・方法:NB1RGB 細胞を用い、X 線及び LET 13・
考察・結論:炭素線によりヒト正常細胞にもたらされ
75 keV/μm の 290 MeV/u 炭素イオン線(mono)を
る損傷は SLD、PLD 共に修復されるが、LET が高く
68
精度良く再現できるモデルについても検討を行う。
なるほどその効率は低下することが確認された。分割
照射の生物学的効果を評価する際には LQ モデルで推
定される殺細胞効果にこれらSLDおよびPLDからの
文献:
修復及びその LET 依存性を考慮する必要性が判明し
[1] Koike S, Ando K, J Radiat Res (Tokyo). 2002
Sep;43(3):247-55.
た。今後は腫瘍細胞を用いて、X 線・炭素線での非分割/
分割効果のデータを集め、LQ モデルや近年提唱されてい
る RCR モデルなど、炭素線・LET・大線量の応答特性を
<メモ欄>
69
3 次元スキャニング照射法による生物学的利点
平山亮一 1、松本孔貴 1、鵜澤玲子 1、幸田華奈 1、野口実
ジカル捕捉剤である DMSO を用いて、濃度依存的に細胞
穂 2、加瀬優紀 3、松藤成弘 1、伊藤敦 4、古澤佳也 1
保護率を算出し[1,2]、細胞致死における間接作用の寄与
を求めた。
1 放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター
2 日本原子力研究開発機構
結果:細胞致死における X 線の間接作用の寄与率は 76%
先端基礎研究センター
3 静岡県立静岡がんセンター研究所
であった。炭素線においては寄与率が 52%であった。ま
4 東海大学
た、10%細胞生存率における炭素線の生物学的効果比
工学部
(RBE)は 2.6 であった。細胞生存率曲線を直接作用由
来と間接作用由来の成分に分離し、炭素線の直接作用と
はじめに:重粒子線がん治療の特徴として QOL(Quality
間接作用による 10%細胞生存率での RBE をそれぞれ求
of Life)の高さが挙げられる。現在、放医研では豊富な
めると、3.1 と 1.7 であった。このことから、炭素線の大
治療経験を基に、さらなる QOL 向上を目指し、新たな治
RBE は炭素線の直接作用が強く起因していることがわ
療装置を開発・運用を始めている。例えば従来から行わ
かった。
れていた拡大ビーム照射法(ワブラー照射法)に加え、
次世代技術である 3 次元スキャニング照射法を導入して
1
X-rays
C-ions
Surviving Fraction
いる。この新しい照射法の利点は、スポットビームで患
部を塗りつぶすため照射領域が厳密に制御でき、正常部
位への被ばくの低減が可能となる。また、ワブラー照射
法では患者ごとの治療具(ボーラスや患者コリメータ)
の作成および治療時の治療具の交換等が無くなるため、
治療時間の短縮と運用コストの削減が望める。さらにス
ポットビームではビームの利用効率が高く、コリメータ
0.1
0.01
RBE = 2.6
等から発生する二次放射線による被ばくリスクを軽減で
0.001
きる。このように 3 次元スキャニング照射法にはさまざ
0
まな利点があるが、生物学的な利点についてはまだ明ら
かになっていない点が多い。そこで、二次放射線に着目
2
4
6
Dose (Gy)
8
まとめ:重粒子線を使った大きい生物学的効果を生じさ
して、重粒子線の線質の違いによる生物効果を調べてみ
せるためには、重粒子線の直接作用を有効に使う照射条
た。具体的には重粒子線から発生する二次粒子線が低
件が重要であり、間接作用が主作用である二次粒子線か
LET 成分の粒子線のため、低 LET 放射線の主作用であ
ら成る低 LET 放射線の混入をできるだけ排除する必要
る OH ラジカル由来の間接作用と重粒子線の高電離領域
がある。この問題は次世代技術である 3 次元スキャニン
で生じるような直接作用の細胞致死効果を調べ、放射線
グ照射法を用いることで改善できると考える。
作用と細胞致死における放射線感受性の違いを明らかに
した。
文献:
[1] A. Ito et al., Radiat. Res., 165, (2006) 703-712.
材料・方法:X 線(200 kVp)と炭素線(90 keV/µm)
[2] R. Hirayama et al., Radiat. Res., 171, (2009)
を CHO 細胞に照射しコロニー形成法で細胞生存率を求
212-218.
めた。さらに放射線の間接作用を抑制するために OH ラ
<メモ欄>
70
セッション 6
修復・炭素線分割照射
15:32~16:20
座長
芝本雄太 (名市大)
演者
中島菜花子(放医研)
川田哲也 (慶大)
吉田由香里(群大)
吉川正信 (東海大)
71
がん治療分子標的候補:Emi1 の発現阻害による放射線増感効果
中島菜花子 1、清水なつみ 2、常松貴明 3、高田隆 3、平山
増殖率・細胞周期の解析・核の肥大化の有無により判定
亮一 1、藤森亮 1、工藤保誠 4
した。siRNA を導入した細胞に、各線量の X 線および炭
素線(LET 70 keV/μm)を照射し、コロニー形成法にて生
1 放射線医学総合研究所
2 近畿大学大学院
3 広島大学
4 徳島大学
重粒子医科学センター
存率を評価した。
生物理工学研究科
大学院医歯学総合研究科
結果:
Emi1 発現を阻害した事による核の肥大化・増殖の抑制は
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究
HFLIII・A549 共に認められた。
A549 においては、Emi1
部
発現を阻害した細胞は X 線・炭素線両方において放射線
感受性が有意に増加した。一方で、HFLIII では、siEmi1
目的と背景:
の X 線増感効果は認められなかった。
我々は放射線治療の質の向上に資するため、腫瘍細胞限
定的に効果がある増感剤を探索している。
Emi1 は細胞分裂を調節する分子であり、S 期から M
期初期にかけて発現が誘導され、APC/C の活性を抑制し
ている。Emi1 遺伝子の発現を阻害した細胞は、S 期から
M 期への移行が阻害され、DNA 合成をし続けるため核
が肥大化する。Emi1 遺伝子は増殖期の細胞で発現してい
るが、種々のがん細胞においてその発現量が高まること
から、Emi1 はがん治療の分子標的になり得ると期待され
この結果から Emi1 はがん細胞の放射線感受性に関わ
ている。この研究では、ヒトがん細胞とヒト正常細胞で
る因子であることが示唆された。Emi1 の発現阻害は「増
Emi1 の発現を RNA 干渉法により阻害し、Emi1 発現が
殖中のがん細胞にのみ」効果があり、一方で、
「休止期の
放射線感受性に影響するか検討した。
細胞を始め正常細胞」には影響の少ない増感剤となり得
ると言える。High LET の炭素線に対する増感効果も認
材料・方法:
められた事から、Emi1 の発現阻害と重粒子線照射の併用
対数増殖期のヒト肺がん細胞(Human Lung Carcinoma:
は、よりがん細胞特異的な治療になると期待できる。
A549)・ヒト正常繊維芽細胞(Human Normal Fibroblast:
我々は引き続き、種々の細胞株においても同様の傾向
HFLIII)に Negative Control siRNA (siControl)および
が見られるか検討中である。
Emi1 siRNA (siEmi1)をリポフェクタミン (Invitrogen)
を用いて細胞に導入し、48 時間培養することにより、
Emi1遺伝子の発現を阻害した。
Emi1発現阻害の効果は、
<メモ欄>
72
X 線および高 LET 粒子線による PLDR のメカニズムに関する染色体解析からの検討
川田哲也 1、劉翠華 2、古澤佳也,2、隈部篤寛 1、酢谷真也
した。照射はいずれも非対数増殖の状態で行い、照
1、深田淳一 1、白石悠 1、茂松直之 1、Kerry George3、
射後12 時間37℃で修復後にplating した細胞と照射
直後に plating した細胞の細胞生存率を求めた。同時
に非対数増殖期で修復させた場合の染色体断片の
残数を経時的に fusion PCC 法とギムザ染色法によ
り解析した。染色体修復における誤修復を評価する
ために染色体 1 番および 3 番のプローブを用いて
Francis Cucinotta3
1 慶應義塾大学医学部放射線科
2 放射線医学総合研究所
3NASA Johnson Space Center
FISH 法で解析した。
はじめに:非対数増殖期の正常線維芽細胞では、X 線照
結果: 細胞生存率の結果からは、X 線では大きな PLDR
射後に非対数増殖状態で修復時間を与えた場合、すぐに
が見られた。粒子線の中では Si では有意な PLDR がみ
トリプシン処理した場合と比較して有意に生存率が上昇
られたが、Fe では PLDR は有意な PLDR は見られなか
することが知られている。この現象を PLDR といい、X
った。Fusion PCC と Giemsa 染色による修復の kinetics
線では、PLDR があることが知られている。我々は、正
は、いずれの放射線においても非対数増殖期で修復させ
常繊維が細胞を用いて、X 線における PLDR のメカニズ
た場合とすぐに plating した場合では修復に有意な差は
ムの一つとして、非対数増殖期で修復させた場合には、
見られなかった。この結果はいずれの状況でも NHEJ に
照射後すぐにトリプシン処理した場合よりも、誤った修
よる修復効率には違いがないことが示唆される。一方で、
復(misrepair)が有意に低下することを報告した[1]。し
FISH 法を用いた解析からは、X 線、Si では非対数増殖
かも、修復は、G0、G1 期の間に終了することを示し、
期で修復させた場合はすぐに plating した場合よりも誤
NHEJ による修復は cell cycle dependant であり、それ
修復が有意に減少した。一方で、高 LET の Fe ではいず
が PLDR のメカニズムの一つであることを報告した。
れの場合でも染色体の誤修復は同程度でみられ、非対数
一方で、高 LET 放射線では、これまでの報告から、PLDR
増殖期における修復による染色体の誤修復の減少は見ら
が見られないとされている。我々は X 線における染色体
れなかった。本結果から、PLDR に関わる修復は NHEJ
損傷と、粒子線による染色体損傷を比較することにより
が基本となるが、低 LET 放射線では NHEJ の修復の正
重粒子線照射による PLDR の有無、および、意義につい
確性は細胞周期依存性であること、高 LET では NHEJ
て検討を行った。
の正確性は細胞周期非依存性であることが示唆された。
材料・方法:実験にはヒト線維芽細胞由来の AG1522 細
文献:
胞を用いて X 線 (6Gy)、490 MeV/u Silicon ions, 500
[1] C. Liu et al., Radiat Res., 174 (2010) 566-573.
MeV/u Fe ions, 200 MeV/u Fe ions (各 2Gy)で照射
<メモ欄>
73
炭素イオン線分割照射効果に関する正常組織と腫瘍の比較
吉田由香里 1、安藤興一 1、小池幸子 1,2、鵜澤玲子 2、安
後肢(腫瘍)を照射した。比較対照実験としてX線照射
藤謙 2,3、村田和俊 3、吉本由哉 3、武者篤 3、久保亘輝 3、
(200 kVp, ~1.4 Gy/min)を行った。照射間隔は 4 時間
河村英将 3、松本孔貴 2、平山亮一 2、鈴木義行 3、古澤佳
とし、1~12 回の照射を行った。解析は、腸管は照射 3
也 2、高橋健夫 4、大野達也 1、中野隆史 1,3
~4日後のマウスから腸管を取り出し切片を作成した後、
クリプト生残数をカウントした。腫瘍は 3 辺を計測し、
1 群馬大学重粒子線医学研究センター
推定腫瘍体積を算出し、体積が 5 倍になるまでに必要な
2 放射線医学総合研究所
日数を指標として、各群の腫瘍増殖遅延(TGD)時間を
3 群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学
求めた。各群における比較は Specific TGD(TGD/T1, T1:
4 埼玉医科大学総合医療センター放射線科
コントロール群における体積の 5 倍加時間)の値を用い
た。
はじめに:重粒子線の生物効果を生かす治療法を探る
結果:crypt survival assay の結果から crypt survival が
ためには、
腫瘍と正常組織に対する生物学的効果比
(RBE)
10 の時の各分割回数における正常組織による当効果線量
と線エネルギー付与(LET)について分割回数による違
を得た。同様に、NFSa 腫瘍の Specific TGD の解析結果
いを調べ、その際の治療可能比を調べる必要がある。重
からSpesific TGD が2の時の各分割回数における腫瘍の
粒子線治療は数日間かけて行うが、毎回の線量を大きく
当効果線量を得た。これら当効果線量を用い、各線質に
すれば効果が上がるとは限らない。また、重粒子線の特
おける治療可能比(TR)を算出した。その結果、X 線に
性から重粒子線治療は分割回数の少ない治療が効果的で
よるTR は6~8 分割照射においてもっとも大きかったの
あると考えられており、これまでに、マウスの照射実験
に対し、炭素線、特に LET 74 keV/µm では分割回数の
によって、治療で用いている炭素線 6 cm 拡大ピーク分割
増加に伴い TR が増加した。次に、それぞれの当効果線
照射効果(1~6 分割)を 4 つの LET について調べ、腫
量を用いて X 線に対する各 LET での炭素線の生物学的
瘍と皮膚について生物効果のデータを分析した結果、中
効果比(RBE)を求めた。LET 20 keV/µm における RBE
程度 LET で少数回照射するほうが相対効果が強いこと
は crypt と腫瘍の間で有意な違いは認められず、分割回
が示されているが [1] 、重粒子線による分割照射の効果
数における違いも認められなかった。LET 74 keV/µm に
は未だ十分に研究されていない。本研究では、正常組織
おいては、分割回数の増加に伴い crypt および腫瘍にお
(腸管)および腫瘍組織に対する分割照射効果について
ける RBE が緩やかな増加傾向にあり、分割回数が 10 以
マウスを用いて調べ、重粒子線治療における最適な分割
上では crypt より腫瘍の RBE が高かった。
照射法を明らかにすることを目的とした。
考察・結論:これらの結果は、高 LET 放射線治療は分割
材料・方法:すべての実験で C3H/He マウスを用いた。
照射において正常組織と腫瘍との反応の違いが誘導され
腫瘍はマウス由来繊維肉腫 NFSa 細胞を用いてマウスの
ることにより治療利得を獲得するということを示唆した。
後肢に移植した。放射線医学総合研究所にて炭素線 290
MeV/n, SOBP 60 mm のビームで LET 20 keV/µm, 74
文献:
keV/µm になるような位置で全身照射(腸管)もしくは
[1] K. Ando et al., J Radiat Res 46:51-57, 2005
<メモ欄>
74
重粒子線照射による口腔粘膜障害および唾液腺機能障害に対するD-メチオニンの防護効果
吉川正信 1、村山千恵子 1、平山亮一 2、鵜澤玲子 2、古澤
し全唾液を回収し、その重量により唾液分泌量を評価し
佳也 2
た。D-メチオニン(150 mg/kg) は、照射 7 分前に経口投
与した。
1 東海大学医学部
臨床薬理学
2 放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター
結果:マウス頭頸部への照射により舌粘膜上皮は高照射
線量において菲薄が起こり、低照射線量では肥厚傾向が
観察された。D-メチオニン投与群では菲薄化が抑制され
目的:D 体アミノ酸は L 体アミノ酸とは異なる代謝経路
ており D-メチオニンの舌粘膜上皮細胞に対する放射線防
を持つことから、生物学的効果が L 体アミノ酸に比べ強
護効果が確認された。最終照射日から 6 日後の舌粘膜上
いことが知られている。硫黄を含む求核剤である D-メチ
皮細胞厚の比より求めた防護率は約 1.6 であった。
オニンは、L-メチオニンに比べて生物学的半減期が長く
また唾液分泌量の減少は分割照射中より観察され、こ
クリアランス値が小さいことが知られており、明白な副
の障害は長期におよぶことが知られている。本実験にお
作用を伴うことなく、 低 LET 放射線照射または白金含
いても最終照射日から 25 日後に非投与群では、唾液分泌
有抗癌剤治療を受けている患者に対して、抗腫瘍効果を
量は減少したままであったが、D-メチオニン投与群では
損なわず粘膜炎、聴器毒性、腎毒性などに対して予防ま
有意な改善効果が認められた。
たは軽減効果を示すことが報告されている。我々は既に
頭頸部領域照射後の口腔内正常組織障害の過程として、
D-メチオニンの低 LET 放射線照射後の口腔粘膜に対す
分割照射中に発症する唾液分泌の減少、引き続いて起こ
る放射線防護効果を報告しているが[1]、今回、D-メチオ
る舌を含む口腔粘膜細胞の菲薄化・脱落に起因する摂食
ニンに対して新たに重粒子線治療による口腔内正常組織
障害の後の死亡が予測される。そこで D-メチオニン併用
障害(粘膜炎・唾液分泌低下など)の予防薬・軽減薬と
炭素イオン線分割照射マウスの生存率を検討した。最終
しての可能性を検討した。
照射日から 25 日後の評価において、D-メチオニン併用群
において有意な生存率の改善が認められた。
材料・方法:C3H マウスの頭頸部に対し、炭素イオン線
( 放 医 研 HIMAC:290MeV/u, 6cm-SOBP, LET
結論:D-メチオニンは炭素イオン線照射による急性期の
50keV/µm) の局所照射を 5 日間行い、最終照射日から 6
口腔粘膜障害のみならず慢性期の唾液腺機能障害におい
日後および 25 日後に唾液分泌量を測定後に、舌・唾液腺
ても放射線防護効果を有することが示唆された。
を摘出した。摘出組織は、ホルマリン固定後標本を作製
し、HE 染色した。舌の断面組織を顕微鏡撮影し舌粘膜
文献:
上皮細胞の厚さを画像解析ソフトにより測定し評価した。
[1] M. Yoshikawa et al., Int J Radiat Oncol Bio Phys, in
ペントバルビタール麻酔下においてピロカルピンを投与
press, 2012
<メモ欄>
75
謝辞
この度の「第 41 回放射線による制癌シンポジウム・第 50 回日本放射線腫瘍学会生物部会学術大会」の開催にあた
りまして、下記の各企業、団体より格別のご援助を賜わりました。ここに謹んで御礼申し上げます。
企業名(敬称略、順不同)
エレクタ(株)
(株)バリアンメディカルシステムズ
ブレインラボ株式会社
(株)日立メディコ
東芝メディカルシステムズ(株)
(株)メディコン
東洋メディック(株)
ユーロメディテック(株)
日本アキュレイ株式会社
(株)千代田テクノル
日本メジフィジックス(株)
GEヘルスケア・ジャパン(株)
三菱電機株式会社
安西メディカル株式会社
(株)島津製作所
横河医療ソリューションズ(株)
富士フイルム RI ファーマ(株)
セティ株式会社
エーザイ(株)
コニカミノルタヘルスケア株式会社
コヴィディエンジャパン株式会社
ゼリア新薬工業株式会社
第一三共(株)
公益財団法人体質研究会
大鵬薬品工業株式会社
中外製薬(株)
日本アイソトープ協会
日本化薬(株)
バイエル薬品株式会社
ブリストルマイヤーズ(株)
キリンホールディングス株式会社
株式会社ミツワ堂
三樹工業株式会社
株式会社薬研社
76
取扱商品
事務機器 ・ オフィス家具 ・ 文具事務用品
OA機器 ・ パソコン用品 ・ 各種ノベルティー商品
☆お気軽にお問い合わせください
習 志 野 営 業 所
習志野市大久保2-4-5
TEL :047- 472 - 6155
FAX :047- 478 - 9564
E-mail : narashino@mitsuwado.co.jp
船 橋 営 業 所
船橋市高瀬町62-2(卸団地)
TEL :047- 435 - 0201
E-mail : funabashi@mitsuwado.co.jp
佐 倉 営 業 所
佐倉市城188-28
TEL :043- 486 - 5521
E-mail : sakura@mitsuwado.co.jp
茂 原 営 業 所
茂原市本納2054-1
TEL :0475- 34 - 1061
E-mail : mobara@mitsuwado.co.jp
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社
低酸素細胞照射容器
型
式
KG-□TPK-00 型
材
質
本 体 : アルミ
遮蔽板: アルミ 銅 他
コネクタ
チューブ外径Φ6mm
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医学総合研究所、筑波大学、札幌医科大学に納入)
気密性が良く、低酸素状態を維持することか可能です。
一度に複数個同時照射に対応する為、4個用・6個
用・8個用をご用意。また使用状況にあわせた容器も
製作しております。
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型
式
KG-LMX-10-□ 型
材
質
加湿器 : ステンレス
混合ガス
N2 O2 CO2 Ar He H2
など選択可能
流量範囲
各ガスに合わせ対応
混合器を一台で使用すれば流量調整器。
複数台つなげばガス混合器として使用できます。
流量、濃度、加湿は自由に調節が可能。
軽量・コンパクトシステム。
スタック容器
型
式
FUST250 型
材
質
ケース : アクリル
ネジ部 : ポリエチレン
仕
様
セルを120枚設置可能
ケースはアクリル製で中の状態を外から確認すること
が可能。使用するセルの枚数にあわせネジ部で調整す
ることができます。
事業内容
各種細胞照射容器 細胞照射容器固定具(NUNC他) 照射試験用各種動物固定具(マウス,ラット等) マウス,ラット容器
特定部位照射用コリメータ 照射強度調整用フィルター 固体ファントム 水ファントム スタック容器 移動式培養装置
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