平成 24 年 10 月 28 日 みどりの未来・尼崎 高 濱 黄 太 環境政策に関する討議資料: 尼崎市営バス経営再建を契機とする市民・議会等の共同出資による BDF プラント設置と南 部フェニックス用地でのメガソーラー建設について 1、 概要 尼崎市では、市営バス事業が資金不足比率約 40%に迫り、事実上の破綻状態となって いる。現在は市からの補助金増額で運営を継続しているが、近い将来に補助金の打ち切 りは避けられず、完全民営化の方針が決まっている。 市営バス事業の経営危機は 20 年以上前から繰り返し議論が生じており、その都度、問 題の先送りが繰り返されてきた。この 20 年間に 430 億以上の補助金および補助的補填が 行われ、その大半は民間と比較してはるかに高額な市営バス職員人件費として費やされ てきた。 こうした経緯の中で完全民営化は不可避としても、市バスは市内移動・利便性はもち ろん、福祉、市内商業の活性化、環境のまちづくりの観点での多面的な影響と効果があ る。このため、 「経営危機→完全民営化=完全に手放す」のではなく、民営化=民間水準の コストを前提に「路線収支の再検討→ネットワーク・運行時間の充実」を検討し、利便 性の向上や多面的な波及効果の創発を企図するとともに、市民との共同出資による大規 模 BDF プラント設置と市バスでの利用によるカーボンフリー化を進め、環境のまちづく りを進める政策を実現する。 市営バス事業の経営責任は法的には歴代市長が任命してきた自動車運送管理者にある が、議会も補助金や人件費を含む毎年の予算承認を行ってきただけではなく、経営危機 が叫ばれながらも有効な手段を講じることなく 20 年間にわたり多額の補助金を投じてき た責任は免れない。問題の先送りから決別し、将来世代への価値の先送りへと姿勢の転 換を図るためにも市バスの民営化にあたりその経営責任を議会としても引き受け、議員 年収の一割削減分を原資として(仮称)尼崎環境ファンドを創設し、BDF プラントに出 資するスキームを提案する。さらに BDF 生産による収益を尼崎南部での大規模太陽光発 電所に投資を行い、再生可能エネルギー促進を中心に運用するファンドの維持・拡大を 進める。 市営バス事業再生と BDF プラント設置及び市バスでの BDF 利用 市営バス再生の柱となるスキームは下記の 4 点が想定される。 ①完全民営化による民間水準による経営再建 ②民間水準コストを前提とする路線収支の再検証及び運行時間・路線充実の検討 ③市民・民間企業及び金融機関、議会・行政の共同出資による尼崎環境ファンドの創設 ④尼崎環境ファンド出資による BDF 生産会社の設立 このうち上記①②に関しては、市は政策的路線(赤字であっても市内移動利便性等の 理由から維持する路線)に対する補助金及び高齢者優待パス等補助金を提供することで 民営化後の市内バスを運行する民間業者への関与を行う。 2、 上記④で生産する BDF の原料は市内飲食店及び家庭からの廃食用油とする。年間約 100 万ℓの生産を目標とし、全量を市バスが都度の軽油市場価格で引き取ることとする。 生じた利益のうち 25%程度を BDF 生産会社に留保し、残り 75%を出資割合に応じて配 当する。ただし議会・行政出資分に対する配当分は尼崎環境ファンドに積み立て、再投 資する。こうしたスキームを図示すると下記のとおりとなる。 図①市バス再生と BDF 生産及び投資スキーム 市民によるNPOなど を設立し、運営。 (被災避難者の雇用も検討 する) 設立資金(約7億) 財源 差益 議 会 出 資 金 2億 自 治 体 出 資 金 2億 企 業 出 資 金 1億 市 民 出 資 金 2億 CO2削減 市場価格 市場価格での買い入れ (120~30円/L) 配当 目標:100万リットル/年 BDF生産 (コスト100円/L、回収費、 人件費、減価償却等含む) 3、 (仮称)尼崎環境ファンド(以下、ファンド)の出資金の構成と出資者 出資は、 ①議会 想定出資 2億 ②行政 〃 2億 2億 ③企業(金融機関含む)〃 ④市民 〃 1億 によって構成するものとする。うち議会からの出資分は市バス経営破たん等に関する議 会責任分として議員歳費(年額約 1,040 万円)を一律一割減とすることで抑制される議会 費(年額約 4,000 万円)を原資とする。議会からの当初出資額は 5 年分、2 億円とし先の 抑制分を担保として、金融機関等からの借り入れを行い、ファンドに出資するなど検討 する。 また本来は、過去 20 年間の運営に携わった管理者や予算承認を行った議員、市バス処理 の先送りをした職員などにも責任があるが、ファンド創設にあたってはこうした関係者 にも出資を呼びかけ任意での出資を募る。 行政からの出資は、不動産の無償提供による現物出資+現金出資を想定している。ファ ンドの当初目標規模は、100 ㎘/年とし想定建設コストを 5 億(京都市でのプラントコス トは 7.5 億。尼崎での建設コストは 2 割減≒5 億程度を想定)とする。先に述べる太陽光 発電施設への出資金と合わせてファンド規模を現金分で 7 億を目標とする。 BDF 生産会社の採算性 BDF 生産の採算性は生産量や回収コストによってバラツキがあるが、本レポートでは 京都市での大規模 BDF プラントでのコストを前提に投資及び収支計画を立案する。 4、 表①BDF 生産コスト内訳(1ℓ あたり、京都市例) 項目 廃食用油購入費 年間コスト (166万ℓ) 26 4,316 単価/ℓ メタノール・触媒購入費 9 1,494 光熱水費 2 332 品質検査経費 6 996 品質改善研究費 7 1,162 32 5,312 運営経費合計 82 13,612 施設減価償却費 20 3,320 102 16,932 運営経費 人件費、施設維持修繕費等 費用合計 本レポートでの BDF プラントでは、年間 107 万ℓ程度の生産を前提としている。この ため京都市プラントの 2 割減で建設コストを想定した場合で、単位生産量当りの減価償 却費が増加する(約 5 円、総額 560 万円/年程度)。このため軽油の実勢価格を 125 円/ ℓとして試算すると、人件費及び減価償却費を除く営業収支で 1900 万円/年、法人税控 除後(税率 30%で算定)で 1300 万/年程度の収益が期待できる。うち 25%を生産会社の 内部留保分とし、残りを配当原資とする。 表②尼崎市での BDF 生産の収支シミュレーション(設備投資 5 億、補助率 20%) 年間コスト (67.6万ℓ) 30 2,028 項目 単価/ℓ 廃食用油購入費 メタノール・触媒購入費 9 608 光熱水費 2 135 品質検査経費 6 406 品質改善研究費 7 473 35 2,366 運営経費合計 89 6,016 施設減価償却費(4億、20年定率、残存簿価10%) 17 1,800 106 7,816 運営経費 人件費、施設維持修繕費等 費用合計 収入合計(軽油単価125円/ℓで試算) 8,450 営業収支 634 法人税控除後(通常課税:30%) 444 ※コスト・収入単位:万円 ※人件費及び廃食油購入費は京都市と比較して生産量が少ないことから 3~4 円程度増 加する前提で試算した。 表③配当試算 年間配当(単位:万円) 通常課税 行政 議会 民間 市民 95.0 95.0 95.0 47.5 この試算では、生産会社の内部留保が年間約 160 万円、市民への配当原資が 48 万円と なる。この場合の市民・民間出資金に対する年間利率は原資である 1 億に対しては、0.48% となるが、BDF 生産会社に対しては市民投資相当額は 5715 万程度となり、本投資に対す る利率は 0.83%となる。議会・行政出資分に対する配当は、ファンドに積み立て新規の 環境事業への投資もしくは、BDF 生産会社の経営状況の変動に対応する貸付準備金とす る。なお環境省の「エコ燃料利用促進補助事業」等の活用により、投資額の 50%の補助 金が得られた場合には、市民投資分に対する利率は 0.98%、投資額に対する利率は 2.74%、 優遇税制の利用が可能な場合、それぞれ 1.025%、2.87%となる(別紙試算参照) 。 5、 尼崎市での廃食油潜在賦存量(試算) 尼崎市での廃食油賦存量は、平成 19 年度高槻市「新エネルギーの賦存量・導入可能量調 査資料」に基づき試算を行った。利用可能量は賦存量のうち、家庭排出分の 25%、飲食 店排出分の 40%利用を前提に試算を行った。 表④尼崎市の廃食油賦存量及び利用可能量 出所 値 原単位 家庭 1.567 単位 ㎏/人・年 人口 453,748 人 賦存量 711,023 ㎏/年 原単位 428.9 ㎏/店・年 飲食店 3,205 店舗 賦存量 1,374,625 ㎏/年 廃食油賦存量合計 2,085,648 ㎏/年 727,606 ㎏/年 飲食店 導入可能量 出典 新エネルギーの賦存量・導入可能量調査資料(高槻市H19年2月) 平成22年10月国勢調査時 新エネルギーの賦存量・導入可能量調査資料(高槻市H19年2月) 平成23年度版尼崎市統計書 家庭用の25%、飲食店の40%回収で試算 6、 市バスでの BDF 利用による CO2 削減効果 PEGASUS によるシミュレーションによると、CO2 削減効果は年間 2,128t 相当となる。こ の削減分は、平成 25 年度策定予定の尼崎市環境基本計画の削減目標として組み込む。 7、 尼崎沖フェニックス用地への太陽光発電所設置 7 月 24 日大阪湾広域臨海環境センター(大阪湾フェニックス)理事会は、尼崎沖フェ ニックス処分地(廃棄処理完了済)に東北震災ガレキ受け入れを発表したが、その後、 宮城県及び環境省は、可燃ガレキ受け入れの必要性がないことを正式に発表した。 東北被災地及び関西に避難している被災者を息長く支援する必要性は広く市民・国民 の中で共有されているが、その支援策としてガレキ処理がクローズアップされ、環境省・ 経済産業省を主とする国が、その必要性を PR することには疑問を感じる。 ガレキ処理を困難にしている大きな背景の一つが、原子力発電であり、原子力発電の 背景には戦後の経済成長を支えるエネルギー供給地を経済成長から取り残された地域に 依存してきたという、そもそものエネルギー供給のあり方自体の課題がある。 このことから、凄惨な原子力発電所事故という体験を踏まえた今、被災地への支援を 考える時には、これからのエネルギー供給のあり方をどのようにするかの議論を避ける ことはできないと考える。 こうした問題意識に基づき、尼崎沖フェニックス用地でのガレキ処理の代替案として、 次葉のスキームを提案する。 図②尼崎沖フェニックス用地への太陽光発電所設置と被災地支援スキーム図 8、 尼崎沖フェニックス用地(以下、フェニックス)への太陽光発電所設置と被災地支 援スキーム概要 ①フェニックスに約 11ha の太陽光発電施設(3.2MW)を建設する。 ②建設費用約 21 億のうち国補助金を除く約 11 億を阪神間自治体及び民間等の出資によ り、賄う。 ③年間売電収入約 1.4 億(42 円 KW での買い取り前提)のうち、減価償却費(約 4800 万 円)を除いた残額(約 7800 万円)の 1/4 を被災地支援費用として 10 年間拠出する。この 場合、10 年間の総支援額は 1 億 9,320 万円程度となる。 ④残りの利益は、出資割合に応じて配分する。 ⑤尼崎市への配当分は、市民・民間分はその出資割合に応じて配当し、議会・行政分は ファンドへの積み立てを行い、今後の再生エネルギー及び CO2 抑制・削減施策に利用す るものとする。 ⑥太陽光発電に伴う CO2 削減量は総出資額のうち国補助金及び民間・市民等出資金を除 く各自治体の出資割合に応じて分配し、各自治体の CO2 削減量とする。 表⑤フェニックス太陽光発電所設置及び被災地支援額試算 備考 用地面積(㎡) 太陽電池アレイ面積(㎡) 太陽電池アレイ出力(KW) システム発電量(KWh/年) KWあたりコスト(万円) イニシャルコスト(万円) 電力収入(万円) 110,000 フェニックスがれき受け入れ予定地面積 九州電力等の同規模発電所の例に基づき、 26,950 用地の24.5%を太陽電池アレイ面積とした。 3,234 システム利用率12%、変換効率0.12 3,399,580 66 213,444 14,319 FITに基づき42円/KWで算定 原価償却費(万円) 4,802 21億×0.5(補助率)×0.9(残存簿価)÷20(年) 維持・保守費用 1,790 京都市BDFの収入当り人件費率の半分で算定 営業収支 7,727 被災地支援額 1,932 フェニックス太陽光発電所での BDF 利用による CO2 削減効果 PEGASUS によるシミュレーションによると、CO2 削減効果は年間 1,886t 相当となる。 仮に阪神間 4 自治体(尼崎、西宮、芦屋、神戸)で発電所費用 10 億を均等に負担した場 合、尼崎市の負担額は 2.5 億、出資割合は 25%となる。この場合には、尼崎市削減量は 472t/年となる。この削減分は、平成 25 年度策定予定の尼崎市環境基本計画の削減目標 として組み込む。 9、 10、 本政策案の目的と課題 (1)目的 ①負担の先送りから、資産・資源の先送りへの転換 これまで多くの投資事業は右肩上がりの経済を前提に借金により財源を確保し、負 担を後年度に先送りしてきた。この結果、国・自治体の財政が悪化・硬直化してきた。 本施策では、行政・議会・市民/民間が「出資」により資金を確保し、環境負荷の 低減を図るとともに、減価償却資金の留保により、資産を将来に先送りすることを狙 っている。 ②出資による経営管理・監視の強化 これまでの投資事業は、ほぼ全てが税もしくは後年度負担(借金)であり、いわば 「他人のお金」であった。これを財源(議会であれば、議員歳費の削減による財源)を 明確にし、 「自分のお金」として経営管理・監視することを通じて、議会あるいは行政 の経営意識とスキルの向上に資することにつながると考えている。 ③エネルギー供給の見直し 発電所=地方、消費地=都会の関係を見直す、都市での大規模発電所を東日本大震災 及びそれに伴う原発事故被災地支援を契機に設置し、得られた収益の一部を被災地に 還元することに政策的な意義があると考えている。 (2)課題 ①市民出資の可能性 本政策案では市民出資を 1 億、企業出資を 2 億としているが、BDF 生産は廃食油回 収費用、燃料費価格の変動など収益率を大きく変化させる要因がある。また BDF 利用 が進んだ場合や国際的な食糧需給のひっ迫等の状況によっては廃食油自体に価値が生 じ、価格を押し上げる可能性があることから、原資を確保し、払い戻し要求に応じて 払い戻すファンドへの出資というスキームが見合うのかどうかさらに検討を要する。 太陽光発電施設についても、現在の FIT 価格と国の補助率(50%)を前提にすると 採算ベースに乗りやすいが、FIT 価格の見直しで収益性が大きく変化を要する点につ いても考慮して、スキームを事前に改良する余地がある。 ②補助金依存前提 出資・配当という政策スキーム上の特徴があるが故に、市場の利回りと比較して魅 力的な利率を確保するために国等の補助金に依存する政策案となっている。 ③ファンド及び投資先決定ルールの策定 仮にファンドを創設できたとしても、ファンドの投資先等決定を行う仕組みの透明 性と妥当性が求められる。行政・議会・市民等による出資を前提にした場合の投資先 あるいは投資率の決定などのルール設定が今後の課題となると考える。 以 上 (参考資料) 表⑥尼崎市での BDF 生産の収支シミュレーション(設備投資 5 億、補助率 50%) 年間コスト (67.6万ℓ) 30 2,028 項目 単価/ℓ 廃食用油購入費 メタノール・触媒購入費 9 608 光熱水費 2 135 品質検査経費 6 406 品質改善研究費 7 473 35 2,366 運営経費合計 89 6,016 施設減価償却費(2.5億、20年定率、残存簿価10%) 11 1,125 100 7,141 運営経費 人件費、施設維持修繕費等 費用合計 収入合計(軽油単価125円/ℓで試算) 8,450 営業収支 1,309 法人税控除後(通常課税:30%) 916 法人税控除後(優遇税率適用:800万まで30%、超える分22%) 957 表⑦配当試算(設備投資 5 億、補助率 50%) 年間配当(単位:万円) 行政 議会 民間 市民 通常課税 196.3 196.3 196.3 98.1 優遇税制 205.0 205.0 205.0 102.5 ※課税所得 800 万を超えるため、優遇税制の対象となる可能性があることから、通常 課税時と優遇税制適用時の 2 つの事例を併記。
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