Fourier-Mukai変換について

Fourier-Mukai 変換について
長尾健太郎(京都大学数学教室修士 2 年)
第3回城崎新人セミナーに参加させていただき,ありがとうございました. 河野先生,福山さんをはじ
め,運営に関わった方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.
今回はセミナー参加の報告として,Fourier-Mukai 変換について入門的な解説をしたいと思います. Fourier-
Mukai 変換は向井茂先生により導入されて以来,moduli 理論において重要な役割を果たしてきました.定
義の簡明さにもかかわらず,
「武器」としての強力であるだけでなくその「哲学」が及ぼす影響力は非常に
幅広いものがあります.ちょうど Fourier 変換がそうであったように......
非専門家でも気軽に読めるように書いたつもりです.間違ったことは書いていないと思いますが,厳密さ
に欠ける記述もあります.気になる方は参考文献を参照してください.
1
導来圏について
導来圏の定義を知っている人は少ないと思うので,定義のココロだけをざっと説明します.厳密な記述は
[H] を参照してください.
A を Abel 圏(kernel と cokernel がきちんと定義されている圏だと認識してもらえれば結構です)としま
す.今回主に考える Abel 圏は
• mod (R ) : 可換環 R 上の有限生成加群全体のなす Abel 圏
• Coh (X) : 代数多様体 X 上の連接層全体のなす Abel 圏
の 2 つです.
1.1
動機
導来関手について振り返り,導来圏を導入する動機とします.
A = mod (R ) としましょう. A ∈ A に対して,A ⊗ : A −→ A の左導来関手
Tori (A, · ) : A −→ A
をどのように定義したか思い出します.
Remark Tori は知っているが,
“ 左導来関手 ”という言葉は聞いたことがない,という人が多いかもしれ
ません.一般に,右完全関手に対して以下のような操作で定義される関手を左導来関手といいます.
まず,B ∈ A に対して B の projective resolution を取ります :
· · · −→ P−2 −→ P−1 −→ P0 −→ 0 .
この複体に A ⊗ を施します :
· · · −→ A ⊗ P−2 −→ A ⊗ P−1 −→ A ⊗ P0 −→ 0 .
1
この複体の i 番目のコホモロジーが Tori (A, B) です.
問題点
• 「projective resolution をとる」という操作がアドホックである.
•
i たちについてばらばらではなく,一まとまりにして考えたい.
導来圏を導入することで,導来関手をすっきりと表現することができます.
1.2
定義(もどき)
2 つの複体(cochain complex)の間の射(cochain map)がコホモロジーの間の同型を誘導するとき,そ
の射は quasi-isomorphic であるといいます.
例
f
· · · −→ P−2 −→ P−1 −→ P0 −→ B −→ 0
を B の resolution とすると,
· · · −−−−→ P−2 −−−−→ P−1 −−−−→ P0 −−−−→ 0 −−−−→ · · ·





f
· · · −−−−→
0
−−−−→
0
−−−−→ B −−−−→ 0 −−−−→ · · ·
は 2 つの複体の間の quasi-isomorphism である.
“ A の複体の quasi-isomorphic class 全体のなす圏 ”のことを D(A) で表し,Abel 圏 A の導来圏といい
ます.ポイントは「複体を object とする」ことと「quasi-isomorphic な複体は同じものとみなす」ことの
2 点です.
Remark 圏論の言葉に慣れている人向けにもう少し正確な言い方をすると,D(A) は次のような圏です:
object:
A の複体,
morphism: 複体の射(cochain map) と“ quasi-isomorphism の逆 ”.
さて,さきほどの Tori の定義を導来圏を用いて定式化してみましょう.
まず,B ∈ A を,0 番目が B でそれ以外が 0 であるような複体と同一視することにします.上の例で見
たように,この複体と
· · · −→ P−2 −→ P−1 −→ P0 −→ 0 −→ · · ·
は quasi-isomomorphic,つまり導来圏においてはこの 2 つは同じものです.
この複体から
· · · −→ A ⊗ P−2 −→ A ⊗ P−1 −→ A ⊗ P0 −→ 0 −→ · · ·
という複体を作ります.さきほどはこの複体のコホモロジーをとることで A の object (Tori (A, B)) を得ま
したが,導来圏では複体自身が object であり,cohomology をとる必要はありません.この複体のことを
L
L
A ⊗ B と表すことにすると,A ⊗ ( · ) は D(A) から D(A) への関手を定めます.これを(さきほどと用語
は同じですが)A ⊗ の左導来関手といいます.
Remark 「複体を object とする」「quasi-isomorphic な複体は同じものとみなす」という導来圏の 2 つの
特徴がちょうどさきほどの 2 つの問題点を解消していることがみてとれます.
2
従来の定義
導来圏を用いた定式化
B
0
projective resolution
P−1
P0
∈ D(A)
0
P−1
A⊗
A ⊗ P−1
0
B
A ⊗ P0
P0
0
L
0
A⊗
cohomology をとる
A ⊗ P−1
A ⊗ P0
0
∈ D(A)
i
Tor (A, B)
例 代数多様体 X に対して D(Coh(X)) のことを単に D(X) と書くとする.f : X −→ Y に対して,以下の
ような導来関手が定義される:
L
Rf∗ : D(X) −→ D(Y ),
⊗ : D(X) × D(X) −→ D(X),
Lf ∗ : D(Y ) −→ D(X),
RHom : D(X)
op
× D(X) −→ D(X).
Remark 実際は,A の cochain complex すべてではなく,コホモロジーが有限個を除いて 0 になってい
るようなものだけを object とした導来圏(これを Db (A) と書く)を考えることもあります.
.Db (A) で考
える際は導来関手の存在がナイーブな問題となりますし,逆に Db (A) でなければ成り立たない性質もあり
ます.それに関する細かい議論は本文の趣旨に反するので,以下では D(A) と Db (A) の区別は無視するこ
とにします.
1.3
導来関手の交換関係
導来圏の導入によって導来関手の記述が簡潔になったことによるメリットとして,導来圏同士の関係が記
述できます.
下に代表的な例を 2 つ挙げます.これらは本文で直接使うわけではありませんが,このような交換関係が
あるからこそ,Fourier-Mukai 変換は導来圏において考えなければならないのである,ということを分かっ
てください.
例
• (projection formula)
f : X −→ Y , E ∈ D(X), F ∈ D(Y ) に対して,
L
L
Rf∗ (E) ⊗ F = Rf∗ E ⊗ Lf ∗ F .
• (flat base exchage)
右の図式で q が(したがって qˆ も)flat であるならば,E ∈ D(Y )
に対して,
q ∗ Rp∗ (E) = Rˆ
p∗ qˆ∗ (E).
qˆ
Y ×X Z −−−−→ Y



p
pˆ
Z
3
−−−−→ X
q
2
Fourier 変換の復習
Fourier-Mukai 変換を導入する前に,古典的な Fourier 変換について復習しておきます.
2.1
積分作用素
X, Y を測度空間とし,F (x, y) を X × Y 上の関数とします. C(X), C(Y ) で X, Y 上の関数全体を表す
とします. どのような関数のクラスを考えるかは適宜定めなければいけませんが,本論とは関係が無いの
でここでは省略させてもらいます.
C(X)
−→
f (x)
−→
C(Y )
f (x)F (x, y)
X
を F を核とする積分作用素といいます.
X ×Y
X
F (x, y)
Y
後の Fourier-Mukai 変換のために,積分作用素は
• X 上の関数 f (x) を X × Y 上の関数とみなす,
• F (x, y) をかける,
• X 方向に積分する,
の3つの段階に分けられることに言及しておきます.
2.2
Fourier 変換
上の定義において X = Z, Y = R/Z
S 1 , F (n, x) = e2niπx とすると
L2 (X) −→
L2 (Y )
∞
f (n)
e2niπx f (n)
−→
−∞
となり,Fourier 変換に他なりません.よく知られているように,Fourier 変換は2つの Hilbert 空間 L2 (X)
と L2 (Y ) の同型を与えます.
Fourier 変換を次のように解釈します.
まず,Hom(Y, C) Z であることに注意しましょう.この同型は,n ∈ Z に対して x → e2niπx を対応さ
せることで与えられます.つまり,X = Z は Y から C への群準同型をパラメトライズする空間になってお
り,さらに X × Y 上の関数 (n, x) → e2niπx は X の各点に対応する Hom(Y, C) の元をすべてまとめたもの
とみなすことができます.
4
∞
e2niπx f (n) は e2niπx たちを f (n) という重みで足し上げたものであり,
−∞
L2 (X) −→
L2 (Y )
∞
f (n)
e2niπx f (n)
−→
−∞
が同型だということは,e2niπx n ∈ Z が L2 (Y ) の“ 基底 ”を成しているということだと解釈ができます。
Remark さらに踏み込んで Hom(Y, C) Z を Y
S 1 の既約表現全体とみなすことができます(S 1 は
群として可換なので既約表現はすべて 1 次元). 一般のコンパクト位相群 G に対してこの解釈を拡張する
ことができ,次が成り立ちます :
G の既約表現の行列要素(表現を行列表示したときの行列の各成分に現れる G 上の関数)たち
は G 上の関数全体の“ 基底 ”をなす.また,G の既約表現の指標たちは,G 上の類関数(共役
類上で同じ値をとる関数)全体の“ 基底 ”をなす(Peter-Weyl の定理).
この定理については小林俊行先生による分かりやすい解説([KO])があります.本文の内容とはあまり関
係がありませんが,是非一読をお勧めします.
3
Fourier-Mukai 変換
3.1
積分関手
X, Y を滑らかな射影的多様体とします. E ∈ Db (X × Y ) に対して,
L
ΦE = RpY ∗ pX ∗ ( · ) ⊗ E : Db (X) −→ Db (Y )
を E を核とする積分関手といいます.
pX ∗ : X 上の連接層の複体を X × Y 上に pull back する.
L
⊗ E : E をテンソルする.
RpY ∗ : X × Y 上の連接層の複体を Y に push forward する.
の 3 段階に分ければ,積分作用素の類似であることが見てとれるでしょう.
X ×Y
X
pX
E
pY
Y
積分関手 ΦE : Db (X) −→ Db (Y ) が同値であるとき,特にこれを Fourier-Mukai 変換といいます.
5
3.2
moduli 問題と Fourier-Mukai 変換
非常におおざっぱに言って,
“ moduli 空間”とは「ある性質を満たすもの全体のなす空間」のことです.
「ある性質」に対してこの空間を求めることを「moduli 問題を解く」と言います.例えば,曲面 X 上のベ
クトル束の moduli 空間とは X 上のベクトル束全体のなす空間のことです (実際には X 上のベクトル束全
体を集めても代数多様体にはならないので,ベクトル束のうちある条件(安定性)を満たすものだけを集
めて moduli 空間 Y を構成します).定義より,Y の点 y には X 上のベクトル束 Ly が対応します.もし,
X × Y 上のベクトル束 L で L |X×{y} Ly を満たすものが存在するならば,L を X × Y 上の universal
なベクトル束と言います.universal な対象が存在するとき,この moduli 問題に対しては良い moduli 空間
が存在する,言います.
Bondal-Orlov による次の結果には,Fourier-Mukai 変換と moduli 問題の相性の良さが顕著に現れてい
ます.
定理 3.1 ([BO])
X, Y は C 上滑らかな射影的多様体とする.E ∈ Db (X × Y ) による積分関手 ΦE を考える.x ∈ X に対し
て,E を {x} × Y に制限したものを Ex と書くとする.ΦE が fully faithful(単射のことと思ってもらえば
よい)である必要十分条件は,

0 x = y または i ∈
/ [0, dimX]
Exti (Ex , Ey ) =
C x = y かつ i = 0, dimX.
Remark X が moduli 空間で E が universal な対象である場合,この式は X でパラメトライズされる元
たちの“ 直交性 ”とみなすことができます.Fourier 変換の場合 e2niπx (n ∈ Z) たちは互いに直交していた
ことを思い出しましょう(指標の直交性!).
4
例
Fourier-Mukai 変換の典型例は,Abel 多様体と K3 曲面に関するものです.これらはいずれも,FourierMukai 変換導入直後の向井先生の仕事です.
4.1
Abel 多様体
群構造を持つ射影的多様体を Abel 多様体といいます(複素トーラスを想像してください).Abel 多様
体 X 上の次数 0 の直線束全体の集合 Y にはテンソル積によって群構造が入りますが,
• Y には射影的多様体の構造が入る(Abel 多様体になる).
• X × Y 上には universal な直線束 L が存在する(Y は X 上の直線束の良い moduli 空間である).
ことが知られています.Y を X の双対 Abel 多様体と呼びます.
定理 4.1 ([M1])
ΦL : Db (X) −→ Db (Y ) は同値.
4.2
K3 曲面
標準束が自明で b1 = 0 であるような滑らかな射影的代数曲面を K3 曲面といいます.K3 曲面上のベク
トル束に対して“ 安定性 ”という概念が定義され,安定なベクトル束の moduli 空間が存在することが知ら
れています.
6
定理 4.2 ([M2, M3])
X 上の安定ベクトル束の moduli 空間の連結成分 M がコンパクト,2 次元で,かつ良い moduli 空間になっ
ているとき,M は K3 曲面で,D(X) と D(M ) は同値である.
Remark さきほどの Bondal-Orlov の定理を使えば,証明は容易です.向井先生はさらに,どの連結成分
が定理の仮定を満たすかを決定しています.
5
応用
向井先生の仕事のあと,Bondal, Orlov, Bridgeland らによって Fourier-Mukai 変換に関する様々なテク
ニックが開発されました.それらは,一見 moduli とは関係のない問題に対する moduli 論的手法の応用へ
の道を拓いたのです.
5.1
5.1.1
McKay 対応
derived McKay 対応
G ⊂ SL(n, C) を有限群とし,DG (Cn ) で Cn 上の G 同変な連接層のなす Abel 圏の導来圏を表すとします.
予想 (derived McKay equivalence)
M を Cn /G の crepant resolution(何らかの意味で“ 極小な ”特異点解消のことと思ってください) とす
ると,D(M ) と DG (Cn ) は同値である.
Remark “ Cn 上の G 同変な幾何学 ”と“ Cn /G の幾何学 ”の間に何らかの関係があることは容易に想像
がつきます.連接層についてその関係を見ようとすると
• Cn /G 自身ではなく,Cn /G の crepant resolution
• 連接層のなす Abel 圏ではなく,その導来圏
を考えないといけないわけです.
5.1.2
G-Hilbrt scheme
中村郁先生によって導入された G-Hilbrt scheme は,Cn /G の resolution の moduli 空間としての構成を
与えます.
Cn 上の G 同変な 0 次元 subscheme Z で,H 0 (OZ ) が G 加群として正則表現と同型にあるものを G-cluster
といいます.G-cluster の典型的な例は,G の作用の free orbit の構造層です.
G-cluster の moduli 空間 G-Hilb(Cn )(Cn の G-Hilbrt scheme)と,その上の universal な subscheme
Z ⊂ G-Hilb(Cn ) × Cn が存在することが知られています.
G-cluster に対して,その support を対応させることによって得られる写像 τ : G-Hilb(Cn ) −→ Cn /G を
Hilbert-Chow morphism といいます(以下,X = Cn /G, Y = G-Hilb(Cn ) とおくことにします).
5.1.3 “ Mukai implies McKay ”
G-Hilb は X = Cn /G の crepant resolution を与えるでしょうか?もしそうであれば,derived McKay
equivalece は成立しているでしょうか?
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Bridgeland-King-Reid は Fourier-Mukai 変換のテクニックをこの問題に応用しました.
L
Φ = RpCn ∗ pX ∗ ( · ) ⊗ OZ : Db (G-Hilb) −→ DG (Cn )
とします.
定理 5.1 ([BKR])
Y ×X Y の次元が n + 1 以下であるならば,Y は X の crepant resolution であり,Φ は同値である.
Remark 「Y が X の crepant resolution である」という部分の証明にも Fourier-Mukai 変換のテクニッ
クが使われます.
n ≤ 3 ならば定理の仮定は自動的に成り立ちます:
系 n ≤ 3 のとき,Y は X の crepant resolution であり,Φ は同値である.
[K] と [V] の結果より,X の任意の crepant resolution に対して定理の次元に関する仮定は成り立ちます:
系 G ⊂ Sp(n, C) で,Y は X の crepant resolution であるならば,Φ は同値である.
Remark Bezrukavnikov-Kaledin は,Cn /G (G ⊂ Sp(n, C)) の任意の crepant resolution M に対して,
derived Mckay equivalence を示しました([BK]).これはシンプレクティック多様体の変形量子化を用い
た証明であり,興味深いものです.
5.2
3 次元 flop と導来圏
多様体上の連接層の導来圏から元の多様体を復元することはできるかどうか,ということについて考え
てみます.もし仮に,導来圏の object の中で「1 点の構造層」を特徴づけすることができて,さらにその
moduli 問題を解くことができれば,できあがった moduli 空間は元の多様体になるのではないでしょうか?
この思想に基づいて,Bridgeland は導来圏の情報から 3 次元 flop を構成することに成功しました.
5.2.1
tilting
Abel 圏から導来圏を構成する方法を紹介しましたが,逆に導来圏から Abel 圏を復元することを考えま
しょう.異なる Abel 圏から同じ導来圏が得られることもあるので,導来圏の情報だけからでは復元するこ
とはできません.ここでは定義は省略しますが,導来圏に対して t-structure と呼ばれる情報が与えられ
ると,その情報から Abel 圏を復元することができます.
ところで,これも定義は省略しますが,導来圏 A が 2 つの導来圏 B と C に“ 上三角 ”に分解できる場合
があります(semi-orthogonal decomposition).このとき,A の t-structure を与えることと B と C の
t-structure を与えることは同値になります.
導来圏 A の t-structure と,A の semi-orthogonal decomposition B, C が与えられたとしましょう.A の
t-structure から B, C の t-structure が得られます.導来圏には shift と呼ばれる操作(複体の添え字を 1 つ
ずらす操作)がありますが,B の t-structure はそのままで,C の t-structure は shift によってずらし,そ
れらを元に新しい A の t-structure を作ることができます.このような操作を tilting といいます.
5.2.2
flop の構成
滑らかな 3 次元射影的多様体 Y から正規多様体 X への固有双有理射 f : Y −→ X で,Ex(f ) = C
P1 ,
C · KY = 0 を満たしているものを考えます.
D(Y /X) = {E ∈ D(Y ) | Rf∗ (E) = 0} とおくと,D(X), D(Y /X) は D(Y ) の semi-orthogonal decomposition を与えます.
8
この分解と D(X), D(Y ) の自然な t-structure から tilting によって得られる t-structure に対応する Abel
圏を Per(Y /X) とおきます.Per(Y /X) の object を perverse sheaf,さらにその中で 1 点の structure sheaf
と数値的同値なものを perverse point sheaf と呼ぶことにします.
perverse point sheaf の moduli 空間 W と universal な object E ∈ D(X × W ) が存在し,以下が成り立ち
ます:
定理 5.2 ([B1])
L
(1) W は X の crepant resolution であり,Φ = RpW ∗ pY ∗ (·) ⊗ E : D(Y ) −→ D(X) は同値.
(2) W −→ X は f : Y −→ X の flop.
Remark flop の存在は MMP(minimal model program)において重要なテーマです.森先生によって 3
次元の MMP が解決された際には,3 次元の(端末)特異点の分類を用いてケースバイケースで flop の存
在が証明されました.Bridgeland の結果は 3 次元の flop の存在の分類を用いない証明を与えたことになり
ます.
また,双有理同値な 3 次元射影的多様体は flop の列で結べることが分かっているので,Bridgeland の結
果の系として互いに双有理同値な 3 次元射影的多様体の導来圏は等しいことが分かります.
これらの結果は高次元でも成立することが期待されていますが,残念ながら Bridgeland の手法は高次元
ではそのまま適用することはできません.
6
終わりに
古典的な Fourier 変換まで立ち返って Fourier-Mukai 変換を導入してきました.
“ moduli ”の視点に立つと,Fourier-Mukai 変換は Fourier 変換の単なる表面的なアナロジーではなく,
その重要なエッセンスを受け継いでいることが分かります.この解説文で,その雰囲気を感じ取っていただ
けたら嬉しいです.
最後の章では今までの moduli 理論の枠をはみ出した応用を駆け足で紹介しました.はっきりとした成功
を収めた例は今のところこの 2 つだけと思います.しかしこの 2 つの華麗な結果は,導来圏を中心として代
数や多様体を捉える数学の発展の可能性を示唆しています.詳しくは第一人者による論説([B2] ICM2006
の講演原稿)を参照ください.
参考文献
[BK]
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20–42; translation in Proc. Steklov Inst. Math. 2004, no. 3 (246), 13–33
[BO]
Bondal,A. , Orlov,D. , Semiorthogonal decomposition for algebraic varieties, alg-geom/9506012
[B1]
Bridgeland,T. , Flops and derived categories. Invent. Math. 147 (2002), no. 3, 613–632.
[B2]
Bridgeland,T. , Derived categories of coherent sheaves, math.AG/0602129
[BKR] Bridgeland, Tom; King, Alastair; Reid, Miles The McKay correspondence as an equivalence of
derived categories. J. Amer. Math. Soc. 14 (2001), no. 3, 535–554 Vol. 52, Springer-Verlag (1977)
[H]
Hartshorne, R., Residues and Duality, Lecture Notes in Mathematics Vol. 20, Springer-Verlag
(1966)
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D. Kaledin, McKay
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correspondence
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[KO]
小林俊行, 大島利雄, Lie 群と Lie 環 1 岩波講座 現代数学の基礎
[M1]
ˆ with its application to Picard sheaves. Nagoya
Mukai, Shigeru Duality between D(X) and D(X)
Math. J. 81 (1981), 153–175
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[V]
M. Verbitsky, Holomorphic symplectic geometry and orbifold singularities,
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10
preprint,